冬木慧人さん。彼の最初の印象は怖くて優しいだろうか。
彼は見た目が少し怖い。だから彼を初めて見たときは怖かった。でも、同時に優しかった。
初めて関わったのは、NFOとのコラボ企画。ゲーム内ではなくリアルでのイベントだった。私は人混みとかは避けたい人間だが、ゲームのためとなれば飛び込むことも辞さない。あこちゃんを誘い二人で、そのイベントに向かった。
今回のイベントではまずは三人一組になる必要があった。私とあこちゃんで二人。だから一人足りなくて、誰かに頼む必要があった……が。
『僕が入りましょうか?』
『いやいや、俺こそ』
『オレに決まってるだろ』
男の人たちがワラワラとこっちに集まってきてしまった。この場に女性は少なく、しかも一人足りない状況。こっちから探すより、我こそはという人が多かった。
その光景はあまりにも怖かった。年上の……大人やおじさんたちとかが皆こちらを求める。その目は私たちを見ていて、大多数の人の目には下心……というか胸に視線が行っていた。怖いけどあこちゃんを守るために、あこちゃんの前に立って彼女にそんな目が向かないようにはした。でも、それが精一杯で拒否する意思を示すまでは出来なかった。
そして、遂に強引そうな男性が私たちに向けて手を伸ばそうとしてくる。きっと掴まれたら私たちの力では太刀打ち出来ない。そう思って目を閉じ……
「…………うるせぇよ。テメェら」
その声は静かであったが聞こえてきた。
「嫌がってんのが見えねぇのかよおい。その目は節穴か?テメェら、ここに女漁りに来たんならとっとと帰れよ。迷惑なんだわ」
私に手を伸ばそうとした人の手は払われる。
『プレイヤー名「Kei」だと……?』
『ま、まさかあのギルドのサブリーダー?』
ちなみに、今回のイベントではプレイヤー名が分かるように、プレイヤー名の書かれたカードを首から下げている。
「で?お前……RinRinか」
「は、はい……」
振り返ってこちらを見るKei。その目は私の目を見ていたが……何しろ怖かった。というのも、目つきが少し悪く、怖く見えてしまう。しかも、どうしても見下ろされているという状況が恐怖を加速させる。
「答えろ。この中に組みたい奴は?」
「い、いないです……」
「だ、そうだ。ほら散った散った」
他の人たちも彼の見た目が不良っぽいせいか、その威圧感に負け人が散っていく。
「じゃあな」
そう言ってそのまま去って行こうとする。でも、私たちは一人足りない状況は変わらない。見た目や雰囲気は怖そうだけど、でもこの人なら大丈夫。そんな気がした。
だから、
「ま、待ってください!」
「どうした?」
「わ、私たちと組んでくれませんか……?」
Neo Fantasy Online――通称NFO。先輩に教えてもらいはまったオンラインゲームである。
このゲームは自由度の高いRPGで、長いことお世話になっている。
最強のNFOプレイヤーは?と聞かれたらランキング上位に食い込む何人かのプレイヤーがあげられるだろう。
また、このゲームの中には数多くのギルドが存在し、ギルド戦ではしのぎを削っている。
ギルドに関しても最強は?と聞かれれば幾つか候補はある。その内の一角を握るのが……
『先輩……』
『ここでは、ぽんちゃんだよ♪』
いや、リアルのアンタを知ってる身としてはキツイんだよ……!アンタネカマ。俺それ知ってる。ドゥーユーアンダスタン?
ちなみに何故ぽんちゃんか。単純である。ポンコツキュート神、略してぽんちゃんである。俺がゲーム始めた時はクールビューティー最高、略してくーちゃんだった。
『……ギルド名変えませんか?ギルドマスター』
『えぇ?嫌だよ、サブギルドマスター』
ちなみにぽんちゃんは俺の所属するギルドのマスター、トップである。あ、俺No.2ね。
『いいじゃん♪「クールビューティーは嗜好、ポンコツキュートは神」で』
『よくねぇよ!』
ダンッ!とキーボードを叩く。
『「クールビューティーは神」でいいだろうが!』
『あぁっ!?ポンコツキュート舐めるんじゃねぇぞコラァ!』
『ざけんなカスリーダー!前まではそうだっただろうが!戻せよ!』
『ふっ。戻れないんだよ……もうあの頃にはね』
ウチのギルドは有名だ。何故か?こんな堂々と自分たちの趣味嗜好を暴露したようなギルド名。そして(自称)傘下のギルドが数多く存在している。(自称)傘下のギルド名も俺らのギルド名を略した『
ちなみに傘下のギルドリーダーや、新規の奴から『すみません!ギルド名に使用できない言葉が含まれますってでます!どうすればいいですか?』と聞かれることが多いが……よしテメェら一回処されろ。
『ほら!行くよKei!今日は日付変わるまでだからね♪』
『分かったよポンコツ。行くぞ』
『……おい。ぽんちゃんだって言ってんだろうが』
『うっせぇ。行くんだろうが』
ちなみに先輩のジョブはルーンナイト……まぁ魔剣士ってやつだ。魔法と剣を両立させてる。で、俺はバーサークヒーラー……狂信者だな。回復と体術で押し切る。二人で四人分の動きができる。後は長年の連携で、普通は多人数で行くとこも俺たち二人で割といけるときが多い。まぁ、ギルドメンバーなり傘下が勝手に着いてくるけど。初心者でも俺らに付いてきてドロップアイテムや経験値を狙うことはざらだが無視している。ギルドのレベルアップはいいことだからな。
そして言っておくと、俺らのジョブ名はあくまで自称しているだけで実装されてないってことくらいか。先輩は黒魔術師、俺はヒーラーだが、先輩は杖ではなく剣を握り、俺は籠手を身に付けた。すなわち本来は後衛や支援職なのに前衛で戦う姿から、周りからはそう言われるようになった。結論。頭がおかしいことで有名。
「……で、このイベントのボスなんですけど、どうにもここからが鬼門なんですよね。どうしても倒すためには火力が足りなくなって……やっぱり、ボスに対して魔法が無効になっているのが痛手ですね。こちらが物理攻撃しか手段がないのに、ボスは物理方面に強くなる。どうしても、火力が足りずジリ貧になってしまいます」
放課後。場所、ファミレス。メンバー、俺、りんさん、あこちゃん。現在、りんさん語る。以上状況説明終了。
「だからあと一歩足りないんだよね……けー兄はどうしたの?」
「あのボスか?最初は優秀な爆撃機……もとい、ギルメンに神風特攻させたな。数で押し切るって感じか?」
「それじゃ参考にならないよ~……それだけの人数が集まらないから困ってるのに」
「そうだな。真面目な方で行くならあのボス、この魔法が有効だ」
「え?これ白魔法ですよ?回復するだけじゃ……」
「いやぁ、俺もそれ思ったんだけどね。実は……」
ウチのギルド(傘下も含める)は一言で言うなら変態が多い。ギルド名からも察してくれって感じだし、その上リーダーは普通は遠距離から魔法打ってる職業なのに剣片手に突撃してるし、俺は回復とかもするけど専らボスに対して肉弾戦を仕掛けている。
言ってしまえばうまい人がやるようなプレーじゃなく、縛りプレイのようなエンジョイプレイが多いのだ。リーダーとサブリーダーがこれだから、他のメンバーも相当自由にやっているし、突拍子もない作戦に乗ってくれるし、突拍子もないことを平然と行う。
だから、今回のボスに可愛さを見いだしたバカが、何とボスが傷つけられるのが耐えられなく、回復魔法をかけたのだ。マジでやりやがった。だが、何故かその魔法で回復することはなかった。
「今回のボスは黒魔法とかあらゆる魔法が無効になっているように見えます。だから他の人たちはヒーラーと近接戦闘系で固めています。が、実際は違ったんですよね。ボスは言ってしまえば効果が反転されてるんですよ。攻撃魔法を喰らえばダメージを受けるのではなく回復するみたいな感じで。これが俺たちのギルドの見解です」
「ふっ……闇に生きる我らに取って光は天敵……」
「そうそう。そんな感じ」
「な、なるほど……確かに筋は通ってますね。でしたら相手にバフをかける魔法をボスに使えば」
「デバフがつきますよ。間違いないです」
「さすがけいさん!よくそんな情報を集めてこれますね!」
「まぁ、ウチは常識外れ集団ですから。運営側が用意した裏ルートを見つけるのは得意ですよ」
正攻法なんて使わない。テンプレなんて存在しない。あるのは自由だけだ。
「でもさー、それ仕様なの?」
「ううん。仕様だよ。魔法が無効になるとなればパーティーは自然と支援役と前衛が多くなる。支援役がこのルートで鍵になることは少しやれば誰もがつかめる。だけど、真の価値は、回復することじゃなくて、ボスに対しての有効打を与えることだったんだよ。しかも、このイベントのボス行くまでに、NPCが『支援役は連れて行った方がいい』と言ってくれている」
「そっか!伏線ってやつだね!」
相変わらずゲームに関してはよく話すなぁ……ちなみに俺のあの黒歴史ノートを見られてからはさらに饒舌に喋るように。なるほど、こんなにぶっ込んでもついてこれると。認められたと。……まぁ、いいけどさ。
「話は変わりますが、今度Roseliaの三人も今度NFOを一緒にやろうって話をしています」
「ふっふっふ。我らの真の姿を見せるときが」
「待て、我らって俺も含まれてるのか?」
「もちろんだよ!」
「やる日は連絡しますのでイン出来たら来てください」
まぁ、面白そうだからなぁ……紗夜さんとかはまったらガチでやりそう。
この時はまだ知らなかった。まさか、あんな事件の日に彼女たちがログインするなんて……