六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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第9章-世界-
花火


 

 いかに夏と言えども、夜になるとその暑さは鳴りを潜め始める。

 

 しかし、今日この場所。この街はその暑さを取り戻すかのような熱気に包まれていた。

 

 普段は静かな神社であるこの場所は、今日この日。祭りという大義名分の元、大賑わいを見せていた。

 

 和太鼓が鳴り響き、賑わう人々は屋台の食べ物や小道具を手に恋人、あるいは友人や家族と共に祭りを満喫していた。

 

 その賑わう祭りの中、俺は母さんと最後の年を過ごす事になる。

 今日この日が母さんとまともに過ごせる最後の日となり、絶対に後悔はしないようにと心に誓う。

 

 そう意気込むのは良いけど、問題はこの夏祭りをどう過ごすかだ。

 

 実は、夏祭りを行くのは初めてだ。こうして浴衣を着て屋台を巡ったりするのも初めてであり、どう過ごせば良いか分からない。

 

 甘い匂いがするたい焼きも美味しそうだし、焼きそばや焼きとうもろこし、そして射的等の遊び屋台も面白そうだ。レパートリーが多くて目移りしそうだ。

 

「どこに行こうか……」

 

「祭りの規模が大きいからお店も多いわね……迷ったら、知り合いがいる屋台に行くのもありよ?」

 

 確かに母さんの言う通りかもしれない。ここで変に迷うよりも、知り合いがいる屋台を言った方が、結果色んな所に行けるかもしれない。

 

 こんなに規模が大きいんだ。恐らく各々行きたい屋台は場所はまばらに散っている筈だ。

 

 それに、母さんと皆との思い出も作れて一石二鳥だ。母さんの提案を飲み、まずは近くの屋台から皆を探した。

 

 まずは近くにあった射的屋に足を運び、そこで幸先よく知り合い2人、空と雀を見つけた。

 

 だがその2人だけではなく、もう1人車椅子に乗っている女性が近くにいた。

 車椅子の女性は髪が薄い青の長いロングヘアーで、その髪に合う青色の浴衣を着ていた。空が車椅子を持っているから、空の知り合いだろうか、とにかく俺は祭りが生んだ太鼓の音と人混みの音に押されない様に声を張って空の名前を呼ぶと、呼ばれた空がこっちに顔を振り向けさせた。

 

「花衣か? それに……才華さんと一緒に来てるのか」

 

「うん。今日は母さんと一緒に回るつもりだ」

 

「そうか……お前にとっては大事な母親だからな」

 

(俺に【とっては】……?)

 

 何か含みがある言い方に少しだけ気になってしまった。

 

 まるで他に何かあるみたいな言い方だが、ただの言い間違いだろう。空は論理的で頭も良いが、間違う事だってある。

 と言うより、俺が気になっているのは車椅子の彼女だ。彼女はこちらを見ず、射的に奮闘している雀の応援に集中していた。

 

「なぁ、空。その人は?」

 

「あぁ、紹介する。彼女は……」

 

「ぐぬぅぅぅぅ!! あのカオス・ソルジャー怪しいって! 絶対何か細工してる!!」

 

「そりゃあステンレス製の超レアカードだからねぇ。まぁその内当たるさ」

 

 車椅子の女性の自己紹介を遮るぐらい悔しい声を上げ、地団駄を踏んだ雀に空はため息を吐いた。

 

「おい、そこまでにしろ。他の人も居るからまた次挑戦しろ」

 

「そうだよ雀。他にも回りたい所あるんでしょ?」

 

「ムムム……分かったよ。って、花衣に花衣ママだ! 何か久しぶりだね」

 

「えぇ、久しぶりね。雀ちゃん」

 

 空と同じ色の浴衣だが、細部に黒い羽の纏ったかのような特徴的な浴衣は存在感を際立たせていた。浴衣というよりそういったドレスのような印象だ。

 

「ところで空、この人……」

 

「そうだった。この人は『快三 葵』。雀の中学時代からの親友だ」

 

「初めまして。今は分け合って病院で入院してるけど、今は許可を貰って祭りに参加してまーす」

 

 軽い感じのノリで葵は挨拶し、こちらも軽く会釈して挨拶を交わした。

 

「『ロマンス・タッグデュエル』や雀からの話で貴方の事は聞いてるよ〜。随分とモテモテな男の子なんだって?」

 

「なんと偏った言われようなんだ」

 

「だが事実だろう」

 

 空のツッコミに何も言えず、肯定の意を込めた沈黙をした。

 

「それにしても『ロマンス・タッグデュエル』か……久しぶりに聞いたけど、未だにそれで俺の事知られているのか」

 

「世界で初めてレゾンカードを使った人物が映ったからな。大抵の奴はお前を知っているだろ」

 

「レゾンカード……か」

 

 それもそうだ。初めて世間に自分だけが持っているたった1枚のカードを使ったとなれば、嫌でもその瞬間は目に焼き付けられる程の衝撃を受けるだろう。

 

 事実、あれが引き金にレゾンカードという存在が知れ渡り、今も尚レゾンの手によって他の決闘者に渡されていると考えたら、命が少しづつすり減らされて行くような感覚になる。

 

 レゾンカードの本来の用途は俺の消滅だ。それが大量に作られるとなると、嫌でもそんな感覚になってしまう。

 

 しかも誰がどんなレゾンカードを持っているのか分からない。

 今すれ違った人や、俺の後ろにいる人が不意に向けられた視線に恐怖を感じてしまう。

 持っているとは限らないが、持ってないともいえないこの『分からない』という事実がその恐怖を駆り立て、考えないようにしても頭の中や心に恐怖がこびりついてしまう。

 

 _アイツだアイツが居なくなれば救われる

 

「!?」

 

 誰の物なのか分からない反響した声が耳に届いた。

 

 男なのか女なのかもすら分からない反響した声が無数に聞こえてくる。

 

 倒せ 倒せ

 殺せ 殺せ 倒せ 倒さないと

 

 自分たちがアイツにタオされる

 

 悪意や敵意が感じられ、後ろに振り返ると黒塗りされた顔をした有象無象の人間が俺に殺しの視線を向けていた。

 

 そんなつもりは無いと言いたいのに、俺は何も言えなかった。恐怖がまるで喉元にナイフが突きつけられているような感覚で声が出ない。

 

 そんな恐怖をぬぐい去る様に山羊の骸骨をした黒ローブの何かが俺の背後に現れた。

 

『見ろ、アレはお前を葬り去ろうとしている奴らだ。アレを倒さなければ、オマエは愛する人や何もかも失う事になるぞ』

 

 耳を貸すな。これは俺とは違う奴が勝手に言ってる事だ。決して俺自身が思っている事では無いと言い聞かせる。

 

『違う。前のヤツを見てみろ』

 

 心を見透かしながら山羊の骸骨は細長い骨の指で空の方に指を指した。恐る恐る顔を上げて空の顔を見ようとすると、空の顔が黒い影で覆われ、その影が鳥のような形となって空のレゾンカードであるイグニッション・ファルコンとなった。

 

 4枚の羽から炎の羽が広げ、今でも俺を倒そうとその雄々しくも機械音の咆哮をあげた。

 

『どうだ。お前の近くにはこれ程強力な敵がいる。命が惜しければ、大切な者と永遠に居たければ、敵を倒せ』

 

「そんな訳無い……!」

 

『違うな。我は汝であり、汝は我である。つまりこれは汝が思っている真意の言葉だ』

 

 こだまする声を無視し、耳を貸すなと自分に言い聞かせる。

 

「俺は……俺は……!!」

 

「クォー!」

 

 右肩の方から別の声……いや、音が聞こえた。狐の様だが、その鳴き声は電子音で真似た様な鳴き声になり、右肩に目を向けたその先には、黒いキツネ型のロボットが方に乗っていた。

 

「閃花……?」

 

 名前を呼ばれた閃花は鳴き声で返し、閃花の鳴き声と共に風景が元に戻った。

 

「どうしたの花衣、ぼうっとして。そのロボットが何度も声を上げてたわよ」

 

「クォーン……」

 

 閃花が頬を擦り寄せ、目が悲しみの表情を浮かばせていた。まさかロボに心配されるとは思わなかった。

 

 感謝の気持ちを込めて閃花の喉元を人差し指で撫でると、閃花は気分が良さそうに撫で声を発した。本当に機械なのか疑うほど感情豊かな抑揚だった。

 

 さすがレイ達閃刀姫が作ったと言うべきか、母さんが興味を持つような目で閃花を見ていると、閃花は視線に気づいて母さんの視線を避けるように浴衣の中へと入っていった。

 

「あら、嫌われちゃった。凄いわね、閃花って」

 

「そんな事無いと思うけど……ほら、閃花」

 

「グルルル……」

 

 閃花を外に出そうとしても何故か母さんを警戒しており、唸り声を上げていた。

 あと少し母さんに近づいたらそのまま飛び蹴りしそうな勢いだ。あまりにも警戒しているから閃花をこれ以上母さんには近づけられず、閃花を浴衣の下に戻した。

 

「ううん……なんでだ?」

 

 母さんから何かしらを感じている……? ロボットである閃花が? 

 

 あまりにも不思議な事に気になるが、閃花は何の反応も示させなかった。これ以上閃花に何かを言ったりしたりするのは無駄だろう。

 

「ねぇねぇ。花衣も花衣ママと射的やってみたら?」

 

 少しだけ静かな雰囲気を壊すように雀が射的をする為のチケットを渡してくれた。

 どうやら気を使わせたようだが雀は特に気にしていない様子だった。雀は俺と母さんにチケットを強引に手渡し、列に並ばせた。

 

 列はそれほど混んでもおらず、わずか数分で俺達の番が回ってきた。

 

「おっ、君は確か閃刀姫を使ってた子かい? だったら目玉商品があるよー?」

 

「目玉商品?」

 

 ロマンス・タッグデュエルの時の放送を見た人であるのか、店主がそう言って真ん中の棚に指を指すと、驚くべき景品があった。

 そこには、丁寧なクリアケースに保管されていた閃刀姫レイのフィギュアがあった。

 

「れ、レイのフィギュア?」

 

「そう! 閃刀姫ーレイのフィギュアさ! いや〜間違って2つ手に入ったから、残る1つは景品しようと考えたのよ。勿論本物さ、試してみるかい?」

 

 そう言って店主はレイのフィギュアが入っているケース事俺に渡してきた。渡されたとしても、俺は実物を見た訳じゃ無いから本物と同じなのかどうかすらも分からない。

 

 とにかくフィギュアを見てみると、ポージングはカードイラストそのままの出で立ちになっており、キリッとした目と笑顔は確かにレイそのものだった。

 

 黒い閃刀とそれに沿った赤いラインも細かく再現されており、凄まじい完成度だ。誰もが欲しくなる気持ちは分かる。

 

「ささ、挑戦して損は無いよー!?」

 

「花衣、あれが欲しいのならお母さんが協力しよっか?」

 

「えっ? いや……別にどっちでも良いかな」

 

 だって本物が居るしとは言えず、どっちつかずな答えを出した。それを母さんは何と受け取ったのか、母さんはおもちゃの銃を構え、俺も同じように銃を構える。

 

 渡されたコルク弾は5発だからチャンスは5回。とにかく12発ぐらいはレイのフィギュアを狙おうとして、レイのフィギュアに狙いを定め、引き金を引いた。

 

 引き金を引いた瞬間コルク弾は銃口から弾き出される様に真っ直ぐフィギュアの方に飛ぶと、コルク弾は見事フィギュアケースに当たったが、ケースは少しだけ後ろに下がっただけで何も起きなかった。

 

「残念。景品は棚から落ちないとGET出来ないぞ」

 

「うーん……結構重そうだから骨が折れるわね」

 

「母さん、無理してそんなフィギュア狙わなくても……」

 

「大丈夫、任せなさい」

 

 母さんはウィンクをして銃を構えた。狙った銃口の先は勿論レイのフィギュア。しかしさっきの一発で分かった通り、フィギュアケースは相当重く、コルク弾程度じゃほんの数mmしか動かせない。

 

 あれが棚から落とし切れるのは……数百発撃った先だろう。とても5発じゃ無理だ。

 

 頭のいい母さんもそれが分かっている筈なのに、母さんは集中して狙いを定め続けて、そのまま引き金を引いた。

 

 打ち出された弾はフィギュアケースの隅に当たったが、それでも少ししか動かなった。母さんは何も言わず、黙々と弾を銃の先に込めた後、また引き金を引いた。

 

 今度も同じ場所に当たり、フィギュアケースが少し斜めに傾いた。3発目と4発目も同じ左角の方に弾が当たり続け、フィギュアケースの面が斜めに向くように傾いてしまった。

 

「うーん、これは同じ角に当てて続け、箱を傾かせて落とそうとしたけど、こう斜めになってはダメだな。待ってろ、今傾きを治すから……」

 

「いえ、このままで良いですよ」

 

「えぇ? でも……」

 

「良いですから。そうなるようにしたんですから」

 

 サラッととんでもない事を言ったような気がしたが、母さんは気にせずに銃を構えた。残り1発、当てられる場所は少ない。と言うより、さっきまで当たっていた角がもう見えないぐらいまでに傾いている状況じゃ、箱を回転させて落とす方法は使えない。

 

 それでも母さんはいつもの笑顔を崩さずに引き金を引き、弾を発射させた。

 

 弾はフィギュアケースギリギリを掠めるかどうか怪しい程の射線だが、角には当たらないであろう所だった。もうダメだと諦めたその時、弾が急に曲がり、弾が同じ角に当たると箱は更に傾き、箱の半分が棚から追い出された。

 

 そして、箱は自重によって棚に立つ力を失い、そのまま絨毯が敷かれた地面に落ちた。

 

「お……おめでとうー! 閃刀姫ーレイのフィギュア獲得だよー!!」

 

(今……弾が曲がった様な気がした)

 

 気の所為とか、目の錯覚とかだと思うが、俺の目には一瞬だが確かに弾が曲がって角に当たった様な気がした。

 

「ん? どうしたの花衣」

 

 母さんは何も起きてないような顔をしており、目の錯覚と俺は飲み込んだ。そうだよな、魔法使いでも無いのに弾がいきなり曲がるなんて有り得ないと自分で自分を理解させ、店主からレイのフィギュアを貰った。

 

「おぉ〜凄いね花衣ママ。勉強も料理も出来るのにこういうのも出来るなんて、まさに超人だね! しかも美人!」

 

「ヤダもう〜こんなおばさんをからかわないでよ〜」

 

「よし! 私は頑張ってあのステンレス製のカオス・ソルジャーを狙う! 空も葵も手伝って!」

 

「えー。アレ無理じゃない?」

 

「やーだー! 欲しいの〜!!」

 

 子供のように地団駄を踏んでいる雀には敵わないと空は仕方なくため息を吐き、射的のチケットを雀に渡した。

 

「仕方ないな……すまない花衣。お前と行動するのは無理そうだ」

 

「大丈夫だ。じゃあ俺は別の所回ってくるよ」

 

「あぁ。楽しんでこい」

 

 そうして空の所から離れ、適当な所へと母さんを連れて歩いて行く。

 

「ねぇ、あの人達って家族なの? こう言っちゃ何だけど、顔があまりにも似てないというか……」

 

「血が繋がって無いからな。だが、アイツにとっては唯一の母親だ」

 

(たとえそれが……精霊でもな)

 

 

 

「次はどこに行こうかな……」

 

 元々の神社の敷地が広いから屋台の数も多く、馴染み深い物や目新しい屋台まで出揃っている。選り取りみどりと言えば聞こえは良いが、逆に言えば選択肢が多すぎて決めきれないとも言える。

 

 贅沢な悩みというのはこの事を指すのだろうか。そうこう悩んでいる内に不意に腹の虫が鳴り響き、空腹と叫んでいるようだった。

 

「ふふ、そろそろお腹空いたわね。屋台の料理は格別だから、どれにしようかも悩むのが意地悪のよね」

 

 母さんの言う通りだ。特に焼きそばが非常に美味しく感じると言われる。作り方とかソースとか、プロの人が作るから美味しいんだろうけど、やはり祭り特有の空気が食欲そそるとかもあるのだろうか。

 

 焼きそばを思い浮かべたせいで焼きそばが食べたくなってきた。ちょうどソースの香りが煙と共に鼻を突き抜け、目線は焼きそばの屋台に奪われ、更に腹の虫が鳴った。

 

 目と腹の虫で焼きそばが食べたいと悟った母さんは笑顔で返し、何も言わずに焼きそばが売っている屋台に足を運んだ。

 

「らっしゃい! おや? カップルでお祭り巡りかい? 熱々だね〜」

 

 何だろう、デジャブを感じた。確かメルフィーパークの時もこんな感じに彼氏彼女と間違えられた事があり、さっきも間違えられたからいつも通りの事だと諦め、ニヤケている屋台の人に親子だと話した。

 

 するとどうだ、面白いように屋台の人は目を丸くさせながら俺と母さんの顔を交互に見つづけ、顔が似ていないから親子な訳が無いと目で訴えているが事実だ。屋台の人は少しだけ納得しつつも謝罪し、改めて注文を伺った。

 

「おっと、実はちょっとの追加料金で自分で焼きそばを作れるんだ。家族でどうだい?」

 

「へぇ、面白そうな催しね。花衣も手伝う?」

 

「うん。まぁ……そんなに手伝う事無いと思うけど」

 

 早速俺達は屋台の中へと入り、早速店主が焼きそばの麺と大量の野菜を提供してくれた。

 

 キャベツに玉ねぎ、もやしにピーマンの様な一般的な野菜の他にも、エビやホタテ等の魚介類もあった。これだけ多いとどんな焼きそばでも作れてしまいそうだ。

 

 どうしようかと悩むと、母さんは何か思いついたのか眼鏡を光らせ、食材では無く隣の屋台のイカ焼き屋に立ち寄った。

 

 母さんは何やら隣の屋台の店主に何か黒い液体を貰っていた。

 

「それ何?」

 

「イカスミよ。イカスミパスタってあるでしょ? 店主さん、これ使っても良いかしら」

 

「別に構わねぇが……美味くなるのか?」

 

「まぁまぁ、ではご覧下さいませ」

 

 2つの鉄のヘラをカンカンと叩き、道行く人の気を向けさせた母さんは魅せる様に野菜を鉄板に並べ、鮮やかな手つきで野菜と麺を熱く熱しられた鉄板の上で踊らせるように炒め続ける。

 

 まるで野菜達が意志を持って踊っているような手さばきに焼きそば屋の前に通った人達は足を止めて母さんのライブクッキングに目を奪われた。

 

「花衣、エビとホタテお願い」

 

「わかった」

 

 目分量2人前のエビとホタテを投入し、熱せられたエビとホタテの匂いが立ち昇っていく。海鮮の食欲そそる匂いに観客達は腹の虫をドラムの様に鳴らし、まだかまだかと完成を待ち望んでいた。

 

「次は野菜を炒めていて。ちょっとしんなりしたら渡して」

 

「うん」

 

 母さんの言う通り野菜を炒め、少ししんなりした所で鉄板の上で野菜を渡し、母さんはさらに手つきを早めた。

 

 母さんの手つきをよく見ると乱雑に炒めている訳では無く、適度に油を追加させて火力を上げたり、野菜の水分が抜けてしんなりさせていく。麺の方もだいぶほぐれてた所でいよいよソースの登場だ。麺と野菜を絡ませるようにしてソースがかけられ、鉄板とソースが触れ合うとソースが蒸発して白い煙となり、その煙がソースの濃い匂いと共に広がって行き、大歓声を浴びて焼きそばは完成された。

 

「はい。特製シーフード焼きそばの出来上がりよ」

 

 僅か数分かそれぐらいの凄まじい提ピードで焼きそばが完成し、プラスチックのパックに焼きそばを詰め込んだ後、客が殺到した。

 

「お姉さん! それ1個……いや3個くれ!」

 

「私にも1個ちょうだい!」

 

 我や我やと焼きそばを欲しがる客が多くなり、いつしか屋台の前には長蛇の列が生まれた。

 

「あらあら……私はお店の人じゃ無いんだけどな〜。じゃあ店主さん、さっきの同じ作り方で同じ物が出来ますから、後はお願いしますね」

 

 母さんは手際よく焼きそば2人前をパックに詰め込み、俺を連れて店を出ていった。

 

「おう! 毎度あり! ……ってアンタの様な神業が真似出来るか!! 頼むから少しだけ居てくれぇぇ!!」

 

 店主の叫びを母さんは聞かず、何だか申し訳ない事をしている気分だが、当の本人の母さんは舌を小さく出してそのまま放置した。

 

「母さん、本当に良いの?」

 

「良いのよ。それよりももっと食べ物買いましょ。ほら、あそこに綿菓子とかあるわよ。すみませーん、2つ……いや、4つ下さい」

 

 綿菓子の他にも様々な食べ物を多く買っては両手に持ち、いつしか2人では食べきれない量になった。

 流石にこんなに食べきれないが、食べないと勿体ない。

 

 早速食べる所を探し、境内を歩いていく。しかし流石の規模の大きさと言うべきか、飲食スペースは混んでおり、空きは無い様子だ。

 

 別に立ちながら食べる事は可能だが、祭りに参加している人が多くてそこら中に通行人が居るため、邪魔になる恐れがある。

 

「どうしようか……」

 

「おーい、こっちだ!」

 

「焔の声?」

 

 人混みにも関わらず聞こえる大きな声で直ぐに焔の声と分かり、焔を探すと、焔は関係者以外立ち入り禁止のテントの中にいた。

 

「お前、関係者以外は……」

 

「ここ、俺の家の神社。つまり俺は関係者だ」

 

「でも俺は……」

 

「関係者の俺が許可すりゃあ良いだろ。それに家にダチを入れて何が悪いんだよ」

 

「花衣、食べる所も無いんだし良いんじゃない?」

 

「……まぁ、食べる所無かったし良いか」

 

「うっしゃ、じゃあ入れよ」

 

 焔が手招きしてテントの中に入ると、中は意外と涼しく、向こうのテーブルには屋台で買い漁ったのか、屋台で見た事ある料理がズラリと並んでおり、麗の魔妖ー妲己と焔の家族がテーブルを囲んで食べていた。

 

「ん? あら! 才華さんじゃない! 久しぶりね〜」

 

「あら、火々璃(かがり)さん! お久しぶりです〜」

 

「え、焔の母さんと知り合い……?」

 

「らしいぜ。と言うより、ジェ……じゃないや。お前の母ちゃんがかなり神社に足を運んだから面識があるらしいな」

 

 母さんがここにいつも来ていたのか……そう言えば帰って来てちょくちょくどこかに行く事が多かったけど、まさかここだったとは思わなかった。

 

 神社に何か用が……って言っても参拝目的ぐらいしか無いか。

 

 和気あいあいと母さんは焔のお母さんである火々璃(かがり)さんと話している中、ふと母さんは妲己の方に目を向けていた。

 

「あら……? この方は?」

 

「え、ええと……し、親戚の方から来たんですよ! ね、妲己ちゃん」

 

「まぁそうじゃ。妾の事は無い者扱いで良いぞ」

 

 とても親戚とは思えない口調の妲己は気にすること無く机の上の料理を食べ進めていた。こんな大根役者見たいな嘘が分かる態度に火々璃(かがり)さんと焔はダメだと言わんばかりに手を目で覆って諦めの感情を出していた。

 

 しかし、それは杞憂だった。

 

「なるほど。よろしくね、妲己ちゃん」

 

(通ったぁぁぁぁ!!)

 

 恐らく全員同じような言葉を心の中で叫び、母さんの天然さが発揮された。いや、別に天然な性格では無いと思うが、まさか母さん相手にその場しのぎが通るとは思わなかった。

 

 母さんは気にせず空いている椅子に座り、隣に座ってと言うように手招きした。

 

「ほら、ここ空いてるわよ。早くしないと冷めちゃうわよ」

 

「あ、あぁ……分かってるよ」

 

 まぁ精霊とバレてないならそれで良い。安堵しながら母さんの隣に座り、早速焼きそばの封を開けた。

 

 開けた瞬間濃いソースの臭いが食欲をそそらせ、目玉焼きの黄身が黄金色に輝いているようにも見えた。早速焼きそばを食べると、一口目からソースの旨味が脳を突き破るような旨味が口の中に広がった。

 

 麺が太いからソースによく絡んでおり、ソースのくどさを無くすように玉ねぎとキャベツの甘みが後味を良くしていく。しかもこの焼きそばには何故かエビの旨味までもがあった。

 

「うん、やっぱり母さんが作ってれる料理は美味しいよ」

 

「ありがとう花衣。でも花衣も手伝ってくれたおかげよ」

 

「おお、美味そうだなその焼きそば。俺にもくれよ」

 

 涎を垂らす勢いになっている焔は俺の焼きそばを見て羨ましそうに見ており、いきなり来られて肩を上げて驚いた。

 

「嫌だ。これは母さんと一緒に作った物だからな」

 

「良いじゃねえかよ一口ぐらい。な? 良いだろ?」

 

「……まぁ、良いか」

 

 どうせここで嫌々言っても焔はしつこく迫ってくるのが目に見えたせいで、半ば諦めの気持ちで焼きそばを1口焔に渡そうとする。

 どうせ焔の事だから一口をでかくして俺の分を無くす未来が見えたような気がしたから一口分は俺が決める。

 

「ちょーっと待った!!」

 

「おごふぅぅぅ!!」

 

 焔の聞いた事ない叫びと同時に箸で持っていた焼きそばは焔では無くいきなり現れたレイの口に運ばれた。

 

「れ、レイ!?」

 

「もきゅもきゅ……んん、おいひぃでふね!」

 

 美味しい筈なのに滅茶苦茶怒っているレイから距離を取ろうとしても、レイは甘えてくる犬のようにグイグイ近づき、そのまま抱きついて来た。

 

「もう! 私以外の人にあーんなんてしちゃ嫌です!」

 

 攻撃と甘えてくる事を同時にこなすようにレイは頭を擦り付けた。

 

「それよりも焔は大丈夫なのか……?」

 

「何とか生きてるぞ……ぐふっ」

 

 あまりにも強い力で机に押し付けられた筈の焔はピンピンしていた。何だこいつ、本当に人間か? 

 傷らしき傷は見当たらず、何食わぬ顔で済んでいる事に若干の壊さを受けた。

 

「あ、居たんですね。すみません、花衣さん以外の男は眼中に無いので」

 

「おめぇ思い切り叩きつけたのにいい度胸してるぜ……」

 

「それはどうも。所で花衣さん、お母さんと無事にお祭りを回っているんですね」

 

 隣にいる母さんに対してレイは少しだけ不機嫌そうなトーンをしていた。

 

 気の所為かも知れないが、最近皆が母さんに対して少しよそよそしい様な気がする。いや、六花や閃刀姫達に関しては、少しばかりの敵意の様な物が感じられる。

 

 敵意は言い過ぎとして、警戒はしている様子だ。何かあったのだろうか……。理由を聞こうとしても確信が無いから強くは言えず、そのままレイと母さんは互いに見つめあった。

 

「あらレイちゃん。花衣と一緒に回りたいのかしら」

 

「そりゃあ一緒にお祭りを楽しみたいに決まってます! けど……花衣さんは貴方と過ごしたいんです。だからその気持ちを尊重します」

 

 浴衣の裾を握りしめ、レイは唇を噛んだ。気持ちを押し殺して押し殺して出した言葉には歯がゆさが滲み出し、レイに……いや、精霊達に対して申し訳が立たない気持ちが溢れてくる。

 

「なぁレイ、今からでも皆と……」

 

「良いんですよ。親子水入らずで暮らして下さい。だけど……花火大会の時間だけは居てくれたら……」

 

「花火大会?」

 

「あと1時間後で始まるやつだな。この祭りの大イベントでこの為だけに来てるぐらいもいるぐらいだ」

 

「へぇ……じゃあ1時間後に落ち合うって感じで良いか?」

 

「はい。本営に続く石階段で待ってます」

 

 そう言ってレイはテントから出ていき、少しだけ静寂な空気が流れた。

 

「モテる男は辛いな」

 

 焔は他人事みたいに笑ってからかってきた。

 

「しかも、そこの石階段は一般人立ち入り禁止だぜ。お前らの特捜席だ」

 

「何で立ち入り禁止なんだ?」

 

「祭りに紛れて本営にある俺らの私物とか売上金とか盗む奴を入らせない為さ。しかも警備員もいるから安心してイチャつけや。はっはっはっ!」

 

「イチャつくって……」

 

「んで、どうすんだ。行くのか?」

 

「当然。母さんも一緒に……」

 

「私は遠慮するわ」

 

「な……なんで!?」

 

「レイちゃん達は貴方と一緒に居たいのよ。もう私は一生消えない大切な思い出を貰ったわ」

 

 母さんは微笑みながら、今まで買ってきた食べ物を全部渡し、この爆買いの理由を察した。

 

「まさか……ティアドロップ達に分ける為に?」

 

「ちょっとお節介すぎかしら。さぁ、早く行ってあげて。きっと皆寂しがってるわよ」

 

 さっきレイの遠慮した顔を見たからそう思ったのだろう。けど、きっと当たってる。あの遠慮しがちな顔の底には悲しさや寂しさが感じたのは、俺じゃなくても分かるのだから。

 

 母さんは背中を押し、小さく拳を握って応援していた。一体何を期待しているのかと言いたいが、きっと末永くとかそんな所だ。

 こっちの方が余計なお節介と思うけど、それが母親なのだろう。

 

「分かったよ。じゃあ、行ってくるから」

 

「えぇ。またね」

 

「また?」

 

 何故か不安感が拭えなかったが、母さんの笑顔で踏ん切りがつき、ティアドロップ達の元へと向かった。

 

「さて、もう行かないとね」

 

「あら? もう行っちゃうの? 花衣君はどうするの?」

 

「あの子はもう私が居なくても大丈夫ですから。それに……やることがありますから」

 

 

 

 

 

 

「お……重い……」

 

 流石に10人分以上の料理を運ぶのは骨が折れる。しかもこの先が長い長い石階段と考えたらと思うと更に気が滅入る。だけど引き返す訳には行かない……が、足取りが重いのは変わり無かった。

 

 ちょっと休憩して一気に駆け上がろうと一旦階段に座り、夜風に当たりながら空を見上げる。

 

 今日の夜空は星が瞬き、光のカーテンが広がっているようだった。

 

 現代で汚れた空気やビル街の明かりで星なんていつもは見えない。見えるのはせいぜい小さな星や月だけだ。

 

 だけど今はこんなにも美しく眩い光を届かせている。時間も忘れて空を眺めていると、足音が聞こえてきた。

 

 おかしい、焔の話ならこの時間は関係者以外立ち入り禁止の筈だ。ここに入れるのは関係者である焔達か許可された人、そして……泥棒だ。

 

 警備員がいると聞いたが掻い潜って来たのか? だとしたら通報するべきだ。咄嗟に携帯を構えて通報の準備を始めると足音が大きくなり、足音の主が目に見えた。

 

「やぁ花衣君。結構な大荷物だね」

 

 そこには眠っていた天音ちゃんを抱えた彼方さんがいた。

 

「か、彼方さん?」

 

「焔君から話は聞いてるよ。随分と荷物が多いね」

 

「そっちも、随分と寝ていますね」

 

 俺は寝ている天音ちゃんを見てそう言った。

 

「ストレナエ達と遊んでいてね。少し持とうか?」

 

「え? ええと……有難いんですけど、大丈夫ですか?」

 

「片手で持てる荷物は大丈夫だし、俺だけじゃないさ」

 

 彼方さんは指を鳴らすと、袖の中からカードが飛び出し、カードからギャラクリボーとミニサイズの銀河眼の光子竜が出てきた。

 

「頼むぞ」

 

『クリクリ〜!』

 

 ギャラクリボーと銀河眼の光子竜は互いに力を合わせて袋を咥えて

 袋を持ち上げた。銀河眼の光子竜が懸命に小さな翼を羽ばたかせているのとクリボーの必死な表情から、かなり頑張ってくれているのが目に見えていた。

 

「流石に【フォトン・パニッシャー】とかじゃ人に見られるかもしれないからこの2体に何とかしてもらうけど、これで一気に登れるだろ?」

 

「ありがとうございます。それだけでも充分ですよ」

 

 休憩したから体力も戻り、彼方さんと精霊とクリボー達と一緒に階段を上がっていく。花火が上がるまで時間はあるから、ゆっくり歩いても大丈夫だ。

 

 急ぐ必要は無い。天音ちゃんを起こさず落とさないようにゆっくりと歩く事にした。

 

「お母さんとはもういいのかい?」

 

「本音を言えば母さんとも一緒に見たかったんですけど……母さんが良いって言うので」

 

「寂しくは無いのか?」

 

「それは寂しいですよ。この夏が終わったら仕事でまた海外に行きますし……」

 

 俺と母さんは一緒に過ごす時間よりも離れてしまう時間の方が多く、だからこそ一緒にいれる時間は大切にしていきたい。

 本当は母さんとも花火を見たかったがそれ以上に……ティアドロップ達とも一緒に居たいというどっちつかずな感情が天秤のように揺らいだ。

 

 母さんの後押しでティアドロップ達と過ごす事になったが、今からでも母さんの腕を引っ張って一緒に見に行きたいのが本音だ。

 

「本当にお母さんの事好きなんだな」

 

「当たり前じゃないですか。だってかぞ……」

 

 家族だから当たり前と言おうとした瞬間、俺は口を閉ざした。

 

 理由は彼方さんの事情にある。彼方さんの両親は昔他界していたと言っていたが、実は生きているという話があった。この情報はウェルシーから話された為信憑性はあまり無いが、もしそうだとしたら喜ばらしいことだ。

 

 しかし、生きているにも関わらず連絡が取れず、家族をほおっている状況に彼方さんは怒りを感じ、彼方さんはあまり両親の事を良いようには思っていない。

 

 家族だからって、誰しもが幸せな家庭にいる訳では無いと目の前で突きつけられているようで、俺は口を閉ざしてしまい、彼方さんはその事を察したのか、苦笑いした。

 

「俺の家庭が特殊すぎるだけだから気にしないでくれ。それに、俺は別に親を恨んではいない」

 

「え?」

 

「今はこうだけど、昔は確かに愛情を貰って育ててくれたんだ。それだけは覚えてる。その愛情を天音にしてくれと怒ってるだけさ」

 

「もし親に会えたらどうしますか?」

 

「とりあえず文句は言う。その後は分からないさ。もしかしたら和解して昔のように一緒に暮らすかもしれない。天音にとっては、その方が良いのかも知れない」

 

 眠っている天音ちゃんに顔を向けた彼方さんは、頭の中でその未来を思い描いているようだった。彼方さんの親か……どんな人なのか想像出来ないけど、きっと良い親には違いない。

 

「……おっ、どうやらもうすぐ着くらしい。荷物を置いたら邪魔者の俺はおさらばするよ」

 

「邪魔者って……」

 

「まぁ、親子水入らずならぬ、恋人水入らずという訳さ。じゃっ、楽しんで」

 

 荷物を置いた彼方さんは2体の精霊と共に階段を降りていき、後ろに振り返るとそこには敷地が広く、石畳と砂利が綺麗整った敷地が広がった。

 

 星空も相まって現代ではあまり見られない神秘的な何かを感じるのは気の所為だろうか、ここにティアドロップ達がいる筈だが……どこにいるんだ? 

 

 一応ここは焔の家みたいなものだからそこまで奥には行ってないと思うが……

 

「もしかして……早く来すぎたか?」

 

 時間を見ると花火大会まであと30分前ぐらいだ。流石に早すぎたか……神社に腰をかける……訳には行かないな。とにかくその辺の地面に座り、皆を待つことにした。

 

 遠くの方では祭りの賑やかな音が少しだけ耳に届き、熱狂さが伝わっていく。

 

「……ちょっと昔の事を思い出すな」

 

 対してこっちは何も音がなく、静かな空気が流れているだけだった。この対比する2つを感じると、胸が針に刺されたかのような痛みと冷たさに襲われた。

 

 咄嗟に胸を抑えても痛みは消えず、逆に痛みが広がりつつあった。

 

 あぁそうか。昔を思い出して少し感傷に浸ったせいだこれは。

 

 昔の俺は何も無かった。目の前は灰色で何をする気も起きず、食べては寝て、食べては寝て息をしてただ生きるだけをしていた。

 

 ずっと1人だった。それを思い出して胸が痛くなった。

 

 痛くて苦しいんじゃない。寂しくて辛かった。

 

「あれ……1人ってこんなに寂しかったっけ……」

 

 1年前まではずっと1人で居ただろと自分に言い聞かせるが、逆に辛さが込み上げてくる。

 胸の痛みが強くなって涙が出てくる。

 

 辛い。

 

 苦しい。

 

 

 

 寂しい

 

 

「……ティアドロップ」

 

「呼びましたか?? 花衣様」

 

 聞きたかった声を聞いて顔を上げると、黒い浴衣姿でいつもの氷のティアラが無いポニーテールのティアドロップがそこにいた。

 

「すみません、有象無象の男が言い寄って来たのであしらっていました。皆さんも同じような理由で遅れているので、しばらくしたら来ますよ」

 

 そう言ってちゃっかり俺の隣に座ったティアドロップは俺の肩に頭を寄せ、手を絡ませて俺を離さないようにした。

 そして離れられない俺に近づき、涙を手で拭ってくれた。

 

「……何故泣いていたのですか?」

 

「えっと……」

 

 寂しかった。何て恥ずかしくて言えなかった。男としてのプライドが理由を言えない理由となり、顔をそっぽ向けた。

 だが、それが要因となったのかティアドロップは俺が泣いていた理由を察し、俺と肌を寄せ合うように抱いた。

 

「大丈夫です。私は貴方から離れません。ずっと、一生……永遠に愛しています」

 

「相変わらず愛が重いな」

 

「ええ。重くないと軽い貴方はどこかに飛んで行くのですからもう離しません」

 

 前世の存在であるカイリとカイムの時に皆から離れたのだから何も言い返せないし、その資格も無い。

 

 上手く言いくるめられたティアドロップに腕を抱かれ、お互いの肩を寄せ合って皆を待ち続ける。

 

「静かですね。まるでこの世界が私達だけみたいに……」

 

「そうなったらどうする?」

 

「どうもしません。貴方を愛する事には変わりありませんから」

 

「そっか……」

 

『コーン! コンコン!』

 

「……? どうした閃花」

 

 突然浴衣の中から閃花が何かを知らせる様にして鳴き、そのまま浴衣から出ていってはお腹の液晶で時計のディスプレイを表示させた。

 いや、時計では無くタイマーだった。時間は10秒を指しており、まさかの時限爆弾かと思ったがそんな事は無い。

 

 残り6秒。タイマーという事は0になったら何かが起こるのだが……このタイミングで起こる事と言えば……

 

「まさか……」

 

 残り1秒を切ったその瞬間空を見上げ、閃花のタイマーが0になると同時に閃花は声を上げると、青い花火が打ち上がった。

 

 そうだ。もう始まっていたんだ。花火大会が。

 

 最初の花火は青い花火であり、そこから赤、黄色、緑と次々に夜空には色とりどりの花火が打ち上がった。

 真っ黒だった夜が虹色の夜となり、空と地面を虹色に照らし、見るもの全てを別世界へと招待しそうなほど美しかった。

 

 そしてその美しさに負けない程輝く者が隣に居た。

 

 花火の光で白銀の髪は照らされ、青い瞳は水晶のような輝きを持ったティアドロップに俺は目を奪われた。

 

 じっと見ていると心のいちばん深い部分がティアドロップで埋めつくされる様な感覚になり、いつしか花火の音は耳には届かず、花火の光もティアドロップを美しく魅せる為の照明にしかならなかった。

 

「綺麗だ……」

 

 思わずそんな事を言ってしまった。いや事実なのは間違いない。けど無意識にそういった事に驚いた俺は自分で口を塞いで訳も分からずに混乱してしまう。

 

 恥ずかしさとか、いきなりそんな事言った自分の心の複雑さへの理解が分からない気持ちが入り交じり、とにかくティアドロップには向けられない顔になっているのは間違いない。

 

 そんなティアドロップは俺の無意識の言葉をしっかりと聞き遂げるとくすりと笑って俺に顔を向けさせ、塞いでいた口をどかし、指を絡める恋人繋ぎをした。

 

「誰が……綺麗なのですか?」

 

 分かっている癖にと心の中で呟く。だがティアドロップは答えを求めていた。いじらしく答えを求めるように体をくっつけ、ティアドロップからでる花の良い香りが頭を優しく狂わせる。

 

 艷めくティアドロップの唇が近づいてくる。答えは言葉ではなく行動で示せと言わんばかりにだ。

 

 だが、抵抗する理由も拒む理由も無い。打ち上がる花火を背景に、俺とティアドロップは互いの唇を……

 

「あああああ!!! 花衣君がティアドロップとちゅーしようとしてるー!!」

 

 ほんの数センチの所で階段の下の方からストレナエが大声で叫び、空を飛んで俺達の元に辿り着いた。

 

「むぅ、邪魔が入りましたね」

 

「ズルいよティアドロップ! 私だって花衣君とちゅーしたいのに! ねぇねぇ花衣君、先に私としようよ〜」

 

「え? いや……」

 

 ストレナエが唇を尖らせて顔を近づけると、今度は別の所から気配を感じた。

 

「1人だけに愛を注ぐ躾のなってない旦那様はここですかね……?」

 

「か、カンザシ……これはだな……」

 

「私にもお情けを下さいと言いましたよね?」

 

 笑顔を浮かべたカンザシが怖い。だが、この流れは間違いなく他の皆も来る。現にそこらかしこに気配が感じるのが証拠だ。

 

「かーいーくーん? 私にもして欲しいなぁ〜」

 

 いつの間にか背後に現れたスノードロップが俺を後ろから抱きしめてくる。

 

「あ、あの……私にも、してくれると嬉しい……です」

 

 同じようにヘレボラスも膝を着いて懇願するような上目遣いでキスをねだってきた。

 

「1人だけ贔屓にするのは反対ネー!」

 

 ボタンがそう言いながら地団駄を踏んで怒っていた。こればかりは言い訳も反論もできない。

 

「ふふ、確かにそうね。これはお仕置が必要ですかね?」

 

 カンザシと同じ様な圧を帯びた笑顔を浮かべながら、何故か獲物を見つけたかのような目に舌なめずりをしていた。

 

「私もちゅーしたーい!」

 

 プリムは俺に抱きつき、目を閉じて唇を差し出すようにした。

 

「わ、私も……したいな」

 

 プリムやストレナエと比べて大人しいが、シクランも少しづつだが近づいている。シクランの涙で潤んでいる目を見たら拒む事は出来ない……。

 

「かい、わたしも、ちゅーしたい」

 

「ひ、ひとひらまで……」

 

「だって、ずるい」

 

 ごもっともな意見だ。しかしひとひらがこんな風に何かをせがむのは初めてな様な気がする。しらひめの姿のままストレナエ達と共に俺にくっつき始め、もう逃げることは出来なくなるところで、また更に人数は増えていく。

 

「花衣さん〜? 六花精ばかり見てはダメですよ! ちゃんと私達の事も見てください!」

 

「レイに同感。こうなったら力づくで花衣を私たちだけ見るようにするしかない」

 

「浮気性のマスターには誰が1番隣に相応しいか調教しないとね」

 

「花衣を調教……良いね、昔みたい」

 

「おいカメリア、俺は昔お前らに何されたんだ?」

 

 明らかに聞き逃しては行けない言葉を聞いた俺は咄嗟にカメリアに聞いたが、カメリアは何も言わずただ笑うだけだった。

 

 頼む、嘘だと言ってくれ。カメリアは俺をからかうために嘘をつく事が多いが、カメリアの笑みはまるで真実だと言っているかのような目だった。

 

「と! に! か! く! ティアドロップばかり良い思いをさせません! さぁ花衣さん、私にもディープなキスを下さい!」

 

「ダメです。花衣様はもう私の虜なのですから付け入る隙はありません」

 

「じゃあ隙を作るまでこじあけます!」

 

 レイも左腕にしがみつくようにして抱いて来てもうそろそろ俺の体に捕まるスペースが無くなってきつつある。最早ゆっくり花火を見る暇も無く、結局はこんなふうに騒がしくなった。

 

 だけどこの騒がしさは俺に落ち着きや安心を与えた。

 

 今年の春から始まった不可思議な出会いによって、俺の人生は変わった。

 

 ひとつ屋根の下で精霊と暮らし、学校に行って、こんな風に騒いだりする。その分色々大変だが、1年前よりかはマシだ。

 

「とにかく喧嘩はやめろ。ほら、屋台の食べ物買ってきたから食べながら花火を見よう」

 

 何とか説得してみんなを落ち着かせ、ようやく一息付きながら花火を見続ける。

 こうして眺めてみると、一つ一つ光り方や色、形が違って職人の腕が目に見て取れる。

 

 さっきまでの騒がしさも花火の音と美しさで静まり、皆も打ち上がる花火を見上げていた。

 

「……あれ、そういえばアロマ達はどうしたんだ?」

 

 アロマ達もお祭りに居た筈だが姿が見えない。そういえば母さんと回っている時も見かけなかったな。どこに行ったんだ? 

 

「アロマの皆さんなら私達に気を使ってここには来ませんよ」

 

「そっか……申し訳ないな、花音も居ないのに」

 

「私が居るのにほかの女の心配ですか?」

 

 いきなり氷のように鋭い声に体が震え、ティアドロップは光を失った目を向けた。

 

「い、いやいや。誰だって友達の事は心配するだろ」

 

「ふふ、冗談ですよ」

 

 顔と声が冗談では無かったと思うが……追求するのは良しておこう。追求すれば後が怖い笑顔を浮かべているのだから……。

 

「貴方がそういう人だとは分かっています。……来年は、お友達と もこの景色を見る為に、花音様達をお救いしましょう。……必ず」

 

「あぁ……必ず」

 

 焔と彼方さんも同じように思っているのだろうか、来年こそは誰も欠けずにこの綺麗な花火を皆で見ることを願い、最後の花火が散るまで花火を見あげた。

 

 

 

 だがその時は永遠に来ない事を俺はまだ知らなかった。

 




ここまで見てくださってありがとうございます。

私事ですが、来年で社会人になり、小説の投稿頻度が今よりちょっと遅くなってしまうかもしれないことをここでお話しようと思います。

昔みたいに3ヶ月ぶりの投稿などあるかもしれませんが、最後までお付き合い頂けると、幸いです。

それでは、またの更新をお楽しみに!

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