クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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ぽて?ポテポテ!

 それはある日のことだった。

 

「皆さん……」

 

 練習終わりのRoseliaと清掃に来た俺の前で、紗夜さんが何かを決心したような顔をしていた。

 

「……私、氷川紗夜は本日よりフライドポテトを食すことを禁止したいと思います」

「「な、何だってぇぇっ!?」」

 

 その発言はこの部屋を震撼させるものだった。

 

「って驚きすぎです!今井さんに慧人さん!」

「い、いやいやいや!あの紗夜がポテトを禁止するんだよ!?」

「そ、そうですよ!驚くに決まってんじゃないですか!?」

「友希那も驚いたよね!?」

「…………あまりの衝撃に言葉が出なかった」

「りんさんにあこちゃんも!」

「えと……な、何か悪いものでも食べましたか?」

「ど、どうしたの……?」

 

 友希那さんはわずかではあるが動揺して震えているし、目に見えてりんさんとあこちゃんは心配している。

 

「リサ姐……ど、どうする?ここは110番した方がいいか?」

「そ、それを言うなら119番だよ慧人くん!」

 

 ちなみに俺とリサ姐もガチで動揺している。スマホの操作が覚束ない。だ、ダメだ……!電話番号が……たった三桁が押せない……!

 

「皆さん。動揺しすぎです。私を何だと思っているんですか?」

「ポテ狂」

「ポテトがないと死んじゃう」

「…………ポテト」

「ポテトがないと禁断症状が……」

「ぽ、ポテト?」

「待ってください。何で湊さんと宇田川さんはポテトそのもの何ですか?今井さんと白金さんは何でポテトがないと生きていけないみたいに言うんですか?そして慧人さん。いつものあなたならここで女神と即答すると思うのですが……」

「いや、それもどうかと思うんですけど……」

「……ポテトの女神?略してポテ神?」

「いい加減ポテトから離れてください!」

 

 床を足でどーん!……どうやらかなり怒ってるようだ。

 いやいやいや。でも、あの紗夜さんだよ?あの紗夜さんがポテトを禁止するんだよ?

 

「……日菜なら原因知ってるか?」

「……原因もだけど直さないことには……」

「もういいです。私は確かに宣言しましたからね」

 

 そうして出て行く紗夜さん。その様子はどこか怒ったように見える。

 

「……ねぇ。誰か怒らせた?」

「ううん。思い当たる節がないよ」

「…………演奏もいつも通りだった」

「が、学校でも変わった様子はなかったです……」

「えと、えーっと……」

 

 五人で考え込む。しかし、誰にも思い当たる節がない。

 

「とりあえず慧人くんのせいで」

「分かった。俺のせいということでって違う!今回は俺は思い当たる節がねぇぞ!?」

「…………大丈夫。分かってる」

「いいや。友希那さんのそれは分かってないやつだ」

「け、けいさん!私たちも力を貸しますから……ね?」

「え?もう俺が悪い流れなの?酷くない?早くない?」

「けー兄!とにかく紗夜さんに謝って!」

「あこちゃんもかぁ……!」

 

 結局、原因は分からずじまいだった。

 こうして紗夜さんのポテト禁止生活が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポテト禁止生活一日目。

 

「お疲れ様です」

 

 特に異常なし。

 

 

 ポテト禁止生活三日目。

 

「ぽ……お疲れ様です」

 

 特に異常なし。

 

 

 ポテト禁止生活六日目。

 

「ぽて……お疲れ様」

 

 少しやつれてきているように見えるが特に異常なし。

 

 

 ポテト禁止生活七日目。

 

「ぽてと……お疲れ様」

 

 ぽてとが出てきたけど特に異常なし。

 

 

 ポテト禁止生活十日目。

 

「ぽて……ぽてぽて」

 

 人語が、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポテト禁止生活十一日目。

 

「はい。Roseliaマイナス紗夜プラス慧人くん。しゅーごー」

 

 リサ姐の号令の下、俺たちは囲うようにして立って話し込む。

 

「ライトOFFにしよー」

 

 そして何故か電気を切り、照らす光は丁度足下の位置にあるスマホからの光のみ。

 よく分からんスタイルだが突っ込んでる場合じゃない。というか目が悪くなりそうだなぁ……。

 

「もう末期よ。あれは……」

「辛辣ですね。……俺もそう思います」

 

 先ほどまでの彼女は酷かった。その目はどこか虚空を見つめ、何もないところに向かってポテトと言っていた。ポテトと言いながら微笑む彼女はとてもではないが見ていられなかった。

 

「もう限界ですよ……。氷川さん、学校でも唐突にポテトって単語が飛び出るように……」

 

 それはガチで終わってる。もう末期だろう。

 

「このままじゃ紗夜さんが闇の世界の下僕になっちゃう」

「闇の世界というかポテトの世界だよね……」

「…………ポテトワールドの番人?」

「どちらかというと長では……?」

「いいえ。女神です(キリッ)」

「あーうん。そだねー」

「ゴッド・ポテト?」

「それだあこちゃん!」

「…………おいしそうな響き」

「あの……多分本筋からズレてます……」

 

 おっとそうだった。戻らないといけないな。

 

「ぽて?ぽてぽて?」

「……ごめん紗夜。出来ればアタシたちにも分かるような言語で話してくれるかな?」

「『皆さん?何を話してるの?』と言ってますリサ姐」

「ぽて!」

「『その通りよ!』だって」

「分かるの!?」

「えぇ。まぁ」

 

 だからぶっちゃけるなら俺自身。このままの状態でもこの人との意思疎通は問題ない。ただ……まぁ、このままじゃダメだろう。それくらいは分かる。それくらいは分かるんだが……!

 

「…………で?結局どうするの?」

「何か今の紗夜さんって可愛いですよね(諦め)」

「…………冬木。静かに」

「……はい」

 

 くっ、さっきから脳内先輩がこっちにおいで~ってポンコツキュート教に鞍替えさせようとしている。……た、確かに今の紗夜さんはキュートではある。あるんだが……ダメだ……!俺が求めているのはクールビューティーな紗夜さんなんだ。えぇい!邪念め!俺の中から消え去れぇっ!

 

「そういえばこのポテト病の原因は分かったの?」

 

 最早不治の病みたいだな。ポテト病。だって人語がしゃべれなくなるんだろ?やばいなぁーうん。

 

「あー……ヒナに聞いたらね。何でも体重計に乗ったことでポテト禁止を言い始めたらしいよ」

「「「……っ!」」」

「…………?」

 

 体重計、この言葉に反応を見せる女性陣。だが、俺にはイマイチピンとこなかった。

 

「で、ここだけの話なんだけど……」

 

 そう言って声を落とすリサ姐。その言葉を聞くために自然と俺たちも静かにリサ姐を注目する。

 

「紗夜……前に誰かさんに太ったと言われたらしいの」

「へぇ~そんな失礼なこと言うやつもいるんですね……」

 

 ……ん?あれ?ちょっと待て。…………あ。

 

「……じゃあ、俺はこれで。(心の中では)バイト中ですので――」

「待って慧人くん」

 

 とてもではないがリサ姐が出したとは思えない低い声。

 

「正座☆」

「――はい」

 

 逆らえずに正座する俺。心なしか女性陣の俺を見る目がいつもより冷たい。後ライトが下から照らされて怖い。

 

「ヒナから聞いたけど……慧人くん。心当たりはありますか?」

「心当たりしかありません……!」

 

 畜生……誰だ日菜に教えたやつ……。知られなかったらよかったものを……。

 

「最低ね」

「あ、あの音楽と猫以外は無頓着な友希那さんに言われるとは……!」

「は、反省してくださいっ!」

「ごめんなさい。心の底からごめんなさい」

「紗夜さんを返して!あこたちの紗夜さんを返してよ!」

「いや……その……はい。頑張ります……!」

「「「…………(ジー)」」」

 

 やべぇ……女子四人からジト目で見られている……。

 ふぅ……落ち着け。こうなっては仕方ない。この手は使いたくなかったが……。

 

「紗夜さん」

「ぽて?」

「俺の家に行きましょう。今から」

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