宣言通り、調査隊が動きます。
20XX年。○月×日晴れ。
私たち『冬木慧人調査隊』は今。今世紀最大級のミッションを遂行しようとしていた。
『隊長!慧人くんを見失いました!』
『ふえぇ……ここどこ?』
『はぁ……待ってて花音。今迎えに行くから』
『あ、あっちにるんっ!ってするものが……』
…………この隊。大丈夫かしら?
調査隊結成翌日の午後3時過ぎ。それは松原さんからの情報提供がもとだった。
「…………なるほどね」
昨日の今日で集まった五人。
何でも一人で買い物に出た松原さんは案の定と言うべきか道に迷って帰れなくなったそうだ。そこをたまたま慧人さんが通りかかって、道案内をしてもらったそう。まぁ、このこと自体はよくあることだから特別って訳ではない。一週間に一度は絶対に起きるイベントだから問題はないのだが……凄い松原さんが心配になる。
ただ、慧人さんに関する問題はそこからだ。何でも、彼が急に脇腹あたりを抑えて痛そうにしていたとか。本人は平気って言っていたらしいけど心配になり、こうやって情報伝達から集合の流れになった。
「うーん……あ、たまにだけど抑えていなかった?」
「……でも、普段は特に何も反応ないわよ」
「だよねーつっついたこともあるけど別に痛そうにしていなかったよ」
「えっと……でね。この後、駅に用事があるって言ってて……」
「用事……ねぇ」
「もしかしたら、関係あることじゃない?」
「よし!じゃあ、尾行しよう!」
「「「尾行!?」」」
「うん!もしかしたら、昨日の人と会うかもしれないし!というか一層のこと本人に直撃しようよ!こうやってチマチマやっても真実は分からないしさ!」
日菜がそう言うが……確かにそうかもしれない。こうやって調査しても真実にたどり着くとは限らない。それに、時が一刻を争うのであれば……うん。いいかもしれない。
「そうだね。よし、じゃあ行ってみようか」
「駅前にいるんだったら手分けして探せば見つかるかも」
「そうね。幸いこっちは五人居るわ。それに紗夜ちゃんに反応して簡単に釣れるかもしれないし」
「なるほど……それはありますね」
「じゃあ行ってみよー!」
ということで、慧人さんを探索しているが先ほど今井さんが見失ったらしい。でも、見失ったとしてもまだすぐ近くに居るはず……ところで松原さんは何処に迷ったのだろうか?
慧人さんを捜索して時間だけが経っていく……ここまで見つからないともう駅前には居ないのではと思えてしまう。
『切符売り場と改札を見張ってるけど誰も来ておりません!』
『うむ。そのまま見張っていてくれたまえ』
『了解であります!ヒナ副隊長』
『とりあえず花音を保護したわ。ここからは一緒に行動するわね』
『ふえぇ……ごめんね……』
『こちらも慧人さんらしき人物は見当たらないですね』
電車は使ってないそうだが……うーむ。どこに居るのだろうか……?五人で探しているのに見つからないなんて……
「紗夜さんじゃないですか。どうしたんですか?」
「……あ、慧人さん。いえ、人を探して……!?」
気付くと慧人さんが隣にいた。あまりのことに驚きを隠せない、ま、まさか向こうからやってくるなんて……
「リサ姐のことですか?それならさっき、改札の方で見かけましたよ」
「そ、そうなんですね……」
「それにしても偶然ですね。日菜に千聖に花音……まさか、五人もこの駅前で見かけるとは」
「へ、へぇ。そうなんですね……」
全員バレているんですけど?嘘でしょう?今井さん以外は発見の報告がなかったと思うのだけど。
「け、慧人さんは何故こちらに?」
「ちょっと人を待つ?って感じですね……ん?ごめんなさい」
スマホを見る慧人さん。すると苦い顔をして……
「すみません。用事できたんでこれで失礼します」
そう言って、歩き出してしまう……駅とはまた別の場所に。
「……って報告しないと」
すぐさま冬木慧人調査隊というグループで発言する。
『慧人さんと接触しました。駅前から移動するみたいです』
『えぇ!?おねーちゃん会ったの!?』
『でも、肝心なことを聞く前に別れてしまいました』
『行く先は?』
『分からないです』
『一旦紗夜と合流だね。慧人くんは見失っていない?』
『そこは心配ありません。ただ、私だと尾行に気付かれるかと』
『大丈夫よ。見失ったときは花音投入よ』
『さ、流石に無理だよ……』
白鷺さんは松原さんには甘いのか辛辣なのかどちらなのだろうか。
そんな疑問を持っていると、最初に日菜がやって来た。
「慧人は?」
「今はまっすぐ歩いているようね」
「あれだね~よし、少し近づいていくね」
「えぇ。お願い」
「任せて!」
日菜が移動を開始する。すると、今井さんもやって来る。無言で指さすとOKとやってから、そのまま日菜の方へと走って行った。
そして、白鷺さんと松原さんがやって来る。距離的に大分離れたはずなので、私も二人と共に尾行を開始する。
「日菜ちゃんとリサちゃんの二人が見失うことはないと思うけど……」
「で、でも何処に向かったんだろう……?」
「何かがおかしいですよね……駅前で人を待つって言ってそこから移動するなんて……」
しかも、この五人の存在には気付いてたし……まさか、尾行に気付かれた?いや、あくまで偶然を装っていたはずだし……
「ただの偶然……って信じたいわね」
「う、うん。例えば入れ違いになったとか……」
「えぇ。……でも相手があの慧人さんですから」
「「…………」」
常識が通用しない相手……いや、でもさすがにそんな、たまたま知り合いの女子五人が駅前に居たということだけで尾行を警戒はしないだろう。
すると、慧人さんが曲がったようで少しだけ時間を空けて日菜と今井さんも右に曲がる。そして十数秒後、
『緊急事態発生!慧人くんを見失った!』
今井さんからの連絡。私たちは急いで二人のもとに駆けつけた。
「……本当に消えたみたいね」
細い道。両側には建物が並んでいるが、どうやらここで見失ったらしい。しかし、不思議なのは見失うようなものはないはず。
「撒かれた?」
「その可能性は高いよね……」
「こんな何もないところでアタシたちが見失うとはね」
「完全にやられたね~どうする?おねーちゃん」
「……一旦、落ち着いて話せる場所に移動しましょう。もし彼が本気で逃げているのであれば私たちでは見つけることは不可能です」
本当は今すぐ探しに行きたい。でも、その行為そのものが無駄なものだと分かりきっている。駅前ですらこちらは五人居て、発見出来たのは二回。しかも向こうにはこちらの顔が全員割れている。それに慧人さんの身体能力は化け物並。取り押さえることも、捕まえることも出来ないだろう。歯がゆいが探して走り回ることは得策ではない。
そういうわけで近くの公園に移動する。既に日は沈んでおり、改めて日が沈むのが早くなったと思うこの頃。時計を確認するともうすぐ午後5時。集まってから約2時間。私たちの空気は少し重くなっていた。
「そこまでして隠したいことなのかな……?」
「そうとしか考えられないでしょうね」
「あはは……ここまで来るとね」
人には抱えている秘密があるだろう。多い人も居れば少ない人も、それが知られても支障ない秘密もあれば、知られてしまえば……という秘密もある。
じゃあ、今回彼が抱えている秘密はどうだろう。知られても支障ないならここまで徹底的に隠すだろうか?私と日菜が昨日、あの場所であの会話を聞いていなければ私たちはそもそも、何かを抱えていることに気づけただろうか?ここまで調査し、疑問点をあげることが出来ただろうか?
「…………」
「おねーちゃん……」
手を握り締める力が強くなる。
好きな人の全てを知りたい、好きな人には隠し事をして欲しくない。でも、それは傲慢な考えだ。それは分かっている。じゃあ、私は一体彼の何を知っているのだろうか。分からない。そもそも私は彼を見ていたのだろうか。しっかりと見ているのだろうか。駅前で話をしたときに、私は何か違和感を感じただろうか?分からない。何も分からない。
じゃあ、今の私にできることは何なんだろう。彼の秘密が大したものでないことを祈ることだろうか?でも、私たちが調べたこと、発覚したこと、全てに理に適うようなものが果たしてたいしたことがないものなのだろうか?
無力。何もできない苦しみで息が詰まりそうになってしまう。時間は残ってないかもしれない。それなのに、私は……何も打つ手がない。
「……っ!皆。こっち」
すると白鷺さんが何かに気付いたようで、公園の周りにある、木や草の塊?みたいなところに隠れ始める。慌てて私たちも彼女の近くに行って身を潜めるが一体……?
『この前のリベンジだ』
『いや、早くねぇか?いつもよりも早くねぇか?』
『暇だったからな』
やって来たのは男性二人。……ってこの声は……慧人さん?それに多分アレは……
「あれは、東雲くんだね」
「あのバチバチやってた人でしょ?」
するとサッカボールを蹴り始めた。お互いにパスをしているようだけど……
「どうする?今なら捕まえることできそうじゃない?」
「で、でも逃げられたらその……」
「チャンスが来るまで様子見……かな?」
何だろう。最初は慧人さんを尾行し、直撃して情報を得ようとしていたのに、だんだん慧人さんを捕獲して吐かせようとしている。確かに、ここまで来てしまった以上、もう手段は選んでいられないような……
『それにそろそろ決めたんだろ?』
『……まぁな。さすがに決めねぇとマズかったし、決心した』
チャンスを伺うこと数分。なにやら重要な会話をしている。もしかして、昨日のことを言っているのだろうか?
『というか、昨日も直接来たんだろ?』
『だからさっさと決めたんだよ』
やっぱり。昨日のことって言うとアレしかない。他の四人も察したようでうなずいてくれる。方針としては一旦見ていることにするようだ。
『で?答えは?』
『ああ、向こうには伝えたけど……受けることにするわ』
『まぁ、そうするだろうな』
『ただ、もしかしたらこれが最後かもしれないけどな……』
『そんなわけあるかよ。オレたちの勝負は終わらねぇ。逃げるなんて許さねぇぞ』
『……それもそうか。というか、よく考えたら最後にならねぇわ』
『おい』
笑い合う二人。でも、最後って一体何のことなの……?
『……本当はもう少し粘りたかったけど……さすがに限界だったわ』
『……そりゃそうだろ。むしろここまでよく耐えたなって思ってるぞ』
『そうか?』
『そうだわ』
『よく耐えた方か……』
『ああ……ってお前、そのこと他の奴らに言ったのか?』
『…………言ってないな』
『……はぁ、どうするんだよ。急に消えたりしたら――』
次の瞬間、私の身体は動いていた。そして、彼に聞こえるような声で問いかけた。
「慧人さん!一体どういうことですか!?」
何から聞けばいいか分からなかった。
最後とか限界とか消えるとか、そういう言葉が全て嫌な響きに聞こえてしまう。最悪の想定と、それを否定する気持ち。全てが頭の中でぐちゃぐちゃになってまとまらない。
「紗夜さん……?それに日菜、リサ姐、千聖に花音も……?」
私に続いて出て来た四人を見て驚愕をあらわにする。それと同時に、今の会話が聞かれてしまったということに気付いたのか、ちょっと苦い顔をする。
「……答えてください。慧人さん……あなたは一体何を隠しているんですか……?」
そして、彼は深くため息を付くと、あまり話したくはなかったと言う前置きと共に、彼は……彼は。