六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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前回から新たな章が始まりました。

この章では花衣君だけでは無く、レゾンカードの真の力を解放させる為に奮闘する焔君達にスポットを置く形となります。

こういう形式は幕間の物語でもしましたが、今回もこのような形式を取らせて頂きます。
どうぞよろしくお願いしますm(*_ _)m


封印の蔵

 

 夏の満月が浮かぶ夜の中、9本の火柱の中で巫女服の衣装を身にまとい、仮面を被った1人の人間が舞うように薙刀を振っていた。

 

 ここはどこだ? 

 

 周りを見るとそこは古い神社の境内だった。俺はどうやら石畳の上で何故か倒れていたらしく、体を起き上がらせ、火柱が立ち昇っている所へと足を運ぶ。

 

 火柱のところに辿り着いた瞬間、目の前の火柱が真っ二つに斬られた。炎が真っ二つに斬れるという物理法則を完全に無視した状況を目の当たりにし、足をすくませて1歩引く。

 

 炎は斬られると徐々に鎮火していき、そのまま消えていくと、火柱の中にいた奴……黒髪でかなり長い髪だから女か? 

 

 女は狐のお面を被り、俺の前まで来た。

 

 ﹁アイツを救って﹂

 

 まるで頭の中に響くような反響する声が耳から頭へとじんわりと染み入る様だった。

 

 アイツって誰の事だ? そもそもお前は誰でここで何をしていたんだ? 疑問が湧き溢れて問い詰めようとすると、石畳の地面から炎が燃え盛り、俺と女を遮る壁の様に燃え上がった。

 

「おい! 何なんだお前は!!」

 

 ﹁アイツの…………溶かして﹂

 

 訳の分からない声が響いた瞬間、炎は俺を囲み、じわじわと俺に近づいてきた。

 逃げようにも四方八方に炎が迫り、ジリジリと熱で息が苦しくなって行く。

 

「待てっ! おい!」

 

 助けも呼べず、足から炎が体を飲み込んでいく。熱さで体が焼け、喉が潰れるほどの声が出ても誰も気づかず、痛みを堪える為だけの叫びが虚しく響く。

 

「ねぇ! お兄ちゃん!!」

 

「うぁぁぁぁ!!」

 

 突然耳を突きつける叫びに俺は目を開ける。そこは神社の縁側であり、空は青くガンガン眩しい太陽が頂点に登っていた。

 

 久々に恐ろしい夢を見たせいか、それとも夏の暑させいか……いや、多分どっちもだなこれ。

 身体中汗でびっしょりだ。頭を振り、さっき耳を刺した声に顔を向けると、妹の燐が驚いた顔をしていた。

 

「ちょっと、何よいきなり大きい声なんか出して……」

 

「あぁ……ちと悪ぃ夢を見てな」

 

 あまりの怖さに未だにあの夢がこびりつくように思い出してしまうのがタチが悪い。だが、何となくだが忘れちゃいけねぇ様な気がする。

 

 狐の面を被った女が言った言葉……『アイツを助けて』、ともうひとつが意味不明だが、『溶かして』と言っていた。何を溶かすんだ? 氷か? 氷なんてどこにでもあるだろと突っ込むと、いきなり燐から指をつつかれた。

 

「何すんだよ」

 

「何って、掃除よ掃除。お兄ちゃんがそんな所で寝てるから邪魔なの。もう、カードも散らかして……ほら、早く片付けて、出ないと掃除機で埃と一緒にカードも吸い込むよ!」

 

 燐が持っていた掃除機がまるで叫ぶかのように音を鳴らすと、縁側にある埃ごとカードを吸い込もうとしており、慌てて縁側に散らばったカードを集める。

 

「おいバカ! レゾンカードもあるんだぞ」

 

「そんなレアカードをほっぽり出しているのはどこのバカお兄ちゃんよ。全く、だらしない……」

 

 まるでお袋に説教されている感じだが、中学生の妹にそう言われるとムカつくし来るものがあって腹が立つ。まぁ悪いのは俺だから何も言えず、散らばったカードを余すことなく回収し、レゾンカードである不知火ー炎舞の陣のカードをじっと見た。

 

 あれから3日経つが、未だにこのカードはうんともすんとも言わねぇし、未だにこのカードに描かれている陣が何を指しているのかも分からずじまいだ。

 

 おぉ神様仏様、ついでの倶利伽羅天童様、どうか俺にこのカードの力の開放をさせる力をくれぇぇぇ! って言っても何か起きる訳が無く、掃除の邪魔にならない程度に体を横に倒し、カードをじっと見た。

 

「……そういや、夢に見たのと同じのだよなこれ」

 

 9本の火柱にその中で舞う人……似た所があるが、これを見続けたせいであんな夢を見たと自己解決し、取り越し苦労感があって急にだるくなった。

 

 こんな事してる場合じゃない、早くレゾンカードの隠された力をちゃっちゃと解放しないと、花衣がドラゴンメイド達に連れていかれてしまい、そのままレゾンに連行されちまう。

 

 レゾンは花衣を倒す為に動いている。そんな中で花衣を連れ出してみろ、間違いなくやられるに決まっている。

 

 だけど手段とか手がかりが一向に見つからない苛立ちだけが積もっていき、思わず唸り声をあげた。

 その唸り声を聞いた燐はうるさいと怒鳴りつけ、原因であるレゾンカードを取り上げだ。

 

「これ、お兄ちゃんのレゾンカード? なんでこれを見て唸り声上げてるの?」

 

 俺は理由を話さなかった。というより、こいつは無関係だ。話しても何の意味も無いし、巻き込みたくもない。

 ……なーんか、花衣と同じ様な事言ったな。今ならアイツが俺に何も言わない気持ちが少し分かったような気がする。

 

 燐は炎舞の陣をじっと眺めていると、掃除する手を止め、何かに気づいたようだった。

 

「この光景、私見た事あるかも……」

 

 燐がそう呟いた事を聞き逃さず、ばっと体を起こして燐の両肩を掴み、必死の形相で俺は燐に問い詰めた。

 

 あまりにも必死な顔だったのか、燐は見た事ない物を見るような目で驚き、数秒間声を失っていた。

 

「ど、どこで見た!?」

 

「お、落ち着いてよ……えっと、境内に古い蔵があるでしょ? 小さい頃そこに入った時、どこかの本で見た事あるような……」

 

 古い蔵……そういえばこの神社には物凄く古い蔵が1つある。ガキの頃、好奇心で燐を連れて散策したが、中は暗く、埃が充満していた。そんでお袋と親父に見つかってはあんまり探索出来なかった記憶があるが、まさかここでその蔵の話を聞くとは思わなかった。

 

 早速、俺は燐を連れて古い蔵がある境内の奥まで走った。燐がうっすらでも良いから炎舞の陣と同じ様な物を見た本の場所を覚えていれば、探す手間が省け、その分俺のレゾンカードの真の力を解放出来る時間が作れる。

 

 燐の手を掴んだままようやっとボロボロになった蔵へと辿り着き、早速扉を開けようとした……が、あまりに古いのか扉はビクともせず、押しても引いても扉が開く事は無かった。

 

「んだこれ……開けられ……ねぇ!!」

 

 一呼吸してから力いっぱい扉を開けようとしても、やはり扉は開けられなかった。

 なんだこれ……いくら古くて立て付けが悪いと言っても限度がある。リンゴを潰せるほどの握力とそれなりの力を入れたのにも関わらず、古い蔵は鈍い音も立てずにこの場を佇んでおり、嫌な雰囲気が刺さる様に感じてしまった。

 

「たくっ、どうなってんだ? 昔は普通に入れたよな?」

 

「……あ。ねぇ、ここに鍵穴みたいなのがあるよ」

 

 燐が白い扉を片隅に鍵穴を見つけ、俺もその鍵穴を見た。どうやら、この扉には鍵がかかってあるらしく、そのせいで開かないらしい。

 

「それにしても、この鍵穴……なんか形おかしくねぇか?」

 

「うん。四角い鍵穴なんて初めて見た」

 

 普通鍵穴は古墳の様な形をしているが、この鍵穴は縦長に四角い鍵穴をしていた。しかも綺麗な形ではなく、下に行くにつれて少しづつ感覚が狭まっていってる。

 

(この形……鞘の形か? 刀でも差し込めってのか?)

 

 何度か真剣を扱った事があるから何となく分かるが、この鍵穴の形は鞘の形そのものだった。

 まぁ形はどうあれ、鍵がなければ入れないのなら仕方ない、ババアか親父にこの事を話してくれたら、鍵ぐらい貸せるだろう。

 

 面倒だがまた家に戻るのは面倒と思いつつも振り返ると栗色の長髪で巫女装飾を来た女……母親である【炎山火々璃(えんざんかがり)】が抜き身の刀の様な鋭い目をしていた。

 

「あんた達、こんな所で何やってるんだ? ここには近づくなって、アタシは昔言ったよな?」

 

 男勝りの口調で俺らを追い詰め、かなり怒っているお袋に燐は怖がって震えていた。

 

「……ちょっとこの蔵に用があるんだ。でも鍵掛かってるから貸してくれよ」

 

「用? こんな物置の蔵になんの用があるんだい? んん? それに燐までついて来させて……」

 

「燐は関係ねぇよ、俺が勝手に連れてきただけだ。んでよ、早く鍵貸してくれよ、それぐらい良いだろ?」

 

「ダメだ。アンタらはさっさとこっから離れなさい」

 

 何だ? やけにこの蔵から俺達を離したい姿勢がどうも怪しい。その反応でただの古い物置きの蔵に何かあるっていうのは馬鹿な俺でも分かる。

 

「んだよその態度、この蔵になんかあるのか?」

 

「アンタ達には関係ないよ。ほら、早く戻って祭りの準備を進めるよ! もうそんなに日が無いからね!」

 

 ババアが燐の震える燐の手を掴んで家に戻ろうとし、ここから逃げようとする母さんの空いている左腕を掴み、蔵の謎を聞き出そうとすると、母さんは左腕だけの力で俺の手を振り払い、そのまま裏拳で俺の顔をぶん殴った。

 

 あまりの力と速さに何をされているか分からず、殴られた衝撃が体を麻痺させ、そのまま地面に倒れてしまう。

 

「いってぇ……んだよこのゴリラババアの力……」

 

「あぁん!? 何母親に向かってゴリラババアって言ってんの! 近所のお母さん達から、『まぁ、お若いですね〜』って言われるほどの美人だぞぉ!?」

 

 さっきまでの圧が違う方面の圧に変わり、ババアは俺の頬を限界まで引っ張り、俺の頬がゴムのように伸びて滅茶苦茶痛い。

 痛みを堪えるのも限界になり、何とか母さんさんの手から頬を離させ、さっき言っていた美人に対して嫌味を言った。

 

「美人って言うと花衣の母ちゃんの方が美人だしなぁ〜」

 

「んまぁ〜なんてクソガキなのコイツ! まぁ、あの人が美人なのは、羨ましいぐらいに分かるけどね」

 

「ん? て事は、ババアは花衣の母ちゃんを知ってんのか?」

 

「誰がババアだ!」

 

 今度は頭がへこみそうな程のゲンコツを喰らい、頭の上に星が回り続けた。や、やっぱりゴリラじゃねぇか……

 

「たくっ、口の減らない息子だね。どこかで育て方を間違えたのかね……」

 

 明らかにアンタの態度だろ……って言うとまたぶん殴られそうだから黙っておく。

 

「んで? ここの鍵は……貰えねぇのか?」

 

 ようやく殴られた痛みが無くなり、ふらつきながらも立ち上がり、脱線気味になったが蔵の鍵をどうこうする話に戻した。

 だが、ババアは何も言わずに険しい顔をするだけだった。

 

「何度も言ってるだろ。そんな古い蔵に構う暇があるなら、さっさとこっちを手伝いな」

 

「ちっ、わーたよ」

 

 こうなったら、奥の手を使うしか無さそうだ。

 

 貸すのがダメなら盗んで使えってね。

 

 _数時間後

 

 昼間の蝉は鳴き止み、月も浮かんでない夜の中の神社は如何にも心霊スポット的な雰囲気が漂う。

 確か燐もこの夜の怖さにビビって1人でトイレに行けなくて俺に泣きすがったなぁ、あの頃は素直で可愛かったのに今と来たらとんでもないツンツン具合で俺を兄として尊敬していない所が見受けられる。

 

 まぁそれは良いとして、時間は深夜を回り、俺以外全員寝ている筈だ。この隙に【社務所】という所に行く。

 

 社務所と言うのは、こういうでかい神社には大抵ある事務所見たいな物だ。神社に行くと、お守りとか札とか買える所があると思うが、所謂それが社務所だ。

 

 事務所的な所だから、そこにはこの境内の鍵やら金庫やらが管理されており、おそらくそこにあの蔵の鍵がある筈だ。いつも住んでいる家から社務所までには距離があるが、念には念を込めて足音を殺し、広い夜の境内を走り、社務所へと辿り着く。

 

 ここはでかい神社だから社務所もでかく、オフィスビル1つはくだらないデカさだ。相変わらず儲かってるなと思いながらも、社務所の扉に手をかけたが、やはり鍵が掛かっていて開けられなかった。

 

「でもこれがあるんだな〜。マスターキー」

 

 昼間の手伝いの中で親父からパクってきた代物だ。これがあれば社務所の中に入れる。

 

 因みに、これを使ってあの蔵に入る事は出来なかった。あの蔵の鍵穴の形状が特殊過ぎるのか、鍵を差し込む事が出来なかった。

 

 だが、今回はそれが幸いする筈だ。あの形状が特殊なら、俺が見た事無い鍵があの蔵を開く鍵な筈だ。

 お? なんか俺いま一瞬頭良い事言ったような気がする。

 

 早速マスターキーを使って社務所に入り、奥の部屋の管理部屋に入ると、そこには神社の中には似つかわしいパソコンと、大量に管理されていた鍵があった。

 

「へへ、んじゃあ鍵探しを始めますかね〜」

 

 机の引き出し、棚の引き出し、壁にかかれた鍵、社務所の中をこれみよがしに端から端まで、机の裏から怪しい所まで調べに調べ尽くした。

 

 何度も調べ、何度も壁叩いて怪しい所を見つけ出そうとして何時間たっただろうが、携帯を開いて時間を見るともう深夜の3時を回っている事から、もう2時間も経っていた。

 

 結局の所特殊な鍵は見つからず、全て普通の形状の鍵だった。こうなったらここにある鍵を全部持って行って蔵に行く決断をし、鍵を全て持っていこうとした途端、こよ部屋の電気が付けられた。

 

 誰だと言う言葉は口にする必要は無いほど、俺の本能はここに誰が来たのか分かっていた。

 体を起こし、顔を上げた先には、昼間見た形相とは比べ物にならない程恐ろしくて冷たい眼差しの母さんがいた。

 

「……アンタの探してる鍵はこれだよ」

 

 すると母さんはいつも首にかけてあるネックレスから指程のサイズしかない小刀を俺に見せつけた。あれが鍵……なのか? 

 

「ババアが持ってたなんてな、そりゃ見つからんわ」

 

「言い訳はよしな。アンタ、ちょっと度が過ぎるよ。ほら、旦那の鍵を返しな」

 

「ほらよ、どうせ必要ねぇし」

 

 マスターキーをババアに返し、散らかった物を無言で片すと、それ以降はどっちも言葉を発しなかった。このまま逃げるなんて事は無理だ。ここには窓も無いし、出入口はババアが塞いでる。

 

 ……詰みって訳だ。殴られても文句は言えねぇことしたが、目の前に目当ての鍵があるなら黙って引き下がる訳には行かなかった。

 

「なぁ、その鍵をちょっと」

 

「ダメだ。泥棒なんかする奴に渡す訳にはいかないね」

 

「あの蔵に宝物でもあんのか? 心配すんな、興味ねぇよ。なんならババアも一緒についてくれば……」

 

「そんな問題じゃ無いんだよ。アタシはここの神主として、守り通す物があるからね」

 

 ババアがここまで強情を貫くのは珍しくもなんとも無いが、今回ばかりはその迫力は違った。何がなんでも、世界がひっくり返ったとしても、折れない柱見たいな感じだ。

 

「こっちだってそれなりの理由があるんだよ」

 

「そのそれなりの理由って奴を聞こうじゃないか」

 

「……ダチと、どうしても助けたい奴の為だ」

 

 なりふり構うな。

 

 この際意地汚いプライドとか、羞恥とか、何もかも捨てる覚悟でこの人に挑め。

 

 息を吸い、覚悟を決め。俺は膝を曲げ、額に頭をぶつけた。いわゆる、土下座をした。

 

「頼む母さん! 俺にその鍵を貸してくれ! どうしても必要なんだ! あそこに、俺が探している物があるかもしれない! だから……」

 

「アンタ、今母さんって……」

 

「それを貸して蔵に入れてくれるなら何だってする! 頼む! ここを継ぐ事だってする! いや……頼みます」

 

 言葉遣いも正し、意地汚いだろうが何と言われようが、俺はダチと助けたい奴の為に母親にすがるしかない。例え、これで俺の人生が決まったとしてもだ。

 

「……そこまで言うんだったら、チャンスをやってあげるよ。付いてきな」

 

 ババア……いや、母さんの圧が急激に収まり、気が変わったのか変に思いながらも母さんについて行った。

 

 付いてきた先は修練場だった。ここは昔からある所でいつも俺が剣道の練習に使う所だ。

 手入れされた木の床に、窓の外の光景は蛍が発する緑色の光が小さな池の水面を光輝かせていた。こんな深夜にここに来ることは無いから、こんな光景が出来るのは知らなかった。

 

 それをババアはまるで懐かしむかの様に眺め、奥にある更衣室の中に入っていく。

 

「何する気だよ」

 

「今からアンタと本気で戦から、その準備さ。まぁ、待っててくれ」

 

 ババアは更衣室で着替え、その間に俺は広場の蛍を眺めた。こうして自然の一端を見ると、心が落ち着いていく。

 さっきまで荒ぶった心は、目の前の池の水面の様に波紋が無い揺らぎない心へと変わっていく。

 

 風が木々をざわめかせ、風の音は俺の耳にも入っていく。風は体を心地よく突き抜け、その風は虫の知らせの様に更衣室の扉を開く音を知らせた。

 

「うし、待たせたね。これを着るのは久しぶりだねぇ」

 

 振り返ると、そこにはサラシを巻き、上着部分をはだけさせた桜と炎の刺繍がある袴姿のババアがいた。

 自分の母親の露出全開姿を見た俺は、ノーモーションで吐いた。

 

「うわっ」

 

「何がうわっ……だ! 一応、本気を出す為の衣装だからね、さっ、アンタも得意な武器を持ちな」

 

 そう言ってババアは木製の薙刀を手に待ち、俺は竹刀を手に取った。竹刀を一振し、竹刀の重みと軽く準備運動をする。

 

 ……いい感じだ。やっぱり剣はいい物だ。男はこういうのが好きなのはまぁ当然だが、何だが妙に手に馴染む感覚が好きだ。

 

 対してババアは薙刀をまるで舞うかの様に薙刀を回し、ここまで届く豪快な振りを見せた。

 ババアの目線が俺に向いた所を見ると、明らかな挑発行為だ。というか、そもそもババアがここまでま動けるとは思わなかった。

 

 正直、あの閃光の様な動きはバケモンそのものだ。俺も大概動きがバケモンって言われるが、ババアは常軌を逸している。それでもやるしかねぇよなぁ……

 

「さぁ、そろそろ始めようか。勝負内容は簡単、どっちかが倒れるか、降参させるかのどっちかだ。……覚悟しろよ?」

 

(……本気だな。だが、こっちだって本気だ)

 

「なんか禁止行為はあるか?」

 

「いや、無い。でも、金的は狙わない様にしてやるよ。アンタが勝ったら鍵を譲ってやる。負けたら、この鍵の事は諦めな」

 

「へっ、そりゃあありがたいね。じゃあ早速やってやるさ!」

 

 ルール無用ならいきなり始めても文句は言われないという自分勝手な言い訳をしながら俺は竹刀をババアの脳天に振った。

 

 ……が、ババアは右足を後ろに下げ、体を傾けただけで俺の攻撃を避けた。一瞬馬鹿みたいな反応速度に驚いたが、初撃を躱されてしまったが終わった訳じゃない。振り下ろした竹刀を体全体を使って投げ飛ばす様に振り回し、威力を増した竹刀の振りがババアに襲いかかる。

 

 しかしババアに攻撃は当たらず、当たったのは薙刀の持ち手だった。

 

「嘘だろ!?」

 

 細い薙刀の持ち手のみでこの重撃を身震い一つもせずに持ち堪えるという事は、体幹のみで俺の攻撃を防いだという事になる。なんつーゴリラパワーだ。いや、ゴリラと言う言葉が可愛らしく思える程だ。

 

「その程度……かい!?」

 

 ババアは俺の竹刀を払い除け、目にも止まらぬ早さで薙刀を俺の腹にぶつけた。

 腹のみぞにモロにくらってしまい、頭の中が掻き乱されるような気分の悪さが全身を駆け巡り、視界が真っ白になり、竹刀から手を離してしまった。

 

「がっ……お"え "っっ……!」

 

 やばい、吐きそうな程に気分が悪い。上手く体が動かせず、落ちた竹刀を取ることさえも出来ずにいた。それでも何とか武器の竹刀を取った瞬間、うずくまっていた俺の体にババアは腹に蹴りを入れた。

 

 親が子供にしていい行動ではないが、この夜だけは他人同士、敵同士だ。それは俺も分かっており、ババアも分かっているからこそ本気で俺を倒そうとしている。

 

 蹴りを入れられ、そのまま俺をボールの様に蹴り上げると、俺はそのまま受け身も取れずに壁に激突した。

 

「がはっ……!」

 

 やばい、これ以上ババアの攻撃を喰らったらまじで意識が飛ぶ……! そうなれば俺の負けは確定だ。 このまま負けっぱなしはシャレにならない。とにかく反撃する為に立ち上がり、ぐらつく意識を保ってババアに近づくが、そうなる前にババアは俺の前に突撃し、薙刀を振り下ろした。

 

 振り下ろされた薙刀は稲妻と錯覚するように早く、鋭かった。ギリギリ反応して竹刀で薙刀を受け止めたが、本当に木で出来ているのか疑うぐらい重い一撃が竹刀を通り抜け、体全体にヒビを入らせる様な痛みがおそった。

 

(この薙刀……本当は鉄で出来てるんじゃないか?)

 

「雑念があるね! そんなんじゃアタシには勝てないよ!」

 

 重い薙刀がいきなり横方向に振られ、今度もギリギリ反応して防御は出来たが、横からの攻撃で踏ん張りが聞かず、その場で堪える事が出来ずに吹き飛ばされた。

 

「くそっ、攻められねぇ!!」

 

 力も、速さも、技量も何もかも全てがババアの方が上だ。本当にあの人今40代で、10代後半で俺と燐を産んだのかぁ? 

 だが事実は目の前にある。これは受け入れるしかない。

 

「オラオラ! どんどん行くよ!」

 

「くそっ! こっちは防御で手一杯だっての!」

 

 薙刀がまるで鞭のように襲ってくる。リーチの差で間合いを詰める事も出来ず、このまま壁際まで追い込まれるとババアの猛攻で確実に意識が飛ぶことは間違いない。

 

 だからチャンスはこれしかない。この猛攻をどうにか凌ぐだけでは無く、反撃に転じなければ負ける。

 

 考えろ、考えろ。……って思いつける訳ねぇだろこんな猛攻の中、馬鹿な俺が器用に考える事なんて出来るわけが無い。せめてあの薙刀さえ何とかなれば……。

 

「オラオラオラ!」

 

「だぁぁぁ! もう、こうするしかねぇ!」

 

 薙刀を止めるという全てをチャンスにかけるため、俺は竹刀から手を離した。武器から手を離すという事に流石のババアは戸惑い、薙刀の突きを一瞬止めた。

 

「こ……こだぁぁぁ!!」

 

 止まった薙刀にしがみつくようにして薙刀を受け止め、ようやくババアの攻撃が止まった。

 

「貰うぞ、ババアぁ!!」

 

 ババアの腹に蹴りを入れ、ババアはよろけ、薙刀の握る手を緩め、俺は薙刀を奪った。

 

「へへ、ルール無用なんだろ? 貰ってくぜ!」

 

「かはっ……アンタって子は……!」

 

 武器を奪ったのはいいが、薙刀の扱いは難しい。こんな長物の武器は扱った事がなく、無闇に触れば、今度は逆に薙刀は取られるだらう。

 

 だったら薙刀を盾にして竹刀を取るか……? いや、無理だ。ババアは足も早い。竹刀を取る素振りを見せたらその隙を突いて薙刀を奪い返す筈だ。

 

 だから……俺が勝つにはもうこの薙刀を使い、最大限の攻撃をババアにお見舞いするしかない。

 だが薙刀は使えない……なら、もう方法は……

 

「こうするしかねぇぇ!」

 

 ババアに向かって薙刀を刃先を向きながら突撃し、ババアは薙刀を払い除ける為だけに集中し、腰を落とし、構えた。

 このままやったら間違いなく薙刀は奪い返される。だがそんな事は承知の上だ。俺の目的は、薙刀を使う事にある。

 

 ババアと薙刀の距離が拳1つ分の距離になった瞬間、薙刀の先と1番後ろの石突の位置を入れ替えるように回転させ、石突を地面にぶつけ、それを軸にして俺は一回転しながら高く飛んだ。

 

 ババアはまたも呆気に取られ、薙刀を取る目的を放棄した。防御か、はたまた薙刀を取るかの2択しかないが、ババアはそれすらも出来ずにいた。

 

 ことだ。ここしかない。この高さのかかと落としを脳天にぶち込めばいくらババアでもかなりのダメージを受ける。

 

「貰ったぁぁぁ!!」

 

 右足を伸ばし、かかとをババアの頭にぶつけようとしたその時、親父から昔言われた言葉を思い出した。

 振り下ろされた右足は空を切り、ババアの頭……ではなく、ババアの横を切るようにして空振り、木造の地面を一部破り壊した。

 

 木造と言えどもかなりの激痛が走ったが、アドレナリンって奴のおかげでそれ程痛みは感じられなかったが、俺の右足はボロボロで血が流れた。

 

 その足を見たババアは顔色を変え、直ぐに壊れた地面から俺の足を上げ、袴の一部を破って俺の足に巻き付け、止血してくれた。

 

「この馬鹿! こんな攻撃をして……骨は折れてない!?」

 

「あ、あぁ? 動くから大丈夫だ。折れてねぇよ」

 

「そうかい……良かった」

 

 ババアは本気で安堵した息をつき、袴でしっかりと止血してくれた。

 

「……んだよ、俺をボコるんじゃねぇのか」

 

「息子のこんな怪我を見たんだ。その気は失せたよ」

 

「その気をもうちょい早く湧いてくれた良かったのによ」

 

「はは、全くだね……アタシも、止めるのに強引だったかね」

 

 止血を終えたババアは首にかけてあった鍵を外し、俺に手渡した。俺は目を丸くした。どっちとも参ったとは言っておらず、勝負も決まってはいない。それどころか、最後の一撃を外した時点で俺の右足は負傷し、戦える状態では無い。

 どこからどう見ても俺の負けだと言うのにも関わらず、ババアは蔵の鍵を渡してくれた。

 

「1ついいかい? なんで最後の一撃を外したんだい? あれ、わざとだろ」

 

「たくっ、気づいたのかよ。別に、親父の言葉思い出しただけだよ。……女を傷つけるなってよ」

 

 いつもぼんやりしてて、穏やかな顔をしている親父が数少ない真剣に言ってくれた言葉だ。

 あれから俺は、親父の言葉を守ってきた。

 

 ガキの頃だからその言葉を破ったら何されるか分からない怖さもあったかもしれないが、その頃は変な正義感が俺にはあった。多分昔見たヒーローの影響もあり、今でもその言葉を守り続けている。

 

 なんか話してると照れ臭くなり、ババアと目を合わせられなかった。その行動にババアは微笑みながら俺の頭に手を置いた。

 

「へぇ〜? アンタに義理見たいな人情があるとは知らなかったよ。まっ、アタシの腹に蹴りを入れたけど、かなり手加減してくれていた点から気づいたんだけどね!」

 

「揶揄うんじゃねぇよババア。と言うか、さっさとそんな無理な格好をどうにかしろ。風邪ひくぞ」

 

「はぁぁぁ、この息子は口が減らないね! ……まぁでも、その胆力があれば大丈夫かね……」

 

「?? そういえば、やけに蔵から突き放そうとするけどよ、あの蔵何なんだ? 見た目はわりかし普通の蔵だけどよ」

 

 蔵の話になった瞬間ババアの顔が曇り、口が固くなった。一呼吸に時間がかかるほどの間を置いた後、ババアは覚悟を決めるように話した。

 

「あの蔵には、化け物とそれを封印する手段の物が色々と封印されているのさ」

 

「化け物? なんだよ……それ」

 

 明らかに冗談を言っている顔と雰囲気では無く、緊張が走る。俺は生唾を飲み込み、ババアが言う化け物の正体を聞いた。

 

「あの蔵には、狐の化け物が封印されているのさ。名前は……」

 

 

 

 

 

 

 

「妲己」

 

 




キャラ紹介
炎山火々璃(えんざんかがり)

炎山とその妹、燐の母親。
男勝りの口調と性格をしており、いわゆるヤンママ的な存在。
不知火神社の巫女であり、神社の運営等を担っている。
花衣の母親、才華(ウイッチクラフト・ジェニー)との面識はあるが、直接的な関係は無い。


炎山大和(えんざんやまと)
焔と燐の父親であり、不知火神社の神主であり、火々璃と同様に、神社の運営を担っている。
普段はおっとりとした性格をしており、物腰が柔らかいことで評判だが、時に人が変わったかのように厳しい一面も見受けられるとか。
因みに、元々彼は炎山の家系では無いが、火々璃の意向故に神主となっている。

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