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それは何の変哲もない日常に訪れた最悪だった。
「花音っ!振り落とされんじゃねぇぞ!」
「ふぇぇ!な、なんでこんなことに……」
「………………俺と出会ったからだな」
「ふぇぇ!」
なんてことのないはずの平日の放課後。俺は花音を背負って走っていた。
『待てやコラァッ!』
『テメェ許さねぇぞ!』
『そこに首を置いていけ冬木ぃっ!』
迫り来る狂気から逃げる為に。
何故こんなことになってしまったのか……それは少し時間を戻す必要がある。
「相変わらず……ウチの部活の走る量えげつねぇよな……他から見れば」
俺、冬木慧人が在籍している高校である。
うちの高校は普通科しかないが、男女比脅威の9:1。推測の域を出ないが、大抵の女子は近くにある花咲川女子学園と羽丘女子学園とかに通うため、まず女子が少ない。そして割と近場に女子校がある影響か、よく分からん阿呆な男子が多くなる。きっと女子校の近くだから、女子校の生徒とお近づきになれるとでも思ったのだろう。後は元は男子校説もあるが……少なくともここが男子校だった話を聞いたことがない。
色々と合わさった結果、この奇跡的な比率が生まれることになったのだろう。
俺が所属するのはここのサッカー部。ウチは強豪校ではない。強さで言うなら中の下と言ったところだ。まぁ、『目指せ全国!』というより『楽しんでやろう!』って感じだから部活の空気は軽め。……そうでなければ俺も入ってないし部活なんてとてもサボれないだろう。というか、バイトしている暇があるとは思えない。
長い歴史を見ても我がサッカー部は他の部活に比べて、阿呆であった。先代部長が『ランニングコースに花咲川と羽丘の近場を取り入れれば合法的に女子たちを見られるんじゃね?』という阿呆な発想がなんと代々受け継がれているのだ。当然、俺たちの世代も例外ではない。
では、そのランニングコースを軽く紹介するが、まずは虎南から花咲川付近まで全力ダッシュ。花咲川が近づいてきた辺りから少しペースダウンしつつ羽丘まで。そして羽丘付近から虎南までダッシュする。トータル10km以上の道のりを走るコースである。
走るタイミングは大きく4回ある。まず、放課後部活開始直後。ここで走る理由は単純である。帰宅部の下校時刻と被らせるためである。次は、他の部活が終わる頃を見計らって行う。何故か?部活終わりの女子を見るためである。そして夜、部活終わりにも行う。そのときは、
しかも最近は月ノ森女子学園の近くにも寄っていくルートにしよう!と言い始め今検討中。もしそれが実現すればさらに走る道のりは長くなる。我らが部長の決断が未来永劫残ると思うと重要な気もしなくもない。
と、現時点でもはっきり言って鬼畜だろう。しかし、こんな鬼畜の所業にウチの部活のメンバーは誰も弱音を吐くことはない。何故か?
『やっぱり女子たちは癒しを与えてくれるな……!』
『へばってる所は見せられないぜ!』
『行くぞお前ら!』
『『『おう!』』』
阿呆だからである。阿呆の集まりだからである。
普段女子との接点が皆無な彼らにとっては、このランニング中に見る女子が癒しと言っても過言ではないのだ。
ちなみに『虎南高校サッカー部のランニング』は、この地域では有名なものである。一部の物好きな女子なんかはこれを見ることが楽しみだそう(CiRCLEに来ているバンドメンバー情報より)。だからかは分からないが、時々、声援を送ってくる女子たちも居るのだ。決して勘違いしてはいけないのが、俺たちがイケメンの集団とかモテてる組の集団だからではない、と言ったところか。歴代の部員の中には、応援されてる=自分のことが好きだ、と勘違いし玉砕した者も少なくない。
後はCiRCLEに来る奴らから俺の目撃情報を得ることがある。やめてくれ。わざわざ報告しなくていいから。君たちの言い方は傷つくこと多いから。
でもまぁ我が部員を阿呆だ阿呆だ言っているが、俺自身彼らの気持ちも分からないわけではない。エンカウント率はかなり低いが、紗夜さんをこのランニング中に見た時なんか、疲れなんか全部吹っ飛ぶからな。……あれ?実は俺も阿呆の仲間入り?
とそんなハードなランニングも1周をもうすぐ終え、花のない虎南高校へとたどり着くと言ったところで、
「ふえぇ……」
何か見覚えのある、青髪が見えた。
「ここは……どこ?」
またか。またなのか。……仕方ない。声でもかけるか。そう思い一人減速して最後尾へ。そして……
「……おい」
「ふえぇ!」
少女――ハロー、ハッピーワールド!に所属する松原花音へと声をかける。
松原花音。上記のバンドでドラムを担当する。方向音痴である。で、彼女のバンドのリーダーがちょっとアレなやつのためよく巻き込まれているのを見かける。
ちなみに彼女は紗夜さんと同じ高校で学年も一緒。つまり俺とも同じ学年である。
「あ、ふ、冬木さん……」
「そうだけど……何だ?また迷ったのか?」
「そうなんです……」
「今日の予定は?」
「こころちゃんたちとバンドの練習を……」
なるほどな……。そう思い俺は電話をかける。その相手は数コールしないうちに出た。
『慧人?あなたからかけてくるなんて珍しいわね!』
「だろうな。で、こころ。花音を保護……というか見つけたんだが」
『おぉっ!あたしたちは丁度花音を探しに行こうとしていたのよ!』
「そうかよ……で、どこに連れて行けばいい」
『CiRCLE!』
簡単に言いやがった……地味にここから遠いんだけど……はぁ。どうせ花音一人じゃ迷うのがオチか。
「りょーかい。なるべく早く届ける」
『待ってるわよ!』
切れる電話。…………と、ふと思ったがここの場所伝えるからお前の黒服さんたち使えよ。疲れるから。いや、もう疲れているから。……ただ、今届ける宣言して直後に頼るのは違うだろうな……。
「よし、行くぞ花音」
「あ、ありがとうございます……」
ということで目的地をCiRCLEに変更したその時だった。何やら視線を感じたので振り返って見ると、ウチのサッカー部の集団がこっちを見ていた。その目はどこか嫉妬とか羨望を含んだ感じで…………なるほど。
「悪い花音…………乗れ」
俺は彼女の前でしゃがみ込み背中に乗るようにさせる。
「え?え?」
「いいから。早くしてくれ」
「……は、はい!」
乗ってくる……ははっ。花音は軽い部類だと思うが……それでも流石にさっきまで走っていた身体にはこたえるなぁ……!だが弱音吐いてる場合じゃねぇ……!
「逃げるぞ!しっかり掴まれよ!」
乗ったのを確認したのと同時に全力ダッシュ。
『『『待てやコラァァァッ!』』』
背後の
そして場面は冒頭に戻るのだった。
何故追いかけられているか?悲しいことに、現サッカー部を構成している9割くらいの人間は俗に言う『リア充爆発しろ勢』なのだ。つまり、一人部活をサボり美少女を助けようなんて許すわけないって話だ。…………心の狭い奴らめ。何も言わずに立ち去れば格好いい(多分)のに。
「クソッタレ!何で振り切れねぇんだよ!」
『クソが!何で追いつけねぇんだよ!』
俺と追いかけてる奴らがほぼ同時に同じ意味のことを言う。
いやいや、それはこっちの台詞だわ。お前らさっきまでクソほど走ってただろうが!何でそんな体力あるんだよ!ふざけんなよおい!さっきから距離が全然開かねぇからこう見えて焦ってんだよ!
「な、何で背負いながらそんな速く走れるんですかぁ……」
「そんなことより花音……お前こころの無茶ぶりに慣れてるよな?」
「ふぇ?な、なれてるというか……」
「ちょっとアイツら振り切るために本気出すわ」
「ふぇ?」
更にギアを上げていく。心なしか掴まれる力が強くなるがまぁいい。もう後先考えてる場合じゃねぇ。今はひたすらCiRCLEに向かいながら逃げるだけだ。
花咲川の近くまで行くとまばらではあるが下校中の生徒たちがいる。何人かの生徒がこちらを見ているが周りの目なんて気にしてられねぇ。そいつらを全員避けながらそのまま商店街のほうまで駆けていく。
『キャプテン!冬木先輩商店街に向かってます!』
『構わん!あの野郎を引っ捕らえるぞ!』
いや構え?構えよおい。
と後ろから阿呆な事を言ってるのも、さっき知ってる顔を見た気もしなくないがそんなことはどうでもいい。商店街まで入ればこっちのもんだ。人混みを利用して俺の居場所を特定させない。そして奴らがその人ごみで俺を見失ったところで、CiRCLEに向け全力ダッシュ。単純だがアイツらは俺の目的地を知らない以上効果はある。
「…………はぁ……はぁ……着いた……」
「ふぇぇ……」
「わりぃ……降ろすわ」
追っ手を振り切り何とかゴールイン。花音を無事届けることに成功した。
ヤバい花音を降ろしたと同時に物凄く疲れが押し寄せてきて……。
「おぉ……思ったより早かったわね!」
「…………」
「……冬木先輩……生きてる?」
「…………」
「儚いね」
「…………」
「体力ないねーけーくん」
「…………」
「……花音さん。冬木先輩何があったの?」
「えっと、冬木さんに背負われながら追い掛けられて……」
「何それ面白そう!」
「この格好……冬木先輩。まさか部活中だったんじゃ……」
美咲。それ正解。そしてこころ。俺は面白くない。
「………………わりぃ。奥で休む」
部活?なんだそれ?俺知らねぇわ。
「あ、え、えっと……ありがとうございました!」
「おう……気にすんな……」
その笑顔が見れただけよしとしよう……疲れた。そして決めた。もっと体力をつけよう……と。
「……今井さん。一つ聞いてもいいですか?」
「ん?何かあったの?」
「いえ。先ほど松原さんを背負った慧人さんが全力疾走し、その後ろを男性の集団が追い掛ける姿を目撃したのですが」
(……え?どういう状況なのかすごい気になるんだけど)
「何故かそれを見てから心の中がモヤモヤするというか……」
「はは~ん。それは嫉妬ってやつですよ」
「嫉妬……ですか?」
「そうそう☆」
「なるほど……では私も、乗せてもらえるよう頼んでみますね」
(あ、そっちなんだ。花音に対してじゃなくて、その乗せてもらう行為に対してなんだ)
ちなみに作者の所属する大学の学科は男女比約18:1です。