何故、前編後編に分かれたかは最後を見れば分かります。なお、後編は明後日投稿予定。
うっすらと霧がかかっている空間。辺りを見渡す限り、霧しか見えない空間。
(ここは……夢……?)
夢の中に居るはずなのに、夢の中に居ると分かるこの感覚。明晰夢……そう呼ばれるものかもしれない。
そして、霧の中に一人の男性が浮かび上がってくる。
(慧人さん……)
しかし、その男性は私の方を一瞥しただけで、すぐさま後ろを向いて歩き始めてしまう。
(待って……)
そう言おうとする。しかし、声が出ない。追いかけようとしても、足が動かない。
徐々に離れていくその背中。私は必死に手を伸ばし……
「今のは……夢?」
目が覚めた氷川紗夜。自身の右手は空に向かって伸ばされていた。
そのまま右手を額に当て、先ほどまでの夢の内容を思い出そうとする。
(何もない空間……私から離れていく慧人さんの背中……)
ただの夢……そう片付けたいはずなのに、何故かそうすることが出来ない。
あの夢は何かを訴えているのではないか?
寝起きの彼女の頭に過ぎる考え。しかし、根拠は自身の見ていた夢という曖昧なもの。
「そんなわけないですよね」
何処か不吉で、何処か不気味な夢だった。そう思うことにして、手を伸ばしスマホを取る。時間を確認し、身体を起こす。本来であれば、そのまま朝食を食べに行くのだが……
「……これはただの確認です」
L○NEを開き、彼からの緊急のメッセージが届いていないことを確認する。
「やはり、考えすぎですね」
念の為、彼とのトーク画面を開き、何もないことを確認してから閉じようとした時、ある違和感が彼女を襲った。
「……既読すら……付いていない?」
一昨日の夜に送ったはずのメッセージに、既読すら付いていない。
彼……冬木慧人は決してメッセージに対するレスポンスが早いわけではない。しかし、身近な相手に対して限定すれば、遅すぎることもない。メッセージを送れば丸一日以内に返す、あるいは既読をつけることはするはず……が、既読すら付いていないことに違和感を覚えた。
「そんなはず……」
パソコンを立ち上げ、NFOを起動する。
当然ながら、彼はマイペースで抜けているところもあり、既読が付いていないのは、彼女が送ったメッセージに緊急性がないことを知って、そのまま放置もしくは忘れた可能性もある。
フレンド欄から、彼……Keiの最終ログインを確認する。
「……約57時間前……私たちとNFOを共にした時でしょうね……サブ垢の方はもっと前……」
前にNFOのログインが滞っていたことはあった。だが、それはサブ垢の方を進めるため、こちらを忘れていたというもの。しかし、今回は両方のログインを確認し、どちらも一昨日からのログインはない。
「……朝食を食べてからにしましょうか」
何でもないはずの夢が、何かを訴えかけている――今すぐ電話をかけて確認をしたい……が、まだ時刻は朝の7時頃。寝ている可能性を考慮し、もう少し待った方がいいと判断し、紗夜は自身の部屋から出て行くことにする。
「慧人さんが失踪……姿を消しているなんて……」
「そうね……完全に予想外だわ」
「どうしましょう……けいさんが……失踪事件に……」
「けー兄……!何でけー兄が……!」
昼過ぎ……澄み渡る青空が広がっているのとは対照的に、空気が重くなっていたRoseliaの面々。
あの後、時間を見計らって電話をかけた紗夜。しかし、その電話に出ることはなかった。
Roseliaの面々や日菜に確認してみるも、誰も会っていないし、連絡も出来てないという。昼になっても折り返しの連絡がないことから、嫌な予感がした紗夜は、慧人の家に行くことを宣言し、Roseliaのメンバーも何か起きているのでは?ということで慧人の家に集まった。
慧人の家に集まったところで、慧人のお母さんが仕事のために家を出ようとしていたところに遭遇。簡単に話を聞くと一昨日から姿を消しているとのこと。どこで何をしているのか見当も付かないとのことだ。
家に通された五人。紗夜に家のスペアキーを預けると、そのまま慧人のお母さんは家を出て行く。ふらっと帰ってきたらよろしくという伝言を残して。
「うーん。ハロハピの子たちに巻き込まれたとかじゃないかな?」
そこにリサが意見を出す。しかし、
「「「はぁ……」」」
「え?ちょっと待って?何その、コイツダメかもみたいな空気?」
「リサ。これはそんな単純な事件じゃないのよ」
「そうですよ。これはネタではなくガチの事件ですよ」
「もう少し深く考えましょう……!」
「そうだよリサ姉!そんな結論じゃないよ!」
他のメンバーから全否定される。
「でも、もし本当に失踪したんだったら警察案件だよね?」
「そうですね。ただ、ご両親がきっと警察には届けを出してくれているはず」
「いや、待ってるだけじゃダメだよ!あこたちも出来ることをしようよ!」
「そうだね……でも、一体どうするの?」
「推理よ」
「「「推理?」」」
「えぇ。冬木が紗夜に何の連絡もなしに失踪するのはおかしい」
(その前提がおかしいような……)
「だとすれば二つよ。紗夜に言えない理由で失踪したか、紗夜に言う暇もなく消えてしまったか」
「ゆ、友希那が鋭い意見を……ん?やっぱり、ハロハピ……というか弦巻家に拉致られたんじゃないの?」
「「「はぁ…………」」」
「何でそこまでアタシがダメな意見出した空気になってるの!?」
「実に浅はかです。今井さん」
「そうですよ……もっと深く考えないと」
「そもそもけー兄を拉致するんですよ?」
と、五人の少女は考え直してみる。果たして、あの慧人を拉致することは可能なのかどうかを。
「無理ね」
「無理だね」
「無理ですよ」
「無理かと……」
「無理だった……」
気配察知能力がバグレベル。さらに身体能力が高く押さえつけることは実質不可能。そんな男を果たして拉致することは出来るのだろうか?いや、出来ない……と言いたいが、割と黒服さんたちに連れて行かれるのは内緒。
「ここはまず、現場を見ることにしましょう」
ということで、彼女たちは彼の部屋に移動する。
「あっ、これって……」
部屋に入ってすぐにリサが何かを見つける。
「スマホ……ですね」
「でも、なんでここに……?」
「連絡が取れない理由は……そもそも彼の手元にないから」
「で、でも、これって結構マズいんじゃないの……?」
「えぇ。GPS……位置情報で場所を特定できない……そして、連絡を取り合う手段もない……」
「ま、待って!コレ見て!」
続いてあこがさしたのは慧人の机の上。そこには一枚の紙が置いてあった。
「『さがさないで』……急いで書いたんでしょうか。字がとても雑ですね」
「自ら失踪……いえ、その可能性も低いですね……」
「どうしてなの?」
「えっと、財布もここに置いてあります。スマホは位置がバレてしまうリスクがありますが、流石に財布がないのであれば、何もできません……それに、この机の状況。まるで、勉強中の様子ですし……」
「た、確かに……テキストとノートが開いたまま……けー兄は勉強中だった?」
「なるほど……中途半端なのね」
「でも、空き巣や強盗ではない……部屋を見渡しても荒らされた様子がなく、お母様も然程心配していないことから、そういうことにあったというわけではない。そうなると……」
考え始める五人。そんな中、リサが声を上げる。
「千聖も知らないみたいだよ」
「白鷺さん?」
「うん。アタシら以外で一番情報を持ってそうなの千聖じゃん?だから聞いてみたんだけど、何も知らないみたい。そもそも昨日まで仕事で忙しくて、連絡も取れていなかったらしいよ」
「……なるほど」
「何がなるほどなんですか?紗夜さん」
「……白金さんも言ったように、慧人さんが自ら失踪した……という可能性は限りなく低い」
「そ、そうですね……」
「そうなると、残るは最初も言っていたように拉致……何者かに捕まってしまったこと」
「でも、部活の合宿とか、そういう可能性も一応あるんじゃないの?」
「いえ、それは低いでしょう。部活など公のものであれば家族に伝わっていないことがおかしい。スマホや財布を忘れたことにも疑問を抱きますし、そもそもこの『さがさないで』のメッセージの意味が分かりません」
「確かにそうね……でも、犯人は一体誰なのかしら?」
「容疑者はRoselia全員」
「「「……っ!」」」
紗夜の発言に戦慄する四人。
「な、何でそうやって言えるの……?」
「それは二つ。外部の……慧人さんの知人以外の犯行の場合。この『さがさないで』という文面には違和感が残ります」
「そうだね……だって、それこそ警察案件になるから、何かしらヒントなりを残しそうだし……」
「えぇ。それに、彼の気配察知能力から、家の何処から侵入されようが彼なら撃退できる可能性が高い……彼に不意打ちをすることは不可能に近いです。なので、彼にとっての顔見知りの犯行の可能性が高いと言えます」
「でも、何故そこから私たち5人に絞れるのかしら?」
「それは……ここにいるから、でしょうか」
「……どういうこと……?」
「ふっふっふ、あこには分かりましたよ!紗夜さん!」
「分かったの……?あこちゃん?」
「うんとね、けー兄が消えたことっていつかは分かるじゃん?それで、けー兄が消えたときに、一番最初に動くのって……」
「紗夜……だね」
「うん!だから紗夜さんに付いていくんだよ。……真相にたどり着かせないように」
「犯人が……監視している……?」
「つまり、私たちの誰かが犯人……?」
「……うーん、別にそうとは限らない気がするけど……」
「その通りです宇田川さん。そして、私自身が潔白という証明もまだ出来ていない以上、容疑者はこの場にいる五人に絞られたと言っていいです」
犯人はこの中に居る……他の人を疑い、様子を伺う四人の姿。
(……何だろう……慧人くんのメッセージを信じた方がいい気がする……別にこれ事件でも何でもない気が……)
ただ一人、リサを除いては。
「ふっふっふ、ここは妾の出番のようだ!」
そんな状況の中、一人名乗りをあげるものが居た。
「魔眼探偵あこ……この魔眼の前には全ての真実は…………えっと……」
「白日の下に晒される」
「は、白日の下に晒されるんだよ!」
「……え、えーっと、あこ……?」
「魔眼探偵あこ。まずは、何をしたらいいの?」
「え?友希那まで?」
「まずは、けー兄が拉致された時間を考えるべきだと思うよ!」
「なるほど。確かに、まだ彼の拉致された時間は分かりませんからね。流石は探偵ですね」
「えぇ……大丈夫かな……?でも、筋は通ってそうだし……」
「えっと、一昨々日の夜は……私とあこちゃんと氷川さんとけいさんで……NFOをしていたよね?」
「うん!楽しかったよね!」
「その時点までは生きていた……しかし、一昨日の夜に送ったメッセージに既読すら付いていなかったことから……」
「一昨日のどこかで拉致されたのね」
「あっ、そう言えばアタシ、一昨日の昼に慧人くんと電話したよ。ほら、はい」
そういってリサは自身と慧人の会話の履歴を見せる。そこには確かに一昨日の昼に通話した履歴が残っていた。
「なるほど。今井さんの電話を最後に、慧人さんの消息が途絶えてますね」
「え?何で分かったの?」
「慧人さんのスマホでL○NEを開いただけですが?」
「え?どうやって入ったの?」
「普通に入りましたけど?前に、慧人さんがスマホに入る時のパスワードを知ってしまったので……」
(((知ってしまった……って……)))
「確かに……けー兄、リサ姉との電話の後は既読が綺麗についていないね」
「つまり、慧人さんのお母様の話を踏まえると、慧人さんが姿を消したのは一昨日の昼過ぎから夜の間のどこか」
「ふむふむ。つまり、その時間が犯行時間なんだね……」
少し考えるあこ。すると、いきなりハッとしたような感じで声をあげ……
「分かった!」
「え?何が?」
「犯人だよ!」
「流石は探偵ね。あこ、教えてちょうだい。犯人の正体を」
五人の中に緊張が走る……その緊張感の中、あこはある人物を指名した。
「犯人は紗夜さんだよ!」
指差したのは紗夜だった。当然ながら、指をさされた本人は疑問を口に出す。
「……何故私が?」
「けー兄を拉致することは不可能……でも、本当にそうであるとは言えない」
「どういうことですか?」
「ズバリ!紗夜さんにだったら何にも考えずについて行く可能性が高い!」
「「なっ……!」」
「そして、どこか密室に閉じ込めたんだ!さぁ、紗夜さん!けー兄の居場所を吐くんだ!」
「で、でもあこちゃん……それだけじゃ流石に……」
「動機はけー兄を捕らえて手中に収めること。犯行日時は……えっと、リサ姐の電話後からその日の夜までのどこか!」
「でも、紗夜が犯人なのは変じゃないかしら?」
「どういうこと?友希那」
「だって、紗夜が冬木について聞いて回っていたのよ?犯人である紗夜が捕らえたというのに、そんな行動をするのは不可解じゃないかしら?」
「ふっふっふっ、そう来ると思ってました」
「じゃあ、何かあるのかしら?」
「逆に考えてくださいよ。けー兄が失踪したことは時間が経てば、あこたちも気付き始めるはずです。そんな中で、
「……確かにそうね。
「そうだね……
「うん……
「待ってください。なんで皆さんして『あの』ってつけるんですか?」
(((……だって……ねぇ?)))
「だから、けー兄を一番最初に捜そうと動いたんですよ。自分が一番最初に動かないと怪しまれるから……」
「無視ですか……まぁ、筋は通っているようですね……ですが、その推理は甘いですよ。宇田川さん」
すると、あこの推理に反論する紗夜。その顔には自信があった。
「いいですか?私にはアリバイがあります」
「あ、アリバイ?……どうしよ、りんりん。アリバイってなんだっけ?」
「現場不在証明のことで……えっと、犯行の日時に犯罪の現場以外の場所にいたということを主張して、無実を証明することだよ……」
「な、なるほど……?要するに?」
「自分は無実ですっていう証明のことだよ」
「なるほど!」
「私の場合、証人は日菜です。彼女なら私の無罪を証明してくれます」
「そっか、ヒナが証明してくれるんだ」
「あれ?ということは違うんだね。じゃあ、りんりん?」
「ううん。私はあこちゃんとNFOをしていたよ……?」
「だよねー。じゃあ、リサ姐?」
「アタシもあの電話の後はモカとバイトしていたよー」
「ということは友希那さんも……」
「もちろん、違うわよ」
「もしかして……あこ自身!?」
「そうなんですか宇田川さん!?」
「あはは……あこには拉致した記憶があるのかな?」
「な、ないよ!」
「そもそも……一昨日は私とイベント周回していたよ?」
「そういえばそうだった!よかったぁ……あこも無実で……?」
「ということは、これで、五人とも無実だね」
「「「…………」」」
「どうしたの?」
「「「犯人が……居ない……?」」」
Roselia全員にアリバイがあり、犯行が難しい現状。さらに現場の状況からも、この中のメンバーでは犯行が不可能だと思われるものだった。
「……もしかして何か見落としている……?」
「「「……っ!」」」
「いやいや、そもそも犯人が存在しないんじゃ……」
「な、なるほど。現場の検証が不十分だった可能性もありますね」
「そ、それにアリバイの検証もしないと……」
「犯人はなんて狡猾なの……!」
「……えぇ…………」
もとからポンコツ気質のあった紗夜と友希那は、既に犯人がRoseliaの誰かであると思い込み、燐子もあこに乗っかる形で、もはや犯人がいないと思っているのはリサだけだった。
そして、一時間後。全員のアリバイの立証、慧人の部屋を再び調査を済ませた……が、新たな情報は出てこなかった。
「やっぱり、深く考えすぎているだけかもよ?」
「もしかして、本当は犯人なんて存在しないんじゃ……」
「……そうですね……私たちじゃ不可能です……」
「じゃあ、冬木は自ら失踪を……?」
「…………っ!紗夜さん!」
「何でしょう」
「けー兄のL○NEの画面見せて!」
「どうぞ」
あこは何かに気付いたようで慧人のL○NEの画面を見る。画面には綺麗にリサ姐の電話の後のL○NEには既読が付いておらず、それ以前は返信したり既読が付いていたりしていた。
「……もしかして……」
「あこちゃん?」
「……分かった……」
「「「え?」」」
「……犯人……分かっちゃった」
そして犯人の方へと指をさす。
「犯人。それは――」
全員が指さした方を向く。
あこが指さしたのは――――
さて、魔眼探偵あこが犯人だと指摘したのはRoseliaの五人の内、誰でしょうか?
是非、推理あるいは予想してみてください。
推理のヒント
あこ、燐子、紗夜の3人とのNFOから次の日の夜までの、どのタイミングで慧人は消えたのか?
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