六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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逢華妖麗譚再び

 

【妲己】という名前は知っているだろうか。

 歴史の授業で子耳に挟んだのが最後だが、何か昔に実在した悪女らしい。

 

 滅茶苦茶美人で、その美人な女に惚れた王はその妲己の言う事をなんでも聞いたらしいが、それ故に国は滅び、滅ぼされた国の兵士によって打首されたらしい。

 

 だが、決闘者にとっての妲己はもっと別の意味を持っている。その意味とは簡単に言えば架空の妖怪だ。実在する訳無いと思ってはいるが、昨日の夜……というか、今日の夜明け頃、母さん(ババア)からそいつの名前を聞いた時は耳を疑った。

 

 と言っても、俺が知っている妲己……【麗の魔妖ー妲己】という事は確信していない。ババアはそいつの事を化け物と揶揄し、今俺の目の前にある蔵に封印しているそうだ。

 だったらなんで俺がガキの頃、入る事が出来たんだとツッコミたいが、そんな事はどうでもいい。

 

 その化け物が封印されている蔵の中には、俺のレゾンカードの本当の力を解き放てるきっかけがある筈だ。確信は無いが、すがれる物はなんでもすがって利用しないと、連れ去られた霊香達の元すら行けない。

 

「……うし、行くか」

 

 俺は刀の形を型どった鍵を持ち、鍵穴にそれを刺した。そういや、これどうやって回すんだと疑問に思ったが、その心配は無かった。刀の鍵が鞘の鍵穴を通した瞬間に蔵の扉が少しだけ開き、後は力を入れるだけで扉が開くようになっていた。

 

 開かれた両扉を引き、広がった先は薄暗い部屋の中に佇む見た事ない物に溢れていた。

 しかし違和感がある。一見ただの物置き蔵で、特別何か変な物は無い。

 

 昔の掛け軸に壺などの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こういう骨董品は値打ちものが多くあると聞くが、俺には価値のあるものとは思えず、さっさと燐が見たという炎舞の陣が書かれた本を探す。

 

 燐が頭から引っ張り出した記憶によると、燐はかなり奥の方に見かけたらしい。早速奥の方に向かうと、そこにはまた大きく古びた扉があった。

 

「蔵の中にまた扉だぁ……?」

 

 それに扉は仰々しく札が貼られており、扉自身を縛るかのような鎖が結ばれていた。

 妙な事に札が新品同様の状態であり、間違いなく黙れかが最近ここに来て札を貼ったという事になる。

 この蔵の鍵が今まで持っていたのはババアという点を考えれば、この札を貼ったのはババアだろう。

 

 ……だが、こんな所に扉とかあっただろうか? 昔ここに入った時にはこんな鎖どころか扉さえも無かった筈だ。

 扉は鎖のせいで開かず、その錠前に鍵穴という物が無く、あるのは縦一線の傷が入った錠前だけだ。

 

 まぁ、この扉の先には無いだろうと考えて扉を背にしたその時、鈴の音と共に声が聞こえた。

 

 _お主の探し物はここにあるぞよ

 

 耳の中に舌を居られたかのような舐めかわしい声が頭に響いた瞬間、俺は扉にまた顔を合わせると、扉から紫色の気が発せられた様な錯覚に陥った。

 

 妖しい気が俺の体に触れると、細胞や本能がこの扉の先はヤバいという生存本能と恐怖が叫んでいるかのように体が震えた。

 

 その時、ババアの言う事を思い出した。この蔵には、化け物を封印していると言い、その化け物の名前は……妲己。

 

「だ、誰だっ!? 妲己なのか!?」

 

 怯えた声を聞いて声の主はくすくすと笑い、その笑い声はまるでこの蔵の中を駆け巡るかのように部屋中に響き、更に恐怖が湧き出たが、同時に舐められている様でムカつきもした。

 

「おい! きもちわりぃ事してねぇでさっさと姿を見せろよ!」

 

 _妾もそうしたいのじゃが、あいにく扉が塞がれてな。その刀でどうか扉を開いてくれなんし

 

「あぁ? 刀だぁ?」

 

 刀と言われてと俺にあるのは、刀の形をした小さな鍵だけだ。まさかこれを使って鎖を切れとか言わないよな? 

 流石に無理がありすぎる。

 

 謎の声の奴に馬鹿かと言ってやりたいと思いつつも錠前に目を向くと、錠前の傷と刀の鍵の幅が同じという事に気づいた。

 

 この傷をなぞるようにして刀を使えってか? だが、使う気にはなれなかった。

 

 この扉の向こうには間違いなく俺の頭に声を響かせる謎の女の声の主がいる。しかもそれは、間違いなくババアが言っていたこの蔵に封印している化け物……妲己だろう。

 

 もしもこの扉の封印を解いてしまった後の事が過ぎる。封印を解き、化け物……妲己が暴れだしててもしたらこの辺どころか最悪この一帯すらも脅かしてしまうだろう。

 

 ババアが言うには、化け物は昼には力が発揮出来ず、この蔵は常時昼間見たいな効力があると言う。全くどうなってんだ? だが、それでも化け物の力は未知数と言う。

 

 だからこそババアは俺を蔵に遠ざけ、鍵も渡さなかった。今なら引き返せる事も出来る。

 だが引き返したら求める物は手に入らない。

 

 考えろ、俺はなんの為にここにいる? 

 

 ただレゾンカードの本当の力を解放する為だけじゃない。セブン・エクリプスとかいうふざけた奴らにさらわれた霊香や花音、カレンを助け出す為でもあり、そんな奴らを叩きのめす為だ。

 

 まっ、言うならばダチの為だ。そういや、昔から俺はその為に行動する男だったな。

 

 鍵の刀を手に取り、錠前の傷に刀の刃先を通す。もしこの刀を1番下までなぞれば、この扉は開き、俺は妲己と対面する事になる。

 

 もしかしたら命を奪われるかもしれないし、俺に成りすまして外に出るかもしれない。だけど行かなければならない。ダチの為に、この先の為に、俺は刀を振り、鎖の封印を解き放った。

 

 鎖を繋いだ錠前が刀で斬られたかの様に真っ二つとなり、それと同時に扉が開かれると同時に、太陽の光が扉から溢れ出した。

 

 あまりの眩しさに目を閉じ、閉じた目の中で明るさに慣れ始めると、俺はゆっくりと目を開ける。

 

 そしてそこは、ありえない光景が広がっていた。

 

 そこは無数の桜が咲き誇った昼下がりの庭で、無効には古びた屋敷……いや、神社らしき物があり、その縁側に人がいた。

 

 地面にまで届く長い薄紫色の髪には鈴が付けており、白い着物の上に朱色の服を着ていた女性が静かに佇むように座っていた。

 

「なん……だ? ここ、外なのか?」

 

 だが、後ろに振りえかるとさっきまでいた寂れた蔵の中の光景が広がっているから、確かにここは蔵の中の筈だ。

 

 だけどここは外となんの変わりない空間だった。空の色、太陽の光と陽射しの感触、桜の匂いと肌触り、そして体を突き抜ける風は間違いなく本物だった。

 

 いや、本物と遜色無いのか? 一体どういう原理でこの空間を作り出したのか分からず、空にこれを見せたら興奮してこの空間のシステムや原理について考え出すんだなと、関係ない事に逃げるように思ってしまった。

 

「どうなってんだ……?」

 

「ふふ、随分と困惑してるのぉ。見ていて愉快愉快」

 

 縁側に座っていた女……間違いなくその姿は、俺の知っているモンスター、麗の魔妖ー妲己だった。

 

 まさかこんな所で精霊に会うとは思っておらず、俺は妲己から目を離さずにいた。

 そんな警戒心全開の俺の姿を見た妲己はクスリと笑い、何も無い縁側の地面をゆっくりと叩いた。

 

「ほれ、こっちに座れ。心配せずとも、お主には何もしないし、ここでは何も出来んからのぉ」

 

 妲己は微笑みながら隣に座れと行ってきたが、化け物と言われ続けてここに封印されているやつだぞ……俺でも簡単には信用出来んわ。

 隣に座りどころかじわじわと俺は距離を置き、それを見た妲己はムスッと頬をふくらませた。

 

「むぅ、何故来ないのじゃ……。あぁ、この喋り方がいかんのか? では……」

 

 妲己はコホンと咳き込んだ。

 

「あ、あー……ほらほら〜何も怖くないよ〜☆良いから座ってチルっちゃいなよ!」

 

「…………はぁ?」

 

 な、なんて言った? 呪文か? 何か一気に妲己の妖しいイメージが一気に崩れ、ウィンクしていた妲己は硬い反応の俺を見た妲己はウィンクを崩し、疑問に満ちた顔に変えた。

 

「…………ふむ、違ったかの? 現代の女子(おなご)はこのような喋り方をすると聞いたが、違ったか?」

 

「いや知らねぇよ……というかチルっちゃいなよって何だよ」

 

「りらっくす……確か、心を落ち着かせるという意味だったかの。まぁ良い、立ち話も何だし、久方の客だ。少しばかりの賄いをご用意しよう」

 

 妲己は神社の奥に足を運び、姿を消した。この隙に俺はこの空間を調べる為に少し歩き回った。

 

 分かった事は、ここは桜の木々より奥には行けない。

 太陽の位置は変わらず真上にある事。桜は風で散るが、直ぐに芽吹く。地面を掘ることは出来ない。掘っても掘ってもまるで地面が湧水の様に出てくるからだ。

 

 まぁ、こんな感じか? あまり有益な情報とかは無かった。ウロウロしていると鈴の音を鳴らしながら妲己が帰ってくると、お盆では無くワゴンで様々な菓子が持って来た。

 

 ワゴンにはシュークリーム、エクレア、アップルパイ等、この場所に似つかわしいスイーツばかりが出てきた。

 

 ……やばい、さっきから想像出来ない事がありすぎて頭がショートしてしまいそうだ。

 

「さぁさぁ、遠慮なく食べるが良いぞ! 妾のおすすめはそうさね……このあっぷるぱいという物が良いぞ!」

 

 妲己はアップルパイを持ってはにかむ笑顔を浮かべた。……こいつ、本当に妲己なのか?

 カードのイラストとか関連カードを見るに、かなりミステリアスな雰囲気を出していたが、今の妲己にはミステリアスな雰囲気は無い。

 俺の目の前にいる妲己は、まるで今一瞬一瞬を楽しんでいるただの女しか思えなかった。

 

 最初よりかは警戒心が緩んだせいか、妲己の隣に座ったが、出された料理は食べなかった。

 

「……ん? 食べないのか?」

 

「いや、まぁ食えるなら食いたいけどさ。……本物なのか?」

 

 見た目の質感や匂いは間違いなく本物だが、この不思議な空間に用意された食いもんが怪しくない訳が無い。一体どうやって作ったのかも不明な物を、食いたいとは思えなかった。

 

「勿論本物じゃ。心配せずとも、毒の類いは入っておらん。其方の命を奪ったとして、妾になんの得があるというのじゃ」

 

「俺を殺って封印が解かれたこの空間から逃げ出すとかか?」

 

「もう封印は解かれたというのにか? ふふ、お主は馬鹿だの〜」

 

「誰が馬鹿だっ! たくよ、何か思ってたのと違うな……」

 

 ババアが化け物と言って恐れて俺を遠ざけさせていた割には随分と友好的な存在だ。魔妖……いわゆる、一般的に認知されている妖怪とは随分と違っていた。

 

「さて、和んた所で本題に入ろうかの。お主が探している物は、これじゃろう」

 

 妲己は袖の中から赤色の巻物の取り出した。巻物はかなり古い物でボロボロになっている箇所はあれど、妲己が管理していた為か、読める程度には保管されていた。

 

「ん? 確か燐はここじゃなくて蔵の中で炎舞の陣が記された本を見た筈だよな? なんでお前がそれ持ってんだ?」

 

「恐らくそれは伝記じゃ。先祖が見様見真似でそれを記したのを見たのだろう。本物はこれじゃ、見せてやろう」

 

 そう言って妲己は赤色巻物を俺に渡した後、ワゴンに残っていた物を美味そうに食べた。

 

 あっさりと目当ての物が手に入ってしまい、達成感とかそんなものは湧き上がるどころか本当にこれでいいのかという疑いまで出てきた。

 

 隣の妲己を一応気にしつつも、巻物を縛っていた紐を解き、巻物の中身を見た。

 巻物は墨汁で書かれており、最初の1行には炎舞の陣という文字が書かれていた。

 

「炎舞の陣……!」

 

 俺が持っているレゾンカードと同じ名前を見た瞬間、持ってきたデッキの中から炎舞の陣を取り出し、巻物に記されている絵とカードイラストを見比べた。

 

 9本の火柱に、その中には武器を持った女……間違いない、同じだった。これを読んで、炎舞の陣が何なのかを突き詰めれば、このカードの力を解放する手がかりを掴める筈だ。

 早速巻物を読み進め、炎舞の陣が何なのかを突き詰めた。

 

 ﹁

 

 炎舞の陣、それは不知火流の秘術である。

 

 九つの火の中に英雄の魂を取り込み、取り込んだ魂を自身の武器へと移し、その武器はあらゆる物を断ち切る妖刀へと生まれ変わる。

 

 その妖刀はこの世ならざるものも断ち切らせ、所有者の心を移すように武器は変化する。

 

 刀、槍、薙刀、果てには異国の武器までも変化する。

 

 しかし九つの英雄の魂が武器へと流れ込む故に、その魂に体を乗っ取られる恐れもある。魂と魂が体を駆け巡り、やがては体と心は魂に引き裂かれ、九つの炎に呑み込まれ、あの世には行けず、生きる屍になる ﹂

 

「武器に魂を……? しかも何でも斬れて、何でも勝てるって……最強じゃねぇか」

 

「故に、大きな戦いでこれが使われた。多くの者が死に、多くの者が犠牲になり、大きな力を持つ者がこれを欲した」

 

「昔の戦争とかにこれが使われたのか?」

 

「あぁ。天下統一を目指す将軍共がこれを求めておったのぉ。じゃが、殆どが炎に呑み込まれおった。自業自得というヤツじゃ」

 

 確かに、普通の武器が最強かつどんな武器にでも成れると知れば、戦争で使いたい奴はいるのは当然だ。

 

「故に、友はこれを封印した。元々は我ら【魔妖】を滅する為の術なのにのぉ……」

 

 自分たちを倒す為の秘術なのに、違う用途の使い方を話した妲己は人を蔑む様な表情では無く、悲しむ顔をしていた。

 

 そして、その理由は直ぐに分かった。巻物の最後に他とは筆跡が違う一文があり、明らかに付け加えられた物だった。

 

 ﹁願わくば、この秘術を使う事が無い世界を祈る﹂

 

 この一文だけ、妙に力を入れて書かれていた。恐らく、本気でこの秘術が使われる事の無い世界を願ったのだろう。

 

「その友ってさ、こいつの事か?」

 

 俺はデッキから【不知火の物部】を取り出し、妲己に見せた。すると妲己は物部のカードを見ると、懐かしそうにカードを見た。

 

「おお、これは若い頃のアイツじゃ。懐かしいの

 ぉ……」

 

 物部のカードを凝視した妲己は何を思ったのか、そのまま何も言わずに見つめた。こっちから話さないと何も言わないぐらいに思いふけっており、思わず俺は適当な話題を妲己にした。

 

「こいつの名前、なんて言うんだ?」

 

「さぁの。不知火のしきたりには、安易に名前を言わぬ制約があったらしい。なにせ、名前を呼べばその者を操れる妖もいたからのぉ」

 

 妲己は物部のカードを返し、思い出を辿るように目を閉じた。

 

「そやつの姿を見たせいか色々と思い出す……初めて出会った時の事、逢魔の刻の出来事……そして……」

 

 妲己はその後の言葉をつまらせ、何も言わなかった。

 

 ……ん? 待てよ。炎舞の陣が不知火の家系が使ってた物で、それが俺の家の蔵にあった……という事はだ。

 

 いや、それだと分からない点が何個かあるが、もしかしたらと思い、俺は恐る恐る妲己に尋ねた。

 

「な、なぁ。不知火が使ってた術の巻物がここにあって、お前は不知火の家系に封印されていた……って事はさ……俺ってまさか」

 

「なんじゃ? まさかお主があの【不知火】の家系だと言うのか? なに、心配するな。こやつとお主との血縁関係は無い。お主らの家系は不知火の分派じゃ」

 

「分派?」

 

「そうじゃ。何も不知火は一枚岩では無い。様々な流派を持ち、各々が協力して我らを倒す為に尽力していた。忌まわしいがな」

 

 妲己は笑ってそう言った。

 

「あぁ〜ビビったー! ……ん? じゃあさ、この【不知火】って昔実在したって事か?」

 

「そうじゃ。その証拠にほれ、目の前に美人な妾がいるじゃろ」

 

 顔に絶対的な自信を持っている妲己はほれほれと笑いながら俺に顔を近づけた。

 

 確かに美人っちゃ美人だ。その辺の女優よりも顔立ちが綺麗で小顔だ。いつもの俺ならまじまじと見ていたがそれよりも俺は俺自身導き出した。

 

「じゃあ……わざわざ実際にいた奴らを元にしてレゾンはカードを作った訳だよな? 何でそんな事を……」

 

「……聞く所によると、強い意志は魂となり、札になるそうじゃ」

 

「札? カードの事か?」

 

「それは知らん。……が、お主らがやっているデュエルモンスターズと言うのか? そのモンスターカード1枚1枚には意志が感じられる。少なからず当たっているだろう」

 

 まぁ、精霊が実際にいるんだから当然ちゃ当然だろう。

 

「そして、太古の人はその札を依代としてモンスターを呼び出し、下僕として戦っていた。それが今となっては遊戯となっているとは……時の流れは早いのぉ」

 

「モンスターを召喚だぁ……? そんな馬鹿な事がある訳ねぇだろ」

 

「よくふぁんたじーという物であるだろ。魔神を呼び出したり、龍を呼び出したりと。アレがその例じゃ」

 

「嘘つけ」

 

 もしモンスターを召喚出来るとしたら、それがどうしてこんな誰でも遊べる物に生まれ変わらせたんだレゾンは……あー、ダメだ。頭痛くなってきた。とにかくこれは空たちに報告案件だな。考えても分かんねぇし。

 

「まっ、とにかく俺の目的はこのカードをどうにかして本当の力を解放させる事なんだ。炎舞の陣がどんな物かは分かったけど……このカードうんともすんとも言わねぇなぁ」

 

 知識だけ手に入れても、肝心のこのカードの反応は何も無い。折角ここに来たと言うのに、収穫がこれだけなんて割に合わなさ過ぎる。もう一度巻物を読み返して見落としがないかの確認をしたが、ヒントらしき物は無かった。

 

 すると、妲己は何かを思い立ったかのように立ち上がり、神社の縁側からこの空間の中心の広場まで歩いた。

 

「なら、実際に試して見てはどうじゃ? お主の命で」

 

「どういう事だ?」

 

 そしてその時だった。

 

 急に妲己の中心から暴風が吹き荒れ、周りの桜が散って桜吹雪となり、俺の視界を遮った。暴風に飛ばされまいと姿勢を低くしてその場で歯を食いしばりながら耐えると、デッキケースから赤い炎が蛇のように燃え上がり、俺を襲う桜全てを燃え尽きさせた。

 

 燃えた桜はその瞬間鎮火して灰となり、遮られた視界が元に戻ったが、その景色は大きく変わっていた。場所は変わってないが、空の景色が青から黒へと塗りつぶされ、太陽が月に変わっていた。

 

 そう、夜になっている。

 

「そのカードを見て……思い出したわ。我らを封印し、縛り続けた不知火への怨みがっ!!」

 

 俺に顔を見せた妲己の目は黒く染まり、この世の物とは思えない程の邪悪の笑みを浮かべ、青い炎を身にまとった。

 

 青い炎は妲己の体を獣の様な手足へと変えさせ、背中には9つの白い尾が生え、姿形が人から離れた物に変わりつつあった。

 

 この姿は……間違いない。あの姿こそ妲己の本当の姿、【麗の魔妖ー妖狐】……! 

 

『この姿も随分と久しぶりじゃ……お主には感謝してるぞ? 妾を縛っていた封印を解いてくれたお陰で、この昼しか無い空間を夜に出来た。昼は妾の力を失うからのぉ。これで妾は外の世界へと飛び出し、思うがままに生きれるっ!!』

 

 なんつーでかさだ……俺の後ろにある古びた神社の一回りを軽々越す大きさだ。あまりにも現実離れで、あまりにも恐ろしくて声が出ず、妖狐になった妲己を睨むしか出来なかった。

 

「てめぇ……やっぱりその腹か?」

 

『おう怖い怖い……しかし気を許したのはお主の方だぞ? 狐に化かされたお主が悪い』

 

「……そうかよ。んで、八つ当たりで俺を倒すのか?」

 

『ふむ、確かに其方にはなんの縁もゆかりも無ければ恨む理由が無い。……じゃが、貴様からは臭うのじゃ。あの裏切り者の匂いが』

 

「裏切り者……? 誰の事だ!」

 

『其方には関係ない。なぜなら……ここで朽ち果てるからの!!』

 

 妖狐が背後に青い炎を灯し、弾丸の様に俺に投げつけてきた。その炎を見た瞬間本能が避けろと叫び、咄嗟に体を回転させて炎を避けた。だがまだ終わらない。

 

 今度は妖狐自身が地面を強く蹴り、凄まじい速さで俺に向かってきた。これは避けられない。

 俺の頭に【死】という文字が浮かび上がり、死の間際になったせいか目の前の光景がスローモーションになった。

 

 ここで死ぬのか? このスローモーションの光景は俺が死ぬ前にこれまでの事を振り返る為に神が死ぬ俺を見て同情で用意してくれた時間か? 

 

 ふざけるな。ここで死ぬつもりも無い。俺にはまだやりたい事とか、やらないといけない事が沢山あるんだよ。

 

 こんな所で……こんな奴に………………

 

「終われるかよボケがぁぁぁぁぁ!!」

 

 喉奥から声を震わせて叫んだ瞬間、デッキケースから炎が溢れ、妲己はその炎に恐れて攻撃の手を止め、俺と距離を取った。

 

 そしてその炎は俺と妖狐を囲むように広がり、同時に俺の手には激しく燃え盛る炎を身にまとった刀が宿った。間違いない、これは俺のレゾンカードの一つ、不知火の太刀だ。

 

『……ほう、分派と言えども流石不知火の末裔と言うべきか。嫌な力を持ちおる』

 

「へへ、ざまぁみろ。んで、どうすんだ? やり合うのか?」

 

「……いや、ここは平和的な争いをしようじゃないか」

 

 妲己はそう言って地面に手を置くと、地面には何かの紋章見たいなものが浮かび上がった。

 

 そして紋章がまた一段と光輝くと同時に炎の台座が、まるでデュエルフィールドになる様に燃え、俺のデッキケースからデッキがまるで意志を持ったかのように飛び出してはそのデュエルフィールドに置かれた。

 

「おいおい、まさかデュエルでもしろってか?」

 

「そのまさかじゃ。負けた者は命を失う事になるが、血みどろの戦いよりかはマシじゃろ?」

 

 妖狐は妲己の姿へと戻り、袖からデッキを取り出し、同じ様に炎の台座にデッキを置いた。というかあいつも持ってんのかよ……

 

「何を驚いてるのじゃ? 言ったじゃろ。強い意志は魂となり、札になると」

 

「つまり、そのデッキは【魔妖】って訳か? 悪ぃが、【魔妖】デッキとはわりかし戦ったことあるぜ?」

 

「そんじゃそこらのものと同じにしては困るのぉ。妾のこの山札には我らの怨念が篭っておる。一筋縄では行かぬぞ……!」

 

 幻かも知れないが、妲己の背後には魔妖の妖怪達が呪いの如く現れているようにも見え、思わず後ずさりしてしまう。いや、逃げるな。ここで勝たないと、アイツは外で何やらすか分からない。

 

 勝つしかないんだ。俺の自身の為にも、ダチの為にも……! この狐を……倒す! 

 

「その目はアイツと同じ目をしておる……では再び逢魔の刻を始めようぞ!!」

 

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