クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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タイトルを見て分かる通りです。つまりいつも通りですね。


付き合っているようにしか見えない二人

 一つ質問をしたい。見知らぬ二人の男女が居たとする。尚、体型は両方とも普通、或いは細身とする。

 二人の男女、女性が大量のポテトを自身の持つトレイに乗せ、男性側のトレイにはハンバーガー二つとドリンクが二つ。

 これだけなら見たらどんなことを想像するだろうか。多くの人は、まず、ポテトの量に目が行きびっくりするだろう。そして、そんなにたくさんのものを男性が食べるんだと思うのだろう。

 

「紗夜さん……そんなに食べれますか?」

「何を当たり前のことを」

 

 だから、俺は思う。軽い風評被害なのでは、と。

 だって、そうだろう。山盛りポテトの九割は彼女の胃の中に消えていくのだ。対応した店員も、紗夜さんがあり得ない量のポテトを頼んで若干引いてたが、隣に立つ俺を見た瞬間、「あ、この人が食べるのか」みたいな感じで笑顔を向けて来た。……違うんだなぁ。そう思いながら苦笑いを返すことにはもう慣れた。

 

「抹茶フレーバー、紅茶フレーバーに普通のも……あ、少しもらいますね」

「…………(こくこく)」

 

 ちなみに紗夜さん。断りを入れずにポテトを取ると結構ふてくされる。後でご機嫌取りのためにポテトを頼まないといけなくなる。あれ?もしかしてループ世界突入?

 

「……うんうん。これもおいしいですね」

「…………(ふふん)」

 

 何かどや顔しているけど……ふむ。

 

「もう少し……こう、ポテトとマッチさせるには……」

「…………(もぐもぐ)」

「……あーん」

「…………(もぐもぐ)」

 

 ……おぉっ?

 

「あーん」

「…………(もぐもぐ)」

 

 今気付いた。ポテトを差し出すと、まるでハムスターのように食べていく。何というか……小動物を見ているようで……

 

「癒されるなぁ……」

 

 やっぱり小動物って可愛いよね……そう。癒しって必要だなって改めて実感させる。

 そんな実感を余所に目の前のポテトの山が消えていく……何というか……流石だなぁ。

 

「ところで、そんな勢いで食べてまたポテト禁止にしないといけない事態になるんじゃ……」

「その点はご心配なく。今日のために、この一週間ほど。ポテトの摂取を普段の半分以下に抑えていました。理論上、今日はポテトの摂取をどれだけ行ったとしても、前日までのマイナスを埋めるだけで過剰摂取にはならないのです」

「いや、マイナスって……絶対マイナスはあり得ないと思うのは俺だけですか?」

「はい。慧人さんだけです」

 

 すげぇ……断言された。え?マジで?

 

「…………?」

「どうしましたか?」

 

 今気付いた。紗夜さんはフライドポテトが好きだ。……もしかして、フライドポテト、にんじん風とか言って、スティック状にしたにんじんを揚げたら騙して食べさせることが可能なのでは?

 

「……いける」

「ちなみに慧人さん。もし私の前にフライドポテトと偽ってスティックニンジンを揚げたものを出したら……」

「出したら?」

「…………キレますからね?」

 

 心なしか背後に阿修羅が見える。……なるほど全てを理解した。この人ポテトガチ勢だ。

 そもそも凄いんだよなぁ……少し前に諸事情で校長から頂いた2,000円分のカード。予想はしていたけど今さっき全て()()()()消えた。ここのポテトのLサイズは一つ約170gで300円ちょっと。それを7つ買っているのだ。で、目測だが彼女が6個半、俺が半分食べたって感じだ。ちなみにハンバーガーはお互いに一つずつ買っている。察しのいい人は気付いているかもしれないがこの人はポテトだけで1kg以上食している計算になるのだ。ポテト限定で大食いである。

 

「ということで」

「どういうことで?」

「おかわり行ってきますね」

「…………」

 

 二つの意味で驚愕を隠せない。ポテトの山だけでなく、ハンバーガーも消えていたことと、それだけ食べてまだ足りないのかと。

 しかし、流石にこれ以上は見過ごせない。だから、注文しに行こうとした彼女の手を取る。

 

「どうしました?」

「いや、どうしました?じゃないです。これ以上はダメです」

「???」

 

 どうしよう。何でこの人は止められたことに疑問を持っているのだろうか。

 

「ご心配なさらぬよう。ポテトは別腹ですのでまだ入りますよ」

 

 そうじゃないんだよ。その心配はしてねぇよ。

 というかポテトは別腹……?普通はスイーツが別腹じゃないのか?……いや、そんなのどっちでもいっか。

 

「お忘れですか?貴女のポテトの摂取量は俺が管理していると」

「ですが管理官。先ほどお話ししたとおり、私のこの一週間のポテト摂取は通常時の半分……いや、それ以下です」

「そこは知っています……が、それとこれとは話が別です」

「異議ありです。話はしっかりと繋がっていますよ。いいですか?今の私は過去に生み出した貯金を使っている状態なのです」

「異議ありだ。見るからに過去の貯金どころか未来の分まで食している。というか、いつもより食べる量を減らしたから貯金が出来るとかあり得ないですよ」

「知らないのですか?フライドポテトは一日の摂取量の上限が存在し、前日分の不足分は次の日に持ち越せるのですよ?つまり、今の私は上限まで達していない。前日分までの足りなかった分を補っているだけです。ドゥーユーアンダスタン?」

 

 ……どうしよう。この人、ポテトをまだ食べたいだけに恐ろしいこと言い始めた。え?ポテトの一日の摂取量の上限って何?しかも次回以降に持ち越し?なにそのとんでも理論。

 

「すみません。その理論だと多くの人はポテトを無限に食べられることになるのでは?」

「羨ましいです……!」

 

 そりゃそうだ。俺も含め、多くの人はポテトを毎日食べない。もし、今言ったことが事実なら、ほとんどの奴がポテトの摂取量の上限がないに等しくなっているだろう。

 

「…………いや、待ってください」

 

 羨ましいと言っていた彼女の目は、何か閃いたと言わんばかりに怪しい光がともっていた。…………すげぇ嫌な予感。

 

「そもそもの話です。ポテトの摂取量に上限はあるのでしょうか?」

「……は?」

 

 いや、そこは最初から疑問だったけど?あなたがそんなに言っていたからスルーしていたんだけど?

 

「いえ。もちろん上限はあるでしょう。しかし、先ほどお話ししたとおり、過去の余りが貯金として貯まっています」

「はぁ……でも紗夜さんって毎日のように食べてますから貯金とかないですよね」

 

 この話を例えるならアレだ。毎日一定額のお金をもらえたとする。使わなかった分は当然貯金という形で翌日以降に持ち越せるが、目の前の人は毎日もらった分を使っている。そして、先ほども食べたから残高はゼロのはず。で、お金だったら他人から貰えば貯金は貯まるが生憎、ポテトはそうは行かない。

 ……だから、この人には貯金……いや。貯ポテなんて存在しないはずなのだが……

 

「分かりませんか?すごく当たり前の発想です。乳幼児はフライドポテトを食べません。つまり、乳幼児期に莫大な貯ポテが」

「はいはい。戯言はいいので行くぞ」

 

 なるほど。聞くだけ損したってこういうことを言うんだな。一つ賢くなった気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、何とか俺を言いくるめておかわりに行こうとする彼女を、強引に連れ出した。ぶっちゃけ、あれ以上おかしな理論を聞きたくないのが本音だ。

 

「…………」

「紗夜さん?」

「何ですか?今勉強中なので話しかけないでください」

 

 そして、当初の予定通り彼女の部屋で勉強をする。宿題ってなんであるんだろうと思いつつ彼女に教えを乞うのだが……うん。ちょっとだけ機嫌が悪いみたいだ。

 いや、正直そこはいいんだよ。問題は……

 

「そろそろ離れてくれませんか?今の状態だと字が書きにくいので」

「いいじゃないですか。そこは勉強法を工夫するんですよ」

 

 問題は彼女が正面から抱きついた状態で勉強をしていると言うことだろうか。座っている俺の上に乗っている。どういうことか分からない?いや、俺も分からない。彼女は参考書を読んでいるようだけど……うん。どうしようか。

 とりあえず、あれだ。彼女には一回離れてもらわないと、勉強にならない気がしてきた。だって、いつも以上に集中ができていない。だが、引き剥がすのは忍びないので、動揺させて離れるように促すか。

 

「すみません。胸が当たっているんですけど」

「何を言っているのですか?当てているのですよ」

「それっていいんですか?風紀が乱れていますよ」

「知りませんよ。そんな些細なこと」

「いや、風紀委員。風紀委員が風紀を乱してますよ」

「それは学校の私です。今の私ではないです」

「おっとマジかこの人」

「えぇ。それに、そもそもここは私の部屋です」

「というと?」

「だから、この部屋のルールは私が決めます。よって風紀は乱れていません」

「いいのかそれで!?」

「いいんです」

 

 …………いけない。動揺させるつもりがこっちが動揺したわ。まさか、彼女からそんな暴論が出るとは思いもしなかった。

 そして、離れることなく更に勉強を続けること十数分……。

 

「ちょっと休憩しますね」

 

 どうやら参考書を置いたようで、かわりに空いた手を背中に回してくる。

 

「じゃあ俺も休憩するか」

 

 持っていた参考書を置く。すると、

 

「ごめんなさい」

 

 謝って来た。

 

「何をですか?」

「少し不機嫌になっていました。それでも、慧人さんの勉強の邪魔をしてはいけませんね。すぐにどきますので……」

「まぁ、確かに阻害はされましたが……」

 

 彼女は手を放し、立ち上がろうとする。俺はそんな彼女の背中に手を回し、彼女が退こうとするのを邪魔する。

 

「今は休憩中。だから、そのままでいいですよ」

「……それではお言葉に甘えて」

 

 彼女自身も再び手を背中に回してくる。

 

「…………」

「…………」

 

 流れる静かな時間。何処か安心感を覚えるような温もり。もし、ここに子守歌があったら寝そうな感じがする。……まぁ、俺の子守歌とか永遠に寝せてしまいそうだけど(笑)。……言ってて悲しくなった。誰か否定して……

 

「…………」

「…………(ふー)」

「ひゃう!?け、慧人さん!」

「あ、すみません。ワザとじゃないんです」

「その返しをするってことはワザとですよね!?」

「……そこに耳があったからつい……」

「どんな言い訳ですか」

「言い訳じゃありません。事実です」

「……まさか他の子にも……」

「さぁ?どうでしょうね」

「今すぐやめてください。いいですか?私以外の人にはやらないでください」

「じゃあ、紗夜さんにはやっていいんですね(ふー)」

「ひゃう!?や、やっていいですけどやったらダメです!」

 

 反応が可愛いので続けていたら休憩終わり宣言が出されました。

 そして、休憩後の勉強会は、いつになく厳しかったです。




タイトル詐欺にはなってないよな……?まぁ、大丈夫でしょ。
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