1
「おやこれは心外な、私もUNASAの
研究員ですが」
大げさに、手のひらを広げ肩をすくめ左右に首をグレアムは振る。
その態度をまるで演技でもしてるようだと、政彦は思った。
グレアム・バンディの登場により、場の空気が明らかに変わった。
さっきまでと違い空気が重くなっている。
見た目好青年に見える、グレアムだが、得体の知れない妙な不気味さがある。
その妙に不気味なグレアムを、親の敵でも見るような、憎しみのこもった目でジェニファーが見る。
視線だけで、射殺せそうなほどだ。
「そんなに睨まないでください。
あなたに、憎まれるような事はしてないはずですが」
ジェニファーの鋭い眼光を、特に気にする事もなく、グレアムは白い歯を見せ笑いながら、近寄っていく。
「ッ!! 」
近寄ってくる、グレアムから飛びすさって、ジェニファーは離れる。
近づくなと、その顔は言っている。
自然とかやの外になった政彦は、明らかにおかしいジェニファーの行動を不思議そうに見ていた。
(意外だな。ミス・ローレンスのような聡明な女性がここまで感情をあらわにするとは)
政彦は、ジェニファーをここまで警戒いや、憤怒させるグレアムと烈火のごとく怒るジェニファーの2人を興味深そうに観察した。
2
「今は、謹慎中でしょう。
自分が何をしたのか判ってるのですか?
本来なら刑務所に入っててもおかしくないんですよ!! 」
近づいてくる、グレアムから、後ろに歩いて離れながら、ジェニファーが指を突きつける。
「それをお父様が、自身の監督不行き届きだと、言って庇って賠償金も払って停職で済んだと言うのに」
信じられないものを見るかのように、見開くジェニファー。
「そう言いますが、ジェニファーさん。
全てはMO研究の発展のためですよ。
ドイツに先をこされた、我らステイツが、追い越す為には仕方なかったのです」
「仕方ないですって……」
俯きながら、体を激しく震わせながら、ジェニファーはゆっくりとそう一言だけ言うと、沈黙する。
やがて、ゆっくりと壊れたブリキ玩具みたいに、きしみ音でも聞こえてきそうな、のろさでジェニファーが首を持ち上げる。
首を上げたジェニファーは無表情で、その顔には何の感情も見られない。
それから、信じられない行動に出る。
あれほど距離を離そうとしてた、ジェニファーが、早足でグレアムに近づいていく。
「ご理解頂けたようで、何よりです」
胸の前に腕を振り下ろしながら、グレアムはお辞儀する。
客を出迎えるウェイターのようだ。
誤解が解けたと思ったのだろうか。
否
「いかに死刑囚とはいえ、お父様に無断で勝手にIMO手術を施して実験台にして、死なせた上、その家族にまでI同じ手術を行い死なせる事のどこが仕方ない事だぁー !! 」
誤解は解けてるどころか、逆鱗に触れていた。
あまりの他人事みたいな発言にジェニファーがきれたのだ。
顔を真っ赤にしながら、歯を食いしばり、腕を振りかぶるジェニファー。
殴る気だ。
「落ち着けミス・ローレンス」
そう思った政彦が、慌てて止めようと手を伸ばす。
(嫌う理由は判ったが、だからといって殴って言い訳ではない)
政彦の伸ばした手が、ミス・ローレンスの肩に触れた。
「なっ ?」
肩に触れた瞬間、政彦の体が宙に浮く。
ジェニファーが、肩に触れた手を煩わしいとばかりに、肩を持ち上げて手を振りほどいたのだ。
それだけで、政彦の体は宙に浮き、重力から解放され、背中を通路の天井に叩きつけられ、落下する。
何とか受け身は、しっかりとった政彦が横に転がり立ち上がる。
「今のは一体? 」
服についた埃を手で払いながら、政彦は目をみはった。
3
「えっ?! 」
政彦が天井に叩きつけられた、一部始終を見たグレアムが、お辞儀をしたまま固まった。
「ジェニファーさん ?」
ここにきて、彼女が激怒していることに、グレアムは気づく。
政彦の方を一瞥もしない事から、政彦を吹っ飛ばした事に気づいてないようだ。
怒りでグレアムしか視界に入らない。
まずいと思った。
「あの落ち着いて下さい。
ジェニファー、ローレンス助手」
先ほど政彦が、言った事と同じ言葉を丁寧にゆっくりと言いながら、呼び方もフルネームに変えて呼びながら、グレアムが後ずさる。
「私は落ち着いてますが」
こめかみをピクピクさせながら、眉間にシワを寄せながら、ジェニファーが
話す。
「全然落ち着いてないじゃないですか? 」
喚くように、ジェニファーに訴えたが、怒れる乙女の耳には入らない。
「よくわかりました。
お父様が穏便に済まさそうとしたのは
間違いだったようです。
娘として、父の過(あやま)ちを正します
あなたの死を持って」
両拳を握りしめた、ジェニファーが、後ずさるグレアムを追う。
じりじりと距離を詰める、その様はまるで熟練のハンターのように無駄がない。
「ヒィー!! 」
情けない、悲鳴を上げた、グレアムが、腰を抜かして、ひっくり返る。
慌てて立ち上がろうとするが、恐怖のあまり体がうまく動かない。
ばた足でもしてるように、足をバタバタさせてる。
そんな、見苦しいグレアムの醜態を見下ろしながら、静かに歩いてくるジェニファー。
「立ってください。
グレアム・バンディ」
まちかくまで、来たジェニファーが
何の感情もない、まるで道端の石ころでも見てるような、無機質な瞳で言う。
「そのまま殴り殺したら、通路が血まみれになるじゃないですか」
左手のひらを上下にうごかしながら、
立てと合図を送るジェニファー。
その姿が、グレアムには悪魔に見えた。
(殺される)
死を覚悟した、グレアムは立てないので、後ろ手をうごかしながら、腰の抜けたまま、退く。
退くグレアムの白衣の裾を、ジェニファーの足が踏んで、動けなくする。
「別に起こさなくても、掃除すれば問題ないですね」
ジェニファーが、にこりと目だけ笑わないで笑うと。
握りしめた拳を高々と掲げ、拳槌の形にする。
幻覚か、女性のか細い腕がハンマーのように見える。
それ程の威力があるのをグレアムは知っている。
「止めて下さいジェニファーさん。
僅かですが特性が出てますよ」
何故ならジェニファー・ローレンスという女性はMO手術を受けてるからだ。
その人外の力が、グレアム・バンディを殺す為に、解き放たれ
「全く被験者が、施設内で何を暴れてる !!」
かけた時、高い女性の声が、辺りに響く。
声の主は、眼鏡をかけた金髪の女性。
黒のタンクトップに、ジャージのズボンを掃いている。
体に滴る汗から、運動でもしていたのだろうか。
そんな女性にしては、非常に筋肉質な
タンクトップ女性が鋭い眼で、拳を掲げてるジェニファーとグレアムの2人を見やる。
虫けらでも見るような冷たい眼だ。
天井に叩きつけられた、ダメージが未だに、抜けない政彦が仲裁に入ろうとしている女性に目を向ける。
「ミッシェルKデイヴス、どうしてここに? 」
「私は耳が良いんでな。
天井が砕ける音が聞こえたのだ」
両腕を組みながら、ミッシェルが、政彦の方を見やる。
(助かったぁ)
ミッシェルの姿を見たグレアムは、十字を切り天に祈りを捧げたのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ギャップ激しいと思いますが、ジェニファーには
政彦の後ろ姿を見送るのではなく、背中を預けもしくは、隣に立てる女性をイメージしてるので、こういう事になりました。
意外と武闘派なんです。彼女は