1
「太田さん? 」
大の字になって無様に倒れてる、グレアムを見た後、ジェニファーはぼんやりした顔で、グレアムの背後に立っている政彦を見る。
今やっと政彦の存在に気づいたようで、その顔には驚きが見られる。
「ミス・ローレンス。
あなたが手術を受けていたとは、知らなかった」
それだけ言った政彦の両膝が笑い、体が震えやがて腰が砕けてそのまま尻餅(しりもち)をうって座り込んでしまう。
「太田さん?! 」
座り込んで、頭をカクッと落として俯く政彦に、ジェニファーが慌てて駆け寄る。
その顔には先程までの、状況に付いていけず、惚(ほう)けた間抜け面はない。
心配そうに政彦を気遣う、優しさだけがある。
「大丈夫ですか? 」
そばに着いた、ジェニファーは片膝立ちになり、彼の背中に左手を回し、右手は腰を持ち上げ、立たせようとする。
(ぐぅ !! )
立たせようと触ってきた、ジェニファーの左手が、政彦の背中に触れた瞬間。
火傷のような痛みが背中全体に走る。
さっき天井に叩きつけられた時の痛みが残っているのだ。
(悪気どころか、気づいてないのか? )
心配そうな顔で、必至に自分を立たせようとする、ジェニファーの様子を見た政彦は、ジェニファーがさっき自分を吹っ飛ばした事を覚えていないのに気づいた。
まぁ、実際には頭に血が上っていたジェニファーは、吹っ飛ばした事に気づいてないのだが、そんな事情判るはずもない。
(まぁ、いきなり肩を掴もうとした俺も悪いか)
そう結論づけた政彦は痛みに、耐えながらジェニファーに身を任せる事にした。
なおこの時彼女の胸が俯く政彦の顔に当たっていたのだが、痛みに耐え忍ぶ政彦はそれを楽しむ余裕もなく、立ち上がらせる事に集中してるジェニファーも気づかなかった。
また幸いな事に、苦悶に顔を歪めてる政彦の表情もジェニファーは見ずに済んだし、政彦も見せずに済んだ。
2
「どうやら私の仕事は済んだようだな」
立ち上がらせて貰った、政彦とジェニファーを見ながら、ミッシェルが話しかけてきた。
肩にショルダーバッグのように軽い感じで、気絶したグレアムを担いでる。
政彦が立ち上がらせて貰うまでの間に、肩に乗せたようだ。
女性とは思えない、凄い膂力だ。
「では私は気絶したこいつを、医務室に運んでいく。
倒れたままにしておいたら、通行の邪魔だからな」
肩に担いだこいつ、グレアム・バンディを指で差しながら、早口で告げたミッシェルは、医務室に向かうため方向転換する。
「今回は、この男に落ち度があるようだから、不問にする。
天井の修理も、スパイを見つけて戦闘になって壊れた事にしたら、UNASAの予算でなおせるだろう」
私が言ったら、艦長も深く詮索はすまい。
ミッシェルはそう付け足して、話を終えると、人1人担いでるとは、思えない軽い足取りで、去っていく。
ジェニファーに肩を支えて貰いながら、政彦はそれを見送った。
3
「天井がどうかした……ってあんな大きな穴が」
医務室に歩いて行った、ミッシェルを見送った後、天井を見上げたジェニファーが口元に手を当てながら、大声を上げた。
穴の開いた隙間から、上の階の棚とか、机などが見え、壊れた天井の破片が通路に降っている。
それを見たジェニファーの目は大きく見開かれている。
(君が穴を開けたんだと、言わない方が良いな)
ジェニファーの精神衛生上それが良いと判断した政彦は、その件に触れないようにするため、別の話題をふる。
「ちょっとした事があったんだ。
大したことじゃない。
ミッシェル副長補佐も経費で落ちる言ってるから、大丈夫だろう」
政彦はそう言ってから、礼を一言言うと、ジェニファーの手を外して、自力で立つ。
「あの体の調子が良くないんですか」
政彦の頭から、足先まで順番に見ていきながら、心配そうにジェニファーが声をかける。
本当に具合が悪いところがないのか、確認してるようだ。
(君に天井に叩きつけられて体が痛いんだよ)
と心では思った政彦だが、流石に口には出さなかった。
信じられない程のKYの政彦だが、女性を悲しませて、喜ぶサディストではない。
なので
「飛行機に慣れてないので、その疲れが出てきただけだ」
と手短に済ますと飲み物を買いに行くため、早歩きしだす。
「そうですか」
一瞬、納得のいかない顔をした、ジェニファーだったが、素早い政彦の動きを見て、とりあえず安心するとその後に付いて行く。
5
「遅くなっちゃいましたね」
「そうだな」
10分後。
飲み物とついでに、お菓子の調達を終えた、2人は並んで歩いていた。
政彦は、左手にお菓子の入った袋を持ち。
ジェニファーはお盆を両手で持ち、人数分の力ップをのせている。
お盆に飲み物を乗せてる、ジェニファーのスピードに合わせてるため、
2人のスピードはゆっくりだ。
「皆さん遅いって怒ってないかしら」
「大事な話をしてるから、飲み物が遅いと気にする余裕はないだろ」
心配する、ジェニファーに、あっさりと問題ないと、政彦が答える。
「そうですか」
政彦の一言に少し気が楽になる。
「まぁ、さっき遅くなって怒られたから、遅くなってもまたかで済むだろう」
心配ないさと、伝える政彦。
「そうですね……ってそれ私が遅いのは仕方ないって事ですか? 」
「一度遅くなったのだから、二度目もあるだろ」
しれっと酷いことを言う政彦。
「そんな、酷い」
押し黙り、肩を落とし、立ち止まるジェニファー。
「と言っても、今回は話し込んだから、仕方ないさ」
自分で落としといて、フォローする政彦。
「万が一。
文句を言ってくる者がいたら、俺が懇切丁寧に説明するから気にするな」
「……グレアム・バンディが謹慎を破ってどうして」
最後の政彦のフォローを聞かず、グレアムの事をジェニファーは考えていた。
その憎悪と怒りに溢れる横顔を何も言わず隣に並んで、政彦は見続ける。
(あの男が、何者なのか気になるが、
ミス・ローレンスに聞くのはまずいな)
他の者に後で聞いてみようと、政彦は結論づける。
名前と顔を知ってるから、大丈夫だろう。
そのまま政彦は、グレアムの悪口と、
行動を推理する、ジェニファーの独り言を聞きながら、克弘達が待つ第2研究室に帰って行った。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
(^-^)