「な……な……」
あまりにも予想外。
この状況について私の口から言えるのは、その一言だけだった。
誰が想像できるだろうか。
白昼の決闘場で突如発生した嵐の中から現れた数十枚の謎のカードが、あろうことか自分の使い魔へと集まって。
しかもそれを使って、使い魔が使い魔を召喚するなどと。
―――本当に、誰が予想できるのか。
「ちょ、ちょちょちょっと!!」
「どした?」
「そ、その……それ!なんでそこにカードを置いたらあんたの使い魔が出てきて…………魔法陣も出て!?そこに使い魔がくっついてそこからもっと大きい使い魔がばーん!!……って……う、ううううう」
「おぉう、おちけつおちけつ!」
「あんたそ……あんたホント、なんなのよぉーー!!??」
結局、動揺が極まって……自分でもなにを言っているのかわからなくなってしまった。
「あー……はははー!」
「笑ってんじゃないわよ!?」
「いや、説明するとわりとマジで長くなるからさー!……えーとだな」
「……えぇ?」
「これは『デュエルモンスターズ』。オレのいた世界じゃ一番イケイケな……最高のエンターテイメントさ!」
雲の割れ目から見える太陽のような笑顔で、そう、
「……オレが言っても説得力ねーな、はは」
「な、なんの話よ……?」
「!……わり、こっちの話」
そしてまた、哀しみで瞳を覆っている。
「……ねぇ!左腕のそれで使い魔を呼び出した……のよね?……とても杖には見えないけど……」
「あぁ、これな」
「『デュエルディスク』だ。プレイしたカードを置いとくフィールド兼、制御装置さ。……どこの誰だか知らねーが、へへ、粋なことをしてくれるぜ」
デュエルディスクと呼ばれた紫色のごてごてとしたものを撫でながら、
「ところでご主人タマよ」
「なによ」
「こいつ、どうよ?」
そう言って、親指でくいくいと差したのは
『………』
名前はたしか、《ダークナイト@イグニスター》。
紫の翼が生え、大剣を携えたその姿はどこか……
「……なんていうか」
「なんていうか?」
「うーんと……」
姿形はもちろん、雰囲気だって
なのに。
「あんたに……ちょっと似てる?」
不思議とそう思えた。
「……おぉおおお~~~!!」
パチパチと大きな拍手。しかもすんごい笑顔。
「百点!!……ご主人タマ百点!!ん~~ルイズちゃましゅごい!!」
「な、なによ……!そんなに嬉しかったわけ!?」
「そりゃ~も~~!!わかるご主人タマを持てて、
「う、うるさいうるさい!! この……離れなさいよぉ!!」
猫撫で声で撫でてくる
なんなのよこいつ~~!本格的に犬じゃないのよ!!
「な、ななななんだ君はこれはーー!?」
と、混沌としてきた決闘場に……情けない声が響き渡る。
「ア、アイ君!キミ、キミキミ君はメイジだったのかい!?」
「あん?いや、ただのデュエリストだぜ。魔法じゃないのよ」
「ほ、本当かい……?」
「…………いや実は」
「メイジじゃないと言ってくれよぅ!!」
ギーシュ……メイジ同士の決闘が校則違反だからって……情けなさすぎて泣けてくるわね。
「なんでこんなのがモテてるのかしら……」
女なのに女心がわからない。
……なんて、うまくないか。
「ところでギーシュ君よぉ!」
「ふぁい!?」
「決闘は……続行させてくれるよな?」
「…………は、い?」
吹っ飛びかけてた意識がようやく戻ってきたのか、泳いでいたギーシュの視線が定まってくる。
ゆるゆるだった顔つきも、みるみる精悍に。
……あ、もしかして顔に釣られてるのかしら。
「どうなんだ?」
「んんっ……ふっ、答える必要があるかい?」
「と、ゆーことは?」
「君がメイジでないというなら、僕が決闘を降りる理由は……ない!!」
「よっしゃ!そうこなくっちゃな!」
いい笑顔のままカードを持ってない方の拳を強く握り挙げる
「……あ、でも君の使い魔はどかしてく」
「──ダークナイトで、右のワルキューレに攻撃!」
「嘘だろう!?」
「え?……な、ちょ、ま!」
待ちなさい!と言う前に、《ダークナイト》はすでに攻撃を終えていた。
「……ちなさいよ」
《ダークナイト》の剣が、ギーシュからもっとも離れた位置にいたワルキューレの銅を刺し貫く。
そして剣が抜かれた瞬間、ワルキューレは私の魔法モドキを受けたみたいに爆散した。
「……ぬわぁああああ!?」
「きゃあああああ!?」
ギーシュはもちろん、私もギャラリーたちも阿鼻叫喚の渦に飲み込まれる。
ただ一人、下手人のあんちくしょうを除いては。
「うっひゃホーーイ!!まずは一体!!よーし!調子が出てき」
「……ふざけんなーーー!!」
「ぬぼあ!?」
怒りのままにぶん殴る。
それはもう、火山の噴火が如く。
「らにすんのよ!?」
「こっちが聞きたいわよ!あんた爆発するならするって……い、言いなさいよ!!」
「そんなビビることか?……これ」
「どういう神経してるわけ!?」
「(アイ君……こうして見ると、なんだか君を他人とは思えないよ……色々な意味で)」
こうなったら本格的にしつけないといけないわね……
とりあえず馬用の鞭でも常備しようかしら。
「だーもう!オレはターンエンドだー!!」
「あれ?さっきずっとオレのターンって……」
「ルールを守って楽しくデュエル!」
「あ、そう……」
なんだか知らないけどあの《ダークナイト》、行動に制限が付いてるみたいね……それくらいないとあれだけの力は動かせないだろうし当然といえば当然だけど。
「え??……いいのかい?」
「いーよ!かかってこいや!」
「やったー!!」
子供の遊びか!
……って、そんなことよりマズイわね。
「ワルキューレ!」
残る二体のワルキューレに向け、ギーシュはバラを振るう。
「気をつけて
「そんな感じだな……お、なぁ!」
「なによ」
「今の忠告、めっちゃご主人タマっぽかったぜ」
親指を立てて、こちらに向ける
「ほめても何もあげないわよ」
「か~、厳しいねぇ」
軽口を流しつつ、ワルキューレの動きに注視。
二体は散開……挟み撃ちに持ち込もうってハラかしら。
左右からダークナイトに向か……
「! 違うわ」
「気づいたところで!!」
狙いは……
「……ん?」
「バカ!逃げるわよ!!」
油断しきっていた
「……大丈夫だ」
「なんで余裕ぶってんのよ!」
思わず怒りを込めて言い返してしまった。
「へへ……」
しかし……私は忘れていたのだ。
「こう来ると思ったぜ!」
この使い魔が笑う時は絶対に何かが起こるということを。
「《アチチ》、《ヒヤリ》!……今だ!!」
なんと、
「なんだって!?」
「《ダークナイト》の効果さ!……このカードが戦闘でモンスターを破壊した時、墓地のサイバース一体を特殊召喚できる!!」
「一体……?二体もいるじゃないか!!」
ギーシュの言うことはもっとも。
さらに言えば、どうして《ダークナイト》の中に小さい使い魔たちが入っていたのかも不可解だ。
そんな気持ちで
「『ダークナイト』のさらなる効果!……このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合、墓地のレベル4以下の『@イグニスター』をこのカードのリンク先に可能な限り特殊召喚できる!……戦闘破壊した時の効果で一体、今の効果で二体、合計三体!俺は最初にワルキューレを倒した後、《ダークナイト》の中に蘇らせてたのさ!」
その三体目、確か《ドヨン》と呼ばれていた使い魔がダークナイトの肩から出てきて手を振っている。
……なんだかあの子も
<アチ…><ヒヤー…>
「(フレイム……アクア……ありがとな……)」
「リ、リンク先??特殊召喚??……そ、そんなの言ったもの勝ちじゃないかーーー!!!」
「先に奇襲まがいのダイレクトアタックかましてきたのはそっちだろーが!!ひきょーもん!」
「君に言われたくないぞーー!!」
「どっちもどっちでしょ……はぁ……」
「あ、なんで《ダークナイト》の中に《ドヨン》たちが入れたかっていうとだな……よっと」
すると。
「「あぁっ!!」」
なんと、石は《ダークナイト》に当たっても、そのまま《ダークナイト》の中に吸い込まれてしまった。
「い、石が飛び出してきた!?」
「えぇ!?……あ、そうか」
《ダークナイト》に当たった石は……私には吸い込まれたように見え、ギーシュには飛び出してきたように見えた。
「石が貫通した……!?」
とどのつまりそういうことになる。
……だとすれば。
「その騎士は幻だったのかい!?」
「おうよ! 物体と映像、両方の性質を兼ね備えたこいつは……『ソリッドビジョン』!」
宙に浮かびながら剣を振るい、《ダークナイト》がその勇姿を誇示する。
「こんな魔法があったなんて……」
「魔法じゃなくて科学……とかまぁ野暮なことはどーでもいいか。ま、良くできた幻だと思ってくれりゃぁ大体オッケーだぜ」
意味はわからない。
「すごい……」
でも、これが人間の叡知を結集させた素晴らしいものだということは……心の底から理解できる。
「世界には……こんなものもあるのね……」
気持ちのいいため息が、漏れた。
「な、なんだよあれーー!!」
「あんなのありかよ!反則だー!!」
「いいぞー!もっとすごいものを見せてくれーー!」
ギャラリーの声をよく聴けば、ブーイングの中に僅かに期待と興奮……心温かい熱狂が、混じり始めていた。
「これが
今さらながら、震えてきた。
あぁ私は、こいつを最後までこの手に繋ぎ止めておけるのか、と。
いや……
「(『おけるか……じゃない!『おく』のよ!)」
それが、使い魔の主人の責任というものなのだから。
「……さーて、いい感じにフィールドも盛り上がってきたところで!」
「今度こそ、ずっとオレのターンだ!……ドロー!!!」
左手のルーンが、光、輝いた。
デュエルディスクから、さらなるカードが引かれる。
「……そっか!そういうことなのね!!」
あの数十枚のカード、あれが全部、
「オレは、《ピカリ@イグニスター》を召喚!!」
<ピカリン!>
白い三角帽を被った、どこかメイジを思わせる使い魔だった。
「《ピカリ》の効果発動!召喚、特殊召喚に成功した場合、デッキから『
相討ち……じゃなくて《
どこかコミカルで愛らしいキャラクターの描かれたカードを手札に加え、にんまりと笑う
「そんなにいいカードなの?それ」
「おう、強いんだぜ~!」
無邪気に笑う
ていうか、私がこっちに来てからずっと笑ってない?こいつ。
「まったくもう……」
こんだけすごい力を持ってるっていうのに、なんでこんなに子供っぽいのかしら?
「……お?」
あら?また左腕が光って……
て、左腕じゃない!……デュエルディスクの方だわ!!
「! ……にゃるほどにゃるほど!わーかってるって!!」
「今度はなに!?」
「おいお前らーー!!」
「――もっと面白ぇもん、観たいよな?」
その問いに、
「「「うぉおおおおおおーーーー!!!!」」」
ギャラリーたちは、燃え盛る熱狂で答えた。
「オレはレベル4の《ドヨン》と《ピカリ》で……オーバーレイ!!」
「二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!!」
そして、デュエルディスクが十字に輝き、再び空に稲妻が飛ぶ。
「怪力乱神!驚天動地!!その力、今こそ再び……久遠の慟哭から目覚めよ!!」
二体の使い魔は、細かく分解。空より降りたる十字の陣へと吸い込まれ――
「エクシーズ召喚!!!」
空高く昇り、銀河となって光が弾けた。
「来い、ランク4!!……《ライトドラゴン@イグニスター》!!!」
曇天を割り、雷鳴が轟く。
天より、神の光を纏った龍が、決闘の場へと降臨した。