六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
洞窟の中で、一匹……いや、一機の狐が何かを知らせるように吠えた。
電子音が混じった叫びと共に、閃花が俺の肩からレイの手元に飛び出すと、閃花の目から何かの文字列が表示された。
「これは……座標軸? ここに機怪神エクスクローラーがいるようですね」
「おお! 空の奴やったのか!」
まるで自分の事のように空の活躍に焔はガッツポーズをし、突破口を開けた事にここの空気が明るくなった。
「座標が分かっているのなら、マルチロールで一気にそこまで行けますよ」
早速レイがマルチロールを発動し、六角形のゲートが生まれた。
どうやらこれをくぐれば目的の場所にたどり着ける、言わばワープゲートの様な物なんだろう。相変わらずレイ達の使う機械は便利な物が多い。ここに空がいれば、静かに興奮して原理やら技術を解析しようとしていただろう。
「だったらすぐにでも行こう」
その時だった。向こうにある壁がいきなり崩れ去り、その向こうで赤い光が徐々に増え続け、その光で淡く黒い装甲や、黄金色の装甲、そして虫を連想させるフォルムが映し出された。
「クローラー!? もうこんな所まで来たのか!」
「あぁもうめんどくせぇなおい!」
迫り来る1体のクローラーに向けて炎の刀を突き刺した焔は、燃え盛るクローラーを刀を突き刺しながら投げ飛ばし、炎が引火して壊された壁の向こうにいたクローラー達も引火して爆発したが、また更に別の壁が壊され、上からもクローラー達が降りていく。
蟲惑魔やナチュル、そして六花達も総動員してクローラー達を迎撃したが、多勢に無勢だった。
クローラー単騎の性能はそこまででも無いが、これだけの数の差ならその性能差も無いに等しかった。
「花衣様、レイ達と一緒に行ってください! ここは何とかします!」
ティアドロップはこう言ったが、聞き入れらず首を横に振った。
「出来るわけ無いだろ! お前達も一緒に……」
「大丈夫です。貴方が元凶を倒し、この状況を変えることを信じてますから。だから私達が貴方を守る為にここで戦います」
「でも……」
ティアドロップ達六花の力は知っている。何度も助けて貰ったのだから。だが不安だけが雪のようにつもり、どうしても信じきることができなかった。
ティアドロップの方は俺の事を信じていると言うのに、信じきれない自分が憎い。
無条件で信じろと言い聞かせ、今すぐでも連れ出したい気持ちとティアドロップ達を信用したい気持ちが葛藤し、天秤のように揺れている所を、レイが腕を掴んできた。
「大丈夫ですよ。認めたくないですけど六花達は強いですから。貴方の為ならね」
「そういう事です。花衣様を任せる以上、傷をつけたら許しませんよ」
「安心してください。そんな奴らは全員始末しますから。さぁ花衣さん、早く!」
ティアドロップとレイの目を交互に見つめ、少し考える為に目を強くつぶり、天秤を傾かせた。
「……分かった。絶対に帰ってくる」
「ええ。待っていますよ」
最後の別れ何て言わない。絶対に帰る意志を胸に、レイと共にマルチロールから広がる白い空間へと飛び込んだ。
「焔様も!」
「はぁ!? 良いのか?」
「行きたい気持ちが見え見えですよ。譲って差し上げます。さぁ!」
「たくっ、良い女を持ったな花衣はよ!」
途中で焔もマルチロールに飛び込んだ瞬間、マルチロールは姿を消した。
マルチロールを通る道は白一色であり、足を動かさなくても勝手に前へと進む感覚は、言わば海の中で波の流れに乗って進んでいるような感じだ。
その感覚は一瞬で過ぎ去り、白い回廊から抜け出して別の洞窟へと抜け出した様だ。
焔も後からマルチロールから出た瞬間、ゲートが閉じて周りを見渡す。
さっき居た所と外観は何も変わっていない壁だが、何故か少し寒く感じた。敵の本丸に近づいた身震いだからと思ったが、焔のくしゃみでそれは違う事がわかった。
「ぶぇっくしょん!! なぁ、なんかここ寒くねぇか?」
「確かにそうですね。花衣さん、風邪をひかないようにする為にここは肌を寄せあいましょう」
最もらしい理由で笑顔のままレイは腕を引っ張り、寄せ合うどころか抱き合うかのように腕を背中に回し、力強く抱きしめてきた。
「うん、何となく予想は出来た」
「すぅぅぅぅ……はぁぁぁ。花衣さんを堪能できてこれ凄く好きです」
最早建前が意味をなさない行動に呆れ、レイは体に顔を擦り付けるにしていた所、レイの後ろからロゼ帽子越しにキツい目付きをさせながら近づき、レイを俺から引き離そうとした。
「レイ、今はそんな事羨まし……いや、無駄な事している暇は無い。生命には問題ない寒さだから、早く離れて」
「嫌だー! このまま花衣さんと一緒に暖め合いたいのぉぉ〜!」
泣き目になっているレイを無情にもロゼはレイをひっぺがし、レイはしぶしぶと地面にへたりこんで弱々しく泣いてしまった。
同情を誘う様な嘘泣きではなく、本気で泣いており、悪い事をした様な罪悪感に苛まれながらも、洞窟の寒さに改めて異常を感じた。
寒さに対抗する為に、焔がもう一度不知火の刀を炎を纏わせ、そこから暖を取るという本来の使い方では無いが便利な使い方を見せ、有難く不知火の刀に近寄った。
「ふぃ〜にしても地下ってこんな寒いのか? ここってどの辺何だ?」
ロゼがホーネットビットを使ってもう一度今の座標を確認すると、ロゼの目の前にはホログラムの地図が浮かび上がった。
「さっきの場所から数キロ地下に降りた場所。だけど、地下は普通は温かい所。こんなに気温が下がっているのは異常」
「え? そうなのか?」
「地熱勾配という、まぁ……貴方にも分かるように言えば、内部にあるマグマの熱のおかげで熱くなる。ここは大体地下700mだから30℃を超えるのが普通」
「ほへぇー」
焔のボケっとしている目でロゼは説明したことを後悔するように呆れていた。まぁ要するに、本来30℃を超える場所が逆に氷点下近くになっている気温になっているのは異常という事だ。
自然現象と片付けるのにはあまりにも無理がある事から、恐らくは外部的要因。この先にいるクローラーのせい……何だろうか。
見た目的にそんな事している奴らには見えないし、そもそもどうして洞窟内の気温を下げる必要があるんだろうか。
謎は深まるばかりだが、こうしている間にもティアドロップ達がクローラーの大群に抵抗している。
早くティアドロップ達を助ける為に、俺たちはとにかく洞窟の奥へと歩いた。
洞窟の奥へと進む度に寒さが強くなり、あまりの寒さからか白い息がする様にもなり、奥から冷気の気流が流れ込んで来た。
焔の炎が無ければ、これより前に凍え死んでいたかもしれない。細い道を抜け、大きく開けた場所に辿り着いたが目の前には暗闇が広がっていた。
焔の炎だけじゃこの広場全体を明るくする事は出来ず、見えるのは壁にへばりつく様に透明な何かがある事しか分からない。
明かりを付けるために、レイ達はほぼ全てのホーネットビットを周りに散らばらせ、全てのビットにライトを照られた瞬間、そこ照らされた洞窟はまるで水晶の中の様な景色を見せた。
そしてそれよりも、俺たちの動揺させた物が目に映った。
この氷の洞窟の奥に、黄金の装甲で脳や神経を型どった様な見た目をした機械が氷漬けにされていた。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」
一番に焔がこの氷の洞窟に大きく驚き、俺も氷の洞窟の美しさと何故あんな物が氷漬けになっているのかという恐ろしさで声を失った。
「あれが……クローラーに命令している奴か?」
「間違いないです。あれが機怪神エクスクローラーです。ですが……何故こんな」
「レイ、君が考えても何も分からない。ここはボクが調べる」
「むぅ……何も言い返せない」
勝ちを誇った顔をしたアザレアが氷漬けになった機怪神エクスクローラーに近づいたが、エクスクローラーが動き出す事もなく、赤い目が光り出すこともなかった。
氷に触れても、少しだけ衝撃を受けたとしてもエクスクローラーはうんともすんともしなかった。
何をしても大丈夫だと判断したアザレアはジャンプしてクローラーの頂上へと登り、そこにある赤いガラスの所にホーネットビットをかざしてクローラーの状態をスキャンした。
「これは……スリープモードになっている」
「え? じゃあ、このモンスターがクローラーに指示を出している訳じゃ無いのか?」
「いや、機能自体は生きている。つまり誰かがこの機怪神エクスクローラーの機能だけを使って指示を出している事になる」
「黒幕がいるって事なのか……?」
誰かがクローラーを使って蟲惑魔やナチュル達に襲いかかったという事か? 一体何のために?
まるで暗闇の中をさ迷っているみたいに謎が広がるが、セブン・エクリプスが関与している事は確信していた。
その時だ。焔の刀に纏った炎が突然燃え盛り、洞窟の奥に何かを見つけたかのように向かっていった。
焔が何か見つけたかと思ったが、焔自身も驚いており、どうやら不知火の刀が勝手に動き出したようだ。
渦巻く炎が洞窟奥へと迫ると奥の通路から氷の冷気が炎を飲み込むように衝突した。
炎と氷なら氷の方が溶けるはずなのに炎と対抗した氷は炎を押し返し、冷気が焔を足を凍りつかせた。
「なんじゃこりゃあああ!?」
足を凍らされた焔は無理やり剥がそうとしても、氷は焔の足を掴んでいるかのように全く動かなった。
追撃を受けない様にレイ達を焔の前に立たせ、俺は急いで足にまとわりついている氷を壊そうとしたが氷はまるで壁と思わせるように硬く、逆にこっちの足が折れそうな程だ。
焔も不知火の刀から氷を溶かす程度の炎を出しても、氷は一切溶けず、その姿を保った。
「なんだこの氷は……本当に氷なのか!?」
「その程度の炎じゃ溶けるわけ無いでしょ」
どこからともなく揶揄う様な口調が洞窟内で響き、閃刀姫達は武器を取り出し、何処からでも対応出来る構えをとっていた。
声はまだ笑い声を出しており、いつ来ても攻撃は来ない。緊張感と焦りだけが積もっていき、俺達のそんな姿を馬鹿にするような笑い声は止まなかった。
「あっははは! 困ってる困ってる! 人間をおちょくるのは楽しいわね!」
「馬鹿にするなっ!」
アザレアが声を出した方角に赤い斬撃を飛ばしたが、そこには誰も存在せず、斬撃は氷の壁を壊すだけだった。
「鬼さんこちら♪ 手の鳴る方へ〜♪ あはははは!!」
まるで子供を相手にしているような無邪気な笑い声が洞窟の中で反響し、右や左、上から下へと全方向に聞こえ、馬鹿にしている笑い声はアザレアの神経を逆撫でし、アザレアは無造作に大剣の閃刀を振り回したが、大剣は空を切るだけで何も成すことは無かった。
「クソっ! どこだ!」
「こっちだよ」
「いやいやこっちだよ」
「こっちかもね〜あははは!」
声がどんどん増え続けてしまい、声から場所を特定するのが難しくなっていき、姿さえも見つからない。
別の場所から声を出している……いや、それは無い。何故なら、アザレアの事をからかっている様子を見ているような笑い声を出している声色から、近くで見ているのは確かだ。
つまり相手は透明人間の様に姿を隠す事ができるという事だ。だとしても状況は変わらない。何か姿が見える方法は無いかと模索するその時、俺の目に別の影が映りはじめる。
ゆらりと空中に漂う黒い人影のような物が、アザレアの周りを漂っていた。
「「正面だアザレア!」」
俺は焔と同時に全く同じ言葉をあげ、驚きでお互いの目を向けた瞬間、アザレアが正面に剣を槍の様に突き刺した。
やったかと思ったが影は寸前で攻撃を避け、アザレア本人も手応えを感じなかった顔をした。しかし、初めて掠めた事で影は動揺している様に動いていた。
「花衣、お前あの青白い人魂見えてるのか?」
「人魂? 黒い影じゃないのか?」
違うやつを見たと考えたが、それだと同じ位置を同時に言う事は出来ない筈だ。俺と焔だと見ている姿は違うが、同じ『何か』を見ているのは間違いなかった。
その『何か』は少しづつ形を得るように姿を現し、まるで死装束の様な白を基調とした着物をまとい、雪のような白い髪をなびかせて不敵な笑みを浮かべて顔を見せた。
その顔は、俺や焔にとっては信じ難い顔であり、氷の洞窟となったここの寒さを忘れる程の衝撃だった。
嘘だと何度も心の中で叫びだし、心臓に氷を触れたかのような冷たさが体を襲いかかり、本当に体が凍りついたかのように動けなかった。
だがその沈黙は焔のある名前によって解かれることになる。
「霊香か……?」
霊香。花音と一緒に連れていかれた1人であり、今まさに目の前にいた。
「そうよ、久しぶりね焔。そして……本当に貴方ってあの閃刀姫達と一緒に居るのね、私が見たあの霊体の正体は貴方達……今はいないけど六花達もそうでしょ?」
そうだ、確か霊香は『除霊家』という聞いたことない家系の生まれから、霊感がかなり強い。その為、霊香は精霊が見えないが、それを霊体として見る事が出来た。
だが、俺の知っている霊香とは随分と印象が違う。俺の知っている霊香は感情を表に出さず、かなり寡黙な性格をしていたが、今目の前にいる霊香はまるで子供の様に無邪気であり、独り善がりな性格だ。
しかもあの人を見下している笑みは、とても霊香がしているとは思えないが、顔はまさに霊香そのものだった。
「何やってんだよ……何やってんだよお前っ! あぁっ!?」
怒りと困惑が混じったありったけの声を上げた焔の顔は信じられない物を見たような目だった。
あんな焔の顔は見た事なく、恐らく俺も焔と同じような顔をしているだろう。
焔の目の前に移る霊香は地面から足を離して空中を漂い、自分を見あげている人間を更に見下すように寝そべった体勢を取った。
「何よ煩いわね。私は生まれわかったのよ、もう誰にも縛られない、誰の操り人形にもさせない。私は自由にこの世を生きるのよ!!」
高らかな笑い声を出しながら霊香が氷の嵐を吹き荒らし、俺と閃刀姫達の足も下からじわじわと凍りつきはじめ、徐々に氷が体へと登っていく。
このままではあの霊香に凍りつかされてしまう。いや、その前にあまりの寒さに手足の感覚が無くなり、氷漬けにされる前に凍死してしまう。
「花衣さんを……離せっ!」
レイの頭上にマルチロールが現し、そこから炎を纏った8つの赤い剣がレイの前に地面を突き刺さした瞬間、赤い剣から放たれた炎がレイを包み込み、レイは皮膚に火傷を負い、喉が焼かれながら苦しい声を上げていた。
「あっ……あ”っっ……ぐっ……!」
耐えに耐え、じわじわとレイの体に纏った氷が溶けていくと同時に氷を壊して燃え盛る大剣に手を取った瞬間、炎は大剣へと移っていき、レイのボロボロの姿が瞳に映る。
しかしレイは赤く染まった閃刀にさっき召喚した剣を纏わせ、巨大な大剣を作り上げ更に燃え盛る炎を纏わせた。
「アフターバーナー……イグニッション!」
大剣から出る炎が赤から青へと変わり、あまりの熱量で氷の壁や俺達を纏った氷も溶け、その代償と言わんばかりにレイの体が燃え始め、もはや火傷では済まない状態だった。
限界まで出力を出したアフターバーナーで霊香を倒そうとしているが、それでも霊香は余裕の笑みを浮かべた。何故なら、自分は倒せないと確信しているからだ。
「私を倒すつもり? 一応、焔の友達……なのだけど?」
「くっ……!」
レイはアフターバーナーの炎を沈め、傷で体力が持たずに膝をついてしまった。
それを霊香は無様だと笑いながらレイの金色の髪を右手で掴み、霊香の左手から白い冷気が溢れ出た。
「あら、随分と熱くなったわね。熱中症になったらダメだから冷ましてあげる」
左手をレイの体に触れると、触れた箇所からゆっくり霜がレイの体を蝕むように広がった。
「くっあっ……ああっ!!」
あまりの極寒に悶えたレイを助ける為に俺達は直ぐに飛び出したが、霊香はつま先で地面を叩き、氷の波をたたせた。
氷の波はまた俺達の足を凍らせ、身動きが取れなくなった。
「くそっ! またかよ!!」
「レイ!」
足を引き裂いても助けたいのにも関わらず、足が動けない無力感で心が引き裂かれそうだ。早く、早く助けないとレイの命が落としてしまう。
「貴方達はそこでこの子が氷漬けにされる瞬間でも見なさい。閃刀姫の氷の標本……良い画になると思わない?」
「っつぅぅ……あっ……っ、あああああ!!」
必死に逃げようともがくレイの体が動かなくなっていく姿を目に焼き付かれた瞬間、俺の中の何かが溢れだした。
助けないと、助けないと、もっと力が欲しい。今ここで全てを覆す力が……欲しい!
_ならその力、解き放とう
謎の声と共に、何かを繋ぎとめた鎖が解き放った様な音がした瞬間、黒い衝撃と共に俺の足を封じた氷をガラスのように砕け散った。
そして体の底から湧き上がるマグマのような煮え立ちを吐き出すかのように吠える。
「グルゥオオオオオオオオオ!!!!!」
最早それは人の叫びでは無く、かといって獣の様な声でも無い。
怒りを、憎悪を、復讐を、心の闇を解放する咆哮は霊香の本能を恐怖へと落とし込み、霊香は引きつった顔で俺の顔を見た。
いや、霊香だけじゃない。ここにいる全員、俺に対して恐怖に満ちた顔を向けていた。
「お、おい……花衣。どうしたんだ?」
「これ……あの時の! 花衣、落ち着い……」
最早誰の声も聞こえなかった。立ちはだかる焔とロゼを突き放した。
霊香の中の防衛本能が無意識に体を動かしたのか、レイを手放し、両手から一際大きな冷気を吹かせたが、今の俺にとってはつむじ風の様な弱さに感じた。
右手で埃を払う動作でつむじ風を吹き飛ばし、霊香のにやけ顔を黙らせた。
「何よそれっ……!」
逃げようとする霊香を追いかける為に足に力を入れ、地面が抉る程の跳躍で霊香の喉元まで追い詰めようとしたが、急に頭が割れるような痛みに襲われる。
「ガッあああっ!! ぐあああああッッッ!!!」
その場でひざまつく様に倒れながらも、俺はレイや皆を傷つけたヤツを許さない怨念や憎悪のみで痛みに堪え、獣のように這いつくばりながらも霊香に足を向ける。
衝動が止まらない。まるで自分自身がそう望んでいるかのように何もかも破壊したい本能が溢れ出す。
_止めなさい! 貴方はそんな人じゃない!
また謎の女の声が聞こえる。だが聞こえると同時にまた頭が、いや全身が引き裂かれそうな痛みがまた襲いかかる。
こいつなのか? こいつが、この声が俺を苦しめているのか? だとしたら、俺がこの声を聞く理由は無かった。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!」
声を聞こえなくするように叫びあげ、そのまま霊香に向かい、右手を巨大な影に覆われた爪へと変貌したその時だ、焔がいつの間にか目の前に現れ、俺の爪を刀で受け止めた。
「馬鹿野郎! 何やってんだお前!」
「ぐっ……! どけ! どけ! どけぇぇぇ! お前も敵か!?」
敵なら容赦はしない。左手も右手も同じように黒い鉤爪へと変化させ、そのまま目の前に男を切り刻もうとするが、男は超人的な反応で攻撃をいなし、反撃の隙を見定めていた。
まさに剣豪という名に相応しい力比べでも互角で刀と爪の鍔迫り合いが続いた。
「お前……本当に花衣か? 別人みたいだなおい」
「別人? 俺は俺だ! 他の誰でも無い! さっさとそこをどけ!」
「やなこった! ちょっと熱くなるが我慢しろよ!」
男は刀から炎を出すと、炎は俺の左手を掴むようにした。
左手が熱く、このまま骨まで焦がす程だったが、今の俺にとってそれは些事なことだった。
炎を振り解き、目の前の男を殴りつけるが男も抵抗して刀で拳を防いでくる。
「んの野郎……好い加減目を覚ましやがれ!」
いきなり目の前にいる男が頭突きを繰り出し、額に痛みが滲み出ると同時に俺に攻撃したその生意気な行動に怒りも溢れ出した。
もう手加減はしない。向こうにいるあの白い女諸共切り刻む程の力でねじ伏せようと右手に力を溜める。
そして俺は考えた。アイツに勝つのなら、絶望しながら死んで貰おうと、右手をかざすと手のひらから黒い火種が生まれ、そこから全てを燃やし尽くす様に巨大な黒い炎が燃え盛った。
「おいおいマジかよ……」
無から炎を作り上げた事を見てなのか、それとも自分よりも猛々しく燃える炎を見てなのか、男は一瞬怖気付き、足を一歩後ろに下がった。
一瞬だが相手が絶望する顔というのは見ていて気分が良い。もう少しだけ見ていたいが、あの炎はそれ以上に鬱陶しくもあり目障りでもある。
今すぐこの黒い炎であの炎を飲み込み、奴を消そうとしようとしたその時、右足をボロボロの金髪の女性が掴んだ。
「ダメ……で……す、か……いさ……」
そしてそれを皮切りに、3人の女が俺の前をはばんだ。
「花衣! もうやめて、元の花衣に戻って!」
「そんなマスターは見たくない!」
「こんな花衣、好きじゃない。これは嘘じゃない」
「何なんだお前……らっっ!?」
この女達を見た瞬間また急に頭痛が襲いかかり、しかも胸の辺りも苦しく吐き気がする。こんな姿を見た3人は俺に寄り添ってきた。
意味が分からない。誰なんだこいつら。いや、こいつらは……俺の……俺の……
_思い出して!
「ロゼ……アザレア……カメリア……レイ!」
頭痛と胸の痛みが消え、身体中から疲労感がドッと押し寄せて思わず手足をついてしまう。
身体中の血液が抜かれる様な倦怠感と、意識が強引に引っ張られた様な感覚が目眩を起こし、レイ達の姿があまり見えない時間を過ごした。
「レイ……そうだ! レイ!」
彼女の名前を呼んだ瞬間、俺の記憶にあったボロボロのレイの姿がフラッシュバックし俺の足元で倒れたボロボロになったレイを抱えた。
「大丈夫かレイ!?」
「あ……良かった……元に……ゴホッカハッ! っあ……あっ……」
レイが喋った瞬間急に苦しみ始め、身体中にある火傷と凍傷がレイの状態の酷さを物語っていた。
「もう良い喋るな! ……そうだ! アロマ達なら!」
六花達は置いていったが、アロマ達はデッキの中にいる事を思い出し、急いでデッキからアロマ達を出そうとしたその時だ。俺達が来た洞窟の通路から、機械の足音と赤い光の目がこちらに迫ってきた。
間違いない、クローラーの大群だった。まだ居るのか、それとも地上にいた奴らかそれともティアドロップ達が……いや、それは無い。六花達なら大丈夫だ。
大丈夫じゃないと思わないとこの先戦えない。理由がどうあれクローラーの大群が迫って来るなら迎撃も視野に入れなければならないが……クローラーの反対方向には、霊香がいる。
「あらあら楽しそうな事になってるじゃない。この場を利用して貴方達を……」
「やらせるかよ!」
霊香の妨害を焔がようやく霊香喉元にくらいつけた焔が遮り、霊香は俺達の攻撃を止めてどこからとまなく青く氷を纏った薙刀が出現し、焔の刀を受け止めた。
「花衣! 早くレイを治せ!」
「っ……ありがとう、焔!」
「何よアンタ……邪魔くさい!」
残りは向こうにいるクローラーだ。ロゼ達だけじゃなく、アロマの中で戦闘力が高いベルガモットを呼び出し、少しでも多く戦力を割くためにカナンガも呼び出した。
呼び出した2人はさっきの事を聞いたのか、多くは聞かずに戦闘態勢を取った。
「2人とも、大丈夫か?」
「心配するな、任せろ」
ベルガモットはそれ以上言わず、笑顔を見せて親指をグッとあげた。頼もしい兄貴とはこの事だろうか。
「僕はベルガモットさん程強くはありませんが、何とかしてみせます」
「頼む。ロゼ達も行けるか?」
「任せて、でも絶対にレイを助けて。じゃないと、
俺ではなく、アロマのカードに向けてそう言ったロゼが閃刀モードへと切り替わり、黒いマスクとスーツを身にまとい、先陣を切ってクローラー達を殲滅していく。
アザレアとカメリア、そしてベルガモットとカナンガもクローラーの大群へと向かっていった。
この隙に残りのアロマ達を呼び出し、レイを治療を始めさせた。アロマ達が杖を掲げると黄金の光から黄金色の柔らかい風がレイを包み込み、少しづつだがレイの体から火傷や凍傷の跡が消え始めた。
治療が聞いている事に安心したのも束の間、霊香を抑えていた焔が若干押されていたのが見えてしまった。
「あはは! やっぱり私が倒せないのね! お人好しのお馬鹿さん!」
薙刀を攻撃を防ぐだけの展開になっていた焔は、一切攻めに点じようとはせず、ひたすら霊香の攻撃を防ぐ一方だった。
「……やっぱそうか。お前、霊香じゃねえな」
「何言ってるの? この顔を忘れたのかしら? バカ焔」
「へったくそな減らず口だな」
焔は何か吹っ切れたのか霊香に対しての攻撃を強め、薙刀との鍔迫り合いを制し、霊香の体勢を崩し、膝を着いた霊香に切っ先を向けた。
「お前、雪女だろ。魔妖のな」
「魔妖って……嘘だろ!?」
「……気持ち悪、何で分かったの?」
霊香……いや、雪女と言われた彼女はオエッと吐き気を催しているかのように舌を出し、焔のことを嫌っていた。
という事は、霊香は精霊という事なのだろうか? もし魔妖の雪女=霊香だとしたら、何故霊香は魔妖の仲間である妲己のところに居ないんだ?
いきなり雪女というモンスターの名前が出てきて頭が困惑するが、焔は話を続けた。
「妲己が言ってたんだよ。雪女はある女の魂にいるってな。そして、その女は俺と知り合い……だとしたら、お前しかいねぇんだよ」
「あぁあの女狐が……まだ生きていたなんて驚いたわ」
「おい答えろ。霊香はどうした! そしてなんで俺らの邪魔すんだ!」
「……それはね」
「私のお友達ですから」
霊香の横に黒い影が現れ、焔の前に黒い光が鋭利な針のように焔に襲いかかった。
焔は体が勝手に反応にしたかのように無理な体勢で針を刀で弾き返したが、その隙に霊香は焔から離れてしまった。
さっき聞こえた別の女の声は……間違いないアイツ……ウェルシーだった。
「お久しぶりですね花衣さん。あら? 六花さん達はいらっしゃらないのですね。ふふ、これは好都合です」
黒い影から黒いローブを纏った女性が現れ、その姿を見たアロマージ達はウェルシーに怒りに似た感情を見せた。
「あの人、私達の庭や森を壊した……」
「あら、アロマージ達はいらっしゃったのですね。居ても居なくても同じですけどね」
「何だと!!」
ウェルシーの言葉に怒りを買ったローリエが無謀にもウェルシーに向かおうとしたが、マジョラムがローリエの前に手を伸ばし、歩みを止めた。
マジョラムも故郷を壊された怒りがある筈なのに、マジョラムはかなり冷静だった。
いや、良く見るとマジョラムの腕は震え、唇を噛みしめていた。マジョラムも悔しいんだ。ローリエの様に故郷を壊した張本人を許せない筈だが、力の差は歴然だ。
その事を分かっているからこそローリエを止めたんだ。今度こそ何も失わないように。
「お前、何しに来た!」
「貴方に会いに来ました」
「とぼけるな!」
「事実……ですけどね。残念です、じゃあこう言えば良いですが? 貴方達が言う扉を守りに来たのと、お友達を助けに来ました」
悲しげな声色で仕方なく言わされた様に喋ったウェルシーはそう言って指を鳴らすと、奥にいた機怪神エクスクローラーが赤い光を灯して起動音を鳴らし、その目を覚ました。
「お前がクローラーを操っていたのか!」
「そのように調整したのはポルーションさんですけどね。貴方達にとっての空さんみたいなものです」
「アイツと空を一緒にするな!」
「同じですよ。機械を愛し、自分の技術を駆使して貴方を助けた。空さんも貴方を助け、ポルーションさんも今私達を助けています。同じじゃないですか」
「違う! 空はアイツの様に人の命を奪ったりしない! 一緒にするな!」
「随分とお友達が大事なのですね。では、こちらの方にご登場致しましょう」
ウェルシーが指を鳴らすと、ウェルシーの影から黒い蕾の様な物が生え、蕾がゆっくりと開いた。
蕾の中には人が倒れていて、白い服に薄い緑色の髪をした女性が倒れていた。
「か……のん?」
蕾の中にいた女の名前を呼んでも花音は倒れたままだった。それどころか、花音の髪はボロボロで肌も傷つけられ、虚ろな目は何処でもない何処かを見ていた。
そんな魂が抜けた様な哀れもない姿の花音をウェルシーは花音の長い髪を掴み、仕留めた獲物を見せるようにした。
「はーい、こちら貴方の大事な大事な友達の咲染花音ちゃんですよ〜。感動的な再会に拍手しましょう〜!」
拍手なんて誰もするはずが無い。帰ってきたのは怒りに満ちた沈黙であり、拍手の変わりに拳を返したい気分だ。
「お前……花音に何をしたんだ!」
「何をって、お友達になりませんかって言ったら、この人はそれを否定し続けたんです。『花衣さんが必ず助けに来る。貴方達の様な酷い人の友達なんてなりません!』って言ったので、少しお話をしただけですよ」
花音の真似をし、悪びれもない言い方で更に怒りが沸き上がる。更にウェルシーはボロボロの花音をわざと見せつけるかのように投げ捨て、俺達の怒りを煽るように笑った。
見え見えの挑発だと言うことは分かっている。けれど、怒りが溢れるのが止められず、拳を握りしめてその怒りを抑える。その怒りを潰すかのように。
だが、怒りは伝染するかのように焔も唸り声が聞こえる様な声を荒げた。
「霊香もお前のせいで洗脳された訳か? だとしたらお前らを許す訳にはいかねぇぞ」
刀を振り、雪女では無くウェルシーの切っ先を向けた。自分を倒す炎を向けられているのにも関わらず、ウェルシーは飄々とした態度を貫き、焔の言葉を聞いた雪女は、何がおかしいのか高らかに笑った。
「うーん……ちょっと違いますね。霊香さんは自分の意思で雪女さんに魂を譲ったのです。ふふ、やはり私の思った通りの人です」
「そうよ。あの子は自分の意思で私に魂を売ったのよ。もう誰にも利用されないようにね。あははは!」
「自分の意思だぁ? そんな訳無いだろ馬鹿野郎!」
「そんな事ない? アンタがこの子の何が分かるのかしら? 何も知らない癖に、よくそんな言葉が言えるわね」
雪女はけたけたと笑い、地面を軽く叩いて体を浮かせ、見た目的にも、心でも上から目線を貫いた。
確かに俺達は霊香のことを何も知らない。家の事、学校の事、自分の事……霊香が何も言わないだからと言って、俺たちは霊香の事を何も知らずにいた。
もしかしたら本当に雪女やウェルシーの言う通り自分の意思で魂を売ったのかと疑惑が持った中、焔は頭を掻きむしり、憂さ晴らしをするかのように叫んだ。
「だァァめんどくせぇ! 嘘かどうかは霊香に直接問い詰めれば良い! その為に、お前らをまずぶっ飛ばす!! だろ!? 花衣!」
悩みを吹き飛ばす炎……もしくは太陽の様に明るく脳天気な笑みを見せた焔を見て、俺も分からない事を考えるのを止め、頬を叩いて意識を立ち直らせ、疑惑を断ち切る。
「そうだな……焔の言う通りだ」
「そうですか。なら、穏便にデュエルで事を片付けましょう」
ウェルシーが指を鳴らし、俺たちを囲う鳥籠のような物を作りあげようとした。
ロゼ達といる空間が切り離されてしまい、この暗闇が広がる世界には俺と焔、ウェルシーと霊香の魂に乗り移った魔妖の雪女、そして倒れた花音だけだ。
デュエルが始まる前、俺達はレゾンから提供された技術で作り上げたデュエルディスクを装着し、頭から耳にかけて繋げるデバイスを装着すると、俺達の目にはフィールドとデッキの枚数などがホログラムで映し出される。
「これがあいつらに対抗する為の力だな」
「見た目は普通のデュエルディスク……だが、このデュエルディスクは精霊の力をダイレクトに伝える力があるって言ってたな」
この蟲惑魔の森に行く前に、ドラゴンメイドから渡されたレゾン特製のデュエルディスクの説明を受けた。
それによると、このデュエルディスクは限定的に精霊界へと繋ぐ為のパス……所謂中継地点の様な役割を果たしており、これを通じて精霊の力を借りるという事だ。
これでセブンエクリプスに対抗し、最低限の自衛は可能になるという事だ。
「なるほど……では、こちらも郷に従うとしましょう。雪女さん、腕をお出しください」
「なになに? 何をするつもり?」
「ふふ、ちょっとしたプレゼントです」
ウェルシーが空気をなぞる様に指先を動かすと、ウェルシーと雪女の腕には、漆黒のデュエルディスクが装着された。
「これでデュエルするの?」
「ええ。では、タッグをお願いします」
「タッグデュエルをするつもりか?」
「ええ。本当は貴方と2人きりのデュエルをしたいのですが……その方が戦いたそうにしていまさから」
ウェルシーは声のトーンを下げ、焔に対して心の底から嫌悪していた。
「へっ! 嫌がらせなら今後もしてやるぜ! そして勝ってお前の目を覚まさせてやるよ! 霊香!」
「暑苦しい奴ね、これだから不知火は嫌いなのよ!」
「花音、待っていてくれ……!」
「早く助けて下さいよ。ふふふふ……」
このデュエル……絶対に勝ってみせる!
その決意を胸に、俺はデュエルディスクにデッキという名の剣を差し込んだ。
オリカをまとめた章が欲しい?
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欲しい!
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別に( *¯ ³¯*)