それは日菜との買い物中のことだった。
「ふっふふ~ん♪」
「上機嫌ね」
「えへへ~だっておねーちゃんから誘ってくれたんだよ?」
「別に、お互いの暇な日が合ったから誘っただけよ」
今日は休日。Roseliaの練習もなく、日菜も仕事や練習は休みとのこと。丁度ギターに関して見ておきたかったので、リビングで暇そうにしていた日菜に一緒に出掛ける?と誘ったところ二つ返事で帰ってきた。あまりの返答の早さに驚きはしたが……まぁ、これも日菜らしいかと思うことにした。
楽器店でギターを見ていく。日菜と並んでこうやってギターを見る。しかも偶然、ここで会ったわけじゃなく、私から誘って一緒に……なんて。一年……いや、半年前の私では思いもしなかっただろう。
「次はどこ行く~?」
当初の目的は達成された。後は帰ってもいいのだが……せっかくの機会なので今日は日菜に付き合おうかと思う。
「そうね……」
そうやって考えて何となくで歩いている。すると……
「…………?ねぇね、おねーちゃん。あれって慧人じゃない?」
「そうね。相手は……?」
見知らぬ男性と共に歩いている慧人さん。ただ友達とかそういう雰囲気じゃない。一体何だろう?するとそのまま如何にも豪華なホテルへと……
「このホテルは……」
確か、湊さんが事務所のスカウトを受け、それを白金さんや宇田川さんが聞いていたって言ってたホテル……だったかしら。Roseliaがあと一歩で解散するのでは?と問題が発生した……何だろう。そう思うと凄い嫌な場所に聞こえてしまう。まぁ、あの時は……思い出すのはよそう。結果として、あの出来事のおかげでRoseliaの結束が固まったのだから。
「よし!入ってみようよ!」
「ひ、日菜!?流石にダメよ。そもそも人の話を盗み聞くなんて真似をしたら……」
「じゃあおねーちゃんは気にならないの?」
気にならない、というのは嘘だ。でもだからといって盗み聞きするのは……うん。
「…………遠くて聞こえないわね」
中にあっさり入れたのはいいが、問題はここからだ。近づきすぎればバレる。でも遠すぎては聞こえない。
「……おねーちゃんって、慧人のことになるとチョロいよね」
「何か言ったかしら?」
「なーんにも。何だかさ!これって探偵みたいだよね!」
「そうね」
どっちかというとストーカーな気がするのはきっと気のせいだろう。そんな中、会話が小声ではあるが拾える距離へと近づくことに成功する。
『……今日はこのくらいにしておこう』
しかし、色んな葛藤があったせいで遅かったようで、もう話は終盤も終盤らしい。
『……最後に一つだけ。冬木慧人くん。君に残された時間は、君が思っているより少ない。では失礼するよ』
慧人さんと話していた男性はそのまま立ち上がり、ホテルの外へと出て行く。
ガンッ
一人残された慧人さんが机に拳を打ち付ける。そして、
『…………んなこと分かってるっての』
そう呟くと立ち上がってそのまま出て行った……。
「……おねーちゃん。今のってどういうことかな?」
「分からないわ……」
話を全部聞いていたら変わっていたかもしれない。でも、聞こえてきたあの言葉……残された時間が少ない?それにあの慧人さんの悲痛そうな、深刻そうな顔……。一体何でそんな顔を……?
「あの慧人が、おねーちゃんの存在に気付かずスルーしただなんて……明日は嵐?」
「確かに……それは不可解ね」
それに、あの慧人さんが私の存在に気付かなかったのも不思議だ。彼は私のことをいつもすぐに見つけて声をかけてくれる。彼曰く『雰囲気ですね。紗夜さんの存在感ですよ?気付かないわけないじゃないですか』と、彼が言うに、見えてなくても雰囲気で分かるとのこと。でも、そんな彼が一切気付かなくて、スルーしただなんて……
「よぉし!おねーちゃん!調査だよ!」
「調査?」
「うん!慧人に何があったか突き止めよう!なんかるるんっときた!」
日菜の目が凄い輝いている。これは興味に溢れているって目だ。
しかし、私には戸惑いがあった。果たして、他人の問題に部外者が足を突っ込んでいいのだろうか?プライベートな問題に私は土足で踏み入ってもいいのか?五秒ぐらい悩みに悩んだ末……
「分かったわ」
日菜と共に調査することにした。
慧人さんが何か悩んでいるんだったら力になりたい。慧人さんが苦しんでいるんだったら助けになりたい。彼は前に私を支えてくれた。私の力になってくれた。今度は私が彼を支えたい。
だから何を思っているか知りたい。そのために私は動くことにする。
ピロリン♪
L○NEの通知音が鳴った。
「日菜ちゃんから?」
「どうしたの?千聖ちゃん」
今日はお仕事もお休みで丁度暇と言ってた花音と二人でカフェに来ていた。
二人で他愛もない雑談に花を咲かせ、一息ついた時に日菜ちゃんから珍しくL○NEが。一体何の用だろう?
『ねぇね!最近慧人に変わった様子はなかった?』
…………。
「言っちゃ悪いとは思うけど、慧人が変わっているのっていつものことじゃない」
「千聖ちゃん声、声。全部漏れてるよ……でも、それは納得できる……かな」
花音が声に出ていると言ってきたのと、地味に花音も同意しちゃってるのをやんわりとスルーして、今言ったことと全く同じ事を日菜ちゃんに送る。
『いやそうなんだけどさ!そうじゃないんだよ!』
どういうことよ。
『あの慧人がおねーちゃんをスルーしたんだよ!』
「「え?」」
L○NEを一緒に見ていた花音と声が重なる。
「ど、どうしよう千聖ちゃん。冬木さんが……冬木さんが……!」
「お、落ち着いて花音。一旦落ち着きましょう」
目の前でアタフタし始めた花音を落ち着けようとするが、私自身も心の底から驚いている。
ほ、本当に何があったのだろうか?あの男は紗夜ちゃんから神のオーラが云々で、気配を感じ取れるなんていう気持ち悪いことを言っていて、実際に何度もそのヤバい現場を目の当たりにした。
そんな慧人がスルーした?しかも、今の話から紗夜ちゃんが忙しかったから気を使ってとかはなさそうだし……え?どういうことなの?
『そっちじゃないでしょ日菜』
『あ、ごめん。そっちじゃなかったや』
何でわざわざ紗夜ちゃんが日菜ちゃんのL○NEでツッコミを入れて、日菜ちゃんが訂正しているのだろう?仲のいい双子ね。どうして、慧人といい人のL○NEをネタか何かだと思っているのかしら?でも、何だろう?この二人って、最初は空気が悪いというか……うん。まぁ、仲のいいってことはいいことよね。
「いや、今のことも充分衝撃を与えたのだけども?」
「だ、だよね?あの冬木さんだよね?」
花音の言葉が地味に彼を傷付けるようなものになってるのはスルーしておく。
『慧人の残り時間が少ないって言われたの!』
「「どういうこと?」」
いや……え?いや、何の残り時間?
『多分それじゃ伝わらないでしょ……』
『あれ?もしかして伝わってない?』
いや、紗夜ちゃん?だから何で日菜ちゃんのL○NEでツッコミを入れているの?それは裏でやってくれればいい会話で、私のL○NEではやらなくていいことよ?どうしよう。紗夜ちゃんが最近慧人のせいでボケに走りがちな気がする。しかも本人は真面目だからタチが悪い。
『とりあえず状況を教えてくれるかしら?』
『おねーちゃんと探偵の真似をしていたんだよ!』
…………日菜ちゃん?会話って知ってる?
「どうしましょう花音。何が起きているのか分からなさ過ぎて、逆に興味出てきてしまったのだけど」
「うん……何だか私もそんな気がしてきた。一体何があったんだろうね?」
最初はたいして興味なかったけど、何だろう。つかめなさすぎて興味がわくというか……そう。目の前に箱があって、その箱の中身に関する情報を絶妙な感じに教えられたせいで興味がわくというかそんな感じだ。つまり、興味津々である。
『L○NEだと埒が明かないからこっちに来て一緒に話さない?』
『おぉ!千聖ちゃんからのお誘いだ!どうする?おねーちゃん!』
今更ですが、これは私、白鷺千聖と日菜ちゃん、氷川日菜の個別のチャットです。三人目は居ません。
『そうですね。行ってみましょう』
紗夜ちゃん?お願いだから日菜ちゃんの暴走を止めて頂戴?あなたがそっち側に行ったら終わりよ?え?まさか二人で無言縛りとかしてる?人のL○NEで遊ばないでほしいのだけど。
『やったー!』
『それで白鷺さん。私たちはどこへ向かえばいいのでしょうか?』
……紗夜ちゃん?あなたとも交換したはずなのだけど……ね?何で日菜ちゃんのやつで打っているのかしら?
…………もういいわ。考えるだけムダね。
『カフェね。地図を送るわ』
『ねぇね、リサちーも連れてきていい?リサちーにも話したら状況が読めないって言っててさ』
でしょうね。こんな会話で状況を正しくつかめる方が凄い。
花音の方を見ると頷いてくれている。
『もちろん』
『やったー!皆でお茶会だぁ!』
『違うでしょ日菜。慧人さんに関わる重要な会議よ』
『えぇー?それはさ、ほら話の肴というか、ネタというかで……』
『いいえ。慧人さんの話をその程度に扱うなんて私が許しません』
『ぶーぶー。あ、でもその話が終わればお茶会だぁ!』
『そうね。それは認めましょう』
『わーい!ありがとうおねーちゃん!』
『だ、抱きつかないでよ日菜』
「…………彼女たちっていつから阿呆になったのかしら?」
「千聖ちゃん……本音。本音が漏れちゃってるよ」
電話なら分かる。近くにいる紗夜ちゃんの声が聞こえるとかで。いや、これ文章。え?なにあの双子。わざわざ、スマホを渡しあってこんなやりとりしているの?阿呆なの?ねぇ阿呆なの?というか、わざわざなんで私とのL○NEでやっているの?これ、日菜ちゃん側しか発言していないから相当シュールよ?
これも全部慧人のせいかしら。(責任丸投げ)
「どうやら、面白そうなお茶会になりそうね」
「……うーん。でも、本当に何があったんだろうね……」
こうして私たちは彼女たちが合流するまで待つことにしたのであった。
慧人がもしヤンデレになろうものなら最強なんだろうなー(書く気さらさらないけど)
ということで慧人の秘密編、次回に続く。