クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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ありふれた2年生の日常編
自分は悪くないんです


 クールビューティーはこの世の宝である。

 涼しげな目元。凛とした態度。感情的にならずに常に冷静。

 挙げたらキリがないその素晴らしさ。

 ちなみに友人にクールビューティーについて熱く1時間程語ったところ相手は引いていた。

 ふむ。クールビューティーを語るのには熱くよりクールに行くべきだったか。

 

 と、クールビューティーの素晴らしさ……この世界の真理に気付いてから数年。俺は最高のクールビューティーと言える存在に出会ってしまったのだ。

 

 氷川紗夜さん。

 それが彼女の名だ。そして彼女こそ俺の理想的なクールビューティーを体現した人物である。

 

 あの日の出会いを俺は昨日のように思い出せる。そう、あれは俺がCiRCLEでバイトしていた時のことだ。声をかけられ、声の方を向くとそこには、

 

「……あなた様が女神ですか?」

 

 女神が、居たのだ。

 その日俺は確信したね。このお方は俺の理想を体現した、この世で唯一無二の人物だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……慧人さん。あ、あーん……」

 

 そんな理想を体現した、女神のような彼女と出会ってから月日は流れ現在。

 俺は紗夜さんと一言で言うならそこそこ親密な関係になってきていた。

 目の前には頬を紅く染めた彼女がいる。

 

「…………」

 

 差し出された彼女のものを俺は口を閉ざして、首を横に振る。

 

「そんな遠慮なさらなくても……ほら。あ、あーん……」

 

 無言の否定で押し通そうにも、頑なに差し出したそれを引っ込めようとしない紗夜さん。なるほど。彼女の中にも意地はあるのだろう。

 なら、俺にも意地はある。俺は無言で立ち上がり彼女の前に立つ。そして彼女の手を取り……

 

「紗夜さん…………にんじんが嫌いだからって俺に押し付けようとしないでください」

「…………記憶にないわ」

「そうですか」

 

 笑顔で否定する彼女に向けて、俺も笑顔を向ける。

 

「ほら口を開けろよ……さぁ……!ぶち込んでやるからよぉ……!」

「んん……!」

 

 彼女から箸をそっと奪い取り、そのまま箸の先端のにんじんを彼女の口の中に入れようとする。

 涙目で口を閉ざし、必死に首を振って抗議する彼女。だが今日という今日は食ってもらう。

 

「抵抗するだけ無駄だってこと、その身体に分からせてやるよ!」

「んん…………!」

 

 この後、俺たちの戦いは熾烈を極めた。

 尚周りの見る目は気にしないものとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けてください!リサの姐さん!」

「おーおーどしたの?」

「クールビューティーな紗夜さんが最近見れなくて……!」

「あははーアタシは結構見てるけどなぁー」

「クソォ……!羨まし過ぎます……!」

 

 拳を机に打ち付ける。畜生!なんて羨ましいんだぁ……!

 昨日、紗夜さんとちょっと激しくバトルした俺は、リサ姐こと今井リサさんにファストフード店に来てもらって愚痴をぶちまける。対価は彼女のお昼代だ。お昼代で愚痴をぶちまけられるなら安いものだ。…………ん?本当に安いものだろうか?まぁ、気にしたら負けだなうん。

 

「聞いてくださいよ!最近紗夜さんのポンコツなとこしか見てないんです!」

「それは慧人くんの特権だよ~」

「そんなのいらないんです!俺が求めているのはクールビューティーな紗夜さんなんです!間違ってもポテトを幸せそうな表情で、モシャモシャ食べている紗夜さんじゃないんです!」

 

 ビシッ!と俺の隣の席に座る彼女を指さして断言する。

 そうだ!俺が求めているのはこんな彼女じゃない!

 

「相変わらず本人が隣にいるのによく言うことで……おーい。言われてるよー」

「…………」

 

 すると紗夜さんは手を止める。おっと?今回ばかしは言い過ぎたか?

 

「…………今、ポテトって言いました?」

 

 訂正しよう。この人、ポテトの部分しか聞いてねぇわ。

 

「分かりますか!?普通の人ならここで睨むなり、蔑むなり、怒るなりするとこをこの人は全部スルーしてポテトですよ!?」

「うんうん。君は言われても仕方ないって自覚があって言ってるんだねーそして紗夜?とりあえずお望み通り言ってあげたら?」

「そうですね……」

 

 すると、少しキリッとした表情になる紗夜さん。おぉ……!俺が求めていた理想の……

 

「……ポテトのおかわりに行ってきていいですか?」

「ふざけんなぁぁぁっ!」

 

 俺は思わずその頬を引っ張りたくなる衝動に駆られつつも、公でそんなことをするわけにはいかないので彼女の肩に手を置き前後に揺らす。

 

「アンタの頭にはポテトしかないのか!」 

「いえ、ハンバーガーもありますよ(キリッ)」

「そういうことじゃねぇええええ!」

 

 さらに激しく揺らすことにする。

 

「あはは☆相変わらず君たちが揃うと面白いね~」

「笑い事じゃないんですよ……本当に……!」

 

 俺は紗夜さんの肩から手を離しテーブルに拳を打ち付ける。

 

「リサ姐……!紗夜さんを……俺の理想の紗夜さんを返して下さい!」

「んー無理!」

「そんな殺生なぁ……!」

 

 思わず涙がこぼれそうになる。いや、これは大号泣ものだよ?

 

「リサ姐……俺、紗夜さんを初めて見たとき、女神が舞い降りたのかと思いました」

「あーうん。何度も聞いたよ~」

「あの頃の彼女は神秘の塊。誰であろうとその神聖さを侵してはいけないような……そう。触れることすらおこがましいと言えるような神々しさがありました」

「うんうん。そうなんだねー」

「イーカロスの話を知っていますか?ギリシャ神話に登場するイーカロスは蝋で翼を作り、空を飛んだとされます。そして、その身を神聖な太陽に近づけさせたが為に翼は溶け、墜落し死んだとされます」

「へぇー」

「かつての彼女も同じです。俺はその御身に近づきすぎては、イーカロスの翼のように溶けてしまうのではと錯覚したものです…………が、近づきすぎたら凄まじい程のポンコツってオチですよ!?納得できるかぁっ!」

 

 俺は、自分がこんなに熱く語ってる中、本当におかわりを取ってきた彼女を指さす。

 アンタの話をしているんですけどね!何自分は関係ないって感じ出しているんですかね!

 

「うんうん。君も君で相変わらず変人だよねー」

「いいですかリサ姐。俺が変人なのは百歩譲って認めます」

「え?百歩も譲るの?」

「で・す・が!俺は認めない!紗夜さんは俺の……いいえ!全世界にいる俺の同士たちの希望なんです!夢なんです!そこは一歩たりとも譲りません!」

「あはは……普段はそこそこまともなのに。スイッチ入ると壊れるよねー」

「……ん?何を言ってるんですか?壊れてるのは紗夜さんの頭ですよ?」

「おっと、急に凄い辛辣だ☆」

「いいえ。壊れてるのは慧人さんの頭ですね」

「そしてしれっと混ざってきたね~。凄いこと言われていたけどいいの?」

「えぇ。でも慧人さん。この私でも一つ許せないことがあるんです」

 

 すると、何か私怒ってますって感じの空気を出す紗夜さん。おっと、何か気に触ることでも言ったのだろうか?

 

「私をジャンクフード狂と言うのはやめていただけないでしょうか」

「誰もそんなこと言ってねぇえええええええっ!」

 

 事実だけど!事実だけども!誰もそんなこと言ってねぇよ!むしろ今度から呼んでやろうか!?

 

「リサ姐ぇ……助けてぇ……」

「あははーそんな君にアドバイスだよ~」

「な、なんでしょう?」

「諦めも肝心!」

「ちくしょおおおおぉぉぉっ!」

 

 俺は絶対に諦めない!こんなポンコツを発揮している彼女でも、きっとクールビューティーに戻る日が来るんだ!そうだ!そうに違いない!

 

「でもこの紗夜も可愛くて好きでしょ?」

「…………否定はしないです」

「ならいいじゃん☆」

「よくないです!」

 

 認めるわけにはいかない……!これでもクールビューティー教の端くれ!例え、紗夜さんのこんな一面が可愛くて仕方なかったとしても!ここを認めるわけには……!認めるわけには……!!

 この後、紗夜さんから凄い頬を引っ張られました。後で鏡を見たら真っ赤になっていました。

 

(これで付き合ってないんだから不思議だよね……)

 

 そして、その光景を見ていたリサ姐の視線が生温かったです。




というわけで初めましての方は初めまして、知ってる方はどうも黒ハムです。
こんな感じで行くのでどうぞよろしくお願いします。
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