クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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10,000字超え……最初より、段々と文字数が増えてきた話が続く気がする今日この頃。
皆さんの心の声(という名の幻聴)にお答えして、甘い(?)回です。
紗夜さんが女神になったりポンコツになったり鬼になったりデレたりする回です。


Roselia、襲来 ☆

 土曜日のお昼頃。冬木慧人生徒会長正式就任の次の日のことである。

 

 ピンポーン

 

「いやぁ~一週間ぶりくらい?」

「そうですね。日曜日から木曜日まで合宿で、昨日は学校に行ったそうですがバイトがなかったので会えずじまいでしたから……本当に一週間ぶりです」

「嬉しそうね。紗夜」

「勿論です。昨日はL○NEでやりとりしていましたが……直接会うのは別です」

「あ、昨日はNFOにログインしてたよね!りんりん!」

「少しだけですけど一緒にクエスト周回していました……」

 

 慧人の家の前には五人の少女が居た。彼女たちは午前中の練習が終わると、ファミレスで昼食を取り、その足でここまでやってきたのだ。

 

 ガチャ

 

「はぁーい……あら?慧人のお友達?」

「えぇ。そうよ」

「おぉっ~あの子も隅に置けないね!こんなに連れてくるなんて♪」

「はぁ……」

 

 慧人は基本的に愛想がないというか、纏う空気もそんなに明るいわけでもない。だから、目の前の女性の空気に少し戸惑っている。

 

「慧人さんのお母様……ですよね?」

「そうだよ♪」

「も、申し遅れました。私は氷川紗夜と申します」

「今井リサです」

「湊友希那よ」

「う、宇田川あこです!」

「白金燐子です……」

「うんうん~紗夜ちゃんにリサちゃんに友希那ちゃんにあこちゃんに燐子ちゃん。よろしくね~」

 

 そして、慧人の母は五人の少女を一人ずつ目を向けていって、ある一人の少女にもう一回目を向ける。

 

「あ、あの……どうかされました?」

「あ、ゴメンね!あなたが千聖ちゃんの言ってた紗夜ちゃんだよね~って確認していたの」

「え?白鷺さんと面識が……?」

「何度か会ったよ~そこで紗夜ちゃんと慧人がいい感じって話を聞いててね」

「そ、そんなことないですよ……」

 

(((いや、そんなことしかないでしょ……)))

 

「とにかく直接会えてよかった♪これからもよろしくね!」

「はい……」

 

(流石千聖……まさか、もう慧人くんの母親を懐柔しようとしていたなんて……)

 

「さて、立ち話もなんだから家の中に……ってえぇ!?もうこんな時間!?くぅ……!何でこんな日に仕事があるのよ……!私仕事行ってくるから!あ、慧人は部活から帰って、部屋で寝ていると思うから後よろしく~!」

 

 そして嵐のように去って行く慧人母。残された五人は……

 

「……入りましょうか」

「そうだね~」

 

 とりあえず家の中に入ることに。リビングのところのソファに腰掛け、各々荷物を置くことに。

 

「何か、慧人さんからは想像も付かない人が来ましたね……」

「確かに……あの明るさが少しでも慧人くんに引き継がれていればよかったのにね」

「それだと……もっと暴走していたような……」

「それは相手するのが大変だわ」

「やっぱり、今のままでいいんだよ!」

「でも、けいさんが寝ているらしいですね……」

「そうだね~けー兄もお疲れかな?」

「きっと大変だったんだろうね~」

「あら?それだと彼はお昼ご飯を食べていないのかしら?」

「それはいけませんね。食事はとても大切ですから」

「じゃあ、紗夜~様子を見てきて」

「分かりました」

 

 紗夜が慧人を呼びに部屋に行く。そして、部屋をノックして呼ぼうとした時に気付いた。

 

(……ここで音を立てると起こしてしまうのでは?いや、起きてもらわないと話が進まない。でも、きっと疲れているでしょうから起こすのは忍びない……)

 

 ということで、ノックをせず、静かにドアを開けて、そのまま中に。ドアを静かに閉めるとそこには……

 

「…………すぅ」

 

 静かに寝ている慧人が。普段とは違いその無防備な姿には……

 

「……よく寝ていますね」

 

 思わず紗夜の頬も緩んで、優しい笑顔を向ける。そのまま音を立てずに、近くに寄っていき、身を屈め、慧人の頭のあたりに手を持って行く。

 

「お疲れ様です」

 

 そして、何度かゆっくりと撫でながら考える。

 

(……どうしましょう。ここまで気持ちよさそうに寝ていると起こすのが忍びない……でも……起こさないといけないですし……いや、疲れているだろうし……うーん……一体どうしたらいいでしょうか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

 目を覚ます。以上。

 ……いや、毎回何かを感じたから目を覚ますわけではないよね?ただ、何となく目を覚ます。

 しかし、目を覚まして違和感を感じた。何かに、押さえつけられているというか、何かが俺を拘束している感じがしたのだ。

 

「……これが金縛りというやつか?」

 

 ただ、それにしては何かがおかしい。……そう。俺しかいないはずなのに何故か…… 

 

「…………すぅ」

 

 耳元で寝息が聞こえてくるのだから。そう思って、寝息の聞こえる方へと顔を向けると……

 

「…………すぅ」

 

 ……女神がいた。目の前……かなり近い距離に目を閉じている紗夜さんがいた。

 彼女は俺の隣で、俺に抱きつくような感じで寝ていた。……なるほどな。すべてを理解した。

 

「全く……」

 

 俺は自身の身体を横に向け、彼女の背に手を回して……

 

「…………すぅ」

 

 二度寝を決め込んだ。

 

 

「……遅いわ」

「そうですね……40分くらい経ちました?」

「リサ姉ーそろそろ呼びに行こうよー」

「うーん……そうだね。行こうか」

 

 階段を登って扉を開けるそこには……

 

「「…………すぅ」」

「「「…………」」」

 

 一瞬で扉を閉める四人。

 

「あの二人って付き合っているの?」

「いえ……さっきの氷川さんの反応的にまだかと……」

「もう付き合えばいいのにね」

「本当にね。そこまでいったら早くしてほしいね」

「とりあえず起こしましょう」

「そうですね……」

 

 再びドアを開ける一同。

 

「起きてー!二人ともー!」

「ふむふむ。この体勢……なるほど。多分、慧人くん。紗夜が来てから一度起きてるね☆」

「そうなの?よく分かるわね」

「まぁね♪慧人くんの腕が紗夜を抱き寄せるようにしている。これは寝相がどうでは説明できないよ☆」

「慧人さんが自ら……なるほど。二度寝ですね……」

「そんなことより起きてよー!けー兄!紗夜さん!」

 

 しかし、起きる気配がない。

 

「どうする?叩き起こす?」

「……それは……最後の手段にしましょう……」

「起きてー!朝だよー!今、昼だけどー!」

「これは厄介だね……あこ。ここはアタシに任せて☆」

 

 自信満々に言うリサ。そして、

 

「クールビューティーなポテトの妖精がやって来たよ☆」

「「「どんな妖精!?」」」

「クールビューティー?」

「ポテトの妖精?」

「「「って二人とも一瞬で起きた!?」」」

 

 この後、クールビューティーなポテトの妖精を捜そうとする二人が居たとか居ないとか。

 

 

 Roseliaがやって来て、大体一時間後……。

 

「……はぁ。それにしても、二人とも?一緒に寝ていて、アタシらの存在を忘れていたのかな?」

「私は忘れていたわけではありません。ちょっと抜けていただけです」

「それを忘れていたって言うの!お陰で暖房つけていいかとか分からずに凍えていたんだからね!」

「大変でしたね。あ、暖房はつけていいそうですよ」

「もうつけた後だよ!…………それで?何で起こしに行った紗夜が、一緒に布団に入ってお互いに抱きしめ合って寝ている状況に?」

「これにはマリアナ海溝よりも深いわけがあるんです」

「ほう。そのわけとは?」

「慧人さんが気持ちよく寝ていたからです」

「そこらの水たまりより浅いわけだよ!」

「いいえ。これはとても深いと思いませんか?私は例え日菜が寝ていようと、一緒の布団に入って抱き合って寝るような真似はしません。しかし、慧人さんには半ば無意識にその行いをしていた。そこで思ったんです。これは万有引力と同じだと。私と慧人さんの間には見えない何かが働いていて、自然に引き合うんですよ」

「え……そ、それって……恋の引力?」

「いえ。そんな曖昧なもの私は信じていないです」

「いやいや、この流れは乗ってよ紗夜。そして……」

 

 グイッと耳を引っ張られる感じがする。ちょっ、やめてリサ姐、集中が途切れる……!

 

「今だよりんりん!友希那さん!けー兄を協力して倒すんだ!」

「そうだね。魔王慧人を討伐するチャンスです」

「もちろん。私も手を貸すわ」

「ちょっと待て。今チーム戦じゃねぇだろうが」

 

 俺と友希那さん、りんさん、あこちゃんの四人は、リサ姐と紗夜さんが話す裏でゲームに勤しんでいた。四人で対戦することができると言うことで、スマ○ラをやっている。

 操作キャラは俺が魔王、りんさんがその魔王と同じ作品の姫、あこちゃんが小さいお星様と戦う女性、友希那さんがピンクの歌うアイツ。

 四人、個人個人で戦っているはずなんだが、何故か1vs3の状況に。いや、正確には……

 

「アタシは慧人くんにも言っているんだよ?聞いてる?」

「聞いてません」

 

 1vs4かも。くぅ……この勝負は負けるわけにはいかないのに……!特に何もかかっていないけど!いや、ここは……!

 

「紗夜さん!」

 

 唯一俺の敵に回っていない紗夜さんに頼ることにする。

 

「分かりました」

 

 どうやら紗夜さんも分かってくれたらしい。そう……

 

「……さては、全然分かってないですね?」

「いえ。私だけが何故か攻められる空気はおかしいので、慧人さんも巻き込もうかと」

 

 後ろから抱きしめられている。思い切り阻害されていますね。はい。

 ゲーム内では友希那さん、りんさん、あこちゃんの三人から、現実ではリサ姐と紗夜さんから攻撃を受けている。なるほど、つまり1vs5ということか。

 

「クククッ。思い知らせてやるよ、お前らがどれだけ束になってかかってこようと俺には勝てないって事をなぁっ!」

「そんなことないわ。皆の力を合わせればあなたを倒せるはずよ」

「ふははははっ!今日こそ魔王の座を頂く!覚悟!」

「私たちの最高の連携……見せてあげます……!」

「Roseliaを舐めないでよ☆相手が強くても勝つんだから」

「その通りです。ここで終止符を打たせてもらいますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい攻防の末、勝利を収めた俺。あそこまで言っておいて簡単に負けた日にはちょっとダサ過ぎるので、何とか勝ちました。

 とりあえずゲームをやめて六人で机を囲う。

 

「……で、結局何で俺の家(ここ)に集結したんですか?」

「そんなの決まっているじゃないですか」

 

 そうすると、五人ともが鞄から何かを取り出そうとする。え?何だろう一体。

 

「…………俺、帰ります」

「ここは君の家だよ☆」

「友希那さん!あこちゃん!今すぐ一緒に逃げるぞ!」

「……ダメよ。ここで逃げたら家に帰れなくなる」

「あ、あこも……NFOが出来なくなっちゃう」

「くぅ……ゲームしたいと思いませんか?りんさん」

「さっきまでやりましたので……」

「どうして……どうして……」

「慧人さん……」

 

 肩に置かれた手。しかし、俺にそんな慰めはいらない。

 

「どうして……勉強会なんですかぁぁあああっ!」

「やりますよ」

 

 思わず叫んでしまう。しかし、その叫びは無情にも彼女に届かなかった。

 

「だって、慧人さん。あなたこの一週間、ほとんど勉強していないんでしょう?」

「やれやれ。甘く見ないでください紗夜さん。しっかり昨日、学校に行って真面目に授業を――」

「受けずに寝ていたのでしょう?」

「――う、受けてましたよ……」

「私の目を見て。もう一度、宣言できますか?」

「……も、もちろんです……心の中では」

「…………(ジー)」

「…………(サッ)」

「…………(ガシッ、ジー)」

 

 肩を掴まれて詰め寄られる。その勢いでそのまま押し倒され、逃げられない状況に陥る。彼女の目の奥は全く笑っていなかった。

 

「…………ごめんなさい」

「まぁ、分かっていたことですけどね」

 

 流石にここまでされる程の迫力には負けるよね。うんうん。

 

「さ、紗夜さん怖……あ、あこは真面目に受けているよ!信じてりんりん!」

「う、うん……信じているよ。だから安心して、あこちゃん」

「冬木、完全に負けてたわね。……仕方ないとは思うけど」

「容赦ないな~まぁ、紗夜はスパルタだから仕方ないか」

「何か言いました?」

「「「いえ、何も言ってないです」」」

「よろしい。では始めましょうか」

「「「はーい」」」

「じゃあ、勉強道具持ってきます……」

 

 ……ん?待てよ?勉強道具を取りに行く体でサボれるのでは?そのまま帰らなければ……

 

「…………えっと、何で付いてきているんでしょうかね?紗夜さん」

「いえ。慧人さんの事ですから、勉強道具を取りに行ってそのまま帰らないつもりかと思いまして」

「やだなー紗夜さん。そんなわけないじゃないですか」

 

 何故バレているのだろうか。さっきから色々とバレすぎじゃね?

 

「そうですよね。いくら慧人さんでもそんなバカなマネシナイデスヨネ?」

「も、もちろんです。どうせこの鞄から筆記用具とか出してないんで、戻りましょうか」

 

 こ、こえぇ……!これ、ここで逃げたら即殺されるぞ……畜生。この作戦は失敗かぁ……はぁ。そんなこんなで、戻って鞄から勉強道具を出して、広げる。

 勉強か……勉強…………ん?勉強?

 

「勉強って……何だっけ……?」

 

 あぁ、この一週間本当にやった記憶ねぇや。だって、サッカー漬けで?昨日も色々とあって?まぁ、無理だよね。

 そう思いながら指先で何回か机を叩く。

 

「-・-・ -・-- ・・ -・ ・-」

「慧人さん」

 

 ポンッと肩に手が置かれる。

 

「何でしょう?」

「無駄ですよ。モールス信号で逃げたいとおっしゃっても」

 

 あ、やっべ。伝わっていた。一番伝わっていてほしくない人に伝わっていた。……こりゃダメだ。

 

「・・・-・(了解)」

「そう。分かればいいんですよ」

 

(((いや、何も分からなかったんだけど?)))

 

 おかしい。何でこの人モールス信号が分かったんだ?いや、授業中に俺のクラスで先生にバレないように会話用として使い出したのはいいんだけど……嘘だろ。日菜とかモカとかなら少し時間が経てば伝わりそうだけど、まさか紗夜さんに即バレるとは思わなかった。

 そんな感じで一時間が経過した。あの手この手で逃げようと画策したが全て防がれた。結果、逃げるための打つ手がなくなったので、仕方なく勉強に集中することにした。

 

「と、ここの言葉はこうやって覚えるんです。分かりました?」

「はい」

「よろしい。……ところで、ここの問題なんですがここから先が少し分からなくて……」

「そうですね…………ああ、ここから先は一つ前の小問で出てきたコイツとこの式を組み合わせて……」

「……なるほど。ありがとうございます」

「こちらこそ」

 

 とここでだが、俺と紗夜さんというのはタイプ的に相性がいい。いや、勉強へのやる気皆無で脱走を試みる人と容赦ないスパルタ指導の監視人って意味じゃないから。半分くらい……いや、七、八割くらいそれもあるけど違うから。

 紗夜さんは典型的な努力型、秀才タイプで、一つ一つをきっちり積み上げていく。だから基本事項の暗記が得意で、応用までなら今までの積み重ねで解ける。しかし、難問だったり異質な問題に対して初見で解くことがあまりできないタイプ。

 一方の俺はどちらかと言うと感覚派。天才とまでは言えないが、初見であろうがお構いなしに難問とか感覚的に解けるし、難しい方がやっていて面白いし楽しい。しかし、残念ながら、暗記が苦手で単語、公式などが頭に入ってこないタイプ。

 つまり、俺たちはタイプ的にほぼ対極に位置していると言っていい。だから、紗夜さんは俺に基本事項を教えることで、紗夜さんは知識の定着、俺は教わってそれを覚える。俺は紗夜さんから聞かれる難題に答えることで、紗夜さんは解法の理解、俺は解いて面白さを感じる。双方が双方の苦手な分野を得意な分野で補う関係。相性がいいというのはそういうことだ。

 さらに一時間後。

 

「友希那~あこ~生きてる?」

 

 机に突っ伏す二人がそこにはいた。

 

「勉強なんてなくなればいいのに……」

「あこは二次元に逃げます……」

「お疲れ様……」

「紗夜さん。俺も疲れたので休憩を……」

「まだできますよね?」

「……What?」

「一週間分の遅れを取り戻すには、まだまだ足りませんよ」

「…………紗夜さん。休みは必要です」

「充分休んでいましたよね?」

「…………」

 

 無言で立って、無言で冷蔵庫からあるものを取り出す。

 

「これから休憩用のポテトを揚げようと思いますが、まぁ、休憩なしならこれもなしですよね?」

「……慧人さん。やはり人間の集中力というのは長時間連続で持つものではありません。だからこそ、休憩が必要なんです」

「じゃあ?」

「これから休憩しましょう」

 

((チョロ過ぎる……))

 

「ありがとうございまーす。ポテト揚げまーす」

「お願いします」

 

 流石紗夜さん。ポテトに釣られるなぁ……ちなみにこの家の冷蔵庫には、いつでもポテトを揚げられるようにポテトたちがスタンバイしている。でもまぁ、

 

「……ポテトに釣られて誘拐されないか心配」

「いくら私でもそんな事態は起こりませんよ」

「紗夜さん。俺以外の人にはついて行かないでくださいね」

「もちろんです。慧人さん以外の人について行きませんよ」

 

 そう言いながらポテトを揚げていく。

 

「……冬木」

「何でしょう。友希那さん」

「鞄から何枚か紙が出ているわよ」

「紙……?」

 

 昨日……あぁ、一週間分溜まった配布物をもらったんだっけ?だから、きっとそれだな。多分、親に渡す系のも含まれているだろうし……

 

「その辺に出しておいてください。多分、親に渡すやつなんで」

「そう。分かったわ」

 

 そういや、昨日は帰ってから鞄を開けてなかったなぁーと思いながらポテトを器に乗せていく。まぁ、見られてマズいものなんて入ってるわけないから何でもいっか。

 

「あ、これけー兄のテストだ」

 

 …………ん?テスト?

 

「本当だ。英語の小テストだねー」

 

 ……確か、昨日の1限にテストをして、帰りのHRで返ってきたような……ん?ちょっと待てよ?

 

「……あれ?ここに再試って文字が」

 

 バンッ!

 

「「「…………」」」

 

 りんさんが言うのと同時にテストを裏返す。紗夜さんの方を見ると……やべぇ。すげぇ笑顔だ。

 

「慧人さん?どういうことか説明願いますか?」

 

 そして、聖母を思わせるような笑みで優しく問い掛ける……ただ、それはあくまで表情だけあって、その空気は恐ろしく冷たかった。

 

「き、昨日の1限にあって……俺にとっては抜き打ちだったんですよ。しかも前日の夜中に帰ってきたから寝不足で寝不足で……」

「端的に纏めなさい」

「イエスマム。抜き打ちの小テストより睡魔を優先させました。反省も後悔もしていません!」

「「「な、なんて清々しい開き直り……!」」」

 

 周りの皆はしっかり事前に伝えられていたが俺には伝わっていない。実質抜き打ちだったし良っかなって思ったけど……

 

「慧人さん。私はテスト中に寝るなとは思いません」

「じゃ、じゃあ……!」

「……が、寝た上で再試になるなど言語道断。……ねぇ。慧人さん」

「な、何でしょうか……?」

「冬って寒いですよね」

「何を当たり前なことを」

「冬休みもありますが、寒いですよね」

「ははっ……嫌な予感」

「もし、再試で満点を取らなかったら」

「取らなかったら?」

「あなたに冬休みはないと思ってください」

「……そ、それはどういう意味で……」

「私が地獄の勉強合宿を予て」

 

 恐怖か寒さかは分からないが、震えている手を押さえながら、右手でポテトの端を持って、もう片方の端を紗夜さんに差し出す。すると、

 

「……(モグモグ)」

 

 静かに食べ始めた。先ほどまでの凍てつくような笑顔ではなく、後ろに花が咲いているような笑顔に変わった。

 そしてポテトを食べ終えると、再び凍てつくような笑顔に代わり……

 

「いします。タイムスケジュールを全て私が管理し」

 

 再びポテトを差し出すと、

 

「……(モグモグ)」

 

 静かに食べ始める。そして食べ終わると……

 

「て、徹底的に……(モグモグ)……勉強を……(モグモグ)……叩き……(モグモグ)…………(モグモグ)…………」

 

 な、なるほど。紗夜さんを喋らせないように、ポテトを差し出し続ければ、紗夜さんが話せない!勝った!これは勝ったぞ!

 

 俺は勝ちを確信した。

 

 そんな感じで数分間、紗夜さんにポテトを供給し続けた。しかし、ある問題が発生する。

 

「なっ……!ポテトの残りが少なくなっている!ポテト補給班リーダーリサ姐!ポテトの補給はどうなってる!?」

「残念ながらそれが最後のポテトです(シクシク)」

「泣き真似してる場合じゃないですよ!?このままだと俺が死んじゃいますよ!?」

「うーん。ドンマイ♪」

「軽い!?あまりに軽すぎませんか!?じゃあ、ポテト補給班サブリーダーりんさん!ポテトの補給を!」

「え、えっと……そ、そんないきなり言われても……」

「そうこう言ってる間にポテトがなくなってしまう……一体どうすれば……!」

 

 紗夜さんにポテトをお供えしなければ……!少なくとも俺が死んでしまう……!

 

「……こうなったらRoseliaの全員を巻き込んで死ぬしか」

「「それはダメ!」」

「なっ……!同士の友希那さんにあこちゃん!我ら死ぬときは一緒のはずでは!?」

「ふざけないでちょうだい!私は勉強をする気は更々ないわ!」

「いや、それはそれで問題だよ?友希那」

「そうだよ!勉強なんかよりバンドとNFOだよ!」

「でも、勉強も少しはしないといけないよ……?」

「俺も勉強なんてする気ないですよ!そんなやる気ゼロですよ!」

 

 と、紗夜さんの方を見ると……あ、やっべ。ポテトが切れた。そのせいで、無茶苦茶お怒りだ。

 

「慧人さん。何も怖いことはないんですよ?」

「え?いきなり何が?俺、今から殺されるの?」

「紙とペン貸そうか?」

「じゃあ、最後に書くか……」

「地獄の勉強合宿と言いましたが、実際は全然そんなことないんですよ」

「……え?そうなんですか?」

「はい。朝、起床と共に勉強。私が朝食を作っている間に勉強。朝食を食べている間も勉強。そこから午前中は勉強。私が昼食を作っている間にも勉強。昼食を食べている間も勉強。午後からも勉強。途中から、隣で私がギターの練習するので、音楽を聴きながら勉強。私が夜ご飯を作っている間も勉強。夜ご飯を食べている間も勉強。夜は私がNFOをしているのを尻目に勉強。お風呂に入っている間も勉強。電気を消しても私が寝る寸前まで耳元で暗記物を囁いてあげますので実質勉強と、素晴らしい合宿となっております」

 

(((うわー……超スパルタ)))

 

「あは、あはは……そんな一泊二日は嫌だな……」

「一泊二日?これは冬休みにやることですよ?」

「…………」

「一日16時間以上は勉強できますね」

「…………」

「大丈夫ですよ慧人さん。私があなたの身の回りのことはすべてやりますので、あなたは勉強のみを出来ますよ。……も、もし、あれだったらお風呂も一緒に……(ぼそぼそ)

 

 ぜ、全然大丈夫じゃねぇ…………!というか、それを地獄と言わず、何と言えと?

 

「さ、紗夜さん?運動しないと俺の身体が鈍ってしまいます」

「それでしたら起床してから朝食前に勉強しながらランニングを。午前中もボールを蹴りながら勉強すれば完璧かと」

「…………」

 

 悪化した。事態が悪化した気がする。多分、ここで本当は夜遅くに運動しているなんて言おうものなら……ガチで死ぬな。うん。いや、待てよ?冬休みは年末年始……

 

「あーでもー家の大掃除しないといけないなー」

「私がやりますのでご心配なく。慧人さんは安心して勉強してください」

「……あー大晦日は年越しそばを、こたつに入って()()()()()食べたいなー」

「では、大晦日の夜は年を越すギリギリまで勉強。年越しそばは私が準備をし、こたつに入って、暗記物を見ながらそばを食べれば完璧かと」

「…………あーやっぱり年越しは除夜の鐘の音を聞いてぼーっとしたいなー」

「ふむふむ。除夜の鐘の音が一回聞こえると共に煩悩と一つの課題を終わらせると。そうすれば、理論上108つ課題が煩悩と共に消えるかと」

「………………あー初詣に行きたい気がするなー」

「なるほど。それなら、私が隣で一問一答の問題を出しながら神社に行きましょう。一問間違えるごとに、私にポテトを奢ると言うことで。一間違い一ポテト。素晴らしい制度ですね」

 

(((…………これが墓穴を掘るということか)))

 

 俺は勉強時間を減らそうと頑張った。そしたら、勉強時間が増えた。何を言っているのか分からない?俺も何が起きているか分からない。

 というか、彼女の言っていることがよく分からない。え?日本語は分かるんだけど、何かとんでもない発言が出てこなかったか?気のせいか?

 

「そ、そもそも。それだと、紗夜さんの()()()()()()冬休みが潰れてしまいますよ?それにほら。()()()家に連泊とか、何か()()()が起きてしまうと……」

「ずっと、慧人さんの隣に居られるのでオッケーです。親も認めさせますよ。……そ、それにその間違いなら……起きてもいいかもって……(ぼそぼそ)

 

 …………終わった。全てが終わった。…………いや、待てよ。まだワンチャンある。

 

「さ、再試で満点を取れば回避できるんですよね?」

「…………まぁ、そうですね」

 

(……ん?紗夜が残念そう?……ま、まさか、紗夜……さっきの合宿でずっと慧人くんの傍に居られるから……って、いやいやいや!流石にそんな地獄みたいなスケジュール、誰でも嫌だよ!多分そのデレは殆どの人が受け取らないよ!)

 

「紗夜さん。俺、目が覚めました。今から死ぬ気で勉強します。冬休みに凍死しないために」

「分かりました。その熱意にお応えして、私も本気で勉強を叩き込んであげます……あなたを殺す気で」

「「…………!」」

 

 英語のテキストを開き、勉強を再開する。満点を取らなかったら死ぬ。これだけは避けなければ……!…………あれ?そういや紗夜さん、最後になんて言った?まぁいっか。

 

「アタシたちもそろそろ勉強を再開しようか」

「そうですね……やりましょうか」

「わ、私はもう少し休みたいわ」

「あこもです」

「いいのかな~?慧人くんみたいにRoselia、地獄の勉強合宿を計画してもらう?」

「今すぐやるわ」

「あこもあこも!」

「うんうん。よし、やろう☆」

「あはは……じゃあ、頑張りましょう……」

 

 この後、休み明けに別の科目の単元テストがあることもバレた。そして、そちらも満点を取らないと地獄合宿コースになったため……あ、死んだな、これ。




皆さんは、紗夜さん計画の勉強合宿を体験したいですか?冬休みなので10日間ぐらいその生活を送れるとしたら送りたいですか?私は遠慮したいです。

☆のヒント、一番空白の部分が広いとこ。

次回、この作品で一番キャラ崩壊していると言っても過言ではない彼女の回です。
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