良かったら見ていってやって下さい。
1
その頃。
自分のあずかり知らぬところで、噂されていた当の本人はと言うと
「ふう〜さっぱりした」
戦いでかいた汗を流していた。
クローンハゲゴキとの、もはや訓練とは言えない死闘を制した克弘は、戦闘の詳しい事を聞こうとしてくる、管理者を振り切って、訓練室の隣部屋のシャワー室に飛び込んだ。
汗を掻いていたし、ゴギブリの体液も
かかっていたから、早くさっぱりしたかったのだ。
汗を流し終えた、克弘は鼻歌を歌いながら、着替えをする。
着替え終えた頃、まるでタイミングを
見計らっていたかのように、着替えを入れていたカゴに放置していた、携帯が音を奏で、着信音を鳴らす。
「誰だ ?」
着替え終えた、克弘は面倒くさそうに、携帯を持ち上げる。
「兄貴からか」
相手を確認した、克弘はすぐに電話に
出る。
「はいはい」
『克弘か』
「俺の電話だから、俺に決まってるだろ」
兄の当たり前の質問に、手短に答える。
『そうだな。
頼みたい事があるんだが、今暇か ?』
伺うように政彦が聞いてくる。
「今ちょうど、シャワー浴びた後だから、別に良いぜ」
『ほう、昼間なのにシャワーを浴びてるのか』
電話の向こうから、合点がいかないと、政彦が思う。
「いやさっき一戦終えたばかりでな、
汗とか体液とかで、ベタベタになったから、流したんだよ」
克弘が、脱衣所に置かれてる、ドライヤーを片手で器用に使い、髪を乾かす。
『ほう、昼間からとは元気だな』
若干、呆れ気味な政彦の声が返ってくる。
「本番に備えて、予行練習と思ったんだが、熱が入り過ぎちまってよう」
『相変わらず手が早いな。
もうモノにしたのか?」
感心だと、ばかりに政彦が驚きの声を上げる。
「いや。まだもう少しってとこかな
1ヶ月の手術じゃさすがの俺も、使いこなせないよ」
『手術だと、自慢の息子に真珠でも
埋め込んだのか ?』
「はぁ? 真珠がどうかしたのか?
俺は貝のmo手術なんてって、ちょっとまて兄貴、何の話をしてるんだ ?」
先の一言で、今までの会話が、食い違っていた事に、克弘は気づく。
「なぁ兄貴。
一戦終えたって何の事だって思ってるんだ?」
克弘が、ゆっくりと確認するように、
電話越しに、兄に聞く。
『さっき尻を追いかけていった、研究員の女性をモノにした話じゃないのか?』
政彦からの答えで、予想通り勘違いされていたことがわかる。
「その一戦じゃねぇよ!!」
克弘は、相方がいたら、間違いなく頭を叩くほどの、勢いで、ドライヤーを持ってる方の腕を振り下ろしながら、
盛大なツッコミ声を上げた。
2
「はぁ〜疲れた」
兄たちの待つ、第2研究室に着いた
克弘が放った第一声は、疲労感に溢れたものだった。
無理もない。
兄の誤解を解くため15分も、丁寧な説明をしたあと、急ぎの用だからと、早く来てくれと言われ、ここまで全力疾走してきたのだ。
精神的と肉体的な疲労のダブルパンチだ。
誰だって疲れる。
「ご苦労。
少し待て、お前の好きなカルピスでも買ってくる」
政彦は、それで喉を潤せと言いたすと
入り口の方に歩いていく。
「ちょっ兄貴、用ってなんだよ」
呼んでおきながら、すぐに出て行こうとする、兄を慌てて呼び止める。
「俺は頼まれただけだ。
用があるのは、そこにいるスミス助手だ」
政彦は克弘の方を見ずに早口で簡潔に答えると、さっさと歩き出す。
「カルピスソーダで、頼むぜ兄貴」
去り行く、背中にきっちり細かい注文を克弘はつけた。
それに手を上げて、政彦は答えると
入り口から出て行った。
3
「それで、ローレンス教授の片腕と言われてる、スミス助手が俺に何の用で」
克弘は揉み手をしながら、ジェフリーに近づいていく。
克弘は、兄以外の部屋の中にいる者を
全て知っていた。
父の親友である、ジェラルドは言わずもがなだし、その末娘も同様。
そして、16の頃から各国の研究所を行き来してる克弘は、優秀な研究者の名前はそらんじていた。
(ただし女性は優秀でなくても覚えてる)
だからジェフリーも名前も知っていたというわけだ。
「片腕と呼ばれるのは、おこがましい
ですが。
そのスミス助手です」
2人はお互いに近寄り、握手を交わす。
「よろしく」
「宜しくお願いします」
2人は互いにあいさつをすますと、
ソファーに座った。
「すまんね克弘君」
ソファーに座った克弘に、ローレンス教授が詫びを入れる。
「いえ、おきになさらず。
お久しぶりです、教授」
「元気そうで、何よりだ。
常彦君からは、mo手術を受けたと
聞いていたが、まさかローマとは、
知らなかったよ」
朗らかに笑いながら、克弘に話しかける。
2人はそれから、しばらく近況報告する。
2人の会話が終わるのを待って、ジェフリーは、克弘に要件を伝え始める。
「太田克弘さん。
あなたにお願いしたいのは、我々アメリカmo研究所が、作ろうとしている
新型の変身薬についてです」
真剣な顔をした、ジェフリーが克弘の目を真っ直ぐ見ながら、語る。
「へぇー新薬。
何やら込み入った事情があるみたいだな」
興味深いと、目を光らせる克弘。
【聴かせてくれないか】克弘がそう言った後、ジェフリーは先程、政彦に
話した話を今度は克弘にするのだった。
(うん?
ジェニーがおらんのう)
ローレンスは、娘がいつの間にか居なくなっているのに、気づいたが、子供じゃあるまいし、心配する事はないだろうと、ジェフリーと克弘との会話を
優先するのだった。
4
「太田さん、待ってください」
通路を脇目もふらず、歩いてる政彦に
後ろからジェニファーは声をかけた。
実は、政彦が出て行った後、その後を追いかけていたのだ。
1人が飲んでいたら、他の人も欲しくなるのが、目に見えてるので、先手を取ったのだ。
ドジではあるが、全く気が回らないほど、鈍いジェニファーではない。
「ミスローレンス ?!」
ジェニファーの声に振り返った、政彦が、驚きに目を見開く。
「どうせなら、他の人の分も用意しようと思いまして」
ニコッと笑った、ジェニファーが、
政彦の隣に寄る。
「そうだな。
それはうっかりしていた。
皆の分を買って持って行こう」
ジェニファーの提案に政彦は同意する。
2人は並んで、通路を歩いていく。
「他の皆さんは紅茶でいいですかね」
政彦の方をちらちらと見ながら、ジェニファーが話しかける。
相談に乗って欲しいのだろう。
「それで、いいのではないか。
美女に、手付かずで淹れてもらって
文句を言う狭量な男はあの場にいなかったと、記憶しているが」
政彦がさらっと答える。
「エッ!」
政彦の言葉に、ジェニファーが、目を点にして、思わず固まる。
「どうしたミスローレンス? 」
突然立ち止まった、ジェニファーを
気遣うように、覗き込む政彦。
「具合でも悪いのか」
政彦が、更に顔をジェニファーに近づけると、耳を真っ赤にしてる、ジェニファーがそっぽを向く。
「何がしたいんだ ?」
訳がわからないとばかりに、肩を政彦は竦(すく)める。
「あの……あの、美人って今言ったの
どういう意味ですか? 」
ジェニファーが首をそむけたまま、掠れかけた声で、聞く。
「言葉通りの意味だが」
「私の事を美人だと」
ジェニファーの声が思わず弾む。
「ミスローレンスを美人でないと言う者がいるなら、眼科にいくのをお勧めするよ」
真顔で何のてらいもなく答える政彦。
「もういいです。
はずかしいです」
ジェニファーはそう言って、話を切り上げると、行きますよと言って、手を何度も振る。
(機嫌を損ねたようだ。
喜んだり、怒ったりと、ミスローレンスは、躁鬱(そううつ)病でもあるのか?)
女はわからんと呟いた政彦は、不機嫌な銀髪の令嬢を追うべく、早足になるのだった。
最後まで。読んで頂きありがとうございます。
筆が進まないよ~(´`)