六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
彼方さんの提案で始まった、彼方さんvs妹の天音&メルフィーデッキの
体育館は俺の学校にあるものと倍以上に広く、2階が座席になっており、殆どの生徒や観戦者はその座席を利用していた。
俺達はと言うと、花音の采配によって特等席である3階での観戦となり、2回よりも全体をより俯瞰して見れる他、彼方さんと天音ちゃん、心咲ちゃんの姿が見えるようにモニターまで見れるのと、冷たい飲み物と菓子も提供された。
そしてなんと言っても、1階のコートにとても大掛かりな機械が設置されていた。
赤色の台座と青色の台座が向かい合うように設置されており、その台座の間にはデュエルフィールドの様な空間が浮かび上がっていた。
(あれって……王国編のデュエルフィールドだよな?)
フィールド自体はエクストラモンスターゾーンがあるが、あの台座は間違いなくそれだった。
確かに天音ちゃんと心咲ちゃんの体型ではデュエルディスクを腕にはめ続けるのはしんどいだろう。だが、普通の台座式のデュエルなら、足場さえどうにかすれば問題無いだろう。
現に天音ちゃん達には固定された足場が増設され、問題なくフィールドにカードが置くことが出来るようになっており、フィールドと2人分増設されていた。最も、エクストラモンスターゾーンはそのままだ。
「王国編で使われた物と全く同じタイプのデュエルフィールドか……俺ルールを適用したデュエルが懐かしいな」
今頃彼方さんの頭の中では、王国編の名シーンが浮かび上がっているだろう。俺も一応見たことはあるんだけどルール無用のデュエルに困惑しながらも楽しめた記憶がある。
それにしてもまさか彼方さんがこのイベントを理由にして天音ちゃんと心咲ちゃんとデュエルする事になるとは思わなかった。
_数時間前
「ええ!? 2対1のデュエルイベントをこの子達で行うんですか?」
体育館に天音ちゃんと心咲ちゃんを連れてきた彼方さんを見て、恐らくこの後やるデュエルイベントのスタッフである生徒が、不信そうに小さな女の子を見ていた。
明らかに弱そうだと思っているのが嫌でも分かり、少しだけ不快な気持ちになってしまう。
だが彼方さんはそんな事微塵も思っておらず、寧ろ見る目が無いと小馬鹿にすると同時に、安心しろと豪語する様な笑みを浮かべ、スタッフの肩を叩いた。
「ハンデも付けるから安心しろ。だが、この子達は思っている程強いぞ」
「ま、まぁ……彼方さんがそういうのなら。では、3人ともイベントまでにデッキ調整をお願いします。互いの控え室にはレンタルのカードもありますのでそれを使っても構いません」
「なら俺は向こうに行くから、天音の事を頼むよ」
そう言ってスタッフは早速準備を始める為にこの場を後にし、彼方さんもデッキ調整の為か控え室へと向かっていった。
「俺達も行こっか」
「はーい!」
心咲ちゃんは俺の手を繋ぎ、急かすように控え室へと向かい、まるで外で遊ぶ飼い犬の様なわんぱくさだった。
小さい子供の元気は底なしだ……。
「じゃあ天音ちゃん、私達も行きましょう」
「……うん」
天音ちゃんは向かいの控え室に入っていく彼方さんの後ろ姿を見て向こうに一瞬行こうとしたが、直ぐにその足を止めて花音の手を繋ぎ、遅れて自分達の控え室に足を踏み入れた。
控え室はこれといった特徴も無く、来客用の部屋をそのまま使っている部屋だったが、机の上には種類毎に集められたカードケースがいくつもあり、これだけでデッキが作れそうな量だった。
流石お嬢様学校、こういうのに抜かりない用意だ。
「うーん、どうしようかな。花衣お兄ちゃん、どうすればいいと思う?」
「いきなり言われてもなぁ」
俺自身、それほどデュエルの経験があるとは言えないし、アドバイスする程強い自身が無い。
と言うより、彼方さんの隙が無さすぎる。
3回デュエルをしてきたが、彼方さんのプレイスタイルは相手の戦術を読み切っていなした後、ギャラクシーアイズのパワーで一気にライフを削ると言った、まさに攻防一体と言うのに相応しい戦法だ。
妨害の当て方や展開の通し方に無駄も無く、対策があれば俺が教えて欲しいぐらいだ。
それに、天音ちゃん達が使うデッキの特性もよく知らない俺が無闇にアドバイスしたところで、かえって中途半端なデッキになる恐れがある。
「とにかく、自分がやりたいデュエルをすれば良いんじゃないかな?」
結果、こんな在り来りなアドバイスしか出来ない訳だ。経験不足な自分が恨めしい。
「やりたいデュエルか〜じゃあ、可愛い動物さんをいっぱい出しちゃうね! パピィでしょ、ワラビィに、ラビィも入れて〜……」
「天音ちゃんはどうしますか?」
花音が天音ちゃんに声をかけたが、天音ちゃんはテーブルの上のカードに一切触れず、自分のデッキを手放さなかった。
「私は……これで良い。皆んながいるから大丈夫……」
皆というのは、デッキの中に存在する精霊の事だろう。答え合わせをする様に、ちょうど天音ちゃんの周りにクリボーモンスターが天音ちゃんの周りに飛び交い、天音ちゃんはそのクリボー達に喋りかけていた。
一方的に喋っているのでは無く、クリボー達も天音ちゃんと会話するように「クリクリ〜」と喋っていた。
俺か見れば鳴き声なんだが、天音ちゃんからすれば何を言っているのか分かっているのか、クリボーの鳴き声に受け答えをしていた。
俺や花音からすれば少し微笑ましい光景なのだが、精霊が見えない心咲ちゃんにとっては、何も無い所でブツブツと喋っている様に見えてしまい、不思議に思った心咲ちゃんは天音ちゃんに声をかけた。
「ねぇねぇ天音ちゃん、そこで何喋ってるの?」
「別に何でも無い……言っても信じてくれないし」
天音ちゃんは精霊が見えない心咲ちゃんを避けるように離れていった。
信じてくれない……か、確かにそうだ。人は本当に目にしたものにしか信じない。
遠くの国で何かが起きても現実味が無く、何か才能ある人物が、実は死にものぐるいの努力をしたと言っても、それを見た訳じゃ無いから、その努力を語られても大半の人はあまり信じられない。
精霊が見える見えないものそれと同じだ、目に見えないものは信じられず、目に見える【現実】を見た瞬間、人はそれを信じる生き物だ。
天音ちゃんにとっての現実と心咲ちゃんにとっての現実がすれ違ってしまい、2人の間には少しの溝が出来てしまっていた。
「じゃあ、天音ちゃんはどんなデッキ使うの? 良かったら見せてよ!」
それでも心咲ちゃんは天音ちゃんに接しようと天音ちゃんのデッキに触れようとしたその時、天音ちゃんの目の色が変わった。
「触らないでっ!!! 」
いきなり天音ちゃんは叫ぶと同時に心咲ちゃんを突き飛ばし、近くのソファーまで心咲ちゃんは吹き飛ばされ、頭をぶつけてしまい、痛みが頭で理解した心咲ちゃんは、頭をぶつけた後になって泣き出してしまった。
「ひぅ……うぇぇぇぇん!! 酷いよ天音ちゃんっ! わたし何もっ、悪いことっしてないのにっ!!」
「うっ……し、知らない! 私のお友達をまた傷つけようとするからだよっ!!」
「あ、天音ちゃん!?」
天音ちゃんは貰い泣きながら控え室から出ていってしまった。
「あわわ、どうしましょう……とにかく心咲ちゃんは私に任せて、花衣さんは天音ちゃんをお願いします!」
「分かった!」
急いで控え室から出ていき、彼方さんに天音ちゃんが出ていった事を伝えようと考えたその時、途中の曲がり角に消える天音ちゃんを見てしまい、彼方さんに伝える時間は無いと判断し、急いで天音ちゃんを追いかけた。
体格差があるから曲がり角を曲がった後の直進で直ぐに追いかける事ができ、天音ちゃんの腕を掴んだ。
「ひぅ!!」
「大丈夫、俺だ! 天音ちゃん」
「か……花衣お兄ちゃん……?」
「あぁ。何か食べる?」
近くにあった模擬店に目が移り、天音ちゃんを落ち着かせようと何か買おうとした。
「……クレープ、食べたい」
「うん。じゃあ俺が買うから、好きなの食べようか」
この一瞬、本当に妹が出来たような気持ちになったような気がした。花音と最初に立ち寄ったクレープの模擬店で、天音ちゃんはイチゴのクレープを買った。
「いただきます」
目の前に美味しいクレープを目の前にして天音ちゃんは笑顔を取り戻しつつあり、天音ちゃんは美味しそうにクレープを食べ続けた。
「美味しい〜 」
「良かった。それ食べたら心咲ちゃんに謝るんだよ」
しかし、天音ちゃんは答えてくれなかった。
「……どうして、あんな事したの?」
「だって……私のデッキ、触れようとした。そうなったら、またこの子達が傷つけられるもん」
そう言って、左手で天音ちゃんは大切にデッキを握りしめていた。
俺は天音ちゃんが言った、『また』という言葉が気になった。
またという事は、デッキに触られて嫌な事があったのだろうか。傷つけられた言葉からして、あまりいいものではないのは確かだ。
「なぁ天音ちゃん。良かったら話してくれないか? 話したら気分が紛れるだろうし」
それに、天音ちゃんが心咲ちゃんを突き放した原因が分かるかもしれない。あと1時間でデュエルが始まるから、何とかそれまでにはこの喧嘩を解決したい。
だが天音ちゃんが話してくれなかったらそれはそれでも良い。粘り強く説得するだけなんだから。とにかく今は、天音ちゃんの暗い感情を払拭しなければ……
「いいよ。花衣お兄ちゃんは精霊が見えるし」
天音ちゃんはクレープを食べ終えた後、デッキ関連の事を話してくれた。
「私、小さい頃からカードの子達とお話出来たり、見えたりできるの。怖いモンスターでも、小さなモンスターでも、なんでも。だけど、皆見えないから信じて貰えなかったの。それで私の事、不気味とか気持ち悪いとかっ……ひぐっ、色んなっ……こと、いわれっ……」
(いじめか……)
それが天音ちゃんを人見知りにさせた第2の原因か。
泣いている天音ちゃんにハンカチを渡し、天音ちゃんは涙や鼻水を拭きながら話を続けてくれた。
「それである男の子が……私のデッキ取って、踏んだっり蹴ったりっじでっ……私のお友達もいじめで……えぐっ、プールにも……」
もうこれ以上思い出したくないように、天音ちゃんは大泣きしてしまい、嗚咽が止まらずにいた。
涙が枯れる程に流し、止まらないしゃっくりの天音ちゃんの背中をさすって落ち着かせていると、泣いている天音を見ていられないとストレナエ達も天音に寄り添ってくれた。
『天音ちゃん大丈夫?』
『泣かないで……天音ちゃん』
『うんうん! 天音ちゃんは笑顔が似合ってるよ!』
ストレナエ達は必死に天音ちゃん達を笑わせようと笑顔を見せた。
時には変顔をしたりととにかく笑わせる為に必死になっているストレナエ達に、泣き疲れた天音ちゃんはようやく笑い、ストレナエ達もつられて笑ってなんとか事が収まった。
「ありがとう、ストレナエちゃん、プリムちゃん、シクランちゃん」
『良かった〜泣き止んでくれて!』
『これで心咲ちゃんにごめんねってできる?』
「それは……ダメかも」
『そっか……』
ストレナエ達のおかげで泣き止みはしたが、まだ過去のトラウマのせいでまだ謝るのは無理そうだ。
だけど、きっと天音ちゃんの心の中は謝りたい気持ちもある筈だ。きっかけだ、きっかけ1つで仲直りが出来ると思った俺は、レイを呼び出した。
「レイ、ちょっと頼み事良いか?」
『勿論です! 何をすれば良いですか?』
レイに頼み事を耳打ちで伝えた後、レイはワープの役割を持ったマルチロールを自分の隣に展開させた。
『わかりました! 速攻で行ってきます!』
レイはウィンクをしてマルチロールの中へと入っていき、あるモンスターがいる所へと行った。
後は……天音ちゃんがちゃんと心咲ちゃんに謝る事が出来る筈だ。ここで彼方さんが天音ちゃんと心咲ちゃんにデュエルをさせる目的を壊してはダメだ。
心咲ちゃんが悪い子では無いということを、今ここで伝えなければ……
「天音ちゃん、心咲ちゃんが本当に悪い人だって思ってる?」
「それは……ううん、あの子精霊が見えないし……」
天音ちゃんは言葉を渋って何も言わなかったが、悪い人と思ってはいないのは分かった。これなら説得のしようがあり、ほっとした所で、心咲ちゃんが悪い人では無いことを証明する。
天音ちゃんにとって信頼出来る人は、精霊が見える人だ。だが、それは違う事を俺は知っている。
「天音ちゃん、心咲ちゃんは精霊が見えないけど、メルフィーの精霊に愛されているんだよ」
「見えないのに?」
「心咲ちゃんだけじゃない、アリアさんとソナタさんっていう人も同じだ。精霊が見えない人でも精霊に愛されている。……それに、精霊が見えても悪い人は沢山いるんだ」
「え!?」
信じられないという顔をした天音ちゃんだが事実だ。セブン・エクリプスもそうだし、何よりそれ以外の人物も1人知っている。
そいつとは実際に会ったこと無いが、精霊を捕まえて自分の物にしようとする非道な事をやっていたのを覚えており、天音ちゃんにはそれを知って更に悲しませたくないから、それを伝えるのは止めた。
「だから、精霊が見えないからってそれが悪人とは限らない。精霊が見えない人達だって良い人も沢山いるんだ。俺の友達もそうだから」
そっと俺は天音ちゃんの左手を両手で包むようにして握った。
「だから信じてみないか? 大丈夫、絶対に君に酷い事はしないから」
天音ちゃんの目を離さず見つめ続け、本心からの想いを伝えた。
天音ちゃんは右手に持っているデッキをもう一度見つめ、そのデッキの中に眠っていたクリボー達が天音ちゃんを囲むように現れると、天音ちゃんを励ますかのように「クリクリ〜」と鳴いていた。
一体どんな言葉をかけているんだろうか、俺には分からないが、少なくとも天音ちゃんにとっては一歩前に進むための原動力になる事は間違いなかった。
天音ちゃんは俺の手を離すと、椅子から立ち上がった。
「……頑張ってみる」
「じゃあまずは心咲ちゃんに謝ろうか」
「うん……」
天音ちゃんは俺と手を繋いだまま控え室に戻ろうとしていた。
何故か天音ちゃんの手が少しだけ強く握られているのが気になかったが、それとは別にクリボー達は俺の目の前まで飛んでお礼を言うように声を上げて、喜ぶように跳ねてきた。
『クリクリ〜! クリ!』
「うーん……やっぱり言葉が分からないと少し寂しいな」
お礼を言い終えたクリボー達はそれぞれ天音ちゃんのデッキに戻って行ったが、ハネクリボーだけはどこかへと行ってしまった。
ハネクリボーは曲がり角の方へと姿を消し、気になりつつも天音ちゃんと一緒に控え室と戻った。
「どうだった? ハネクリボー、アイツは」
『クリクリク〜』
「そうか。へへ、これはアイツとのデュエルが楽しみになってきたぜ!」
「そんな事言っている場合か、デュエルジャンキー」
ハネクリボーの精霊と話した青年に、白い服を着た女、花衣の抹殺を図ろうとしている白夜が話しかけてきた。
男の脳天気な態度に苛立ちを感じ、白夜の眉間のシワが深くなっていった。
男は白夜の怒りに気づいていないのか、怒りに気圧されない気楽な態度を取りながら、鮭入りのおにぎりを食べていた。
「ただデュエルするだけだろ? それにアイツは大丈夫だって、相棒がそう言っているんだからな」
『クリリリー!』
「大丈夫だと……?」
ハネクリボーの自信満々の笑みを見た次の瞬間、白夜は更に怒りを露わにし、背後から全てを燃やし尽くす光を男にぶつけようとした。
男は思わず手に持っているおにぎりを握りつぶす程の脅威を感じ、その名の通り目の色を変えて白夜を睨む。右目が水色、左目が緋色へと移り変わり、2人の間では見えない火花が暴れだしていた。
「お前がこの次元へと呼び出したのはダークネスの抹殺だ。今度こそ全てを滅する光であの闇を塗りつぶす。それがお前の役目だ。ダークネスを退いた決闘者!」
「悪いが、俺は光とか闇とか興味が無い。あるのは、
男は笑顔でおにぎりを平らげ、直ぐにでもデュエルをしようと右腕につけていた赤いデュエルディスクを展開した。
だが白夜はデュエルするつもりは無い様子であり、デュエルディスクどころかカードを手に取ろうとはせず、興が冷めたのか男に対して剥き出していた圧を収め、あるカードを男に投げつけた。
男は投げられたカードを手に取り、それが自分が使っているデッキと馴染みが深いカードである事に喜びを感じた反面、これを使わせようとする理由を考えた気分の悪さも感じていた。
「お前の大好きなヒーローの新たな力だ。それを使って花衣の存在を消せ」
「ヒーローは嬉しいけど、悪いが使うつもりは……」
「お前に拒否権は無い」
白夜から溢れ出す光に思わず片膝が着くほど重力が増えたかのように感じた男は汗が上がるほど白夜の圧に気圧され、生唾を飲み込んだ。
その圧のせいで、男は白夜の言う事を聞かなければならないという責任感……いや、使命感に駆られていた。
頭の中で白夜の声が反響し、男の心を蝕みつつあった。しかし、その蝕みの光を消し去る闇が男から溢れ出し、その闇はあるモンスターの姿へと変わった。
男と女の両方の性質を合わせた体に、悪魔のような翼を持つモンスターは何も言わずに男に寄り添うように佇んだ。
「ユベル……まぁ良い。だが目的は果たせ」
「遊城十代」
そう言い残し、白夜は姿を消した。
オリカをまとめた章が欲しい?
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欲しい!
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別に( *¯ ³¯*)