しかし、運動が苦手なとうきは、第一戦のテニス、第二戦のサッカーと連敗。
さらに宮田は、勝負に勝つことで密かに想いを寄せる津島善子をとうきから引き離そうと画策していた。
追い込まれたとうきは、善子たち仲間の応援と、黒澤ダイヤによる剣道特訓を経て、第三戦・剣道で初めて勝利を掴む。
反撃の狼煙を上げたとうきは、残るバスケットボールと水泳の勝負に全力で挑もうとしていた。
【スポーツ五番勝負・第四戦 水泳】
−−−−プール−−−−
「第四戦、水泳だね、チンピラくん。」
宮田は余裕たっぷりに水泳帽をかぶりながら、とうきくんを見下ろして笑っていた。
(どうせ普段ろくに運動してないんだ。水泳だって大したことないはず……。)
とうきくんは無言でスタートラインに立った。
観客席では、善子、花丸、ルビィたちが見守っている。
善子は、じっととうきくんを見つめながら、心の中で祈っていた。
(とうきなら、きっと大丈夫──!)
──そして、とうきくんも静かに目を閉じる。
(忘れるわけねぇよ、あの夏を──)
−−−−回想−−−−
プールで果南に泳ぎを教わっていたのである。
「力じゃなくて、水と一緒に流れるんだよ。」
果南はとうきくんに、水を切る感覚、体の使い方、呼吸のリズム──すべてを叩き込んだ。
苦戦しながらも、とうきくんは果南の教えでどんどん泳ぎを覚えていった。
(あの時、果南さんは言った。)
『怖がるな。流れに乗って、前へ進みな──。』
−−−−現在−−−−
「位置について……よーい──スタート!」
ピィーーー!!
──ドボン!
水しぶきと共に、二人は水中へ飛び込んだ。
その瞬間──
「なっ……!!?」
宮田が驚愕した。
とうきくんの泳ぎは、別格だった。
バタ足も手のかきもリズムよく、水を切り裂いていく。
フォームも無駄がなく、スピードも圧倒的だった。
(こ、こんなバカな……!)
とうきくんは一切振り返らない。
(果南さん──俺、前より早く。)
「とうきくん、頑張るズラぁぁ!!」
花丸が拳を握りしめて叫んだ。
「すごいよぉぉぉ!!」
ルビィも感激している。
善子も、じっと真剣な目でとうきくんを見つめた。
──そして
とうきくんは勢いよくゴール板に手を伸ばし──
──タァン!!
「ゴール!!」
審判が笛を吹いた。
とうきくんはプールサイドによじ登り、プシューっと息を吐いた。
そのころ、宮田はまだ必死に水をかいていた。
「はぁ……はぁ……!」
どうにかプールから上がった宮田を、とうきくんはニヤリと見た。
「どうしたよ。泳ぎもイケメンらしく決められねぇのか?」
「くっ……!」
宮田は拳を握りしめ、悔しさをにじませた。
──こうして、
スポーツ五番勝負、第四戦・水泳は佐藤とうきの圧勝
となった。
──そして、残るは最終戦・バスケットボール!!
善子とスクールアイドル部の未来を懸けた、最後の戦いが始まろうとしていた──!
−−−−体育館−−−−
「では──いよいよ、最終戦。バスケットボールを始めましょうか。」
宮田賢治は変わらぬ微笑を浮かべながら、ボールを指先で軽やかに回して見せる。その表情は余裕に満ちているように見えるが、どこか目の奥に焦りが潜んでいた。
「先ほどの水泳は、正直に申し上げて、予想外でした。しかし──バスケットボールは別です。ここからが、本当の勝負ですよ。」
とうきくんに向けられる視線には、静かな闘志とわずかな苛立ちが混ざっていた。
対するとうきくんは、珍しく落ち着かない様子だった。ボールに手を伸ばしかけて、また引っ込める。視線が定まらない。
「とうきくん、大丈夫ズラ……?」
花丸が心配そうに問いかける。
「ま、まぁ……たぶん、大丈夫……」
そう言いながらも、とうきは深く息を吸った。そして、善子の前に歩み寄り──そっと、抱きしめた。
「ちょっ!? な、なにしてるのよ!!」
突然の出来事に、善子は顔を真っ赤にして目を見開く。
「……ごめん。これだけは、しておきたかったんだ。」
とうきは照れたように視線を外しながらも、真剣な口調で続けた。
「……これで、チャージ完了。俺、もう負けるわけにはいかないから。」
その言葉に、善子は驚いたようにとうきを見つめ、そしてふっと笑みをこぼした。
「……バカ。」
「そろそろ、始めてもいいかい?」
宮田が落ち着いた声で促してくる。その言葉には、どこか静かな怒りがにじんでいた。
とうきは静かに振り返り、構えを取った。
「──ああ。最終決戦、始めようか。」
──スポーツ五番勝負、最後の戦いが今、幕を開ける
「ティップオフ──!」
試合開始の笛が鳴り響く。
ボールが高く投げ上げられ、空中でとうきと宮田が跳ぶ──が、
「取った。」
あっさりと宮田がボールを奪い取った。
(は、速い……!?)
とうきは追いつこうとするが、宮田のドリブルは正確無比。パス、フェイント、動きに一切の無駄がない。
「ほら、こちらですよ。」
「くっ……!」
完全に翻弄され、とうきは後れを取るばかり。
──そして、スコアは次々と加算されていく。
「……2点、追加です。」
観客席に微妙などよめきが広がった。
「とうきくん……っ!」
善子の顔に不安が浮かぶ。
「なんだか、慣れてない感じズラ……」
花丸がぽつりとつぶやく。
──そう、とうきには致命的な弱点があった。
(バスケだけは……本当に苦手なんだ……!)
シュートを打てばリングに届かず、ドリブルすればボールを見失い、パスは手につかない。
「……ふぅ。」
宮田は余裕の表情を崩さない。
「どうしました? 水泳のようにはいかないご様子ですね。」
(わかってるよ、そんなこと……!)
とうきは必死に食らいつこうとするが──
「ッ……痛ッ!」
滑った床に足を取られ、とうきは転倒。軽く足をひねってしまう。
「とうきくんっ!?」
善子が立ち上がる。
「大丈夫……大丈夫、まだ──!」
立ち上がろうとした瞬間、天井のライトがまぶしく反射し、目を覆った。
「見え──!」
ボールがとうきの顔面に直撃。
「ッ……ッ!」
鼻血がつっと流れ落ちる。
さらには天井のライトがとうきの上に降って来てとうきに直撃した。
ガシャーン
「……うそ……とうきくん……!」
ルビィの目に涙が浮かぶ。
「とうきーー!!」
善子もとうきが心配で叫んだ。
「あー、大丈夫。生きてるから、試合続けよか…」
この後も様々な不運が続き、
とうきの得点、0。
宮田の得点、24。
もう、誰もが勝負の行方を悟っていた。
「佐藤くん……バスケもそれ以外でもうボロボロだけどまだ続けるかい?」
宮田の静かな声が、とうきの耳に突き刺さる。
──そのとき。
ボールが、コロコロと床を転がって、とうきの前で止まった。
彼はゆっくりとしゃがみ、ボールを拾い上げる。
「そろそろだなー」
──回想──
夕焼けの体育館。鞠莉が笑顔でとうきにボールを渡した。
「ダイヤの方の特訓でバスケは時間が無いわねー。 だったら逆に、武器はひとつでいいのよ。」
「……武器?」
「シュートだけでいいの。あなたには、そのフォームがある。」
とうきは見つめられて、戸惑いながらもうなずいた。
「大事なのは、心と軸をぶらさないこと。狙ったら、迷わず撃つの。あとは──運命を信じて、ね?」
──現在──
とうきの手が、ゆっくりと構えに入る。
「……この距離なら、届く。」
構えたフォームは、綺麗だった。迷いがない。体が自然に動く。
「そこから撃つ気ですか? 無謀ですね。」
宮田が冷たく言い放つ。
──とうきは、打った。
ボールが、高く、美しい放物線を描いて飛んでいく。
──スッ。
「……入った!?」
観客席がざわついた。
(今の感覚……間違いねぇ。)
それは、“不運”の底を打った証だった。
(ここからは……もう、運が上がっていくだけだ──!)
とうきの目に、再び光が宿る。
「なぜだ、さっきまであんなに不運だったのに、何故、急にこんなスーパーシュートを…」
「宮田。教えてやるよ。この最終決戦に向けての運作戦を!!」
「運だと?」
「試合開始前。俺は善子に抱きついた。善子は超が着くほどの不運な女の子その善子に抱きついて俺も善子の不運オーラを吸い取って自分の運をとことん低下させた。どんなけ運が悪くても最低まで行けば後は運がよくなっていくだけだ。これがバスケが苦手な俺が考えた作戦だ。さぁ、改めて勝負だ。」
とうきは構え直した。
──超幸運の反撃が、今始まる。
「なら、入れ続けてやるよ。」
「とうき……!」
善子の声が、まるで祈りのように響いた。
──勝負はまだ、終わっていない。
──試合は残り3分。
スコアは、24対3。差は21点。だが──
「入った……まただ……!」
「まさか……まさか連続で入れるなんて……!」
観客席がどよめく。とうきの3ポイントシュートが、またも綺麗にネットを揺らした。
(あれが“とうきくんのフォーム”……一撃必殺の、美しい放物線──)
花丸も、思わず息を飲んでいた。
「そんなはずは……!!」
宮田は焦り始めていた。たしかに、とうきはドリブルもパスもできない。ただ、それを補って余りある超精度のロングシュートが、確実に点差を詰めていく。
──残り2分。
スコアは24対12。
宮田はディフェンスを強め、徹底的にマークしはじめた。
「二度とフリーにさせませんよ。」
だが──
「っ……!」
とうきが倒れた。足をつかまれたわけではない。ただ、滑った。たまたま水がこぼれていた。
(また不運……? でも──)
倒れたまま、とうきはボールを見上げていた。そして、無理な体勢から片手でボールを投げる。
放たれたボールは、再び放物線を描いて──
「……入ったっ!!」
「……嘘……!」
善子が両手を口に当て、目を見開く。
「まさか、あんな体勢から……!!」
──超幸運が、完全に回り始めていた。
とうきは立ち上がり、鼻血の跡もそのままに笑う。
「運任せの一発芸でも、極めれば武器になるんだよ。」
──残り1分。
スコアは24対21。
「……このままでは……!」
宮田は強引に突破し、ゴールを狙った。だが、シュートはリングを弾かれた。
「なっ……!? こんな時に限って……!」
「“運”ってやつは、波があるんだよ。」
とうきは素早く拾い、コートの端からシュート。
──バシュッ!
「入りました! これで24対24、同点です!!」
観客席は総立ち。奇跡を目撃する瞬間に、会場は揺れていた。
──残り15秒。
宮田が最後のチャンスに賭け、必死にドリブルするが……!
「ッ!? また……!」
ボールが手からすべり落ち、床を転がる。まさかの凡ミス。
転がるボールを、とうきくんが拾い上げた。
(ラストシュート……いける──!)
「……とうきくん……!」
花丸の声が震える。
とうきは迷いなく、構えた。
そのフォームは、鞠莉から託されたたったひとつの武器。
──高く、真っ直ぐ、美しく。
ボールが、時を止めたように弧を描いて飛ぶ。
──スッ
「……入ったァァァァァァ!!」
──ブザーが鳴る。
観客は騒然、そして大歓声!
「スポーツ五番勝負、最終戦・バスケットボール! 勝者、佐藤とうき!!」
とうきは膝をついて、深く息を吐いた。鼻血も汗も、涙も混じった顔で、ただ笑っていた。
「……勝った……」
善子が駆け寄り、とうきくんを抱きしめた。
「バカ……バカ……でも、ありがとう……!」
──こうして、
善子とスクールアイドル部の未来を懸けた戦いは、とうきの勝利で幕を閉じた。
たった一つの武器。
それを信じ抜いた少年の、奇跡の物語だった。
──試合後。体育館。
勝利の余韻が観客席を包む中、とうきはベンチで水を飲みながら、疲れた体を落ち着けていた。
その前に──ゆっくりと歩いてきたのは、敗北を喫した宮田賢治だった。
「……おめでとう。佐藤とうき。」
とうきは、ゆっくりと顔を上げた。
「へぇ、負け惜しみは?」
「ないよ。僕は、負けたんだ。」
宮田は静かに、だが真っ直ぐとうきくんを見つめる。
「ただ──ひとつだけ言っておく。」
宮田の声に、わずかな熱がこもる。
「もし君が……これから先、善子さんやスクールアイドル部を、少しでも不幸にするような真似をしたら──」
「そのときは、僕が君を許さない。」
ピリッとした空気が流れる。
とうきは一瞬目を見開いたあと、ふっと笑った。
「はは、怖ぇな……」
「でもまあ、安心しろよ。」
とうきは立ち上がり、鼻血の名残を拭いながら肩をすくめた。
「俺だって──善子の笑ってる顔が一番好きだからさ。泣かせる気なんて、これっぽっちもねぇよ。」
──沈黙が、一瞬。
そのあとで、宮田はふっと笑った。
「……なんだ、君も案外、まともなこと言うじゃないか。」
そして、手を差し出した。
「それと、佐藤とうき。今日の君の戦い──本当に、かっこよかった。」
とうきは目を丸くし、そしてゆっくりとその手を握り返す。
「……へぇ、ようやく認めてくれたか。」
「……友達って、こういうのを言うのかもしれないね。」
「おいおい、なんだよその照れ隠しみたいな言い方。ダチでいいよ、ダチで。」
「……ダチ、か。悪くないね。」
二人の手が、しっかりと握られていた。
観客席から、花丸、ルビィ、そして善子がその様子を見ていた。
「とうき……」
善子は、ほんの少しだけ目元をぬぐった。
「……バカ。ほんとに、バカなんだから……でも、ありがと。」
隣で善子が涙ぐみながら微笑む。
「ほんとに……とうきくん、がんばったずら……」
そして、その隣にいたルビィも──大きく目を潤ませながら、思い切って声を上げた。
「ルビィ……すっごくドキドキして、心臓が止まっちゃうかと思ったよ!」
善子と花丸がふり向く。
「でも、でもね──とうきくん、最後まで絶対にあきらめなくて……かっこよかった!」
ルビィはぎゅっと両手を胸の前で握って、涙をこらえながら笑った。
「ルビィも、頑張らなきゃって思ったもん! スクールアイドルとしても、友達としても……もっと強くなりたい!」
そのまっすぐな言葉に、善子も花丸も思わず微笑む。
──スクールアイドル部の未来も、善子の想いも、そしてルビィや花丸の気持ちも全部を背負って戦ったとうきくん。
その勝利は、ただのスポーツ勝負の終わりではなかった。
──ライバルとの和解。
──新たな友情の始まり。
すべてを乗り越えたとうきくんの物語は、ここからまた新しいページをめくるのだった。