クールビューティーな紗夜さんを返して(涙)   作:黒ハム

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あけましておめでとうございます(遅すぎる新年の挨拶)
この前のキラフェス170連引いた結果、見事紗夜さん以外を揃えた人です(遅い報告。詳しくはTwitter参照)


注意 この二人は付き合っておりません(いつもの)。


VS. 氷川紗夜

「はぁ……はぁ……」

「紗夜さん……」

「ふぅ……私はまだ負けていない……!」

「紗夜さん…………」

「絶対に勝つんです……!行きますよ……!」

 

 髪を縛り浴衣を着た紗夜さん。腕まくりをしている彼女。僅かに紅く染まっている頬と、二の腕を伝う水滴が相まっていつもよりも何処か扇情的に見えるそのお姿。

 普段から見ている彼女が、普段より5割増しで綺麗に(まぁ、普段も綺麗だけど)見える……が、それとこれは別である。

 

「はぁ!」

 

 彼女の左手から軽く上げられたピンポン球。それを右手に持つラケットで打ってくる。

 

「はい」

 

 自身の目の前でワンバンしたそれを、右手に持っていたラケットで軽く打ち返す。

 

「えい!」

 

 そして彼女は、自身の目の前でワンバンしたそれを打ち返す。

 

「どうぞ」

 

 帰ってきたそれを、紗夜さんが取りやすいようにふわっとした感じで返してあげる。

 

「隙を見せましたね!」

 

 そして、その球をスマッシュで返してくる紗夜さん。

 俺たちはゆったりのんびりラリーをしたい……わけではない。これは仁義なき戦いなのである。血で血を洗うようなガチの勝負なのである。…………まぁ、流石に半分冗談だが。

 

「はい」

 

 今までに比べたら速く返ってきたそれを、軽く返す。向こうは決まったと思うはずだからコレで決まるだろ。

 

「もう一回です!」

 

 それに食いつく紗夜さん。もう一度、こちらに速く返してきた。

 

「おっと」

 

 対してさっきので決まると思ったので油断していた俺。意表を突かれながら、紗夜さんの居る方と逆の方へと返していく。

 

「あ……」

 

 流石に逆サイドに打たれたボールは台でワンバンし、そのまま床へと落ちていった。

 

「紗夜さん……そろそろやめません?」

「何故でしょう?ようやく身体が温まってきたところですよ」

「いえ、温泉入ってたから身体は元々温まってましたよ?」

「安心してください。今は頭も温まっていますから」

「……それ、余りにも大差で負けているから、頭に来ているだけなんじゃ……」

「何を言っているんですか?今は29-9の接戦ですよ?」

「すみません。接戦と言う言葉をはき違えすぎですよ?十の位が二つも違うんです、二つも。分かっていま――」

「隙アリです!やぁっ!」

 

 すると、紗夜さんが球を低めに上げて即サーブ。話で油断させておいて反応を遅らせる作戦だっただろうが……

 

「――すか?あと、全然、隙アリじゃないですよ」

 

 生憎、その手の作戦はよく使われていたから簡単に返す事ができた。

 

「言いましたよね?35点先取の方が勝ちだと」

「負けず嫌い絶賛発動中ですね」

「何を言っているのかよく分かりませんね!」

「最初は10点だったのにその後5点刻みで増えていくのは……?」

「誤差です!」

「えぇ……」

「かくなる上は色仕掛けで……」

「おい風紀委員。あなたは風紀を守る側でしょ?」

「何を言っているんですか?風紀とは乱すためにあるんですよ?」

「待て待て。それ、ルールは破るためにあるって言っているのと同じですよ?いいんですか?」

「ルールを破り、風紀を乱している問題児生徒会長に言われたくありません!」

「えぇ……否定できないのが辛いなぁ……」

 

 とまぁ、こんな感じで俺たちのラリーは続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも、どうしてこうなったのか。

 ということで、ここ最近のことを振り返るとしよう。

 CiRCLE存続のため、ライブを開くことになった5つのバンド。当然ながらバイトの俺とまりなさんも手伝い、(物理的に)崩壊寸前のCiRCLEでライブをやろうとした。しかし、クリスマスの時にとある事情でCiRCLEが(物理的に)崩壊。ライブができない……と思ったら崩れたのは地上部分で地下のライブスペースは奇跡的に無事。そして、準備を重ね、年末にライブを行った……結果、何故か温泉が噴き出す事態に。何を言っているのか分からない?俺も分からない。

 とりあえず、CiRCLEは改修工事を行うことになったが、当然工事の間は使えない。どこかのお金持ちさんの権力か、ご都合主義か、冬休みが明ける頃にはCiRCLE復活とのこと。

 で、現在冬休み。クリスマス前にまりなさんから「商店街で温泉宿のペアチケット当たったけど、私、一緒に行くようなペアがいないんだよね……はは、嫌がらせかな?」と、愚痴を聞くことと引き換えにペアチケットを俺がもらうことに。紗夜さんを誘ったところ二つ返事でオッケー。それに、CiRCLE崩壊のせいで冬休み中はRoseliaとしての練習もそこまでやらないらしく、結果冬休み中に行くことに。まぁ、高校生二人だけで……とか心配していたけど何故か普通に通った。なぜかは知らない。

 

「はい紗夜さん。水分補給は大切ですよ」

「あ、ありがとうございます……その、つい熱くなってしまって」

 

 部屋に戻った俺と紗夜さん。既に布団が敷かれている。

 それぞれ温泉に入って、湯上がり卓球をしたところ、紗夜さんの中のスイッチが入って結果、50点先取になった。最終的にスコアは50-17と俺の圧勝に終わった。当然ながら、相手が紗夜さんだからと言ってワザと負けることはしなかった。

 

「それにしても少しだけ疲れた気がしますね……せっかく風呂入ったのに」

「ごめんなさい……つい負けたくなくなってしまって……」

「いいですよ全然。凄い可愛かったですよ」

「……余裕そうですね……そもそも、慧人さん、強かったですね」

「強くはないですよ。動体視力と反射神経がいいだけですよ」

「むぅ……」

 

 何処か膨れ顔をする紗夜さん。可愛いという感想しか出てこない時点で、俺はもしかしたら終わっているかもしれない。

 ちなみにだが、俺の場合は、相手が紗夜さんでなければ、問答無用でスマッシュを相手のラケットにぶつける戦法を取る。しかも、俺のコントロールが絶対に狙ったところにいく程優れてはいないので、時々相手の身体や顔面に当たったりするが、やむを得ないことだろう。ともかく、これは弾丸のように飛んでくるピンポン球の恐ろしさから、相手のサレンダーを誘う実にクレバーな作戦だと自負している。

 

「でも、もう一度温泉入りたいですね。少し休んだら行きましょうか」

「賛成です。さっぱりしたいですからね」

「あ、なら混浴行きましょうよ」

「こんよ……!?だ、ダメですよ!そんな若い男女が裸で一緒のお風呂に入るなど、は、破廉恥です!風紀が乱れてしまいます!そんな風紀が乱れてしまうような場所には行かせないですよ!」

「そうなんですか?というか、卓球中に風紀は乱すためにあると言ってたような……」

「そんなこと誰が言ったんですか!」

「Roseliaポテト担当」

「……つまり、慧人さんですか?」

「待て待て。何で俺になるんですか?」

「え?Roseliaにポテトを恵んでくれる担当じゃ……」

「俺が言ったのは食べる方の担当です」

「……Roseliaにポテトを食べる担当は居ません!」

「じゃ、食べる人が居ないなら恵む必要ないですね」

「わわっ!冗談です!私こそがRoseliaポテト担当です!」

 

 (そこまで大きくない)胸を張る紗夜さん。今度、Roseliaポテト担当ってタスキでも作ろうかな?

 

「今、失礼なことを思いませんでしたか?」

「微塵も」

「でも……その……まだ、私の心の準備が……そんな裸を慧人さんに見せるなんて……恥ずかしいと言いますか……いきなりすぎますよ……もう少し前に言ってくれれば……」

「あ、大丈夫ですよ。ここの混浴は水着を身につけないと入れないんで。実質ゆったりできる温かいプールですよ」

「それを先に言ってください。なるほどそれなら……でも、水着を持ってきてないですよ」

「それならレンタル出来るそうですよ」

「なら行きましょう。すぐ行きましょう」

 

 ということで混浴に行くことにする。ぐいぐいと腕を引っ張る紗夜さん……何でそんな積極的なのだろうか?よく分からないなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慧人さん……ど、どうですか?」

 

 混浴……目の前には少し照れた様子の紗夜さんが。

 

「とてもお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 ただ、少し気になることがあるとすれば……

 

「紗夜さん……何で視線が合わないんですか?」

 

 ここに入ってから、一切こちらを見てくれない。何だろうか?一体、何が起きているんだろうか?

 

(む、無理無理!直視なんて無理です!な、何なんですか慧人さんの肉体……これが肉体美と呼ばれるものですか!?白鷺さんから腹部が引き締まっていることは聞いてましたけど、これはヤバいですね……)

 

「ぬ、脱ぐと凄いんですね……慧人さんって」

「はい?」

 

(まさか、普段服に隠れていた部分はこうなっていたとは……!そういえば、普段抱きしめてもらっているときも力強かったです……。こう、無茶苦茶筋肉ばっかり付いているというより……必要なところに必要な分だけ付いていて……無駄な筋肉も脂肪もない感じ……くぅ。男性の筋肉にはさして興味がなかったはずなのですが、ここまで来ると美しさを感じますね……)

 

「な、何か特別なトレーニングでも……?」

「何で余所余所しいんですか?」

 

 それと、相変わらず視線が合わないが……特別なトレーニング?

 

「いや、少し筋トレをするぐらいで……何もしてねぇですよ?」

 

 後は、昔とか今も喧嘩や暴力沙汰に巻き込まれたりとか、サッカー部のランニングでバカみたいに走ったりとか、建物の壁とか屋根とか登ったり跳んだりとかしているくらいで、特別なことはしてないんだけどなぁ。

 

「あっ……」

「今度は何でしょう?」

「い、いえ……その傷跡が……」

「ああ、これですか……やっぱり気になりますよね。水着はあったんですけど、ラッシュガード的なのがおいてなくてですね……」

 

 誘っておいてアレだけど、来るべきじゃなかったかな……こんなもん見せたくないし。それに、見たくないだろうし……。

 

「だ、大丈夫ですよ!これから何度も見るでしょうし……!」

 

 何度も?……何で?

 

(そ、そう……!だから、少しでも身体も見ることに慣れておかないと……!)

 

「あー紗夜さん?無理に(腹部の傷痕を)見なくていいですよ」

「い、いえ、大丈夫です!しっかり(慧人さんの身体を)見ていますので!」

「えっと……そろそろ湯に浸かりません?立ち話もアレですし……というか露天風呂だから寒いでしょうし」

「そ、そうですね!」

 

 周りに人が居ないのはよかった。流石に温泉に入りに来ただけで恐れられたら、(自称)ガラスのハートに傷が付いてしまう。

 

「もう少し、近くに行ってもいいですか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 2人で入った後、彼女は周りを何回か確認する。そして、隣に密着してくる……腕同士が触れているけど……まぁいいか。

 

(ま、周りには誰も居ませんよね?知らない人とはいえ、ここまで密着しているところを見られるのは恥ずかしいです……あれ?もしかして、今の姿を見られたら、こ、恋人と思われるのでしょうか……?)

 

「紗夜さん。のぼせました?」

「ど、どうしてそんなことを?」

「いえ、顔が真っ赤だと」

「そ、そんなことないですよ!第一、まだ入ったばっかりですし、顔が赤いのは……そう!露天風呂ですし一気に身体が温まって血行が良くなり血が流れ始めたからだと……」

「のぼせる前にはあがりましょうね。ここで倒れては意味ないですよ」

「そうですね……」

 

 それにしてもいい湯加減だ。男風呂の方も気持ちよかったが、こっちもなかなか……

 

「慧人さん慧人さん。空が綺麗ですよ」

「そうですね……」

 

 夜空には星が見える……いつも見ている空と違うのか、見ているシチュエーションが違うのか。いつもとは違うように感じる。

 

「確かに、綺麗ですね。いつもよりもそう感じます」

「そうですよね。これは新年からいいものが見れました」

「でも、紗夜さんの方が綺麗ですよ」

「…………ありがとうございます……」

 

 ゆったりとした時間が流れる。他の客もいないし実質貸し切り状態。何か2人だけの世界にも感じるな……うん。

 

(……こんな時間がずっと続いて欲しい……なんて我が儘ですね。でも、もう少しだけ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂を満喫し、部屋に帰る。敷かれた布団の上にそれぞれ座って談笑をしていた。

 

「そろそろ寝ましょうか」

「そうですね……今日は一日満喫しましたし」

「確か、昼過ぎにはここに居ましたよね?」

「えぇ。時間が経つのは早いものです」

「気付けば夜と……明日は何時に起きましょう?」

「明日は10時にチェックアウトして、昼過ぎまでこの辺りを観光。その後、バスと電車を乗り継いで帰りますよ。朝ご飯が7時から食べられるそうなので、明日は6時過ぎを目安に起きましょうか。後、明日はお土産を忘れないように。日菜に買っていかないと、あの子は拗ねるので……」

「とりあえず朝は6時ですね。分かりました」

 

 普段は設定しないアラームを6時にセットする。さて……

 

「では、おやすみなさい」

「待ってください」

「どうしました?」

「いえ……その……何かないんですか?」

「???」

 

 何か……え?今から?何か……ある?アラームはセットしたし、明日の予定は確認した。トイレもさっき行ったし……え?何だ?何がないんだ?…………あ。

 

「紗夜さん……ソシャゲのログインボーナス貰うの忘れていました。いやーおかげで思い出せました」

「…………寝ます」

「じゃ、ログイン済ませたら寝ますので」

 

 何処か期待外れな感じで、布団の中に潜り込む紗夜さん。何か間違えたか?まぁ、いっか。そう思って、ログインを済ませ、灯りを消し、布団の中に入る。

 

 

 

 

 数分後……

 

 

 

 

「慧人さん……起きてますか?」

「…………すぅ」

「…………」

 

(え?寝るの早過ぎないですか?前も思いましたが、寝つきがよすぎじゃありませんか?)

 

「…………(つんつん)」

「…………すぅ」

「…………(つんつん)」

「…………すぅ」

 

(完全に寝てますね……これ。よくこの状況で平然と寝れますね。分かっているんですかね?二人きりでの一泊二日の小旅行ですよ?こんな機会そうそうないでしょうし、何より気持ちがいつもよりも高ぶっていて眠れないといいますか……)

 

「これはつまり……」

 

 完全に慧人が寝ていることに気付いた紗夜。暗闇の中、慧人が寝ている布団の方へと入っていく。

 

(こ、これはアレですね。慧人さんの寝ている布団にスペースがあったからです。部屋は比較的温かいですが、今は1月。万に一つ冷えてしまわないように、私がそのスペースを埋めているだけであって他意は……)

 

 と、誰も見ていないのに心の中で言い訳を並べている紗夜。

 

(も、もしかして……今なら慧人さんに何をしてもバレないのでは?い、いえ、ダメです!流石に寝ている彼に何かするなど、そんな……でも、ここまで隙だらけなのはチャンスでは?そうだとしても、ここで何かするなんて……)

 

(今、しないでいつするのです?)

 

(あ、あなたは私の中の悪魔!?)

 

(いつもいつも彼の掌の上でいいようにやられているのです。今はやり返す好機……ここを逃せば次はいつ来るか分からないのですよ?)

 

(た、確かに……)

 

(待ちなさい)

 

(あ、あなたは私の中の天使!?)

 

(そんな復讐は何も生みません。それに、やり返したことがバレたらどうなりますか?今後の関係に響いてしまうのはよろしくありません)

 

(な、なるほど……)

 

(だから……バレないようにやりましょう)

 

(はい!……って、あれ?)

 

(天使さんの意見を聞いてはダメです。第一、バレないように仕返しなんて本当に出来るとでも?)

 

(出来ます。それに知っていますか?バレなければ何しても問題ないんです)

 

(……本当に天使ですか?悪魔もビックリなんですが……)

 

 そして、彼女の中の天使(?)と悪魔が戦いを始めた。

 約一時間争った結果……

 

(少しだけならセーフ。なるべくバレないようにするでどうですか?)

 

(悪魔にしてはいい意見ですね。賛成しましょう)

 

 妥協案が出て来た。

 

「す、少しだけならセーフです……!」

 

 そして、その妥協案に乗ることにした。

 

(でも、少しだけって何を……?)

 

(控えめに言って、襲うはどうでしょう?まずは彼のアレを……)

 

(本当に天使ですか?悪魔も流石に引きますよ?)

 

(じゃあ、悪魔さんはどんな意見を?)

 

(…………頬にキスとか?)

 

(そんなことじゃ悪魔の名が泣きますよ?やれやれ、こんな使えない悪魔さんの意見など聞く価値なしです。ひとまず、脱がせましょうか)

 

(いや、バレないようにって話は何処に消えたんですか?)

 

(彼が起きる前に着せれば問題なしです)

 

(無茶苦茶ですねこの天使!?)

 

(悪魔さんに言われたくないですね。それで、紗夜さん。あなたはどちらにしますか?)

 

(……悪魔さんの意見に乗ります)

 

(あなた正気ですか!?天使と悪魔、どちらの意見を聞くかなんて考えるまでもないでしょう?天使の意見を聞くべきではないのですか?)

 

(天使さん。あなたの意見は少しを超えています。だから、却下です)

 

(何を言っているんでしょう?先っぽだけいれようとしているのでセーフ……)

 

(アウトです。まさか、天使さんがそんな頭がおかしいとは……では、紗夜さん。やりましょうか)

 

(はい)

 

 意を決した紗夜。布団から顔を出し、手で慧人の顔を触って場所を確認する。そして……

 

「…………」

 

 寝ている慧人の頬にキスをする。そして、静かに布団の中に入っていき……

 

(や、やってしまいました……!うぅ……やってしまいましたよ……!)

 

 暗くて見えないが、顔を真っ赤にして悶えていた。

 

(では、次は額や首筋に……)

 

(寝ましょう。これ以上は無理です)

 

(う、嘘でしょう?これで終わりとか……え?本当に?ちょっと待って下さい?)

 

(これ以上悪魔さんに耳を傾けません。終わりです)

 

 こうして紗夜の仕返しは幕を閉じた……

 

 

 

 

 

 一時間後……

 

「ね、眠れない……!」

 

(お、おかしいですね?心臓の鼓動がいつもよりも早いです。落ち着こうとしても熱が冷めませんね?な、何ですかこの感覚は?)

 

 更に一時間後……

 

「羊が701匹……羊が702匹……」

 

 更に更に一時間後……

 

「羊が1300匹……日菜が1301人……あ、日菜ではなく羊1302匹……あれ?羊は1301匹では……?」

 

 更に更に更に一時間後……

 

「2357111317192329313741434753596167717379838997101103107109113127131137139149151157163167173179181191193197199…………(ぶつぶつ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして朝6時……

 

 pipipipipipi

 

「……何の音だぁ……?あー……アラームか」

 

 慧人、起床である。スマホのアラームが鳴っていたので止めることに。

 

「ふぁぁあ……にしても、変な夢だったな……」

 

(何だよ、大量の羊と日菜に押し潰されそうになる夢って……羊と日菜なんて、最初がひというぐらいしか共通点ないだろうが。それに加え、その大量の日菜が素数を唱えながらやってくるとか……ホラゲーか?新手のホラゲーか?何だよ夢の中でも勉強させたいってか?いや、その役目、日菜より紗夜さんの方が適任だろうが……)

 

「……ん?何か布団が……盛り上がってる?」

 

 寝起きでいつもよりは頭が回っていない慧人。目の前の疑問を解決すべく顔を動かすと……

 

「あれ?紗夜さんいねぇや。どこ行ったんだろう?」

 

 と、ここでようやく気付く。いつもよりも身体が重いと。布団の中から寝息が聞こえてくると。

 

「……あ、こんなところに居た」

「…………すぅ」

 

 布団を軽く持ち上げ、自身の上で寝ている紗夜を見つける慧人。

 

(何故こんなところに……?まさか、寝ている俺に何かイタズラとか仕返しをしようとしたけど、たいしたこと出来ず、そのまま俺の上で寝落ちした……とか?)

 

 そして、半分くらいは合っていそうな推理をする。だが……

 

(いや、千聖じゃあるまいし、ないな。きっと、寝ぼけたのか寝相が悪かったのだろう)

 

 違うと結論付けた。最初の推理の方が近いなんて、微塵も考えていなかった。

 

「……紗夜さーん。6時ですよー起床ですよー……」

 

 紗夜を起こすべく声を掛ける。反応がないので、軽く揺すって頬を突っつく。

 

「……ふにゅ……」

 

(可愛い……何だこの生き物。……どうしよう、もうこのままでいいや)

 

 

 

 

 

 一時間後……

 

「紗夜さん、どうしたんですか?寝不足ですか?」

「……えぇ、そうですね」

 

 朝食を一緒にとっている。あの後、流石に7時前には起こした。そうじゃないと、彼女のプランが崩れそうだったから……で、

 

「何かありました?」

「……悪魔と天使の言い争いが……いえ、何でもないです」

 

 ……どうしたんだろうか。寝不足な姿は、いかにも疲れてます感が否めないが、悪魔と天使って何のこと?え?この人、何言ってるの?

 

「頭大丈夫ですか?」

「えぇ、もちろん。ポテトのさえずりが心地よく聞こえてきて……」

 

 ダメだ。幻聴が聞こえているらしい……いや、待てよ。この人にとっての平常運転なのか?……どっちだ?ポテトのさえずりが聞こえることは、ポテト狂の彼女にとって、普通か異常か……そもそもポテトのさえずりって何?ポテトってどんな風に鳴くの?もう、彼女にとってポテトって何なの?

 

「……まぁ、紗夜さんだから普通か」

「おっと、酷い納得の仕方じゃないですか?」

「ポテトのせいです」

「ポテトのせいにするのはよくないですよ」

「じゃ、気のせいです」

「そうですか」

 

 ……となると、彼女のことだ。さっきの悪魔と天使も、ポテトを囁く悪魔とポテトを崇める天使とかそんな感じだろう。……おかしい、それ本当に悪魔と天使か?イメージとかけ離れているんだけど……

 

「……ところで慧人さん」

「何でしょう?」

「昨日の夕食でも思いましたが……慧人さんってよく食べますね」

「そうですか?」

「えぇ。私とポテトを食べに行く時の3倍以上は食べている気が……」

「そりゃあ、紗夜さんと違って、ポテトはあんなに入りませんよ。というか、ジャンクフードは食べるのセーブしてます。これでもスポーツ選手ですので」

「普段は?」

「作った量だけ食べます」

「今は?」

「食べ放題、バイキング、美味しい、たくさん食べる」

 

 その気になれば早食いはともかく、大食いチャレンジ的なのは平然とクリアできる自信がある。今度、モカと一緒にどっかの店を泣かせに行こうかな?いや、モカと行くと泣くのはひまりか?まぁ、なんでもいいや。

 

「……太らないんですか?」

「俺、太りにくい体質で……って、何ですか?腕をつねって……」

「慧人さん。その言葉は女性には禁句ですよ?」

「そうなんですか?」

「そうです」

「でも、紗夜さんってポテトばっかり食べてますけど、昨日はそんなこと感じませんでしたよ」

「いいですか?体型維持の為には日々の努力が必要なんです。慧人さんにいつ見られてもいいように、普段から頑張っていますからね」

「そうですか。じゃ、そのお手伝いをすべく、ポテト禁止しますか」

「ふざけてるんですか?」

「いいえ、大真面目です」

「バカなんですか?」

「いいえ、普通です」

「私のことが嫌いなんですか?」

「いいえ、好きです」

「ポテトのことが嫌いなんですか?」

「正直、最近ポテトが重く感じて……」

「そこは『いいえ、愛してます』と言うべきですよ」

「生憎、ポテトに愛を告げるつもりはないです……と、とってた分が空になったんで行ってきますね」

「…………まだ食べられるんですね」

 

 半ばあきれたような視線を背に受けながら、俺は食べる分を取っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りのバスは比較的空いていた。静かに揺れる車内。そこには……

 

「すぅ……」

 

 寄りかかって、静かに寝ている紗夜さんの姿があった。あの後、予定通りにチェックアウトして、近くの観光という名の散策をしていた。二人であのあたりのポテトを食べに行って……うん。……何でこの人との思い出にはポテトが居るんでしょうね?大体ポテトがセットになりつつあるんだよなぁ……誰か原因知らない?

 

「お疲れ様です」

 

 いつもより歩いたし、疲れも溜まったのだろう。ただえさえ、寝不足って言っていた以上、ここで起こすのも忍びない。俺はそう決め……

 

「ん?」

 

 と、スマホを見ているとメッセージが来ていた。相手は……東雲か。何かあったのか?

 

『あの人が辿り着いた』

『本当にいいのか?』

 

 ……どうやら、終わりが来たらしいな。

 

『前言った通り頼む』

 

 メッセージを送るとすぐに返事が来た。

 

『分かったよ』

 

 …………覚悟は決まっている。後はアイツがどうするかだけ……か。

 そう思いながら、俺は移り行く景色を眺めていた。




うちの紗夜さんが誰かと付き合ったときの破局の原因がポテトになりそう。
私と仕事ならぬ俺とポテトの二択を迫られ、速攻でポテトと答えてしまい……
下は次回予告です。



 ~次回予告~


 冬休みも終わりを迎えようとした時、慧人が行方不明になる事件が発生する。

「容疑者はRoselia全員」
「「「……っ!」」」
 
 容疑者はまさかのRoselia。
 彼の机の上に残された『さがさないで』と書かれた紙……スマホに財布も置いて消えた慧人。一体、何が起きたのか。

「ふっふっふ。この魔眼の前にはこの事件……すべてお見通しぞ!」

 魔眼探偵あこの爆誕。彼女の推理が冴え渡る……?

 次回、『彼の消えた日』

 その事件は何故起きてしまったのか……
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