クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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お気に入り登録ありがとうございます。感想もいつもありがとうございます。
Twitterで更新のお知らせ以外に何を呟こうかよく分かってないけど、いいねとかリツイートしてもらえるとおぉーって思う今日この頃。皆様、いかがお過ごしでしょうか。私は来週にはテストが控えていますが、しっかり現実逃避をして……え?来月終わりにはこの作品一年経つってマジ?まだあの二人付き合ってないんだけど?嘘でしょ?

……まぁ、そんなことはおいといて、今回はタイトルの通り彼女の主役回です。


VS. 今井リサ

 アタシと慧人くんが出会ったのはまだRoseliaが出来る前。あこのオーディションの時だった。

 

「すみませーん」

 

 アタシはベースを借りるために受付にいたスタッフに声をかける。さっき入るときは誰も居ないように見えたけど、今は男の人が一人だけ居た。……何か目を閉じているけど寝ていないよね?

 

「……っ!」

 

 一瞬で怖さを感じた。

 静かに開かれた目はどこか細く、目の前に居たアタシを睨みつけているように思える。彼の視線に射貫かれ、身体がまるで岩のように硬直してしまう。そんな中、立ち上がったその姿はアタシより高いもので上から見下ろされている感じがして……。

 

「用件は何でしょうか?」

 

 後頭部を軽く押さえながらアタシに用件を聞いてくる。

 どうしよう。この人は怒らせたらマズい……いや、もう怒っている?え?でも、アタシはただ声をかけただけだし……えっと、どうすれば……

 

「……?」

 

 彼は多分、不思議に思っていただけだろう。話しかけてきて、一向に用件を言わないアタシを見て。

 でも、彼に恐怖を感じていたアタシにとっては、そのただ待っているだけの彼が、早く用件を言えと催促しているように見えて……

 

「べ、ベースを貸して……ほしいんですけど……」

 

 何時になく消極的な声。自分でもびっくりするほどに声が出なかった。もしかしたら、声が相手に聞こえていないかもしれない……そう思うと、何か言われるのではないかという怖さが襲ってくる。

 

「ベースね。少し待って下さい」

 

 どうやら伝わっていたらしく、ベースを取って来てくれる。

 

「はい、こちら貸し出し用のベースです」

「あ、ありがとうございます」

 

 受け取り軽くお礼を言って、足早に去って行く。アタシの中では一刻も早く立ち去りたい。その思いしかなかった。

 そして、セッションの後。アタシとあこが友希那と紗夜に認めてもらえて……

 

(うぅ……どうかあの人がいませんように)

 

 ベースを返すとき、恐らく初めてこんなことを思っていた。誰に対してもある程度関わることができるが、彼だけは自分の中で怖いイメージが強すぎた。だから、居ないことを願ったが……

 

(うぅ……あの人しかいない……)

 

 その願いは届かずその男の人だけだった。

 アタシがちょっと足を止めて、覚悟を決めている間、他の三人は特に何も思うことなく受付に向かっていった。

 

「冬木。次の予約を取りに来たわ」

「へーい」

「…………え?」

 

 友希那が特に恐怖とか感じるわけでもなく、平然と彼に話しかける姿を見て驚いた。

 

「お?紗夜さん。友希那さんと二人じゃなかったんですね」

「えぇ。彼女たちもバンドメンバーに加わ……何で泣いている真似をしているんですか?」

「性格がキツめ……失礼。理想が高いお二人に賛同してくれ、二人が認めるメンバーが現れるとは……ちょっと感動しました」

「あなた煽っていますよね?完全に。……はぁ。早く仕事してください」

「はーい」

「ってあれー?けー兄じゃん!どうしてここに?」

「ん?あこちゃんか。俺はバイトだよ。お前は?」

「ふっふーん!あこはね!遂に友希那さんたちのバンドのドラマーになれたんだよ!」

「おぉーよかったな。アレか。友希那さんがお前が言っていた人だったか」

「うん!」

「……二人は知り合いなの?」

「そうですね……っと、この時間とかどうでしょう?」

「そうね……私は大丈夫よ」

 

 友希那、紗夜、あこ。三人と平然と話せている彼。恐怖と言うより驚きも合わさって……

 

「リサ。早くベースを返したら?」

「あ、う、うん」

 

 そんな固まっていたアタシに友希那が声をかける。あ、あれ?も、もしかしたらそんなに怖くない人……?

 

「え、えっと、ベースを返却しに来ました……」

「確かに受け取りましたっと。友希那さん。この人もバンドメンバーですか?」

「……そうね」

「なるほど。あ、俺は冬木慧人と言います。ここのバイトです。よろしくお願いします」

「い、今井リサです……」

「この人、見た目は怖そうですが中身は残念ですので警戒する必要はないですよ」

「さ、紗夜さんの紹介が残念過ぎる……」

「そーだよ!けー兄は頭ぶっ飛んでるけど優しいから怖がらなくていいよ!」

「あ、あこちゃんまで……」

「……冬木。とりあえず怖がらせないようにしてちょうだい」

「そんなつもりないんですけど……」

 

 これがアタシとの出会い。今にして思えば、慧人くんに恐怖心を抱いていたって思うと少し笑えてくるような……。

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 

「リサ」

 

 壁際に立っているアタシ。慧人くんの片方の手がアタシの顔の横にあり、彼の片方の膝が股下を通って逃げられないようにされている。俗に言う壁ドンというやつだ。

 

「お前は今から俺のモノだ。いいな?」

 

 空いている手でアタシの顎を軽く上に持ち上げる。近い距離でアタシと彼の目が合う。

 

「はい……」

 

 そして、その距離は段々と近づいていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って感じで、どうでしょう?」

 

 その距離がゼロになる前に止めて、俺は彼女から離れ、ベッドに腰掛ける。

 

「慧人くん……余韻に浸らせて……」

「はぁ……」

 

 目を閉じて座り込んでいる彼女。何だろう。今の彼女は放置するに限る気がした。

 そもそも、何であんなことをしていたか。

 少し前、氷川家父親暴走ポテト事件の際にリサ姐に借りが出来た俺。昨日、L○NEで『明日の午後、家に行くからよろしく☆』って送られて家に来た彼女。そして、彼女がその借りの代償に差し出したのが、持ってきた恋愛小説にあった告白シーンの再現。……まぁ、まだ健全なやつを選んだと思いますね。千聖だったら絶対に官能小説のワンシーンを再現させられそうだからな(偏見)

 数分後。どこか顔が紅い彼女が隣に座ってくる。

 

「ん?終わった?」

「うん~いやー流石慧人くん☆あれにはアタシも演技だってこと忘れそうだったよ☆」

「そりゃどうも。何処かの腹黒ロリ金髪ベーシストに、鍛えられることもあるからな」

「凄い……今の聞いただけでも君が指しているのが千聖って分かる」

「まぁ、間違ったことは言っていないからな」

「あはは~……でもさぁ、慧人くんって緊張とかしてないよね」

「うーん、緊張しないタイプの人間なんで。リサ姐相手でも変わらなかったということで」

「むぅ~それはアタシに魅力がないってこと?」

「いえ、リサ姐は魅力的だと思いますよ。優しく家庭的で、可愛いらしく。日頃、余裕があるように見せて、ふいに照れたときとかはその可愛さが倍増するというか」

「……そ、そーかな~」

「そうそう。そういうところですね。後は……胸がそこそこあるとこですか?」

「……慧人くん。正座ね」

「はい」

 

 ということで即床の上で正座する。

 

「でも、事実だと思うので否定はしません」

「君のそういうところは凄いというか……呆れるというか」

「ありがとうございます」

「褒めていない」

「でも、よく考えてください。千聖とか紗夜さんよりは大きいですよね」

「……そんなに胸に興味があったの?」

「いえ、そんなにないです」

「はぁ……相変わらずペースが独特というか何というか」

 

 頭を押さえているリサ姐。その表情は何処か呆れを感じさせる。

 あ、なるほど。普段千聖と話すとこれくらいはデフォなんだけど、普通はこういう話をしない方がいいのか。納得納得。

 

「とりあえず、正座崩していいですか?」

「いいよ~」

 

 ということでベッドに腰掛ける。すると……

 

「どうしたんですか?」

「……甘えていい?」

「どうぞ」

 

 膝の上に頭を預けてくるリサ姐。後頭部を俺の身体の方に向けていた。

 

「アタシさ……多分、周りの雰囲気とかが気になっちゃう性格なんだよ」

「まぁ、多分そうなんでしょうね」

「だからさ……こうやって、他人に甘えるとかさ……相手の顔色を伺ってからしか出来ないの。程度もさ、どこまでなら迷惑にならないかとか考えちゃうし」

「それでいいと思いますよ。そういう優しさがあるのがリサ姐なんですよ」

「ありがと……」

「俺は周りを考えることは少ないですからね……」

「うん。知ってる」

「安心してくださいよ。俺が迷惑って思うことはほとんどないですから」

「ふふっ、じゃあさ……ちょっと借りるね」

 

 そう言うと俺の左手を取り、そのままぎゅっと握り始めた。

 

「……何か嫌なことでもありましたか?」

「……ううん。そういうわけじゃないよ」

「そう……」

 

 踏み込むことはしない。話す気がなかったり、本当に何もないのに聞いても仕方ないと思うからだ。

 少しの間の静寂……それを打ち破ったのは彼女の言葉だった。

 

「…………ねぇ、慧人くん。アタシってさ、重い女かな」

「…………」

 

 体重が、ということだろうか?

 

「うん、慧人くん。体重の話じゃないからね」

 

 何故バレた。何故、見えていないはずなのにバレた。

 

「……はぁ。失礼しちゃうな~ほんと」

「で、重いというのは、どういう意味でなんですか?」

「相手の負担になりやすい……と言ったら分かるかな?主に恋愛とかで相手が精神的に負担だと思っちゃう感じ」

「ほうほう……あれ?リサ姐って彼氏いましたっけ?」

「ううん~居たことないよ~」

「じゃあ、なんで?そういうのって、実際起きないと分からないんじゃないんですか?」

「うーん、起きていなくてもなんとなく分かるんだ。もし、そういう相手が出来たらトコトン尽くしちゃうと思うし、それでいてこうやって甘えたくなっちゃったりして……それが続くと最初は良くても段々、負担に思われるんじゃないかなー……って」

「……なるほど。でも、それって、誰かに言われたんですか?重い女って」

「直接じゃないけど……重そうって。考えても当てはまるところあるなーって……」

「うーん……正直、重い女ってイメージが掴み切れていないのですが、要は相手の受け取り方も関係してくるんですよね?」

「……そうだよね。…………慧人くんならさ。そういう人でも……受け入れてくれる?」

「どうでしょうね。他の人相手はよく分からないですが……」

 

 ぽん、と彼女の頭の上に右手を置く。

 

「……リサ姐相手なら、きっと受け入れられる……そんな気がしますよ」

「ふふっ、そこは『きっと』とか『そんな気』じゃなくて、『絶対』とか断言して欲しかったなー」

「生憎。俺は保証できないことを断言できないんでね」

「…………ありがと。少し気が楽になったよ」

「そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったより時間経っちゃったなー」

「そうですか?」

 

 外を見ると、気付けば日が沈みかけていた。そう思っているとリサ姐は立ち上がり大きくのびをする。

 

「ところで今日、ご飯はどうするの?」

「食べに行こうと思ってます」

「そうなの?」

「えぇ。もしよければ、一緒に来ますか?」

「いいの?他に誰か誘っているとかじゃないの?」

「いいえ。元々、一人で行くつもりだったので」

「ふーん、じゃあ一緒に行かせてもらおうかな?」

「分かりました」

 

 その返事を聞くと俺はあるところに電話をかける。相手は数コールの後に出た。

 

「もしもし、メイか?」

『メイです!慧人先輩!どうしましたか?』

「大将に伝えておいてくれ。一人連れてく」

『分かったです!あれ?もしかして、夏樹先輩ですか?』

「東雲の野郎じゃねぇ。まぁ、とりあえず一人増えたって伝えといてくれ」

『任せてください!じゃ、いってくるです!』

 

 切れる電話。相変わらず忙しないというかなんというか……

 

「え?今の電話の相手って……」

「これから行く和食の店の店主の娘ですね。行く人数が増えたので報告です」

「……慧人くんって……結構謎が多いよね……」

「そうですか?とりあえず行きましょうか」

 

 ということで上着を羽織って階段を降りていく。

 

「忘れ物は大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 鍵をしっかりと掛けて家を出て行く。

 

「前々から約束していたの?」

「しばらく顔を出していなかったんで……そろそろ行っておこうかと」

「常連だったってこと?」

「うーん、隠すことでもないか……一時期、その店で厄介になったんですよ」

「厄介って……?」

「まぁ、修業って言ったら聞こえはいいですかね。料理を教えてもらっていたんですよ」

「……ちょっと待って。え?どういうこと?色々と整理できていないんだけど……」

「なんというか……その娘、さっきの電話相手でメイって言うんですけど。そいつと俺に関わりが出来たんです」

「なるほど……」

「で、一時期、俺が諸事情で運動が出来なかったことがありまして。その期間に、料理を学ぼうって事で厄介に。まぁ、店の規模が大きくなかったのと色々あったので修業の話はオッケーを貰い、結局高校入る前まで厄介になりましたね。……まぁ、修業と言ってもほとんど雑用だったんですけど」

 

 思い出すな……何というか……うん。ありゃ、大変だった。

 

「だからあんなに料理が上手いんだ……納得したよ。でも、そんなこと一言も……」

「特に聞かれなかったので」

「いやいや……じゃあ、聞いていたら教えてくれた?」

「気分次第です」

「言うと思った……全く、隠し事が多いんだよ……」

「多くないですよ。人並みです」

「関わりが出来たって言ったけど、どういう経緯で?」

「秘密です」

「なんで運動できなかったの?」

「内緒です」

「なんで料理を学ぼうって思ったの?」

「黙秘です」

「ほら、全然教えてくれないじゃん」

「リサ姐が答えにくい質問ばかりするからです」

「え?いや、凄い答えやすいと思うんだけど?ほら、関わりなんて、同じクラスや同じ部活ーとか、友達の友達ーとか、運動も怪我をしてーとか」

「じゃあ、そういうことにしておきましょう」

「いやいやしておこうって……」

 

 誰しも隠したいことの一つや二つや三つくらいあるのだ。うんうん。

 

「……まぁ、隠したいならいいよ。話さなくて」

「それは助かりました」

「でもさぁ、例えばだけどアタシとはCiRCLEで出会ったよね?」

「間違いないです」

「友希那は?友希那もCiRCLEだっけ?」

「正確には公園ですね。猫と戯れていた友希那さんに逃げられました」

「きっと、誰も見ていないと思ってたんだろうね。紗夜は?」

「CiRCLEです」

「燐子は?」

「NFOのリアルイベント。ちなみにあこちゃんもそこで出会いました」

「千聖」

「路地裏」

「ちょっと待って」

 

 と、ストップがかけられる。何かおかしなことを言ったか?

 

「何でしょうか?」

「え?なんで路地裏で会うことになるの?」

「道に迷ってた花音を連れて行て、確か目にゴミが入ったとかで花音が涙を流していたんですよ」

「あーそれで千聖が勘違いしちゃったとか?」

「その通りです」

 

 あの時の警戒心マックスの千聖はどこへ消えたのだろうか?今では警戒心が緩みきっているんだけど。

 

「で?メイちゃんは?」

「黙秘します」

「慧人くん。流石に、今の流れで黙秘は怪しいよ?」

 

 「言えるわけがないよな……雨の日の路地裏で東雲と拾った……なんて。いや、言ったところで信じて貰えないだろうけど……」

 

「…………慧人くん。今の本当?」

 

 どうしたんだろう?何故かリサ姐が目を見開いてこちらを見てくる。え?何が起きた?

 

「どうしたんですか?目を見開いて」

「いや、今聞き捨てならないことが聞こえてきたんだけど!?どういう状況!?路地裏で拾った!?捨て猫とか捨て犬じゃないんだよ!?なにをどうしたらそうなるの!?」

「……え?何で……あ、もしかして口に……」

「思い切り出ていたよ!?」

「……今のはなかったことに……」

「出来ないよ!?流石に出来ないよ!?」

「……見逃してください」

「も、もしかして犯罪に手を染めた……!?慧人くん、まだ間に合うよ!一緒に警察行こう!?」

「あ、それはないので……いや、ほんと……」

 

 この後、質問攻めにあい、何とか話せる部分だけを話した。微妙に納得してくれないところもあったが……うん。ヤバい、リサ姐相手だと何かポロッと言いそうだな……今度から気を付けよ。

 

「何か……まだ隠しているでしょ……」

「……そんなわけ」

「絶対にまだ何か隠しているよね!?」

「まぁまぁ、もう着いたので……ね?」

「……また今度、教えてね」

「えぇ。覚えていたら」

「……その顔、絶対に忘れるつもりでしょ?」

 

 図星である。が、そんなことを感じさせないように店の戸を開き入っていく。

 

「こんばんはー」

「いらっしゃいませ!って、冬木さんじゃないですか!話は聞いてますよ!」

「それならよかった。席は?」

「テーブルの方で。お連れの方も大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「では案内しますね。……にしても冬木さん。まさかツレが女性とは思いませんでしたよ。もしかして彼女ですか?」

「ちげぇよ。友人だ友人」

「まぁ、そういうことにしておきます。あ、席はこちらです。すぐに来ますので待っていてください」

「分かった」

 

 ということで、席に上着をかけておく。座ると目の前に居るリサ姐がそわそわしていた。

 

「リサ姐、トイレですか?」

「違うよ!いや、何か、思ったよりもおしゃれなところで……まさか、こんな洒落たところに慧人くんと二人きりで来るとは思わなくて……落ち着かないというか……」

「あー確かに、内装凝ってますからね。雰囲気も結構いい感じですし」

「こういうところは紗夜と来たりするの?ほら、デートの締めに……」

「ないですね。あの人とは大体、ファストフード店でポテトです」

「普通は絶対にこっちの方がいい……のに、紗夜相手だとなぜかそう思えない……」

「奇遇ですね。俺もです」

 

 花より団子ならぬ花よりポテト。彼女にとってはポテトこそ嗜好であり、ポテトこそが何物にも代えがたい存在なのだ。

 

「……リサ姐。どうしたら紗夜さんのポテト狂いを治せますかね?」

「うーん……愛の力でなんとかするんだよ☆」

「…………」

 

 なるほどな。つまり、打つ手なしと。もう手遅れだと。

 そんな感じで頭を抱えながら待つこと数分。

 

「お待たせしたです!」

「へぇーこの子が……?」

 

(あれ……?この子って確か……慧人くんのパソコンで見た写真の……)

 

「ありがとなメイ」

「どういたしまして……って、慧人先輩!もしかして、この人って、Roseliaの今井リサさんですか?」

「そうだよ~知ってくれていたんだね」

「有名ですからね!あ、春野めいって言います!よろしくです!」

「うん。よろしくね~めいちゃん」

「あ、先輩!そう言えば、料理甲子園の件、どうなりました?」

「ん?あー無事、地区予選出場だ」

「流石です!」

「まぁ、チームメイトは落ちたから、俺一人だけど。お前のところは?」

「ふっふっふっ、全員通過です!ふるめんばーってやつです!」

「そっか。もし、地区予選で当たったらよろしくな」

「もしじゃなくて、絶対当たります!覚悟していてください!」

「お手柔らかに頼むよ」

「全力で行きますよ!っと、メイはもう少し仕事するのでまた後で!」

「おう」

 

 そう言うと去って行くメイ。

 

「さて、食べましょうか」

「そうだね~見るからにおいしそうだよ~」

「「いただきます」」

 

 食べ始める俺とリサ姐。

 

「おいしい……!凄くおいしいよ慧人くん!」

「そうですね。流石の一言に尽きますよ」

「こんなにおいしいものが食べられるなんて、慧人くんに付いてきてよかった♪」

「そう思ってもらえたなら、大将たちも喜びますよ」

「あ、そういえばさ。さっきの料理甲子園って何のこと?」

「ん?あー言ってませんでしたっけ?」

「うん。君ってこういうとき、大体何も言ってないから」

 

 嘘だーと思った。が、よく考えたら聞かれない限り自分から言うことねぇな、って思い出した。うん。つまり、言ってない。 

 

「えーっと、少し前に花咲川で料理対決したのは覚えてます?」

「覚えているよ~」

「アレの本番ですね。この前……というか、ポテト事件の日の日中にその地区予選出場を賭けた予選会が花咲川であったんですよ。ちなみに紗夜さんは虎南高校の案内担当でした」

「あ、だから二人が一緒に居たんだね~」

 

 まさか、その後に一緒に帰っていたらあんなことに巻き込まれるなんて……思いもしなかったなぁ……。

 

「でも予選会って、何したの?」

「指定された料理を作ったんですよ。で、その料理の味、見た目、調理中の器具の使い方などの観点から点数が出されて、それが基準に満たなければ落ち、満たせば地区予選出場です」

「へぇーあれ?めいちゃんがさっき、フルメンバーって言ってたけどチーム戦?」

「そうですね。主要メンバー三人、補欠二人の計五人です。うちの地区は予選会を通ったメンバーのみが、地区予選に出場できるのですが……ウチの高校は俺しか通らなかったので……」

「え?大丈夫なの?」

「はい。あくまで、人数が多い方が有利ですが、一人でも地区予選は戦えるので」

「なるほどね~必ず当たるって言ってたけど総当たりとか?」

「いいえ、トーナメントです。まぁ、メイは俺が負けるとも、自分たちが負けるとも思っていないんで、あの言い方をしたと」

「期待されているじゃん♪」

「プレッシャーですよ」

「その割には楽しそうな顔しているよ☆」

 

 理論上はそうだ。二つのチームが負けなければ、確実に決勝までのどこかで当たる。……やれやれ、あっさり負けるのはダサすぎるよな。

 そんなこんなで話も弾み、料理もほとんどなくなった頃。

 

「先輩!時間大丈夫ですか?」

「ああ。じゃあ、リサ姐。ちょっとメイと話していて下さい。俺は少し席を外します」

「オッケー。じゃあ、めいちゃん。アタシと話そっか」

「はいです!」

 

 というわけで席を立ち、大将の下へ向かう。やれやれ、今回はどんな話を聞かされるやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道。

 大将とは軽い雑談を交えていつも通り話していた。話し終わって戻るとリサ姐に懐くメイが居て……流石リサ姐。その姿には流石としか言い様がない。

 

「うーん、やっぱり自分の分くらい払うよ!いくらだった?」

「気にしなくていいですよ」

「うぅ……だって、話は聞いてもらったし……こうやってご飯に連れて行ってもらってその上お金も……何だか受けてばかりで申し訳ないよ」

「偶にはそういう日があってもいいじゃないですか」

「でもでも……」

「じゃあ、こうしましょう。あなたの夕食の分の対価として、俺の話を聞く」

「え?そんなことで……うん。分かった。何でも話して」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………で、何を話しましょう?」

「…………」

 

 するとリサ姐がこけかけた。と言っても、話すこと……何かあったか?

 

「知らないよ!何か話したいことがあったんじゃないの!?」

「いや、特にないですね」

「じゃあ、何で夕食の分の対価として、とか言ったの!?」

「リサ姐が強情だったので。そう言えば納得するかなって」

「くぅ……じゃあ、何か質問とか!それか普段言えないお願いをするとか!」

「言えないお願い?例えば?」

「えぇっ!?た、例えばって……それは…………む、胸を触りたい……とか?」

「あ、そういうのは間に合っているので。無理しなくていいですよ?」

「あ、そうなの……別に無理していな…………ん?慧人くんや?間に合っているというのはどういう意味だね?」

「ふむ……質問ですか……」

「ねぇ、質問しているんだけど?どういうことか、お姉さんに話してほしいんだけど?詳しく教えてほしいんだけど?」

 

 耳を引っ張られている……が、言えないなぁ。その手のことは金髪ド変態がよく提案してくるってことはな。アイツの場合、もっとお願いがハードなんだよな……

 

「あぁ、思い付きました」

「聞いてる?君はまず、アタシの質問に答えてほしいんだけど?」

「リサ姐って、人の過去とか気になります?」

「無視したね?……うーん、人の過去か……赤の他人はそんなに興味ないかな」

「そうですか」

「あ、でも親しい友人とか、いかにも何かありそうな友達とか、す……好きな人とかは興味あるかな」

「なるほど……」

「だから、慧人くんの過去も……興味あるかな」

「…………」

 

 千聖もだが……やっぱり、何かありそうって思われやすいのか……はぁ。俺は平凡になりたいのにな……

 

「…………リサ姐って、人のことどう見えてます?」

「へ?人って……え?普通に人だけど……」

「昔、俺には人なんて見えてなかったんですよ。人も動物も虫も植物も機械も道具も物も何も変わらない。全てが俺にとっては同じに見えた。違うのは勝手に動くか動かないか。音を出すか出さないかくらいです」

「…………どういう……こと?」

「例えるならそうですね……道端に落ちている物と一緒です。視界に入ったとしても、余程異質でない限り、スルーされ、すぐさま記憶から消えていく。人間……近所の大人や学生、通っていた学校の同級生、先輩、後輩、担任をはじめとした教師……全て同じ認識でした。風で舞うビニール袋のように、ただ動き、ただ音を立てている存在。俺の記憶に一切残らない、その程度の存在」

「…………」

「だから俺は小学校での担任やクラスメートは名前も顔も出てこない。行事的なこともほとんど覚えていない。写真を見せられようと思い出せない。そして、中学校のある一件で変わるまでで、関わった人間は片手で数えられる程度しか記憶していない。覚えていない……ただ一つだけ覚えているのは、周りが俺を………………いえ、この先はやめておきましょうか」

「…………」

 

 こけかけるリサ姐。手を取って支えると、その顔は……

 

「幻滅しました?」

「……いや、そこでそのひきはないでしょ?」

 

 何というか、見ていたテレビがいいところでCMに入ってしまったような、え?そこで?という感じだった。

 

「残念ながら、もう目の前にはあなたの家がありますので。時間切れです」

「うぅ……じゃあ、最後に聞かせて」

「どうぞ」

「慧人くんにとってアタシはどう見えているの?」

「友人ですかね。少なくとも、記憶に残っていない……なんてことはないですよ」

「そう……」

「じゃあ、俺からも。リサ姐って、自分が持っていないモノを他人が持っていたら欲しいと思いますか?」

「へ?そりゃあ、それを見て欲しいものだったら欲しいかな」

「そうですか。じゃあ、学校であなた一人だけが持っていないモノだったら?他の人は全員持っていて、あなただけが持っていないモノだとしたら?」

「うーん、そこまでスケールが大きいと欲しいかも……だって、自分だけないし……」

「それがたとえ………………いえ、何でもありません」

「いや、何でもなくはないでしょ!?さっきから歯切れが悪すぎるよ!」

「さっきまでのことは忘れてください。全て、場を繋ぐための軽いジョークですので」

「…………え?」

「では、おやすみなさい」

 

 そう言うと俺は振り返って去って行く。戸惑う彼女を置き去りにして。

 

(何を言っているの……?あんなに凍えるような……冷たい感じで話しておいて……軽い冗談なわけないでしょ……?でも……どうして……?君は一体……何を隠しているの?)

 

 少し話し過ぎたか?でもまぁ、嘘はついていない。

 だって、あの頃の俺にとって、周りがそう見えていたのは事実なんだから。

 そして、周りの人間が当たり前のように持っているモノが、俺にないのも事実だから。




上手く章分けしたかったな……と思う今日この頃。章分けした方がいいかな……?

最近、モニカとRASをどうしようか考えた中、ふいにモニカの透子をキャラ崩壊(?)させようということを思い付きました。慧人くん相手だとすごい消極的というか恥ずかしがるというかそんな感じにしたらよさそうと。普段とのギャップが大きいと。
まぁ、登場したとしてももっと先なんですけどね。

次回、初の試みで、短編集的なのをお送りします。
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