難産で遅くなってしまいました。
閑話 回想2610年アックスマン事件 その1
1
両手にカップを持ったまま、ジェニファーは政彦が続きを話すのを待つ。
「忘れもしない。
あれは、8年前の7月20日の事だった」
それほど時を待たせず、再び口を開いた政彦は、語りながら目を瞑り子供の時に遭った忌まわしい出来事を、鮮明に思い出していった。
(そうあれは確か……)
2
8年前 西暦2610年 7月20日
その日。
太田政彦が通ってる、私立北辰中学校で体育の授業を終えたのは午前11時50分の事だった。
「あ〜疲れた。
小田の野郎、スパルタ何だよ体中痛くて仕方ねぇ」
授業を終えて、教室に戻る途中にそうぼやいたのは、政彦のクラスメイトの野川だ。
この年、政彦と同じ14歳の彼は、陽に焼けた浅黒い肌をしており、制服のカッターシャツを袖まくりして、政彦の隣を歩いている。
政彦は、この野川と野川の後ろを歩いてくるクラスメイトの橋爪。
更に橋爪の後ろ、最後尾を歩いてる同じく、クラスメイトの緒方の計4人で、移動していた。
「そうだよな。
授業中、服を着たまま泳ぎっぱなしと言うのは、確かに厳しいよな」
そう同意したのは、橋爪だ。
ちなみに橋爪との野川は従兄弟同士でもある。
ひょろっとした、細い体に、縁なしの眼鏡をかけていて、一見頼りなそうに見えるが、皆から指名されて、クラス委員をやっている。
「厳しいが、無駄ではないな。
服を着たままでも、水着と変わらないくらい泳げるなら、そう簡単に溺れないし、溺れた人を助けに行く事もできる」
授業の文句を言っている、野川と橋爪の2人の会話に割り込んで来たのは、意外にも、普段無口なクラスメイトの緒方恒星(おがたこうせい)だった。
緒方は誕生日がまだ来てないので、他の3人と違い13歳。
身長177センチと、全国平均身長を上回っており、体重も62キロと平均を越えていて、中学生離れした体格を誇る。
武の名門である、当校の剣道部の主将を一年生の時から、任されている
怪物で、政彦とは無二の親友だ。
「溺れた人を助けるねぇ? 」
緒方の説明に、納得がいかないと、野川が
顔をしかめ、面倒くせぇと、呟く。
「緒方は、真面目だなぁ」
感心、感心とばかりに何度も頷く橋爪。
「コホン……話が弾んでるところ悪いんだが、
早くしないと、授業が始まるぞ」
わざとらしく、咳をした政彦が、歩いてるクラスメイト達に、厳しい現実を突きつける。
振り向いたその目は、鋭い。
一見怒ってるように見える。
「ああそうだ。
まだ授業あったんだった」
今思い出したとばかりに、しまったと
手を額に乗せる野川。
それからその手を腹に持って行き、腹をさすると、勢いよく他の3人を見回しながら、言う。
悪魔の囁き
「腹も減ってるし、さぼろうぜ。
俺、近くのコンビニのクーポン持ってるから、奢るぜ」
得意気にポケットから、そのコンビニのクーポンを取り出して、ひらひらと
動かし、満面の笑みを浮かべる野川。
ちなみに近くのコンビニとは、学校から出て300メートル先にある、ナインイレブンの事だ。
「いいなぁ、暑いし俺アイスが欲しい」
真っ先に従兄弟の橋爪が賛同する。
野川の近くに行き、どんなクーポンがあるか覗き込んでる。
「何を馬鹿な事を言ってるんだ。
後一限終われば、昼休みだろうが」
何を馬鹿な事をと、冷たい眼で政彦が野川と橋爪を睨む。
緒方はマイペースに歩いていて、いつの間にか最後尾から、政彦の隣に並んでいる。
「固い事言うなよ。
どうせ次は家庭じゃねぇか」
サボったとこで問題ねぇと、軽い感じで野川が言い、うんうんと側で頷く橋爪。
「授業に、いる授業も要らない授業もない。
どれも必要な授業だ」
典型的な勉強命の優等生のような、受け答えをする政彦。
「堅物だなぁ、太田は。
だったらいいよ、俺たちだけで行くから、緒方はどうする ?」
クーポンを緒方の方にちらつかせながらが、野川が誘う。
誘われた緒方が考える。
「そうだな。
今日は凄く暑いし、部室に置いてる分だけだと、飲み物が足りないかもしれんな。
……補充しとくか。
野川、俺も行くぞ」
政彦と同じ真面目人間と、思われた緒方から意外な答えが返ってくる。
「……そうか。
じゃあ緒方、一緒に行くか」
予想外な答えに面食らった、野川が、
少し沈黙してから、答える。
「恒……行くのか? 」
政彦が、教室とは反対方向に歩いていこうとする、緒方を呼び止める。
「ああ。
飲み物補給しないと、いけないからな」
呼び止められた、緒方が振り返って答える。
「そうか……うんアイス、アイスいいなぁ。
よし俺も行こう」
堅物の政彦とは、思えない答えが返ってきて、それを聞いた野川と橋爪が、
思わず、ずっこけそうになる。
「どうしたんだ太田? 」
「悪い物でも食ったのか? 」
信じられないモノを見るような、
目で、政彦を見る2人。
2人程ではないが、少し驚いた顔をする緒方。
「珍しいな、お前が授業をサボるとは」
「まぁ、たまには良いだろう。
実を言うと、家庭科の葉山先生好きじゃないんだ。
それに臨時収入入ったから、恒奢るぞ」
政彦はさっきとは、正反対の事を言うと
「さぁ行くぞー」と大声で言うと、
裏門の方に歩き出す。
しばし、急に手のひらを返した態度を取った、政彦の行動に理解が付いていかず、ぼけーっと突っ立つていた、野川と橋爪だったが、政彦の後をゆっくりと付いて行ってる、緒方の姿を見て慌てて追うのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。