佐藤とうきは、この間のスポーツ5番勝負での“超幸運”の反動を受けていた。
力を使い果たしたかのように身体がだるく、ベッドに倒れ込んだ彼は、体温計を見て目を疑った。
「うわ……これ、体温っていうか……もうボイラーだよ……」
額には汗がにじみ、声には力がない。そんな彼を看病していたのは――
小悪魔的な雰囲気をまとう、津島善子だった。
「しょうがないわね……。今回はあたしが看病してあげるわよ、特別に」
言葉こそツンと尖っていたが、善子は慣れない手つきながらも丁寧に薬を用意し、お茶を入れて、タオルを替える。その動きには明らかに優しさが滲んでいた。
(以下…佐藤とうきは高熱により、テンションがおかしくなっている。)
「善子〜……天使みたいだ……いや、堕天使か……? ナース服着て、看病してくれよ〜〜。」
「な、なによいきなり!? 頭ほんとにやられてない!?」
とうきはふらりと手を伸ばし、善子の手にそっと触れた。
「うわぁ……善子の手……スベスベでひんやり……気持ちいい〜……生き返る……これ、氷枕より効く……」
「ちょっ、そんなに触らないのっ! あんたが高熱すぎるのよー!」
「えへへ……善子成分が沁みてくる……すごい……これで10年は風邪引かない気がする〜……」
「はあ……ほんと、どうしてこうなるのよ……」
善子はそう言いながらも、タオルを替え、額に手を当てる。
熱はまだ高く、彼女は小さくため息をついた。
「ほら、早く寝なさい。じゃないと、看病してるこっちが心配で倒れそうよ……」
「……善子も、無理しないでね……僕、ちゃんと治すから……だから……」
とうきの声が、徐々に小さくなっていく。
「……善子が、ずっとそばにいてくれたら……もう何でも……うれしい……」
「……っ、ばか。そういうの……軽々しく言わないでってば……」
善子の頬が赤く染まる。彼女はとうきの寝顔を見て、そっと小さく微笑んだ。
「……心配されるの、嫌いじゃないけど……病人は黙って寝てなさい……」
その声は、いつもより少し優しくて――
とうきはふと微笑んだまま、深い眠りへと落ちていった。
⸻
放課後の佐藤家。
チャイムが鳴り、善子はしぶしぶ玄関へ向かう。
「……はいはい、どちら様――」
「おじゃまするずら♪」
制服姿の花丸が元気に顔を出した。
「……はぁ!? な、なに勝手に!?」
「善子ちゃんが“とうき君の看病してる”って聞いたから、心配になって」
「心配なことないわよ。とうきはまだ寝てるけど、まぁ入って。」
部屋に入ると、ベッドに熱で倒れている佐藤とうきがいる。
額にタオルを乗せ、頬を赤らめている。
「まだ熱あるずらね」
「夜はもっと酷かったのよ。もう何度も起きてうなされて……」
善子はぼやきながら看病を続けている。
花丸は横に座り、彼の髪をそっと撫でた。
「頑張ったんだもんね。無茶しすぎたずらよ」
「ほんとバカ」
「それでも……好きだから、仕方ないずら♡」
「なっ!? そういうの言わないで!」
花丸はニヤリと笑い、お茶を入れ直す。善子は顔を赤らめた。
日が傾き、オレンジ色の光が部屋を包む。
二人の看病は続き、とうきは寝言でつぶやく。
「善子ちゃん……まるちゃん……ありがとう……」
花丸は笑う。
「“ちゃん”付け同率ずらね」
「いつもは善子呼びだから、」
「それを言うならマルは花丸ちゃん呼びずら。まぁ、マルちゃん呼びでもいいずら。とうき君だけの特別呼びってことで」
善子はぷくっと頬を膨らませる。
「そういうところ、ずるいわね」
「独占欲強いのはどっち?」
「~~~っ!」
その時、とうきが小さく咳をして顔をしかめる。
花丸が手を握り、善子も反対の手を握り返す。
「どっちが優しく看病できてるかしら?」
「わたしのほうが……」
「気持ちの問題ずら」
ふたりの小さな火花が散る間に、とうきは穏やかに眠る。
20時過ぎ、善子が欠伸をする。
「眠くなってきた……」
「少しだけ寝てもいいずら?」
「別に……」
二人はとうきを挟んで横になる。
左右から寄り添い、優しく看病の手を休めた。
「おやすみ、とうき君」
「早く元気になってよね」
三人の寝息が重なり合い、月明かりが照らす夜が訪れた。
⸻
翌朝
「ん……?」
佐藤とうきは目を覚ました。
熱は引き、身体も軽い。
(治ってる……)
動こうとしたら、両手を誰かに握られていることに気づく。
右手には善子。左手には花丸。
ふたりは眠ったまま、とうきを挟む形で寄り添っていた。
「な、なにこの状況……」
心臓がドキドキ鳴る。
朝の光が差し込むなか、とうきは静かに呟いた。
「これ、どんな罰ゲーム……?」
「まぁ、2人ともかわいいからいいか!」