「あっ……!」
「…………」
「そこ……!そこがいいの……!」
「…………」
「冬木くん……もっと……もっと来て……!」
「…………」
「ああああああぁぁぁぁ!??いったっ!?ちょっと冬木くん!?無茶苦茶痛いんだけ……あああああああぁぁぁっ!?」
「はい。さっきから耳障りなんで黙らせようかと」
「酷くない!?耳障りって酷くない!?」
「相変わらずうるさいなぁー」
「痛いんだよ!?無茶苦茶痛いんだよ!?」
CiRCLEのスタッフルームにて。まりなさんと二人きりになっていた俺は、まりなさんの頼みで何故かマッサージ的な何かをすることになった。
「もう。男子高校生にちょっとサービスしてあげようって思う、優しいお姉さんの気持ちが分からないのかな?」
「分からないです。後、そういうのは間に合っているので」
「あああぁぁぁっ!?分かった!分かったから!?一回話し合おう!?ねぇ話し合おう!?」
「あはは、何言ってるんですか?……こっからが本番ですよ」
「……え?」
「さぁ、もっと悲鳴を聞かせてください」
「……あ」
とまぁ、悲鳴を聞きながら現状確認と行こうか。
「待って待って!?現状は私がパワハラを受けているんだけど!?物理的なパワーにやられているんだけど!?」
「興味ねぇです」
「興味を持つとか持たないとかの話じゃないよ!?」
CiRCLEは現在、崩壊寸前である。老朽化が激しいため、所々ヒビが入っていたりしているのだ。ただ、年末でここを締めるという方針な以上、補修工事の為に人を雇うことができず、結果、主にまりなさんが建物の補修を毎日のように行っているのだ。
「今崩壊寸前なのは私の身体だよ!?」
「まりなさん。うるさい」
「君のせいだよぉぉおおおおおああああああっっ!?」
ちなみに、バイトは俺以外もう残っていない。まぁ、後せいぜい二週間あるかないかだし、皆新しいバイト先でも見つけたのだろう。俺は最悪弦巻家に雇ってもらおうか検討中。……さすがに冗談だが。
というわけで、まりなさんは俺がバイトに入っていないときは、CiRCLEの運営だけでなく、建物の補修まで引き受けるほどなので、ぶっちゃけ過労なのである。疲労も結構溜まっているのか、俺が今日来たときにはすでにスタッフルームで横たわっていたのである。この人家に帰っているのかな?
で、なんだかんだあって足裏のマッサージをすることになったが、なんだかんだあって激痛マッサージに切り替えた次第です。まぁ、やっぱり……
「人の悲鳴って聞くとゾクゾクしますね」
「いやぁぁあああああっ!誰か!?誰か助けてぇぇええええええええっ!?」
「うぅ……冬木くんに酷いことされた……」
「アンタが労ってだの、ついでにマッサージとかしてだのぐだぐだ言うからです」
「……どうせ、紗夜ちゃんが同じ状況だったらもっと優しくしたでしょ……?」
「当たり前です。比べないでください。失礼ですよ?」
「失礼なのは君の態度だよ!一応私上司だよ上司!」
「……はっ」
「鼻で笑いやがって……目上は敬いなさい!」
「へいへい。年増恋人なしパワハラ上司さんさーせんでした」
「あああああぁっ!?君今言ってはいけないこと言ったね!?年増ってまだ(ピー)歳だよ(ピー)歳!年増じゃなくて年上なの!?というか恋人なしって……!」
『『ソフトクリームください!』』
「んじゃ、注文入ったんで行ってきますわ」
「そうね……って話は終わってないの!?後降りるときは梯子を使いなさい!」
と、CiRCLEの屋根上の部分から飛び降りて、併設されているカフェに移動する。今日はCiRCLEによく通う五バンドの多くの面々が客として来てくれているのはいいんだが、生憎カフェ側で働く(数少ない)人たちは休み。だから今日はCiRCLEの運営、補修、併設されているカフェの運営を俺とまりなさんで行うしかないのだ。
「へーい、ソフトクリーム二つお待ちどうさまー」
「あれ~?慧人じゃん。さっきまで屋根上に居たのに」
「一瞬で移動したの?凄いねけーくん!」
「まぁ、人手不足だからな。んじゃ、ごゆっくりー」
というわけで、日菜とはぐみにソフトクリームを渡すと、ジャンプして壁を蹴ったりしてCiRCLEの屋根上に……行きたいところなのだが、それをやるとCiRCLEが崩壊するって言われたので、渋々梯子で登ることに。
「ねぇ、立場おかしくない?なんで私がずっと補修工事をして、君がカフェの運営をしているの?」
「まりなさんだとここから降りるの時間かかるから」
「違うよ!?君が毎回飛び降りるから速いだけだよ!?」
「じゃあ、まりなさんも飛び降りれば?」
「無理だよ!?間違いなく着地と共に救急車を呼ばれて搬送されるよ」
「あー……歳ですか」
「違う!こればかりは冬木くんがおかしい!」
『すみませーん』
「へーい」
「ちょっ、飛び降りるのは(私の)心臓に悪いからやめ……」
再び声が聞こえたので飛び降りてカフェの方に移動する。まりなさんからの忠告は最後まで聞こえなかったので無視の方向で。
「沙綾か。どうした?」
「あ、慧人さん。実はかくかくしかじかで」
「なるほど。かくかくしかじかか」
「うん。かくかくしかじか」
「かくかくしかじか」
「…………」
「…………」
(この人。絶対に伝わってないな)
どうしよう。かくかくしかじかで伝わらなかった。
「えーっと、私たちもカフェの運営を手伝いましょうか?」
「あ、マジで?助かるわ」
「うん。大船に乗ったつもりで居てくださいよ、慧人先輩」
「…………」
後ろからたえが胸に拳を当て、任せろ的な感じを出しているが……うん。
「沙綾。たえの制御は頼んだぞ。あいつに任せたら船が沈む」
「あはは……どっちかというと、迷子になって帰れなくなるんじゃないかな?」
「確かに……言えてるな。とりあえず、まりなさん呼んでくるから手伝ってくれるやつをカフェの前に集めておいてくれ」
「了解です」
ということで、壁キックしてCiRCLEの屋根上へ。
「ちょっと!?それやったらCiRCLE崩壊するって言ったよね!?」
「問題ないです。綺麗に着地したので」
「確かに、音もほとんど立てず静かな感じで……じゃないよ!?というか、よく跳躍してここにこれたね!?」
「そんなことよりまりなさん。実はかくかくしかじかで……」
「えぇ!?皆がカフェの運営の手伝いしてくれるって!?嬉しい!ちょっと行ってくるね!」
「…………」
え?なんでかくかくしかじかで伝わったの?普通の人はかくかくしかじかで伝わるの?マジで?マジで言ってる?
「……まぁいっか、なんでも」
そう思いながらハンマー片手にトントンとする。改めて思うけど、本当に補修なんだよな。いっそうのこと、弦巻家に頼んで、ここを全部崩壊させてから直しても一緒じゃね?というか、それならCiRCLE閉める必要なくね?…………あれ?もしかして解決?
そう思っているとまりなさんが帰ってきた。
「いや~皆いい子たちだよね~」
「まぁ、人手が増えるに超したことはないですし」
「うんうん。こっちは流石に危ないけど、カフェなら何とかなりそうだし」
「そうですね。だからこっちは命知らずな二人に任せろって感じですね」
「そうそう……って違うよ!別に私命知らずじゃないからね!?」
「そうなんですか?」
「そうだよ!危ないことは大人に任せろってことだよ!」
「あ、じゃあ、俺。まだ高校生なんで下に行ってきますね」
「待って待って!?君はバイトだから!お金出ているからこっちなの!」
「これがブラック
「なんでブラックなの企業じゃなくて私なの!?」
「ほらまりなさん。手が止まってますよ?そんなんじゃ、給料出せませんよ?」
「一番ブラックなの君だよ!」
青空の下、太陽に照らされながら、ブーブー言う上司の戯言と、トントンと響く音を聞く。下を見ると、知り合いの女子たちが自分たちの仕事を手伝ってくれている。
「あぁ、なんて贅沢なんだろうか」
ゴンッ
「あああぁぁぁっ!?またやったね!?また破壊したね!?」
「あ、やっべ。力加減間違えた」
「なんで君はそんなに容易く破壊できるのかな!?」
「……才能……ですかね」
「今すぐそんな才能捨ててきて!」
「捨てられたら苦労しないですね。あはは」
「笑い事じゃないよ!」
「冬木くんや。なんでこうなったんだろうねぇ?」
「まりなさんや。それは弦巻の所のお嬢さんが原因だよ」
「ほうほう。確かにそうだったねぇ。あ、チェーンソー使うから気を付けてね」
「彼女の行動力には驚かされるねぇ。あ、了解です」
彼女たちが手伝ってくれたことで下のカフェは大繁盛している。それはいいんだが、気付けばカフェがミッシェル一色に染まっていた。
カフェの店員のエプロンに始まり、カフェメニュー、剰え装飾までもがミッシェル一色である。ちなみに、美咲は何故かミッシェルのエプロンではなく、ミッシェルそのものになってさらにエプロンをしているが……まぁ、お疲れ。
で、問題はそこではない。確かに、この短時間でもうすべてが変わった気がするがそこではない。何故か、ミッシェルの顔の巨大アドバルーンが、ここCiRCLEの上に浮かんでいるのだ。
「いつ作ったんだろう……こんな馬鹿デカいもの」
「そこは……ほら。弦巻家の力とかなんとかじゃない?」
「そうだな。というか、それを取り付けるという作業まで追加されたんですけど、その分給料でますか?」
「うーん……慧人くん。こんないい眺めなのに、お金のことを考えていたらもったいないよ」
「じゃあ、後でまりなさんの懐から出してもらいますね」
「そ、そんなぁ……」
愕然とするまりなさん。
ブチッ
「…………あ」
その拍子に手に持っていたチェンソーが少し下がり、そのまま一本の紐を切る。
そう、それは絶対に斬ってはいけない紐で……
「チェーンソ-を止めろ!」
アドバルーンを支えていた紐が切れたことにより迫り来る超巨大ミッシェルの顔。こういうのって、空に舞い上がっていくと思ったが案外そうでもないらしいな。
「に、逃げないと潰されちゃうよ!?」
「逃げる余裕も場所もねぇよ!」
迫り来るアドバルーンに対し手を向ける……っ!
「……予想より重いな……!もっと軽いの想像していたんだけど……!」
おかしいな……!俺の記憶が正しければもっと軽いはず……!そうか、弦巻家の特注だからか。きっと丈夫にするために材質にも拘ったのだろう。それなら納得だ。
「ただ……!これくらいなら片手でどうにかなる……!まりなさん!コイツを何処に置けばいい!」
「と、とりあえず下に降ろそう!」
「オーケー、お前ら!そこどけよ!まりなさん!他の紐も切って!」
すると俺が何をするか察した彼女たち。急いで客をある程度避難させてくれる。
まりなさんも了承してくれ、全部の紐を切ってくれる。そして……
ドンッ!
「あは、あはは……相変わらず規格外だな~……」
「あの巨大なアドバルーンを片手で掴んでますよ……しかも割らずに」
「躊躇なく跳んだね……一歩間違えれば大惨事だよ……」
「素晴らしいわ!流石ね慧人!」
「うんうん!あの行動力は凄いね!」
半分くらいの(まともな)女子たちからは苦笑い、残りの女子たちからは、純粋にコイツすげー的な目で見られている。なんというか……こういうのも悪くないな。うん。
なお、この後。紗夜さんが召喚され、お小言をもらうことになったが……うん。今回は、俺は悪いことをしていないと思うので許してほしかったです。え?そもそも飛び降りたことが問題だって?あはは……
しかし、この時の俺は知らなかった。
こんなお小言が可愛く思えるレベルで……
紗夜さんをガチでキレさせることになるなんて……
ということで次回は紗夜さんをキレさせる話をしたかったんですが、作者の諸事情により、次回は『コラボガチャで爆死する慧人』でお送りします。
決して、コラボガチャで千聖さんが出なかったショックとか諸々でできた話じゃないです。
ちなみに次回は千聖様が登場します。そして、明日か明後日に投稿します。