「…………はい。OKです!」
「「「お疲れ様でーす」」」
今日はパステル*散歩の生放送の日。ちょうど今、本日の生放送を終えた私たち。
「もうお腹いっぱいッス」
麻弥ちゃんがそう言う。
今日の収録は商店街でやまぶきベーカリー、羽沢珈琲店、北沢精肉店を紹介し、三回実食があった。特に最後のはぐみちゃんのコロッケ猛プッシュが凄かった……もうしばらくコロッケは見たくない。
「これからどうする~?」
彩ちゃんがこれからの予定を確認する。今日はこれで解散だから……
「何かあっちの方が騒がしい気がする!」
唐突に日菜ちゃんが叫ぶ。あっちの方?
「こっちの方に来てます!」
イヴちゃんの言うとおり何かこっちに来ている。
『何だよアイツら!しつこすぎだろ!』
『ッチ!いい加減逃げるのも面倒だ!』
段々とはっきり見えるようになってきた。それは自転車に二人乗りしている男性が二人。
『俺がヤツらをぶっ潰す!』
『お、おい!』
後ろに乗っていた人が自転車から飛び降りる。見た目からして荒そうな感じの人だ。……でも奴らって?
『野郎!待ちやがれ!』
すると男の人たちの来た方から三つの影が見える……?ん?あれって……
『キャプテン!森下!チャリの方を追え!』
『お前は!』
『んなの決まってんだろ!』
そして三人の影が徐々に分かるようになってきたとき、その内の一人が飛び出して……
『ここは通さねぇぞ!』
『いいや!通してもらう!』
待ち構えていた人が飛び出した人に向け殴りかかる。それを避けて、相手に向かって跳び蹴りを食らわせる。残った腕でガードする男の人……ちょっと待って?
『行けっ!』
『任せたぞ!冬木!』
『後、荷物頼んだ!』
跳び蹴りを放った冬木と呼ばれた男の人の脇を二人の男の人が通り抜け、カバンを投げ捨てる。そしてそのまま自転車を追い掛けるが……
「……何がどうしてこうなってんのよ…………」
距離が少し離れる二人。待ち構えていた方はともかく、跳び蹴りを放った方は間違いなく私たちの知り合いの冬木慧人である。
『散々追い回しやがってよぉ……!いい加減ストレス溜まってんだわ』
『あぁ?テメェらこそ、大人しく捕まっていれば良かったものをよぉ……!』
そして激突する二人。
いや、本当に……何してんの慧人?
「「「ありがとうございましたー」」」
日曜日。昨日はNFOで大暴れし、来週には部活の大会が迫る今日この頃。ついさっき部活は終わった……いやぁ、休日の練習は疲れるねぇ。
「お前らこれからどうする?」
「いや帰るだけだが?」
「…………疲れた」
「帰りたいねー」
キャプテンからの質問に俺、千石、森下が答える。途中までは方向が一緒だし、なんだかんだでこのメンバーでいることが多い。
「なぁ、コンビニ寄らね?」
「一人で行けよ」
「…………面倒」
「どっちでも」
サッカー部用のジャージ四人組。先頭がキャプテンだが……えぇ?コンビニ?一人で行けよ。
「まぁまぁ。いいじゃねぇか。友人たちと駄弁りながら道草を食って帰るのも」
「道草食う暇あるなら勉強しやがれ」
「…………そうだそうだ」
「こん中でキャプテンだけだよね~赤点追試補習組」
「う、うるせぇ!お、俺以外にも居るし!」
「いや、お前だから問題なんだよ」
「…………キャプテンの自覚が足りない」
「いい加減阿呆なキャプテンを卒業しよう?な?」
はぁ……やれやれだ。こんなキャプテンで大丈夫かね……。ちなみに大会終わって火曜日からテスト期間。ヤバいなぁ……もうダメだなぁ……。部活動禁止期間?何それ知らない人?
「行くぞー!」
って本当にコンビニ寄りやがったよクソが。
「無視かよアイツ」
「…………しょうがない」
「諦めるぞー」
と、俺たちも続いて入る。……たく。
「いらっしゃいませ!」
「さまーせーる」
…………?何だろう。とても聞き覚えがある……
「って、慧人くんじゃん。やっほー☆」
「けーとさん。ちわーっす」
「うーっす、リサ姐にモカ……バイトか?」
「そうそう~知らなかった?」
「初めて知った。モカもバイトしてんだな」
「モカちゃんも働けるんだよ~」
見るとレジで対応しているのは二人だけらしい。ぐるりと見渡してもTHE・店員って人はこの二人以外にいなかった。それにしても、
「客少ない?」
「そうだね~でもこんなもんだよ」
「この方が楽でいいじゃん~」
「いや、客少ないのは問題じゃないか?」
「そうだな。問題だな」
ガシッ!っと後ろから肩を組んできたのは……
「何だよキャプテン。暑苦しい息苦しい見苦しい」
「おぉ……これぞ苦しい三段活用……!」
「うーん、見苦しいっていうのはアタシたちが言う台詞じゃないかな?」
「なるほど……リサ姐の言うとおりだな」
「冬木。俺、悲しいわ」
「そうか。そこで勝手に泣いとけ」
「まさか、お前がコンビニ店員をナンパするとはな」
「いやいや。こいつら。知り合い。フレンズ。トモダチ。オーケー?」
「いえす~けーとさんとはともだーち」
「そうだね……確かに友だちだね」
全く……まさか女子と仲良く話しているから嫉妬したってか?俺には他意はないのに。
あぁ、仲良く話すと言えば紗夜さんは昨日は本当にどうしたんだろう?うーん……気になるけど……あんまり邪魔したくないしな……正直、幻滅されたとかだったらなぁ……
「ん?よく見たら文化祭の時にいた……」
「お前買い物は?早くしろよ」
「分かってる。さっさとするか――」
ドンっ!
するとキャプテンが押されて少しよろける。押したやつとその後ろのやつはそのまま店の外へ……全く、急いでいるからってぶつかるのはさすがに……
「キャプテン!冬木!アイツら万引しやがった!」
「「はぁ!?」」
「ポケットとかに入れてた。間違いない」
「えぇぇっ!?」
な、なるほど……客は少ないし、レジの店員は二人で女子だし……その二人の店員は誰かと話してたし……昼間に犯行を……っておい!
「行くぞテメェら!黙って見過ごせねぇ!」
「「「おう!」」」
「いってら~」
そして俺たちも慌てて外へ。標的は……見えたな。
「待てやコラァ!とりあえず、止まりやがれぇ!」
そのまま全速力で走って行く。
すると、大声を出したせいかこっちに気付き……
『そのチャリ寄越せ!』
『えっ?うわぁっ!』
『逃げるぞ!』
『ああっ!』
近くに居た少年から無理やりチャリを強奪する。
「…………追いかけろ。俺は残って対応する」
「千石……分かった。……って相手チャリだぞ!?」
「にけつしてんだ!まだ追いつける範囲だろ!」
「日頃の成果を見せるときだよ!」
暴論だなおい!えぇい!どうにでもなりやがれ!
「…………え?えぇっ!?」
「てんちょー万引が起きましたー」
「いやいや、早く通報しないとだよ!」
「追いかけてったねぇ……」
「大丈夫かな……慧人くんたち……ってそうじゃなくてまず通報!」
「てんちょーとりあえずサツ呼んでサツ」
そして慧人が男目がけ蹴りかかる。それに蹴りを合わせられ……って、
「な、なんでこんなところで喧嘩が……?」
商店街のど真ん中でぶつかる二人。
「空気がピリピリしているね……」
何かの企画やドッキリ……ではないようね。近くに居るスタッフたちも目に見えて困惑している。
『と、止めるべきなのか?』
『い、いや……俺らで止められるのか?あれを』
慧人は確か176とか言ってた。で、対する相手は慧人より一回り大きい。……見た感じあの喧嘩を止めようとすれば、こっちが痛い目を見る気がする。
「どどどうしよう千聖ちゃん!あ、あれは止めるべきなの!?」
「む、無理ッスよ!ジブンたちじゃ絶対無理ッス!」
「け、剣があっても……!」
どちらの攻撃も未だ一発も入らないような、有効打と言えるものが未だないような、そんな互角の攻防が繰り広げられている。何というか……両方ともが荒事に慣れているというか喧嘩慣れしているように思える。
『この野郎……淡々としやがって!』
『…………』
『シカトしてんじゃねぇぞ!』
『…………』
それにしても慧人の様子がおかしい。
あの人と対峙し始めてから一切感情を感じられない。相手を攻撃しているときも、何かを言われているときも、そこに何も感じていないように、彼からは無しか感じない。心がないように思える、普段と違いすぎるその姿が私には……
「とても怖い……」
「うーん。慧人って怒ると感情がなくなるタイプなのかな?」
「いや、あれだと怒ってるかも分からないッスよ」
待って日菜ちゃんに麻弥ちゃん。多分そういう問題じゃないと思う。
「か、かくなる上は……このマイクで……!」
「だ、ダメだよイヴちゃん!危ないよ!」
一方イヴちゃんはカメラマンからガンマイクを受け取り、ブームを持って殴り込みに行こうとしていた。それを彩ちゃんが後ろから頑張って抑えている。ごめんイヴちゃん。それだけはやめて。
ただただ状況が飲み込めずに困惑している中、時間だけが過ぎていく。スタッフたちは通報しようかどうか迷ってる様子……確かに一方的ではないし……最初の自転車からというのからワケありな気がするし……。というか彼、強いわね……何であの体格差で負けてないの?
『冬木!サッサと片付けろ!』
すると、自転車を追いかけていった二人が帰ってきた。一人は男の人を担ぎ、一人は自転車を引いている……って、ま、まさかあの二人。先に行った自転車に追いついたの?相手自転車よ?
『なっ……!』
『分かった』
慧人と相対していた男の注意がやって来た彼らの方を向く。
注意が逸れたその瞬間を狙って、慧人が腹部に肘を入れて……
『少し寝てろ』
前屈みになっている男の股間に向けて蹴りを加えた、そのまま悶絶しながら倒れ込む男。…………倒しちゃってるんだけど……それも呆気なく。
『うわぁ……容赦ねぇな……お前。見てるこっちが痛々しい』
『うへぇ……相変わらずこの気持ち悪い感覚。…………まぁ潰れてないだろ。加減したし』
『時間かけすぎ。ほら行くよー』
『ごめんごめん。キャプテン。コイツの方が重そうだし抵抗されると面倒だから代わって』
『しゃぁねぇな。千石には連絡入れた。警察も来てるそうだ。ほらさっさと戻るぞ』
『へーい』
嵐のようにやって来て嵐のように去って行く三人プラス二人。……慧人とかの荷物を置いて。
「追いかけるわよ」
「そうッスね。何が起きたか気になるッス」
「よし、いってみよ~!」
彼らの投げ捨てられた荷物を持って、私たち五人も彼らを追いかけることにした。
「にしても時間かかってたな。お前」
「うるせぇ。モノ壊さないように意識してたからだわ……知らんけど」
「うーん、本当に意識してたかはともかく、万が一壊れてもコイツらのせいにすればよかったんじゃない?キャプテンなんて遠慮なく自転車の正面に立ってぶつかりに行ってたし」
「まぁ、ブレーキかけてくれたお陰で衝撃は少なかったけどな!」
「キャプテン……阿呆。来週大会だよ?」
「あれはバカだったと思う」
万引犯の軽い方を肩に担ぎながら、二人と話す。……そう言えば商店街のど真ん中でやり合ったけど誰にも見られてないよな?ははっ。まさかこんな時に都合良く誰か居るわけでもあるまい。うんそうだ。きっと大丈夫だ。知り合いにあんなの見られたら明日から普通に関われる気がしない。
「あーあ、疲れた」
「だな……だがいい練習になったじゃないか」
「そうだね。チャリを見失わないよう追いかけて追いついて……キャプテン。それは練習と言わない」
「そうだそうだー」
ただえさえ、今日は午前中練習で走ってんのに更にプラスで走るとか……いや、その上でバトったな、軽く。あれ?いつからそんな喧嘩漫画の世界に?
「というか俺ら、怒られるんじゃね?」
「何故だ?普通に考えたらヒーローじゃないのか?」
「いや……そんな単純な話か?」
どうだろ。アニメや漫画だとこういう時は褒められ称えられて、ヒロインの好感度が上昇して終わるけど……リアルは甘くない気がする。
警察に任せず追いかけてったし、というか俺に至っては暴力沙汰になったしな、軽く。通報されてたら終わるんじゃね?
「どうするー?千石だけ置いて逃げる?」
「バカ。万引犯捕まえて、何で万引犯と一緒に逃げてるんだよ」
「じゃあ、万引犯を誘拐?」
「するな」
あーそんな阿呆な話してると、コンビニが……パトカーが……よし。
「よし、森下」
「ああ、冬木」
「「コイツが犯人です!」」
「うんうん……っておい待て!何で俺を差し出した!?」
「…………三人とも。バカなことやってないで行くよ」
「「はーい」」
「いや、俺は普通だろ!?」
その後、警察の方々の所へ連れてかれ、ありがたいお話を聞くことに。救いだったのは彼らが今回の犯行に加え、この前他の店舗でも被害を出していた万引犯らしく、その犯人が捕まったのは良かったとのこと。……まぁ、そんな常習犯で危険なやつと拳を交えた俺とかチャリの前に飛び出したキャプテンは更にありがたいお話を聞くことになったんだけどね。わ、笑えねぇ……。
「あ、ヒナ。それに他の皆も」
「どうしたの~?皆でお出かけ~?」
「お出掛けというか撮影帰りッスね」
「慧人が警察に連れて行かれたようだけど……」
「あー万引犯捕まえたから諸々の事情を聞きたいんだって」
「てんちょーも警察行ったよ~」
「えぇっ!?そういうことだったの!?」
「どうしたんですか?アヤさん。そんなに慌てて」
「い、いやー慧人くんが警察に捕まった!どうしよう!って他のバンドの子たちにも送っちゃった……」
「「「…………」」」
「あ、紗夜からだ。えーっと?『日菜から慧人さんが警察に捕まったって聞いたのですが。それに慧人さんにも繋がらずで……』……ヒナ?」
「だ、だって慧人の一大事だよ!おねーちゃんに報告しないとって思って……つい」
「あ、モカたちのグループでもけーとさん逮捕について来てる~えぇーい」
「も、モカさん!?ここは正しい情報を流さないとマズいんじゃ……」
「……こりゃぁ、大変なことになってるッスね……」
「だね……強く生きてね。慧人くん」
「とりあえず彩ちゃんに日菜ちゃん。反省しなさい」
「ご、ごめんなさい……」
「今回は反省……でもどうするの?」
「な、なんとかするしかないわ……」
尚、警察署から出た俺のスマホの通知がヤバいことになっていた。え?紗夜さんからのL○NEが30件近く?え?他の人たちからも50件近く?しかも電話が10回くらい?
一体どうし……な、何で俺が警察に捕まったことになってんだぁ!?