六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
日曜日のある日、駅前の人達は慌ただしくも楽しそうな表情をしながら駅へと向かったり、駅から出ていく人達が目に映る。
子供は無邪気な笑顔を浮かべ、それに釣られるように親も笑顔になっていた。
もう夏が過ぎて秋が顔に出ている気温の中、俺はある人を待っていた。風邪を引いてしまうほどの寒さでは無いため、待つことに対してはそれ程苦では無かった。
そろそろここに来る頃合いだと思い、駅前の人混みから見つけようとするが……この中からピンポイントに人を探すのは無理だった。
『なんかデートの待ち合わせみたいですね』
今隣で霊体化しているレイが不機嫌な顔をしながらそう言ってきた。
「デートじゃない、ただの待ち合わせって分かってるだろ?」
『それは分かってますけど……あ、あの人じゃないですか?』
レイは待ち合わせの人物に指を指すと、その先にはボサついた髪に、黒いリブ生地のセーターを来た少し長身の女性がキョロキョロと周りを見渡し、俺の顔を見ると大きく手を振りながらこっちに来てくれた。
「あ、花衣さん〜! す、すみません〜ちょっと、み、道に……迷ってしまってて……」
道行く人にぶつかり、謝りなりながらも無事に俺の元に息を切らしながら来た。
「ひ、久しぶりです花衣さん〜き、きき、今日はよろ、よろしく……お願いします〜。えへへ、あの……結構待ちました……よね?」
待ち合わせの人である、霊亡さん。本名は
霊媒師と言うのは、霊魂と交信できる能力を持つ者であり、死者のメッセージを生きている人に伝えたり、死者の魂を安らかな場所へ導いたりする役割を担っているらしい……。
つまりは、霊の言葉を伝えたりする人達の事だ。
だが、だからといってレイ達の様な精霊が完全に見える訳では無い。
ピックアップデュエルの時、霊亡さんと出会って霊体化している筈のひとひらの姿を見たのだが、はっきりとした姿は見えていない様子だった。
だがぼんやりとその存在は認識している為、恐らく今隣にいるレイの姿を、何か人魂の様な物で見えているのだろう。
「あっ、き、今日も貴方の周りの霊さんは元気にしてますね。ふふふ……」
『どうやら見えているようですね。姿は分かっていないようですが』
「うん……。まぁ、とにかく行きましょう。近くに美味しい料理のカフェがありますから」
ここで話すのも何だからと、ドラゴンメイド達がいるカフェへと霊亡さんを案内した。
今日は少し道が混んでいるのと、霊亡さんとはぐれないように歩いたからちょっとだけ時間がかかってしまった。中に入れば、ドラゴンメイド達だけではなく焔達も予め入っている。
霊亡さんはセブン・エクリプスに関しては無関係の人間だ。なるべく何も知られずに霊香の事が聞きたい為、今回は俺だけ会話する事にした。
下手に人数が多いと霊亡さんも戸惑うし、霊香の身に何があるのか悟られてしまう。そうなれば彼女を巻き込んでしまうと考えての会話だ。
なるべく真実を隠せるなら隠したい。
扉に手をかけて開こうとしたその時だった。突然霊亡さんが俺の腕を掴んで扉を開くことを止めさせた。
「ど、どうしたんですか?」
「……ここはダメです。他の店にしましょう」
いつになく真剣な目をしていた霊亡さんに戸惑い、霊亡さんが掴んだ手を離さずそのまま引っ張るようにして俺を連れて別の店を探した。
「あ、あの! どうして急に!?」
「ごご、ごめんなさいい〜! でも、あの店の中から貴方が危険にさ、晒される竜の霊があったで! い、いきなりでごめんなさいいー!」
竜の霊? 恐らく彼方さんの
いや、そもそも
あながち間違いでは無い事が、この人の霊に対しての感受性が高い事が伺えるが、最初から計画が頓挫してしまったのは痛い。連絡を取ろうにもこの状況じゃ取れない。
無理矢理あのカフェで話を……は無理だ。恐らく霊亡さんは無理強いでもあのカフェには行かない。ここは霊亡さんについて行くことにしよう。
そうして付いた場所はどこにでもある普通の定食屋だった。昼頃のせいかかなり混んではいるが、二人程度だったら直ぐにでも場所が取れそうだ。
「こ、ここにしましょう! せせ、席は私が取りますから、ゆっくり待っててくださいねー!」
そうして、ちょうど2人席のテーブルに座れた俺達は本題へと入ろうとしていた。
「ああ、あのあの! 今日は、霊香ちゃんの? お話をするのですが……霊香ちゃんとは友達ですよね? わざわざ私から話を聞く必要は無いと思いますが……あ、まさか」
霊亡さんは手で口を隠し、眼鏡の奥からにやにやしていた。
「まさか……霊香ちゃんの事が好きなのですか!? まま、まさか霊香ちゃんにつつつ、ついに……かか、彼氏が!? わぁ〜まさか花衣さんだなんて!!」
「え? いやいやいやいや!! 違う違う!! 違いますよ!?」
霊亡さんの早とちりに必死に否定し、その早とちりにレイやティアドロップ達が凄い目で俺を睨んでいた。
別にそんなに気は無いしそんな余裕も無いし、それに俺はティアドロップ達がいるから大丈夫というか必要無いというか……
霊亡さんも朧気にティアドロップ達が見えているせいなのか、その怒りが伝わったようだ。
「あ……あれ? もしかして……間違ってしまいました?」
『『当たり前ですっ!!』』
『私の花衣様です!』
『私の花衣さんです!』
ティアドロップとレイは同時に霊亡さんに迫り、顔は見えないが霊体として見えている霊亡さんにとっては幽霊が迫っているのと同じ事だ。
しかもそのままティアドロップとレイの口喧嘩まで起こってしまい、霊亡さんは目の前で起こっている光景がどんな物か分からないが、慌てふためく姿から何となく想像は出来た。
ティアドロップとレイは言い争いながらも俺と霊亡さんの邪魔をしないようにそのままテーブル席から離れていき、話の妨げにならないようにした。
「な、何か凄く言い争っていましたけど……花衣さん、この霊さん達何かあったんですか?」
「さ、さぁ……? とにかく、霊香の事について聞きたい事があるんですけど!」
「は、はい〜! えっと、どんな?」
「……除霊家ってなんですか?」
突然霊亡さんの目の色が変わり、心が凍りついた様な顔をした。
「どこでそれを……?」
「えと……霊香がそう呟いていたので」
「そうですか……」
霊亡さんは眼鏡を外し、集中する為かこめかみを押して酷く悩んでいた。それほど重大な出来事なのかと思わず生唾を飲み飲んでしまい、霊亡さんが口を開くのを待った。
少し時間が経つと霊亡さんは眼鏡をかけ直し、口を開いてくれた。
「すみませんが、その事をお話する事はできません」
「そ、そんな……」
まさかの返しに俺は焦り、すぐ側で聞いていたティアドロップ達も何とかしようと動こうとするが、こんな人前姿を見せる訳には行かず、言葉を発するにも霊亡さん本人には届かなった。
だが、ティアドロップ達の姿が見えなくてもその存在を霊として感じ取っている霊亡さんは、自分の周りに霊がざわついているのが見えたのか、俺に一つ質問してきた。
「あの……な、何だか貴方の周りにいる霊が凄くざわついていますが、それほど聞きたいのですか?」
ここまでして聞くということは相当深い物なのだろう。だが、ここでおいおいと引き下がる訳には行かない。
俺はテーブルに額が着くほど頭を下げ、霊亡さんにお願いをした。
「お願いします! どうしても聞きたいんです!」
「えっと、その理由は……?」
「それは……すみません、言えないです」
言える訳が無い。これ以上無関係な人間を巻き込めないし、巻き込みたくない。
理由も無しに霊亡さんが言いたくもない事を言えというのは、自分勝手だと自負している。だが、もしもそこに霊香を、友達を助けられる手がかりがほんの一欠片でもあるのならば、それにすがるしかない。
何ならここで床に額を擦るほどの土下座をしたっていい。周りの人からどう思われようとも、今は羞恥心とかプライドとか要らなかった。
霊亡さんはそんな俺とティアドロップ達の霊を交互に見て、一つ息を漏らした。
「わわ、分かりました! 言います! だから、かか、顔を上げてくだい〜」
「あ……ありがとうございます!」
もう一度感謝の意を込めて頭を下げると、また霊亡さんは同じ言葉を言い、その後落ち着く為に適当なメニューを選んだ。
しばらくして頼んだ料理が配膳ロボットで運ばれてくると、霊亡さんは配膳ロボットにびっくりしていた。
「うぇぇ!? ななな、何ですかこれー!?」
「配膳ロボットですよ? 初めてみたんですか?」
「へえ……時代は変わりましたね〜」
配膳ロボットは料理を運ぶだけなので、料理自体はセルフでテーブルに置かなければならない。
霊亡さんはカレーを、俺はハンバーグを頼んいたので、率先してテーブルに料理を置くと、配膳ロボットは次の料理を運ぶためにバックヤードへと戻っていき、配膳ロボットに霊亡さんは手を振って別れを告げた。
「あっ、す、すみません〜。えーと、除霊家についてですよね? で、でも一つだけ約束してください」
「約束?」
「この事は他言無用でお願いします。……この国の根幹に関わる事なので」
「はっ? この国って……」
あまりにも規模が大きく、冗談かと思ってしまったが、霊亡さんの目は冗談を言うような目では無く、本気で言っている目だった。
だが他言無用という訳にはいかない。この情報を焔達にも共有したい為、この約束は守れそうに無い。
「あ……? もしかして、お友達に話そうとしていますか?」
「なっ!?」
心が読まれたかのような受け答えに俺は驚いてしまった。まさかティアドロップ達の反応を見て……と思ったけど、そんな様子は無いし、ティアドロップ達は何も言ってないし、それ程反応していない。
まさか本当に心が読めるのか? 霊が見える人はそんなことさえ出来るかも思ったが、霊亡さんは慌てて訳を話した。
「ごごごごごめんなさい! えとえとえとえと……霊媒師って、結構喋るのが上手くないとダメなんですよ〜。悪霊に取り付かれないようにクライアントにアドバイスするとかしないとダメですし、何よりクライアントの不安の原因や気になっている事を察知して心を和らげる事も必要なのです」
「それで俺の考えまで?」
「ま、まぁ長年やってきましたから〜」
この人言動と見た目に反して相当会話術に長けているのか……。嘘やハッタリが通用する相手じゃないから、結構デュエルとかでそれが発揮しちゃったりして。
「うーん……まぁ、お友達には話して良いですが、あまり言いふらさないでください。ほんっっっっとうに、闇が深いし危ない事なので!」
霊亡さんは顔を近づかせ、鼻息を荒くして鼻息がここまで届いていた。
「わ、分かりました! 分かりましたから! ……そんなにやばいんですか?」
「はい! しかも結構長いので覚悟しておいてくださいね」
霊亡さんは乗り出した体を戻してソファーに座り、カレーと白米を少し掻き混ぜてカレーを一口食べた後、除霊家についてようやく話してくれた。
「花衣さんは、霊媒師という事をどの程度まで知っていますか?」
「えーと……霊にわざと取り憑かれてその霊と話す事が出来る人ですか? それが霊媒なんですよね?」
「はい。生者に死者のメッセージを伝えたり、死者の魂をあるべき所に還す。いわゆる、冥界に送る事も仕事の一つです」
「へぇ……」
ここまで聞くと調べたら直ぐに出てきそうな情報ばかりだが、ここから霊亡さんのトーンが少し低くなり、緊張感の空気が生まれた。
「そして……霊や死者の魂を他人に媒介する事も出来ます。もっと簡単に言うと、死者の魂を他人に乗り移させる事も出来たりします」
「え? 自分がじゃなくて……他人にですか?」
「そうです。死者の魂が経験してきた事や感じた事、記憶は魂と直結しています。その記憶を見るために、他人に媒介させるのです」
「つまり、死者の記憶を見る為に他人にその魂を乗り移させる訳ですか? 聞くだけじゃダメなのですか?」
「残念ながら、それだけじゃ分からない事が多いのと意志の弱い魂はそもそも意志を伝えることさえできません。だからこそ、依り代が必要なのです」
依り代という言葉を聞いて、他人事の気がしなくなるのは、俺がダークネスという大きな存在の依り代だからだろうか。
胸の内が少しざわめくような感覚の中、霊亡さんの話を聞き続けた。
「依り代の人に死者の魂を定着させ、死者の記憶や経験を依り代へと移す……これも、霊媒師がやる仕事です」
「それってつまり、転生みたいなものですか?」
よくある異世界転生物では、本来産まれてくる人に現代で死んだ主人公の魂が乗り移り、そこから強くてニューゲーム見たいな感じの小説が1つのジャンルとして生まれている訳だが、分かりやすく言えばそんな感じだろうか。
「有り体に言えばそうかもしれませんね。ですが、闇雲に依り代に魂を定着させては、逆に死者の魂に体を乗っ取られてしまいます。そうならない様に、依り代になる人は決められていたり、死者の魂を除霊する人も居ます」
「除霊……それが、霊香がやっているのですか?」
霊亡さんは静かに頷いた。
「霊香ちゃんは、霊に対してかなりの耐性があるんです。ちょっとやそっとじゃ霊に体を乗っ取られませんし、意思を介して会話まで出来てしまうのですから」
つまり、霊香が入れば死んだ人と話せるというのか。
霊に耐性があると霊亡さんは言ったが、俺は実際に霊香の体が雪女に乗っ取られるのを見てしまっている。
それ程雪女の力が強かったのか、それともやはり霊香自身が雪女に魂と体を渡したのか……それを判断するのには、やはり今の霊亡さんの話、除霊家に秘密がありそうだ。
「それだけじゃありません。霊香ちゃんはその除霊も担っています」
「あ、だから除霊家って呼ばれているんですか?」
「いえ……そもそも、除霊家というのはある目的を隠す為の呼び名です」
霊亡さんはカレーを食べて今スプーンを置き、一呼吸置いて話した。
「霊香ちゃんはありとあらゆる死者の魂を霊媒してきました。ある時は名の知れた財閥の創立者、ある時は有権者、そしてある時は……昔実在した人物。霊香ちゃんは、7才の時からそうしてきました」
「な、7才から!? て事は小学生2年生ぐらいからずっと!? それって大丈夫なんですか?」
いくら耐性があるとはいえ、そんな小さい時から死者の魂を自分の体に一時的とはいえ入れるのはさすがにどうなんだ?
霊亡さんの話では、闇雲に依り代に死者の魂を定着するのはダメだとさっき言っていた筈だ。大丈夫なわけが無い。
霊亡さんは顔を曇らせ、心苦しそうに話を続けた。
「もちろん大丈夫じゃありません。ですが、死者からの情報はとても貴重です。財産の隠し場所や、失われた技術を復活するのにも役立ちますから」
失われた技術……いわゆるオーパーツという物だろうか。
確か現代の技術では到底作れないようなものがあるとは空が言っているのを思いだし、それが分かれば現代の技術はより進歩するとも言っていた。
それが分かるとなれば知りたいとは思うが……あまり乗り気には慣れなかった。
「それから霊香ちゃんは数多の霊をその身に受け続け、自分で除霊もしてきました。そして、霊香ちゃんはそれだけじゃ無く、一旦霊媒した魂を他者に移す事も出来るんです」
「それって、直接霊媒するのとは何が違うんですか?」
「安全性が違うんです。霊香ちゃんのように耐性が強い人が一旦霊を体に宿し、霊の力を一般の人でも耐えれるぐらい力を削ぎ、その後移せば霊に体を乗っ取られる事も無いですから」
なるほど、つまりより確実性を求めるのなら霊香の力は絶対に必要という訳か……
「やがてそれが知れ渡り、有権者の人達も霊香ちゃんを使って権力を握り続けることも出来ました」
「ちょ、ちょっと待って下さい! それってつまり……」
「国絡みで霊香ちゃんの霊媒を利用しているという事です」
「国絡み……って、そんな……嘘でしょ?」
流石に話が大きすぎると思いたいが、霊亡さんの顔は真剣だ。とても冗談とは思えなかった。
「本当です。現にこの国は霊亡ちゃんの家系にやって高度経済成長を実現し、世界にも引けを取らない強い国へとなりました。勿論、自分の力で偉業を成し遂げた人も居ますが……」
「霊によって力を得た人が多いと……」
霊亡さんは頷き、この国の闇を見た俺はスケールの大きさに戸惑っていた。
現実的じゃない話だが、俺は今まで数々の非現実をこの目で見てきたし、現在進行形でこの世界の物じゃない精霊達と一緒にいる。
信じられないという方が出来ないわけであり、俺は霊亡さんが話した事を信じるしかなかった。
「他者に霊の力を与える為に、自ら魂を霊媒して力を削ぎ、その後他者に霊の力を与える……」
「それが除霊家です。特に霊香ちゃんは今までの家系よりも随分高い耐性があったので、その分無理もさせられていました……」
考えたくも無い苦しみや辛さを霊香は幼い頃から背負わされたという事か……。
その苦しみから逃れる為に雪女に魂を売ったと考える方が自然だが、そもそもどうやって雪女と霊香が出会った方は検討もつかない。
霊香が何故雪女の魂を売った理由は何となく分かったが、雪女との関連性も知りたい。一か八か、その事に付いて聞いてみよう。
「あの、除霊家って死んだ人の魂の他にも……なんか、妖怪みたいな物とかも除霊とかするんですか?」
「そうですね……妖怪はもうこの現代にはあまり存在しないので、そう言った話は私の方では聞いてませんね。ただ……霊香ちゃんの家系に関しては少し言い伝えがあります」
「言い伝え?」
「花衣さんは、雪女の逸話をどれ程知っていますか?」
まさかここで雪女の話が出来るとは思わず驚きつつも、雪女について知っている事を話した。
ただ恥ずかしながら、雪女の逸話に関しては朧げにしか知らず、雲のようなかふわっとした伝承しか知らなかった。
「えーと、雪山に住んでる女性……? っていうぐらいしか」
「ふふ、まぁ大体あっていますね。人の姿をした物の怪、雪女は、数々の伝承を残していますが、一点だけ本当にあった事があります」
「本当にあった事……?」
霊亡さんは、まるで物語を読み上げるかのような口調で続きを話してくれた。
「昔、ある男性と女性家庭を作りました。子供は10人と居て、幸せに暮らしていました。ですがある時、男は雪女との約束を破りました」
「約束……?」
「雪女と出会った事を誰にも言わない事です。それを妻を夫から言われた妻は姿を変え、夫はあの時の雪女だと知ったのです。そう、妻は雪女。そして約束を破られた雪女は、夫を凍え殺そうとしましたが、子供がいた為それが出来ず、夫と子供の前に去った逸話です」
そう言えばそんな昔話を聞いたような気がするな……。
約束を破られ、家族の元から去った雪女か……なんか悲しいげな物語だったな。
「で? それが、霊香となんの関係が?」
「物語に10人の子供がいますよね? あの子供が成長し、子供を産み、それが続いた末裔が……霊香ちゃんや私なのです」
「…………は?」
「簡単に言えば、私と霊香ちゃんは雪女の末裔……となるのでしょうか」
「え、ええ!? な、何か証拠とかあるんですか!?」
思わず身を乗り出してしまうほどの驚くべき真実だ。いや、本当かどうか分からないが、とにかくそれが真実なのかどうか知りたい自分が居て、ビックリしている霊亡さんは慌てて自分が雪女の末裔である事の証明をした。
「し、証拠と言っても……ええと、ただ家の古い文集にその日記があっただけで……確証はないと言うかなんというか……ほほほほ、本当にごめんなさい〜!」
「いやなんでそっちが謝るんですか……こちらの方こそ、なんかごめんなさい」
だけどもし霊香が本当に雪女の末裔だとしたら……雪女は自分の子供の魂に憑依し続けながら生きていたという事なのか?
確かにそれなら霊香と雪女の関係に付いての説明は出来ると思うが……一体雪女はどれほど長い時を過ごして来たんだ?
100年とかそんなものじゃない。それ以上に生き続けて、雪女は一体何を求めたのだろうか……結局考えても分からず、この疑問は頭から抜いた。
「とにかく、私から話せる事はもうありません。……次は、私の方から質問してもいいでしょうか?」
「は、はい?」
「……貴方……いえ、貴方『達』は一体何と戦っているんですか?」
霊亡さんはティアドロップ達の方も見てそう言うと、先に閃刀姫達が武器を構えて霊亡さんに警戒心を見せ、俺も同時に心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
何をしているのでは無く、何と戦っているという言葉が出てきたという事は、少なくとも霊亡さんは俺がやって来た事を知っているという事だ。
まさか霊亡さんはセブン・エクリプスかそれともレゾンの人間……!?
口を開かず考え込んだが答えは出てこない。レイもティアドロップも動かず、俺の行動や指示を待っていた。
緊張感が続いた中、霊亡さんは手を前に出して慌て始めた。
「ごご、ごめんなさい! えとえと、私、ピックアップデュエルの時、貴方に霊の言葉を伝える為に霊媒しましたよね? あの時……見てしまったのです。貴方が何か戦っている様子を!」
「ピックアップデュエル……あぁ、あの時か」
俺はひとひらと目を合わせ、あの時の事を思い出した。そうだ、ピックアップデュエルの時はひとひらを除く全員が実体化して大会に参加していたから、皆はこの事を知らないし、ひとひらはしらひめになる前にあった出来事だ。
しらひめになれなかったひとひらは言葉が出せず、霊亡さんの力を使って言葉を伝えようとした時、霊亡さんの魂にひとひらが見た出来事が刻み込まれたのだろう。
ピックアップデュエルの時だから……恐らく、ポルーションと初めてデュエルした時だ。あの時は命懸けのデュエルをしていたから、霊亡さんはその事を言っているのだ。
「あと、何となくなんですけど、霊香ちゃんに何かあったんですよね? だから除霊家について聞いたんですよね?」
「それは……」
ダメだ、答えられない。精霊が一応見えると言うが、その姿形事態は見えない霊亡さんがこの事に首を突っ込むのは危険だ。
巻き込みたいない一心で口を閉ざす俺を見た霊亡さんは、諦める様に笑顔で席を立った。
「いえ、喋りたく無いなら大丈夫です。私を巻き込みたく無いと言うのが、霊さん達から見て取れますから。……優しいですね、花衣さん」
「……ごめんなさい」
俺は頭を下げ、精一杯の誠意を見せた。それに満足したのか、霊亡さんは笑って許してくれた。
「謝らないでください。私の話がどれだけ役に立つか知りませんが……霊香ちゃんの事、よろしくお願いします」
霊亡さんも深々と頭を下げ、霊香の安否と無事を祈った。
「はい……必ず、霊香の事を助け出します」
絶対に破れられない約束を交わした後、霊亡さんは俺の分の会計まで済ますと、そのまま店から出てその場で別れた。
俺はこの事直ぐに焔達にも伝え、ドラゴンメイド達のいるカフェへと戻った。
そしてその数分後、俺は霊亡さんから聞いた事を全て話すと、焔達はしばらく何も言わず頭の中で情報を整理していた。
「えーと、つまり……霊香は雪女の末裔って事か?」
「本当ならね。だけど事実じゃないかな。実際、霊香ちゃんの魂に雪女が入っていた訳だろ?」
「やっぱりそうなのか……」
やはりこの真実が皆を驚かせ、あまりの情報量の多さの要になっている。
空もこれには随分と戸惑っているのか、貧乏ゆすりをしながら何やらイラつき始めていた。
「馬鹿馬鹿しい……何が霊によって失われた技術を知るだ。技術は生きている人間が地道な発見と研究によってもたらされているんだ。あまり技術者を舐めるな……!」
「空、怒るところ違うと思うんだけど」
これには雀がツッコミをし、珍しい光景が見れた。まぁ、技術者である空がこう怒るのも無理は無いと思うし、俺も非人道的な扱いに怒りを隠しきれなかった。
いくら力が欲しいからと言って、他人に苦しい事を背負わせるのは間違っている。
そんな苦しみに気づかなったせいで、霊香はああなってしまうと考えたのか、花音は酷く落ち込み、スカートを握りしめていた。
「霊香ちゃんが時折見せたあの苦しさ……こんな理由があったからなんですね」
「だぁぁ! こんなでかい事溜め込みやがって! 連れ戻したら愚痴ぐらい吐かせねぇとな」
「だが、助け出す方法が無いのが事実だ。霊亡さんからの話だと、霊香ちゃん自身が雪女の霊を除霊出来る筈だが……」
今は雪女が霊香の魂を乗っ取っている状態だ。あそこから魂の主導権を握るのは難しいだろうし、霊香がその気があるのかさえ難しい。
だが、雪女のデュエル終盤、雪女の様子が変だった。急に苦しみ出しては霊香に対して何かを言っていた様子であり、そのままデュエルを終わらせた事を思い出した。
「焔、雪女とデュエルした時、確か雪女は最後苦しんでいたよな?」
「あぁ。なーんか、霊香に言ってたような気がするな」
「もしかしたら、まだ霊香の魂は完全には乗っ取っられてないんじゃ……」
俺の考えを聞いた焔は希望を見出した様に笑った。
「そっか……そうだよな! しゃあ! ならもっかいデュエルして目を覚ませれば良いって事だな!?」
「そうなるな。分かりやすくて良いじゃないのか?」
「あぁ! よーし、待ってろよ霊香! ぜってぇ起こしてやるからな!」
焔は意気揚々に宣言し、静まり返った空気が明るくなりつつあった。
明るさを取り戻した事により、ネガティブな発言は無くなり、逆に霊香とカレンさんを助け出す意気込みが最高潮に達した。
「元気が良いね、焔くんは」
「はい。羨ましいぐらいです」
火のように周りを照らす……それが焔だ。きっと、あいつなら霊香の凍った魂を取り戻す事が出来るかもしれない。
いや、出来るかもじゃなくて、絶対にできる。だって、俺の暗い魂さえも救ってくれたんだから。
_その火はいずれお前を焼き殺すぞ
「……えっ?」
その時、何故かそんな声が聞こえた様な気がした。
オリカをまとめた章が欲しい?
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欲しい!
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別に( *¯ ³¯*)