六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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今回でようやく機羽 空 編が終わります。

今回、1対3のデュエルや、こちらの予定によりかなりのスペースが空いたり投稿頻度が遅くなったりとしましたが、無事に終われた事に安堵しています。

次はようやく彼方編となり、彼方+数話で第6章は終了する予定です。

それでは、空編最後の話をお楽しみください


ヴィータゼーエン

 

 平日というのにも関わらず、病院という所は多くの人がいた。

 

 それほど怪我をしている者が多いのか、あるいは夏だけ特別に忙しいのかは分からない。

 

 あまり病院に行ってない俺にとって、そんなのは大して気にも止めず、それよりも向こうで受付の人と話している雀が気になっていた。

 

 雀曰く、ここには雀が殺した奴がいるらしい。

 

 そもそも『殺した』というのは比喩表現だ。

 

 死んだ奴が病院に居るなんて有り得ないし、雀がそんなことするとは考えにくい。

 

 だが、雀の顔は現にそうしてしまったと感じさせるほど重苦しく、暗い顔だった。

 

 あれ以来雀は俺に目を合わせようともせず、ろくに会話すらしていない。

 

 病院の長ソファに待っている事数分、雀から声をかけられ、ある病室へと案内してくれるらしい。

 

 病室は3階にある個室であり、そこで雀が殺した奴がいるらしい。

 その部屋の扉の前に辿り着くと、雀は部屋の前で深呼吸をして扉を開くのを拒んでいた。

 

 この部屋にいる者の名前が書かれているプレートが壁に掛けられているのを見つけると、そこには『快三 葵』と書かれていた。

 

(かいそうあおい……って読むのか?)

 

 人の事は言えないが、珍しい苗字と分かりやすい名前でで直ぐに名前を覚えられたタイミングで雀は扉をゆっくりと開けた。

 

 扉の先には、薄い白カーテンが夕日の光を抑えながらも部屋に光を灯し、病院特有の大きめのベッドの上には、無表情で横たわっている女性がいた。

 

 女性は俺と雀と同い年ぐらいで、部屋に入った俺たちに向けての反応が無かった。

 

 それどころか顔を合わせようともしない。

 

 だが、彼女の目を見て分かった。

 

 目を合わせようとしないんじゃない、目を合わせる事も出来ないのだ。

 

「植物状態……なのか?」

 

 恐る恐る雀に尋ねる様に呟くと、雀はゆっくりと頷いた。

 

「葵ね、私の中学の頃からの親友……だったの。こうなったのも、私のせい。だから、私が葵を殺したのも同然」

 

 雀は葵の手をゆっくりと握り、目を向けない彼女の目を見た。

 

 なるほど、殺したというのはこういう事か……。確かにこの状態で生きていると言われたら微妙だ。

 

 呼吸はしているが、自分で食事をとる事も排泄することも出来ない、まさに植物の様な状態だ。

 

(だが何だ? この違和感……)

 

 彼女が植物状態だと知った途端、この病室から何か違和感の様な物を感じた。

 

 病室には窓の近くに置かれた花瓶や引き出しのある棚に来客用の椅子が1つと松葉杖があり、これといった物は無かった。

 

「空? どうしたの?」

 

 そんな探偵じみた行動や考えををしてる俺を雀は不思議がり、違和感探しを止めて俺は葵の事を雀に聞き出した。

 

「中学からの友達と言っていたな。そしてお前がこんな風にさせた……到底考えられない。何があったんだ」

 

「……私ね、高校が通信校なんだ」

 

 雀が語ったのは、中学では無く高校の事だった。

 

 通信校と言えば、学校そのものには行かずにネット上で課題を提出すれば、そのまま学校での出席になる高校の1種だ。

 

 それを利用しているのは不登校者や、訳があって高校を中退した身の人が殆どだが、雀に関してはそのどちらも属して無いようにも見えた。

 

「今、意外だなって思ったでしょ。でも、こう見えて私って、中学で結構虐められたの」

 

「それがあの3人って訳か?」

 

「主犯はね。あと何人かいたよ」

 

 雀は張り付いた笑顔でそう言い、俺は絶句した。

 

 あんな奴らが更に居たと考えただけで雀の心労は想像絶する物だった。

 

 現に雀の体はその時に刻みつけられた恐れや痛みからなのか、小刻みに震えていた。

 

「本当に怖かったよ。痛くて、苦しくて、辛くて、誰も助けてくれなかった。でも、1人だけそばにいてくれた人がいたの」

 

「それがコイツか」

 

 雀は小さく頷いた。

 

「でもある時、葵も私の事を避けたり、虐める様になったの」

 

 徐々に雀の声は震えていた。もう思い出したくない事を必死に思い返し、目には涙を浮かべ、葵の手を握っている手は弱々しくなっても、雀は事の経緯を話してくれた。

 

「机に落書きされたりとかある事ないこと言われたり……本当にドラマの様な事が起きて辛かった。でも、一番の親友も他の人と同じ様になった事が、一番のショックだった」

 

「雀、もう良い。話さなくて……」

 

「もう限界だった! 親も先生も誰も助けてくれなかった!! そんな時、葵が誰もいない階段の踊り場に呼びだしたの」

 

「理由は?」

 

「後から分かった事なんだけど、葵は虐めのグループに脅されたんだって。だから私を虐めた。でも、私は信じなかった。嘘つきとか、裏切り者とか酷い事を葵に言ったの。でも葵は本当だって言ってたの。それから取っ組み合いになって……それから……」

 

「言うな。もう……分かっている」

 

 今の状況と雀の状態からこの後の展開は推測できる。

 

 これは雀にとって最も言いたくない事実だ。言わなくていい。本心の訴えだが、雀は涙を吹き、嗚咽をしながらも最後まで過去を言おうとした。

 

 何の目的で、どういった意図で俺をここに呼び、辛い過去を言おうとしているのか分からない。

 

 だけど、俺は雀の行動をこれ以上止めなかった。止められないと悟ったというのもあるが、泣き崩れながらと最後まで俺に過去を伝えようとする雀の姿を見てしまったら、止める気なんて起きなかった。

 

「私は……私はっ……あおいをっ……階段に突き落としたの」

 

 雀は大声で泣き崩れ、意識不明の重体の葵のベッドの上に顔を伏せ、大声の涙を他の病室の人に聞かせないようにしていた。

 

「階段から落ちてっ……そこから血だらけになった葵を見た所から覚えてない。命に別状は無かったけど、こんな風にさせたのは私なの……!」

 

「だから……人殺しって言われたのか」

 

「うん。実際そうだもん。こんなの、生きてるって言い難いもん。そこから私、学校にも行かなくなって、親からにも見捨てられたの」

 

「親にも……!? 何でだ!?」

 

「パパとママ、私の事嫌いだったの。ろくに話さなかったし、葵の件で家を出で行く様にして私を置いていったから」

 

 そうか……前に家に行った時、雀の両親は出かけたのでは無く、もう既に居なかった訳か。

 どおりで複数人の生活感が無いと思ったわけだ……使われている部屋も少なく、椅子とかも少ない違和感の正体にようやく気づけたが、知りたく無かった事実だった。

 

「お金も置いていった生活はできた。でも……その時の私はもう死にたかったの。周りには誰もいなくて、生きる理由も無い。このままどこかで死のうかなって街を歩いていた時ね、出会ったの」

 

「誰にだ?」

 

「花音だよ」

 

 ここで花音の名前が出てくるとは思わず、俺は少し驚いた。

 

「最初は道案内で出会ったんだ。最近この街に引っ越してきたから迷子になったらしくて……花音らしいよね」

 

 確かに、花音らしいとは思った。俺は花衣ほど花音とは接してはいないが、どこか抜けている奴の印象はある。まぁ現にそうなのだが、道に迷う花音の姿は容易に想像できた。

 

「それでね、花音って初対面の私にこれも縁だからって連絡先交換したんだよ? そこからお昼一緒にどうですかとか、どこか遊びに行きませんかとか。本当、初対面の私にグイグイ来すぎで笑っちゃったよ」

 

「だが、花音のおかげで今の雀がいる。……そうだろ?」

 

「うん。花音に言われた。『自分のやりたい事、したい事、全部やってからでも遅くない』って。だから親が残したお金で機材を買って配信して、なんか有名人になっちゃった。えへへ……」

 

 いつの間にか、雀の涙が収まったが、それでも葵に対しての感情は依然として暗く、陰が見え隠れしていた。

 

 それでも雀は顔を上げ、真っ直ぐこちらに目を向けた。

 

「ねぇ空。空は私と違って、自分の手で誰かの人生を奪ったりしてないよ。だからあの3人の事、重く受け取らないで」

 

 今までの弱々しい言葉とは裏腹に、雀は真剣な目と声色でそう言った。言葉の意味を考えたその時、俺の頭にある考えが思い浮かんだ。

 

「まさかそれを言う為に昔の事を話したのか?」

 

「知ってくれた方が説得力があるでしょ」

 

 確かに説得力はあった。今こうして事実が目の前にあるんだからな。だが……

 

「だからと言ってお前が辛い気持ちになっていい訳じゃない」

 

「空って仏頂面なのに優しいね」

 

「あまり感情を表に出さないだけだ」

 

 俺だって笑ったり泣いたりした事もある。今だって雀に対して色んな感情がある。

 

 俺に責任を感じさせない為に言いたくも思い出したくもない過去を話す事への呆れにも似た感謝。

 

 ありがとうとも、大きなお世話とも言い難いこの感情を表す言葉は俺には持ち合わせてはいなかった。

 

 返す言葉を出せず、俺は必死に親友の手を握っている雀を見る事しか出来なかった。

 

 今までの自由奔放な雀の姿はそこには無く、過去の罪の重さに縛られている雀の姿は見ていて痛々しくもあり、俺にはどうする事も出来ずにいた。

 

 なんて声をかければ良いのか、どう接すればいいのか。正解が分からない。俺を励ます為に雀は過去を話したというのに、俺は何にも言えない。

 

 そんな自分が嫌気がさしてしまう。時間だけが過ぎていく中、外の廊下から足音が近づいてくる。

 

 足音からして2人であり、徐々に大きくなる事から確実にこの部屋に来る事は間違いない。

 

 だがそれよりも雀の様子がおかしい。まるで誰が来ることが分かっているかの様な印象を受けた。

 

「あっ……しまった。今日、約束の振込……」

 

「振込? どういう……」

 

 少しして声をかける前に足音の主達が部屋に現れた。

 

 足音の持ち主は男1人女1人であり、目の高さや鼻の骨格を見ると、ベッドで寝ている葵と似ている箇所があった。恐らく葵の両親だろう。

 

「あら? 来ていたのね」

 

 女は高圧的に雀に声をかけ、その圧に怯えるように雀は顔を伏せた。

 

「……こんにちは、葵のお母さん、お父さん」

 

「よく来るわね。私としては顔も見たくないけど。……所で、貴方誰よ」

 

「そうだな。所で、お前は誰だ?」

 

 葵の父親は礼儀知らずな言葉遣いで俺を鼻で指すようにした。無礼過ぎる……焔でももう少しまともに接するぞと呆れながらも、俺はまず軽く頭を下げて挨拶をした。

 

「機羽 空です。雀さんの友人です」

 

 鼻につく態度をとったとしても、最低限のマナーや言葉遣いを見せた。だが、葵の両親はそれでも自分の名前を言おうとせず、葵の手を握っている雀を見て嫌悪の目を向けた。

 

「アンタは本っ当に懲りないわね。自分の手で娘をこんな風にさせたのに、ねぇ?」

 

「少年法だか事故だか知らないけど、裁判でも大した実刑は無いなんて酷いもんだ。それなのに、お前は配信で見知らぬ誰かに金を貰ってるんだろ?」

 

「っ……」

 

 高圧的かつ嫌味を隠そうともしない言いぶりにまた違和感を覚える。確かに実の娘をこの植物状態にさせた奴が居て、その怒りの矛先を向けるのは分かる。

 

 だが、娘の事を心配しないのは少しおかしい。植物状態だったとしても、まずは娘の心配をするのが親がやるべき行動なんじゃ無いのか……? 

 

 違和感が続いた俺は、携帯を操作し、そっとポケットにしまった。

 

「所で、今日は約束の振込だろ? 遅れたら困るんだよなぁ」

 

「そうよ。何なら今ここで出しても良いわよ?」

 

「……はい」

 

 雀はカバンから財布を取り出し、財布の中から数十枚の万札を葵の父親に渡した。

 

「お、おい! 何やってるんだ雀!」

 

 雀が渡した枚数をざっと見るに、20万か30万は超えている。決して低くは無い金額と行動に俺は目を疑い、思わず俺は金銭を葵の父親から取り上げた。

 

「お前っ! 何やってるんだ! 返せこのガキっ!」

 

「黙れ! お前ら……娘の友人から金を取っているのか!?」

 

「取ってるんじゃない。これはこの女の誠意だ!」

 

「誠意だと?」

 

 どう見ても雀の顔は誠意に満ちた顔をしていない。怯えて仕方なくお金を渡している顔しかしておらず、葵の父親が直ぐに嘘を付いていると分かった。

 

「空、もう良いよ。これは私の『責任』だから……」

 

「そうよ。この子は私達の大事な娘をこんな酷い状態にしたのよ? だから『責任』を取らせて上げてるのよ」

 

「それがこの金か?」

 

「そうだ。娘への贖罪をさせてやってるんだ。むしろ感謝して欲しいぐらいだな」

 

 贖罪? 感謝? 責任? 何言ってるんだこの親は……どう考えても金目当てなのは明白であり、さっきからまとわりつく違和感の正体も分かった。

 

 この親は……娘の事を毛ほども心配していないのだ。娘の事よりも、今目の前にいる金を搾取出来る存在の方が大事なのだ。

 

「いつからだ、雀」

 

「大体……1年くらい前から。私が配信者として有名になった時から、月1ぐらいでお金を渡してる」

 

「どうせこの子、わざとらしく可愛くぶってるだけで他の人からお金を巻き上げてるでしょ? 娘の人生を奪ったんだからこれぐらいしてくれないとねぇ〜?」

 

「全くだ。そんなの水商売と何も変わらないな」

 

 2人は雀に対して全くの誠意や礼儀すらも感じられず、この2人への僅かばかりの期待や哀れみ、慈悲すらも消え失せた。

 

 それによって俺にはあるひとつの確信が生まれた。

 

 その確信は、この病室から滲み出ている違和感を消し去る物でもあり、同時に雀にとっては願ってもいない事実でもある。

 

 だが、問題はこの後だ。最悪今より状況が悪くなるかも知れず、俺のせいで雀を更に苦しめてしまうかも知れない。

 

 そんな悪い考えは浮かびこそしたが、どうしても雀を助けたい一心で俺は後戻りせずに声を出した。

 

「葵のこの意識不明の状態……嘘だな?」

 

 俺の言葉に両親は眉をひそめ、いかにも図星を当てられた様子だった。

 

「ば、馬鹿な事を言うな! 葵は今もこうして眠っているだろうが!」

 

「じゃあ質問だ。何故この病室に松葉杖があるんだ」

 

 俺はこの病室にある松葉杖に目を向けた。

 

 意識不明の人間は、歩くどころか意思疎通も難しい状態だ。それなのにも関わらず、松葉杖があるという事は少なくとも体が動く証拠になっている。

 

「それに、この病室には点滴や排泄物を受け止める下着も何も無い。本当はとっくの昔に回復してるんじゃないのか?」

 

「な、何を証拠にそんな事を言うの!?」

 

「証拠か……」

 

 葵の母親がヒス気味に叫び散らかし、証拠を見せろと喚いて来た。証拠なんて、自分たち自身良く分かっている筈なのにな。

 

 証拠は葵自身だ。この先ばかりは雀に頼るしかない。

 

 ここで俺が起きろと言っても、恐らく葵は反応しない。ずっと意識が回復したのにも関わらず、今までこうして雀から金を巻き上げたとなれば、葵もグルか親に脅されて無理矢理そう演じたかの2つだ。

 

 だから部外者の俺がどんな言葉を投げつけようと葵はそれを受け取ろうとはしない。

 

 だからこそ、親友の雀に任せるしか無かった。

 

「雀、お前が謝るべきなのはコイツらじゃない」

 

 謝るべきなのは、すぐ側にいる。雀もそれを分かっている筈だ。

 言葉自体は何度もかけてはいるとは思う。だが、今までとは状況や意味も違ってくる。

 

 雀は葵の手を強く握り、声をかけた。

 

「起きてるの……? 葵」

 

 しかし葵に変化は無かった。だが、それでも雀は俺の推理を信じて声をかけ続けた。

 

「起きてるなら、謝らせて欲しいな」

 

 目を閉じている葵に目を向け、握っている手を優しく撫でた。

 

「ごめんね。貴方の人生を奪ったりして……ごめんね、貴方の青春を奪って……本当にごめんね」

 

 何度も何度も眠っている葵に謝罪し、握っている手を涙で濡らした。

 

「許して欲しいなんて言わない。私は葵の人生を奪ったんだから。許さなくても良いから……起きてるならっ……」

 

「…………ご…………ね」

 

「え……?」

 

 目を凝らしても見えないほど細いかすれ声が雀の耳に入った。幻聴かと思い、雀は思わず葵の方を目に向けた。

 

 俺や親、この場にいる全員が確かに目の当たりにした光景は雀が待ち望んでいたであろう光景だった。

 弱々しく衰えた左腕を震えながらも動かし、ようやく雀の右手に添え、ベッドの上で目を閉じていた彼女が、数年ぶりに雀と目を合わせた最初にやった事は、雀と同じ涙を流す事だった。

 

「だ……まし……うらぎ……っ……ごん……ね」

 

 喉に力が入っていないが、声は出せている。相当な数のリハビリをこなして来た証拠だ。

 今まで意識を失い、手足の筋肉だけじゃなく、喉の筋肉も衰え、思うように喋られずにいた。

 

 だが雀にとって言葉なんて二の次だ。親友が意識を取り戻していた。その事実が、雀にとっては何事にも変え難いものなのだから。

 

 雀は喜びを噛み締めるように優しく葵を抱きしめ、葵も同じように抱き返した。

 

 誰もが喜ぶ場面だが、それを良しとしない人間は残念ながらいた。しかもそれが、喜ぶべき存在の筈なのがまた落胆した。

 

「アンタ何やってるのよ! 目を開けたらもうお金貰えないじゃないっ! 何のためにアンタをこの病室に居させてると思ってるのよっっ!!」

 

「そうだ! 親不孝にも程があるぞ!」

 

 病室にも関わらず……いや、それ以前に奇跡的な回復をした実の娘に浴びせた言葉は、罵詈雑言の悪態だった。

 

 子供の事を金を貰うためだけの道具として見ていないあの2人を見て、俺の怒りは静かに爆発した。

 

「好い加減にしろ……!」

 

「あぁ!? 部外者が口を挟むな! 邪魔だ!」

 

 父親が俺を突き放し、2人がかりで雀を追い詰めた。

 

「お前、このままで良いのか? 意識が戻ったとしても葵はまだ喋ることも歩く事さえ難しい状態だ。この責任はどう取るつもりだ?」

 

「少なくともここの入院費は払わなくちゃね〜?」

 

「なっ……」

 

 嘘だろ……? 娘の入院費用を他人に支払わせる気なのか? 

 

 あまりの言動とどうしようも無い価値観でもはやあの親が別の物に見えた気がした。普通なら有り得ない事だと簡単に拒否できる筈なのに、雀は受け入れてしまう体制だった。

 

「……私は」

 

「断ったら……この事ネットに上げるわよ? 中学の貴方が娘に手をかけたって」

 

「っ……」

 

「これを知ったら炎上するわよね〜? 人気の配信者が人殺し手前の事をやって、ぬくぬくと周りからお金をせびてるんだから!!」

 

 なるほど……こういう事か。確かに良い脅迫材料だ。

 

 ネット配信者にとっては炎上はかなり厄介な存在だ。1つの小さなミスをするだけで大きな火となり、やがて周りを焚き付け、必要以上に弾圧されることもある。

 

 それに内容も内容だ。恋愛みたいな事とは訳が違う。人が人にやっては行けない事の殺し1歩手前の事をしているんだ。これがバレたら配信停止どころかこれからの人生に置いて雀は死ぬまで離れない呪いにかかってしまう。

 

 それだけは絶対に避けなければならない。かと言って、このままあの親から金を取られる事は絶対に間違っている。

 

 ……まぁ、こういう事は予想出来たけどな。心の奥底に少しばかりの勝ちを確信したほくそ笑みの感情が現れた。

 

「そうか、なら部外者の俺がこれを警察に届けてもアンタ達には関係ないな」

 

 俺はポケットに閉まっていた携帯を取り出し、携帯の録音をとめ、再生した。俺の携帯からは葵両親がこの部屋に入った所からの録音が再生され、先程の罵詈雑言や、雀を騙して金を巻き上げていた事を全て記録していた。

 

 録音を聞いた親子2人は顔を徐々に青く染め、冷や汗をかいては眉をヒクつかせ、面白いように動揺していた。

 

「これを警察……いや、報道陣に出したらどうなるだろうな。娘の状態を偽らせ、その友人に金を巻き上げた倫理観を欠如した毒親……世間からはどう思われるだろうな」

 

「お前……大人を脅迫するのか!」

 

「だったらお前らは子供から金を巻き上げるのか?」

 

 俺の正論に父親は黙りこみ、この怒りを父親に殴りつけた。

 

「自分の娘や雀に辛い思いをさせてお前達は何をした? 笑いながら金を巻き上げていたんだぞ。お前ら大人がだ!」

 

 もはやこいつらに『大人』という言葉は似合わない。子供以下の

 

「情けないと思わなかったのか? 恥ずかしいと思わなかったのか? お前らは親だろ!? 何でそれが! これが! してはいけない事だと分からないんだ!?」

 

 言いたいことを全部言い尽くすまで俺は止まらない。感情が抑えられず、こんな事も分からないコイツらがあまりにも可愛そうで涙さえも出てしまう。

 

「な、何よ……この子は娘の人生を奪ったのよ!? 責任ぐらい取らせるべきでしょう!?」

 

「お前らのは責任じゃない! ただの搾取だ! 責任と言うのは自分で背負う物だ。自分の行動を悔やんだり、悩んで、受け入れて、次に進む為の糧になる燃料だ。責任という言葉の意味を履き違えるな!!」

 

 息をする事も忘れる程感情的に声を出し、肩が大きく動く程の呼吸を何度も繰り返した。

 ここが病院だと言う事を忘れてしまい、思わず我に返って廊下の方に目をむくと、丁度いいのか悪いのか、この病院の看護師が目を丸くしてこちらを覗いていた。

 

「あ、あの……病院ではお静かに……」

 

 看護師は恐る恐るそう言ってこの場から立ち去ろうとしていた。どうやら修羅場と思われたらしい。まぁ実際その通りなのだが。

 

 だが、離れさせる訳には行かなかった。看護師にちょっと待てと声をかけ、看護師の足を止めさせ、ある事を聞いた。

 

「すみません、この部屋の患者の意識っていつ頃回復したんですか?」

 

「そ、そうね。大体……2ヶ月前ぐらいかしら?」

 

「さっきの発言も録音した」

 

「な、何を言ってるんだ。そもそも葵は実際に意識を戻らなかったんだ! せめて戻らなかった時期は見逃しても……」

 

「ふざけるな。お前らは自分の娘を武器にして雀を脅して金をせびって来たんだ。自分達の行いには必ず責任を持て!」

 

「カッコつけてんじゃねぇぞこのガキっ!」

 

 ここまで来て父親は往生際悪くあれやこれやと言い訳を並べていた。だが、どれだけ御託を並べても正論を返されると考えたからか、父親が俺に向かって殴りつけた。

 

「空っっ!!」

 

 雀は叫び、俺の事を案じてくれた。

 

 思い切り目元部分を殴られたせいでメガネに少しヒビが入りながら病室の端に吹き飛ばされ、目元には痣が出来たかも知れない。

 

 だがそんなの今は関係無かった。すかさず父親が殴ってきた腕を掴み、俺は父親を睨んだ。

 

「言葉では勝てないから暴力に頼ったか。つくづくお前は子供……いや、幼児だな」

 

 憐れむ様に笑い、父親は逆上するかと思いきや、何やら怯えている様子だった。恐らく、メガネを外した俺の目付きの悪さと、掴んでいる手が全く動かない程の力が分かったからだろう。自慢では無いが、重たい機械を何度も運んだりしている為、筋力には多少の自身はある。

 

 まぁ、焔には勝てないが……それでもこの男を怯えさせるのは十分だった。メガネがないと視界がぼやける為、父親が怯えている様子は見られなかった。

 

「さて、次は何をするんだ?」

 

「くっ、くぅぅ……!」

 

「ちょ、ちょっと! それ以上旦那に手を出したら本気でこの子がしてした事バラすわよ!?」

 

 やはりその手で来たか。だが、その対抗策としてさっきの録音がある訳だ。これがあれば、あっちはあっちで娘を利用して雀から金を巻き上げたと言えば、事実がどうであれ信憑性自体は無くなる筈だ。

 

 この悪態は誰がどう見ても悪だと分かる。だからこその対抗札だ。こっちもこっちで脅す用意をした所、雀が立ち上がって声を上げた。

 

「別に良い!」

 

 雀の言葉は、全員の耳を疑うものだった。

 

「私のした事は何でも言えばいいです! だって、本当の事なんだから」

 

「雀……」

 

「事情がどうであれ、私は親友の青春を奪った。これが事実。だから、私はその『責任』をこれからも背負います。もう間違わない為に……これから生きるために」

 

 俺は父親の腕を離し、ぼやけた視界で吹き飛ばされたメガネを取ってかけた。そこには小学生の頃、クラスメイトに虐められた雀は存在せず、堂々と自分の過去と向き合っていた雀の姿がいた。

 

「責任を負うと言っても、もう私はお金を振込みません。葵の人生を壊した分、私ができる事を、私にしか出来ないことをします」

 

「ほ、本当に良いのかしら!? 炎上が怖くないの!?」

 

「配信だけが私の人生じゃないから。それに……炎上しても、私の事を応援してくれる人が少なくとも1人知ってるから」

 

 雀は一瞬俺の方を見て配信と同じ笑顔を向けた。

 

(当然だろ。お前は俺の最推しだからな)

 

「そういう訳だ。それに、厄介事も来そうだしな」

 

 ドタドタと複数人の足音がやってきた。その足音の主は複数の警察官であり、こちらに向けて警戒心剥き出しの顔をしていた。

 

「何やら、こちらで騒音の通報があったもので。……して、どうなさいましたか」

 

 警察官は怪我をしている俺と葵の両親、そして雀と葵を見ると、何となく状況を察したのか、警察官は俺に向かっていた。

 

「何があったのか聞かせてくれないか?」

 

「……端的に言えば、あの男に殴られ、あの女がそこにいる俺の友達を脅迫していました」

 

「は、はぁ!? 何を言ってるんだ! このガキっ!」

 

 直ぐさま暴言を吐いた父親の印象はこれで地に落ち、警察はさっきの態度を見て俺の言葉を信じて疑わなかった。まぁ、事実だけどな。俺はこの父親を殴ってないからな。もしも殴り返していたら、こう上手くは行かなかっただろう。

 

「すみませんが、一緒に来てもらいましょう。そこの女性もご同行願います」

 

 もう1人の警察官が母親の前に達、父親と母親の2人は最後の最後まで抵抗したが、警察という権力の前に最後はしおらしくなり、2人の警察官と共にこの病室を去っていった。

 

「……ようやく静かになったな」

 

「空、怪我は大丈夫なの?」

 

「こんなの、はんだごてで手を火傷したのに比べればどうって事ない」

 

「良くわかんないけど、大丈夫って事だよね。良かった……」

 

 雀は今更泣き出した。今日は本当に泣く日だなと思ったが、全部誰かの為に泣いた日だ。他人のために泣けるのは、本当に優しい奴だけだ。雀はそのぐらい他人の事を思っているんだ。虐められた過去を持ったとしても……それでも他人の事を思うのは、ある意味では物凄い。

 

 だからこそ、葵はあの場で目を覚ましたんだろう。おそらく親から脅迫紛いな事をされて、金を巻き上げる為に意識を取り戻したのにも関わらず、親友の前ではずっと目を閉じていた心労は、誰にも分からず、計り知れない物だろう。

 

だましてめんね」

 

「ううん大丈夫。それに目が覚めた事を知れただけでも嬉しい」

 

れしんも……ありがとう」

 

「彼氏……? なっ! 違っ、俺と雀はそんな関係じゃ……」

 

「すみませんー、今日の面会時間は終わりですよ」

 

 タイミングが悪い事に看護師さんがやって来た。どうやら面会時間が終わり、この場から立ち去らないと行けないようだ。

 彼氏と誤解されて弁明を言う暇も無く、俺は誤解されたまま病室から去られた。

 

「後で誤解を解かないとな」

 

「誤解って……彼氏の事?」

 

「そうだ。そういう関係じゃないだろ」

 

私は良いんだけどなぁ

 

 雀が何かを言っていたが、俺には聞こえなかった。多分独り言だろう。

 

「とにかく、これからどうするつもりだ」

 

「どういう事?」

 

「あの親が事情聴取から抜けた後、お前の過去をネットに上げたら炎上は必須だ。今からでも警察に言ってあの時の事情を話せば、それは防げる筈だろ」

 

 それに雀の生活費は全て配信によって賄っている筈だ。ここでもし炎上となって雀の人気が落ち、最悪収益化が無効になれば雀は生活する事が苦しくなる。

 

 それだけは避けたいことだが、事の重大さとは裏腹に雀は不敵に笑い、左手で右目を隠し、カッコつけるようにポーズを取った。

 

「ふっ、我を誰と心得ておる。我は深淵の天界からこの地に降りせし、堕天を超えた物……‪トバリであるぞ! その様な物は我に取っては子供の火遊び見たいな物ぞ!」

 

「……いきなり何だ?」

 

「冷静にツッコミするなー! ……まぁたしかに、炎上しちゃったらちょっと大変かな。でも、その時になったら私は自分の気持ちを皆に伝えるだけだから」

 

「気持ちを伝える?」

 

「敬意とか、事情とか色々あったとしても、私が葵の人生を台無しにした。だからその分、葵の人生を支える事を伝える。もう逃げずに受け止めて、『責任』を果たしたい。その為なら炎上なんてなんのそのだよ!」

 

「そうか。だけど、そうなったらそうなったらで俺も出来る限りの事はするぞ」

 

 そう言いながら、さっきの病室で起きた事の録音と録画の場面を見せた。

 

「ありがとう。頼りにしてるぞ! 我が眷属よ!」

 

「はいはい。ありがたき幸せですよ」

 

「ふふん。そんなお前に今日の褒美をやろう。どれ、ちょっと止まれ」

 

「いきなり何だ……」

 

 今日は一段と雀の情緒が面白いように変わっていくな……まぁこういういつも通りのテンションに戻ったのは素直に嬉しい限りだ。

 そのせいか気分も良いから雀の言う通りその場で立ち止まり、ゆっくりと雀の方に振り返った。

 

 そしてその瞬間、雀が1歩飛び出すようにして俺に抱きつき、右頬に唇を重ねた。

 

 この一瞬が長く感じ、同時に何が何だか分からなくなった。なだれ込んでくる情報が頭を直撃し、この時俺の頭の中で全ての情報が白紙になった。

 

「ずっと昔から……貴方の事が大好きだよ」

 

 いつもの笑顔でも、配信で見せる笑顔でも無く、俺が初めて見て、俺だけに見せたはにかみながらも照れがある笑顔で、俺の脳内PCは完全にショートした。

 

 分かりやすくキョドってしまい、言葉を失い、自分でも何を言っているか分からない言葉の羅列を組んだ俺を見て、雀は揶揄う様に笑った。

 

「空もそんな風になるんだ〜。ふーん、良いもの見ちゃった!」

 

「おま……おまっ……えっ、あっ……お前……」

 

 いやいや落ち着け。深呼吸をして頭の中で円周率を数えろ。そうすれば落ち着く筈だ。

 

「3.14159 26535 89793 23846 2643383279 50288 41971 69399 37512……いや、違う。最後の桁は0だ。……ダメだ忘れた……」

 

 数え間違いでその後の数字が思い出せず、計算しようにも頭がこんがらがってどこから計算したのか分からなくなり、人生最大の驚きと共に嬉しさが更新されたのは俺の心の内に留めておく。

 

「それで、どうなの?」

 

「どうって?」

 

「返事だよ! へ ん じ! ……告白したんだから、返事頂戴よ」

 

 今度はしおらしくなり、さっきのハイテンションとの落差が激しすぎて風を引いてしまうぐらいの温度差だ。

 返事……やはり返さないとダメか? 

 

 別に嫌いでは無い。むしろありがたいというか……本当に夢みたいな出来事だ。

 

 最推しからの告白なんて、これ以上ない喜びだ。受け入れたいと思っている。だが同時に葛藤と生まれていた。

 

 雀は配信者と言えど扱いは人気アイドル見たいな物だ。皆のアイドル、皆のトバリ、そのイメージがあって急に俺の物になったら、それは果たして俺が推していたトバリになるのか? 

 

 いやそもそも、雀とトバリを一緒にしても良いのか? 

 

 頭が回らず、考えれば考えるほど正解が分からなくなり、答えが出ない時間が続いた。

 

「……ねぇ、もしかして、空ってトバリとしての私が好きなの?」

 

「それは……」

 

「ううん大丈夫。どっちも私だから」

 

「そうじゃない! 俺はどっちかが好きじゃなくて、どっちも好きなんだ! ……あっ」

 

 思わず口に出した事を飲み込むように手で口を覆ったが、それはもう後の祭りだった。

 

「どっちも好き……って、どういう事?」

 

 興味津々な雀を前にしては、もう逃げる事はできなかった。諦めて口を閉じ、自分の考えや心に思っている事を話した。

 

「その……なんだ。推しに好きって言われて本当に嬉しいと思っているし、お前自身に好きと言われても嬉しく思っている。それは事実だ。だが……その、なんて言うか」

 

「なんて言うか……?」

 

「お前は言わばアイドル的な存在だ。誰もが知っていて、熱狂的なファンもいる。俺のようにな。だから、俺一人に愛情を注いで良いのかって思ってな……」

 

 熱狂的なファンの中にはガチ恋勢という、対象を恋人の様に接し、本気で推し活をする層が一定数いる。雀レベルになるともはやその数は数人どころか数千人規模であり、その人達の裏切り行為になるのでは無いかと考えてしまう。

 

「えー、でも私、別にドル売りしているつもり無いし、そんなつもりは無いって配信で言ってるよね?」

 

「それは……まぁ、そうだが」

 

 ドル売りというのは、アイドルではないのにアイドルとして活動しているという意味だ。例えば、恋愛はしてない、彼氏とかいない等を利用して、擬似的な恋愛を売りにしている層も一定数いる。商売としてはあるあるだが

 一般的にあまり良い意味としては使われない。

 

 雀はそんな商法を取っていないし取るつもりは無い事は配信で知っているし、良く知っている奴らもそれは理解している。

 

「じゃあ、空は大人気配信者は恋愛しちゃダメって言いたいの? 私の気持ちは無視しちゃうの?」

 

「ぐっ……」

 

 まずい、雀に論破されそうだ。

 

 確かに配信者と言っても恋愛は自由だ。俺自身そう思っている。何だか考える度に断る理由が見つからない様な気がするな……。

 

「分かった。分かったから……」

 

「やった!」

 

「だが保留させてもらう」

 

「な、なんで〜!? ここはOKする所でしょー!?」

 

 確かにここはOKをするムードなのは同感だ。

 

 シチュエーション、夕日の背景、そして推しからの告白。これを断るのは相当な訳ありか馬鹿ぐらいだ。

 そして俺は、その相当な訳ありというか……プライドとある約束の為にだ。

 

「昔の約束を果たしたらな」

 

「え? ……それって、空。もしかして私の事覚えて……」

 

「まぁな……けど、あの時の奴がお前とは思わなった」

 

 思い出した大切な約束はもう10年前ぐらいの事だ。

 

 しかもその時の雀と今の雀は全然違う。小さい頃の雀は暗く、顔を隠すぐらいの前髪に眼鏡をかけていた。

 今の雀とは全然違い、同一人物とは思えなかった。

 

 最初に再開したあのカードショップで名前を聞いた時は同姓同名だと勝手に判断した事には本当に申し訳ないと思っているし、見抜けなかった自分にイラつきと情けなさで嫌になる。

 

 だが約束は必ず守らなければならない。ましてや幼なじみとなら、絶対にだ。

 

「雀」

 

「は、はい!」

 

 雀は期待するような眼差しで約束のネバーランド合言葉を待ち望んでいた。

 

 正直、この合言葉自体の内容はぼんやりとしててあんまり覚えてない。

 

 だが、内容は関係ない。『合言葉を言う』この事実が雀にとっては重要なのだ。間違えたら間違えたで俺の責任だ。ここで言わなければ後悔する。

 

「し、深淵の地へと舞い戻り、悠久の刻限から血よりも濃い契を得て、今ここに汝の元に戻った! そしてその契を結んだ言の葉は……『ヴィーダーゼーエン』」

 

 ヴィーダーゼーエンとは、再会という意味をもつ言葉だ。

 

 記憶の中では、この言葉が合言葉の筈だが……。

 

 怖い。結果を聞きたく無いと思いつつも聞かなければならないジレンマでつい目を閉じてしまう。

 

 しばらくしても雀からの反応は無い。まさか間違ったと心臓に冷や汗が付いた様な寒気を感じながらも目を開けると、そこには笑顔のまま涙を拭いている雀がいた。

 

「もう! 遅すぎるよ!」

 

「そ、それは……すまない。そ、それで、合言葉は合ってるのか?」

 

「合ってるけど私の事忘れてたんでしょ! 罰として、私以外の推しを作るの禁止だからね!」

 

 雀は口を尖らせていたが、その感情に怒りは少ししか無く、言ってしまえば可愛らしい怒りだった。

 

 ……本当に、感情が豊かになったものだ。前までは無感情というより、感情を表に出さなかったタイプだったのだが、今となっては感情を爆発させるタイプだ。

 

 人から避けていた奴が人を楽しませる配信者となり、何年も虐められた経験があるのにも関わらず友を……人を大事にするその優しさを持った。

 

 本当に、凄い奴だ。だからこそ、好きなのかもな……。

 

「安心しろ、お前以外の推しを作る気は無い」

 

「ふぇ.///それずるいよ空〜!」

 

「事実を言ったまでだ。ほら、さっさと戻るぞ。今日も配信するんだろ?」

 

「う、うん! 今日はね、参加型のマスターデュエルやるんだ〜。メンバー優先だから空も来てよ!」

 

「あぁ。是非とも参加させてもらう」

 

 こうして、長い一日は終わった。

 

 辛い事や、苦しい事があっても、理不尽な事にあっても俺は反逆の意志を持って抵抗し、雀を守っていく。

 

 その誓いに応えるように、俺のレゾンカードであるイグニッション・ファルコンとリコンタストオーバーフローが小さく輝いた様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「……あーあ。雀さんの心の闇が少し晴れてしまいました。あのまま連れ去っても価値はありませんね」

 

 街並みに多くそびえ立つ中、1つビルの上に黒ローブのウェルシーが立っていた。彼女のローブの奥の瞳には雀が移り、名残惜しそうにしていた。

 

「でも……まだ闇は残っている。残ってさえすれば、闇はいくらでも大きくなり、心を覆いますからね」

 

 まるでそうなる事が確信しているかのようにウェルシーは笑い、気分よく体を回した。

 

「雀さん、貴方は私が見こんだ人ですから必ずこちら側に来ます。その時が来るまで、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

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