クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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女神の加護の下で

 慧人が試合に戻ったものの状況は厳しかった。虎南高校は、選手層が厚くない。そのため、本日、二試合目、三試合目となる選手も少なくはなく、集中力や体力は落ちかけている。さらに前半からの度重なるラフプレーがその現状を加速させていた。

 一方の赤巻は一試合目、二試合目にレギュラー陣がそこまで出ておらず、体力だけなら余裕が持てていた。

 後半残り10分。スコアは4-2。赤巻高校の選手の猛攻が続き、ボールも彼らが保持していた。

 

(残り時間を考えても3点放せばチェックメイト……!)

 

 赤巻高校は、虎南高校を潰すためにラフプレーをしていた。目的はこの試合の勝利のみ。初めから、彼らは上位リーグに上がるべく、先の二試合を調整して戦っていた。

 

(予想外なのは桃山浦と虎南が引き分けた事だが……んなの今更って話だ)

 

 彼らの考えとしては、もう一点取って後は守備を固めておく。そうすれば、追いつかれずに時間切れ。無事に勝利というプランだった。

 

「これでトドメだ!」

 

 虎南高校のディフェンスが弾いたボール。そのセカンドボールを、赤巻高校のキャプテンがダイレクトでシュートを放つ。放たれたシュートは……

 

「なっ……!」

「トドメ?刺させるかよ」

 

 ゴールへ届くことなく、目の前の慧人の足に収まっていた。

 

(今のシュートを何事もなかったように受け止めただと!?ふざけんじゃねぇぞおい!)

 

 一瞬の動揺。その動揺は慧人が彼を抜き去るには十分な時間だった。

 

「……っ!ディフェンス!」

 

 慧人の前には二人が立ちはだかる。更に、一人の選手が隣から迫ってくる。

 

「けが人は引っ込んでろ!」

「知らねぇよ」

 

 ドンッ

 

 相手選手が慧人にショルダーチャージをする。ベンチにいったん下がる時にふらふらだったことから、負けることを一切考えていなかった相手選手。倒してもう一度ベンチに下がらせる。他の赤巻高校の選手も同じように考えていた。そう考えていた故に驚いた。

 

「は?」

 

 倒されたのは慧人ではなく、相手自身だったということに。

 そのままディフェンスの合間を強引に突き進む慧人。

 

「そいつを止めろぉ!」

 

 抜かれたディフェンダーの一人がファール覚悟で後ろからスライディングを仕掛ける。

 

「嘘だろ……!?」

 

 慧人にとって見えていなかったはずの行動。だが、彼はそれをボールと共に跳び上がることで躱す。

 そして空中で若干体勢を崩しながら放たれたシュート。赤巻高校にとって予想外の光景。そのシュートはキーパーが反応したころにはゴールに刺さっていた。

 

「テメェ……何処にそんな力が!」

「言ったろ?女神の加護を受けた俺の本気を見せてやるって……来いよクソ野郎ども。全力で叩き潰してやるからよ」

 

 その目には、声には怒気が含まれていた。味方が何度も倒され、やられた光景を見て、何も思わないほど心がないわけでも、笑って許せるほど心が広いわけでもない。だから、全力を持って潰す。それが彼の思いだった。

 

「…………一人で最後まで行ったね」

「一人カウンターとか凄いよな」

「…………流石。身体能力とか本当に化け物だよ」

「だよなーでも、あそこまでキレさせた向こうが悪い」

 

((まぁ、アイツのリミッター解除させたの多分そこの人だろうけど))

 

 一方のベンチ、千石や森下は慧人の処置を行った彼女を見る。慧人の中にある枷が吹っ飛んだのは多分この人のせいだろうなーと、そう思いながら今もフィールドで走り続けている慧人に視線を戻す。

 

「…………赤巻は時間消費に作戦を切り替えた」

「そりゃあ、今の冬木に取られたら失点まで一直線だよねー」

 

 赤巻は先の失点から自陣深くでボール回しを始める。観客からすればつまらないだの逃げだの言われるだろうが、戦略上は何も間違っていない。

 

「…………ただ、怒りに燃えるもう一人のバカを忘れているね」

「そうそう。噂をすればなんとやら」

 

 赤巻の警戒は慧人に向いていた。故に、その男にそんなに注意が行っていなかった。

 

「なっ!?」

「冬木だけじゃねぇんだよぉ!」

 

 自陣ゴール付近から勢いよく上がってきたキャプテンがボールを奪い去って上がる。そしてそれを見て慧人もゴールめがけて走ってゆき……

 

「オラァッ!」

 

 キャプテンのシュートが放たれる。コースはゴールの左端を狙ったもの。

 

(このコースは……外れる!)

 

 キーパーはシュートを見て外れると判断する。しかし、そこに走り込んでくる男が一人居た。

 

「ナイスパス」

 

 慧人はそのシュートにバイシクルキックを合わせる。

 ボールはコースを変えて、そのままゴールへと刺さった。

 

「おっしゃあああああっ!」

「ナイスパス。キャプテン」

「おうっ!……ってちげぇよ!あれ普通にシュートだわ!」

「……え?思い切りコース外れてたぞ」

「……え?じゃあ、あのまま行ってたら?」

「ゴールから左の方へと逸れてどっか行ってたんじゃない?」

「マジで?」

「マジで」

 

 まさかのバイシクルシュートに大勢の観客が沸き立つ中、何故かシュートを決めた二人は微妙な空気になっていた。

 

「すげぇ!キャプテンの鮮やかなパスに冬木さんのバイシクル!」

「あんなの練習でもやったことなかっただろ!?」

「なんなんだよあの人たち!やべぇ!やべぇよ!」

 

 ちなみに虎南高校の他の選手も二人を除いて盛り上がっていた。

 

「…………あれ。絶対バイシクルの意味なかったよね?」

「んー多分頭の包帯を汚したくなかったからじゃない?」

「…………あと、絶対キャプテンのやつ、冬木見てなかったよね」

「それねー。いやぁよく合わせたよなー絶対無理だわ」

 

 何はともあれ4-4の同点。試合はアディショナルタイムに突入していた。

 

「もう一点取っていくぞ!」

「「「おっしゃぁ!」」」

 

 先のプレ-で勢い付く虎南高校。

 

「きゃ、キャプテン……あの灰色の髪の奴。まさか……!」

「マズいですよ……!あの男は……!」

「う、うるせぇ!まだ同点だ!ここで一点取ってオレたちの勝ちだ!」

 

 対して後半に入ってから4失点を重ねいよいよ動揺を隠しきれなくなった赤巻高校。両者のメンタル面でも差がつき始め、それはプレーにも直結する。

 

「もう1点取ってこい!冬木!」

 

 点を取るために攻め上がってきた赤巻高校。しかし、焦りからかプレーが乱れる。

 そこをつくキャプテン。そして大きくボールを前線へと蹴り上げる。

 

「ちょっと雑だろ」

 

 パスは正確ではなかったものの無事にそれを拾う慧人。そのままディフェンスを抜き去ってキーパーと1対1の状況に。

 

(打たない!?舐めやがって……!)

 

 キーパーは慧人が打たないのを見て前に出る。前のめりになったその瞬間、さっきまでのような荒々しいシュートではなく、ふわっとした山なりのループボールがあげられる。

 重心が前ある状態で、キーパーの上を通過していくボール。誰にも止められることなく、ゴールに入った。

 

「別にシュートは強くかっこよく打てばいいわけじゃないし」

 

 バイシクルでシュートを打ったりしていた彼が言ったとは思えない台詞。

 そして、

 

 ピ、ピー

 

 試合終了の笛が鳴り響いた。4-5。怒濤の大逆転劇により、虎南高校は勝利を収めた。

 

「…………地味にハットトリック決めてね?」

「だねー4ゴール1アシスト。間違いなく、前の試合に続いてMVPだねー」

 

 選手たちが挨拶をする中、二人はその光景をのんびりと眺めていた。

 そして、挨拶が終わったと同時に、虎南高校の選手は冬木の下へと走り出し、

 

「冬木先輩を胴上げだぁ!」

「「「おぅっ!」」」

「ちょっ。おま、やめ……」

「「「わーっしょい。わーっしょい」」」

 

 この試合で大活躍をした慧人の胴上げ。それを微笑ましく見るガールズバンドのメンバーたち。これだけ見ればハッピーエンドだろう。

 だが、虎南高校のサッカー部は阿呆の集まりだった。だから、そんなハッピーエンドで終わらせる気はなかった。

 

「「「わーっしょい!わーっしょい!」」」

「な、なんか高くない!?ねぇ高くない!?」

「「「わーっしょい!わーっしょい!横わっしょい!!」」」

「え?横ってふべっ!?」

「「「…………」」」

 

 上ではなく横へと押し出された慧人。まさかの横わっしょいの衝撃で地面に伏すことに。

 

「テメェら……やりやがったな……(かくっ)」

 

 その光景を唖然と見ていた彼女たち。

 

「さぁ、帰りましょうか」

「そうだねー」

「いやぁ、凄かった凄かった」

 

 そして何も見なかったと言わんばかりに足早に去って行った。

 

「よし、次はキャプテンの番だ!」

「「「おぉっ!」」」

「ん!?い、いや俺はそんなの……や、やめろぉ!」

「「「わーっしょい!わーっしょい!」」」

 

 その光景を見て、千石と森下は思った。

 

((締まらないなぁ……うちのサッカー部))

 

 そして、慧人の隣にキャプテンが並ぶことになったそうな。

 ※横わっしょいは非常に危険です。高度な訓練を受けた彼らだから行っております。絶対に真似をしないでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜日。心なしか包帯やガーゼが増えていた慧人はテスト前日にも関わらず、CiRCLEでバイトをしていた。

 

「あれー慧人くん。何か怪我増えてない?」

「本当ね。どうしたの?」

「どうしたの?じゃないですよ!?土曜日の横わっしょいでこれですよ!たくこっちはけが人だって言うのに……」

 

 日曜日の決勝リーグ。土曜日に足をやられた森下と、怪我していた慧人はベンチに。そのせいで攻撃陣の層が薄くなり、試合は普通に負けたそうな。

 

「というか皆さん無視して帰りましたよね!?酷くないですか!?」

「あれは……関わっちゃいけない雰囲気だったので……」

「そうそう。アレは関わっちゃダメっておねーちゃんが言ってた」

「酷い……あ、でも紗夜さんはきっと見捨てないでくれ……」

「いいですか?怪我してまで試合に出て本当に悪化したらどうするつもりだったんですか?」

「……相変わらず俺の味方がいねぇ……!」

 

 涙を流しそうになる慧人。だが、そこに追い討ちがかかる。

 

「そういや慧人くん。明日からテストじゃないのー?」

「…………リサ姐。テストとバイト、どっちが大切だと思いますか?」

「え?昨日確か一緒にNFOをしたような……」

「…………りんさん。ゲームとテスト。どっちが大切だと思いますか?」

「あれ?けー兄勉強はいいの?」

「そうね。勉強していないんじゃないかしら?」

「ちょっ、やめっ、紗夜さんの前でそんなこと言ったら今から勉強漬けにされちゃ……」

「慧人さん」

 

 優しく、聖母のような笑みを浮かべて慧人の肩に手を置く紗夜さん。

 いつもならこの時点で二人の甘い空気に入るのだが、慧人は冷や汗が止まらない。

 それもそのはず。まさか、彼女の前でテスト前に勉強を一切していないなんて知られようものなら……

 

「今からミッチリしごいてあげますから…………覚悟してくださいね」

「…………ひゃい」

 

 その日、慧人は地獄を見た。




アンケートは8月10日くらいを目処に締め切ります。
もし、まだ答えていなくて、答えたい!という方は前の話の後書きへどうぞ。

そろそろ活動報告などでネタ募集していきます。
詳細(?)は活動報告にて書いてありますが、まぁ本当にお気楽にどうぞ。
いや、決してネタ切れしているわけじゃないんです。ただ、ネタが思いつかないと『慧人VSパレオ ~狂信者VS忠犬パル公~』という最終兵器(今思いついた)を出すために時間が跳んじゃう可能性があるんです。えぇもう。だからお気楽にどうぞ。(ただし、作者の文才はないので、過度な期待はごめんなさい!)
後、作者地味にTwitterやっているので、次回からそっちで告知もしていこうと思います。こちらは作者ページにリンクが貼ってあるので、どうぞ。何かあったら絡んでください。

活動報告URL
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=243854&uid=129451
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