それではどうぞ( ^-^)_旦~
「というわけです」
「なるほど……事情はわかった。
政彦君、 ジェニファーさんご協力ありがとう」
イスに座った政彦が先のいざこざの、状況説明を終えると目の前で話を聞いてる、顎髭を生やしスーツを着てる男が、両膝に手を突いたまま軽く頭を下げて礼を言った。
政彦とジェニファーは現在、UNASA本部にある、火星探索チーム総隊長室にきていた。
呼ばれたのは、先ほどのグレアムバンディとの、小競り合いについての
報告であった。
あの時通りかかった、副長代理のミッシェルKデイヴスからの、報告を受けた
総隊長小町小吉から、詳しい話を聞きたいと呼び出されたのだ。
その呼び出した、当人火星探索チーム総隊長の小町小吉は、政彦の目の前で、眼鏡をかけてパソコンと睨めっこして、報告書の作成をしている。
年のせいか、老眼が進んでいる小町小吉は最近、細かい字が見えにくく、老眼鏡が必要なのだ。
あの後、話を終えた、政彦とジェニファーが沈黙していると、小町から
呼び出され今に至っている。
なおもう一人の、当事者であるグレアムバンディは、敷地内にある病棟の一室におり、そちらにはミッシェルKデイヴスが、事情聴取に向かっている。
「ついて早々に、もめ事を起こしてしまい申し訳ありません」
政彦は、パソコンのキーボードを
両手でぎこちなく打っている、小町に
迷惑をかけたと、謝罪する。
「いや、構わないよ。
むしろ政彦君が、止めてくれて良かった。
手術の力を人に振るったりしてたら、
最悪死んでいたかもしれない」
小町は顔を上げ、老眼鏡を外して
眼瞼(まぶた)の上を揉む。
「ごめんなさい!!」
小町に怒られたと思った、ジェニファーが立ち上がって、頭を深く下げて謝る。
「おいおい、ジェニファーさん頭を
上げてくれ、これじゃあ俺が苛めてるみたいじゃないか」
頭を下げたままでいる、ジェニファーに立ち上がった小町が肩に手を置いて
慰める。
いいから、座ってと小町に言われ
ジェニファーが座る。
「誰にでも、過ちというものはあるさ。
特に若い頃はね」
小町は横に顔を逸らしながら、しんみりそうに、語る。
(小吉さん……)
幼い頃から、父の職場に遊びに来て、中学を卒業する頃には、仕事も手伝っていた、政彦は小町とは数年来の
付き合いだ。
だから、小町のさっきの一言に、多くの後悔があることに気づく。
(恋人の養父を殴り殺した事か、
それとも守れなかった事、あるいは
死んでいったバグズ二号の仲間たちの
事か?)
いや全部かと、政彦は思う。
(とはいえ、後悔のない人生を歩む人間など、まずいないがな。
その後悔がデカいか、小さいかの違いぐらいしかない)
「確かに、グレアム・バンディのやった事は悪だ。
俺も許せないと思う……だけど怒りに任せてぶっ殺していいと言う訳ではない」
政彦が小町に思いを馳せている、間にも小町の話は続いている。
ジェニファーは、唇を噛み締めて、黙って小町の話を聞いている。
「俺達は、人を超えた力を手にした。
その事を自覚してほしい。
自分は化け物と卑下(ひげ)しろとまでは言わないが、力を持つ者にはこれを制御する、義務がある」
「肝に命じます」
「わかってくれるなら、それで良い。
謹慎中でありながら、無断で本部に
来た、グレアムバンディにも、非はある。
処分は減給と言ったところになるだろう。
また追って正式に処分内容は伝える」
「わかりました」
小町の通達に、ジェニファーは返事する。
「二人ともご苦労様。
政彦君はこれで終わりだが、ジェニファーさんには、また後日話を聞かしてもらう」
小町は立ち上がって、2人に労いの言葉をかける。
「わかりました。
それではこれで失礼させてもらいます」
ジェニファーは小町に、退室の挨拶をすると、出て行こうとするが、やめて
立ち止まる。
理由は簡単、政彦がまだ座ったままで、動こうとしないのだ。
「政彦さん……行かないんですか?」
「いや俺はまだ小吉さんに、話があるんだ」
「そうなんですか」
「そうだ。
だから、ジェニファーは先に戻っていてくれ。
俺の接客ばかりで、仕事も溜まってるだろう?」
「それは、そうですけど」
「何、小吉さんとは昔からの知り合いでね。
近況報告とか、積もる話があるんだ」
政彦が、首だけ後ろに向けながら、ジェニファーの顔を見ながら言う。
「わかりました。
プライベートの話とか、あんまり聞いちゃいけないですよね……わかりました」
それではと、ジェニファーは続け、名残惜しそうな、顔をして退室した。
2
「良いのか、彼女を1人にして……
寂しそうだったぞ」
小吉は、閉まったドアを見ながら、
茶化した感じで、政彦に話しかける。
「俺は客人ですが、向こうは仕事中、いつまでも俺の相手ばかりしてられないでしょう」
政彦は淡々と答える。
「そういうつもりで、言ったんじゃないんだがな。
それで、話とはなんだい?」
「グレアム・バンディという、男についてです」
「その事か」
小町は真剣な顔をしながら、腕組みをする。
「ジェニファーが、彼に向けた憎悪は
凄まじいものがありました。
ただ事じゃない。
小吉さん教えて貰えないですか?
グレアム・バンディが何をしたのかを」
興味津々といった感じではなく、真剣な様子で政彦は聞いてくる。
(こういう所は、親父さんにそっくりだな)
政彦の父親とも、長い付き合いのある
小吉は、彼の父親も頑固であるのを知っている。
話してもらうまで、ここを動かないと
その意志を瞳に宿す、政彦の様子を見た小吉は、折れる事にした。
本来は機密事項なのだが、政彦がその気になれば、調べてしまうだろうし、
そうなれば、どんな手段でも使うだろう目の前の男は。
そうなったら、その責任を負うのは小吉だ。
各部署に謝りにいったり、始末書を書く未来など小吉は望まない。
「わかった話そう。
グレアムバンディ、彼はUNASA本部の
天才科学者だ」
「天才科学者ですか」
「そうだ天才科学者だ。
彼は二つの新しいMO手術の方法を
産み出した。
1つはIMO(インスタントモザイクオーガン)もう一つはRMO(レジェンドモザイクオーガン)手術と我々は呼んでいる」
「二つの新技術……」
政彦は目を見開いて驚く。
グレアムバンディは、自分とそんなに年は変わらない。
その、若さで2つの新技術を産み出すなど、並みではない。
世界でMO手術を成功させた、女科学者も五十代は越えている。
そんな若さで、この人外の手術を成功させたのは、政彦が知る限りただ一人。
本多晃、10数年前、バグズ二号計画のおり、エメラルドゴキブリバチと
ネムリユスリカの手術を成功させ、アメリカを出し抜こうとした、天才科学者。
現在行方不明になっている、父恒彦の
上司だった男。
「驚いてるようだね」
「それほどの天才なら、噂に上っても
おかしくないが、父や他の研究者からも、聞いた事はない」
「性格に問題があってね。
彼は君の父親とは正反対の考えの
持ち主でね」
「グレアム・バンディ、彼はMO手術の
発展には、人体実験が必要だと
臆面もなく言っていた。
そのことで、ローレンス教授と対立していた」
小吉は腕組みをほどき、足を組む。
「いくら天才科学者といえど、若造1人で、本部の研究所最高責任者に、反抗などできないだろ?」
政彦が、あり得ないと否定する。
「彼は、ローレンス教授の補佐を務める、アーノルド准教授の秘蔵っ子でな。
ローレンス教授も、その後ろたてがあるから、手を出せなかったんだ」
「なるほど」
政彦は小吉の説明に納得する。
「だがそれが、グレアムバンディの増長を招いたのかもしれない。
彼はやがて研究にいきづまると、勝手に研究所の資金を横領して、刑務所の
役人と結託し、死刑囚を実験に使い出したんだ」
「よくバレなかったな」
小吉の話を聞いて、政彦は呆れた顔をする。
「病死や囚人に殺された事に、していたらしい。
それで、ダメなら死刑執行をしたと、嘘の報告までもしたんだ、そうだ」
険しい顔で小吉は、言いづらそうに
話す。
「死刑囚にも、家族はいるだろうに。
志願した訳でもない者を、強制的に
致死率の高い手術をするとは」
グレアム・バンディへの、怒りをあらわにして、政彦が顔をしかめ眉間にしわを寄せる。
「正確な数を俺はしらないが、少なくとも10人以上の者が犠牲になったそうだ」
「それで謹慎になったと……軽いものだな」
政彦はUNASAの甘さに、腹を立てた。
とはいえ、小吉に当たり散らしても、仕方ないので、その一言だけで
済ます。
「裏を返せば、グレアム・バンディの
新式MO手術が、優れていたと言うことだ。
何しろ、IMO手術もRMO手術も、共に
80%の成功率を誇っていた」
「何だと!!」
政彦は、勢いよく立ち上がり、デスクを思いっきり叩いてしまう。
「すみません取り乱しました」
政彦は、己の失態を詫び、謝る。
「無理もない。
MO手術の成功率36%、それをはるかに上回るからな」
小吉は気にするなと、政彦に言う。
小吉に言われた後、政彦はばつが悪そうな様子で、着席する。
「それほど効率が良いのなら、何故アメリカはその新式MO手術を採用しない……何か欠点があるのか、小吉さん」
政彦が、解せないと首を捻って、考え
質問する。
それに対する小吉の答は是だった。
「賢いな政彦君は、その通りだ」
小吉は、政彦を賞賛し拍手を送る。
「よしてくれ、何故採用しないのか、考えたらそう思っただけだ」
政彦は照れくさそうに、顔を逸らす。
「政彦君の思った通り、2つの新式MO手術は成功率こそ、高いもの欠点があった。
IMO手術は正式名はインスタントモザイクオーガン手術と言ってな。
体の一部分だけを変態させると言う
ものだった」
「体の一部分だけ、つまり変異できない部分は生身と言うことか」
「そうだ。それで防御力不足を指摘されたが、それよりもっと致命的な欠陥がある」
「欠陥とは」
政彦が先を促す
「戻れないんだ……IMO手術を受けた者は人の姿に戻れないんだ。
正確に言うと、2つ以上のベースを
施すと元に戻れなくなってしまう」
「2つ以上、つまり体の一部分を変えるのは、一種類だけでなく複数の生物を選べるということか」
政彦は、IMO手術の凄さを理解したと同時に恐ろしさも理解した。
(人に他生物の力を与えるのでなく、
人をキメラにする手術、それがIMO手術)
「では、グレアム・バンディは、人に戻れなくなると、わかって他人に手術を施したのか」
「そうだ。戻れるように、するための研究だと彼は言っていたがね」
小吉は苦虫を噛み潰したような、顔で
グレアム・バンディの言った言い訳の
セリフを口にする。
「他人はモルモットと言うわけか。
ジェニファーが嫌うのもわかるな」
政彦はグレアム・バンディ相手に、見せたジェニファーの怒りの理由が、よくわかった。
人を実験動物程度にしか、見てない上に、そんな実験を繰り返す。
どんな温厚な人間でも許せる訳がない。
「だが、IMO手術を施された、被験者は強いんだよ。
複数の生物の能力を使えるため、パワーとスピード、硬さと、柔らかさ。
本来なら相反する性質を、同時に持つ事ができた。
その研究成果があるため、彼は惜しいと判断され、謹慎ということになったんだ」
「マッドサイエンティストでも、使えるなら、使うか合理的だな」
政彦はUNASA上層部の、決定に同意する。
ある意味正しいと
(もっとも、野放しにしてるのは、つめが甘いがな)
「で、もう一つのRMO手術と言うのは?」
IMO手術の事を知った政彦は、次に
RMO手術の事を聞く事にする。
「すまない、それについては
俺は正式名称を知るだけなんだ」
すまないともう一度、繰り返し
小吉は、手を合わして謝る。
「そうですか」
政彦は落胆の、表情を一瞬したが、すぐに普段の無愛想な顔に戻る。
職務中に、時間を割いて自分の話に付き合ってくれてるのだ。
あまりせめる訳にもいかない。
「とりあえず俺が知ってる事を話そう。
RMO手術、正式名称は、レジェンドモザイクオーガン手術という。
どういう手術なのかは、さっき言った通りわからない。
ただ、ローレンス教授がその手術について、一言俺に答えてくれた」
「ローレンス教授は何と?」
政彦が、体を前屈みにして、小吉に近寄る。
自分の顔から、10㎝程のところに
いる、政彦の顔を鋭い目で、見ながら小吉が政彦が望む続きを話す。
「RMO手術は人に対する冒涜だと」
「人に対する冒涜」
政彦は、小吉の言った言葉を、思わず繰り返した。
最後まで読んで頂きありがとうございます
(^-^)