六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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相棒の導き

 

 聖奈学園の文化祭もあと僅かとなった。辺りはすっかり夕暮れとなり、本来なら下校時刻な所を、特別な許可を持ってかなり遅くまで文化祭は続くらしい。

 

 パンフレットを見ると夜には花火大会をやるらしく、文化祭の域を超えた催しで流石お嬢様学校と脱帽してしまう。

 

「でもいいのか? ここってかなり地位の高い生徒が多いんだろ?」

 

 隣にいた花音もその当事者だが、花音は何も心配事が無いかのように笑った。

 

「ご心配なく。この学園には最新の警備システムがあって、不審者はこの学園に入れませんし、そもそもこの近くには警察署がありますので、大丈夫だと思いますよ」

 

 確かに……よく見ると無線機を持っている一般人も混じっており、私服警官が多く混じっている。そりゃあ安全性を保てる訳であり、ここで誘拐したりする馬鹿は居ないだろう。

 

「ところで花衣さん。お時間の方は大丈夫ですか?」

 

「ん? 俺は大丈夫だ。門限とか決まってないし」

 

「では、花火大会を見てみませんか?」

 

「けど時間あるしなぁ……どこか適当な所で時間を潰そうか」

 

「じゃあ心咲と一緒にあーそぼ!」

 

 さっきまで彼方さんとデュエルしていた心咲ちゃんが兎のように走り、兎の様に胸に飛び込んできた。相変わらず元気な子だ。

 

「ま、待ってよ……心咲ちゃん」

 

 心咲ちゃんを追いかけようとする女の子……意外にもそれは天音ちゃんだった。

 

「あれ、天音ちゃんも居るのか?」

 

「うん! 文化祭が終わるまで一緒に遊ぶの! 花衣お兄ちゃんと一緒にね!」

 

「……彼方さんは?」

 

 天音ちゃんの近くにはいつも彼方さんが居るはずだが、今はその姿が見えない。

 

「お兄ちゃん、文化祭の準備とかで忙しいらしいから……」

 

「その文化祭当日なのに……か?」

 

「いつも大規模ですから。本番に調整しなければいけないものがあるんですよ。段取りが悪いとは、私も思っています」

 

 花音の苦笑いでその大変さがよく分かる。しかし同時に納得も覚えた。

 

 これだけ大規模な文化祭だから、最終チェックを慎重にやらなければ大事故に発展し、他の人にも危害が加えられるのは学校からしても避けたい事だろう。

 

 故の準備……彼方さんには同情する。

 

「ねぇねぇ花衣お兄ちゃん~心咲達と一緒に遊ぼうよ~」

 

 心咲ちゃんがグイグイ腕を引っ張り、是か非でも俺と文化祭を回ろうとしていた。

 

 折角再会したんだから遊びたいのはやまやまだが、花音の事を無下にするのは気が引ける。

 

「うーん……花音、どうする?」

 

「私の方は大丈夫ですよ。時間まで私が席を取っておくので、お気になさらず」

 

「いやいやそんなの悪いって」

 

「いいえ。ここは私の学校ですから。花衣さんが気を使う必要はありません」

 

「でも……」

 

「ではこうしましょう。花衣さんの文化祭では心置きなく私に気を使ってください。これでおあいこです。では、席を取ってきますね」

 

 花音に上手く言いくるめられ、ぐうの音も出ずに花音は花火大会の席をとるために俺と一旦別れた

 

「じゃあこれで一緒に遊べるね!」

 

「そうだな。……という事だけど? ティアドロップ」

 

『別に問題ありません。……私も幼子に嫉妬するほど大人気なくはありませんから』

 

「そう言うなら俺の裾を離してくれないか?」

 

『……花衣様、貴方は私達の物であり私達だけを愛して私達の為だけを想う事を忘れずに』

 

 最後に爪痕を残そうと耳元で重い愛を囁くと、ティアドロップは姿を消した。

 

「……にしても、私『達』か。最初に出会った頃よりは丸くなったかな」

 

 多分、最初のティアドロップだったら私だけと言っていただろう。

 

 だが独占欲は変わらず、姿を見えなくなってもティアドロップや他の皆からの圧をひしひしとのしかかった。

 

「どうしたの花衣お兄ちゃん。何だか凄く変な顔してるよ」

 

「変な顔?」

 

「えっとね~嬉しい顔と疲れた顔を合わせたような変な顔ー」

 

 そんな顔してたのか……ってどういう顔だそれ? 苦笑い……をしていたのか? とにかく、ティアドロップ達に対しての顔が表に出ていたようなのは間違い無く、顔を振って何事も無かったかのように装った。

 

「なんでも無いよ。それで、どこに行くんだ?」

 

「えっとね~……とにかく楽しいところ全部! 早く行こ!」

 

「ちょ、ちょっと待って。この近くなら……ええと」

 

 パンフレットを見ながら歩こうにも、この人だかりで天音ちゃんと心咲ちゃんを見失わないという自信が無く、手を繋ごうにもパンフレットで片手で塞がられているから2人の手は繋げない。

 

 天音ちゃんと心咲ちゃん、どちらかが真ん中に立てばかいけつするんだが、人通りが多い場所に出るから子供の握力では、ちょっと人にぶつかったら手を離す心配がある。

 

 だからこそ俺が2人の手を繋ぐしか無いわけだが……。

 

「場所がなぁ……」

 

『コンコン!』

 

 悩んでいた所を閃花がカバンから顔を出すと、顔のバイザー画面から【NAVI】という文字が表示された。

 

 とにかくナビがあるなら問題なさそうだが……どうすればいいんだ? 

 

 どんな風に操作すればいいか悩んでいた所を、閃花のバイザーに【pleaseSpeak】と表示されていた。

 

 行き先を喋れ……ということだろうか? 

 

「じゃあ近くの屋台を……って、こんな大雑把でいいのか?」

 

 閃花のバイザーが【Roger】と、了解の意味の文字を浮かばせた後、俺の頭の上に乗って行き先を示すように尻尾を真っ直ぐ向けた。

 

 どうやら尻尾が道順を示しているようであり、これなら迷う心配はないだろう。

 

 

「わー! 花衣お兄ちゃん何その狐さん! 触っていい?」

 

 心咲ちゃんが閃花に興味を持ったらしく、閃花を手のひらに乗せ、心咲ちゃんに近づけた。

 

 ようやく閃花がロボットだと分かってもガッカリせず、興味深々に閃花を見つめ、自分の手のひらに持っていくと、閃花の頭を撫でたりした。

 

「機械の動物さんだ! お手とか出来るのかな?」

 

「どうだろ……」

 

「お手!」

 

『コン!』

 

 心咲ちゃんのお手に反応した閃花は右前脚を出した。

 

「わぁ~天音ちゃんも触ってみる?」

 

「良いの?」

 

 天音ちゃんは不安そうに俺を見つめ、心配ないと言いながら俺は頷くと、閃花は天音ちゃんの手のひらへと飛び、顔を擦り寄せた。

 

「……可愛い」

 

「でしょー? 良いな花衣お兄ちゃん」

 

 素直に羨ましがる心咲ちゃんを見て、閃花を持っている事に少し誇らしく感じ、思わず閃花の喉元を撫でた。機械だから気持ちがいいとかそういう感度は無いと思うが、閃花は気分が良さそうに喉を鳴らす音声を流した。

 

「大事な人から貰ったんだ。そう言ってくれると、俺も嬉しいな」

 

「その大事な人って、この前メルフィーパークに来てくれた金髪の人と銀髪の人?」

 

「へ? な、なんで分かったんだ?」

 

「だって花衣お兄ちゃん。その人達と喋った時と同じ様な顔してるもん」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 まさか心咲ちゃんからそんな指摘を来るとは思わず、つい口元を手で隠してしまった。

 

 度々言われるが、本当に俺って顔に出るタイプなんだなと、改めて思い知らされると同時に、こんな小さい子に指摘されるやるせなさが羞恥心を呼び、ついつい頬をかいて照れ隠しをしてしまう。

 

『一応それは、ボクも作ったんだが?』

 

『ふーん……花衣は私たちの事はどうでもいいんだ』

 

 背後からアザレアとカメリアの冷たい目が体を突き刺すようであり、顔を振り向く事が出来ない……というより振り向きたくなかった。

 

 精霊が見える天音ちゃんもアザレアとカメリアの圧を受けてしまい、びっくりして俺に抱きつくと、目に涙を浮かべていた。

 

「?? どうしたの、花衣お兄ちゃん。汗凄いよ? 天音ちゃんもなんで花衣お兄ちゃんの足に抱きついたの?」

 

「こ、怖いから……」

 

「怖い? 何が?」

 

 精霊が見えない心咲ちゃんにとっては不可思議な事であり、心咲ちゃんは頭に『?』マークを浮かべて天音ちゃんをじっと見ていた。

 

「と、とにかく早く行かないと混んでしまうかもよ?」

 

 ここで詰め寄られるといつボロを出すか分からない。ここは早めに意識を逸らす言い方をすると、心咲ちゃんは食いつくように急かした。

 

「ほんとだ! 花衣お兄ちゃん早く早く!」

 

 左腕を掴まれて、急かすように俺の腕を引っ張ってくる。まぁまぁ力あるな……遠慮が無い分、油断したらバランスを崩しそうだ。

 

 腕を引っ張る心咲ちゃんを気にしながらも、しがみついている天音ちゃんに右手を差し出し、天音ちゃんはゆっくりと手を繋いでくれた。

 

「行こっか、天音ちゃん」

 

「うん。……あったかい」

 

 天音ちゃんが何か言ったような気がしたが、人混みの雑音にかき消されてしまい、気にしないまま文化祭を巡りに巡った。

 

 閃花のナビの元、最初に辿り着いたのは……クイズ屋という名前が下ろされた屋台だった。

 

「さぁさぁいらっしゃい! 高額レアなカードを手に入れるチャンスですよ~!」

 

 店番をしている女生徒が客引きをする中、俺たちと目が合うとこれみよがしに手招きすると、心咲ちゃんが興味を持ってその店へと足を運ぶ。

 

 クイズって確かカード名でもあったな。

 

 前俺が使った【大逆転クイズ】は、デッキの1番上のカードの種類を当てれば、自分と相手のライフを入れ替える効果だが、【クイズ】は墓地にある1番下のモンスターの名前を相手が宣言し、それが当たったら不発、違ったらそのモンスターを特殊召喚出来る物だ。

 

 確かピックアップデュエルでロゼが使っていた記憶があるが、多分ここにおけるクイズは一般的な物だろう。

 

「お、そこの人達やってみる? 全問正解すれば、レアカードが当たりますよ」

 

「レアカード? どんなものなのー?」

 

「そ れ は……あちらです!」

 

 女子生徒が手を向けた先はカードの縁が星のように輝く20thシークレットレアの証拠のカード、【憑依覚醒】のモンスター達だった。

 

「わー! キラキラしてる!」

 

「1枚数万は下らないですからね。ですがあれはすっっごく難しい難易度を全問正解しなければならないですが、大丈夫ですか?」

 

「やるやるー! 花衣お兄ちゃんがいるから大丈夫だよ!」

 

「ええ? 俺そんなに詳しくは……」

 

「では問題です! 全部で5問あります!」

 

「聞けよっ!」

 

 俺の意思関係なくクイズが始まり、しかも難しいと言うからにはかなりの物を覚悟しなければならない。

 

 よく耳をすまして問題文をよく聞かないと……

 

「では問題! 【バニーラ】のフレーバーテキストに書かれている人参は何?」

 

(いや聞いても知らねぇぇぇ!!)

 

 フレーバーテキスト? しかもバニーラって何だ? 誰だ? やばい、分からない。そもそも知識の範囲外で考えるという事が出来ない。

 

 しかもこのクイズ、選択肢がないから当てずっぽうで当てる事すらも出来ない。

 

『終わった』と心の中で呟きながら顔を覆うと、意外な子が答えをあげた。

 

「はーい! 世界一甘いと言われる甘糖人参!」

 

「正解!」

 

「へぇ?」

 

 まさかの心咲ちゃんが正解をし、思わず情けない声をあげてしまった。

 

「心咲ちゃん、【バニーラ】知ってるのか?」

 

「うん。【バニーラ】はね、レベル1の通常モンスターで可愛い兎さんなの! デッキにも入れてるよ」

 

 心咲ちゃんはデッキから【バニーラ】を見せてくれた。

 

 レベル1の通常モンスター……所謂バニラモンスターであり、攻撃力は150と低いが守備力が2050と高い。

 

 フレーバーテキストでは確かに甘糖人参と書かれていた。

 

「よく覚えていたね」

 

「大好きなモンスターだから当然だよ!」

 

 大好きなモンスター……か、確かに俺も六花と閃刀カードの効果は全て覚えているから、それと同じ様な物なのだろう。

 

「それでは第2問! レゾンカードを除いて、カードの最長テキスト文字数は何文字? これは五文字の誤差までなら正解扱いしますよ!」

 

「て、テキストの文字数?」

 

 テキストの文字数って分かるのか? けど、大抵の効果は③までしかない。

 

 ……いや、ペンデュラム効果も含めばもっとあるのか? なんか彼方さんからそんなモンスターがいるって聞いた事あるような気がする。

 

「なぁ、それってペンデュラム効果も含むのか?」

 

 よし、それなら後は思い出すだけでいいはずだ。

 

「そうですよ。あ、あと30秒でーす」

 

 まずい、早く思い出してくれと自分に言い聞かせながら、記憶を遡っていく。確か焔が話し始めたのがきっかけだ。

 

『効果テキスト読むのクソだるくないか?』

 

『お前のはまだマシだ。最長のテキストは……』

 

 

「えーと、400文字……かな?」

 

 確かそれぐらいだった筈だ。五文字まで正解なら、395文字〜405文字までが正解という訳になるから、この辺で当たってくれれば良い。

 

 固図を読む中、答えが書かれている紙を女子生徒が目を通し、ゆっくりと焦らすように口を開けた。

 

「……正解です! 最長テキストは涅槃の超魔導剣士(ニルヴァーナ・ハイ・パラディン)の397文字です!」

 

「という事は、範囲内にあるな。良かった〜」

 

 これで2問正解だから、あと3問連続正解すればレアカードが貰える訳だ。だが、ここからさらに難しくなる事は目に見えているから気を引きしめる。

 

「では第三問!」

 

「よーし来い」

 

「40秒以内に【ユベル】モンスターを噛まずに全て言ってください!」

 

「いやクイズ関係ねぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 _数分後

 

「いつつ……舌噛んだな、これ」

 

 結局あの3問目のお題、ユベルの全形態の名前を噛まずに言えられず、【ユベル-Das Extremer Traurig Drachen】の名前を言っている時に噛んでしまった。

 

 腫れては居ないし、傷も出ていないから大丈夫だが……皆は気が気でならないようだ。

 

『旦那様、お口の方は大丈夫ですか? 傷んだら直ぐに手当しなければなりませんからね? 分かっていますか?』

 

『花衣、今すぐ舌を出して。治療する』

 

 カンザシとロゼが我よ我よと両手に氷や水を持ち、舌の腫れを冷そうとしていた。だけどそれ程心配ないし、痛みも時間が経つにつれてひいていっている。

 

 それに、ここで舌を出せば精霊が見えない他の人にとって何も無い所に舌を出している変質者になりかねない。それは避けたいし、かといってカンザシ達を実体化したら、後々面倒な事になりかねない。

 

「……あれ? ハネクリボー……どこ?」

 

「大丈夫」だと言い続けてようやくカンザシ達はしぶしぶだが姿を消しながらも、冷やすための氷は置いてくれた。有難くその氷を口の中に放り込み、腫れ……ているのか分からない舌を冷やした。

 

 だが心配してくれるのは何もカンザシ達だけじゃない、天音ちゃんと心咲ちゃんも、舌を噛んだ俺を心配してくれていた。

 

「ねぇねぇ、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ心咲ちゃん。ごめんな、参加賞しか貰えなくて」

 

 俺の手にはさっきのクイズ参加賞である小さなアイス棒が握られており、少し冷たい物が苦手な俺はアイスを心咲ちゃんに渡し、心咲ちゃんは満足そうにアイスを2個食べ続けた。

 

「良いよ。楽しかったし! ね、天音ちゃ……あれ? 天音ちゃんは?」

 

「え?」

 

 言われて俺は天音ちゃんと手を繋いでいた筈の右手を見ると……そこには天音ちゃんの姿がいなかった。

 

 居なくなった事実を理解した途端、身体中の体温が抜けたような冷たさが襲いかかり、胸が掴まれる様な痛みが走る。

 

(まさか……セブン・エクリプスが天音ちゃんを……)

 

 頭の中で最悪の考えだけが埋めつくされながらも、周りを見て天音ちゃんを探すが、周りには生徒や一般客ばかりで天音ちゃんを見つけることは難しい。

 

 いや、そもそもいつからいなくなった? 

 

 それすらも分からず、どうしてもっと気を遣わなかったと自分を責め続けた中、ティアドロップが落ち着かせるように目の前に現れた。

 

『花衣様、とにかく天音さんを探しましょう』

 

「そうだな……ロゼとアザレアとカメリアは、一応心咲ちゃんを守ってくれ。ただし、実体化はロゼだけだ。面識がある奴の方が、心咲ちゃんも落ち着く」

 

『わかった』

 

「心咲ちゃん。ちょっと天音ちゃんを探しに行くから、ここで待っててくれ。後からロゼ……えーと、メルフィーパークで会った灰色の髪のやつ、覚えてる? その子が来るから」

 

「えー私も行く〜」

 

「ダメだっ!!」

 

 突然の怒鳴り声に心咲ちゃんは体をビクつかせ、怒られたと思ったのか目に涙を溜める程に怖がらせてしまった。

 

「あ……ごめん。危ないからさ、ここで待っててくれ」

 

「やだー!! 一緒にいくー!!!」

 

 とうとう泣いてしまった心咲ちゃんは俺の服に力いっぱいしがみつき、てこでも動かないつもりだった。

 

 だが……ついて行かす訳には行かない。もし天音ちゃんをセブン・エクリプスが誘拐したのなら、間違いなくソイツらに接触する。

 

 何も関係ない人を躊躇いなく巻き込むアイツらを前に、もし戦うとなったら……守り切れる自信が無い。

 

 何とかして心咲ちゃんを説得しようとしても、心咲ちゃんは聞く耳を持たない状態だ。

 

 無理やりひっぺがそうとしても、心咲ちゃんはついて行くだろう。振り切ろうと考えている俺だが、そうなれば人混みに揉まれて最悪心咲ちゃんもセブン・エクリプスに連れていかれる可能性だってある。

 

 どうすれば良い? こんな事している間にも天音ちゃんの身に何か起こっているかもしれない……。

 

『花衣、もしもの時は私達が心咲を守る。ここは一緒に行った方がいい。時間は限られてる』

 

 悩んでいる所にロゼが俺にそう伝えた。

 

 確かにロゼの言う通り時間が無い。ここは心咲ちゃんを連れていき、天音ちゃんと一緒に保護するのが良いだろう。

 

「ロゼ、レイに連絡して急いで戻ってくるように伝えてくれ」

 

 レイは今、俺の頼み事で結構遠くの方に行っている。

 

 杞憂であれば良いんだが、何故か胸騒ぎがする。

 

 _ヤツが……イル

 

「っ……」

 

 胸騒ぎと同時に痛みが全身に襲いかかる。まるでこれから起こる事への戦闘態勢みたいに……。

 

「とにかく探すぞ。心咲ちゃん、良い?」

 

「うん……大丈夫」

 

 とにかく急ぐ為に心咲ちゃんを抱き上げ、天音ちゃんを探し回る。

 

 校庭、教室、中庭……ダメだ、どこを探しても見つからない。しかも初めて足を運んだ場所だから土地勘すら掴めない。

 

 さっきから同じ場所を回っている事もあれば、行き止まりに着くことも殆どだ。

 

「天音ちゃん! どこだ!?」

 

 居ない。居ない。どこにも居ない。焦りのせいか頭や体が痛い……。

 

 _コッチだ

 

「がっ……!」

 

『花衣様?』

 

 導かれるように体が勝手に動いてしまう。おぼつく足でゆっくりと、着実に。

 

 目の前が徐々に暗くなるにつれて体に走る痛みが止まらず、強くなる。

 

 _ヤツが……いる

 

 胸騒ぎが言葉に変わって押し寄せてくる。そしてそれが俺の体を蝕み、視覚と聴覚を支配する。

 

 タオス、たおす、倒す、殺す、存在を抹消する。

 

 目の前が暗闇の中、忌々しく輝く光が見えた。

 

 あれだ……俺の敵、俺の憎しみ……俺の…………生きる意味っ!! 

 

「み……ツ、け……」

 

『花衣様っ!!』

 

「はっ……!」

 

 ティアドロップの声を聞いた瞬間、体の痛みが無くなり、暗闇の視界が元に戻りつつあった。

 

 幻聴も無くなり、意識も正常に……なったのか? 

 

 意識が変になった気がしないのは、あれが俺の本心だったという事か? 

 

 どす黒いなんて物じゃない、どこまでも深く、何も見えず、何も感じず、何も無い……闇。

 

(……いや、そんなこと無い。疲れているんだ)

 

「ねぇ、花衣お兄ちゃん大丈夫? さっきからどこかに行くようにしているけど、天音ちゃん見つけた?」

 

「見つけては……無い。けど、あそこに多分いる……と思う」

 

 俺は奥にある一本の気に指を指し、心咲ちゃんは自分の足で歩きたいのか足をばたつかせ、その意思を汲み取っては心咲ちゃんを下ろした。

 

 地面に足を着いた心咲ちゃんは小走りで指を指した気に向かうと、心咲ちゃんの目には2人の人間が映った。

 

 1人は天音ちゃんだったが、もう1人は目を疑う人物だった。

 

「あー! 天音ちゃん見っけ! ……あれ? この人誰ー?」

 

 心咲ちゃんの目に、もう1人男の姿が映った。

 

 茶色に髪に赤いジャケットを羽織り、背丈は俺よりも少し高い。年齢は……多分20代は行っており、俺の知っている姿とは少し違う大人びた風貌だが、その姿はオシリスレッドの制服を着たあの時の姿と重なった。

 

 テレビという箱の中だけの存在だと思っていた男が、今目の前にいる。

 

「遊城……十代?」

 

 名前を呼ぶと、彼が振り返った。憧れや感動を覚えると同時に、十代さんに対しての恐れや怒りも俺の中で渦巻いていた。

 

 俺は……かつて十代さんが倒したダークネスの依代だ。言わば敵……相容れない存在だ。無意識に十代さんと距離を置き、出会った感動すらも薄れつつあった。

 

「久しぶり……、それとも初めましてと言うべきか? 桜雪花衣。だっけ?」

 

「俺の名前を……」

 

「一応、レゾンに協力してるからな」

 

「レゾンに……」

 

 レゾンという言葉に、俺よりもティアドロップ達が反応し、ティアドロップ達は十代さんに向けて敵意を向けたと同時に、十代さんの前に2体のモンスターが現れた。

 

 そう、【E HERO ネオス】と【ユベル】。切っても切れない絆で結ばれた、十代さんのモンスターだった。

 

「待てって、別に俺はお前と今デュエルしようとした訳じゃない。ただ相棒の様子を見ただけさ」

 

「相棒……? ハネクリボーの事ですか?」

 

「へぇ、やっぱり俺の事知ってるんだな」

 

 十代さんの後ろからハネクリボーがひょこっと姿を見せると、ハネクリボーはゆっくりと天音ちゃんの手の上へと飛び、天音ちゃんの傍に寄り添った。

 

「けど、今はその子の相棒だな。俺が渡したけど」

 

「それは……初めて遊戯さんに渡された時と同じようにですか?」

 

「それまで知ってるのか……まぁ、そんな感じだ」

 

「ねぇねぇー。さっきから何話してるんの?」

 

 話が見えない心咲ちゃんにとってはつまらないと思ったのか、ズボンの裾を引っ張ってきた。

 

「あぁごめん……ちょっと離れててくれないか? この人と大事な話をすると思うから……」

 

 最悪、俺はここでこの人と戦うことになるだろう。彼にとって俺は倒した筈の最悪の敵の依代……言わば不穏分子だ。

 

 もしここで戦いでもすれば、多少なりとも周りに被害が及ぶ。そんな場に精霊が見えない心咲ちゃんを置いていく訳には行かない。

 

 無理にここを居ようとものなら説得するだけだと考える中、天音ちゃんが心咲ちゃんの手を繋ぎ、言葉を送った。

 

「心咲ちゃん。ちょっと離れよ……? 大事なお話そうだから」

 

「え〜……でも、天音ちゃん見つけたしいっか。花衣お兄ちゃん、あそこの木の傍で待ってるね」

 

 心咲ちゃんは近くにある木の下で天音ちゃんと座り、肩を寄せあって和気あいあいと会話を続けた。一応ロゼ達を周りにつかせ、警戒を怠らないようにする。

 

 これでなにかあっても安心な筈だ。

 

「……俺をどうするつもりですか」

 

 体がひりつき、常に喉元に刃物が突き立てられているような感覚だ。呼吸も浅く、全身の血の気が引くのは死に際が近づいている前触れだと思わせられる。

 

 彼の一挙一動が気になり、指を動かしただけで思わず体が強ばってしまう。

 

「まぁ待てよ。さっきも言ったけど、俺はただ相棒の様子を見ただけさ」

 

「どうしてハネクリボーを天音ちゃんに?」

 

「相棒があの子について行きたかったんだ。ちょっと寂しいけどな」

 

「理由は?」

 

「さぁな。もしかしたら、あの子に何か感じたかもしれないな」

 

「天音ちゃんに……?」

 

 確かに、天音ちゃんは不思議な雰囲気がある。

 

 元々精霊が見えることもそうだが、それ以外に何かを最初から感じていた。

 

 儚げ……とは違う何か、それをハネクリボーを感じたと言う事なのだろうか。

 

「しかしあの子すごいな。相棒を進化させたんだぜ? しかも、【賢者の結晶ーサバデュアル】か……何だか、懐かしいな」

 

「【サバディエル】……影丸との、三幻魔とのデュエルで使ったからですか?」

 

「ああ。懐かしいな」

 

 十代さんはまるで昨日の事かのように思い出していた。

 

「さて、相棒の様子は見たし。俺と話してるせいか、そっちの精霊が怖ぇ顔して見てるからな」

 

『当然です。花衣様の命を狙っている組織に協力している人物が目の前にいるのですからね』

 

 ティアドロップや皆が俺の前に立ち、守ろうとしていた。十代さんはそれを見て小さく笑った。

 

「何だかお前の精霊はユベルに似てるな」

 

『似てないさ。ボクの君への愛を一緒にしては困る』

 

『それはこっちのセリフです。一緒にしないでください』

 

「やっぱ似てるよな?」

 

「……ですね」

 

 確かにどことなく似ていた。愛への執着、独占、束縛……そして一途。

 

「愛されてるな。それじゃっ、今度の文化祭デュエル。楽しみにしてるぜ」

 

「……は? デュエルってどういう……ぐっ!?」

 

 理由を聞こうとした瞬間体に激痛が走り、内側から黒い靄が溢れ出る。抑えようとしても抑えきれず、溢れ出る靄……いや、闇が針となって十代さんに襲いかかった。

 

 十代さんは物怖じせず、ネオスとユベルによって針は破壊された。

 

『花衣様っ!?』

 

「ガッ……アアッ……!! ユウキ……ジュウダイぃぃ!!」

 

 ダメだ、もう意識が保てない。また視界が真っ暗に染まり、地に足をつけている感覚も、風の冷たさも、今周りにいる俺に声をかけてくれている大切な人さえが誰なのかも……分からなかった。

 

 ___

 

 __

 

 _

 

「お前……ダークネスか?」

 

 あぁ、久しぶりの顔ぶれであり、久しぶりに名を呼ばれた様な気がする。

 

 この内側に渦巻く感情はなんというのだろうか。

 

 濁り、渦巻き、燃えたぎるこの感情は……憎しみ。

 

 それは闇の感情、悪意だ。

 

 闇は我そのものであり、世界であり、この世の全て。

 

 あぁそうだ。我こそは……闇、水から上から下へ流れ落ちるのと同じように、我の降臨世界の摂理であり必然。

 

 

「そうだ、我は……ダークネス。この世の闇を統べる者だ」

 

『花衣……様』

 

 我の端目に、氷色のドレスを纏った淑女が涙を流していた。

 

 

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