今年最後の投稿です。
タイトル詐欺とか言わないでください。疲れ切った頭で頑張って書いたらこうなっていたんです。
慧人さん観察日誌
12月26日曇
今日は朝早くに慧人さんを迎えに行ったら、意外とすぐに家から出て来た。曰く『自分は真面目なんで』とのことだったがあり得ないだろう。彼が真面目になったら、少なくとも私は涙を流す自信がある。それが嬉しいか悲しいかは分からないけど……
今日はライブの宣伝チラシの配布とライブの順番決めだったが、慧人さんは、一人瓦礫撤去と整備にあたっていた。なんと、黒服さん曰く予定より二日早く、瓦礫撤去と整備は終わったそう。しかも普通は重機を使うのに使わずに済んでしまった……とか言っていた気がしたけど、流石慧人さんと言っておきましょう。
ちなみに、お疲れ様と言うことでスパイシーポテトを一緒に食べたら、苦い顔をしていたように見えたけど気のせいでしょう。気のせいですよね?まさか、ポテトが嫌いなわけがないですよね?ポテトが嫌いとか人生何十回分も損していますよ?一生の半分じゃないです。一生の何倍も損しています。……と、こんな感じで伝えたら頭を抱えられた。どうしたんでしょう。まさか、彼の頭のキャパシティをオーバーしてしまったんでしょうか?きっと聞いただけで覚えられなかったんでしょう。それなら、今度、彼の為にポテトの魅力をノートに綴ってあげましょう。教科書を作ってあげれば復習もしやすくて喜ぶはずです。
12月27日晴
今日はRoseliaで練習していました。予定よりもステージの設営が早く終わりそうとのことで、CiRCLEでは慧人さんと弦巻さんの所の黒服さんたちが調整と安全確認をしていました。慧人さんにポテトを差し入れに行った時、CiRCLEの下に何かあるかもと言っていましたが、ポテトに集中していたためよく覚えていません。今日のポテトは出来がよかったんです。仕方ないんです。でも一体、何が言いたかったんでしょうかね?書いていて少し気になりました。
帰りは一緒にポテトのコンソメ味を食べに行きました。慧人さんが三日連続でポテトを見ていると言っていましたが、彼は何を言っているんでしょう?きっとポテトは毎日摂取することが推奨されていることを知らないんでしょう。そのことを言ったら頭を抱えられた。頭を抱えたいのはこちらだと言うのにやれやれですね。やっぱり、彼に教科書は必須のようです。
それにしても不思議ですね。何故、ポテトは学校の授業で扱わないんでしょうか?中学生の主要5教科に匹敵するレベルでポテトは学習の必要ありなのに。もしかしたら、これは日本の教育制度に問題があるかもしれないですね。今後はポテトも必須の教科化するべきだと思いました。
12月28日晴
今日はポテトの味が微妙でした。やはりと言うべきか、私は王道であり、原点である塩味が好きだと思いました。なんというか……挑戦自体は良いことだと思う。挑戦なくして成功なし。ポテト一つ取ってもあらゆる味を試すべきだろう。その味を試す中で新たな最高の組み合わせが生まれるかもしれない。試行錯誤を繰り返し、過去の常識をアップデートさせていく。そうでなければ、ポテトが進化することは今後なくなっていまう。だが、世の中には挑戦してはいけないものもある。そのことをポテトで学べました。ポテトでおでん味はないですね。はい。そもそも、それを販売する時点で誰か止めなかったのだろうか?ポテト専門家の方を通せば商品化は棄却されそうなのに。
ちなみに、一緒に行った慧人さんには、頼もうとした時点で止められた。その制止を振り切って頼んだら苦笑いされた。それで合わないと答えたら『でしょうね』と言われた。如何にも分かってますよ感が出ていてイラッと来たので、慧人さんに食べさせ……食べてもらった。そして、慧人さんに説教をされた。解せぬ。その後はなんだか、モヤモヤして帰りました。
12月29日晴
ふと我に返った。この日誌は慧人さんとの出来事を綴っているはずなのに、何故かポテトの割合が高いことに気付いた。何故だろう?これはきっと有名な学者でも解けない難問ではないだろうか?そのことを今井さんに伝えたら苦笑いされた。よく分からなかったので白鷺さんに相談したら呆れられた。一応、日菜に確認したら爆笑された。……何故?本当に何故か分からない。
とりあえず、明日がライブ本番なので、前日である今日は慧人さんとやる気を入れるためにポテトを食べに行こうとした。そしたら、止められた。……意味が分からない。彼は知らないのだろうか?この国にはそういう大事な出来事の前には、モチベーションを向上させるためにポテトを食べることに。
何とか彼と交渉に交渉を重ね、ポテトを勝ち取った。その時の彼の表情はどこか疲れていた。やはり、疲労が溜まった状態で明日を迎えさせるわけにはいきません。私は慧人さんにもポテトを渡した。そしたら、いらないと帰ってきた。今はポテトを見たくないと言って、外を眺めていた。ああ、可哀想に。ポテトも苦しく感じるほど疲れているんですね。ここまで身を粉にして働いてくれた、大好きな彼に報いるためにも、明日は絶対に成功させないといけないですね。
12月30日。CiRCLEでのライブ本番……俺は彼女たちのリハーサル中に仮眠を取っていた。最近は日中に肉体労働をした上、夜には夢にポテトが大量に出てきて、満足に眠れない日々が続いていた。お陰で特に精神的疲労がヤバい。原因は何だろうか?考えるまでもなく、原因が凄い身近に居る気がするけど……まぁいいや。きっと、忙しかったからに違いない。
「慧人さん。大丈夫ですか?」
「紗夜さん……すみませんね。何故か最近、満足に眠れなくて……」
「それは大変ですね。きっと、忙しかったからなんですよ」
「そうですかね?何か、それ以外にも原因がある気がしてならないんですけど……」
「…………」
そう言うと、紗夜さんは無言で俺に近づき、手を伸ばした。
「あなたが頑張っていることは、私が一番知っています」
そっと、俺の頭に触れた。そして、軽く撫で始める。
「最後まで頑張ってください。私もステージで頑張りますので」
「紗夜さん……!」
なんだろう。この人はもしや女神なのでは?超が付くほど久し振りに感じたけどこの人はやはり女神なのでは?そんなことを言われると、ふと脳裏にここ最近のことがよぎる。
クリスマスにメガ盛り、ギガ盛りのポテトが目の前で消えたこと。スパイシーポテトの山やコンソメ味のポテトの山を見て頭を抱えたこと。おでん味のポテトを強制的に食わされたこと。ノーマルなポテトを見たくなくて顔を逸らしたこと。
そう、最近のポテトが脳裏に…………あれ?ちょっと待て。
「…………紗夜さん」
「何ですか?」
「何故か、ポテトのことしか頭にないんですけど」
「なるほど。もう打ち上げのことを考えているとは、流石ですね」
「違います。今までの苦労がどこかに消えて、ポテトしか残らなかったんです」
「いいんです。あなたの苦労は私がしっかり見ていましたから……打ち上げはお望み通りポテトですよ」
「…………」
おかしいな。俺はそんなこと望んでない。そして、何だか寒気を感じたんだけど?あれ?紗夜さんの言葉を、身体が受け付けていない。どうしよう。彼女の言葉を理解したくない自分がいる。打ち上げにポテト?あは、あはは……
「……紗夜さん。打ち上げは別のもの食べませんか?」
「…………」
空気が凍り付いた。先ほどまでの温かい空気は消え、一瞬にして外にも負けない凍てつくような冷たい空気となった。
「……慧人さん?冗談ですよね?」
「いえ、本気です」
固まった。紗夜さんが固まった。いや……え?打ち上げもポテトとか流石に嫌なんだけど……そう思っていると、何だか泣き出しそうな表情になった。あ、やべ。
「う、打ち上げは……ぽ、ポテトって……!言ってたじゃ……ないですかっ……!」
泣き出しそうなのを堪えながら言葉を紡いでいく。ヤバい。そんな事実は記憶にないが、それでもライブ前にこの人のメンタルを削るのはマズい。ぐぅ……背に腹はかえらぬか……!
「本気なわけないですよ。打ち上げはポテトに決まっているじゃないですか。だから、泣かないで下さい」
「そ、そうですよね……よかった……」
「そうですよ。じゃ、一緒に頑張っていきましょう」
「はい……!」
彼女の頭にポンポンと手を置いてからその場を去って行く。……あぁ……
「…………俺ってバカだな……」
その呟きは彼女には聞こえなかった。
(((いや、本当にね)))
ただし、陰からこっそり見ていた(またの名を、二人きりの空気のせいで部屋に入れなかった)Roseliaの面々には聞こえていたようだ。すれ違うときに哀れみの目を向けられた。おい、同情するくらいなら、ポテト地獄に強制招待強制連行道連れにしてやるぞ。
あー……無心で仕事しよ。
「慧人くーん」
「…………」
「おーい、慧人くーん」
「…………」
「……え?無視されてる?もしかして私、無視されているの?」
「…………あ、居たんですね。気付きませんでした」
「酷くない!?本当に無視していたの!?」
「すみません。今は何も考えたくなくて……」
「あーえっと、お姉さんでよかったら話を聞くよ?」
「ははっ、まりなさん冗談キツイです。あなたお姉さんって年じゃないでしょ、ははっ」
「酷くない!?今のは心に来るよ!?というか乾いた笑い……え?本当に大丈夫?」
「何でしょうね。何か、最近ポテトを見ると寒気がするんですよ。いや、見るどころか聞いただけでですかね?あはは……」
「どうしよう……唯一のバイトが度重なる労働による疲労で精神壊した……」
「ねぇ、まりなさん。俺、今なら地球を破壊出来そうです」
「やめて!?魔王の本性が出ちゃってるから!」
「まりなさん。こんな疲れ切った俺にどうか……どうか、まりなさんの残念な恋愛談を……!」
「そうだね……ってどういうこと!?」
「他人の不幸で癒やされようかと」
「最低か!」
「あ、でもすみませんね」
「そうだよね?今のは失礼だよね?」
「あなた、彼氏居ない歴=実年齢でしたね。語る恋愛談がなかったですね」
「まさかの失礼の上乗せ!?そこは謝るところだよ!?」
「謝る……?」
「こ、この男……!」
「でも、何でしょう。今ので心が少し癒されました。ありがとうございます」
「人を馬鹿にして回復するとか最低か!それが主人公のやることか!この人でなし!甲斐性なし!節操なし!」
さてと、なんか言っているまりなさんを無視して、もうひと頑張りするか。
ということでブーブー言う上司がお客さんのチケット確認を責任を持ってしている間に、全体スケジュールの管理にその他の雑用を全てこなすために走り回る。
そして……
「いよいよ最後だね……」
「ですね。俺たちは見守っていましょう」
CiRCLE最後のライブが幕を開けた。
今回のライブは前回のCiRCLEでの大きなライブと違い、どのバンドもいつも以上に熱を入れてやっている。
まずは一番手のAfterglowの音楽で場を盛り上げる。前みたいにつぐみの衣装が違うとか、変なよく分からないモアイみたいや霊もいない。いつも通りが一番だと改めて思いました。
二番手のPastel*Palettesもその熱を引き継ぎ更に盛り上げようと、音楽を届けている。前回が演奏していた……?って感じだったが、今回は真面目に、そして楽しそうに演奏をする。
そして、三番手はハロー、ハッピーワールド!一番の心配どころだったが、色々と大丈夫そうだ。まぁ、ここでいつもみたいに暴れられたら……ねぇ?流石に崩壊しかねないから自重してくれよ……あ、ミッシェルに無茶ぶりが行った。まぁ、ステージに損害を与えなければいっか。
続くのはRoselia。前回は俺の中で一番やべぇバンド認定(もちろん、演奏力ではなく行動面)していたが、今回はそういう要素はない。流石に前回はおふざけ要素が強かったと自覚して……自覚していたよな?自覚していたから直したんだよな?ダメだ、ポンコツな人が多いから疑わしいけど……
「やっぱ、すげぇわ……」
いつもは何だかんだで近くに居るのに、こうしている時は遠くに感じてしまう。その姿は手の届かないところにいて、だから……
「きっと、近くに居るべきじゃないんだよな……」
彼女と俺では住む世界が違いすぎる。そのことを嫌でも痛感してしまう。
そして、五番手にPoppin' Party。彼女たちも前回みたいな暴走はしていない。そう思うと前回のライブは恐ろしいほどに自由にやってたんだな……まぁ、最後の最後に訳分からないことやって観客を固まらせる訳にはいかないよな……うん。流石にCiRCLEの最後のライブで客が困惑で固まったとか、ライブハウス史に残る黒歴史だろう。
最後は25人がステージの上に上がっていく。空を見上げれば星が広がり、ステージはライトで照らされる。そんな中でボーカル組を筆頭に最後の曲を歌っている。
「…………!」
舞台袖でまりなさんが涙を流しながら、うなずいている。バイトで来ていた俺もここには色んな思い出がある。きっと、まりなさんは俺以上にここに対する思い入れがあるのだろう。
「「「いぇーい!」」」
そして、最後に25人が同時に跳び上がる。着地したと同時にステージには亀裂が入り……
「んな阿呆な……」
「なっ…………!?」
ステージの下から勢いよく噴き出る水。その水の力により、遙か上空に打ち上げられる25人。いや……マジかよ。CiRCLEの下には温泉があるかもと27日くらいに黒服さんたちと話していたけどさ……
「じゃ、ちょっとアイツら回収してきます」
壁キックの要領で地上に出て、黒服さんたちが救出にも使えそうなエアクッションを準備しているのを尻目に、間に合わなさそうな人たちを空中でキャッチしていく。そして……
「慧人さん」
「何でしょう?」
「これはライブ成功でいいですかね?」
「流石にわかんねぇです」
紗夜さんを抱えながら地面に降り立つ。
「この先、どうなるんでしょうかね……?」
「さぁ?温泉兼ライブハウスとしてリニューアル……とか?」
「何かすごいことになりそうですね……」
こうして、CiRCLE最後のライブは、まさかの地下から温泉が噴き出て終わるという誰も予想しなかった結末を迎えるのであった。
ちなみに後日、総合温泉施設として再建されたさあくるのバイトとして雇われるのだが、それはまた先の話である。
来年もよろしくお願いします。では、よいお年を……!