ゼロの使-Ai-魔   作:ポロシカマン

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果たし-Ai……①

 そんなこんなで、朝。

 

 オレは高飛車お貴族のルイズちゃまのお世話を完璧にこなし、朝の清々しい空気を感じながらいい気分で原っぱに寝っ転がって日向ぼっこ……もとい充電に勤しんでいた。

 

「ただいま、大人しくしてた?」

「もちコースよ」

 

 優雅に朝食を決めたらしいルイズちゃま。

 寝起きのだらしねー顔が嘘のように、キリッと引き締まっている。

 なるほど、貴族のお嬢様ってのはホントのようだ。

 

「よく噛んで食ったか?」

「あんた私を何だと思ってんのよ……」

「いやぁー、よく晴れてて気持ちいーぜ。今日は充電日和だ」

「それはよかったわね。……それ終わったらちゃんと洗濯しといてよね」

「わ、わかってるって……」

 

 はぁ……どうしよっかな、洗濯。

 

「あ、そうだ。ちょっと訊きたいんだけどよ」

「なによ」

「あれ」

「うん?」

 

 さっきから騒がしい、オレの足の方にいる人間を指さす。

 

「――あぁヴェルダンデ!! 君はどうしてそんなに美しいんだい!?」

「もしかしてあれ……モグラか?」

「あぁ、あれは『ビッグモール』よ。ギーシュのところは『土系統』の多い家系だから、妥当な使い魔ね」

「モグラが使い魔かよ、ファンキーだな……ん? 土ケイトウ?」

 

 どことなく聞き覚えのあるような、ないような。

 今までに聞いたこの世界の概念の中で、一番オレに『引っかかった』言葉だった。

 

「四つある魔法系統の一つよ。 大地に関する魔法を司っていて、金属の生成や加工、農作物の収穫に建物を建てたり……四系統の中で一番生活に欠かせない属性ね」

「属性……あー!!」

 

 なるほど、だからか!

 

「それってよ、地属性のことだよな!」

「あら、知ってたの?」

「似たような概念が俺の世界にもあってな……てことは残りの三つは『炎』『水』『風』か?」

「うん、そうよ」

「よし!」

 

 ルイズちゃまの説明だと、どうやらこっちの世界でも地属性は生活基盤を担う重要な属性っぽいな。

 

「…………。」

 

 そういやサイバース世界を造った時も……基本骨子作成は『アース』が担当してたっけか。

 懐かしいなぁ……

 

「魔法が使えないっていうから随分文化の違う世界だと思ってたけど、意外な接点ね」

「なぁ、『光』と『闇』はねーのか?」

「……うーん、聞いたことないわね……属性を持たない『コモン・マジック』ならあるけど」

「『無』属性か。 ……そっちはオレが知らねー」

「無?……あれ、たしかそんなのをどこかで……」

「あ、じゃあよ」

 

 本当に、本当にふとした疑問だった。

 

 

 

「お前はどんな属性の魔法が使えるんだ?」

 

 

 

✡️✡️✡️✡️✡️✡️✡️✡️✡️✡️✡️✡️

 

 

 

 いつか、その質問にぶつかるとは思っていた。

 思ってたよりは、遅かったけど。

 

「……使えない」

「え?」

「私、魔法は使えないのよ」

 

 はっきりと、きっぱりと。

 なんの言いよどみもなく、流れるように答えた。

 

「あれ? でも貴族はみんな使えるってお前……」

「私は使えない。……あんたを召喚したときの魔法以外は、ね」

 

 胡麻化しても、どうせ他のメイジがバラすんだから。

 だったら潔く自分から話すべきなのよ。

 

 ……その方が、

 

「私ね、ここじゃ『ゼロ』のルイズって呼ばれてるの」

「『ゼロ』……?」

「他の子は『微熱』とか『香水』とか……自分の系統に即した二つ名を持ってるけど、私はどの系統の魔法も使えないから、『ゼロ』。」

 

 

 ――他の子はできてるのに、どうしてあなただけ!

 

 

「魔法の才能がゼロのルイズって、そういう意味よ」

 

 その方が、傷つかないから。

 

 

「座学だけでもって頑張って、なんとかここに居させてもらってるだけの……私は、落ちこぼれなのよ。」

「……いや、お前それって」

 

 

 

 

 

「――おや、『ゼロ』のルイズじゃないか!」

 

 突然声を掛けられて、びっくり。

 振り向くと。

 

 

「奇遇だね、君もここで使い魔と絆を育んでいたのかい?」

 

 さっき話題に出たビッグモールの使い魔、とその主人。

 私のクラスメイトの一人。

 

「あぁ、使い魔殿には初めまして。

 僕は『ギーシュ』。ギーシュ・ド・グラモン。

 気軽に『ギーシュ殿』と呼んでくれたまえ!」

 

 バラに似せた杖をくるりと手で弄びながらの、仰々しい自己紹介。

 何度見てもイラッとくるわね……

 

「ふーーん……」

 

 いかにも興味ありませんという顔。

 使い魔は一瞬だけギーシュに視線を合わせただけで、後はずっと『ヴェルダンデ』と呼ばれていたギーシュの使い魔の方を見ていた。

 

「え、えぇと……君は名をなんというんだい?」

 

 調子を崩され、たじろいでいるギーシュ。

 自分より背の高い男を相手しているからだろうか、普段女の子を口説いている時とは違い、随分と口数が少ない。

 

「えー日本から来ました、Ai(アイ)っていいますー。呼び方は……なんでもいーや。シクヨロー」

「適当すぎないかい!?」

 

 さすがにツッコむわよね。

 

「はぁ……あの『ゼロ』のルイズが召喚したというからどんな使い魔なのかと興味があったのだが……格好だけで言動は粗暴な平民そのものじゃないか!! ふぅ……期待はずれだね」

「あのねギーシュ……こいつは平民どころか人間でもないのよ」

「……ほう?」

「『エーアイ』っていう、全く未知の種族なのよ」

「なに! そうだったのかい! ……いや、すまない。失礼した!! アイ殿と言ったか、君を平民と侮辱してしまったことをここに謝罪するよ」

 

 そう言ってギーシュは恭しく胸に手を当て、軽く頭を下げた。

 ……ホントに謝罪の意思があるのかしら。

 行動の一々が本当に軽いのよね、こいつ。

 

「べつにいいよ謝んなくて、オレって元々そんな敬われるようなヤツじゃないしさ」

「そうなのかい?」

「あぁ」

 

 そんなギーシュに使い魔は――

 

「でもご主人タマをバカにしたのは謝ってほしいかな!」

 

 鼻っ柱を掴み上げることで、答えた。

 

「……あんた!! 何やってんのよ!!」

「生意気なガキンチョにわからせてやってるのさ」

「だだだだだだ!?」

「身の程ってやつをよ!!」

「だんっ!?」

 

 そしてそのまま、ギーシュを後ろに突き飛ばした。

 

「……な、何をするんだ!!」

「お前……たしか地属性の魔法を使えるらしいな」

「そ、それがどうしたんだ!?」

「それだけか?」

「……んん?」

「使える魔法はそれだけかって訊いてんだよ。で、どうなんだ?」

「まだドット……一つだけだが」

「そーかい! じゃ大した事ねーな!!」

「な……なにを言う!!」

 

 ギーシュは普段の振る舞いからは想像もできないような怒気をもって立ち上がり、使い魔を睨む。

 

「お前は一個で、こいつはゼロ。 ……大して変わんねーじゃねーか。そんなんでよくもまぁこいつをバカにできたもんだぜ」

 

 使い魔は小憎らしい口を叩きながら、私の頭も同時に軽く叩く。

 

「ポンポンしないで」

「やだ」

「ぐぬぬ……」

 

 飄々とした使い魔の様子を見て、ギーシュはさらに怒りの炎を燃やしていた。

 

「大して変わらない……だって? ふん、君こそわかってないな!!」

「あん?」

「魔法を使えるのと使えないとじゃ、天と地ほどの差があるのさ!!

 魔法の使えない貴族について来る平民などいやしない!! 魔法を使えてこそ貴族だ!!」

 

 ……わかり切ってるわよそんなこと。

 どんなに威張ったって……結局は魔法。

 

「どんな魔法を唱えても爆発になってしまうルイズなど……貴族とは認めない!!」

 

 

 そう、『ゼロ』の私になんか……誰も……

 

 誰も、ついてきてはくれないのよ……

 

 

 

 

 

「いや、『ゼロ』って逆に良くね?」

 

 

 

 信じられない言葉だった。

 

 

「はぁ!?」

「ダメージが『ゼロ』、攻撃力が『ゼロ』、そして相手のライフが……『ゼロ』。いい響きだぜ」

「な、なんの話だい……?」

「オレ、こう見えても『決闘者(デュエリスト)』だからよ。好きなんだわ、『ゼロ』って言葉」

「デュエ……リスト?」

「おう、"この世で最も誇らしい戦士"って意味だ。……オレはそうでもねーけどな」

 

 バツが悪そうに苦笑しながら、使い魔は言葉を続ける。

 

「オレはカッコいーと思うぜ、『ゼロのルイズ』」

「か、カッコいいわけがあるかね!!」

「ある! オレはいいと思う! だからまぁ……」

 

 使い魔は、私の目を見て――

 

「そんな悲しそうな顔するなよ、ルイズ」

 

 哀しそうな顔で、そう言った。

 

「あんた……」

「……ふっ」

「私のこと、慰めて……」

「そ、そういうんじゃねーよ!……ただ『ゼロ』ってカッコいーなーって……そんだけだっつの!」

 

 さっきまでの顔が嘘のよう。

 使い魔は恥ずかしそうに唇を尖らせ頭を掻いていた。

 

「なんていうか……」

「んだよ」

「あんた、本当に変な使い魔ねぇ」

 

 なんだろう。

 今日は風が……温かいわ。

 

「い……一体さっきから! 君は何の話をしているのかね!?」

「るっせーぞ『ギューシ』!! 今いいとこなんだから黙ってろよ!!」

()()()()だっ!! なんだねその脂っこそうな名前は!!」

「……くすっ」

 

 思わず、笑みが零れる。

 変だけど、面白い使い魔だ。

 

「『決闘』だ……」

「おん?」

「君に『決闘』を申し込む!!」

「け………決闘!?」

 

 ギーシュ!? 

 こいつ何考えてんのよ!!

 

「へぇ、なんだよお前も決闘者(デュエリスト)だったのか!!」

「ちょっと、あんたも乗り気になってんじゃ……」

「だったら話は早ぇ……『デュエル』!!」

 

 使い魔が何かを宣言し、左腕を前に構えた。

 

 その――――次の瞬間。

 

 

「…………。」

「…………。」

「…………んん?」

 

 

 特に、何も起こらなかった。

 

 

「……どーしよ」

「な、なによ……」

「オレのデッキ……出てこねぇんだけど」

「……何だったんだ今のはーー!!」

 

 この時ばかりは、ギーシュと同じ気持ちになった。

 

「あれ? ……つかよく見たらオレの左手、なんか彫られてんだけど」

「使い魔の契約のルーンでしょ、ミスタ・コルベールがそう言ってたわ」

「へー」

「……君たち!」

 

 使い魔の左手のルーンに気を取られていると、まだ怒っているギーシュがこちらを呼びかけてきた。

 

「特にそこの君……」

Ai(アイ)って呼べ」

「こほん……アイ、君はもしや決闘を勘違いしてやいないか?」

「え、デュエルのことじゃねーの?」

「違う!! 何かは知らないが絶対に違う!!」

 

 力強く言い放ち、バラの杖を使い魔に向けるギーシュ。

 

「ここでいう『決闘』とは! メイジたちが自身の誇りを掛け、魔法をもって正々堂々と雌雄を決する由緒正しい対決法のことさ!!」

「へー……いやデュエルじゃん!!」

「ふむ。どうやら君も……多少形は違えど、この『決闘』の精神を理解しているようだね」

「まーな……あとはそうだな。実は個人的に、お前にはちょっとした恨みもある」

「何のことだい? 僕らはほとんど初対面のはずだが……」

「関係ねーよ」

 

 使い魔が、ギーシュのバラと重なるように指を立てた。

 

 

 

 

「お前とオレ……キャラ被ってんだよ!!!」

「ハッ……ほ、本当だ!!」

 

 ……呆れて何も言えなかった。

 

 

 

「――そこのメイドのねーちゃん!!」

「え!? あ、はい!?」

「わりーけど、この決闘の立会人になっちゃくれねーか?」

「わ……私が……ですか?」

「おうよ」

 

 哀れ、その場に居合わせてしまっただけで巻き込まれてしまった給仕の平民。

 おどおどとした口調で使い魔の話に合わせてくれている。

 

「でも……私……ただの給仕ですし……なんの権限もない平民ですよ?」

「関係ねーよ」

「え……?」

 

 

「貴族だろうが平民だろうが、AI(オレ)からしたら、みんなただの『人間』だ」

 

「…………。」

 

 なによ、それ。

 

「わかりました」

「いいのか!」

「はい。立ち合います。立ち合わせてください」

「……サンキューな」

「いえ!」

 

 給仕の女の子が朗らかに笑う。

 この子はたしか……『シエスタ』って呼ばれてたわね。

 

 ……初めて見たわ。この子が笑ってるの。

 

「文句はねぇよなぁ!

 ……おぼっちゃまくん!!」

「せめて人の名で呼んでくれたまえよ!?

 ……まぁ平民といえど、決闘を行う者とは関わりのない第三者が公平な勝負には必要だね。いいだろう、認めよう!!」

「ひゅー! さすがはお貴族、空気が読めるねぇ!!」

「あとはそうだね……僕が勝ったら、君にはルイズではなく僕専属の小間使いとして一生ただ働きをしてもらおうか!!」

「ちょっと! 勝手に決めてんじゃないわよ!!」

「いーねーそうゆうの!嫌いじゃないぜ!! じゃぁオレが勝ったらー……お前一生こいつの奴隷な?」

「いらないわよ!どっちが勝っても私だけ損してるじゃないの!!」

「え、損なのかい……?」

「なんでそこで悲しむのよ……」

「ふぅ……じゃ、これで決闘成立だな」

「あぁ、『ヴェストリの広場』で待っているよ」

「……どこそこ」

「あそこの裏手だよ」

「おけまるー」

 

 そして使い魔とギーシュ、二人の視線が重なり、火花が散った。

 

「ははははは! では僕は先に行っているよ! ギャラリーも呼んでおくから盛大にやろうじゃないか!!」

「お、助かるぜ! ……おし、オレらもいい感じに集めとこーぜ!!」

「集めないわよ!!」

「えー……」

「えーじゃない!! ……あんた、決闘って、本当に意味わかってんの!?」

 

 雰囲気に流されそうになったけど、よく考えたらこいつの強さとか戦い方とか、主人なのに全く知らない私だった。

 

「ドットでもギーシュは名門の家のメイジよ! あんなんだけど……実技の成績は上位なの!」

「心配すんなよ」

「わぷっ」

 

 また、頭を軽くポンポンと叩かれた。

 

「お前の顔に泥は塗らねぇ」

「え……?」

「あいつに勝って、お前に詫びさせる」

「なんで……」

「なんでって……そりゃあ、

 

 

 使い魔として、お前についてくって決めたからな」

 

 

 

 ……なによ。

 

 

 

「そう………」

 

 

 

 さっきから、カッコつけちゃって。

 

 

 

「わかった……わかったわよ……」

 

 

 

 うれしくなんか、ないんだから……

 

 

 

「もう、勝手にすれば?」

「おう!」

 

 

 いい笑顔で、使い魔は答える。

 なんだか……大きい犬みたい。

 

 

「あ、なぁメイドのねーちゃん」

「……は、はい!」

「決闘が終わった後さ……

 オレにこいつの服の洗い方、教えてくんねぇ?」

 

 

 ………………。

 

 

「私のいないとこで言えーーっ!!」

「やばい痛い!!」

「あ、あはははは……」

 

 

 ……犬は犬でも、バカ犬だけど。

 

 

 

 

 

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