クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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評価を入れてくれた方々やお気に入り登録してくれた方々ありがとうございます。
今回は紗夜さんはまだまともです。


CiRCLEに居るヤバいバイト

 遙か昔のこと。

 

『汝、隣人のクールビューティーを愛せよ』

 

 ある人物――後のクールビューティー教の創始者――は神の言葉を聞いたと言う。

 

 そう。これこそがクールビューティー教誕生の瞬間である。

 その教えは長い年月を経て、脈々と受け継がれてきた。ある時は親から子へ。ある時は友から友へ。ある時は師から弟子へ。

 

 俺自身もそうだった。俺がクールビューティー教に入信するきっかけを与えた偉大なる先輩。あのお方からクールビューティーの素晴らしさを説かれたとき、俺の中で何かが目覚めたのだ。俺こと冬木(ふゆき)慧人(けいと)。中学1年の夏の出来事である。

 

 ちなみにその先輩は最近、クールビューティー教からポンコツキュート教なる訳の分からんものに鞍替えした。ドロップキックを背後から喰らわせた上で、話し合いの場を設け、お互いの信ずるモノについて熱く語り合った。先輩曰く『クールビューティーから生まれるポンコツキュートこそ真に素晴らしいものなり』と阿呆なことを言って聞かなかったので破門にしておいた。先輩と俺の道が交わることは今後、二度とないだろう。何がポンコツキュートだ。断然クールビューティーの方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だから……君もクールビューティー教に入信しないかい?」

「あ、あの……えっと……」

 

 時は平日の夕方。場所はバイト先であるCiRCLE。俺は今、重大な任務……布教活動の一環として、目の前にいる彼を入信させようと勧誘していた。

 

「ストップよ。…………全く、何やってんのよ…………冬木くん」

 

 するとスタッフである月島まりなさんに声をかけられる。

 この人は俺の目上で、上司に当たる人だ。

 

「止めないで下さいまりなさん……!俺は今!彼にクールビューティー教の教えを説いていたんですよ!」

「……私が頼んだのは、新人であるこの子にバイトの動きを教えることだけよ……」

「あ、それはもう終わったんで。空いた時間を利用してクールビューティーの素晴らしさを語っていたんです。ほら空いた時間って勿体ないですよね?」

「…………はぁ」

 

 何故だろう。心なしかまりなさんがとても疲れているように見える。確かにここは何かと大変だけど……不思議だ。一番不思議なのは俺に対して呆れている感じがすることだろうか。俺はただ、新人君をクールビューティーの素晴らしさに目覚めさせてあげようとしていただけなのに。

 

「冬木くん。ここでの布教活動は禁止です」

「そ、そんなぁ……!じゃあ、クールビューティーの素晴らしさを語るのは?」

「バイト中はダメです」

「ぐぬぬっ……分かりました。善処します……」

「善処じゃなくて徹底して頂戴……ゴメンね……こんな人でも普段はまともだから」

 

 失礼な。まるで今はまともじゃないって言われているみたいじゃないか。

 

「あ、そうだ冬木くん。急で悪いんだけど……」

「はい。何でしょう?」

「明日の夕方なんだけど……シフト入れる?」

「いいですよ。部活サボればいいんで問題なしです」

「部活サボればって……」

「ウチの部活は緩いんで。気にしなくていいですよ」

 

 アイツらも結構自由だし。今更だから問題ない。

 

「すみませーん」

「じゃ、対応してきまーす」

「お願いね」

 

 俺はやるときはやるらしい。失礼な。普段からやってますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でーす。Roseliaのみなさん。いつも通り後はこちらにお任せください」

 

 夜。Roseliaの皆が使った部屋の後片付けをするために訪れる。まぁ、仕事だしね。

 

「…………お疲れ様。冬木」

 

 一番に返事をしてくれたのはRoseliaのリーダーでボーカルの湊友希那さん。この人とは出会い方が違えば、俺はこの人を慕っていたかもしれない。…………ほんと、出会い方さえ違えば、この人はクールビューティーと言っても差し支えなかっただろうに……。

 結論。この人、クールビューティー、違う。

 

「ちゃんと働いてるんだね~偉い偉い☆」

 

 続いてベースのリサ姐。この人が居なくてはRoseliaが成り立たないと言っても過言ではない。皆の頼れる姐さんである。…………ちなみにこの人がいなかった時のRoseliaは相手するのがクソ大変だった。

 結論。頼れるみんなの姐さん。

 

「……い、いつも、ありがとうございます……!」

 

 そしてキーボード担当白金燐子さん。この人とはとあるオンラインゲームでも知り合ったが、何というか……うん。キャラが違う。まぁでも、よくある話か。ゲームの世界で別の自分を作り出すというか……。

 結論。リアルで話せるようになってるだけマシ。

 

「さすがけー兄!いい仕事っぷりだね!」

 

 4人目、ドラム担当の宇田川あこちゃん。彼女はこの中で唯一歳下でまだ中学生。ちなみにこの子もりんさんと同じゲームをしていて……まぁ、俺より遙かにりんさんとの付き合いは長い。まぁ、元気一杯なのはいいが……中二病にはならないほうがいいぞ?

 結論。溢れ出る妹感。

 

「そうだ慧人さん。この後よろしいですか?」

 

 そ・し・て!我らが女神様であるギター担当紗夜様!語り始めたら仕事にならなくなってしまうので語ることは断念させてもらう。……くっ。語りたい……!物凄く語りたい……!

 と、Roseliaはこの四人の少女と一神によるバンドなのだ……と危ない。これはまたRoseliaの皆から壊れたとか言われるパターンだ。壊れたとは酷い。俺は元からこうなのに……。

 

「この後?」

「いえ、一緒に帰りたいと思いまして……ダメですか?」

 

 心配そうに聞いてくる女神様。何をおっしゃっているのですか。貴女様の願いを断るわけないじゃないですか。

 

「ダメなわけがないですよ。ただ、少し待っててくれます?もうすぐあがれるので」

「はい。ではお待ちしていますね」

 

 Roseliaの皆が部屋を出て行く……閉じられた部屋。さてと、

 

「紗夜さんを早く帰すためにも、丁寧かつ迅速に終わらせなければ……!」

 

 皆覚えておくといい。女神の為なら人は人間を超えられるのだよ。

 そして十数分後。俺は全ての仕事をこなした。まりなさんからも「相変わらず紗夜ちゃんが関わると凄いわね……」と若干ひかれたが気にしない。新人君もあり得ないような目で見てきたけど気にしない。

 大丈夫だ新人君。君も目覚めればこれくらい容易いから。

 

「行こうか」

「そうですね」

 

 彼女は花咲川女子学園に通っている。当然ながら俺とは違う高校だ。そのためゲームでいう登下校イベントなるものは存在していない。だから一緒に帰るこの時間は実はかなり貴重なものだったりする。

 

「手繋ぎましょうか?」

「どうしてですか?」

「紗夜さんが迷子にならないように」

「……私を何だと思っています?」

「女神」

「…………即答でしたね」

「はい。即答ですよ?」

 

 何を当たり前なことを言ってるのだろうか?小学校で1+1=2って習うだろ?あれと同じレベルで氷川紗夜=女神って等式は常識中の常識。義務教育を終えた皆なら習ったはずだろうに。

 

「じゃあ、こうします」

 

 すると、差し出した手をスルーして腕に抱きついてくる……ふむ。

 

「紗夜さん。いいですか?こういうときは『そうですか』と言ってこの手はスルーするんですよ?腕に抱きついてくるのはクールビューティーな人の選択とは思えません」

「いいじゃないですか」

「やり直しましょう。というわけで、一回腕を放してください」

「嫌です」

「放して……」

「拒否します」

 

 …………こうなると彼女は放そうとしない。……まぁ仕方ない。くぅ……何だろう。嬉しいのだけど何か複雑な気分だ……!

 

「勉強はしっかりやっていますか?」

「唐突に嫌な方向へと話を変えましたね……ま、まぁまぁですよ」

「……本当ですか?」

「ホントホント。オレウソツカナイ」

「嘘ついたら針千本飲ませますよ?」

「おっとガチでやる気だな。……ふっ。認めましょう。成績が下がりそうでヤバいです」

 

 いやね?バイト、部活、女。それにゲームとか……勉強の優先順位が下がるのは当たり前である。

 

「だと思っていました」

 

 紗夜さんや?俺への評価が低くないですか?まぁ、俺の貴女様に対する評価は天よりも高いですが。

 

「テストが近づいたら教えて下さい。また見てあげます」

「おぉっ。マジですか?感謝感謝……っと」

「気にしなくていいですよ。人に教えるのは自分の勉強になりますので」

「さっすが紗夜さんですね~恩に切ります!今度フライドポテト奢ります!」

「ぽ、ポテ…………コホン。そうですね。みっちりしごいてあげましょう。ポテトの為に」

 

 目を輝かせて言う紗夜さん。おっと、俺は余分なことを言ってしまったらしい。彼女の中ではもう俺にポテトをおごって貰う未来図が見えているだろう。

 彼女は凄い勉強が出来る。と言っても天才ではなく典型的な努力型。彼女は何事にも熱心に努力する。理想だなんだ言ってるが凄い尊敬できる人でもある。…………唯一心配なのは、頑張りすぎて身体を壊さなきゃいいけど。

 

「そういや、日菜とはうまくやれてます?」

「えぇ。でも、まだまだだけど」

「そりゃよかった。少しでも進展してくれてるなら」

「あなたのおかげね」

「ははっ。何言ってんだが」

 

 俺は別に特別なことなんてしていない。普通のことしかしてないのだ。

 

「着きましたよ」

「そうね」

 

 そして、彼女の住むマンションの前に。どうやら今日はここまでらしい。腕から放れる彼女。

 

「少しかがんでくれるかしら」

「ん?こう?」

 

 俺は彼女の言うとおり、少し屈む。

 

「……お疲れ様」

 

 すると頭に手を置かれて撫でられる。…………うぇ?

 

「……紗夜さん……?」

「あなたの頑張りは知ってるわ」

 

 目が合うと優しく微笑んでくれる紗夜さん。

 

「…………あなたが聖母でしたか……」

「……またおかしなこと口走ってるわよ」

 

 おっといっけね。つい声に出してた。

 すると、手を放す彼女。俺はそんな彼女を抱きしめて……

 

「…………紗夜さんこそ。お疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね」

「…………えぇ。そうするわ」

 

 10秒くらいした後に放す……いや、そうしないとマジで帰れなくなりそう。お互いに。

 

「じゃあ、また」

「えぇ。また」

 

 そして俺は自分の家に向けて歩き出す。

 その足取りは軽かった気がする。




主人公設定(超簡略版)
名前 冬木慧人
身長 176cm
学年 高校2年

クールビューティー教信者を名乗ってる。しかし、最近は氷川紗夜教に転身している気がしなくもない系主人公。

ちなみに紗夜さんとはまだ付き合ってません。

詳しいのは出す機会があったら出します。
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