六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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新学期

 季節は夏から秋へと変わり、深緑の葉も赤や黄色に染まる時期になった。

 

 夏の湿気た暑い風も乾いた風の冷たさに変わりだし、制服も長袖へと衣替えしないと肌寒くなる。

 

 久しぶりの制服を袖に通し、制定カバンに2つのデッキケースを入れて1階へと降りる。

 

 階段を降りると味噌の良い匂いが鼻につき、腹の虫が鳴った。

 

 リビングに繋ぐ扉を開くと、窓ガラス越しの陽の光に氷色の髪が宝石のように輝いている様に見えたティアドロップがキッチンで朝食を作り、ソファーには幼いストレナエ達が朝早いテレビ番組を見たり、ボタンが朝から健康的にストレッチをしていたりした。

 

「あ、おはようネ!」

 

「おはようボタン。相変わらず体が柔らかいな」

 

「ストレッチは健康の第一歩ネ。花衣君もやったら健康になるヨ」

 

 ボタンは足を広げながら体を床に付けるほど体が柔らかく、俺が真似しようとしても関節がイカれる事間違い無しだ。柔軟な体を羨ましいと思いつつ、ボタンの誘いを断った俺はテーブルに座り、隣に座っていたカンザシから温かい緑茶を渡された。

 

「おはようございます旦那様。今日から新学期ですが、調子はどうですか?」

 

「まぁいつも通りだな」

 

 渡された緑茶を口にし、いつも通りの朝で調子は変わらない事を告げた。

 

 そう、変わらない朝だ。ただちょっと母さんが居ないだけの変わらない日常がまた始まっただけだ。

 

「……いきなり居なくなるなよ」

 

 あの日の夏祭り、母さんは先に家に帰って家を出て言ったらしい。テーブルの上に置いてあった置き手紙があり、筆跡で母さんの物だと分かり、母さんはなにも言わずに仕事に行ったらしい。

 

 それほど切羽詰まっていたのかは知らないが、せめて一言だけでも言って欲しいのが本音だった。

 もうこの家に母さんの私物も無く、あるのは前々からあった家具だけだ。

 何度も母さんが仕事で家を出ていくのはあるが、今日この日は他の日とは比べ物にならない程悲しい気持ちが溢れかえっていく。

 

「旦那様、元気を出してください」

 

「分かってるよ……もう子供見たいにメソメソ泣いたりしないさ」

 

 少しばかりのプライドのおかげで気持ちを立ち直らせ、今日から始まる新学期に向けて気持ちを切り替える。

 

「まずは朝食だな」

 

 何をやるにしてもまずは腹ごしらえだ。向こうのキッチンで朝食を作っているティアドロップ、スノードロップ、ヘレボラスが一緒に人数分の朝食を作っていた。

 

 大皿に盛られたサラダに10数人分のベーコンエッグとマフィンがキッチンから溢れ、エリカが続々とテーブルに料理を置いていった。

 

「手伝おうか? エリカ」

 

「大丈夫ですよ。それよりも、外でガーデニングしている方々を呼んだ方がいいですよ」

 

 六花精達と俺の分だとしても多すぎる量には理由がある。答えはシンプル、単純にこの家にいる人数が増えたからだ。エリカの言う通り、そろそろこっちに呼び戻した方が良いだろう。

 

「ストレナエ、外にいる人達を呼んできてくれ」

 

「はーい!」

 

 ベランダに続く窓から1番近いストレナエに呼ぶ事を任せ、ストレナエはベランダの窓を開け、庭にいる皆に声をかけた。

 

「おーいジャスミン〜! 皆ー! ご飯だってー!」

 

「はーい! ご飯ご飯ー!」

 

 外にいたアロマージ・ジャスミンに続き、次々とアロマージ達が庭のガーデニングを済ませ、リビングへと入っていく。そう、元々花音と一緒に過ごしていたアロマ達を花音を救う間ここで暮らす事に決めたのだ。

 

 そのせいでこのリビングもちょっと狭くなり、リフォームを考える始末だ。六花が10人、アロマが7人(と一個)……その内ひとひらとアンゼリカは手のひらサイズの妖精的な存在だから、最終的にリビングには俺含めて16人いることになる。

 

 流石にそんな人数をリビングに入れる事は出来ない為、元々庭の方にあったウッドデッキにテーブルや椅子を置き、そこでも食事出来るようにした。これで、アロマージ達も気兼ねに朝食が食べられるという訳だ。

 

「すみません、わざわざこうして居させて貰って……」

 

 マジョラムが申し訳なさそうにしたが、こっちとしてはアロマ達だけカードで居てもらうのには申し訳無いし、無駄に広い庭を活用できてこっちとしても助かっている。

 

 気にするなと言っても多分マジョラム……いや、アロマ達は気にするのが目に見えていた。どう声をかければ良いか分からないままでいると、ティアドロップがキッチンから歩き出し、俺の肩を掴んでは自分の方に引っ張り、体を寄せた。

 

「好い加減その態度は止めて下さい。花衣様のご好意を無下にするつもりでしたら早くカードになって姿を消してください」

 

「おい、そこまで言わなくても……」

 

「大丈夫です。どうせ花衣様が手早く花音さんを助け、貴方達は花音さんの方に戻るのですから。遠慮するだけ無駄です」

 

 言葉使いは強いが、言葉の意味自体はアロマ達を気にかける事だった。アロマ達もティアドロップの本心を察したのか、悲しんだり怒ったりせず、ただ深く感謝の意を込めるように頭を下げ、笑ってくれた。

 

「素直じゃないな」

 

「私は花衣様の事だけを思っていますので。他の方等どうでもいいです」

 

 そう言いながらテーブルに人数分の料理をちゃんと作っている辺り、ティアドロップなりの気遣いが見て取れる。

 

「ともかく、久しぶりにご一緒の朝食です。これからも私が花衣様の幸せな朝を提供致しますね」

 

 ティアドロップは俺の頬にキスをし、幸せの朝という定義を広くさせた。

 

 海外ではチークキス挨拶みたいな物があるが、実際はキスをするふりだ。しかしふりでは無く明らかなキスに他の六花達も対抗心を燃やし、皆が続々と集まりだした。

 

「旦那様、私も幸せな朝をご提供出来ますよ?」

 

 カンザシは対抗心で左頬にキスをし、わざとらしく着物を少しだけはだけさせて胸元の谷間を見せた。

 

 幸せというベクトルが違うと思いつつも、はだけたカンザシの着物を直し、カンザシは紳士的な行動に少し不満を持ちながらも自分だけに向けた行動に喜びを感じていた。

 

「皆の目があるからそういうのは止めろ」

 

「という事は、周りの目が無ければ良いという事ですね?」

 

「うぐっ……」

 

 カンザシはそう言ってテーブルの下の腕を俺の足まで届かせ、誰の目にも届かないように俺の太ももを撫でた。

 カンザシは何ぐわぬ顔でくすくす笑いながら、声が出せない俺を楽しむように見ていた。

 

 撫でられているのは太ももだが、まるで背中も撫でられているようなぞわりとした感覚が走り、手も徐々に触れてはいけない足と足の間まで行くと、調理をし終えたスノードロップが机を手で叩き付け、カンザシに睨みを効かせた。

 

「そういうの、良くないと思うなー?」

 

「あら、何の事でしょうか」

 

 カンザシはわざとらしく両手を上げて何もしていないとアピールしたが、嘘だとスノードロップは確信し目くじらを立て続けていた。

 

 カンザシも邪魔をされて怒っているのか笑顔をキープしながらもスノードロップに重い圧を向け、スノードロップとカンザシの間には、近づいてはならない火花が散らされていた。

 

「あ、あの……お2人とも喧嘩は止めた方がいいですよ」

 

 2人を仲裁しに来たヘレボラスがあわあわしながらも必死に2人の間に入り、見えない火花に当てられながらも2人を止め、ヘレボラスによって喧嘩は未然に防がれた。

 

「カンザシ、虐めてるのはそれぐらいにして朝食にしましょう……っと、そろそろですかね」

 

 何かを察知したティアドロップはインターホンに目を向けると、その数秒後にインターホンが鳴り、モニターに画面が付いた。

 

 インターホンのモニターにはレイとロゼが映っており、どうやら家の前に待っているらしい。

 

 レイとロゼとは家が隣でいつも決まって一緒に登校しており、新学期が始まったから、迎えに来たんだろう。

 まだ朝食を食べている俺の代わりにティアドロップがインターホンまで歩いていくと、ボタンを押し、そして直ぐさま押してインターホンを消した。

 

「おい、ティアドロップ」

 

「何でしょうか。登校中は私がいつも隣で肌身離さずにずっと歩きますからあの子達はどうでもいいでしょう? 違いますか?」

 

「だからってぶつ切りは……」

 

「問題ありません」

 

 何事も無かったかのようにティアドロップは振る舞ったが、次の瞬間リビングのドアが蹴破れる勢いで開かれ、金髪と銀髪の髪色の女性が俺と同じ様な制服を着ており、正体が分かっていた俺は然程驚きもせずにティアドロップが煎れてくれた牛乳を飲み、何も知らないジャスミンが声を上げて驚いた。

 

「さぁ花衣さん! 学校に行きましょう!」

 

「今日から新学期、遅刻はダメ」

 

 リビングにダイナミック不法侵入したのは閃刀姫レイとロゼだった。

 デュエルモンスターズでは一二を争うぐらい有名かつ人気テーマの閃刀姫の2人が、俺の家に居るという字面だけでは誰もが羨ましがる物だが、この2人、さっきも言った通り思い切り不法侵入しているのである。

 

「鍵は閉めてた筈だが……」

 

「合鍵がありますから」

 

「いつの間に!?」

 

 レイとロゼ2人はこの家の合鍵を自慢げに見せた。おかしい、家の鍵を渡した覚えも無ければ作っている様子も見なかった。

 

「花衣さん、世の中知らない方が良いこともありますよ?」

 

 合鍵について考えていた事にレイに読まれ、これ以上詮索するなと緩やかに諭すように笑い、これ以上俺は何も言わなかった。

 

「あら? そういえば残りのお2人はどこに?」

 

「アザレアとカメリアなら用があってここにはいません。大丈夫、直ぐに会えますよ。ところで何で貴方裸エプロンなんですか? 痴女なんですか?」

 

「花衣様の目の保養の為です」

 

「目に毒の間違いじゃないですか」

 

「あら、ですが証拠に花衣様の陰茎は……ふふ」

 

 ティアドロップは勝ち誇った笑顔を浮かべ、それを見たレイは行き場のない怒りを溜め込むように頬を膨らませた。そんな反応を面白がってか、ティアドロップはレイの耳元であの時の事を細かく言おうとしていた。

 

「あの時の夜私と花衣様は……」

 

「あーあー! 聞こえません! 聞こえません!」

 

 必死にレイは耳を塞ぎ、ティアドロップの声を聞かないようにしていた。

 

「相変わらず朝から騒がしいな」

 

「でも、楽しそうです」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 また夢のような日常が戻ってきた。そう感じつつもミルクを飲み、朝食を食べ進めて、いつも通り学校へと歩いていく。

 

 秋の乾いた風が冷たかったのか、それともティアドロップの対抗心からなのか、レイとロゼはずっと俺から離れないように腕を抱いて登校した。

 

 両手に花とはまさにこの事、片や金髪緑眼でスタイルも良い美少女に、片や銀髪のツインテールでありながらもクールな顔立ちでスレンダースタイルの美少女が俺の求めてくっ付いている。

 

 腕から伝わる柔肌と、レイとロゼから香る匂いで心臓が少し跳ね上がってしまう。こういう事は今まで何度もしている筈なのに、未だに慣れないのは俺が余程の初心なだけなのだろうか。

 

 そして慣れない事と言えばもう一つあり、それはもうすぐ分かる事だ。

 

 学校の校舎が見え、校門をくぐる生徒達と共に校内へと入ると、皆は俺達をチラチラと端目で見ており、ヒソヒソと何かを呟いたり、羨ましいそうにこちらを見ている物もいた。まぁ、大半はここを転校してきたレイとロゼの方に目をいっていると思うが、嫌でも俺が目に映るから、中には血涙を流している生徒もいる。

 

 そして中にはわざとらしく声を上げる生徒も存在し、嫌でも目線と嫌味が聞こえ始める。

 

「おい見ろよあれ、自分はモテますよアピールかよ……」

 

「やだね〜全く……」

 

「というかあの男陰キャ感ヤバいんですけどw」

 

 馬鹿にする声、蔑む声、妬む声が耳に入り、朝から気が滅入る。

 

 まぁ当然と言えば当然だ。美少女2人をただ連れて登校ならまだしも、肩や腕を寄せ合って歩くのは恋人じゃないと出来ない事を、2人まとめてしているのだから、倫理観とかで声を出してくる生徒もいる。

 

 だが、俺が危惧しているのはそこではなく、レイとロゼの方だった。レイとロゼはさっき俺に対して笑っていた女子生徒に向かって殺気を放ち、呪詛の様にブツブツと呟き始めた。

 

「花衣さんの悪口を言った絶対に許さない許しておけない生かしておけない始末しないと」

 

「ここにいる全員敵……花衣を守らないと、守らないと花衣が危ない」

 

「お、おい2人とも……」

 

 まるで自分の事の様に怒っており、それはそれで嬉しくはあるんだが度が過ぎているのが玉に瑕だ。俺の為……というのは分かっている。だがそれで他の奴らに危害を加えるというのなら

 

「おー花衣、お前どうした? 新学期早々眠そうだな」

 

 朝から疲れた俺を見て焔は好奇心旺盛に声をかけられたが、生憎それに応じるほど体力は残っておらず、生返事で挨拶を交わした。

 

「朝から疲れるような事をされたかもしれない……」

 

「何言ってんだお前」

 

「あまり詮索はよした方が良いぞ、焔」

 

 後から俺を気を遣うように空が焔に声をかけてくれた。恐らくだが空は疲れた俺と朝から上機嫌なレイとロゼを見て何かを察したのだろう。

 

 空の反応を妙に思った焔は少し考えた後、途端に俺とレイとロゼの顔を交互に見ると、何か分かったのかムカつくにやけ顔を晒した。

 

「あぁ〜お前ら朝からお盛んだなぁおい」

 

「……うるさい」

 

「んだよ、羨ましい限りじゃねぇか。何でそんなに精霊の事拒むんだよ。好きなんだろ? しかもティアドロップとやる事やったし」

 

 デリカシーとか焔の中には無いのだろうかと心の中で突っ込んだ。だが、焔の言う事は傍から見た奴らの総意でもあるだろう。

 

 どれだけ手を伸ばしても手に入らない夢のような関係、恐らく俺が何を言っても彼女達は受け入れ、それを実行する事は間違いない。

 

 そして、なんと言っても俺を愛してくれる。

 

 自分を見てくれて、自分を肯定してくれて、自分に尽くしてくれる事に、恥ずかしながら嬉しく感じてしまう。

 

 傲慢で、浅ましいこの悦びをもっと感じたくて精霊達を求めてしまう事もあるにはある。

 

 そんな無限に続くループはまるで蜜を求める蝶だ。しかしその蜜は甘いが毒であり、そのような物を飲み続けてしまったらいつかその毒が無ければ生きていけない自分になってしまう。

 

 多分、ティアドロップ達はそれを良しとするし、そもそもそうなっても構わないのだろう。だけど俺はそうはなりたくない。もしそうなったら……多分母さんに顔向け出来ないと思うから。

 

「母さんとまた会った時の為に、情けない自分になりたくないから」

 

 節制と言えば聞こえは良いが、言ってしまえばプライドから生まれたただの抵抗だ。このちょっとのプライドでこの関係は成り立っている事を、さっきの言葉で焔と空は理解したのか、顔を見合わせた。

 

 だが一瞬、焔と空の表情が曇った様に見えたのは気の所為だろうか……? 

 

「そっか。まぁ、程々にしろよ? にしし」

 

 やっぱりさっきのは気の所為か疲れから出た幻覚だろう。焔はいつも通り笑い、談笑を続けていると教室の扉が開かれると、黒髪で髪を上げ、スーツを着た担任の女先生が教室へと足を踏み入れ、朝のホームルームが始まるチャイムが鳴った。

 

「はいはーい。皆席に着いてー。朝のホームルームを始めるぞ〜。夏休み明けだからって遅刻した人は居ないよね〜?」

 

 教室を見る限り、不自然に机が2つ空いているから2人欠席しているのだろうか? 

 だがクラスメイトの方は全員揃ってはいた。あまり関わりは無いが、顔は覚えている為それは間違いない。他のクラスメイトも空いた2つの机が気になり始め、1人が手を挙げた。

 

「先生! 2つ席が空いてますがもしや……」

 

「ふっ、勘のいいガキだね。そう、なんとこのクラスに転校生が来ます。しかも……2人とも女性だ」

 

 何故だろう、デジャブを感じた。

 転校生が女性と知った男子クラスメイトは咆哮をあげ、歓喜のあまり泣いていた男もいた。

 

「うっうっ……レイちゃんとロゼちゃんはあの花衣に取られたが、いよいよ俺達にも暖かい春が青春やってくる!」

 

「絶対モノにしてやるからなぁ!」

 

 こういっている奴はいるが、もし俺の予想が正しければこいつらの期待をズタズタに引き裂く事になるかもしれない。

 

 今のうち冷たい眼差しで見られる覚悟をしておき、先生は騒ぎ立てる男達を止めた。

 

「はいはい。じゃあ紹介するぞ〜入っていいわよ」

 

 そうして教室に入ったのは、銀髪で前髪の毛先が紫のポニーテールの褐色肌の女性と、同じく銀髪だがショートヘアーで前髪の先が緑色の女性が姿を現した。

 

 どちらもクールビューティな出で立ちで男も女も興味を惹かれ、その目を奪われていた。

 

 焔と空に関しては目を丸くさせ、これから起こる事を予感したか焔は十字を作って俺に手を合わせていた。

 

 あのジャスチャーは南無三という言葉と同じ真意味合いだ。多分、手の向こうではめちゃくちゃ笑ってるに違いない。

 

「おぉ……めちゃくちゃ可愛いじゃん」

 

「俺、あのショートヘアーの子が好みだなぁ」

 

 ヒソヒソと2人の事を喋っているクラスメイトをおいて先生は早速黒板に2人の名前を書いた。

 

「じゃあ紹介するぞ。アザレア・スペクトラムとカメリア・スペクトラム。姉妹で双子らしい。じゃっ、軽く挨拶して」

 

「アザレア・スペクトラムだ。よろしく」

 

「カメリア・スペクトラムだよ。気楽にカメリアって呼んでね」

 

 本当に軽く済ませた挨拶だが、カメリアが最後にウィンクをしたせいと声を聞けたのがそんなに良いのか、クラスメイトの興味はさらに深くなった。

 

 特に男子陣の興奮は抑えきれず、動物のように吠えていたのが大多数を占めていた。

 

「はいはーい! 2人ともって恋人はいるのー?」

 

 クラスの女子1人がそんな質問をした途端、男達は生唾をのんで答えを待ち、俺は頭を抱えた。

 

「恋人は……」

 

 アザレアとカメリアは俺の方に目を向け、ゆっくりとこっちに近づいていく。アザレアとカメリアが俺の席の前に立つとクラスメイトはざわめき、俺は冷や汗をかいて2人から顔を逸らした。

 

 しかし、アザレアが右手、カメリアが左手で俺の両頬に触れて顔をあげさせると、クラスメイトに見せつけるように体を密着させた。

 

「この人が私の恋人だよ」

 

「違う。ボクのマスターだ」

 

 2人が俺の頬に軽く口付けをし、それが起爆剤となって教室を震撼させた。

 

「「またお前か花衣いいいいいい!!!!」」

 

 最早声にならない叫びで教室は震え、血涙を流しそうな勢いで迫ってきた。

 

「何でお前ばっかり良い思いするんだぁぁぁ!」

 

「おい見たかレイちゃんロゼちゃん! こいつ君達の様な子がいながら2人も股にかけているんたぞっ!? 最低だよなぁー?」

 

 俺への文句どころかこれを機にレイとロゼのよりを掴もうとしている下衆な奴まで現れた。

 

 だが確かに傍から見ればごもっともな意見で何の反論も出来ず、ただ黙る事しか出来なった。名前を呼ばれたレイとロゼは立ち上がってクラスメイトを押しのけ、俺の席に立った。

 

 教室の片隅が修羅場となってクラスメイトは俺が破滅する期待なのか心を踊らせており、レイとロゼはアザレアとカメリアの目を睨んだ。

 

「何言ってるんですか? 花衣さんは私の恋人ですよ」

 

「違う、私の」

 

「私のだよね、花衣」

 

「気安くボクのマスターに触れるな」

 

 4人とも見えない火花を散らして俺の取り合いが始まり、それぞれは俺を取るためにありとあらゆる手を使った。俺の頭に胸を置いたり、わざと腕を胸に挟み込むようにして抱きついたり、俺の視線を自分に向かわせるようにして頬を手で覆うようにしたり、耳元で囁いたりと、五感の全てが閃刀姫達に支配される。

 

 予想外かつ俺だけ得している状況にクラスメイト(主に男子)の怒りは爆発した。

 

 ある者はシャーペンを握り、ある者は教科書を持ち、ある者は椅子を持ち上げて怒り狂っていた。

 

「野郎共! あの甲斐性なしな四股クソ野郎をぶちのめすぞぉぉ!」

 

「おおおお!!」

 

「よーし、野郎共はさておき授業始めるぞ〜」

 

「この状況で!? 止めろよ教師なんだから!」

 

 結局、この騒動は閃刀姫達の冷たい眼差しによってかき消され、いつも通り……いや、酷く心に傷を残した男子生徒達の涙をすする音が消えないまま授業が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 そして、あっという間に放課後のHRの時間にになってしまった。いや、本当にあっという間だった。授業の度に閃刀姫達の関係やらとやかく詰められるわクラスメイトの男子陣から殺されそうになるわでもう嫌になる。

 

 だが、初日がピークと考えたら気が楽になる……のか? まぁ少しはマシになる事は確かだ。転校生との恋愛にチャンスが無いと悟った男性陣は、朝の活気が嘘かのやうに消沈しており、もはやお通夜の状態だった。だか時間は個人の意思なんて気にせず、担任の教師がHRの為に教室に帰ってきた。

 

「うおっ、なになに? 誰か死んだ見たいな雰囲気じゃない」

 

「俺達の青春が死にました……」

 

 男性陣は俺を睨んだり、俺にくっ付いている閃刀姫達を見て血涙を流しながら机に顔をめり込むほどに突っ伏していた。なんかすまないと思っているが、声に出して謝罪したらそれはそれで男性陣の怒りを買う事は火を見るより明らかな為、痛い視線を受け続ける事にした。

 

「何言ってんの。まぁ、そんなことは良いとして……文化祭の事について話していくわよ」

 

「文化祭……そういえばそんな時期だっけ」

 

 秋の学校と言えば、文化祭という一大イベントが生徒に注目されている。

 

 去年の俺は文化祭をあまり積極的に参加せず、準備は最低限しかせず、当日は適当な理由を付けて欠席していたからだ。

 

 あの時の俺は、何故か参加する気にはなれなかった。確か焔が誘ってくれた記憶はあれど、それを蹴った記憶しかない。

 

 だが、今年は目一杯参加しようと思う。よくよく考えたら、3回しか参加出来ない貴重なお祭りなんだ。参加しないと勿体ない。

 

「文化祭は来月開催で、各クラスは出し物を来週までに提出する事が決まってるわ。その為、放課後のHRでは出し物の決定やその準備に充てられます。という訳で、出し物の案がある人は?」

 

 これには女性陣が中心に多く手を挙げ、手を挙げられた人物から自分がしたいもの、やりたい出し物をポンポン出していった。

 

 文化祭では定番のお化け屋敷、小さなアスレチック、はたまた分工芸や、飲食を扱う案も出てきた。そこで出てきたのは……

 

「はいはーい! 私、コスプレ喫茶やりたいです〜」

 

「コスプレ……だとっ!?」

 

 その言葉に複数の男性が顔を上げてレイ達の方を見ると、頭の中の煩悩が目に見えるほど荒々しい息を吐き、いやらしい目線に気づいたレイ達は体を震わせた。

 

「コスプレねぇ〜結構高いわよ?」

 

「そこは……役割分担って感じで」

 

「そうそう! 皆で役割分担すれば行けますって! なぁ皆!?」

 

「そりゃあそうだな! 役割分担すれば、レイちゃん達の閃刀姫コスプレが見られる……ぐふふ……」

 

(閃刀姫のコスプレというか……本人なんだけどな)

 

 精霊が見えない奴らが実態化した精霊を見る際、認識障害という物で精霊が精霊とは認識出来ない状態になっている。

 

 例えば、今みたいに閃刀姫ーレイが目の前で見えているのに、本人から見れば、閃刀姫ーレイとは似ているが、決して本人とは思えない、思われないという事だ。

 

「でも大丈夫なのか? 流石にカードイラストと同じ服装で居たらバレるんじゃないのか?」

 

「ご心配なく、服が同じでも認識出来なければ問題無いので」

 

 誰にも聞こえない程の声でレイはそう言い、精霊本人が言うのなら間違いなく、一先ずは安心した。そうこうしている内に、大多数の奴らがコスプレ喫茶に賛成意見が多く、コスプレ喫茶で確定した。

 

「それじゃ、このクラスはコスプレ喫茶で決定ね。んじゃ、今日でHRは終わりよ。みんな、お疲れ様」

 

 挨拶らしい挨拶をして、ようやく放課後となり、クラスメイトは部活や帰宅に勤しんだ。こっちは部活とかは入っていない為、直ぐさま帰る事になる。

 

 もちろん、レイ達と一緒にだ

 

「花衣さーん! 一緒に帰りましょ! あ、それともどこかに遊びに行きますか? デートしますか? しますよね!」

 

 真っ先にレイが目を輝かせながら放課後デートしたいとどさくさに紛れて言ってきた。

 

「最後何故かやる事になってるぞ」

 

「拒否権があると思う?」

 

 後ろからロゼが抱きつき、拒否したらどうなるか分からないと言っているような暗い目をしていた。こんな目を向けられたら付き合う以外の選択肢は無い。

 

「……どこに行くんだ?」

 

「ゲームセンターです!」

 

 

 

 まさかの意外な所に連れていかれ、周りのアーケードゲーム機の音が混ざりあったゲーセンへと入り、慣れない……というか初めての空間に戸惑ってしまう。

 

 だが、それと同時に好奇心も自覚出来、ふらっとクレーンゲームの景品を眺めると、驚くべき物があった。

 

「ティアドロップの……ぬいぐるみ?」

 

 確かにクレーンゲームのケースの中には、デフォルメされた六花聖ティアドロップのぬいぐるみがあった。ケースには大目玉景品と大きく表示され、抱き心地抜群と書かれていた。

 

 デフォルメらしさがある愛らしい3頭身に、丸い手足にもちもちしてそうな柔らかさが見た目で伝わっていく。

 

 欲しいという3文字の言葉が頭に浮かび、思わずポケットから財布を取り出し、100円玉を取り出そうとしたその時、後ろから白くて細長い指に手を止められた。

 

 それと同時に恐ろしい程に冷たい視線も背中に突き刺さり、ゆっくりと後ろに振り向くと、霊体化で他の人からは姿を見えないが、俺には見える恐ろしい笑顔を向けたティアドロップがいた。

 

 そう、ケースの中にある六花聖ティアドロップがだ。

 

「花衣様? 本物がここに居るのにも関わらずその様な物が欲しいのですか?」

 

「い、いや〜六花を使っている身としては気になるなーって……」

 

「そんなに抱きたいのなら私を抱きしめて下さい。私の方がそんな綿よりも柔らかくて温かいですよ?」

 

 ティアドロップは一瞬で体を実態化させると後ろから俺を抱きしめ、胸や腕の柔らかさを強調するように強く抱いた。

 

 背中越しから伝わるティアドロップの柔らかさと同時に、恐ろしいほどに怖い気持ちがひしひしと感じられ、俺何も言えずに冷や汗しか出なかった。

 

 だが、この後更に大変な事が起こる。何故なら、今はレイ達と一緒にゲームセンターに行っている。つまりは……

 

「なーにーをしているんですかー? 花衣さーん?」

 

 予想通り怒りに満ちた声を発したのは、怒りの炎を上げているレイで、その後ろにはレイと同じく怒りの炎を纏ったいるように険しい顔をしたロゼ達もいた。

 

「今は私達とのデート中ですよね? 浮気ですか? 浮気ですよね? 許される訳無いですよね? ね?」

 

「レイの言う通り。……うん、これはお仕置確定」

 

「そうだね。いくらマスターでもこれは容認出来ない」

 

「お仕置……楽しみ」

 

 やばい、全面的に俺が悪いから何も言い返せないし何も言えない。

 後ろにはさっきのクレーンゲームがあり、前にはティアドロップとレイ、ロゼ、アザレア、カメリアの5人に囲まれて逃げる隙間も無い。

 

「か、勘弁してくれぇぇ!!」

 

「お楽しみの所、申し訳ありませんが少し失礼します」

 

 この状況で声をかけられる胆力が凄まじいのは誰だと思いながら声をした方向に顔を向けると、この場では場違いなメイド服を着たドラゴンメイドハスキーがいた。

 

 ……いや、ハスキーなのか? 姿はそうだが、龍の角と尻尾が無く、普通の人間と全く変わりない姿で少し戸惑った。

 

「ハスキー……だよな?」

 

「左様でございます。……あぁ、角としっぽの事ですね? 人前に姿を表す時は隠しているだけです」

 

「それで……何の用だ?」

 

「精霊界への扉に関しての情報があったのですが……お取り込み中らしいのでまた後日ご連絡致します」

 

「た、助けてくれないのか?」

 

「お言葉ですが、一部始終を見た結果、貴方様が悪いと思われます。複数の女性と共にいる身であるのであれば、レイ様達を悲しみ、怒りを買った責任を取るべきかと」

 

「そういう事です。覚悟、して下さいね?」

 

 声にならない叫びを上げたその後、全員を満足させるまで家に帰して貰えなかった。

 

 その日は何をしたのか、何をされたのか、覚えてない。

 

 ただ分かっている事は、皆が満足したと言う事実だけだった。

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