今回は、あまりピックアップされたことがないであろうキャラたちが主役の回です。彼女たちの出番がないのは許して。
なお、途中に出てくる設定はこの作品での設定なので、実際は知りません。
冬木慧人です。
さて、本日は部活に行こうとしたところを見覚えのある黒服さんたちに車に乗せられ(車が高級車で満喫していたのは内緒)何処かの施設に連れてこられました。よくあることなので狼狽えることはしませんし、警察も呼びません。警察なんて呼んでも権力で握り潰されそうだし……
「あのーそろそろ事情説明を求めたいのですが……」
見渡す限り、黒服プラスサングラス。すごいなぁ……こんなに同じ格好の人が居ると見分けが付かない。とりあえず、隣の黒服さんに事情を聞くことにするが……
「これより、『こころ様一行が戦闘力が高めの不良に絡まれている』という緊急事態における対人戦闘の模擬訓練を行う」
………………はい?
「今回、この模擬訓練の相手を務めるのは、こころ様の御友人であるこちらの冬木慧人様です」
「「「よろしくお願いします!」」」
黒服さんたちが皆揃って礼をする……いや待って。ちょっと待って。
「……すみません。何が何だか分からないのですが……」
「すみません冬木様。実は……」
何やら黒服さんたちが準備している中、指揮を執っていた黒服さんが説明をしてくれている。
えーっと?どうやら黒服さんにも階級的なのが存在して、目の前にいるのは黒服(見習い)らしい。で、黒服さんたちの使命の中にはこころやその近くの人間の護衛も含まれており、通報とか応援を呼ぶにしても、最低限の時間稼ぎなりできるような、言わば武力を兼ね備えておく必要があるらしい。
で、こういうものは場数を踏みにくいので、訓練して備える必要がある。いや、それは分かった。ようは防災訓練とか避難訓練みたいなものだろ?
「……で、何で俺なんですか?」
「はい。やはりそういうオイタをする多くは高校生や大学生などの若者の男性。そうなれば訓練にもそう言った相手を用意する必要があります。冬木様は不良と言われても通り、更に喧嘩慣れをしており、今回の訓練相手としては最高だと判断しました」
「いや、不良と言われても通るって何気に酷くねぇですか?後、若者だけではない気がするんですが?」
「まぁ、若者の男性の方が暴力沙汰になったときに押さえるのが難しいということで。ちなみに参加していただけるのであれば謝礼を用意します。こちらにできることならなんなりと」
「よし、参加するか。そこまで言われたら仕方ない」
いや、弦巻家が謝礼とか、マジで言ってる?そんなこと言われたら釣られるしかないだろう。
「ではこちらを」
「何でしょう?」
「ボディーアーマーです」
「あ、軍隊とかで見るあのイメージか。それにしては見た目がジャージと変わらないような……」
「そこは我が弦巻家の努力の結晶です。これは今回のことで冬木様が怪我を負わないようにするために着てもらいます」
「ありがとうございまーす」
というわけで着込む……ふむ。なるほど。全然重くないな。というか、ジャージの上にジャージを着て……まぁ、寒くないし動けないわけじゃないからいっか。
「訓練の内容としては、場所設定は路地裏。冬木様はこころ様を捕らえた状況で、こころ様を助けようと襲い来る
「特殊加工?」
「はい。クッション性に優れていますので痛みや衝撃はほとんどカットされます。代わりに、蓄積ダメージや衝撃を計測し、一定基準を超えると、骨折や気絶などを判定できますので、それにより戦闘不能のジャッジが出せるかと」
「ほうほう」
「それと彼女たちは、普段から所持できる武器である警棒などの武器を使います。もちろん、破壊していただいても替えはありますのでご心配なく。また、冬木様も鉄パイプのような武器を必要であれば、ご用意できますが……」
「あー武器はいらねぇです」
「かしこまりました。場所はこちらになります」
すると連れてこられたのはいかにも路地裏って感じの場所。暗さはもちろん、左右が狭く高い壁になっている。わぁーどんだけ金使ったんだろ。
「目安として。最初は3~4名が。数分で制圧した場合は、次のグループに。もし、出来なければ増援が来ると思ってください」
「へーい」
「ちなみに、あなたを倒した場合、特別報酬が出ると伝えてあります。では協力をお願いします」
特別報酬?何だかよく分からないことに巻き込まれたが……とりあえず、
「全員倒して、ぶちのめせばオッケーなんだろ?」
『はぁ!』
『この男……!強過ぎ……!』
『け、警棒が折られた!?』
『一撃で骨折判定!?』
『この服越しに衝撃が……!?』
『うわぁ!?』
次々と黒服さん(訓練生)が倒される様を見る黒服さん(教官)。
「想像以上の強さですね……彼女たちも決して弱くないのですが……」
「でも、打倒した場合は特別報酬を出すと言ったほどですし……これぐらいを想定していたのでは?」
「いえ、こんなレベル想定外ですよ……いくらまだ訓練生である彼女たちでも、今までの訓練は怠っていません。いくら喧嘩慣れした人相手でも、数分は軽く持つと踏んでいたのに、一グループ壊滅させるのに一分かからないんですから。それに……」
黒服さん(サポート)は黒服さん(教官)の指差す方を向く。
『せい!』
『そんな奇襲が……!?』
『け、携帯武器が一瞬で!?』
「壊していいと冗談で言ったつもりですが、誰があそこまでこちらの武器を壊して、しかも壁ジャンプからの膝蹴りをすると思いますか?というか、武器もそんな柔ではなく、私たちと同じものだというのに……」
「えぇ。彼は逸材ですよ」
「あなたは……」
と、黒服さん(慧人を連れてきた張本人)が会話に加わる。
「彼は格闘技の経験はゼロ。あの人には型というものがないため読まれにくい。恐ろしいまでの潜在能力と培われてきた経験、超人的な身体能力に無尽蔵の体力、更に身に付いたいくつかの能力。1対1……いえ、1対大勢の喧嘩でさえ彼に勝てる者は少ない。……タイマンに限定すれば、私の知る限りゼロですね」
「「…………」」
「それに、まだアレは彼にとって準備運動に過ぎないですよ。彼の本気はあんなものですまないですから」
「「…………」」
「でも、だからこそ。この訓練の意図に彼女たちは気づけるか。見物ですね」
黒服さん(慧人を連れてきた張本人)がサングラスを軽く押し上げる。既に黒服さんの山ができているのに、それでも本気を出していないという。
知らない者が見たら困惑を隠せない惨状の中、ついに黒服さん(訓練生)は全滅したのだった。
「ふぅ……あれ?もう終わったのか?」
「お疲れ様です。一時間後にまた同じ訓練を行いますので、それまで待っていただけると幸いです」
「そうですか?あ、じゃあ、サッカーボール貸してください。練習しているんで」
「すぐにお持ちしますので、彼女について行ってください」
そう言って現れた黒服さん(案内役)に着いていく慧人。
そうして慧人が居なくなった中、黒服さん(教官)は黒服さん(訓練生)に告げる。
「一時間後、同じ形式の訓練を行う。なお、先ほどとは違い、グループの人数や構成を変更可能とする」
「すみません教官!あの男は何者なんですか?」
「あんな強さを持つ高校生、正直勝てる気がしませんよ」
黒服さん(訓練生たち)の声を受け、黒服さん(慧人を連れて来た張本人)が前に出て説明を始める。どこからか取り出したスクリーンとプロジェクターをセットすると慧人に関する情報が出て来る。
「冬木慧人様。虎南高校に通う高校二年生。生徒会長に就任し、現在サッカーのU-18日本代表に選抜される。CiRCLEでバイトをし、そこでこころ様と知り合う。基本ステータスはこんな感じでしょうか。そして、弦巻家独自の危険度ランク、最恐のSS級」
「……っ!SS級って……そんな……!」
「たった三人しかいない……最悪の危険人物……!」
「えぇ。本来、私たちが設定する危険度は下からZ,C,B,A,Sの五段階に分かれています。殆どの人は危険度ゼロのZに属しています。……存在していない幻のSS級。それは、一般的なS級とは比較にならないほどの危険因子を持っていると判断された場合のみ分類される。これまでに三人……『王』『絶対悪』『天災』……その内の天災の異名を付けられたのがさっきもお会いした冬木慧人様。最年少のSS級で、トラブルメーカーであり、戦闘力UNKNOWN。誰にも止められず気まぐれで全てを破壊してしまう。その様子は天の災害に等しいとされます」
「そんな人大丈夫なんですか!?」
「えぇ。あくまで何かの都合で敵に回したときの危険度ランクです。他のSS級の二人と違い、彼自身とは友好な関係を築いていますので、味方としては恐ろしく強いカードです」
友好と言うが、実際はこころの思いつきによく巻き込まれるため仲良くなった結果である。
「彼の武器の一つは異常なまでの気配察知能力。範囲内の人の位置などを把握してしまう能力です。範囲は不明。ほぼ常時発動しているため、奇襲、尾行などは不可。また一度気配を覚えられてしまえば、多人数の気配の中から判別可能とのこと」
「……そんな……!」
「じゃあ、奇襲しても見破られたのは……」
「そういうことですね。また、戦闘力UNKNOWNの理由としましては、彼が本気を出したところを見たことがなく、推測不能なためです」
「……え?」
「嘘……アレで本気じゃないの?」
「こちらは先日、とある高校に彼が乗り込んだときの映像です。この高校は、こころ様が通う高校から比較的近いこともあり、マークされていた不良が集まる高校です」
そう言って慧人が乗り込んだときの映像が流れ始める。
「このように彼は、相手を威圧し、声を発することで行動を制限させることが可能です。条件があるかもしれないですが、真相は不明。ただ純粋な戦闘能力も、金属バットを蹴り砕く、腕を振ってその軌道上の人を吹き飛ばすなどなど……はっきり言って恐ろしいですね」
「「「…………」」」
「どうしましたか?あ、ちなみに別の日になりますが、彼が自身に向かってくるひったくり犯のバイクを蹴りで破壊した映像もありますが……」
「「「…………」」」
(((そんなバケモノにどうやって対処しろと……?)))
「では今より40分、作戦会議の時間とする。以上」
絶望的な事実を突きつけられた黒服さん(見習い)たち。彼女らは、二つの勢力に別れていた。
「次は油断しない……」
「ただの高校生じゃないと分かった以上、本気で倒しに行くわ」
先ほどまでの情報を踏まえた上で、自身の力を最大限発揮し、慧人を倒そうとするグループ。
「いいですか。この訓練の意図はおそらく……」
もう一つは、慧人に武力で勝つのを諦め、別の方法で勝とうとするグループ。
比較的好戦的な性格をしている黒服さんたちは前者の、それ以外の黒服さんたちが後者のグループに所属している。
各々のグループが作戦会議を行い、時間が経ったころ……
「それでは第二部訓練を始めます」
既に慧人は準備万端。隣には、こころを模したマネキンが立てられている。
「私たちから行くわ!」
「早速だけど、容赦しないわよ!」
動き出したのは慧人を倒そうとするグループの人たち。武器を片手に突撃していく。
「……1、2、3……数えるの面倒だなぁ」
欠伸をしながらそう呟く慧人。そして……
「まぁ……どうせ、立っている人数が0に変わるから関係ないけど」
軽くしゃがみこんだと思うと、次の瞬間には加速し……
「まず一人っと」
懐に入り込み、膝蹴りを放った。一瞬で気絶、骨折判定が出る黒服さん(被害者)。いくら衝撃を吸収できると言っても、限度があるようでそのまま倒れ込んでしまった。
「今よ!」
しかし、既に周りには武器を構えた黒服さん(過激派)たち。一斉に攻撃を仕掛けた。
「…………」
その攻撃を基本的には最小限の動きで避け、避けきれないと判断したものは拳や足で武器を破壊していく。気付けば彼の周りには武器の残骸がいくつか落ちていた。
「じゃ、次は俺の番か」
ターン性バトルというわけではないが、全員の攻撃が一通り終わったのを確認し、慧人は攻撃を仕掛ける。
「全員、
「「「……っ!」」」
と言ってもただ言葉を発しただけ。しかし、その言葉に従うように、次々と黒服さん(見習い)が跪いていく。
(こ、これが例の威圧……!)
(身体が……!身体が言うことを聞かない……!)
(なんで……なんで動けないんだ……!)
知らない人たちが見れば、誤解しか生みようがないだろう。男子高校生相手に、黒服さん(見習い、女性)が何人も跪いてるのだから。
「……で?このグループは終わりでいいですか?」
黒服さん(教官)に問いかける慧人。
「ま、まだ行けます……!」
「そうですよ……!」
その言葉に数人は震える脚を押さえながら立ち上がろうとする。
「あ、そう」
そんな様子を見ながら慧人は、立ち上がろうとする黒服さん(見習い)に足払いを仕掛け、倒していく。起き上がろうとすれば、すぐさま倒される。本気で一撃叩き込めば、終わりなのにそうしない。
「第一グループ。終了します」
あまりにも一方的な様子を見て、黒服さん(教官)は終了の合図を出す。
しばらくして第一グループの人たちが全員退いた後、
「それでは第二グループが向かいます。冬木様、準備はよろしいですか?」
「大丈夫ですよ」
「では始めましょうか」
そう言うと第二グループの黒服さん(穏健派)が走り出す。
「……まぁ、サッサと終わらせるか」
そう言って、地面を力強く蹴って、急接近。そのまま黒服さんたちのうちの一人を蹴り飛ばす。
「どうせここで……ん?」
と、ここで黒服さんたちのうちの三人が慧人を押さえつけようとする。一人が背後から両腕を両脇の下を通して押さえつけ、二人が片足ずつを封じ込めようと抱きかかえるようにして持つ。
「
残りが慧人を無視して、こころのマネキンに向かうことを悟った慧人は、命令を下す。しかし、黒服さん(穏健派)は命令に逆らい、動きを止めない。
「……あ?全員効かねぇとかどういう……ッチ!」
そこで慧人は気付く。黒服さんの耳には耳栓がしてあることに。彼の命令は聞こえていなければ届かない。単純だが、確実な対抗策なのだ。
そのことに気付くと、両腕の拘束を無理矢理解き、肘鉄を背後に喰らわせる。抑え役の一人が骨折判定をもらったのを確認しながら、解かれた腕で、足を掴む二人に向かって、拳を振り下ろす。
「……ッ!」
素早く両腕に骨折判定を出させ、拘束を解く。
しかし、解いた時には、既にこころ(マネキン)と慧人の間には黒服さんたちの壁が。
(全員倒す?いや、一人あたりにかける時間とここからマネキンまでの走る時間を考慮しても、間に合わねぇ。何でもありならともかく、制限付きならなおさらだ。しかも、アレも音が聞こえないなら無駄だし、壁を走って行ったとしても到達する前に邪魔が……)
黒服さんの壁を見て、考える慧人。考える時間は数秒もなかっただろう。状況を判断して、慧人は両手を挙げることにする。そして……
「負けました」
静かに敗北宣言をしたのだった。
「冬木様の宣言により、第二グループミッション達成。速やかに全員整列してください」
黒服さんたちはすぐに切り替え、整列する。慧人も若干困惑しつつも、呼ばれた方向に向かって歩いて行く。
全員が並んだところで黒服さん(教官)が話し始めた。
「今回の訓練は対人戦闘訓練と称していました。確かに、半分はその意図で行いました。残りの半分……第二グループの方は気付いたかもしれませんが、我々が優先すべきはこころ様、並びにご友人の安全です。いいですか?もし、実際に事が起きたとき、事を起こしたものたちを粛正するのは後でも出来ます。しかし、そのものたちに気を取られ、こころ様たちに危害が及んでしまっては意味がありません。何時如何なる状況に置いても、我々はこころ様をお守りすること。それが使命であり優先すべき目標なのです」
そう言うと少し苦い顔をする第一グループの人たち。何故、対人戦闘訓練なのに、あんなに状況設定がなされていたのか。何故、集団でかかっても太刀打ちできないほどの強敵が用意されていたか。第二グループはそれをくみ取ったのに、自分たちは優先すべき事を間違えた事に悔しさを隠しきれない。
その後は講評や、今回の結果を各々に伝えられ解散した。慧人は、黒服さん(拉致した本人)の運転する車に乗りながら、帰っていた。
「今回は御協力に感謝します。彼女たちにとって貴重な経験になったでしょう」
「別に俺は出来ることをしただけですよ」
「謝礼は後日。お望みのものをご用意させていただきます」
「そこまで大袈裟じゃなくていいですよ。今回の訓練は俺にとっても有意義でしたから」
「それならよかったです。今後ともどうかよろしくお願いしますね」
「次は事前に言ってもらえると助かります」
(……やはり、声が聞こえていない人を従えることは出来ない……か。声も出さず、動きも見せず、威圧感だけで相手を屈服させることが出来るともっといいか……)
もはや、バトル系漫画でしか必要のないことを身につけようとし始める慧人。
しかし、まさかそれが役立つ日が遠くない内に来るとは、誰も予想できなかったのだった。
慧人くんのバイク破壊のイメージはCLANNEDの坂上智代です。
金属バットを蹴り砕くイメージはめだかボックスの黒神めだかですね。
……この話、一番黒服さんという言葉が出てきた気がする。
ちなみに千聖ルートを別作品として投稿しています(URLは本作品あらすじ参照)が、こちらにも今まで通り千聖さんは登場します。(ぶっちゃけると、慧人君の秘密を知るためのキーマンだし)
だから、次回のクリスマス(何故か4話構成)以降も出るから心配しないで。ちなみに、クリスマスの話は最初から暴走していて多分、予想より阿呆でバカな話になりそう。
予定としては千聖さんと慧人君の