六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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誕生

 

 目を閉じた中で、微かに聞こえる波の音と、隣から心地の良い寝息を立てた音がする。

 

 ゆっくりと目を開けると、そこに映ったのは高級感溢れる茶色い天井であり、寝息が聞こえる方に顔を向けると、そこには髪が乱れ、生まれたままの姿でいたティアドロップがいた。

 

 段々と意識が覚醒していく中、嗅ぎなれないむせ返るような臭いと、隣のベッドのシーツが乱れ、シミのような物がいくつかあった。

 

 腰も少し痛いし、寝ていた筈なのに何故か疲労感が拭えなかった……いや違う。寝ていたからこそ疲労感や腰の痛みがあるのだ。

 

 しかも裸なのはティアドロップだけじゃない。俺も服もズボンも何もかも着てない全裸だった。

 

 乱れた髪に裸のティアドロップ、汚れたシーツとむせ返る臭いを嗅ぎ、脳裏であの夜の事を思い出した。

 

「俺、ティアドロップと……」

 

 やったのだ……やってしまったのだ。

 

 徐々にその時の記憶が戻りつつあった。聞いたことないティアドロップの声、妖艶で蕩けていた顔のティアドロップの姿に、肌と肌がぶつかり合う音が鮮明に蘇る。

 

 叫びたい気持ちを堪え、心の中で叫び散らかしながら平静を装い、とにかくまず俺は服を着替えた。

 

「……窓、ちょっと開けるか」

 

 とにかく部屋の臭いを取るために窓を開けると、少し弱めの風が部屋に入ると、その風でティアドロップが目を覚ました。

 

「んん……花衣様? 先に起きてたのですか?」

 

「いや、俺もさっき起きたばかりだ。というか、早く服を着ろ。風邪ひくぞ」

 

「ふふ、昨日、というより、数時間前はずっとこのままでしたものね」

 

 ティアドロップはベッドのシーツを脱ごうとした所を俺は慌てて止めた。

 

「服を! 着ろ!」

 

 思わず声を荒らげ、ティアドロップは悪戯が上手くいった子供のように小さく笑った。

 

「ところで花衣様。今日は貴方の誕生日です。本日のご予定、忘れてませんよね?」

 

「あぁ。昼に誕生会だろ? わかってるさ」

 

 そう、8月7日。花の日である今日は俺の誕生日でもあり、花音の誕生日でもある。この日は恐らく、誕生会の為に皆準備を進めている事だろう。

 

 誕生日を祝われる事なんで随分と久しぶりだ。去年は母さんが仕事が忙しくて帰って来れなかったし、その前の年だって……

 

(あれ? そもそも俺、祝われた事あったか?)

 

 いや、あるに決まってる。だが、その記憶は無かった。

 

 去年も、一昨年も、その前の年も、誕生日を祝われた記憶が無かった。

 

 歳の数だけロウソクを立てたケーキも、プレゼントも、少し奮発した豪華な料理も、何もかも覚えて……見た記憶すら無かった。

 

 そんな訳あるのか? 今まで10年以上も生きてきて、誕生日を祝わわれて無いなんてあるはずが無い。必死に思い返そうと目を閉じて記憶を遡っても、そんな記憶はやっぱり無かった。

 

「花衣様? どうされましたか?」

 

 ティアドロップが心配で来たのか俺の隣まで足を運び、じっと俺の顔を見つめていた。

 

「何だか、酷く寂しそうな顔をしていますよ?」

 

「……いや、なんでも無い」

 

 こういう時は母さんに聞くのが1番だ。きっと写真の1枚や2枚持っている筈だ。

 

 考えを振り払うようにゆっくりと顔を左右に振り、今日はどう過ごすか考えた。

 昼頃に誕生会だからまだ時間はあるし、準備の邪魔をする訳には行かない。

 

「昼まで少し暇だな……」

 

「でしたら、プレゼント探しはどうでしょうか」

 

「プレゼント? 誰の……って、お前」

 

「花音さんの誕生日プレゼント探しですよ。考えてはいたんですよね?」

 

 確かに今日は花音の誕生日でもあるからプレゼントを渡そうかと考えてはいたが……まさかティアドロップからそんな言葉が出るとは思わず、驚いた。

 

「でも、良いのか?」

 

「貴方の気持ち最優先ですよ。貴方のしたい事、やりたい事が、私のやりたい事なのですから」

 

「ティアドロップ……」

 

 昨日花音に言われた事と少し同じ事を言っており、性格こそ違うが、似ているなと思った。

 

「ですが、あまり私以外の女性と気を許さないように。私と重ねてエクシーズしたのですから」

 

「エクシーズを隠語みたいにするな!! まぁ……確かに言う事はごもっともだけどさ」

 

「じゃあもっとしましょう」

 

「だぁぁぁ! とにかく買いに行くからな!」

 

「あ、待ってください。その前に朝食にしましょう。まだ朝食のビュッフェがあるはずです」

 

 ティアドロップの言う通り、まずは朝食を済ませることにした。ホテルのレストランに足を運ぶと、まだギリギリ朝食のビュッフェがやっており、料理もそれなりには残っていた。

 

 ホッとしながらもティアドロップと一緒にどれか良いか悩んだり、好きなものを入れたり、見た事ない物を皿に盛ったりと、ビュッフェならではの楽しみ方をしていると、遠くの方から声がかかった。

 

「お! 今起きたって感じだな!」

 

 この声は焔だった。焔の他には空とカンザシ、そしてストレナエの4人だった。

 

「おはようございます。旦那様、ティアドロップさん」

 

「おはよー! 花衣君!」

 

 元気よく声を上げたストレナエが俺に飛び込み、ぎゅっと腰周りに手を回して抱きついてきた。相変わらず元気のいい子だ。

 

「おはよう、皆。そっちも朝食か?」

 

「いや、俺達は済ませたが、そっちの姿が見たからな。声をかけただけだ」

 

 となると、皆もう朝食を終えたのだろう。まぁ確かに、昨日は色々やったから起きるのが遅くなったのだから、当然と言えば当然だった。

 

「んー? すんすん……ねぇ花衣君、なんか花衣君から変な臭いするよ?」

 

 抱きつきいているストレナエが服に付いた臭いを嗅いでいた。

 一応シャワーとかは済ませた筈なのに、行為の臭いがどこかに付いたのだろうか。そんな事今バレたらどんな反応されるか分かったもんじゃない。

 

「き、気の所為じゃないか?」

 

「ううん。なんか石鹸の匂いと変な匂いがある。何だろこれ、イカさんの臭いかな? でもイカなんて変だよねー? ティアドロップの方も同じ臭いするし」

 

 ストレナエの無邪気な疑問が焔達に突き刺さると、焔達は体が石にでもなったかのように固まり、驚きや困惑の感情が混ざった丸い目を俺に向けた。

 

 見るな、そんな目で俺を見るなと叫びたいが、有無を言わせない圧で言えずにいた。

 

「お前……やったのか? ハメ外すどころかハメまくったのか?」

 

「言い方!」

 

「……なんだ、言葉に困るが……卒業、おめでとう」

 

「空、その反応に俺は困ってしまうんだが」

 

「なるほど。ついにいたしたのですね。ええ、はい。こうなる事は分かっていましたから」

 

 心做しかカンザシの声が震えており、ティアドロップに先を越された事にショックを受けているのだろう。

 

 しかしカンザシは何を思ったのか笑顔になると、俺の耳元に唇を近づけて囁いた。

 

「今度は私にもお情けを下さいね」

 

「はっ!?」

 

「ダメです。もう花衣様は私のものですから」

 

「あらあら、誰がそんな事決めたのですか? 妄言を言うのも大概にしてくださいね?」

 

「なぁ、俺らって邪魔か?」

 

「だな。さっさと準備に戻るか」

 

「あっ、お、おい! ちょっと待て!」

 

 頑張れよと目で応援しながらも焔と空はここからそそくさと逃げ去ってしまった。

 

「どうやら分からせる必要があるようですね。花衣様が誰のものか」

 

「そうですね、では早速……」

 

「あぁずるいずるい! 私もやる!」

 

 対するこっちはティアドロップ、カンザシ、ストレナエに囲まれてしまい、3人のあーんの波状攻撃による朝食が開始された。

 

 料理は上手く、朝から皆と居られるのはいいんだけど……朝から沢山食べられるタイプじゃないからもう少しだけ量を減らして欲しかった感はあった。

 

 

 さて、そんな朝食が終わって花音のプレゼント探しの時間だ。昼頃まではおおよそ2時間程度であり、ホテルの近くにあるモールで花音が喜びそうな物を探してみる。

 

 と言ったものの、花音はお金持ちの一人娘。大抵の物は揃っているだろうし、買ってくれてるだろう。

 それを考えると余計にどれが良いか悩んでしまい、店に入ることすら出来なくなってしまった。

 

 そんな中、また知り合いの声が耳に入り、俺の名前を言った。

 

「あ、花衣君〜! おっはよー!」

 

 遠くからスノードロップが名前を呼びながら、朝のストレナエと同じようにダイブするようにして抱きついた。ストレナエとは違ってほぼ背丈は同じだから、スノードロップの顔が俺の首筋当たった。

 

 スノードロップだけではなく、奥にはヘレボラスと雀がいた。

 

「おっはよー! 花衣とティアドロップ! そして誕生日おめでとー!」

 

「おはようございます。花衣さん、ティアドロップさん。誕生会には少し早いですが、お誕生日おめでとうございます」

 

「ありがとう皆」

 

「いや〜まさか花音と誕生日同じだなんてね〜私、花音の分しか用意してなくて……」

 

「いや、祝ってくれるだけ嬉しいよ」

 

「代わりに、花衣君のプレゼントは私達があげるから!」

 

 スノードロップは甘える猫のように首元を擦り寄らせ、俺の首筋を嗅いだ。臭いを嗅がれて少しこそばゆくなり、するとスノードロップ何かに気づいたのか目を細めて俺を見た。

 

「ねぇ、花衣君からすっごくティアドロップの匂いがするけど……何これ?」

 

「うぐっ……」

 

 スノードロップが俺の右腕を握りしめて段々と力を強めてきた。まずい、ヘラボラス程では無いにしろ精霊の力は強い。

 スノードロップが俺の骨を折ることは無いが、このまま何も言わなければ骨が折れる寸前まで行きそうだ。しかし、スノードロップはティアドロップの誇った顔を見て全てを納得し、俺の腕を掴む力を弱めた。

 

「あぁ……やっぱりそうだったんだ〜。じゃあ花衣君、今度は絶対絶対私としようね。約束だよ?」

 

「わ、私にも……その、お願いします……ね?」

 

「は、ははは……はい、分かりました」

 

「じゃあ、私達は誕生会の準備があるから! それじゃ行こっか、雀」

 

「じゃあね〜」

 

 そうしてスノードロップとヘレボラスは雀を連れて誕生会の準備に戻った。

 

 カンザシに続き、スノードロップとヘレボラスにもこういう約束をしてしまった。それなのにその事に期待している自分がいるのがなんとも言えず、節操無しの自分を責め続けた。

 

「言ったでしょう。私とまぐわっても変わらないと」

 

「いや結構変わってると思うぞ……これから先どうなる事か……」

 

「ですが花衣様を愛しています。他の誰かが入り込む余地なんてないですよ?」

 

 ティアドロップは入り込む余地がないという言葉を示すように俺を抱きしめた。

 

 あの夜の時とは行かないが、それでも距離が近いことには変わりなかった。

 

 道行く人がいる中で、ティアドロップは人目も気にせず強く抱き、俺の背中を長い指で撫でた。

 

「ティ……ティアドロップ、こういう人前では……」

 

「じゃあ人気のない所なら良いのですか?」

 

「そういう事じゃなくて!」

 

 身体を重ねたというのにいつもと変わらない態度と展開にティアドロップは笑い、ようやくティアドロップが言っていた事が分かった様な気がした。

 

 何も変わらないというのはこの事だったのだ。ティアドロップに先を越されたにも関わらず、離れるどころかむしろグイグイ近づき、変わらず俺の事を想ってくれている。

 

 まぁ、修羅場になるのも変わらないんだが、それも含めての変わらないのだろう。

 

「さて、早く花音さんのプレゼントを選びましょうか。あの人の事です、花衣さんのプレゼントならなんでも喜ぶと思いますよ」

 

「なんでもが困るんだけどなぁ……」

 

 まるで晩飯を聞かれて何でもいいと返された母親の様な言い方で悩みまくる。

 せめて花音の好きな物とか分かれば良いのだが、あいにく花音の好きそうな物は知らない。

 

 今思えば、俺は花音の事を何も知らなかった。大きな会社の社長の一人娘であり、花のように柔らかな性格で、良い奴ぐらいしか、俺には花音の趣味や好物が何も分からなかった。

 

 ただ、【普通】を愛している。それが唯一好物が分かりそうなヒントだった。

 

「普通かぁ……」

 

 その時、ふとアクセサリー屋の店が目に入った。高級ブランドが置かれている物では無く、手頃の値段でのものを取り扱っている店だった。

 

「なぁ、ティアドロップ。アクセサリーのプレゼントってどう思う?」

 

「悪くないと思いますよ。……ですが、ペアペンダント、なんて買わないでくださいね?」

 

「分かってるから……買うとしても、安物ぐらいしか買えないけどな」

 

 早速ティアドロップと一緒にアクセサリー屋に入り、英語でいらっしゃいませと言われながら早速プレゼントを探す。

 

 花音と言えば花だから、やはり花を模したアクセサリーが良いだろうか。試しに探してみると花形のネックレスや、ピアスとかもあった。

 

 だがどれも花音には少し似合わないと感じた。それどころか、こういうアクセサリー系を花音はもっといい物を身につけているのではと考えてしまい、自分の考えが浅はかだと痛感する。

 

「……どうしようかな」

 

 また別の物を考えるか……? いや、そんな時間はもう無さそうだ。時間を見るともう既に誕生会の時間まで40分切っており、戻る時間を考慮してもここで決めなければならない。

 

 店の中を早歩きし、この中から良さそうなのを探すと、ふと目に映ったのは一つのブレスレットだった。

 

 緑白の花かんむりの様な形状のブレスレットはどうやらミサンガの様にもなっており、柔らかな印象を持ったブレスレットは花音にもよく似合っていた。

 

「……これにしようかな」

 

 時間ギリギリで見つけられた運命的な出会いを感謝して早速花かんむりのブレスレットを買い、少し急ぎ気味でホテルに戻った。

 

 だがその途中、この辺りに居てはいけない人物を見かけた。それは花音だった。見間違いようがない。ストリートの何も無い広場で立っていた。

 

 声を掛けようとしたが、それを止めた。声をかけるべき場面では無かったからだ。

 

 花音は1人ではなく、アロマージ達と何かをしていたのだ。

 

「花音! 誕生日おめでとう!」

 

「おめでとうございます。これ、プレゼントです」

 

 アロマージ達は花音に様々なプレゼントを渡していた。花冠、アロマキャンドル、アロマオイル等、アロマに関する物を花音に渡していた。

 

「皆さん、ありがとう。……すみません、こんな風にささやかな事をさせて」

 

「大丈夫だよ。それに、私花音の誕生日を祝えるなんて嬉しい!」

 

 アロマージ・ジャスミンがその嬉しさを伝えようと花音にギュッと抱きつき、花音は抱きついたジャスミンの銀色の髪をそっと撫でた。

 

 そして、ジャスミンの同じ気持ちなのか、他のアロマージ達も笑顔で頷き、間もなくバースデーソングを歌った。

 

 決して他の誰にも聞こえる事の無い、花音だけに送られたバースデーソングは花音の心に響き、ささやかだが特別な誕生会であった。

 見てはしまったがこれ以上居ると邪魔になる。花音とアロマージ達の小さな誕生会を壊さない様にそっと足音も立てずにここから離れた。

 

「ありがとう皆、私……絶対この誕生日を忘れないから!」

 

 立ち去ろうとした間際に聞いた花音の言葉が、俺の胸を貫いた。

 

 背中から冷たい槍にでも刺さったかの様な衝撃が走り、胸の痛みで思わず服を掴み、痛みをこらえた。

 

 誕生日……それは自分が生まれた日を祝う物だ。一年でこの日しかなく、二度とその時は来ない大切な日だ。

 忘れられない、大切な日の筈なのに……俺にはその記憶が無かった。

 

(誕生日……か)

 

「花衣様……? どうかされたしたか?」

 

「えっ? ……あ、いや……いい、誕生会だったなって」

 

「はい。素敵な誕生会でしたね」

 

「あぁ。花音、本当に嬉しそうにしていた」

 

 涙ぐみながらも笑っていた花音の姿は、今まで見た中で一番の笑顔だった。

 

(……俺も、あんな風に笑える誕生日があったのかな)

 

 少し花音の事を羨ましいなと思いながらもホテルに戻り、誕生会まで待った。

 

 

 

 数時間後、その時は来た。誕生会と言ってもサプライズとかそういうのでは無く、ホテルの一室を借り、豪華な料理やケーキを皆で食べる物だ。

 

 これにはホテルのスタッフ達にも協力して貰っているらしく、誕生会は賑わっていた。

 

 焔は豪華な料理を堪能し、空は嗜む程度で味わって、彼方さんは天音ちゃんの為に甘いスイーツを皿に盛り、天音ちゃんは頬が落ちそうな程美味しそうに食べていた。

 

「はーい! 花音、ハッピーバースデー! これ、プレゼント!」

 

「おめでとう花音、貴方にとってはつまらないものでしょうけど、大事にしてくれると嬉しいわ」

 

「お誕生日おめでどうございますわ。という事で、プレゼントでしてよ。私のように美しくなる為に励みなさい! まぁ、私程には至らぬかもしれませんが」

 

 花音は霊香や雀、カレンさんに誕生日プレゼントを貰っていた。霊香には丁寧な作りをした箸を貰い、雀には色とりどりの形をしたチョコ。そしてカレンさんには口紅を渡されていた。

 

「わぁ……雀ちゃん、霊香ちゃん、カレンちゃん! 私、すっごく嬉しいよ!」

 

 あまりの嬉しさに花音は3人を泣きながら抱きしめ、あっちは楽しそうに過ごしていた。

 

 だが、俺の方は少し気後れしていた。もちろんこの誕生会は楽しいものだ。だが、それにはあまりにも多くの事がありすぎた。

 

「お客様、本日はお誕生日おめでとうございます。ささやかな物ですが、当ホテルのサービスを堪能してください」

 

 丁寧な対応、キチッとした言葉遣いと姿勢で思わずこっちも姿勢が正されてしまうような完璧な態度のブロンドヘアーのスタッフが俺の誕生日を祝ってくれた。

 スーツを着ていたがその人は女性であり、女性のスーツ姿が珍しく思いつつもお礼を言った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 軽く会釈をし、手に持っているジュースを1口飲む。するとスタッフさんがじっと俺の顔を見つめており、何かついているのかとさり気なく顔に手を触れたりしたが、特に顔に何かが付いているのはなかった。

 

「あの、何か付いてますか?」

 

 思わず声をかけると、スタッフさんは慌てて謝罪した。

 

「申し訳ございません。失礼ながら、お客様の誕生会だと言うのに、貴方が少し浮かれない顔だなと思いまして」

 

「浮かれない……? まぁ、最近色々ありましたから」

 

「色々と……ですか?」

 

「まぁ、色々と」

 

「おーい! そんな所で何してんだ! おめぇと花音の誕生会何だから、こっち来いよ!」

 

 焔が手を振って呼んでおり、確かにと呟き、スタッフさんにひとつ挨拶をした。

 

「じゃあ、これで」

 

「はい。ごゆるりと、お過ごしくださいませ」

 

 何だかホテルのスタッフと言う割には、メイドさんみたいな印象を受けながらも、焔達の元に来た。

 

「たく、何してんだお前」

 

「ごめん、考え事してた」

 

「最近の事を気にしているのか?」

 

 近くにいた空がズバリと気にしていた事を言い当てた。最近の事と言うのは、ウェルシー辺りの出来事の事を指しているのは間違いない。

 

「まぁ……な」

 

「確かに謎が多いが、今はお前の誕生日なんだ。今日ぐらい忘れたらどうだ?」

 

「そうだぞー。こんなうめぇもんあるから食おうぜ、おらおら」

 

「焔様の言う通りですよ」

 

 ティアドロップ達も俺の元に集まり、空と同じような事を言ってくれた。

 

「そういう花衣様には、プレゼントをあげて忘れて貰いましょう。……2度目の言葉ですが、花衣様。お誕生日おめでとうございます」

 

 1度目は0時の夜に言われたから、2度目の祝福と共にティアドロップから渡されたのは2つの指輪が重なっているネックレスだった。

 

「それ、私とヘレちゃんとも一緒に作ったんだよ」

 

「そうだったのか。なるほど、3人分の気持ちが込められるって訳か」

 

「ん? なぁ、それ花衣がいつもしてる指輪と少し似てねぇか?」

 

 焔の言う通り、ティアドロップが前にプレゼントしてくれた指輪とは細部が違う。右手の小指に付けてある指輪と比べて見ると、このチェーンがつけられている指輪の方は螺旋型に作られており、どうやってこれを作ったのか分からないほど出来が良い。

 正直出来で言えば前の指輪よりも数段良い。

 

 美しい氷の結晶の様な輝きは宝石にも負けない程の美しさを放っており、それを繋ぐチェーンもより精巧に作られていた。まさに、値段が付けられないという言葉がふさわしいほど、美しかった。

 

「ダブルリングネックレスです。指輪の内側を見てください」

 

 ティアドロップに言われ、それぞれ指輪の内側には違う文字が並べられていた。

 

 1つ目は、ich liebe dich、2つ目はIn manus tuas commendo spiritum meumと書かれていた。

 

「ん? どういう意味だこれ」

 

 俺と一緒に指輪の内側を見ていた焔はそう言い、空が気になっていたので空にもこれを見せた。

 

「この文字列はドイツ語とラテン語だな」

 

「読めるのか?」

 

「いや、無理だ。だが何となくは分かるだろ?」

 

 確かに、ティアドロップ達が言いそうな言葉だとしたら。この文字の意味は何となく分かるような気がする。だが、分かりそうなだけで意味は不明だ。諦めてティアドロップに何なのかを尋ねた。

 

「1つ目のich liebe dichは愛している。2つ目のIn manus tuas commendo spiritum meumは、私の魂は貴方の手の中に。という意味ですよ」

 

「それはまた、随分と情熱的だな」

 

「ふふ、貴方への愛は言葉だけでも、気持ちだけでも足りませんよ」

 

「そういう事! 入れたい文字が沢山あったから、悩んじゃったよ」

 

「伝わってくれると嬉しいです」

 

「あぁ、十分すぎるぐらいに伝わってる」

 

 早速貰ったネックレスを首に付けた。うん、いい感じだ。チェーンの擦りも無く、俺に対しての気遣いも最大限にあるネックレスだった。

 

 ネックレスを首に掛けると、次はストレナエとプリムとシクランが小走りでこっちに来た。

 

「はい! 次は私たちのプレゼントだよ!」

 

 するとストレナエが渡してきたのは、スノードームだった。

 球体のドームの中には、白い雪の雪原に5人のミニチュアが笑顔で暮らしており、見た目からしてストレナエ、プリム、シクラン、ひとひら、そして俺だった。

 簡素だが皆の特徴を掴んでおり、見ていてほのぼのしてくる。

 

 それでいてドームの外側には氷のツタのようなものが美しく絡んでおり、外側の装飾だけ見ると芸術品の様だ。

 

「これ、ストレナエ達で作ったのか?」

 

「そうだよ。ひとひらちゃんが中から一生懸命作ったり、私はこのミニチュアを作ったんだよ」

 

 ストレナエの頭の上からひとひら飛び出し、ストレナエの頭の上にどんと胸を張っており、ストレナエも同じようなポーズをした。

 

「私とシクランちゃんは外側の装飾を頑張ったんだよ! ね?」

 

「うん。喜んでくれると嬉しい……な?」

 

「あぁ、凄いよみんな」

 

「えへへ褒めて褒めて〜」

 

 撫でられ待ちの3人、いや4人の頭を優しく撫で、次はカンザシとエリカとボタンが待っていた。

 

「次は私達からですよ、旦那様」

 

 確かカンザシ達から前に貰ったのは花飾りだったな。今服の上部分に掛かってる、牡丹の花、エリカの花に、カンザシが頭に着けているものと同じ花が添えられている物であり、今でも身につけている。

 今度は何だろうかと期待しながら、カンザシから渡されたのは扇子だった。

 

 扇子を手に取り広げてみると、六花の模様とその花々が薄い氷色で綺麗に描かれ、よく見ると端の方に落花流水という四文字の言葉が書かれていた。

 

「あれ? これ確か前にティアドロップが言っていたのと同じ言葉だよな?」

 

「よく覚えていますね。そうです、この言葉は男女の気持ちが互いに通じ合い、相思相愛の状態にある意味です。私達に相応しいでしょう?」

 

「そうか? ……まぁ、そうなったら良いなって思ってるよ」

 

 するとカンザシだけではなく、皆が意外そうな顔を浮かべていた。何か変な事を言ってしまったのかと思い、少し焦ってしまう。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「いえ、旦那様がそう仰るとは思いませんでした」

 

「そうね。いつもなら照れくさそうにするのに」

 

「つ ま り? 私達の虜になってるという事ネー!!」

 

 俺はようやく自分が言った言葉の真意に気づいた。そう、端的に言えば、俺は無意識にカンザシ達のことを好きと言っているような物だ。

 

 まぁでも、今更否定する物では無いのかもしれない。だけど言ってしまった事に少しばかりの羞恥心を感じ、思わずカンザシ達から目を背ける。

 

「はいはーい、イチャつきはそのくらいにして、次は私達の番ですよー!」

 

 その光景を良しとしなかったレイが無理やり間に入り込み、今度は閃刀姫達からのプレゼントだ。

 

「私たちからはこれを差し上げます」

 

 するとレイの手のひらには丸いボール見たいな物があるだけだ。一見ただのボール見たいなものだが、触れようとしてみるとボールから光が漏れだし、球状から徐々に変形し、小さな手のひらサイズの機械の動物、まるで狐のような物へと姿を変えた。

 

「クォーン!」

 

 産声の様に雄叫びをあげた機械の生物はレイの手のひらから俺の肩へと飛び乗り、冷たい鉄の頬で俺の頬に甘えるように擦り寄せた。

 

「な、なんだこれ?」

 

「ホーネットビットの技術を応用して作った自立型のロボットよ」

 

 ロゼがそう言うと、狐のロボットは自分の能力を見せつけるかのように俺の肩からストレナエの頭の上へと飛び乗り、俺達の周りを縦横無尽に飛び跳ねた。

 

「マスターの為に作ったんだ。これで多少は自衛にもなるし、僕達もずっとマスターの位置が把握出来る」

 

「皆で一生懸命作ったの。失敗とかしたけど、それでもここまで作れた」

 

 確かに凄いものだ。運動性能も、機能も多く、これなら安心してこいつに身を任せられそうだ。しかも、多少の知能もあるらしく、俺の頭の上に乗ってはひとひらと一緒にコミュニケーションを取っていた。

 喋られない奴同士がどうやって意思疎通しているのか分からないが……とにかく、仲良くはしており、狐はひとひらを背中に乗せ、またこの会場内を走り回っていた。

 

「あのロボットの名前は?」

 

「花衣さんの為に作ったので花衣さんが決めてください」

 

「そう言われてもなぁ〜」

 

 黒い狐のロボットだろ? 狐……フォックスは安直すぎる様な気がするし、折角レイたちが一生懸命作ってくれた物だから、もう少し凝ってみたい。

 俺の周りに何か言いアイデアは無いかと探してみると、ちょうどひとひらとロボットが俺の肩に帰ってきた。

 ひとひらは満足そうに狐の背中で寝そべっており、狐も休むようにして少し体を丸くしていた。

 

(ひとひらとレイ達が作ったもの……六花、閃刀姫……)

 

閃花(せんか)……」

 

 ボソリと頭の中で思い浮かべた言葉を口にすると、妙にしっくり来た。六花の花に、閃刀姫の閃。我ながら安直がすぎるが、こいつらと居たからこそ出てきた言葉でもある。

 

 その言葉をもう一度口ずさむと、呼ばれたと思ったのか肩に丸まっていた狐が俺の右手へと飛び出した。

 

「気に入ったのか? よし、じゃあお前の名前は閃花だ。よろしくな」

 

「クォー!」

 

 名前をつけられ、目に見えて喜んでいた閃花は手の上で跳ねるようにして喜んでいた。

 

「閃刀姫の閃にと六花の花をくっ付けたのか。良いね、分かりやすいじゃねぇか」

 

「あぁ。……それにしても、どうやって作ったんだこれは。変形時の機構もそうだが、あのバネのように跳ねるこの技術はなんだ……? 分解して研究して見たい気はするが……」

 

 見た事ないオーバーテクノロジーを見た空は好奇心を抑えられず、ついその事を呟くと、閃花にこめかみを飛び蹴りされ、閃花は俺の服の上ポケットに隠れてしまった。

 

「痛っ……何だ? 人工知能的な物でもついてるのか?」

 

「それは企業秘密です。いくら花衣さんのお友達でも、私達の世界の技術を易々と漏らす訳には行きません」

 

「そうなったら、少なからずこれを軍事利用するかもしれない。……列強国のように」

 

 ロゼが自分のいた国の事を口にすると、アザレアとカメリアもロゼと同じように俯いた。

 

 言われてみれば、閃刀姫の技術はこの世界には無いものだ。そしてその殆どは……戦争に使われている。もしも閃刀姫の技術がこの世界にバレてもしたら……戦いに発展する事は容易に想像できた。

 

「……そうだな。すまない、俺の配慮不足だった」

 

「気にしないで下さい。それよりも、貴方達の方から花衣さんのプレゼントはあるんでしょう? 渡したらどうですか?」

 

「って言われてもなぁ〜そっちと比べたらまぁちっぽけな物で渡しずれぇよ」

 

「だが、渡さないと意味が無いしな。精霊達と比べたらささやかな物だが……受け取ってくれ」

 

 そう言って、空と焔がそれぞれ同じ縦長の箱の様なものを差し出してくれた。

 

 一つは青色のケースに六花の模様があり、もう1つは黒色のケースに赤、白、紫とサイバーチックなラインが走っていた

 

 そしてそれは、俺達決闘者にとっては、見覚えがありすぎる物であり、無くてはならない物と言ってもいい物だった。

 

「……デッキケースか?」

 

「そう、どうせお前これからも六花と閃刀姫使うだろ? だからそれをイメージして空と作ったんだよ」

 

「まぁ殆ど俺が自作したけどな」

 

「ケースにしようって言ったの俺だろ! それに半分くらいは手伝っただろうが!」

 

「余計な事をしたの間違いじゃないのか?」

 

「んだと〜?」

 

 空が怒っている焔を適当にあしらいながらデッキケースを俺に渡すと、少し違和感があった。

 

 普通デッキケースはプラスチックで作られている物だけど、このデッキケースから伝わる感触や重みからして、これは金属で出来ていた。

 

「中央のボタンを押してみろ」

 

 試しに六花模様のケースのボタンを押してみると、ケースの側面が開き、3層に重なって広がるように変形した。

 

「上からメインデッキ、エクストラデッキ、サイドデッキに分けれるようにしてある。もちろん60枚デッキにも対応してある」

 

「凄いな、ちょっと薄いのにどうやってそんなに収納出来るんだ?」

 

「内部に細かな変形が組み込んでいて、カードの重なりを極限にまで抑えてるようにしてある。お前だけのたった一つのデッキケースだ」

 

「そうだぜ。なんせお前の為に夏休み前から設計してたからな! 俺と2人で!」

 

「夏休み前……?」

 

「花衣、お前がピックアップデュエルというものを俺達に誘った事を覚えているか?」

 

「あぁ」

 

 あの時は確か、焔と空両方に予定があったから断られたのを覚えている。

 

「実はあの時、このケースを作っていたんだ。機能が機能だから、この日に間に合わせておきたかったしな」

 

「じゃあ……あの時から、これを俺の為に?」

 

「あぁ。お前を驚かせたくてな。まぁ、神社の予定があるのも本当だったけどな。でも、間に合って良かったぜ」

 

 俺はもう一度ふたつのデッキケースを見た。

 

 あの時から、俺の為に作ってくれたと分かると、無性に嬉しくなり、早速デッキを特製のケースに入れてみる。デッキごとケースに入れても、まるで機械に通しているかのようにスムーズにケースに入り、カードが折れる心配も無かった。

 

 改めてこのケースの出来栄えに感動し、それ以上に2人からのプレゼントという事が嬉しかった。

 

 初めて友人から貰ったプレゼントをしっかりと受け止め、二人に感謝を述べた。

 

「2人とも、ありがとう。……大切にする」

 

「当たり前だ。無くしたらぶん殴るからな?」

 

「まぁ、無くしたらまた作ってやる。材料費は貰うがな」

 

「「ははは」」

 

 ネックレス、スノードーム、扇子、キツネ型のロボット、特製のデッキケース……これだけでも充分過ぎるほど嬉しくなり、笑みと涙が止まらなかった。

 

 こんなに嬉しく、誰かと祝い、祝われる誕生日なんて初めてで、感情が溢れかえり、抱きしめるようにプレゼントを抱えた、

 

「おいおい!? 何泣いてんだよ花衣!」

 

「あぁ……ごめんっ。嬉しくてさ……こんなっ、大勢にプレゼント貰われってさ、祝ってくれるの初めてで……」

 

 涙声になり、涙によってしゃっくりをしながらも気持ちを伝えると、ティアドロップとレイが背中を優しく叩き、傍にいてくれた。

 

「花衣様、まだ貴方の誕生を祝福する人がいますよ」

 

「そうですよ! 顔を上げてください」

 

 そう言って顔を上げると、俺の前には母さんが立っており、母さんは俺の涙を吹き、ティアドロップとレイが俺から離れたと同時に、優しく抱き寄せた。

 

「母さん?」

 

「お誕生日おめでとう、花衣。もう17なのね」

 

「……うん」

 

「きっと、貴方と一緒にいられた日はそれよりももっと短いのよね」

 

「でも誕生日とか、大切な日とかは絶対に居てくれた。それだけでも嬉しいよ」

 

「…………」

 

「母さん?」

 

 すると母さんは黙り込んでしたが、少しすると顔を合わせた。一瞬だけ、ほんの一瞬だけだが、母さんの顔が曇った様な気がした。

 

「ええ、そうね。そしてその分、貴方に素敵なプレゼントをあげちゃうわよ〜? じゃーん!」

 

 いつも通りの陽気な笑みでプレゼントしたのは、靴だった。しかも、片方ずつ違うデザインのタイプだ。

 

「靴?」

 

「貴方の靴、よく見たらボロボロだからね」

 

 そういえば、色々あったからもう靴がボロボロだった。底は擦り減り、表面も少し汚れながらも目立たないが破れ掛けになっていた。

 

 母さんから貰った靴のタイプはどちらもスニーカー見たいな物だが、そのデザインはまるで服のようにも感じられた。

 靴の袖が羽毛見たいなもこもこしているものがあるからそう思うってしまうのだろうか。

 一つは黒を基調とし、そこにアクセントとして白緑のライン……いや、羽のような物が描かれていた。

 

 2つ目は少し独特な路線だ。少し暗い緑色をまるで羽織るかのように黒で上から塗りつぶし、そこに金色のラインが美しく弧を描いていた。

 

 両方ともまさに靴の服と言ってもいい程デザインだ。流石はデザイナーの母さん、まさか靴まで作るとは……

 

「早速履いてみていい?」

 

「もちろんよ」

 

 ここまでありがとうと前の靴に感謝しながら、新しい靴へと履き替える。サイズも丁度よく、前の靴とそう変わらない履き心地だ。

 

「随分とカッコイイ靴だな、花衣くん」

 

 靴を履いた少し間を置いて彼方さんや花音達も集まった。

 

「すまない、君の誕生日だと言うのに、贈れるものが無いんだ」

 

「いえいえ、ギリギリまで知らなかったんですよね? 仕方ないです」

 

「だが、その代わりに君にプレゼントをしたい人が居るそうだ」

 

 彼方さんは少し横に移動すると、後ろで何かもじもじしている花音がいた。その後ろで霊香、雀、カレンさんの三人が、前に行けと言わんばかりに花音の背中を押し出し、俺の前へと飛ばした。

 

 背中から三人分の力の力で押されたのだから花音は前のめりになって走り出し、直ぐには止まらず俺の体へとぶつかり、何とか花音を止められた。

 

「あっ……ご、ごめんなさい花衣さん!」

 

「いや、良いよ。……誕生日、おめでとう」

 

「こちらも、おめでとうございます。ええと、誕生日なので……その、プレゼントがありまして……でも、皆さんと比べてちょっと粗末というかなんというか……」

 

「俺は気にしてないよ。それに、俺の方こそ安っぽいというかなんというか……」

 

「え? プレゼントあるんですか!? わ、私! 凄く嬉しいです! 花衣さんからの物なら何でも嬉しいというか……その、とにかくすっごく嬉しいです!」

 

 俺のプレゼントを期待している花音の目が輝き始め、無意識に体を近づかせた。

 ふわりと香る柔らかい花の匂いが鼻に届き、花音の顔が目と鼻の先まで行くと、ティアドロップが怒っている笑顔をしながら手を間に挟ませた。

 

「花衣さん? そろそろ花音さんへのプレゼントを渡したらどうでしょうか?」

 

「お、怒るなって。……花音、良かったらこれ、プレゼントだ」

 

 花冠のブレスレットを手に取り、花音に渡した。

 緑白のブレスレットを貰った花音は、直ぐ腕に付ける事はせず、愛おしそうに眺め、胸にしまうかのようにブレスレットを胸に添えた。

 

「……嬉しい。人生で1番嬉しい誕生日プレゼントです」

 

「そんな大袈裟だな」

 

「いえ。本当の事ですよ。……これ、大事にしますね」

 

 花音は早速ブレスレットを右腕に付けた。

 

「どう……ですか? 似合ってますか?」

 

「あぁ。似合うよ、花音」

 

「良かった……じゃあ、次は私の番ですね。私のプレゼントは……」

 

 花音が何かを渡そうとしたその時、静寂の中で1人の拍手が鳴り響いた。誰が拍手しているんだとここにいる全員が手の鳴る方へと顔を向けた。

 

 その先には、この場に居てはダメな奴がいた。黒いローブに身を包み、まるでここにいるのが当たり前と思っている様な立ち振る舞いをしながら、ゆっくりと拍手をしながらこっちに近づくやつは……間違いない、奴だった。

 

「素晴らしい日ですね花衣さん。私からも一言お祝いの言葉を述べたい気分です」

 

「ウェルシー……!!」

 

「改めて、誕生おめでとうございます。花衣さん」

 

 ローブ越しに浮かぶ不気味な笑みは、まるで引き金になるかのように一気にこの会場の空気を淀ませ、新たな悲劇の始まりになった……

 

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