六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
聖奈学園……俺が住む街の中では最も敷居の高い進学校であり、優秀な生徒達が揃う他、金持ちや有名企業の社長や権力者の息子、娘達が多く在学するという、いわゆるお嬢様学校で知られている。
そんな学校の文化祭の中、彼方さんがその妹である天音ちゃんも、この学校の初等部であり、俺の知り合い、兎乃心咲ちゃんと1対2のデュエルをしていた。
今は3ターン目が終了し、彼方さんが後攻だから順番的に次は心咲ちゃんの番だ。因みに状況はこうだ。
3ターン目終了
星空彼方:LP8000
手札4 墓地10 除外1 デッキ26
□□□□□
□□⑫□□
① □ □ □
②③④⑤□ □□□⑧⑬
□□⑥⑦□ □□□⑩⑪
星空天音:LP8000
手札:1墓地:3除外:0デッキ:29
兎乃心咲:LP7000
手札:3墓地:2 除外:4 デッキ28
①:リンクリボー
②:クリバー(守備表示)
③:クリビー(守備表示)
④:クリブー(守備表示)
⑤:クリボー(守備表示)
⑥⑦:伏せカード
⑧森の聖獣カラントーサ
⑬:うきうきメルフィーズ
⑩:メルフィーとにらめっこ
⑪:伏せカード
⑫:銀河心眼の光子竜
彼方さんの場にはレゾンカードである【銀河心眼の光子竜】が存在するが、このモンスターはある特別なカードによって儀式召喚されている。
そのカードの名は【
攻撃力を参照して儀式召喚する儀式魔法であり、Xモンスターを素材にした場合、そのXモンスターの効果を使え、しかもX素材を取り除かないでその効果を使える、とんでもないカードだ。
これにより、【銀河眼の光子卿】の効果を使える。そのモンスターの効果は、大きく分けて2つ。
1つは、相手ターンに【ギャラクシー】カードを手札に加えるか、X素材に出来る効果だ。2つ目は、素材を取り除いて相手モンスターの効果を無効にする効果だ。
どっちも強力だが、それに加えて銀河心眼の光子竜の効果も加えられ、他のカード効果を受けない耐性もある。
つまり、必ずモンスターの効果を無効にする要塞だ。これを止める事はほぼ不可能であり、あのモンスターを早めにどうにかしなければ、彼方さんのドラゴンが次々と出てくる事は間違いない。
早めに何とかしなければ、天音ちゃん達に勝ち目は無い。
勝つのは無理だと半ば諦めの目で天音ちゃん達を見る者もいれば、ここからどう逆転するのか期待する目を向ける者もいた。
人見知りの天音ちゃんは、そんな両極な目を向けられてストレスが重なり、ペアである心咲ちゃんの後ろに隠れた。
「ぁぅ……」
「どうしたの天音ちゃん。まだまだこれからだよ!」
「……無理だもん、どうせお兄ちゃんには勝てないもん」
「まだ四ターン目だよ!? 諦めちゃダメだよ!」
どうやら天音ちゃんが戦意喪失している様子であり、必死に心咲ちゃんが鼓舞していた。
だが……こればかりは同情しかない。彼方さんの手札は豊富であり、例えこの場を切り抜けたとしてもまだ彼方さんの攻め手は残っている。
そんな中、花音が俺の服の袖を握り、話を持ちかけた。
「あの、花衣さん。花衣さんから見てこの状況どう思いますか?」
「……厳しいと、思う。俺もあまり他のテーマに詳しい訳じゃ無いけど、攻撃力4000で完全耐性のモンスターに勝つのは限られているし、突破したとしても、彼方さんには奥の手がある」
そう、彼方さんにはもう1つのレゾンカード、ランク12の【
攻撃力は5000という、今存在する中では最も高い攻撃力を持つモンスターの1体であり、相手フィールドのカードと墓地のカードを全て裏側除外させるという効果も備わっており、相手カードの効果さえも受け付けない強力なモンスターだ。
ランク12で中々召喚は出来ないが……あれを出されたら勝機はほぼ無いと言っても過言では無い。けれども、勝てない訳じゃない。
「頑張れ……天音ちゃん、心咲ちゃん」
きっとあの二人なら……勝てる筈だ。何となく、そう感じた。
「とりあえずドローしてから考える! 私のターン! ドロー! あ、やっと来たー! 私のレゾンカード!」
「何だって!?」
レゾンカードと聞いて一同が驚きを隠せずにざわめき始め、彼方さんも小さく肩を上げて真剣な眼差しになった。
『ななな、なんと! まさかここにもレゾンカード所持者が居たとは! 果たして、どんなカードなのでしょう!!』
「私のレゾンカード! 永続魔法【メルフィーといっしょ】を発動!」
レゾンカードが発動し、出てきたカードは全てのメルフィーに囲まれ、切り株の上で満面の笑みを浮かべた少女のイラストが描かれたカードだった。
少女の顔はぼかされており、誰かとは分からないがあれは心咲ちゃんだろうか。
心咲ちゃんは精霊が見えないが、いつか実現して欲しい光景が描かれた良いカードだ。
「【メルフィーといっしょ】の効果! まずは自分の手札にある【メルフィー】モンスターを含む獣族を好きな数を決めて、その子達でエクシーズ召喚するよ!」
「うぇ!? 凄いなその効果……」
流石の彼方さんも思わず唖然とする効果であり、流石レゾンカードだと思い知らせていた。
「私は手札の【メルフィー・ワラビィ】【ポニィ】【キャシィ】【カラントーサ】でエクシーズ召喚!」
4体の獣族がエクシーズ召喚をする際に発生する黒い星々の穴に飛び込み、穴から爆発が起きると同時に巨大な桃色の毛色を持った獣がフィールドに尻餅を付いて現れた。
おっとりした雰囲気に、柔らかな毛並み、そして想像を遥かに超える大きさに、観客達は目を丸くした。
「こーい! 【メルフィーマミィ】〜!!」
メルフィーマミィ
ランク2/エクシーズ/地属性/獣族/ATK1000/DEF1000
『で……デカァァァ!? 説明不要! 確かに【メルフィーマミィ】は設定上ではかなり大きな全長ですが……これは予想外! 【銀河心眼の光子竜】の半分以上の大きさです!』
……そりゃあ、メルフィー達が手のひらサイズになるぐらいの大きさだからなぁ。俺も初めてみた時は驚いた。
そんな巨大なマミィのお腹のポケットに、先程素材になったモンスター達が入っていた。
「続いて【マミィ】の効果発動! 自分フィールドの【うきうきメルフィーズ】をX素材にするよ」
これで【マミィ】の素材は5つ……これで【マミィ】の全ての効果が使えるが、【銀河心眼の光子竜】は戦闘を行った相手モンスターを永続的に除外させる効果がある。
迂闊に攻撃すれば逆に返り討ちにされるが、心咲ちゃんの手札はもう無い。この状況で迂闊に攻撃すれば、かえって自分の首を絞め……
「バトル! 行けー! 【メルフィーマミィ】!」
「思った側から攻撃してきたぁ!?」
「【銀河心眼の光子竜】の効果! モンスターと戦闘する場合、そのダメージ計算前にそのカードを除外する」
「ここで【メルフィーといっしょ】の効果発動! 私の場に他の【メルフィー】永続魔法がある限り、私の【メルフィー】は効果の対象にならないよ!」
「なっ……【銀河心眼の光子竜】は対象にとるから不発か……やるね」
「【マミィ】の効果で、戦闘する相手モンスターの攻撃力分のダメージを喰らえ〜!」
星空彼方 残りライフ8000→4000
【メルフィーマミィ】が桃色の波動を彼方さんに放つと、攻撃力4000というとてつもないダメージが彼方さんに襲いかかる。
「くっ……だが、【銀河眼の光子卿】の効果を受け継いだ【銀河心眼の光子竜】の効果発動。デッキから【ギャラクシー】カード【
「ふふん、ターンエンド!」
『いきなりライフ半分のダメージを与えた事に成功した心咲ちゃん! しかも次のターンは天音ちゃん! ここで勝負を決められるか!?』
皆は天音ちゃんへの期待を向けたが、本人にとってはプレッシャーへと変わってしまい、ドローする事さえままならない程に怯えてしまった。
「私のターン……えと……」
「天音ちゃん、ドローしてないよ?」
「あぁそっか……ドロー。えと……うーん……」
チラリと彼方さんのモンスターを見上げた天音ちゃんは、その迫力により怯えきってしまい、体を震えわせた。
「うぅ……ターンエンド」
『え? あの〜本当にいいの? 天音ちゃん』
「うん。良いよ……」
何もしないでターンエンド……? それとも何も出来ないのが正しいのだろうか。
何も出来ないという事は、手札事故の可能性が高いが……何だか意図的にターンを終えた感じにも見えた。
気のせいならそれで良いが、意図的にターンを終える理由が分からない。ともかく、天音ちゃんはターンを終えてしまい、そのまま彼方さんのターンに移ると、彼方さんは静かに体を震わせ、怒りをゆっくりと込み上げさせた。
この怒りは見た事あり、感じた事もある。
この感じは……ピックアップ・デュエルの時に向けられた怒りであり、その怒りはまさかの天音ちゃんに向けられた。
天音ちゃん自身は気づいて無いが、感じた事ある怒りに反応した俺は思わず体を小さく震わせた。
「俺のターン、ドロー。心咲ちゃん、悪いが君から先に倒させて貰うぞ」
「ええ!?」
いきなりの勝利宣言に会場は盛り上がり、宣告された心咲ちゃんは大きく口を開けて驚いた。
「俺はドローしたカード、【RUM-七皇の剣】公開する」
「【七皇の剣】!?」
「えーと、セブンス……ワンって何ですか? 花衣さん」
「あのカードは、ドローフェイズ……しかも通常のドローで引かないと効果を発動しないやつだ」
「じゃあ、手札に加えたり、最初から手札にあったら使えないんですね」
「その分強力な効果だぞ……アレ」
まさかの素引きでの七皇の剣を引くとは驚いた。あの人俺のドローを凄いと言う癖に自分も相当な引きの強さだから何とも憎たらしい。
けど、不思議と嫌な気持ちにはならないどころか流石だと称えるのが、彼方さんの人柄の良さだろう。
そしてここから……彼方さんの殲滅激が始まる。
「【RUM-七皇の剣】の効果で、【No.107
黒い縦長のひし形をした物体がフィールドに現れると、ひし形の物体は虹色の虹彩を中から溢れ出させ、漆黒の装甲を金色に輝かせた。
【
「パフォーマンスの為に、召喚口上は必要……かな?」
『是非とも是非とも!』
彼方さんの召喚口上を観客達に届けさせる為に彼方さんの方にマイクを向け、彼方さんはあのモンスターの召喚口上を思い出していた。
「えーと……なんだっけな。あ、思い出した。逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より甦れ! 永遠を超える竜の星!」
彼方さんの声に答えるかのように金色の物体は装甲を開き、中から黄金に輝く3つ首の龍が姿を現し、その輝きは、宇宙を照らす月のようでもあった。
「顕現せよ! CNo.107【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】!!」
CNo.107超銀河眼の時空龍
ランク9/エクシーズ/光属性/ドラゴン族/ATK4500/DEF3500
『な、なんという存在感のあるモンスターだぁぁぁ! しかも攻撃力4000以上のモンスターが2体っ! もしモンスターががら空きならライフが消し飛ぶ数値です!』
「ふっふっふ、でもどんなに攻撃力があっても、今の【マミィ】は戦闘破壊も、ダメージも効かないし、逆にダメージはそっちに受けるもんねー!」
「へぇ、じゃあ攻撃しない方が良いのか」
「ざんねーん! 【メルフィーといっしょ】の効果で、そっちは必ず【メルフィー】に攻撃しないとダメなんだよ〜!」
勝つ事を確信したのか、心咲ちゃんはどんと胸を張り、鼻を高くして効果を喋っていた。
確かに強力な効果だ。絶対に攻撃しなければならないという事は、途中で攻撃を止めることは出来ないという事であり、【メルフィー・マミィ】の効果ダメージを必ず受けるという事にも繋がる。
そして……今の【マミィ】は【メルフィーといっしょ】
の効果で対象にもならない。
「あ、でも確かモンスターの効果って……」
俺はフィールドにいる【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】を見て、ある効果を思い出した。
「【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の効果発動。X素材を1つ取り除き、このターンフィールドで発動する効果は使えず、このカード以外の表側カードの効果を無効化する!」
【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の金色の装甲から眩い虹彩がフィールドを包み込むと、フィールドの時間が止まったかのように全ての動きが止まった。
静止する時間の中で、2体のドラゴンだけは時間の流れに従う様に動いていた。
「この効果は対象に取らない効果だ。これで【マミィ】の効果は使えない。バトルだ! 俺は【銀河心眼の光子竜】で【メルフィーマミィ】に攻撃! そして効果発動!」
「まずい……あの効果は」
「そしてこのダメージ計算前に効果発動! 相手モンスターを除外し、そのモンスターがXモンスターだった場合、そのX素材の数まで追加攻撃が出来る!」
【メルフィーマミィ】が持っていた素材は5つ……つまり。
「5回の連続攻撃──!?」
【銀河心眼の光子竜】の翼が【メルフィーマミィ】を包み込むと、【マミィ】は星のように消えてしまい、その光が【銀河心眼】の身体にまとい、輝きが青白く放たれた。
『これで脅威の6回攻撃が可能だぁ! しかし、このままだったら天音ちゃんだけはギリギリ生き残ります!』
「無駄だ! 手札から速攻魔法【殲滅のタキオン・スパイラル】を発動!」
『おおっとここで新規カードの登場だァァ!? えぐい、えげつない!!』
「【殲滅のタキオン・スパイラル】の効果は3つあり、その中の一つ。無効化されている表側のカードを全て破壊する!」
「えーと……今ってあの金色のドラゴンの効果で全ての表側カードの効果は無効化されてますよね?」
花音の言う通り、【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の効果で他のカード効果を受けない【銀河心眼の光子竜】以外、効果は無効化されている他、フィールドで効果が使えなくなっている。
つまり……全破壊だ。【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の3つ首から赤いビームがフィールドを焼き払い、フィールドに残っていたカード、クリボー達が全て消し飛んでしまい、文字通りの更地になり、たった1枚のドローから全てを消し飛ばした彼方さんを見た観客達は息をするのも忘れる程、圧倒されていた。
俺も花音もその当事者であり、固唾を呑んだ。
それと同時に、俺は恐怖を感じた。本来だったら、俺と彼方さんは敵同士……相容れない存在だ。
彼方さんにとって俺は倒すべき敵の筈だが、彼方さんは俺を信じて仲間になってくれた。
今目の前で彼方さんの本気を見たせいか、それを喜ばしくも思い、安堵と似た感情が込み上げてくる。
そんな俺を安心させる為か、ティアドロップが俺の右手にそっと手を重ねた。
「大丈夫です。私が貴方を守ります。……絶対に」
ティアドロップは静かに顔を擦り寄せ、冷たくも、暖かい人肌を伝わせた。
「あ、あの……一応ここ学校なので、その……ええと、そういう破廉恥なのは……」
「うっ……だよな、ごめん」
「名残惜しいですがその通りですね。……では、また後で」
ティアドロップは言葉通り名残惜しそうな顔を浮かべ、そのまま霊体化してしまった。
「……あの、ティアドロップさん達程では無いですけど、私も精一杯頑張りますからね」
「あぁ、ありがとう」
心強くもあり、少し男としてのプライドが負い目を感じながらも、俺達は天音ちゃん達のデュエルを見届ける。
合計6連打の攻撃を凌ぐのは恐らくだが無理に等しい。倒されるのを待つしかないこの状況に絶望した天音ちゃんは、手札を手から離し、負けるのを待つかのように立ち尽くした。
「やっぱり彼方さんの勝ちですわね〜」
「心咲ちゃんという方は善戦しましたが……天音ちゃんはなんにもしなかったですわね」
「ただモンスター並べただけ。しかもクリボーって雑魚カードをな。あーあ、彼方の妹だから期待してたけど損したー」
心にもない観客達の言葉が天音ちゃんの心と胸を突き刺し、天音ちゃんは耳を塞ぎながらしゃがんだ。
まるで殻にとじこもるように小さく蹲り、天音ちゃんは完全に外との繋がりを遮断した。
「やだ……もうやだよ……みんなで私をいじめる……酷い事も言う……」
天音ちゃんは涙を流しているのにも関わらず、観客の落胆は止まらない。それどころか、つまらないデュエルをするなと、天音ちゃん達に対しての暴言も吐いた人間もいた。
悪い空気が伝染して空気が重苦しつつも最悪な展開になり、言葉のナイフが天音ちゃんに襲いかかる。
「もっといいデュエルしろよ!」
「そんな雑魚カード使うなよ面白くない!」
「下手くそがよ!」
『あ、あのー! 決闘者への誹謗中傷はやめてくださいー!』
これには流石のMixさんも観客達を落ち着かせようとするが、1人を止めた所で他の人が続いてバッシングをしている為、収集がつかない。
花音も隣の人に説得をかけようとしたが、適当にあしらわれてしまい、止めたとしても空気に感化されて俺達の言葉は届かない。
「もうデュエルをやめ……」
「グォォォォォ!!! 」
泣き続ける天音ちゃんに降り注ぐ言葉の雨をかき消す咆哮が轟き叫び、観客達全員があまりの咆哮の大きさに耳を塞いだ。
叫んだのは【銀河心眼の光子竜】だ。さっきまでの空気や雑音が全て吹き飛ばすほど強く、長い咆哮を上げ続け、この体育館が崩れされる程にも思える程の迫力だった。
1秒が1分にも長く感じる中、実際は短い時間だろうが俺達は長い間咆哮を受け続けたかのような体験をした中、【銀河心眼の光子竜】は静まり返り、全員彼方さんの方に目を向けた。
その時の彼方さんは誰にも目を向けなかったが、チラリと見えた彼方さんの目はとてつもなく恐ろしかった。
手札を握る力が強くなり、一歩間違えたらカードを潰してしまうほどの様子は、理性と大事な妹を侮辱された怒りのスレスレを保っているのを物語っていた。
彼方さんは何も言わず、観客では無く俺の方に目を向けていた。
何かを伝えたい強い目は、数百メートル離れている先でも感じとる事が出来、俺はそれを何か汲み取るように必死に頭を働かせた。
(花衣くん頼む。俺の言葉じゃダメなんだ)
「彼方さん……まさか」
静まり返ったこの空気なら、俺が叫べば天音ちゃんに声が届かせることが出来る。彼方さんが【銀河心眼の光子竜】を使って観客を黙らせたのは、天音ちゃんを守る事の他に天音ちゃんに言葉を届かせる為でもあったんだ。
どんな言葉を届けさせるべきなのかは決まっている。腹に空気を溜めこむように大きく息を吸い、天音ちゃんに向けて声を届かせる。
「天音ちゃん!! 頑張るんだ!!」
他の人にエールを送る為の言葉であり、力にもなれる魔法の言葉。
静まり返った体育館に響く言葉に天音ちゃんは顔を上げ、この人々の中で、俺を見つけてくれた。天音ちゃんだけではなく、周りの観客も不思議そうに見る視線が突き刺さる。
今更羞恥心なんて込み上げる訳も無く、ただひたすらに応援したいうという気持ちだけが俺を突き動かす。
「大丈夫! 天音ちゃんには『皆が』ついている!! 君を大切に思っている存在や、君と一緒に居てくれる存在が今近くにいる! だから頑張れ!」
『皆』という言葉がどういう意味を指すのか示す為に、俺はストレナエ、プリム、シクランのカードを掲げ、天音ちゃんはストレナエ達のカードを見て言葉の意味に気づき、天音ちゃんは周りに浮かぶクリボー達に目を向けた。
『クリクリ〜!』
虹クリボー、クリフォトンなど様々な種類のクリボーが天音ちゃんに寄り添い、天音ちゃんに応援するように声を上げ、天音ちゃんは落としたカードを1枚づつ丁寧に拾い上げた。
「みんな……」
(そうだ。苦しい事や辛い事からは逃げても良い。だが、逃げ続けちゃダメだ。逃げてはいけない時は必ず来る。それが今だ)
何を思っているのかまでは分からないが、彼方さんから天音ちゃんへの対する想いは、その力強い目が物語っていた。
「心咲ちゃん。私……」
「ん? どーしたの?」
天音ちゃんは数枚のカード心咲ちゃんに見せ、何かを説明していた。遠くかつ心咲ちゃんの背中で何のカードを見せているかは分からないが、この状況を凌げる算段はあるらしい。
「良いよ! こっちも楽しかったし!」
「……良いの?」
「だって、天音ちゃんも楽しまないとダメだし、何より天音ちゃんのカードって、すっっっっごいんでしょ? だから応援するよ!」
「あり……がと、心咲ちゃん」
「あ、やっと名前呼んでくれた!」
2人の微笑ましい光景で心做しか彼方さんの表情も穏やかになったが……慈悲は与えないようだった。
「悪いがこのままバトルを続けるぞ! 俺は【銀河心眼の光子竜】で、君達2人に5回連続攻撃! フォトン・ストリーム、ゴレンダァ!!」
容赦の無い攻撃が2人に襲いかかり、フォトン・ストリームが当たる演出の煙が天音ちゃん達を包み込み、その姿を隠れさせた。
実際の煙じゃないから煙たさは微塵も感じられないが、思わず煙を払う仕草をしてしまいそうなリアリティに、2人の安否が心配する程だった。
「天音ちゃん……心咲ちゃん」
2人の安否を案ずる中、煙が晴れると同時に少しづつ何か淡い光の膜の様な物が見え始めた。
煙が完全に晴れると、その光の膜の内側には天音ちゃんと1体のモンスター……【クリフォトン】がいた。
星空天音 残りライフ8000→6000
兎乃心咲残りライフ7000→0
「【クリフォトン】の効果で、ライフを2000払う代わりに残りのダメージは受けないけど……」
『このルールだとどちらか1人にしか適用出来ません! 残念ながら心咲ちゃんはここで脱落! ですが、彼方さんのライフを半分削ったのは大きいでしょう!』
そうか、クリボーの様な手札から直接発動して墓地に送る様な効果だから、【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の効果無効の影響を受けないのか。
やるなと言わんばかりの笑みを浮かべた彼方さんは、最後に1枚のカードを見つめ、全てを託すように伏せた。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
3ターン目終了
星空彼方:LP4000
手札3 墓地12 除外1 デッキ25
□□⑤□□
□□①②□
□ □
□□□□□
□□③④□
星空天音:LP6000
手札:2墓地:3除外:0デッキ:28
③④:伏せカード
①:銀河心眼の光子竜
②:CNo.107超銀河眼の時空龍
⑤:伏せカード
ライフこそ勝ってはいるが、盤面は彼方さんが圧倒的有利だ。
このターンあのモンスター2体をどうにかしなければ天音ちゃんの勝ち目は無い。
また【ティンクルファイブスター】を使ってモンスターを集めたとしても、彼方さんの手札は潤沢だ。
恐らくだがこのターンで決着をつけるしか天音ちゃんの勝ちは無い……!
「私のターン。お願い、来て……!」
目を閉じて祈りながらカードをドローした天音ちゃんはゆっくりと目を開き、その後天音ちゃんは肩を上げて驚いていた。
「ま、まずは伏せていたカード【クリボーを呼ぶ笛】を発動して、【ハネクリボー】をデッキから特殊召喚!」
「特殊召喚だと? 何をするつもりだ天音……」
「……行くよ、ハネクリボー」
『クリクリ〜!!』
「私は魔法カード【賢者の結晶ーサバデュアル】を発動!」
「っ……そのカードは!?」
『ん? 【賢者の石ーサバディエル】ならありますが……これは違います! まさかのこれは……レゾンカード!!』
会場の空気がざわめき始め、俺は身を乗り出す程の衝撃を受けた。
【賢者の石ーサバディエル】は、俺にとっては少しだけ縁のあるカードだ。名前からしてそれと関連あるレゾンカードを見てしまったせいなのか、何故か心がざわついてしまう。
「【賢者の結晶ーサバデュアル】の効果は普通の融合と変わらないけど……その代わり、フィールドの【ハネクリボー】を素材とする時はデッキのモンスターを墓地に送って素材にする事もできる!」
「何っ!?」
「私はフィールドの【ハネクリボー】とデッキの【クリボー】【虹クリボー】【ギャラクリボー】【マジクリボー】で融合召喚!」
サバデュアルの結晶が新緑に光輝くと、5体のクリボーが一つになる様に混じり合う。
小さな体を包み込むように白い鎧とハネクリボーに着けられ、背中には白金に輝く翼が広げられた。
まるで【シャイニング・ネオス・ウィングマン】の鎧を纏った様な姿であり、風格はまさにヒーローだった。
「一緒に行こ……! 【ハネクリボーLV.
ハネクリボーLV.
レベル5/融合/光属性/天使族/ATK???? /DEF????
「レベル
「あのカードは……俺が初めて【銀河眼】と出会ったあの日、お前が持っていたカードの1枚……やっと使ったんだな」
満足そうな笑みを浮かべた彼方さんは、まるで心残りが無いかのような晴れ晴れしさだった。だがデュエルは終わってない。
「【ハネクリボーLV.
確か天音ちゃんの墓地のクリボーモンスターは……クリボー5兄弟に、リンクリボーと、さっき素材にしたモンスターの11体だ。つまり、攻撃力は2200の上昇だ。
ハネクリボーLV.
「だがその攻撃力じゃ俺のモンスターには届かない」
「ううん届くよ。行って! 【ハネクリボーLV.
ハネクリボーLV.
「【ハネクリボーLV.
『【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の攻撃力は4500! つまり、攻撃力が4500アップ!』
ハネクリボーLV.
「更に手札から速攻魔法【コンセントレイト】! この子の守備力分、攻撃力をあげるよ!」
ハネクリボーLV.
「この攻撃が通れば……」
「彼方さんのライフは0になって天音ちゃんの勝ちですね!」
天音ちゃんよりも勝利を確信した花音が自分の事の様に喜んでいた矢先、彼方さんは伏せていたセットカードを公開した。
「速攻魔法発動! 【龍皇神話】! 【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の攻撃力を倍にさせる!」
【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】ATK4500→9000
「そんな!」
天音ちゃんよりも心咲ちゃんがショックを受けていた……だが、それよりも天音ちゃんの方はこれで大丈夫だと思っているような顔であり、それ程のショックを受けていなかった。
ハネクリボーの装甲が|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》の攻撃によって剥がされてしまい、ハネクリボーは光の中でその身を傷つけられながらも、天音ちゃんを守るように手足を広げ、その身を受け続けた。
「ハネクリボーちゃん!!」
『クリクリクリクリ……クリィィィ!!』
その時、ハネクリボーその身を呈して攻撃を跳ね返すと、ハネクリボーは龍の形をした鎧を背負い、美しく巨大な翼を広げていた。
翼の羽がゆっくりとフィールドや会場全体へと落ちていき、見る者全員の目が奪われていた。
「あれは【ハネクリボーLV10】か? 何で今……」
「【ハネクリボーLV.
「召喚条件無視してか……とことん天音の事を守りたいようだな、クリボー」
【ハネクリボーLV10】の効果は自身をリリースする事で相手モンスターを全て破壊し、その攻撃力の合計のダメージを相手に与える効果がある。
だが、彼方さんの場には【銀河心眼の光子竜】が存在し、破壊されず、しかもモンスター効果を無効にする効果もある。
今ハネクリボーの効果を発動したとしても、無効にされて終わりだ。最早ここまでと思ったが、天音ちゃんが最後の伏せカードをゆっくりと捲り、彼方さんにみせた。
「速攻魔法【禁じられた聖衣】発動。これで私のモンスターは、相手の効果の対象にならないよ」
「……そうだな」
負けを認めた彼方さんの目は優しく、そして穏やかだった。勝者を称えるように、そして妹の成長を喜ぶ兄の姿が、確かにそこにはあった。
「【ハネクリボーLV10】の効果! この子をリリースして、相手モンスターを全て破壊した後、破壊したモンスターの攻撃力の合計のダメージを与える!」
ハネクリボーが翼を振るい、|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》の攻撃を跳ね返した。
|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》は跳ね返された攻撃によって破壊され、その攻撃は彼方さんにまで届かせようとしていた。
しかし、その攻撃は【銀河心眼の光子竜】が身を呈して攻撃を受け止めた。
ソリッドビジョンだからその必要は無いが、それ程彼方さんと【銀河心眼の光子竜】の絆は硬いものだと物語っていた。
「……ありがとうな」
星空彼方 残りライフ4000→0
『試合終了!! このデュエルを制したのは、天音ちゃんと心咲ちゃんだぁぁ!』
「やっっ……たぁぁ! 天音ちゃん、勝ったよ私達!」
大きな喜びを分かち合うように心咲ちゃんは天音ちゃんに抱きつき、微笑ましい光景になった。
「わぷっ……苦しいよっ……」
「だって勝ったんだよ! あんな強い人に! 嬉しくないの?」
「それは……嬉しいけど」
「じゃあ喜ぼうよ〜!」
「だーかーら苦しいよー! ふふっ、ありがと」
心咲ちゃんとのハグは続いており、心做しか天音ちゃんは嬉しそうだ。その光景を見た彼方さんも微笑ましい和やかな笑顔を向け、その場を去っていった。
「彼方さん?」
『では皆さんにインタビューを……あら? 彼方さんはどこに?』
「彼方さん!」
会場を抜け出した彼方さんを追いかけ、学園の廊下で追いついた所で、彼方さんは俺の声に気づいて振り返った。
「花衣くんか。ありがとう花衣くん。君のおかげで天音は前に進めた」
「やっぱり、天音ちゃんの成長の為のデュエルだったんですね。……わざと負けたのも、その為ですよね?」
「わざと……?」
「彼方さん、前のターンで勝てましたよね」
前のターンというのは、彼方さんが最大6連打出来たターンの事だ。
あの時、天音ちゃんが【クリフォトン】の効果を使って何とか難を逃れたが、その前に彼方さんは【銀河心眼】の効果でそれを無効に出来た筈だ。
伏せカードも【|超銀河眼の時空龍《ネオギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》】の効果で使えなかった。
あの時点で勝ったのにも関わらず、彼方さんはターンを渡した……つまり、天音ちゃんを勝たせようとさせた他無い。
勝手な推測だが間違っていない筈だ。その証拠に彼方さんは否定せず、ただ静かに笑った。
「あぁ。だが勝ちを譲るつもりは無かったのは事実だ。俺は……天音を成長させたかっただけだ。君のおかげだ。ありがとう」
「俺は何も……」
「したさ。本当にありがとう、花衣くん」
彼方さんは右手を差し出し、手の汚れを落とすためにズボンで手を拭いた後で彼方さんとの握手を交わした。
「……これでもしもの事があっても大丈夫だな」
「えっ……?」
「なんでもないさ。そうだ、文化祭に来たんだったら、夜の部は特別な行事が行われる。花音さんがいずれそこに連れていってくれるさ」
まるでさっきの言葉を無かった事にするかのようは話題の逸らし方に不穏感が募り、彼方さんにどういう事か説明を求めると、廊下の奥から花音が俺を呼んでいた。
「花衣さーん! 彼方さーん! 天音ちゃん達がインタビューを終えたので、迎えに行きませんかー!」
「あぁ、ありがとう! すぐ行きます! じゃっ、文化祭楽しんでくれ」
「ちょっ……」
有無を言わさない彼方さんはそのまま走り去ってしまい、天音ちゃんの迎えに行ってしまった。
……もしもの事があっても大丈夫。確かに彼方さんはそう言った。
もしもの事を……というのは、言わない方がいいだろう。言ってしまえば、それが現実になりそうだったから。
そんな彼方さんは、未練を残さないように天音ちゃんに寄り添っていた。
いつも通りの筈なのに、今だけはそんな風に思えてしまった……。
メルフィーといっしょ 永続魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使えない。
①自分の手札、フィールドの【メルフィー】モンスターを含む獣族モンスターのみを対象にして発動出来る。対象のモンスターを素材として、X召喚する。
②:自分フィールドに【メルフィーといっしょ】以外の【メルフィー】永続魔法が表側で存在する限り、自分の【メルフィー】モンスターは相手モンスターの効果の対象になならない。
③:このカードが表側かつ自分フィールドに【メルフィー・マミィ】が表側で存在する限り、相手モンスターは攻撃表示になり、【メルフィー】モンスターに攻撃しなければならない
ハネクリボーLV.
レベル5/融合/光属性/天使族/ATK????/DEF????
・『ハネクリボー』+『クリボー』モンスター4体
・このモンスターの元々の攻撃力と守備力は、自分墓地の『クリボー』モンスターの種類の数×200になる。
①:このモンスターの攻撃宣言時、相手フィールドのモンスター1体を対象に発動出来る。対象のモンスターの攻撃力の数値をエンドフェイズまで攻撃力に加える。
②:フィールド上の『ハネクリボー』を融合素材に融合召喚したこのモンスターがフィールドから離れた場合発動出来る。墓地のこのカードを除外し、デッキから『進化の翼』を除外した後、デッキから『ハネクリボー.LV10』を召喚条件を無視して特殊召喚する。
賢者の結晶ーサバデュアル
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。
①:自分の手札・フィールドから、融合・S・Xモンスターによって決められた素材モンスターを墓地へ送り、そのモンスター1体をその種類(融合・S・X)の召喚として、特殊召喚する。
自分フィールドに『ハネクリボー』が存在する場合、デッキから素材を墓地に送ることが出来る。
②:このカードの効果によってXモンスターが特殊召喚された場合、このカードによって墓地に送られたカードを自分フィールドのXモンスターのX素材になる。
③:自分フィールド、または自分の手札から『クリボー』モンスターが墓地に送られた場合、墓地のこのカードを手札に加えられる。
この効果は、デュエル中3回まで発動出来る。
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