「急げ善子。完全に遅刻だ。」
「ちょっと待って。制服着替えてない。」
「なんでふたりとも携帯電池切れなんだよ。アラームならなかったじゃんか。」
「仕方ないじゃない。イタリアから帰ってきてお風呂入ってそのまま寝ちゃったんだから。」
「やばい。バスもう間に合わん。バイクまわしてくるから。出てこいよ。」
−−−−学校−−−−
キンコーンカーコン
「あぶねー。なんとか間に合ったな。ギリギリだったぜ。バイク止めてくるから先行っててくれ。」
「分かったわ。早くしてね。」
「了解。」
−−−−駐輪場−−−−
「ちょっといいかい?そこの君。」
「はい?」
バイクを止めていると呼ばれ。振り返るとそこには。顔立ちのいい年齢も同じくらいの男子高校生がいた。
「君今日バイクで通学したよね。」
「え、まぁ。」
「うちの高校バイク通学禁止だよ。」
「へ?バイク通学免許さえ取ればいいんじゃないの?」
「いや禁止なものは禁止だよ。今すぐどけてくれないかい。」
「そんな。いつから禁止になったんだよ。」
「今日からだよ。これは決定事項なんだ。」
「今日からっていきなりすぎるだろ。誰が決めんたんだよ。」
「僕が決めた。どけないと言うなら。処分させてもらおう。」
「おい。勝手に、そもそもあんた誰だよ。」
「僕かい。僕は今日からこの学校の生徒会長になった宮田賢治だ。君が佐藤とうきだね。噂は前々から聞いていたんだよ。学校の風紀を悪くしていると。だが、僕が生徒会長になったからには好きにはさせない。とにかくこのバイクはこちらで処分させてもらうよ。」
「待てよ。勝手に、生徒会長かなんだか知らないがちょっとやりすぎなんじゃないのか?」
「まさか、君この僕の事を知らないのかい?」
(なんなんだこいつさっきから。イケメンだから調子乗ってんのか?とりあえずバイクバイクは処分させねえ。師匠からもらった大切なものなんだ。)
そう思い宮田健二がバイクをどかそうとするのを止めようとしたその瞬間。
「え?」
俺は次の瞬間宙に浮いていた。そして地面に叩きつけられていた。
「どうだい?武道の心得さ。」
「いってぇな。いきなり何するんだ。」
「言っただろ?僕は風紀を守ると。」
「さっきからぐだぐだと人をゴミみたいな言い方しやがって。ちょっと泣かせないといけないみたいだな。」
少し気が引けるが俺は宮田賢治の前でファイティングポーズをとった。
「とうき。何してるの?」
「うわ〜ん。善子さんいや、ヨハネ様あの僕今いじめられてて。ヨハネ様の力で外道に天罰を。」
「ちょっとどうしたのよ?」
俺は宮田賢治に殴らずに俺を呼びに来た善子の腰に泣きついた。
(こうした方が平穏におさまるだろ。コイツは腹が立つが、学校で喧嘩を自分から起こそうとは思わない。後は善子がどうにかしてくれるだろ。コイツも女の前では暴力なんて振るわんだろう。生徒会長ならな。)
「とうき?」
「へい。どうしました?ヨハネ様。」
「誰もいないけど?」
「は?そんなわけ。アイツ逃げやがったな?俺が恐ろしくて。」
「もう、何言ってるのよ。来るのが遅いから見に来たら。早く行かないと授業間に合わないわよ。」
「そうだった。行くか。」
−−−−休み時間−−−−
「え、花丸ちゃんもルビィちゃんも宮田賢治のこと知ってるの?」
「知ってるも何もすごい生徒会長で有名ズラ。学校で知らない人がいるほうが不思議ズラ。」
「そうだよ。るび達と同じ学年だし、選挙もしたよね。」
「あーなんかあったな。」
「そこで宮田君が一気に有名になったズラ。」
「そうみたい。でも、生徒会長って言ったらやっぱりおねぇちゃんのイメージがある。」
「ダイヤさんもすごいズラ。」
「なるほどな、ダイヤさんに引けを取らないほどのすごいやってことか。」
「噂によると政治家さんの息子らしいズラ。もしかすると鞠利ちゃんよりもお金もちズラ。」
「おいおい、アイツ朝からどんなけ設定追加されんだよ。」
「設定?」
「いや、こっちの話。ありがとう。ふたりとも。」
(良かった。なんかヤバそうなやつだから喧嘩売らなくて、政治家の息子ってボンボンじゃねぇーか。これは下手したら、まだ設定増えるな。もう関わらないでおこう。)
−−−−放課後−−−−
「とうき、帰る前に部室よっていい?」
「いいけど、今日休みなのか?」
「なんか部活会議があるみたいで部活千歌が出てるんだけど、会議で決まったことの連絡聞かなくちゃいけないから。」
「そういうことなら行くぞ。」
−−−−部室−−−−
「おい、これはどういうことだよ。」
部室に行くと会議から帰ってきた千歌さんが悲しそうな顔をしていた。そしてその隣りにいたのは…
「やぁ、今朝のチンピラくんじゃないかよ。」
「関わりたくないと思ったらなんで出てくるんだよ。」
「なぜここにいるかって、それはねこの部活を廃部にすることが決まったからだよ。」
「はー?何だよ廃部って、お前またふざけたことを。」
「ふざけてないよ。それにこれはもう決定事項なんだ。」
「あー。もう埒が明かねぇ。雄飛は?あいつ呼んでコイツ追っ払おう。」
「雄くん今日お腹痛くて休みなの。」
雄飛はどことキョロキョロする俺に対して曜さんがそう答えた。
「あいつは何をやってんだよ。」
「スクールアイドル部の皆さん。とにかく準備を済ませてください。」
「おい、待てよ。てめえの脳みその中で勝手話を進めんじゃねぇ。そもそもなんで廃部なのか説明するとこからじゃねぇーのか?」
「説明?高海先輩には説明したんだけどな僕は同じことを説明するのが嫌いなんだ。話が進まなさそうだから仕方ないか。」
「コイツいちいち腹が立つ。」
「理由は至って簡単さ。経費削減のため。君たちスクールアイドルはここのとこ目立った成績を挙げられていない。何別に完全な廃部にするつもりはないダンス部に入ってもらう。」
「何?」
「踊るんだろ。同じことじゃないか?」
「お前、本気で言ってんのか?」
「何もこれは君達だけに強く言ってるわけじゃないんだよ。テニス部とバトミントンも合併してもらった。」
「そんなんで納得行くわけないだろ。」
「いいだろう。僕にここまで意見したのは君が初めてだ。特別に勝負してあげよう。」
「勝負?言っとくが朝のは気が抜けてただけだからな?本気でやれば、」
「僕は暴力が嫌いなんだ。部活を取り戻したいんだろ?ならスポーツで勝負しようじゃないか。」
「スポーツ?」
「スポーツ5番勝負だ。そうだな。水泳、サッカー、剣道、テニス、バスケでどうだい?」
「わ、分かったよ。俺が勝てば部活を好き勝手にさせない。それでいいか?」
「そうだね。僕が勝ったら、スクールアイドル部は解散。それに君はこの学校を退学してもらおうか?」
「おい、俺の負けた時のダメージ大きいじゃねぇーか。」
「君は勘違いしてるようだから教えてあげよう。こちらは既に決定事項を破棄してあげようとしているのだからこちらに利があって当然じゃないか?」
「この世の中はお前中心で回ってるんじゃねえぞ。」
−−−−グラウンド−−−−
「じゃあ、第一戦。テニスから始めようか。」
「お、おう……」
(マジかよ……テニスなんて中学の授業以来ラケット握ってねぇぞ……)
宮田賢治はラケットをくるりと軽く回して、にやりと笑った。
その視線の先には、応援に来ている善子たちの姿。
(見てろよ、津島さん……この勝負に勝って、君をあんなチンピラみたいな奴から解放してあげるからね。)
「さぁ、かかってきなよ。」
試合が始まった。
……が、とうきのサーブはネットに引っかかり、リターンはコートの外へ。
宮田の鋭いショットが、とうきの頭上を鮮やかに抜いていく。
「ポイント、宮田!」
「チッ……!」
結局、テニスは1ゲームも取れずとうきの惨敗だった。
−−−−休憩−−−−
「とうき、大丈夫?」
善子が心配そうに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だ……テニスは苦手だっただけだから……。」
(あんなイケメンに心配される善子を見せつけられるとか……クッソ、悔しい……!!)
その間も宮田は善子に熱い視線を送っていた。
(どうだい、善子さん……?もうすぐ僕のものになるんだ……。)
−−−−第二戦:サッカー−−−−
「次はサッカーだ。キックオフ!」
宮田は運動神経抜群だった。華麗なドリブル、正確なパス、そしてゴール前での冷静なシュート。
対してとうきは……走れば転び、蹴れば空振り、ボールに触れることすらできない。
「宮田、ゴール!得点!」
あっという間に3点差をつけられる。
(なんだよアイツ……プロかよ……)
最後には転んだとうきが自爆する形で、試合終了のホイッスルが鳴った。
−−−−休憩−−−−
「これで2敗だね。」
宮田は得意げに、汗を拭きながらとうきを見下ろす。
「次の種目で決着がつくかもね。……いや、そもそも、全部やるまでもないかもしれないな。」
そして宮田は善子の方に向き直った。
「津島さん、もし僕がこの勝負に買ったらあんな弱虫より、ずっと君にふさわしい僕の彼女になりなよ。」
善子は少し困ったような顔をしていた。しかし何かを決意したかのような顔をし、宮田に啖呵をきった。
「わかったわよ。もしあなたが勝ったらあなたのいうとおりにする。でもとうきが勝ったらとうきに謝りなさい。」
宮田は勝ち誇ったように笑った。
(勝負に勝つだけじゃない。この心も奪ってやる。全部僕のものにしてやる……。)
そんな視線を感じながら、とうきは拳を握りしめた。
(くそっ……このままじゃ、全部持ってかれる……!!)
−−−−剣道場前−−−−
「じゃあ、次は剣道勝負といこうか。」
宮田が竹刀を肩にかつぎ、余裕の笑みを浮かべていたその時――
「ピピーッ!!」
突然、先生が笛を吹いて走ってきた。
「お前たち、放課後の時間はもう終わりだ!続きはまた後日だ!」
「……ちっ。仕方ないか。」
宮田は時計をちらりと見て、不満そうに竹刀を下ろす。
「いいか佐藤とうき。次の試合が、君の最後になると思っておいた方がいい。」
捨て台詞を残し、宮田は去っていった。
(助かった……!今やってたら、絶対瞬殺されてたぞ。)
とうきは内心で胸をなで下ろした。
−−−−帰り道−−−−
「とうき、大丈夫?」
善子が心配そうに歩み寄る。
「大丈夫じゃねぇ……。でも、このままじゃ絶対負ける……!」
とうきは歯を食いしばった。
その時、隣を歩いていた花丸がぽんっと手を叩いた。
「そうズラ!剣道なら、すごい先生がいるズラ!」
「え?」
「ダイヤさんズラ!黒澤ダイヤさんは剣道初段持ってるズラ!」
「マジかよ!」
「おねえちゃんに教えてもらえば、もしかして勝てるかも……!」
「ダイヤさんに……?」
とうきは考えた末、強くうなずいた。
「よし、ダイヤさんに頼みに行こう!」
−−−−黒澤家−−−−
夜、とうきたちは黒澤家を訪ねた。
「……なるほど、事情はわかりましたわ。」
厳しい顔をしてダイヤはうなずいた。
「善子さんのために、負けられない勝負……ですのね?」
「はい……!」
とうきは頭を下げた。
ダイヤは一瞬だけ笑みを見せ、そしてキリッとした表情になった。
「よろしい。では、佐藤さん……地獄をみる覚悟はよろしくて?」
「げっ……。」
「安心なさい。数日で、まともに竹刀を振れるようにしてさしあげますわ!」
パシィンッ!と竹刀を叩きつける音が夜に響いた。
(なんか、とんでもないことになったかも……)
−−−−黒澤家・庭−−−−
「では、まずは基本からですわ!」
ダイヤは竹刀を手に持ち、ぴしっと構えた。
「正座!礼!そして……素振り千本!!」
「せ、千本……!?」
「当然ですわ。剣道とは心技体、すべてを鍛えるもの。甘く見ないことです!」
バシィン!
ダイヤの竹刀が空気を裂いた音が、庭に響く。
「こ、こんな地獄とは聞いてねぇ……!」
とうきは顔を青くしながらも、竹刀を握り、必死に素振りを始めた。
「いち!に!さん!し!」
隣では善子、花丸、ルビィも応援している。
「とうき、がんばれ!」
「ファイトズラ!」
「ルビィも応援してるよ!」
とうきは汗だくになりながらも、必死で竹刀を振った。
(負けるわけにはいかねぇ……絶対、善子を守るんだ!)
ダイヤはそんなとうきを、静かに見つめながら口元を緩めた。
(意外と、根性だけはあるようですわね。)
−−−−特訓数日後−−−−
「ふぅ……ふぅ……」
とうきはヘロヘロになりながらも、竹刀を構え続けた。
「よろしい、佐藤さん。最初に比べれば、見違えるほどマシになりましたわ。」
ダイヤはうなずくと、竹刀をしまった。
「今日からは実戦形式の練習に入りましょう!」
「え……マジで?」
「手加減はいたしませんわよ!」
バシィン!
次の瞬間、ダイヤの鋭い突きがとうきの胴に決まった。
「ぐあぁぁ!!」
「油断大敵!竹刀は生き物ですわ!」
とうきは地面に転がりながら、なんとか立ち上がる。
(くそっ……でも、負けてたまるか!)
善子はそんなとうきを、じっと見つめていた。
(とうき……少しずつだけど、ちゃんと成長してる。)
小さく、善子は微笑んだ。
−−−−そして、試合当日−−−−
グラウンドには、宮田賢治がすでに待っていた。
「よう、チンピラくん。剣道なんて間に合うわけないだろう?」
宮田は不敵な笑みを浮かべている。
しかし、とうきの目は違った。
以前のような弱気な光ではない。
まっすぐに、敵を見据える力強い光だった。
(絶対に、負けない……!)
「さあ、始めようか。」
「……ああ、来いよ。」
善子、花丸、ルビィ、そしてダイヤが見守る中、竹刀を交える音が高らかに鳴り響いた
−−−−剣道勝負・開始−−−−
「始め!」
審判役の先生の声が響いた瞬間、宮田は鋭く踏み込んできた。
「せいっ!」
バシィン!
「ぐっ……!」
とうきは受け止めるのが精一杯だった。
重い一撃に押されて後ろへ下がる。
(やべぇ……こいつ、速ぇし重い!)
宮田は間髪入れず、追撃を仕掛けてくる。
「終わらせるぞ!」
バシィン!バシィン!
防戦一方のとうき。
「とうき、負けないで!」
「頑張るズラ!」
「ルビィも応援してるよ!」
善子たちの声援が飛ぶが、とうきは押され続けていた。
(くそっ……このままじゃ……!)
次の瞬間、宮田の竹刀がとうきの面をかすめた。
「一本!」
「……チッ!」
(ダメだ……このままじゃまた負ける!)
その時、とうきの頭にダイヤの厳しい声が蘇った。
『佐藤さん!竹刀は振り回すものではありませんわ!
竹刀はあなたの意志を伝える生き物!
正しく握り、正しく振る……それが勝利への道ですわ!』
(竹刀は、生き物……?)
とうきは一度深く息を吐き、竹刀を軽く握り直した。
(……そうか、こいつは、ただの棒じゃねえ……。
こいつに、ちゃんと力を乗せてやるんだ……!)
顔を上げる。宮田がニヤリと笑っている。
「もう終わりかい、チンピラくん?」
「……いや。」
とうきは低く呟いた。
「コイツ(竹刀)の使い方ようやくわかった。」
−−−−再開−−−−
とうきは踏み込んだ。
「せいっ!!」
ビシィィン!
今度はとうきの竹刀が宮田の胴を正確に打ち抜いた!
「一本!」
先生の声が響く。
「なっ……!?」
宮田が目を見開く。
(さっきまでとは違う……!)
続けてとうきは、さらに間合いを詰めた。
(竹刀を……振るんじゃない!
竹刀と一緒に、心を打ち込むんだ!)
バシィン!
宮田の突きを受け流し、その隙を突いてとうきの面打ちが決まった!
「面あり!佐藤!」
「よっしゃああああ!!」
とうきは思わず叫んだ。
「とうき、すごい!!」
「勝ったズラ!!」
「ルビィも感動だよぉ!」
善子も、目を輝かせながらとうきを見つめていた。
(とうき……本当に、強くなった……!)
一方、宮田は歯ぎしりしながら竹刀を握りしめた。
(まさか……こんな奴に……!)
とうきは竹刀を下ろし、静かに宮田を見た。
「俺は……負けねぇよ。お前みたいな、勝手に人を決めつけるやつには。」
静かな、でも芯のある声だった。
宮田は悔しそうにとうきを睨みつけたが、何も言い返せなかった。
−−−−剣道勝負、佐藤とうきの勝利!−−−−
スポーツ5番勝負後半に続く