というわけで誕生日回です。慧人の誕生日回より時系列的には後ですので……二人は付き合っています。
後、先に言っておきます。百人一首が猛烈に好きな方は怒らないでください。
3月19日。その日、Roseliaの紗夜を除く4人が慧人の家にやって来ていた。
「でーここはそんな感じでいいかなーって、けー兄!そのコンボはやめて!」
「いやいや、そこはこんな感じで……っと、油断しているとこが悪い」
「そうですね……ここはもっと……横ががら空きですよ、今井さん」
「うんうん。さっきよりいい感じ……ってうわぁ!?撃墜された……」
「そうね。いいと思うわ。……最下位はリサかあこかしらね」
ちなみに大○闘をしながらの会議である。最下位が交代ということにしているが……
「そもそも、紗夜さんの場合は特殊なんだよね……やったぁ!リサ姉を撃墜して最下位を免れた!」
「そうそう。ヒナも居るから、絶対に夕食とかまでは出来ないもんね……うわぁ~やられちゃったかぁ」
「そうね。双子だから、家族の方でも何かあるでしょう……次は私の番ね」
「それと千聖曰く、日菜の誕生会もやるそうですよ。場所は事務所で……っと、流石りんさん。簡単には倒させてくれませんか」
「場所が被っていなくて……よかったです。イレギュラーが起きなさそうで……ふふっ、けいさん。覚悟してください」
「というかこの状況って、紗夜さんにバレたらマズくないですか?」
「彼氏の家に無断で集まってゲームしているってこと?」
「そうそう」
「大丈夫よ。よくあることだわ」
「まぁ、紗夜さんは懐が広いんで問題ないですよ」
「万が一の時は……けいさんを差し出せば解決……」
「あ、それもそうだね!じゃあ、いっか!」
「待ってください。死なば諸共。あなたたちも同罪ということで一緒に死んでもらいます」
「大丈夫だって!バレても、紗夜はきっと許してくれるよ。それかお説教で済むくらいだよ」
「それよりけいさん……これで撃墜です」
「やばっ、完全に意識が逸れていた……!」
「じゃあ、次の試合ね」
こうして、彼と彼女たちの戦い(会議)は夜まで続いた。
3月20日の昼頃。
「ふぅ……これなら紗夜さんも驚くよね!」
「そうだね~。あれ?慧人くん、こっちに居ていいの?」
「まりなさんに接客などの仕事を丸投げしたんで問題ないです」
「それ、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。少しお話ししたら快く受け入れてくれました」
「……慧人くん。上司を脅すのはダメだよ?」
「いやいや、話しただけで脅してないですよ?」
酷いなぁ。本当にちょっと他愛もない話をしただけなのに。
「…………というか、紗夜じゃなくても驚くと思うのは私だけかしら?」
「多分……誰もが驚くと思います……」
「とりあえず、セットは完了したんで……っと、まりなさんから紗夜さんが来たとの報告が。電気を消して、各自所定の位置にいましょうか」
「そうだね~」
ということで、電気を消して各々が予定通りの位置につく。
そして十数秒後、扉が開いた。
「まだ誰も居ませんね」
どうやら、俺たちが居るというのは気付かれていないらしい。そして、部屋が真っ暗ということで、電気を付ける紗夜さん。電気が付いて彼女の目の前に現れたのは……
「なっ…………!」
見えるのは、机の上に置かれた軽食の数々と、飾り付け。その中でも一際
「こ、これが……!かの伝承に記されたとされる……ポテ山……なんですか……!」
ポテトの山である。ただ山積みになっているポテトではない。精巧に積み上げられた美しいポテトの山である。その美しさはポテト狂いの紗夜さんをうならせるものだった。
…………ところで、そんな伝承聞いたことないんだけど?
「な、なぜ、このような神秘的で、恐れ多いものが……!」
「紗夜さん。誕生日おめでとうございます」
「「「誕生日おめでとー!(おめでとう)(おめでとうございます)」」」
そして、陰から現れた俺たち。サプライズは成功に思えた……が、一つだけ誤算があった。
「……皆さん……!ありがとうございます」
「……えーっと、紗夜?とりあえず、ポテトの山から視線を移してもらっていいかな?」
「はい。移しましたよ」
「いや、移ってないですよ!身体がこっち向いただけで、顔と目はまだポテトの方を向いています!」
「これで……!」
「視線がまだポテトの方に行ってますよ……」
「くぅ……何という引力……!流石はポテ山……!目を放すことが出来ません……!」
「……どんな引力よ」
「しかも……!
「ポテト断ちは一昨日からやった気がするんですけど?」
酷いなぁ。俺は、紗夜さんにここで食べるポテトをよりおいしく感じてもらいたいという純粋な思いで、ポテト断ちしてもらったというのに。
……でもまぁ……うん。こんな風になってしまう彼女を見て改めて思った。ここまでのレベル……彼女はポテト中毒かもしれない。そんな彼女のためを思うのなら、普段からポテトを断つことはやるべきかもしれないな、と。
「……うーん、もう食べ始めていいんじゃないかな?」
立てていた進行プラン、誰かさんが思った以上にポテトに食いついたため、変更せざるを得ない状況に陥っている。今から変更か……
「あ、いいこと思いつきました。このまま紗夜さんの目の前でこのポテトの山を俺たちで食べ切るのはどうでしょう」
(((うわぁ……とても彼氏がするとは思えない残酷な提案。しかも、その相手を祝うために作ったのにお預けとか……)))
「そうすれば……って、紗夜さん。冗談です。冗談なので、そんな捨てられた子犬のような、情に訴えてくる哀しい目を向けないでください。俺の中のちょっと嗜虐的な心がくすぐられるので」
(((それってただのドSじゃ……)))
「紗夜?慧人くんを倒せばアレを食べられるよ」
「分かりました。3秒下さい。すぐに沈めます」
「分からないでください?いや、マジで『コイツを殺れば……!』みたいな目を向けてジリジリと詰め寄らないでください?」
「あはは……もう……食べていいんじゃないでしょうか……」
「そうだよねー友希那さん!お願い!」
「分かったわ。じゃあ、食べましょうか。せーの」
「「「いただきます!」」」
そう言うと真っ先にポテトの山に向かう紗夜さん……っと。
「すみません!手を洗ってくるので少し待っていてください!」
荷物を置いて反転。ドアを開けて出て行った。
「理性が残っていた……」
「すげぇ……もしかして、前より成長したんじゃ……」
「ですよね……」
「一応、アタシたちももう一回手洗ってくる?」
「そうだね!」
食事の前に手を洗う。確かに、当たり前のことだけど……まさか、それに気付くだけの理性があそこから残っているのは正直、予想外だった。
「あ、紗夜さん。その山は紗夜さんが全部食べていいですよ」
「えっ!?本当にいいんですか!?ありがとうございます!」
「もう……他のも食べてよ?」
「紗夜の自由にさせてあげましょう」
「今日くらいは……いいと思います」
「でもどれも美味しいね~流石けー兄にリサ姉!」
「リサ。あなた少し上達した?」
「今までより……磨きがかかっています」
「気付いてくれた?実はね――」
「というか、紗夜さん?話、聞いてます?」
「ポテトが美味しいってことですか?」
「聞いてねぇわこの人」
一心不乱ではないが、もぐもぐとポテトを食べる彼女の姿。うん、とても可愛い。唯一残念なのは彼女がポテトしかまだ食していないということぐらいだ。
「ところで、紗夜さん。ポテ山って何の伝承に乗っているんですか?」
「……慧人さん。あなた知らないんですか?もう、この界隈では有名な伝承ですよ?」
「その界隈、凄く狭そうですね」
「いいですか?昔々、とある地で飢饉に襲われたそうです。その地ではその年、作物の実りが不作で多くの人が食べることができなかったそうです。その地の人々は毎日のように働き、祈りました。しかし、一人、また一人と倒れていきます。そんな惨状を見かねた神様はその地にフライドポテトの山……ポテ山を生み出したとされます。天より与えられたポテ山は、その地に住む人々の飢えを解消。以来、その地では、毎年ポテトを神様にお供えするのが決まりになったとされます」
「…………」
なわけあるか。
「今、日本は関係ないって顔しましたね?」
「日本どころか、この世界に関係ないと思ってます」
「やれやれ、昔の有名な人々は、ポテトに関する和歌をいくつか残しています。当然、あなたも勉強しているはずですよ?」
「聞いたことないんですけど?」
「全く、しっかり授業を聞いていないからです。仕方ありません。ここは何首か詠んでみましょう……こほん。『君がため 春の野に出でて ポテト摘む わが衣手に 雪は降りつつ』意味としては、『貴方に差し上げる為に春の野に出てポテトを摘んでいると、わたしの袖に雪が降りかかっておりました』……いい話だと思いませんか?」
「待ってください。摘んだのポテトじゃなくて若菜です。詠まれた時代は、贈り物に和歌を添える風習があったそうで、今で言う春の七草を贈る時に添えた和歌と言われていますが」
「ポテトに和歌を添えて贈る……いい話ですね」
「話聞いてました?それと、旧暦の春なので、今でいう冬に近いはずです」
「そこまでして、ポテトを取ってきて贈るなんて……余程相手のことを慕っているんですね」
「まぁ、その贈った相手は不明なんですけどね。恋人だとか、その時の権力者と言われています……じゃなくて。誰もポテトは取ってきてませんし贈っていません」
「ふふっ、私にはそんな相手が居てくれるので……嬉しい限りです」
「ポテトを摘む気はねぇですけど」
嫌だわ。雪で濡れたフライドポテトとか想像しただけで、ふにゃふにゃじゃねぇか。
「……『人はいさ 心も知らず ふるさとは ポテぞ昔の 香に匂ひける』意味としては『人の心はわかりませんが、昔なじみの里のポテトの香りだけは変わっておりません』……ちなみに、ポテトだと字数がオーバーしてしまうため、ポテトをポテと称していますが、素晴らしい和歌だと思いませんか?」
「……それ、ポテトの香りじゃなくて花……正確には梅の花だったと思いますけど?確か、久しぶりに慣れ親しんだ土地をたずねたときに、よく宿泊していた宿に顔を出したけど、宿の主人に皮肉を言われた。そこで、近くの梅の花を手にとってこの歌を詠んだ……と記憶しています」
「近くのフライドポテトじゃダメですか?」
「やめなさい」
もう、この人の頭ダメかもしれない。ポテトに汚染されている。
「…………『大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天のポテ山』」
「おっと、遂にポテ山が出ましたね?」
「えぇ。『大江山や生野を超えて丹後へゆく道のりは遠いので、まだポテ山の地を踏んだことはございませんし、丹後の母からの文もまだ届いていません』というものです。昔は天をも貫くような偉大なポテ山が丹後の地にあったとされ、それを称える……」
「遂に色々変えやがったですね。それは有名な歌人を母にもつ読み人が歌合わせの時、相手の人にからかわれた時に返した句で、別にポテ山……というか、元の天橋立を称える歌じゃなかったはずです」
「………………『いにしへの 奈良の都の ポテ桜 けふ九重に 匂ひぬるかな』意味は『昔栄えていた奈良の都のポテ桜が、今日はこの九重の宮中で色美しく咲き誇っている』ですね」
「ポテ桜って何ですか?」
「昔はポテトが桜のように咲く植物があったそうです。美しく咲き誇っているなんて、私も一目見てみたいものですね」
「それ八重桜の間違いなんで、はい。そんな桜ないです」
「つまり……伝説の桜?」
「違います。それとその歌だと、八重桜の八重と九重が対となっているのに、対となる言葉が一つ消えるのでその歌の良さが消えてますよ」
「…………」
「…………」
「今井さん。彼氏がいじめてきます。助けてください」
「リサ姐。彼女が末期です。助けてください」
「うん。どっちもどっちだと思うよ☆」
「むぅー慧人さん。こうなれば、次の和歌を詠むだけです」
「はっ、全部言い返してやるので覚悟してください」
こうして、誕生日会にも関わらず、俺たちの喧嘩が勃発した。
「誕生会そっちのけで始まったわね。痴話喧嘩」
「でも、紗夜さんが言っている和歌がよく分かんないよ……」
「全部、百人一首の一部分をポテトに変えているね~。頭がいい馬鹿ってあの二人のことを言うんじゃないかな?」
「喧嘩のレベルが……高いような……低いような……」
「でも、紗夜はともかく冬木も詳しいのね」
「和歌なんて、全然興味ないと思ったのにねー」
「というかよく覚えているよね~アタシは有名なやつしか覚えてないよ……」
「私もあそこまでは……よく分からない記憶力です……」
「今日はありがとうございます」
誕生日会も、途中で口論になったけど無事に(?)終わった。
「でも、慧人さんからのプレゼントは意外でした」
「そうですか?」
「えぇ。一つは羊毛フェルトで作られた小さな犬。もう一つはチューリップの花が描かれた栞。ねぇ、慧人さん。黄色いチューリップは3月20日の誕生花なのですが、何故このチューリップは紫色なんですか?」
紗夜さんが取り出したのは俺が贈った栞。あー確かに。知っている人からすれば気になるか。
「黄色いチューリップが誕生花ってのは調べたんです。だけど、何か贈るのは違う気がしたんですよ。で、1番しっくり来たというか、いいかなーって思ったのが紫色だったんです」
「……ふふっ。慧人さん。花言葉って知っています?」
「花言葉?」
「花にはですね。それぞれ言葉が込められているんです。同じ花でも色によって意味が変わってくるものもあるんですよ」
「へぇーそうなんですね」
花言葉っていう存在は知ってたけど、何の花に何の花言葉があるかまでは知らないし、まさか同じ花でも色が違うだけで意味が変わるなんて知らなかった。……中々深いなぁ。
「ちなみに、誕生花である黄色いチューリップと贈った紫色のチューリップの花言葉は何ですか?」
「内緒です」
「えぇー教えてくださいよ」
「秘密です」
「よく分かんないですけど、紗夜さんが凄い嬉しそうなんで、きっといい意味なんですかね?」
「えぇ。とても」
うーん……どんな意味だろう。まぁでも、調べる……って言っても忘れそうだなぁ。
(黄色いチューリップの花言葉は『望みのない恋』そして、紫色のチューリップの花言葉は――)
「慧人さん」
「はい?」
横を向くと彼女の顔がすぐそばにあった。軽く背伸びをし、自身の唇をこちらの唇に合わせてくる彼女。数秒の後に離れ、彼女は言った。
「あなたのことが好きです。大好きです」
「俺も好きですよ。紗夜さんのこと」
「これからもずっと、傍に居て下さいね?」
「紗夜さんこそ。約束ですよ?」
空を見れば綺麗な夕焼けが。
紗夜さんから贈られたチョーカーに手をかける。すると、彼女も贈った栞を大切そうに抱える。
お互いのその姿に何処か笑みがこぼれて、こんな時間がずっと続けばいいのになって思えてしまう。
「では、そろそろ」
「えぇ。そうですね」
「慧人さん。今度、デートしませんか?」
「もちろん。お互いの予定が空いている時に」
「ふふっ、楽しみにしていますよ」
彼女と手を振って別れる。俺は踵を返して、自身の家へと向かう。
花言葉か……よく分かんないけど、まぁ、嬉しそうな彼女が見られたからよしとするか。
(ねぇ、慧人さん。紫色のチューリップの花言葉は『不滅の愛』なんですよ?)
ちなみに後日、しっかりと日菜にも誕生日プレゼントを渡しています。
というか前回の千聖さんの話から高評価もお気に入り登録も増えて……ありがとうございます。……うちの千聖さんは人気なのか?