六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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正体

 

 地表からおよそ100mの所のホテル一室、俺と花音の誕生日を祝うこの場所で、招かれざる客が現れた。

 そいつは自分の姿を一切見せないように黒いローブで顔を隠し、俺の誕生を祝福するようにゆっくりと手を叩き、笑った。

 

「お誕生日おめでとうございます。花衣さん」

 

「ウェルシー……!!」

 

 正体不明の敵のリーダー格の女性と言うこと以外では何もかも分からない謎の奴だが、俺達の敵ということは分かっている危険人物だ。

 あいつの名前を言った瞬間、ティアドロップ達精霊は前に出て俺達を守るようにして立ち、事情を知っている焔達も身構えていた。

 

 だが、何も知らない花音達はアイツの恐ろしさに気づいておらず、俺達の反応に困惑していた。

 

「花衣さん、お義母様達と共に逃げてください」

 

「残念ながらそうはいきません。今日ここに来たのはその方達に御用があるからです」

 

 するとウェルシーが指を指したのは花音達であり、目的は俺では無く花音達のようだ。

 何のために花音達をと考えたが、今はそんな事考えている暇は無い。目的が分かった以上、花音達を守る事が最優先だ。

 

「か、花衣さん? あの人は一体……」

 

「花音、何も聞かずに逃げろ。アイツは危険な奴だ」

 

「危険だなんて……失礼ですね。私からは何も実害を生み出してませんよ?」

 

「見下を死なせておきながら……!」

 

「ミシタ? 誰ですか? それは」

 

 元仲間であったはずの見下の名前……いや、存在事忘れたかのような反応をしたウェルシーに体が焼けるような怒りを覚えた。

 

「お前っ……! 仲間だった奴だろ! あいつは無惨にも殺されたんだぞ!」

 

「えっ……? 花衣さん、見下さんが殺されったてどういう……」

 

「良いから逃げろっ! ロゼ、アザレア、カメリア!」

 

「分かった」

 

 この場にいる花音達を逃げるようにという意志をロゼとアザレアとカメリアはアイコンタクトだけで汲み取り、花音達をつれてこの場を逃げ出そうとする。

 だが、状況が飲み込めてない花音達は戸惑っており、逃げずにいた。

 

「どういう事かしら焔! ちゃんと説明しなさい!」

 

「彼方も! サプライズだとしても悪趣味ですわよ!」

 

「たくっ、説明する暇無いってのによ! おい花衣! 俺も霊香達と一緒に行くわ! 良いよな?」

 

 確かにレゾンカードを持っている焔は、ウェルシー達に対抗出来る力を持っている。ロゼもアザレアもカメリアがいるが、焔を行かせても問題はない筈だ。

 

「分かった。頼むぞ、焔!」

 

「任せとけっ! オラァ! 早く逃げるぞ!」

 

「ですが花衣さんが!」

 

「良いから早く」

 

 無理やりにでも逃がすように焔が強引に母さん達をこの部屋から逃げ出させ、俺達は目の前のウェルシーに集中する。

 

「花衣君。俺も行かせてもらうぞ」

 

「わかりました。彼方さん」

 

 彼方さんも焔の後を追いかけ、花音達の護衛に回った。

 

「はぁ……全く、面倒ですね。私はあの子達に用があると言ったじゃないですか」

 

「花音達をどうするつもりだ!」

 

「どうするって、私達の同志になるのですよ。その為に()()()()()()()()()()()()()()()

 

(前から……?)

 

 空が何か引っかかった様な顔を浮かべたが、空のその顔は直ぐに消えた。何しろ相手は俺達の敵の親玉的な存在だ。ポルーションでも危険なのに、もっと危険な奴が目の前にいて、力も未知数……用心に越した事は無い。

 

 それでいて全く敵意が感じられないのが更に不気味だ。ウェルシーから発する見えない圧で本能が震え、ウェルシーが何か行動する度に体がビクつき、体が強ばる。

 

「それに、私達もこの場に長くは居たくないのです。この場所は敵が多いですし、何よりあの方が居ますから」

 

「あの方……?誰の事だ」

 

「あの方ですよ。ほら、ええと……なんて名前でしたっけ?さっき出ていったあの金髪の方ですよ」

 

「彼方さんの事か……?」

 

「正確にはその妹ですけどね。ですが、貴方も私達にとっての天敵と言っておきましょう。ここで貴方をどうにかするのもやぶさかではありませんが……」

 

「天音ちゃんが……?どういうことだ」

 

 俺はウェルシーにそう言った。

 俺に対するウェルシーの妙な忠誠心を利用する嫌な方法だが、ウェルシーの目的が知る方法はこれしかない。だが、流石のウェルシーもこれには迷っており、首を少し傾げて考えていた。

 

 というか、敵に情報を渡すのに迷うってどういう事だ? そんなに俺が大事な存在なのか? まるで俺の事を神様でも思っているかのように思えて逆に恐ろしい。

 

「うーん、貴方の頼みならお答えしましょう。だって貴方は私の全てですから」

 

 ウェルシーは音を出さないように手をゆっくりと優しく叩き、素直に情報を吐こうとしていた。その行動は俺達が望んでいた事だが、同時に驚愕する事でもあった。

 

 そんなに俺の存在が偉大なのか、それとも目的を言っても問題ないのか……とにかく正気じゃなかった。

 

「あの男性……いえ、その妹さんはとある使命を受けてこのこの世界に産まれたのですよ」

 

「とある使命? 天音ちゃんが……?」

 

「はい。そしてその使命とは私達の主を消滅させる事です」

 

「主……? まさか、その主って」

 

 空がその先に言う事は無く、自分で自分の口を塞ぎ、自分の考えが正解で無いことを願うように、俺の目を見ていた。

 

 空じゃなくても分かる事だ。

 

 ウェルシーに対する俺の態度と、主という言葉……。このふたつを照らし合わせれば、答えは1つだ。

 だけど……そんな事無い。嘘だと言って欲しい。あいつの、ウェルシーが俺たちを混乱させる嘘だと、誰かが証明して欲しいと心が叫ぶ。

 

 やめろ、言うな。

 

「私達の主は……」

 

 嘘だ。嘘に決まってる。

 

 口を開くな。耳を塞げ。何も聞くな。聞きたくない。

 だが、彼女の口はそんな叫びがまるで鳥のさえずりかのように聞こえているのか笑顔で口を開けた。

 

「私達の主は、そこにいる桜雪花衣さんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _同時刻 ホテルの廊下にて

 

 花衣の判断で花音達をウェルシー達から離れさすよう、なるべく遠くへと逃がしてはいた。だが、状況が分からない花音達にとってこの行動はあまりにも不可解であり、それが足枷となるように逃げる事に支障をきたしていた。

 

「あの……そろそろ状況を話してくれませんか? あのローブの人を見た瞬間、皆さん焦っていましたが……」

 

「貴方には関係ない。それにそんな暇は無い」

 

「関係ない訳無いでしょう。私達も今どういう状況に置かれているのか知る権利があると思うけど?」

 

 霊香はその場で止まり、ロゼに説明を求めていた。が、今はそんな事している暇は無いとロゼは思っていた。

 敵は1人ではなく複数という事は分かっており、なおかつ狙いは彼女たちだとウェルシーは言った。

 

 ここで足を止めたら、ウェルシーの仲間に足止めされ、逃げる事も困難になる恐れがある。話す時間など、今は無いのだった。

 すると、霊香の傍にいた雀が霊香の手を握り、ライブデュエルの時の事を思い出したのか、身体を震わせて霊香を説得していた。

 

「ねぇ、霊香。ここはロゼの言う事を聞こうよ。アイツはやばいんだって……」

 

「雀? 貴方も何か知ってるの?」

 

「うん。逃げた方が良い! 絶対!」

 

 初めて見せる雀の怯える姿と目に霊香がたじろぎ、訳を聞く気も失せ、怯えている姿で本能的に状況の深刻さを感じ取り、雀の言う通りとにかく逃げる事を決意した。

 

「雀ちゃんの言う通りよ。今はとにかく、()()()()から逃げないと」

 

 才華が怯える雀を宥めるように背中をさすり、混乱している霊香を落ち着かせていたが、ロゼは彼女の言葉に違和感を持った。

 そして、その違和感の正体を気づくにはそれ程の時間がかからず、ロゼはある行動に出た。

 

 ロゼはある人物に向けて赤い閃刀を何も無い空間から実体化させ、その刀身を文字通り首の皮一枚に触れた。

 その動きはまさに閃光であり、一瞬にしてその人物を制圧した。

 

「ろ、ロゼちゃん……? 何するのかしら?」

 

 ロゼが閃刀を向けた人物は……花衣の母親である才華だった。突然命を握られた才華は訳が分からないと顔や体全体を使って訴えているが、ロゼは才華に対する敵意は変わらず、閃刀を少しだけ首元に動かし、才華の首から薄い切れ込みが生まれ、そこから少量の血が流れ出た。

 

「ば、馬鹿っ!? 何してんだロゼ! そいつは花衣の母ちゃんだろうが!」

 

 焔がロゼを止めようとしたがアザレアにそれを止められ、ロゼは殺気に満ちた目で才華を問い詰めた。

 

「……貴方、なんでウェルシー()って、まるで仲間がいる事を知っているかのような事を言ったの?」

 

「っ……!!」

 

 才華は、目に見えて動揺しており、ロゼの目が更に暗く光を閉ざし、瞳孔を開いた。それを見た焔は困惑していた。

 

「お、おいおい。どういう事だよ」

 

「花衣は1度だって今日ウェルシーに仲間がいる事を話してない。今までだって、ウェルシー達のことを言ってない。それなのに、コイツはウェルシーに向かって「達」と言った。言い間違いにしては、随分と確信的な言い方だったようだけど?」

 

「……」

 

「ねぇ、貴方一体何者なの? 返答次第では今ここで貴方を……」

 

「そこまでです」

 

 問い詰めたロゼを才華から引き離すような暴風が突然ロゼを襲い、ロゼは才華から引き離され、暴風と声が来た方向に体を向け、アザレアとカメリアもその方向に体を向けた。

 

 コツコツとヒールが地面にぶつかる音が大きくなり、暗闇の中から1人の女性が出てきた。

 その女性はロングスカートのヴィクトリアンメイドの服を見に纏っていたが、それ以上に皆が目を向けたのは、その先にある黒い龍の様な尻尾と、頭に生えている黒い龍のような角だった。

 

 見た目は間違いなく人間だったが、その尻尾と角を見た焔は、あるモンスターの名前を口にしようとしていた。

 

「な、なぁ……あれって、あれだよな?」

 

「ドラゴンメイド・ハスキー……?」

 

 霊香がそう言うと、ハスキーはメイドの挨拶、カーテシーという服の裾を少し上げながら頭を下げる作法をし、丁寧に皆に挨拶をした。

 

「皆様、どうぞこちらへ。安全な場所へとご案内いたします」

 

 突然ハスキーが安全の場所と言われたが、初対面かつこの状況が誰が信用出来ると言うのだろうか。

 しかも、精霊が見るのが初めての霊香やカレンにとっては困惑するのには丁度よく、信用どころか目の前にある現実さえ疑っていた。

 

「こ、コスプレ……ですわよね?」

 

「いや本物だ。だったらあんな風圧起こせるがない」

 

 彼方がそう言うと、ハスキーは丁寧な口調で話した。

 

「皆様が困惑しているのは理解しています。ですが、早くここを離れなければ手遅れになります。どうか早くこちらへ来てください」

 

 そう言われてもやはり皆の反応は薄く、ロゼ達に至っては警戒をしていた。

 だが、その均衡を打ち破るかのように天音がハスキーの元へと駆け寄った。

 

「あ、天音! どこに行くのですか!」

 

「天音!?」

 

 ハスキーの元に来た天音はじっとハスキーの顔を見あげ、ハスキーも天音と目線を合わせるように膝を曲げて体を低くし、天音の事を見た。

 

「この人、凄く優しい人! だから皆も来て!」

 

 目で何か伝わったのだろうか、天音はハスキーの事を信用した。だが他の者はハスキーの事を信用出来ておらず、混乱した。

 

「ちょーっとそれはご勘弁願いたいですね」

 

 そして突然別方向から黒い針がハスキーに襲い掛かり、ハスキーは飛んでくる針を手刀のみで弾き、針は粉々に粉砕された。

 

「どうやら、劣悪客のお出ましのようですね」

 

「あらあら? 結構マナーは弁えてる方だとは思うんですけどねー?」

 

 針が飛んできた方向から派手な桃色の髪をした長髪の女性が陽気に現れた。

 焔がその女性の事を見覚えのある顔だと思いつつ、じっと目を見張っていると、遂に焔がその名前を口にした。

 

「お前っ……確かあの時ウェルシーと一緒にいた奴か!」

 

「おおー覚えているんですね。ではもう一度自己紹介を……コホン、私はディペン。今日はそちらの方々をご拝借したくて参上しました」

 

 上品な言葉をならべているが、要は花音達を誘拐すると言っているような物だと焔は心の中で吐き捨て、1枚のカードを取り出した。

 

 焔が取り出したのは、レゾンカードである不知火の太刀であり、それを見たディペンが一瞬笑みを壊して顔と体を強ばらせ、焔のカードから炎の渦が生まれた。

 

「なんか有名なハスキーとかロゼが花衣の母ちゃんを疑ってるけどよ。おめぇが1番ヤベェのは変わりないよなぁ!」

 

 カードが炎の渦へと変わり、また更に生まれ変わるように渦は刀の形を宿すと焔の手に渡り、焔の右手には深紅の炎を纏った刀が握られていた。

 

「うっし! 出来た! あん時以来だから出来るかと心配したが、これなら行ける!」

 

 焔がディペンに向けて刀を振り下ろすと、深紅の炎が龍の頭へと変え、牙を剥くようにディペンに襲いかかる。

 迫り来る炎にディペンは黒い光の障壁を前に展開したが、炎がそれを食い破るかのように障壁は破壊され、ディペンの頬にかすり傷を与えた。

 

「あちゃちゃ、流石はレゾンカード。私達を倒す為に作られた物ではありますね」

 

「なーんか随分余裕だなおい」

 

「えぇ。だって私一人ではありませんから」

 

(っ……何? この感じ……)

 

 ディペンが不敵な笑みをこぼしたその瞬間、霊香は空間に違和感を感じていた。霊香だけにしか感じられない空気の違和感に胸がざわめき、違和感が感じられる空間、焔の背後をじっと見つめると、霊香の目には僅かな空間の歪みが見えていた。

 

 歪みが徐々に大きくなり、目の錯覚だと疑ったが、心が違うと叫び、霊香は焔に向かって叫んだ。

 

「焔! 後ろっっ!!」

 

 霊香の声と共に、歪んだ空間から黒い影が現れ、その影から見下を排除した女性、アルムが焔に向けて短剣を突き刺そうとしていた。

 常人では絶対防御が間に合わない距離だが、霊香の声と、ディペンの不敵な笑みで何かあると勘づいていた焔は、刀を背中に回し、振り返ること無くアルムの攻撃を刀で受け止めた。鉄と鉄がぶつかり合う音が鳴り、それが焔の耳に届くと、焔は自分が生きてると安心しきった。

 

「何っ?」

 

「へっ、背後に攻撃するんだったら絶対この辺りに攻撃すると思ったぜ、俺をやるならここしかねぇからよ」

 

「ちっ……」

 

 一撃で仕留められず、焔の反撃を喰らわないようにディペンの所まで飛んだアルムはバツが悪い顔をしており、それを見た焔は勝ち誇った様に笑った。

 

「まぁ、霊香の声かけ無かったら危なかったけどな。お前なんでわかったんだ?」

 

「分からない……けど、空間が歪んでいるのが見えたから……」

 

 突発的にその歪みが見えた霊香は、自分自身でさえもこの事に困惑しているのだから、説明する事も出来なかった。だが、この力で焔の危機を救えた事は事実であり、それを垣間見たディペンは困り果てるように首を傾げた。

 

「ふーむ、あれもレゾンカードの恩恵ですかね? あのメイドも居ますし……どうしましょうかね」

 

「だったらこうするまでだ」

 

 アルムは真正面から焔に襲いかかり、短剣を振り下ろすと焔は刀で真っ向から受け止め、鍔迫り合いが始まった。

 

 だが、武器の大きさやレゾンカードによる力のおかげなのか、ただの人間である焔の方が優位に立っており、このまま焔が強引に切り伏せられる程押し返していた。

 

 だが、それこそアルムの目論見だった。

 わざと押されたアルムは左のポケットから棒状のカプセルを取り出すと、焔に当てることなく花音達の方にカプセルを投げつけた。

 

「げっ!? おいそっちに投げたぞ!」

 

「分かってる!」

 

 アザレアがそのカプセルを斬撃を飛ばして破壊したが、破壊したカプセルから紫色のガスが溢れ出した。

 毒々しい紫色のガスを見たロゼは体を強ばらせ、忘れもしない光景が頭に浮かんだ。その光景とは、メルフィー達がいた森の中で、ポルーションという男の毒によって次々と生物達が死んでいく光景だった。

 

 ロゼは直ぐさま窓ガラスに向けて紅の斬撃を放った。紅の斬撃がこの廊下のガラスを破壊し、カメリアに視線を送った。

 

 ロゼの視線に当てられたカメリアは大剣の閃刀を力強く振り下ろし、直線上に大きな衝撃を飛ばした。

 衝撃によって紫色のガスは廊下から割れた窓ガラスの向こうの外へと流れ出し、ガスはその成分諸共すぐに消えた。

 

「もうそれは効かない」

 

「残念だがそれが狙いでは無い」

 

 アルムがそう呟くと、音もなく既に花音の背後には小さなアルビノの少年が居た。

 アルムの言うまでロゼだけではなく、他の者も全員誰一人としてそこに人がいるとは思わず、気づかなかった。

 まるで風のようにふらっと現れた瞬間、小さくて白い手が突如黒く染まり、手は腕ごと肥大化し花音、霊香、そしてカレンを掴もうとした。

 

「花音!」

 

 それに気づき、すぐ側にいた雀が花音達に手を伸ばした。あと少し、指と指が触れるまであと1センチも無かったその時、ジェネリアの黒い手が花音達を掴んだ、

 

「捕まえました」

 

 アルビノの少年ジェネリアは3人を手中に収め、直ぐさま立ち去ろうとしたが、それを許さないハスキーはジェネリアに向かって一息で飛び立ち、彼に向かって渾身の一撃を放った。

 

 この位置では近接攻撃でしか花音達3人を被害を出さずに攻撃する方法が無い。だが、ジェネリアはそれも理解している。

 ジェネリアは直ぐさま盾にするように花音たちをハスキーの目の前に置くと、ハスキーはすんでのところで攻撃を止め、歯がゆい表情を浮かべた。

 

「おや、貴方達モンスターにも良心というのがあるのですね。意外です」

 

 ハスキーの攻撃を受けてしまうと恐怖した花音たちの怯えた表情を見たハスキーは拳を下ろし、ジェネリアは高く飛んで仲間達の方に花音達を連れ去った。

 

「その方達をどうするつもりですか?」

 

「貴方とそこの母親と名乗った人なら分かるでしょう。この方達はあの方の為に必要な人達なのです」

 

「何を言ってるのっ……! さっさと離しなさい!」

 

 捕まった霊香がジェネリアの手から離れようともがいたが、ジェネリアにとっては何もしていないのと同じだった。

 

 ビクともしないどころか動きもしないが、それでも霊香に続き、カレンも離れようともがいた。それ目にしたジェネリアは滑稽とは思わず、むしろ呆れていた。

 

「無駄ですよ。貴方方の力じゃそこから抜け出せない」

 

「だったらこの子達なら……」

 

 ジェネリアの手の中から光が溢れると、そこからアロマージ達が一斉にジェネリアに向かった。

 最初に接敵したのはベルガモットであり、炎の纏った杖

 でベルガモットの腕に攻撃した。

 

「……無駄な事ですよ」

 

 ジェネリアはため息を吐き、少年の肥大化した腕から何か出てくるように蠢いた。あまりにも奇形な光景にアロマージはゾッと恐怖を走らせつつも、ベルガモットが先行して腕を攻撃しようとしたその時、ジェネリアの腕が開き、中から巨大な獣の様な顔が現れた。

 

「腕から怪物が……!?」

 

 腕の中から出現した獣の怪物はベルガモットを食い破ろうと巨大な口を開き、ベルガモットが飲み込まれようとしたが、ローズマリーがベルガモットを庇い、獣の食い破りはローズマリーが受けてしまった。

 

「っぁ……!」

 

 幸いローズマリーの背中が掠めただけだがローズマリーの背中は赤い傷では無く、紫色の傷が浮かんだ。

 

「くっぅ……っぁぁ!!」

 

「ローズマリー!?」

 

 ベルガモットは苦しむローズマリーを抱え、ジェネリアから離れた。

 

「無力な人が足掻くからそうなるんです。後、急いだ方がいいですよ。その青髪の女性……ローズマリーと言っていましたね。その方にポルーションさんの毒を注入しましたので」

 

「毒!? い、いつから……!?」

 

 驚くマジョラムに対し、ジェネリアは腕から生まれた獣の口を開かせると、その牙から紫色の液体が垂れていた。

 

「これは僕の腕から生まれたものです。こういう風に造られたのでね」

 

「造られた……?」

 

 ジェネリアの言葉に違和感を覚えたロゼだが、考察する余裕なんて無かった。

 

「まぁとにかく、ローズマリーさんの毒は直ぐに体を蝕み、死に至ります」

 

「くぅぅ……っぁ……ああああ!!」

 

 ローズマリーの体がどんどん紫色の痣が浮か背中から足、そして手まで蝕み、それがついに首元まで達した。

 ローズマリーを回復させる為、アロマージ達は全力で治療したが、効果は無く、虚しく紫色の痣がローズマリーの体を蝕むだけだった。

 

「では、目的を果たしたのでこれで失礼しますね」

 

 ジェネリアが黒いワープゲートを作り出し、ゆっくりとそこに歩いた。

 

「そう簡単に逃がすわけねぇだろうが!」

 

 焔がアルムとの鍔迫り合いを止め、花音たちを連れいていくジェネリアに向かって斬りかかったが、アルムが焔の前に稲妻のような速さで前に立ち、焔の体に蹴りを入れた。

 

 細い女性の足なのに、まるで鉄で出来た丸太にでも殴られたような衝撃を受け、焔は脳が震え、世界は白く見えながら血反吐を吐く。

 

 アルムに蹴られ、焔は廊下の壁に穴が空くほど吹き飛ばされてしまい、白目を剥きながら地面に倒れた。

 さっきの衝撃だけで体の半分の骨が折れ、声が出ない程の痛みが焔に襲いかかった。

 

 だが、焔は止まらなかった。刀を離すことなく地を這いずりながらジェネリア達の元にゆっくりと向かい、攫われた霊香に向かって顔を向ける。

 

「ぐがっ……待ってろ……絶対にお前を助けるからなッ!!」

 

「焔……」

 

 傷つく焔を見た霊香は顔を背けた。これ以上傷ついている焔を見たくないと心が叫んだが、それでも彼女は焔の目を見た。

 

「……絶対助けに来なさいよ」

 

「霊……香……」

 

 焔は手を伸ばし、朦朧とする意識の中で倒れてしまった。

 

「くっ……! フォトン・パニッシャー!」

 

 彼方がフォトン・パニッシャーのカードをかざすと、カードからフォトン・パニッシャーが現れ、持っているライフルでジェネリアを狙い撃った。

 

 ライフルの銃口から青色の閃光がジェネリアに向けて放たれたが、ディペンが黒い障壁を出し、真正面からそれを受け止めた。

 

「カレン!!!」

 

 攫われた女性の名前を叫び、黒い靄の中へと消えゆくカレンは、優雅に笑った。

 

「彼方! 貴方なら必ず私を助けてくださいますわよね?」

 

「カレン……あぁ! 絶対にお前を救い出す!」

 

「……信じてますわ」

 

「カレェェェェェェン!!」

 

 その言葉と共に、ディペン達は花音達を連れ去り、この場から消えてしまった。

 

 彼方は救えなかった悔しさを込めて廊下を叩き、自分の無力さに怒った。

 

 だが、まだ問題は終わらない。ローズマリーの体内にある毒が全身に回っており、もう時間は残されていなかった。

 

「ど、どうしよう!? このままだとローズマリーが!」

 

「どいて、私が何とかするわ」

 

 泣いているジャスミンにそっと肩を置き、ローズマリーの前に片膝を着いたのは花衣の母親、才華であった。

 才華は何も無い所から光と共に杖を出し、緑色の結晶が付いている杖先をローズマリーに向けると、ローズマリーの体の周りに緑色の光が宿った。

 

 すると、ローズマリーの容態が安定し、紫色の痣が徐々に体から無くなっていった。

 

「これなら何とかなるわね。もう少し待ってて」

 

「……やっぱり、貴方は人間じゃない。私達と同じ精霊だったのね」

 

「そんな事より、早く焔君を治療してあげて。あの子、殆どの骨が折れてると思うから」

 

「後で話を聞かせて貰うから」

 

 ロゼは急いで焔の治療にあたり、嵐のような災害はとにかく難を逃れた……とは言えず、心身共に彼らに深い傷を負わせた。

 

 才華によってローズマリーの体から毒が無くなりのを確認し、ローズマリーは規則正しい呼吸を取り戻した。

 ローズマリーが安泰したのを目にしたジャスミンは涙で目を濡らしながらジャスミンに抱きつき、マジョラムが才華に話しかけた。

 

「あの……貴方は一体……」

 

「花衣君の監視者の1人……って言えばいいのか?」

 

 何度も地面を叩きつけ、怒りをぶつけたおかげか冷静さを取り戻した彼方は、ある推測を才華にぶつけた。

 

「ウィッチクラフトが絡んでいたとしたら、自ずと監視者は絞られる。才華さん、貴方の正体は……」

 

 彼方はその正体を口にする。

 

「ウィッチクラフト・ジェニー。いや、こう言うべきか? サーヴァント・オブ・エンデュミオン」

 

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