六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
「……はっ!!」
眠っていた自分を叩き起すかのように強く目を開いて体を起こした。周りを見るとそこは和室の一室であり、畳の上に敷かれた布団の上に寝ていたようだ。
なんか腕や体に何かが巻かれている感覚を感じて腕や体を見てみると、怪我をしていた所には札の付いた包帯が巻かれていた。
いや、なんで札?札は訳の分からねぇ文字が刻まれていていて外す事は出来なかったが、不思議と体を動かしても痛みは無かった。
誰がこんな事をしたんだと考えたが、今ここにいるのは俺とアイツだけだ。
噂をすればなんとやらか、部屋の襖が開き、奥から妲姫が俺を見るや否や驚いた。
「ほぅ……これは驚いた。まさかもう起き上がるとは」
「まっ、寝てる暇はねぇからな。というか、この包帯はお前の仕業か?」
「そうじゃ。妾以外誰がおるのじゃ」
「この意味不明の札はなんだ?」
「それは治癒の札じゃ。安心せい。それは怪我の治りを早くさせる事が出来る優れものじゃ。お主の怪我が完全に治ったら剥がれる。治った後の方が体が丈夫になるというあふたーけあ付きでの」
訛りのある横文字を自信満々にいう妲姫にほくそ笑み、俺はある物を探した。
そう、デッキだ。デュエルの後半で俺はカードを手放して戦闘していたからデッキの行方が分からずにいる。周りに無いかと探していると、妲姫は俺の探しているものを知っているかのようにデッキを渡してきた。
「探しているのはこれじゃろ?」
「おお!サンキュー!」
妲姫からデッキを受け取り、早速1枚のカードを手に取った。
「おぉー。これが新しくなった【炎舞の陣】か!……なんか魔法カードなのにリンクマーカーがあるのすげぇな」
リンクマーカーがあるって事は……向いている方向がエクストラモンスターゾーンになるって事だが、このカード、マーカーの向きが上、左、右だからエクストラモンスターゾーンは1つしか増えねぇ……せめて上方向にしろよなぁ。
まぁ、横向きのおかげで勝てたから文句はいえねぇ。
「これで目的は達成したか?」
「そういえば、お主の目的をあまり聞いておらんかったな。炎舞の陣が必要な程の用とはなんじゃ?」
「あぁ。今な、やべぇ敵相手にしたんだよ」
俺は妲姫に今までの事やこれからやる事について話した。
すると、妲姫はダークネスという言葉を聞いて酷く驚いていた。
「ダークネスじゃと……?お主、そやつがどのような存在かわかっているのか?」
「あ?うーん、闇とかどうのこうのとか……あ、なんかこの宇宙を作った神様的な存在だって聞いてるぜ」
「そんなちゃちな者では無い。ダークネスは、この世の闇そのものじゃ」
「闇そのもの?」
「闇とは、世界で必ずある物で絶対に消えぬ存在じゃ。そして、ダークネスはそれを統べる……いや、そのものの存在でもある。故に、アイツを倒す方法なぞ無いのじゃ」
「倒す方法が無い!?じゃあどうすんだよ!」
「この世から闇が無くなればあやつは消滅するが、それは不可能じゃ。何故なら、この世界には闇が溢れているからのぉ」
「闇が溢れてる?」
「……恨み、妬み、謀略、競走、生への絶望、明日への絶望がこの世には蔓延っておる。これを消すとなれば、この世界を消すしかあるまい」
「何だよ、じゃあダークネスが復活したのは俺ら人間のせいってか?」
「そうじゃ」
妲姫は迷わず俺にそう告げた。
「人間は愚かじゃ。自身の為に他人を蹴落とす事しか考えておらぬ。数百年ここに封印され、この鏡で人間の事を見てきたが、何とも御し難い生き物じゃ」
すると妲姫は首にかけていた鏡を見せると、そこは現代の風景が映り、ある所にズームされると、そこには部屋の一室で横に倒れてピクリとも動かない男がいた。
それにしても部屋は相当汚かった。缶ビールやカップ麺が片付けられておらず、部屋というよりゴミ屋敷と言っても良かった。
そんな不衛生な所で寝ているのかと思ったが……違う。部屋が暗くて見えないが、男は吊られていた。これは間違いない自殺だった。
「んだよこれ」
「今この瞬間で起きている事じゃ。こやつはどうやらこれから生きる意味を見いだせなかったらしい。他にも見るか?」
「……いや、やめてくれ」
直接では無いが、人が死んだ所を見てしまった俺は話す気すら失い、気分が悪くなった。妲姫はそんな俺に構わず話を続けた。
「この男の様な者が世界には数え切れぬ程いる。行き場を失い、絶望する。まるでそれが
「……」
「そしてこれを生み出しているのは人間じゃ。お主が相手をしようとしているのは、そんな終わりのない闇そのものじゃ。……果たして、名の知れぬ者の死を気にするお前に立ち向かえるかの?」
「だとしても、俺は戦わねぇといけないんだよ。それに、拐われた奴も助けえねぇとな」
花音、カレン、そして霊香……コイツらを助けるのが先だ。
「それにさ、人間悪い奴らじゃねぇぞ。めちゃくちゃ良い奴も居るし、手を伸ばしてくれる奴もいる。あんまし人間悪く言うなよな」
「……くっ、ふはは。そうじゃのう。世の中は妾にトドメをささない馬鹿もいるのじゃからな」
「はっ。そっちこそ俺の事を仕留め無かった癖によ。……封印は解いちまったから好きな時に外に出れるだろ?」
「そうじゃの。じゃが、妾が外に出たとしてどうなる?あの世界で自由に生きれたとしても、同胞を失った妾にとっては、あの世界は虚空じゃ。外に出る理由は……もうとっくの昔に無くなったのじゃ」
そうか……こいつ、何百年もずっとここに居るのか。そんで仲間も居なくなって自分だけ……寂しすぎだろ。
返す言葉が見当たらず、頭をかいてこの場を乗り切ろうとすると妲姫は違う話を話をした。
「お主に頼みがある。……雪女を探してはくれぬか?」
「雪女……?でも、お前らの仲間全員居なくなったんだろ?」
「いや、あの裏切り者だけは生きておる。お主もぼんやりとは分かる筈じゃ」
すると妲姫は逢華妖麗譚-魔妖語と魔妖不知火語のカードを出した。
カードイラストは、恐らく戦いの最中の妖狐と麗神ー不知火との間に、雪女が介入し、雪女が不知火の力を手に入れた零氷の魔妖ー雪女になる直前の出来事が描かれている。
妖狐の様子からして、雪女がした行動は全くの予想外というのが分かるカードだ。それ故に魔妖不知火語では敵対するかのようなイラストになっている。
これを見て殆どの奴らは、雪女は魔妖から離れた、もしくは最初からこれを狙っていたみたいな感じの考察があるが、真相は知らん。まぁ、これから話してくれるだろう。妲姫に目を向け、静かにその後の話を聞く。
「雪女が不知火の力を奪った後、妾と
「裏切った理由とかは?」
「そうじゃのう……愛されたかったのかもしれぬのぉ」
「愛されたかっただぁ?」
あまりにも予想できない答えに呆気にとられ、思わず同じ言葉を繰り返した。
だが妲姫はやたら確信めいた顔をしていたから、否定はせずそのまま話を聞いた。
「……あやつには昔、好いた男がいた。一目惚れというやつじゃ。じゃがそやつは人間じゃ。とても紡がれるものでは無かった」
「まぁ、人と妖怪だもんな」
「じゃが幸い雪女は夜の姿では美しい女だった。それを利用し、男の前に現れ、夜になる度に会いに行った。……じゃが、男は不審に思ったのじゃ。数年経っても歳を取らぬ顔と、夜しか会えぬ事についての。そして男は問いだした。お前は何者かと」
妲姫の顔が徐々に暗くなり、事の結末は嫌でも分かって来た。
「雪女は自分の正体を晒した。じゃが男は雪女を恐れおののき逃げ出した。そして雪女はその男を……氷漬けにし、バラバラにした」
思わずその光景を思い浮かべてしまい、全身に寒気が刺し、鳥肌が立ってしまった。まぁでも、聞いた事ある話ではあった。
雪女自体は有名な妖怪だ。それ故にバリエーションが豊富だ。山奥に住んでて遭難しているやつを氷漬けにしたりとか、人間に化けて暮らしているとか色々だ。
「その後雪女は心に傷を負って人と会うのを拒んだ。じゃが愛を知った雪女は愛を求めて人間に対し、愛を試したのじゃ」
「た、例えば……?」
「自分を見た事を他人には公言せぬことや、徐々に重くなる赤ん坊を抱かせて離さない様にさせたりと様々じゃ。どれもこれも、失敗しては大勢の人を亡くしたがな」
それから雪女の事について妲姫は話してくれた。裏切り者と呼んだ割には、妲姫は楽しそうに思い返しては愚痴をこぼし、その中には褒めている部分もあった。
俺がその事に指摘すると、妲姫は勝手に滑らせた口を塞ぎつつ、俺をこづいた。
「てかさ、雪女を探せって言うけどさ。どこ探せば良いんだ?雪山にいって遭難しろってか?」
大抵の逸話では雪女は雪山に住んでおり、男が遭難したら助けに入るケースが多い。これをやるにしても相当な勇気がいる。
というか時期的に雪が降る山はねぇし、遭難する気はさらさらない。流石に情報が無いっていうのがネックであり、探す気は失せる。いやマジで。
どうすんだと目で訴えると、妲姫は心配無いぞと言わんばかりに笑った。
「心配するな。今どきの雪女は雪山なぞに住んでおらぬ。そうじゃのう……恐らく、人間に乗り移って生きているじゃろう」
「人間に……乗り移るだぁ?そんなん出来んのか?」
「出来るぞ。不知火の力を使ってな」
「不知火……あぁ、確か不知火って昔強え奴の魂を自分に乗り移させて戦うんだっけ?」
確か、不知火の設定では魔妖を倒す為に昔の奴の魂を乗り移らせる物があったはずだ。
だとすれば、不知火の力を奪った雪女なら、その力を応用すれば、自分の魂を他人に乗り移らせる事も可能だと妲姫は言った。
「いや人の魂に乗り移るなんてめちゃくちゃヤバい奴じゃねぇか」
魂がどんな物か、そもそもあるのかどうか考えてみれば分からねぇが、所謂体の乗っ取りにも近いと考えたらめちゃくちゃ怖い。
思いついてみろ、自分の体の中に他人の……しかも誰か分からない奴が入り込んで好き勝手されるんだぞ。二重人格どころの話では無い。
「じゃが。それで雪女はまがりなりにも【人間】になったのじゃ。同じ土俵、人間同士なら自分を愛してくれる存在がいるかもしれない。そう考えたんじゃろ」
「……それで、お前を騙して今はこんな所に封印されたんだろ?何だ?裏切ったから復讐のためにぶっ飛ばして来いってか?」
「蛮族かお主は。そこまでは言っておらぬ。ただあやつを止めて欲しいだけじゃ」
「止める?」
「人の魂に乗り移るという事は、いずれ雪女の魂と乗り移られた魂が融合し、互いの存在が自分では認識出来なくなる。つまりは自分が自分で無くなる可能性があるということじゃ」
「つまり、雪女もそうなると?」
妲姫は頷いた。
「恐らく雪女はこの長い時をかけてかなりの人間の魂に乗り移って来たはずじゃ。恐らく、今回で魂と魂の融合が始まるはずじゃ。そうなってしまえば……」
「し、しまえば……?」
「雪女の力が暴走し、この世界は氷の世界となるじゃろう」
つまり氷河期再来ってか?ダークネスっていうヤバそうな奴を相手するのに、ここでまた別の世界の危機をこうも簡単に託されるとは思わなかった。
あまりにも簡単に言われ、しかも規模が規模のせいか何か実感が湧かない。
「まっ、やるしかねぇか」
「ず、随分と軽い態度じゃな。もう少し、なんかこう……責任の重みとか無いのか?」
「いやあるにはあるぞ?でもやる事1つ増えただけだろ?やるしかねぇよ」
話している間に体の傷も治りかけたのか、治癒の札が剥がれ、包帯を自力で解いていく。
妲姫の攻撃で生まれた切り傷や刺傷、火傷の跡も無かったかのように無くなり、腕を伸ばして体を解し、傍に畳んであった俺の服を着る。
「それにさ、たかが妖怪探しだろ?ヤバい敵倒すよりかは何倍も楽だろ」
さっきの命懸けのデュエルよりかは百億倍マシだとほくそ笑み、自信ありげに俺は胸を張って雪女を探すと誓った。
「ふっ、楽だと言うが探すあてはあるのか?この世界には何十億もの人間がいるというのに」
「げっ、まさかのしらみ潰しのパターンかよ。何か手がかりとかねぇのかよ」
しらみ潰しになると話は別だ。そもそも人間に化けているんじゃなくて魂そのものに入っているというなら、雪女の顔を見ながら探すという手も無い。というかそれをやる気力も無ければ猶予も無い。いやそこそこ詰みだろ。
この国でも数十億人はいるっていうのに、しらみ潰しとなれば一生かけても無理だ。
せめて当てが欲しいところだと、妲姫に期待する眼差しを送った。
「何心配するな。お主はもう雪女に出会っておる筈じゃ」
「はぁ?どういう意味だ」
「お主からは雪女の魂の残り香が臭う。すんすん……あぁもう臭う。忌まわしいあの女の臭いがするわ」
「はっ?マジかよ。…………くっさ!汗の臭いしかねぇ!」
臭うと言われて思わず手や腕を臭うと夏の暑さで出てきた汗の臭いしかしなかった。あまりの臭さで悶絶していると妲姫は面白がるように笑った。
「普通の人間では感知出来ぬものじゃ。とにかく、お主は雪女とはもう出会っておるはずじゃ。その臭いの濃さからして、何度も出会っておる」
「何度もって……雪女って女だよな?まさかとは思うが妹の燐じゃねぇよな?」
「それは有り得ん。もしそうなら妾が感知しておる。お主の周りで女子はおらんのか?」
家族の誰でも無くて交流があるとするなら、学校のクラスメイトか花音達辺りしかいない。それでもまぁまぁ数はいるが、しらみ潰しよりかはマシだろう。
それにしても俺の周りの誰かが雪女ねぇ……しかも誰かの魂の中にいるというとんでもない術を使ってだ。
「なぁ、雪女が誰かの魂の中にいるって事はさ、そいつを操れたりすんのか?」
「出来たとしても夜だけじゃろう。魔妖は夜しか力を発揮出来ぬからな」
「ふーん……まっ、探してみるわ。氷河期はお断りだしな」
「あぁ、よろしく頼む。そして雪女と出会ったらこれを使え」
そう言って妲姫はさっき使っていた魔妖のXモンスターカードと、魔妖ー百鬼夜行のカードを俺に渡してくれた。
「このカードには妾達の少しばかりの霊力が宿っておる。お主を守ってくれるであろう。そして……雪女と出会った時にはこれを渡してくれ」
「良いのか?」
「構わん。妾が持っていても無用の長物じゃ。それに、あやつに言いたいこともこのカードに込めた。いわゆる、めっせーじかーどという奴じゃ。更に、これを使えば霊力で雪女とそれに取り憑かれた人間の魂を分離できる。上手く使え」
言いたい事があるなら直接話せよ……って言おうとしたが、言いづらい気持ちもあった頃は俺にもあると思い返すと、その言葉を言わずに飲み込んだ。その為の手紙や文字だもんなぁ……こういう気持ちがあるのは、人間と妖怪も変わり無いって訳か。
「そんじゃ、そろそろ外に戻るか〜!」
「うむ、達者での」
「ん?お前も外に出ねぇのかよ」
「……はっ?」
「え?」
なんか見当違いの事を言ったのか、妲姫は初めて呆気に取られた顔に目を丸くさせ、首を傾げた。俺も同じように首を傾げ、何かおかしな事を言ったのかと思い返すが、変なことなんて言ってねぇぞ?
「え?ここの封印解いちまったし、お前は好きなように外に出れるだろ?外出たかったんだよな?」
「た、確かにそうじゃが……普通はここに閉じ込めておくものだぞ?ほら、妾は昔人間達に恐怖の底に陥れた魔妖だぞ!?妖なのだぞ?……人間では無いのだぞ?」
妲姫は最もらしい事を言いながら顔を俯かせた。
「んなもん関係ねぇよ」
だがその顔は直ぐに上げ、ハッとしたような、まるでその言葉を心の奥底で待っていたかのような晴れやかな顔でもあった。
「お前、良い奴だし。人間大好きなんだろ?好きじゃなかったら今の流行りとか若者言葉とか、美味い物とか作れねぇだろ」
数々の食いもんの種類、若者言葉、外の世界を見続け無いと絶対に得られない知識にはコイツにはあった。
人間を恨んではいるとコイツは言ったが、俺にはそう思わなかった。こうして対面していて確信する。こいつは、人間が大好きだって事を。
「妾はお主の事を切り刻んだんじゃぞ」
「でもこうして治してくれたろ」
「お主を騙しているのかもしれんのだぞ」
「この状況でか?」
「……外に出たら暴れるかもしれぬぞ?お前の大事な家族や友人をこの手で殺めるかもしれないんだぞ」
「そうなる前に止めてやるよ。何度もな」
次の言い分は何かと期待していると、妲姫は諦めたのか白い着物の袖を使って顔を隠し、仰向けになって倒れた後に体を転がし、足をバタつかせて悶した後、静かに叫んだ。
「〜〜!お主は阿呆なのか!?初めて出会って妖怪の妾の事をなんで信じられるのじゃ!」
「だから言っただろうが、お前は良い奴だからって」
「何故じゃ!何故そこまで言いきれるのじゃ!」
「なんでそんな頭ごなしに否定すんだよ……そうだなぁ、お前が【不知火の物部】のカードを見た時の目が優しかったから……か?」
あの時カードを見せた顔がやけに印象的だったから多分一番はこれなんだよな。
あの時見た目からは明らかに憎しみなんてものは無く、嬉しさそのものだった。あんな目を向ける奴が復讐とかするなんて、俺には到底思えなかった。
結局のところ根拠はそれだけだ。証拠なんてねぇし、それでも尚妲姫が認めなかったらそれまでだ。
「まっ、そういう事でお前は悪いヤツじゃねぇよ。勿論俺の勘だ。でも、もしお前が外で暴れたら俺が……いや、俺とダチで何度でも止めてやるよ。にしし、覚悟しとけよ俺のダチは強えぞ?」
「……馬鹿なヤツじゃ」
「おう、馬鹿で何が悪いんだよ」
妲姫はついに折れたのか、諦めた様に笑った。それと同時に一区切りついた安心のせいか俺の腹の虫がでかく鳴った。
そういやここに入る前にそんなに飯食って無かったなぁ……
「腹が減ったのか?握り飯なら直ぐに出来るぞ」
「おお!頼む頼む!もう動きまくったから腹減って死にそうだ!」
「なら縁側で少し待っていろ」
妲姫は直ぐに部屋から出ていき、俺も縁側で昼になった外を見ながらあぐらをかいて待った。
さっきまで妲姫と命懸けのデュエルをしていたとは思えない程平凡で何も無い景色が広がり、桜も散っても散っても無くならなかった。
代わり映えのしない景色を見続けるというかなり退屈な事をしているせいか、無性に眠くなってきた。
「あー腹減ったぁ……」
欠伸をしながら寝転がり、しばらく待つと妲姫の足音が聞こえてくる。縁側の曲がり角から妲姫はお盆に三角に握られた握り飯を何個かとお茶を持ちながら現れ、そっと俺の隣に置いてくれた。
「ほれ、握り飯じゃ」
「お、サンキユーな」
早速片方の握り飯を食べる。
ヤバっ、クッソうめぇ。良い感じの塩加減と米の硬さで今まで食ってきた握り飯の中でいちばん美味い。しかも中身が梅っていうのも良い。
「なんとも奇妙じゃのう。さっきまで互いの命をすり減らす戦いをしたと言うのに、こうして隣に座って飯とはのぉ」
「人生何が起こるか分からねぇな。おっ、シャケ召喚。なんつって」
2個目の握り飯を食べると今度は中身がシャケだった。しかも切り身を解したヤツ。まさかとは思うがシャケも焼いてくれたのかと聞こうとしたが、顔をそっぽ向けて答えてはくれなかった。
「そういえばお主の名前を聞いてなかったの」
「あ、そうか。炎山 焔だ。よろしくな妲姫」
「焔……のぉ。恨みの意味を持つと言うのに、お主からは全くそれが感じられないのも奇妙じゃ。じゃが、そうしなければ雪女の心の氷も溶けぬか……」
「溶かすねぇ……」
その言葉は最近聞いた。夢の中で、炎舞の陣の中にいた女がそれと同じ様なことを言っていた。あいつも雪女の事を心配していたのか?一体誰がなんの意味かは分かんねぇけど、まぁ頼まれたんだ。やってやるさ。
残りの握り飯を平らげ、お茶も全て飲み込み。腹も膨れ、満腹感でここに長居しそうになったが、それだと流石にババアも親父も燐も心配する。
用が済んだら長いは無用。縁側の床から離れ、開けっ放しになっている扉へと歩いていく。
「じゃあな妲姫。また来るわ」
「ふふっ、お主は本当におかしな奴だ。雪女の事、頼んだぞ」
「おう、じゃあな」
妲姫から貰った魔妖のカードと共に俺はこの空間から出ていった。
「……のぉ、___よ。お主の意志の灯火はちゃんと末代までに宿っておるぞ」
この空間から出た瞬間、思わず妲姫の方に振り返ると、妲姫の隣にはもう1人栗色の髪をした女が立っていた様な気がした。
だけどそんな事よりも、俺はいつの間にか蔵の外に出ており、俺の事を待っていたのか、ババっ……いや、お袋がいた。
俺の姿を見た瞬間、お袋は涙を我慢しながらゆっくりと俺に近づき、抱きしめた。
いい年になって親に抱きしめられるのは少し恥ずかしいが、今はそんな気は起きず、今はただお袋のしたい事を受け入れた。
いつも男気勝りのお袋だが、この時は母親にしか持てない優しさや慈愛の様なものが感じられた。
「おかえり」
涙まじりの声でお袋はそう言ってくれた。いつも学校帰りに言っている言葉だがこの瞬間だけは身に染みる言葉だった。
何故なら、俺が今ここに帰ってこれたと実感する言葉だったから。
「……ただいま」
これにて一旦焔君のお話は終わりです。
次は空くんとRRとのお話となります。果たして機械の鳥達と対話出来るのか……?
オリカをまとめた章が欲しい?
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欲しい!
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別に( *¯ ³¯*)