ゼロの使-Ai-魔   作:ポロシカマン

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騙し-Ai……②

 

 

 Ai(アイ)がいなくなってから、二日が経った。

 

「…………」

 

 あの日の茶会の後、私はギーシュとシエスタ、ミスタ・コルベール、それに多くの使用人たちも巻き込んで、昼寝していたはずのあいつをずっと探しまわっていた。

 シエスタが言うには、数日前から使用人たちの仕事場に現れては勝手に仕事を手伝っていたようで……話も面白いしよく働いてくれると、使用人たちは随分とあいつを慕っていた。

 唯一手掛かりと思えたあいつが消えたのと同じ時間に消えたらしいタバサの使い魔の話も、当のタバサが何故か口を噤んで聞き出せず。

 他に手掛かりと言えそうな話もなく、結局今日まであいつのことは見つからなかった。

 

 しかもそんなときに限って、あのアンリエッタ姫殿下がこの学院を訪問なされたのだから……もう!!

 

「うがぁ~~~!!!」

 

 あいつが見つからない苛立ちとアンリエッタ様のご尊顔を拝せた嬉しさの板挟みで、今にも体が弾け飛びそうで仕方なかった。

 

「あいつぅ~~~!!戻ってきたら絶ッッッ対シバきたおしてやるぅ~~~~!!!」

 

 ベッドの上で死にかけの虫のようにジタバタと藻掻き感情を鎮めようとしても、どうにもこうにも納まらない。

 

 ――こうなれば、姫様が学院に降り立った瞬間を思い出すしかない。

 

「姫様……」

 

 あの瞬間は私たちみんな心を一つにして、姫様のあまりの美しさにときめきの声を上げていた。

 

 最後の別れから数年。姫様の美しさはやはり私の矮小な想像力では収まらなかった。

 女性的シンボルの全てが黄金比に整ったスタイル。女神の生まれ変わりかと思うほどに慈愛に満ちた笑顔。そよ風よりも柔らかく揺れる白い手。

 

 まさに王女の中の王女。この世の全てを詰め込んだように、姫様は完璧な成長を遂げられていた。

 

「にへへ……」

 

 そんな姫様が私に、目を合わせてくださったのよ!!

 私を見て、姫様が笑ったのよ!!

 

「わたしのこと、覚えていてくださった……」

 

 あぁ……なんか色んな悩みがどうでも良くなってきたわ……

 私なんかが気に病むことなんて、姫様の美しさの前では些事も些事……

 

Ai(アイ)もそう思うで……」

 

 それを言いかけた瞬間、昇華しかけていた意識が肉体に戻った。

 

「………………」

 

 ……なによ。なんでよ。

 

「なんでこんな時にいないのよ……一人で盛り上がっても、つまんないじゃない……」

 

 窓の外を無心で見つめる。

 待ち望んでいたはずの今日という日の空は、もうとっくに宵の色に染まっていた。

 

「……静かね」

 

 静寂の中で床に就こうとした瞬間。

 

 こんこんと。ドアを叩く音が耳朶を打った。

 

「誰よこんな時間に」

 

 恐る恐るドアに近づき、そっと開く。

 

「――きゃ!」

 

 と、ドアの隙間からまるで狩人から逃げ出す鹿のように素早い動きで、謎の客は私の部屋に侵入した。

 

「ちょ、ちょっと……あんた誰よ!?」

 

 爆発力だけは折り紙つきの私の杖を向け、変質者を威嚇する。

 ……が。

 

「夜分失礼いたします」

 

 その変質者から聞こえた、小川のせせらぎのように透明感のある、声。

 

「まさか……」

 

 その声は。

 

「久しぶりですね……ルイズ・フランソワーズ!!」

 

 紛れもなく、アンリエッタ姫殿下その人のものだった。

 

「姫様……!!!」

 

 瞳を潤ませながら、抱き合う私と姫様。

 

「あぁ、ルイズ、ルイズ!!……懐かしいルイズ!!」

「ひ、姫殿下!いけません!!このような下賤な場所へお一人でいらっしゃるなんて!!」

「ごめんなさい。だって、こうしてまたあなたに遭えるのが嬉しくって……」

 

 水晶のようにきらきらと輝く瞳を潤ませながら、姫様は私を見つめている。

 

 そんな瞳も、髪の色も昔のまま。互いの目線の位置は少しだけズレてしまったけど、お声から感じられる姫様の清らかなお心の色は、ちっとも変っていなかった。

 

「そんな、謝らないでください!!私も姫様とこうしてお逢いできて……あ、も、申し訳ございません!!このような格好で……」

 

 本来なら相応しい礼服でお出迎えしなければいけないところなのに、こんな緊張感の欠片もない寝間姿。

 羞恥で自分の頬が熱くなる。

 

「いいのですよそんな。私の方から勝手に来てしまったのですから。……それに、昔はよく一緒のベッドで寝ていたでしょう?今更何を気にするというのですか」

「で、ですが……」

「ふふふ」

 

 あぁ、やっぱり姫様は、昔の姫様のままだ。

 姫様の優しい笑顔は、いつだって淀んだ私の心に光を満たしてくれる。

 こんなに幸せな時間は、一体いつ以来だろう。

 

「……ルイズ」

「姫様……」

 

 この瞬間が永遠になればいいのに。

 姫様の瞳を見つめながら、そう思った。

 

 

 

 

「あのー!!そろそろいっすかねー!!!」

 

 

 

 

「!!!!!?????」

 

 突然の大声に、背筋に稲妻が走った。

 

「誰!?」

 

 どこか聞き覚えのあるような。

 でも、初めて聞くような声。

 

「――あ、いけない!」

 

 同じく声に反応した姫様がドアの方へ小走りし「ごめんなさい大丈夫です!」と呟いて、開けた。

 

 

 

 

「まったくもーヒメ様よー。放置プレイは趣味じゃないんですぜー?」

「久しぶりにルイズに逢えてつい舞い上がっちゃって……」

 

 

 

 姫様に、恐れ多くもあのアンリエッタ姫殿下に、ぶしつけな態度で小言を言いながら私の部屋に入ってきたのは。

 

 

 

「……会いたかったぜご主人タマ~~~!!!」

 

 

 どこかで見たような、謎の可愛らしい黒い小人を抱いた姫様だった。

 

 

「えぇえええ!!??」

「なんで逃げんだよぉ!?」

 

 思わず窓に手がつく位置まで走ってしまった。

 

「な、なによあんたぁ!!小人に知り合いなんていないわよ!!」

「オレだよオレ!!見てわかんねーのかよ!!ほら!!このぷりちーなフォルム!!見覚えがあるだろ!?」

「はぁ!?」

 

 そう言われて、よくよく小人に目を凝らす。

 

「ルイズ、あのね、この方はあなたの……」

「しっ!!甘やかしちゃダメっス!!」

「もう、意地悪ですね」

 

 あの面妖な姿……確かにどこかで見た覚えがある。

 うーん……どこだったかしら……ここ最近のはずなんだけど……

 

「ん?」

 

 ふと、視線が滑って姫様が小人を抱きかかえている部分を見た。

 

「あれって確か……」

 

 確か、この前の決闘の時……あいつがカードを置いたり離したりしてた……

 

「デュエルディスク……!!」

 

 それを認知した瞬間。

 この状況の全てが理解できた。

 

「ね、ねぇ……」

「お、気付いた?気付いた!?」

「まさかとは思うんだけど……」

 

 この幼稚な生意気な可愛らしい小人、見覚えがあると思ったら……そうよ、間違いない。

 あいつが使っていたカードに描かれていた、あの!!

 でも、まさか……

 

 

 自分の姿をカードにするだなんてこと……

 

 

 

 

 

「あんた、Ai(アイ)なの……?」

「……おう!!!!」 

 

 

 そして。

 

 私の中でパンパンに膨らんでいた何かは、盛大に破裂した。

 

 

 

「ふざけんなーーーーー!」

「ぱぴぷぺぽ!?」

 

 大バカバカバカ使い魔を、デュエルディスクごとベッドに叩きつける。

 

「ふん!!」

 

 あ、なんかすごいスッキリしたわね。

 モヤモヤしていたのが一瞬で晴れていくわ。

 ……なんか人間としてダメになっているような気がしないでもないけれど……別にいいわよね。

 だってAi(アイ)だし。

 

「きゃーー!?Ai(アイ)さん!!」

「姫様!?」

 

 なんと意外なことに、姫様はベッドに沈んだバカ使い魔を慌てて拾い上げた。

 

Ai(アイ)さん、大丈夫ですか!?」

「むきゅぅ……いつものことなんで問題ないッス……」

「もうルイズ!!使い魔への仕打ちと言えど、優しくしないとダメですよ!!」

「は…………はい……?」

 

 あまりに予想外なことに、口角がひくつく。

 どうしてあの姫様が、Ai(アイ)に対しこうも優しく愛でるように接しているのだろう。

 

「あ、あの、姫様……そこのAi(アイ)と一体なにが……」

「そうでした!実は……」

「あー、お待ちくだせぇヒメ様、オレから説明しますんで」

「は、はい」

 

 どうして私の前から姿を消したのか。

 どうしてアンリエッタ姫殿下と親し気なのか。

 どうしてこんなにちっちゃくなってしまったのか。

 

 ―――――Ai(アイ)の口から、その詳細が語られ始めた。

 

 

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