新たに評価してくださった方々、お気に入り登録してくださった方々、ありがとうございます!
あの頃の私にはギターしかなかった。
「またですか?紗夜さん」
「何がでしょうか?」
CiRCLEから出て行こうとしたときに声を掛けられる。こうやって声をかけてくる相手は、バンド勧誘以外には一人しか居なかった。
「また衝突したんですか?」
「衝突ではありません。意見の相違です」
この頃……まだ湊さんと出会う前の1年生の時、私は別のバンドに所属していた。だが、バンドメンバーと意見が合わず、何度も脱退を繰り返していた。
「私はギターを本気で、バンドを本気でやっています。私にとってのすべてであり、決してお遊びではありません」
「だから、一切の妥協を許さない。現状に甘え向上心がなく、努力をしないなど言語道断。無駄にする時間は存在しない。ですよね?」
クスッと笑う彼。でもその笑みは決して侮辱とかそういうものではないと感覚的に分かった。
「えぇ。よくお分かりで」
「まぁ、かれこれ半年以上の付き合いですからね」
「付き合いというには語弊があるように思えますが?」
この時の私は、バイトとしての彼に必要なことでしか自分から関わろうとしなかった。
「そりゃそうだ。俺から一方的に崇拝して、自己満足で支えようとしているだけなんですから」
彼は不思議な人間だった。まぁ、最初から何か女神だのクールビューティーだの言っているが、それを隠そうとしない。
「支える?でしたら話しかけないでほしいものですね。こうしてあなたと話す時間は私にとって無駄。あなたも言ったように私には無駄にする時間はありませんので」
「そうですか。じゃ、また今度ということで」
「またも今度もないですよ」
そのまま立ち去っていく。彼は追いかけてくるなんて真似はしなかった。
この時の私は気付いていなかった。別のライブハウスもあるのに、何故CiRCLEによく行くようになっていたか。無駄と言いながら何度も何度も彼と話していたか。
彼のおかげで独りになることはなかった。
それがどれだけ救われることだったか。そのありがたさに当時の私は気付かなかった。
月曜日。放課後。
「昨日はごめんなさい」
目の前で紗夜さんが頭を下げている。
「いや、気にしなくていいですよ」
「いえ……その……心配し過ぎて……」
昨日出所した(?)俺は紗夜さんと直接会うことに。第一声が「よかった……」と泣かれたことには驚いたが、泣くほど心配してくれたんだと思うと俺も涙が出そうだった。多分そのことについてだろう。
「俺は嬉しかったんですから」
「慧人さん……」
学校側にも当然連絡は行っていた。俺たちはあくまで捕まえた側であることから、学校が怒ることはなかった。寧ろ今日は校長室に呼ばれ、「さすが我が校の自慢の~」とクソ長い話を聞かされた。そして緊急全校集会を開いて、また同じような自慢を聞かされた。クソッタレ。そんなんだったら生徒指導室で説教の方がマシだわ。……いや、それはねぇか。知っていますか?来週テストですよ?いいのかそれで。
「はいはい。二人の空間に入るのはあとあとー」
ちなみにだがRoseliaのメンバーと一緒に居たりする。悲しい。二人きりの空間にさせてくれない。
「…………でも昨日は驚いたわ。冬木が逮捕されたって聞いたから」
「そうだよ。おねーちゃんと一緒に驚いたよ。身近なところから逮捕者が!って」
「私も……いきなりだったからビックリして……」
リサ姐から聞いたけど、実は俺と万引き犯が交戦していたタイミングで、商店街にはパスパレの五人がいたらしい。つまり見られていたわけだ。で、五人が俺たちが投げ捨て忘れ去っていった鞄などを届けについて行ったら、パトカーに乗る姿を目撃されたと。で、早とちりした彩や日菜が皆にL○NEで俺が逮捕された!的なことを流したらしい。
鞄は物凄い助かった。ただ、そのせいで誤解が……でもいっか。そのおかげで紗夜さんに心配されたし……いや、心配させたのはダメか。逮捕の誤報は……放置しよう。
「あはは~あの場はカオスだったよ。それに店長が連れて行かれたからバイト時間延びたし」
「俺は悪くないです」
「いいえ。商店街のド真ん中でやり合ったそうですね。全く。見ていたのが日菜たちでなければどうしたんですか?」
「いいですか紗夜さん。流れに身を任せればなるようになるんです」
「…………その結果が逮捕」
「そして牢屋の中へ……」
「それは誤解だって……」
でも紗夜さんじゃなくてよかった。真面目で正義感の強い彼女ならあの喧嘩?を仲裁しようと割って入っていたかもしれない。その点は本当に良かった。
もしあの男が紗夜さんを傷つけようものならどうなっていたか……まぁありもしない仮定は考えるだけ無駄だよね。
「そういや、今は普通に話せますね。土曜日は様子が何かおかしかったのに」
「「「…………」」」
すると空気が固まった。あ、やっべ。地雷だったか。……あ、そう言えばあっちの戦いは見られていたんだっけ?いや、そもそも……
「ご、誤解なんです皆さん!俺があんな頭のおかしなギルドのNo.2なのは誤解なんです!」
「いや、そっちは誰も誤解してないと思うよ?」
「…………冬木らしいと思った」
「えぇ。ギルド名を聞いた瞬間に慧人さんと結び付きました」
「え?幻滅されたから何かよそよそしくなったんじゃないんですか?」
「幻滅ですか?むしろあのギルドに慧人さんが所属していなかったら幻滅していたと思います」
「なんだ……よかったぁ」
(((今のっていい話……?)))
よかった。幻滅されてなかったのか……あれ?じゃあ、何で……?
「おっ。慧人じゃねぇか」
すると男の人の声が聞こえてくる。そちらを振り返ると……
「先輩じゃないですか。リアルではおひさです」
先輩だ。NFOの沼に引きずり込み、クールビューティー教に目覚めさせてくれた頭のおかし……こほん。尊敬できる人だ。
「でも珍しいですね。どうしましたか?」
「いや?昨日、風の噂でお前が問題起こしたって聞いてな。野次ろうかと」
「だーかーら。問題は起こしてないですよ。昔じゃないんですから」
「ははっ。そうかそうか。にしてもお前も成長したな。女子を五人も侍らせて、ハーレムか?」
「先輩の目は節穴ですか?女子は四人。このお方は女神です。一括りにしないでください。失礼ですよ?」
「…………ふむ。確かにクールビューティーなオーラが感じ取れるな」
「でしょう?」
まぁ、元クールビューティー教の先輩でも。紗夜さんのクールビューティーなオーラを感じ取ることが出来たらしい。よかったよかった。
「ねぇこの人。慧人くんと同族かな?」
「近づいてはいけない系の匂いがするわ」
「……何でしょう。あんなにスムーズに会話が進むのは初めて見ました」
「そ、それは分かります……」
「つまりけー兄と同レベル?」
何か女性陣が話している気がするがスルーしておく。
「だが惜しい。あと一歩でポンコツキュートになれるだろうに。今の彼女はクールビューティーとポンコツキュートの境に立っている」
「あはは……口を慎めよ先輩。彼女がポンコツキュートとかあり得ないですよ」
「そういうお前も段々とポンコツキュートに毒されてきていないか?ほらほら、こっちに来たら楽になれるぜ?」
「ふざけないでくださいよ?」
くっ。流石は先輩だ。一目見ただけでそこまで見抜かれるだなんて……!いやそれだけ紗夜さんのオーラがすごいんだな。すなわち紗夜さんは神。
「おいおい。忘れたか?お前をクールビューティーの道に目覚めさせたのは誰かってのを」
「それについては感謝していますよ?先輩のおかげでこんな素晴らしい存在に気づけたのですから」
(((え?この人がまさか元凶?)))
「だから、今度はお前をポンコツキュートに目覚めさせてやるよ」
「寝言は寝てから言うものですよ?先輩。本当に寝せてあげましょうか?」
「いやいや慧人。お前もそろそろ次の段階に進もうぜ?」
「はっ。ポンコツキュートがクールビューティーの上位互換だとでも?冗談にしては笑えないですよ?」
「上位互換?何言ってるんだ。上位に決まってるだろうが」
「あぁ?」
「はぁ?」
「何か凄まじい戦いだね……」
女性陣の目の前ではクールビューティーについて熱く語る慧人と、ポンコツキュートについて熱く語る先輩がいた。
「…………?」
「燐子?何か気になるの?」
「いえ、その……先ほどからあの人が……ポンコツキュートポンコツキュートとずっと言っていて……」
「慧人さんがクールビューティー教なら、あの人はポンコツキュート教と言ったところでしょう」
「それがどうしたの?りんりん」
「い、いえ……けいさんのNFOでの所属ギルドが『クールビューティーは嗜好、ポンコツキュートは神』……そしてギルドマスターはポンコツキュート推し……もしかしてあの人は……ギルドマスターのぽんちゃんではないでしょうか?」
「「え?」」
「おぉっ!確かにあるかも!だってけー兄の上に立ってる人だもん!けー兄くらい頭のネジが飛んでないと無理だよね!」
あこによる裏表のない純粋無垢な言いよう。彼女は知らない。この言葉は人を傷つける武器になることに。
「ま、待ってください。ぽんちゃんさんは女性ですよ?あの人は紛れもない男性。あり得ないですよ」
「えーっと、勘違いされているかもしれないですが……NFOは男性でも女性アバターでゲームできますよ?」
「ほら、最初に容姿とか名前決める欄に性別ってあったじゃん」
その言葉を受けて紗夜はキャラメイクの時の画面を思い出す。
「……確かに……いやでも……」
しかし、紗夜は困惑していた。目の前で慧人とどうしようもない争いを繰り広げている男を見て。この男があのキャラを操作していたのかと。
「なら聞いてみればいいじゃない」
「そうだよね!」
友希那は淡々と答え、あこが早速聞きに行く。慧人の顔見知りだという安心感からか元々の性格からか、彼女に躊躇はなかった。
「すみませーん!えーっと、けー兄の先輩さん!」
「あこちゃん。この人に聞きたいことでもあるのか?」
「うん!」
「おーどうした?」
あこが入ると二人は争うのを止める。他人(美少女)の言葉を無視する気はないようだ。
「えーっと、けー兄の先輩さんは、NFOってゲームはやっているんですか?」
「はははっ。やってるぞ」
「おぉっ!」
「それに加え、NFOにコイツを引きずり込んだのはこの俺だからな」
「本当ですか!?」
「ああ。先輩に誘われてな」
「もしかして、けー兄のギルドのギルドマスターですか?」
「ふっ。遂に知られてしまったか……」
「何もったいぶってるんだポンコツ野郎が」
「ゲーム内ではぽんちゃんって言ってるだろうが」
「るっせぇ」
特に隠す気のない先輩。そして、先輩は察しがよかったようで……
「なるほどな。彼女たちがお前のフレンズってわけか」
「まぁな。正確にはこの内二人が前からやっていて、三人が初心者だ」
「そうかそうか。なんだよ先に言えよ。慧人の友人なら大歓迎だ。是非俺ともフレンド登録してくれ」
「アンタがフレンド登録とか珍しいな……アンタのフレンド片手で数えるほどしか居ないだろう?」
「ふっ。ぽんちゃんは謎多き存在。故に正体を知るものしかフレンドは受け付けていないのだよ」
「おぉっ!けー兄の先輩さん!凄い格好いいです!」
「だろう!」
「あこもそんな台詞を言ってみたいです!」
「おぉっ!話が分かるじゃねぇか!」
先輩とあこ。厨二病卒業者と格好いいことに憧れるこの二人は何処か波長が合っていた。
そんな二人を見ている四人プラス慧人。
「悪い人ではなさそうね」
「慧人くんの先輩さんも残念系なだけなんだね」
「ひでぇ言われよう」
「あの有名なぽんちゃんと知り合いに……嬉しいような残念なような……」
「まぁ、いいんじゃないですか?あの人も俺とスタイルは似てますし、本職はりんさんと同じですよ」
バトルスタイルは全く違うけど、と心の中で補足しておく慧人。
「あれ?どうしたんですか紗夜さん。何かほっとしてますよ?」
「そうですか?」
「えぇ。さっきまでより穏やかな表情を浮かべていますよ」
「ふふっ」
安堵した表情を浮かべた紗夜は、そのまま慧人の腕に抱き着く。慧人は彼女の心境の変化は分からないがそんな彼女を受け入れていた。
「ねぇ。私たちは帰っていいかしら」
「んー慧人くんと紗夜は二人きりの空間に入っちゃったから放っておくのはいいけど……あっちはどうしようね……」
「ど、どうしましょう……あこちゃんが厨二病に……」
この日を境にあこの厨二病発言が増えたとか増えていないとか。
確実に先輩の影響だな、そう慧人は思うのだった。