六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
空気が震え、木々はざわめき、空は闇に染まるかのように曇り空が覆っていく。
まるで世界が、次元が1人の男に恐怖しているようでもあった。
男は体を纏わせた影をローブの形へと変え、目の前にいる男……遊城十代に懐かしさを思わせたと同時に、形容できない恐怖や威圧感を生み出した。
「久しぶりだな、遊城十代」
男……花衣とは違う声が空気を震わせる。声は反響し、まるで複数の人物の声が重なった様な音が響き、耳から記憶へと繋いだ遊城十代は、額から1つの汗が頬を伝い、地面に落ちていった。
「……まさか、こんなに早く復活するなんてな」
十代から発せられた声には強がりが見えていた。震える声は体の震えと同じぐらい目に見えるものであり、優位性を感じ取ったのか、ダークネスは鼻で笑い、十代をあざけ笑った。
「いつか言っていたな。『お前の出る幕はずっと先だ』と。闇に際限など無い。湧き出る泉のようにも、永遠に作り出し続ける空気の様に闇は増えていくものだ」
「そういう言い回しも懐かしいな。けど、直ぐにもう一度お前を倒してやるぜ」
十代は瞳の色左右それぞれ変え、ネオスとユベルも戦闘態勢に入った。
ダークネスも右手を上げ、掌に青く輝く炎を出し、十代に向けて放とうとした時だった、黒いドレスに蒼銀の髪を持った美しい淑女、六花聖ティアドロップが彼らの間に入って両手を広げ、『花衣』の目を見続けた。
「おやめ下さい花衣様!」
ダークネスは予想していなかった場面に興味と戸惑いを感じたのか、攻撃の手を止めてティアドロップと言葉を交わす。
「お前は……あぁ、我と一緒にいたやつか」
「いいえ、私が共に生きていたのは貴方では無い。花衣様から消えなさい、ダークネス」
ティアドロップはダークネスに向けて怒りの矛先を向けると同時に、氷の傘を手に持ち、ダークネス……今は花衣の体に喉元を突き立てた。
ティアドロップだけじゃない、スノードロップ、ヘレボラス、カンザシ、ボタン、エリカ、ストレナエ、プリム、シクラン、ひとひら。
そして、閃刀姫であるロゼ、アザレア、カメリアがダークネスを囲んでいた。
「旦那様に住み着く害悪な物を取り除きます」
「早く出ていけー! これ以上花衣くんを苦しめないで!」
「……羽虫が」
ティアドロップ達の行動に苛立ちを感じたダークネスは右足で地面を踏むと足元から影が血管のように広がっていく。
影がティアドロップ達の足元に辿り着いた瞬間、影は実態化して棘のように伸びていく。
何とか回避したティアドロップ達は攻勢に出ようと、先に動いたのらはアザレアとカメリアだった。
木を足場にして加速をかけ、ロゼが持っている閃刀と一回り大きな大剣を持ってダークネスに攻撃しようとしたが、花衣の顔、体を見て脳裏に花衣との思い出が攻撃を邪魔し、結局アザレアとカメリアは攻撃せず、そのまま横に通り過ぎるだけだった。
「くっ……マスターに攻撃なんて出来るわけがない!」
「本当、趣味が悪い。けど、これなら!」
カメリアが背後にマルチロールを呼び出し、呼び出されたサークルの中からウィドウアンカーを装備し、三又のアンカーがダークネスに襲いかかり、その体を拘束した。
すかさずアザレア、そして後から反応したロゼもウィドウアンカーをダークネスに放ち、ダークネスの動きを完全に防いだ……と、誰もが思った。
ダークネスを拘束していたウィドウアンカーが黒く染まり、氷のようにウィドウアンカーが溶けて行ったのだ。
溶けていくウィドウアンカーの現象にロゼ達は困惑し、その間ダークネスは3つのウィドウアンカーの呪縛から解き放った。
「闇を掴む事など出来ぬ。だが、闇は人々の心を掌握する」
お返しと言わんばかりに、ダークネスは体がら無数の黒い手をロゼ達に伸ばし、ロゼ達閃刀姫はダークネスから伸びる手に首元を掴まれ、吊るし上られながら首を絞められる。
「ガハッ……ガッ……アッ……!!」
「マスターっ……クアッ……」
「か……いっ……もど……て」
だが、届かない。誰にも、何にも届かない。
何故なら闇は全てを呑み込むのだから。
「3人を離せー!!」
「待ちなさいストレナエ!」
ロゼ達を攻撃されて逆上したストレナエがダークネスに向かい、それを止めようとカンザシが後ろからストレナエを追いかける。
ストレナエの接近に気づいたダークネスは小さく埃を払うに右手を動かすと、ストレナエの目の前に黒い刃が現れる。
逃げられない、避けられない。ストレナエは瞳孔を開いて自分の死が頭に過ぎり、時間の動きがゆっくりになっていくのを感じていく。
その時、ストレナエを追いかけていたカンザシがストレナエを突き飛ばし、黒い刃に背中を切り裂かれてしまう。
カンザシ背中が縦一線に裂かれ、大量の血液がカンザシの赤い着物を紅く汚れさせる。
「……っ……ぁっ……!!」
痛みに堪える唸り声が痛々しく、ストレナエは自分を庇ってくれたカンザシに涙を流しながら走った。
「カンザシっ! カンザシ……! ねぇしっかりしてよ!」
ストレナエはただ泣きながらカンザシの名前を呼び続けることしか出来ず、自分の小さな手じゃ傷も血も塞ぐ事が出来ないと分かりつつも、傷を塞ごうと懸命に背中の傷を抑えていた。
その光景を見ようともせずにダークネスはもう一度黒い斬撃を生み出そうと腕を振り上げ、カンザシとストレナエを切り刻もうとたが、スノードロップとボタンが氷の壁を何重にも重ねてカンザシとストレナエを守ったが、その厚い氷の壁はまるで薄氷の様に粉々になり、スノードロップとボタンは、カンザシとストレナエと共に吹き飛ばされる。
「スノーっ!!」
「ボタン! よくも……!」
ヘレボラスとエリカがダークネスに攻撃を仕掛けたが、彼女達がダークネスに触れる前に、ダークネスから放たれる黒い棘がエリカとヘレボラスの体に突き刺さる。
エリカとヘレボラスの体から生暖かく、鉄の匂いを帯びた赤い血が棘を伝ってダークネスの右腕に付くと、ダークネスは棘を振り回してエリカとヘレボラスを捨てるように吹き飛ばす。
「かっ……いさん……」
「ごめ……んなさい……」
虚ろな目を閉じた2人に、最後に残ったプリムとシクランが急いで駆けつける。だが、2人は泣くだけしか出来ず、ダークネスへの恐怖に怯えていた。
「次は幼子2人、お前達だ」
「ひぅ……!」
「お願い、戻って! 花衣くん!」
聞こえない、届かない、彼は花衣では無い。
悲痛な叫び、零れ落ちる涙は無情にも意味をなさず、ダークネスの手から、闇の波動がプリム達を襲おうとしていた。
「ネオスっっ!!」
十代の叫びに呼応するように、ネオスがプリム達の目の前に立ち塞がり、ダークネスの闇の波動を受け止めた。
攻撃を受ける度にネオスの体に亀裂が走るが、それでもネオスは膝をつかず、六花達を守り続けた。
「今だユベル! 縛られているモンスター達を開放しろ!」
ダークネスがネオスに攻撃を集中している間、ダークネスによって拘束されている閃刀姫達を縛っている黒い手を右手の爪で切り裂き、ロゼ達を拘束から解放した。
「っあ……助かった。ありがとうユベル」
『フン』
素っ気ない返事に対し、ロゼ達は負傷した六花達をホーネットビットとウィドウアンカーを使って運び出し、ここから撤退しようとしていた。
ダークネスは撤退しようとしているロゼ達には目をくれず、十代の方に敵意を剥き出しにしていた。
今の花衣はダークネスに完全に乗っ取られ、説得できる状況ではないと考えたからだ。
だが唯一ティアドロップだけはこの場から離れようとせず、むしろ今でも花衣を取り戻そうとゆっくり近づいて行った。
「何してるのティアドロップ!?」
「ロゼさん。貴方は皆の連れて傷を治してください。私は花衣様を救い出します」
「貴方って人は……!」
無謀だと感じる中、ロゼは自分も残ってダークネスを何とかし、花衣を救い出したいと強く願っていた。
今こそ前に走り出し、花衣をダークネスから取り戻したいと、何度も何度も願うと同時に、それを押し殺すように唇を噛み締めていた。
今この状況で治療の役目を放棄すれば、間違いなくダメージを受けた六花達は助からない。
もし治療を放棄し、花衣を助け出したとしても命を落とした六花達を見た花衣がどうなるかは想像にかたくない。アザレアとカメリアも同じように考え、何も言わずにロゼの目を見て、ティアドロップに託すように強く訴えていた。
そして、その背中を押すようにロゼのホーネットビットが誰かの接近を感知していた。
「……必ず花衣を取り戻して」
「ええ。どうやら、遅刻してきた子と一緒にその願いを叶う事になりそうですけど」
ティアドロップは曇り空から流れ落ちる炎の流星を目にし、流星は徐々にこちらに近づき、ダークネスの背後に落下すると同時に炎はゆっくりと消えていった。
ダークネスは落下した炎の正体を見ると、そこには紅の鎧をまとい、背中には炎を纏った剣を羽のように広げた装甲、カガリを装備したレイが降り立った。
「遅いですよ、レイ」
「こればっかりはすみません。代わりと言ってはなんですけど、他の人も来るようです」
「他の人?」
そろそろかとレイが呟くと、ティアドロップとレイの間を通る抜け、一筋の光がダークネスに襲いかかったが襲い来る光をダークネスは弾き返し、光は空中で霧散していった。
「今のは……フォトンストリーム?」
ティアドロップが呟くと、彼女の隣には手のひらサイズの銀河心眼の光子竜が姿を現した。
「他の人達に気づかれないようにこのサイズで出したが……やっぱり火力が足りないな」
銀河心願の後に続いて彼方が姿を現し、ダークネスの姿をした花衣に戸惑いを隠せなかった。
「彼方さん? なぜ貴方がここに?」
「花衣くんの閃花がこの事を知らせてきたんだ」
彼方の肩に閃花がいつの間にか乗っていた。どうやら危機を察知してレイに救難信号を送った後、彼方の現在地を検索して危機を伝えていたようだ。
更にまた1人、この場に向かう者がいた。息を切らながらもここに来るまで走る足を止め無かった女性がカードを掲げ、カードから出る柔らかな風がカンザシ達の傷ついた体を包み込み、体から傷が少しづつ無くなっていた。
「皆さん! 大丈夫ですか!?」
「花音さんまで……何故ここに?」
「えっと、ひとひらちゃんが何故か私のところに来て事情を話してくれたのです」
花音の手のひらにはひとひらが飛び出し、ティアドロップの肩まで飛びついた。
「それにしても……あの人……花衣さん? いや、あれは何なのですか?」
「……ん? ほぅ、また新しい個体が来たか」
花音は変わり果てた花衣の姿を目にした瞬間、命を掴まれた様に怯え、体が震えさせた。
対して彼方はダークネスという存在は知っていた為なのか、それ程の畏怖はしなかったが、それでも無意識に体が震わせていた。まるで細胞一つ一つが恐怖の意志を植え付けられかのようでもあり、次の行動に移せなかった。
そんな中、レイは周りの状況とロゼ達の状態を繋ぎ合わせ、ダークネスに取り込まれた花衣を見て絶句した。
「花衣さん……いや、ダークネス。早く花衣さんから離れなさい」
「何を言っている。この体は元来我のものだ。貴様らも理解出来ていない訳ではなかろう」
「…………」
ダークネスの言っている事の意味を理解しているティアドロップとレイは、そのまま口を閉ざした。
「そして貴様らの知っているアレはもう居ない。だが……貴様達を取り込めば、アレも少しは喜ぶと思うぞ」
アレという者がなんなんのか示すように、ダークネスは自身の顔をに指を指した。
「お前達はコイツを愛しているのであろう? なら共に生きよう。我と一体化……つまり、我とひとつになれば、嫉妬も、疑念も、憎しみも、悲しみも抱く事は無い」
手を取り合うためにダークネスはティアドロップとレイに手を伸ばしたが、それと同時に2人はダークネス手を払い除けた。
「一体化? ふざけないでください。私は花衣様と共に死ぬまで隣に立つだけです」
「隣は私ですけどね。なのでダークネス。……お前はさっさと花衣さんから消えろ!」
「……意味がわからない。貴様達はコレと共に生きたいのであろう?」
「共に生きると1つになるとは意味が違います。それが分からないとあれば、貴方が花衣様に巣食う理由はありません」
「……理解ができない。何故拒む? そこまで歪んだ愛情がありながら何故我を理解できない?」
「貴方が愛と言うものを知らないのでは?」
「なら貴様らを取り込むことで知るとしよう」
差し出した掌から闇の炎を生み出し、それをティアドロップ達に差し向けようとその刹那、ダークネスの意思に反する様に左手が右腕を掴んだ。
まるで自分の左腕では無いかのようだった。ダークネスは左腕に目を向けた。
左腕はダークネスの右腕を握り潰すほど力強く、このままでは折れるどころか千切れる程であり、右腕が強く握られているせいで血管が浮き出し、鬱血して肌の色が変わりつつあった。
「これは……そうか、まだ『アレ』が残っていたか……」
『離れなさい、ダークネス』
ダークネスの頭の中に女の声がした。凛とした芯があり、確たる意志を持った……まるで母親の様な優しさと厳しさ、そして強さを持った声色で安心するような声だったが、ダークネスにとっては甲高い羽虫の鳴き声と同類にも感じ、僅かな苛立ちを覚えていた。
体の主導権を奪う合うかのように、ダークネスから淡い光が溢れていく。背中には黒いドラゴンの翼が生え、花衣の体が変貌していき、誰にも近寄らせない風圧が生まれ、ティアドロップ達を近づけさせなかった。
ドラゴンの翼が出てきたと同時にダークネスは苦しさに耐える声を漏らし、膝を付いて意識が薄れつつあった。だが、それとは裏腹にダークネスは不気味な笑みを浮かべ、十代に深淵の目を向けた。
「まぁ良いだろう。……遊城十代。我らは戦う運命にある。それは逃れられない脚本であり、自然の摂理だ」
「……いいや、花衣がお前を何とかするかもしれないぜ?」
「戯言を。この体の主は我であり、器だ。器に意思は無く、持ち主に逆らう事は出来ない。フフフ……ははは!!」
ダークネスはなにかを確信する高笑いを残し、花衣を纏っていた闇は消え、意識を失い続けた花衣は糸の切れた人形の様に力が抜け、背中に生えていたドラゴンの翼も霧散しながら倒れていった。
だが背中と地面が触れるより先に、ティアドロップが花衣の元まで走り、花衣の体を抱きとめた。
ティアドロップはそっと目を閉じて意識を失っている花衣の頬に手を添え、人肌の暖かさと僅かな呼吸音で花衣の安否を感じられた。
「良かった……無事なようですが……」
「こっちはボロボロですけどね」
この場所自体はさほど被害が無かったが、ティアドロップ除く六花達はボロボロだった。
だが、それでも花衣を何とか正気に戻せた事による安堵が大きく、それほど傷については本人達も気にしてはいなかった。
「まさかここまで力を取り戻してるなんてな……これはうかうかしてられないな」
「それはこの場で花衣様の命を奪うという意味ですか?」
十代とティアドロップの間に深い溝が生まれ、ティアドロップは花衣を渡さないと強く抱きしめる。
レイも、その後ろにいる精霊達も全員十代達を警戒した圧を向けさせ、十代はこれ以上手を出さないという意志を出す為、両手を上げた。
「待て待て。俺は様子を見ただけだ。この場で花衣の事をどうこうしようとも、ましてや倒そうなんて思っちゃいない」
「なら早くこの場から消えてください。そして二度と花衣様に近づかないでください!」
悲痛な叫びが十代の胸へと突き刺さっていく。理由がどうであれ、十代と花衣との接触が、ダークネスの目覚めの引き金になったのは間違いなかった。
それを近くで目の当たりにしたティアドロップはそれを理解し、これ以上花衣を十代に接触しないように決め、十代に接触しないように、そして離れないように花衣を強く、強く抱き締める。
だが運命はそれを許さなかった。
「残念だが、俺は花衣の学校で行われる文化祭のデュエルで戦うことになってる。嫌でも接触するぜ」
「なら貴方を……」
「うっ……んっ……」
倒す。という言葉が出る前に、ティアドロップの腕の中で意識を失っていた花衣が目を覚ました。
「花衣様!」
「あぁ良かった……本当に!」
目覚めた花衣にティアドロップとレイは花衣を抱き、花衣は朦朧とする意識の中、2人の髪の匂いと体温でようやく意識を覚醒させた。
「……お、れ……どうしたん……だ?」
「花衣様……まさか、覚えていないのですか?」
花衣は何も言わずに頷き、ティアドロップにある考えが思い浮かんだ。レイもティアドロップと同じ考えをしたのか、互いに目を向けて頷いた。
「……花衣様、貴方は急に気を失っていたのです。それを狙ってウェルシーが来たので、あの方達と共に迎撃しました」
ティアドロップは十代に目を向け、嘘をつくことを選んだ。花衣を傷付けないように全てを闇に覆い隠し、十代にも合わせる様に目で訴えた。
十代もその考えを汲み取り、ティアドロップ達の話に合わせた。
「あぁ。強いな、君の精霊は」
「ありがとうございます……他のみん……なは」
他の精霊達はどうしたのか見る為に周りを見渡し、やがてボロボロに傷つかれたカンザシ達を目にした花衣は、体の血の気が引くような冷たさを感じながら走り出した。
嫌だ、嫌だ、嫌だと頭の中で叫びながら皆の前にたどり着く。体が冷たい、呼吸しているのに息苦しい、心臓の鼓動が煩いと感じながらも、花衣はカンザシ達にたどり着いた。
「お……おい、どうした? 大丈……いや、大丈夫な訳が無いよな。なんで、? ……え、あっ……あっ……」
目の前の光景が理解出来ない、したくない感情が花衣の中で渦巻き、視界が霞んでいく。どうしてこうなったのか、誰がしたのか分からない花衣は、自分がこんな事をした原因が分からないまま嘆く花衣に、カンザシは落ち着かせるように花衣を腕の中へと誘うように抱きとめた。
「落ち着いてください旦那様。私達は大丈夫ですし、貴方は気を失っていただけ……何も心配しないでください」
精一杯の嘘で真実を隠す笑顔の仮面をカンザシは花衣に向けながら、赤子を落ち着かせるように花衣の背中を優しく一定の感覚で叩きながら、髪に指を通すように頭を撫でた。
確かな感覚と体温を感じ取った花衣は少しづつ落ち着きを取り戻し、呼吸も安定していくと、今度は何も出来なかった自分を責めた。
「ごめん……ごめん……俺、何も……」
「大丈夫、大丈夫ですよ。貴方は悪くないのですから。……少し、休みましょう。ね?」
事大を収束に持ち出す為、カンザシはこの場から離れる事を提案した。事態が理解できない花衣にとっては願ってもない提案だった為、花衣はカンザシ達をカードに戻し、ゆっくりと休ませた。
花衣はしばらくの間項垂れ、改めて状況を理解しようと周りを見渡した。切り刻まれた草木に、重苦しい空気、そして妙な視線を向けている彼方と花音、遊城十代、そして真実を隠す笑顔というの名前の仮面を被ったティアドロップとレイ。
花衣はその優しい嘘によって真実を知る由もなく、花衣はゆっくりと曇り空になりつつある夜空に向かって顔を上げた。
その時の空は、星一つない暗闇だった。
「花衣様、今日は帰って休みましょう。花音様とのお約束は無しでよろしいですね?」
「私は大丈夫です。花衣さんの体調第一ですし」
「……ごめん」
「気にしないでください」
花音は笑い、その笑顔で花衣の顔は更に曇っていった。
申し訳なさと、自体の理解が追いつかない疲労に花衣はこれ以上何も考えられなかった。項垂れながらティアドロップの肩を借りて立ち上がると、遊城十代と目が合った。
「またな、花衣」
「……はい。また……」
「行きましょう花衣様」
会話らしい会話をさせないティアドロップは少しだけ強引に歩かせた中、花衣は彼方と花音にも目を向けた。
「……あぁ、そうだ。彼方さん、心咲ちゃんに渡して欲しいというか、合わせたい奴がいるんですけど、頼めますか?」
「? あぁ、構わないが……なんでだ?」
「レイに頼んだんです。1度でいい。あの子が好きな精霊が確かにここにいるって事と、天音ちゃんが見ている世界の一片を見せたいなって」
花衣はレイに目を配り、レイがマルチロールを展開して青色のサークルから桃色の毛皮を持った兎、メルフィーラビィが顔を出した。
「わぁ! 可愛いモンスターですね!」
愛くるしい動物を見た花音は思わず手招きした後手を広げてラビィが来ることを期待したが、ラビィは花音の元には行かず、彼方の足元の方に行ってしまった。
嫌われたのかと花音はショックを受け、悲しげにしょぼくれた。
「がーん……ちょっとショックです」
「ラビィを心咲ちゃんに見せれば良いのか? けど、あの子精霊が見えるのか?」
「ラビィが実体化すれば問題ないです。お願い出来ますか?」
「分かった。無理はするなよ」
花衣はティアドロップとレイに支えながらこの場を去り、この場には彼方達と重苦しい空気が残された。
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いつの間にか俺は自室のベットの上にいた。どうやって帰れたのかは分からない。ティアドロップとレイのおかげというのは分かるが、細かな所が抜けていた。
今日起きた事、正確には遊城十代さんと出会った少し後の記憶が無い。
思い出そうとしても、思うかべられるのは黒い光景、深淵だった。
ティアドロップ達が言うにはウェルシーがあの場に現れて俺はウェルシーの攻撃に気を失われたと言っていたが……
「本当は俺が……」
半年にも満たないが、ティアドロップが何か隠している事ぐらい分かるほど六花達の事を理解しているつもりだ。
だからこそ考えてしまった。皆の体にあったあの傷は俺がやったんだと。
十代さん出会ったあの時、俺の中の闇が止まらなかった。
怒りや憎悪、憎しみや殺意。ありとあらゆる悪意が渦巻き、俺が俺で無くなる感覚だけは覚えていた。暗闇の中で渦巻く熱い感情が心を焼き、ただ目の前にいた男を倒す為に生きている様にも思えた。
「あれが本当の……いや、違う。違う違う!」
頭を振り、布団を剥がして頭を抱えて違うと何度も何度も口にする。
そうしないとまた引きずり込まれるような気がしたからだ。
俺は桜雪花衣だ。ティアドロップ、スノードロップ、ヘレボラス、カンザシ、ボタン、エリカ、ストレナエ、プリム、シクラン、ひとひら、レイ、ロゼ、アザレア、カメリア……皆俺の事を【花衣】って言ってくれる。
そう認識してくれている、認めてくれている。カイリやカイムでは無いと言っている。そうだ、そうだ、自分を見失うな。
そのために、俺は起き上がり、自分の軌跡であるカードを机の上に並べる。俺だけが持っているカード、俺だけしか使えない六花聖華のカードを眺めていると、その時に生まれた時の記憶が蘇る。
ほとんど大変な時だったが、それでも皆といたからここまで来れたと誇らしくも嬉しさを感じた中、一瞬カードが血まみれになった。
「うっ……ぁぁぁ!?」
思わず机から転げ落ちてしまい、その弾みで机の上のカードを床にばら撒かれた。血まみれのカードがティアドロップ達本人にも思え、光を失った目がこっちを見ていた。
「うわぁァ!!」
叫んでこの幻覚をふりはらおうとした。だが周りから聞こえる嗤い声が、まとわりつく様にこの幻覚を見せつけられる。
_お前が殺した お前が殺す お前がやる事だ
これが お前の 全てだ
目の前に鏡が現れ、鏡が映った姿は……真っ暗で、何も無い自分だった。
顔のパーツが無く、手足も黒く、全てを飲み込む黒だった。
「ちがァァァァう!! 違う! 違う違違う違う違う違う違う!!」
喉が潰れる程叫ぶ、それでも幻覚は止まらない。倒れる皆の血が地面に広がり、黒い手足を紅く染めていく。
まるで糧となっていくかのようであり、その血を落とそうにも、手が腕を通り抜いて侵食が止まらなかった。
嫌だ、嫌だ、糧にしたくない、まだずっと一緒にいたい。これからもまだまだ六花と閃刀姫達と一緒に…………
「いや……だから……『ああ』なったのか?」
倒れた『ソレ』を見て、ある考えが浮かんだ刹那、赤い血を纏った女性が俺の顔に触れ、笑った。
「花衣様?」
「…………ティアドロップ?」
「はい、貴方のティアドロップです」
目の前のティアドロップはいつも通りの顔だった。蒼銀の髪、白い肌に美しい顔立ち。
血塗られてないティアドロップの姿に安堵した俺は思わずティアドロップに抱きついた。生きているという体温、生きている鼓動が聞こえる。
鼓動が1つ聞こえる度に悪夢が氷のようにゆっくりと溶けていくようだった。安堵の息も何度か漏らし、ティアドロップも抱き締め返してくれた。
(あぁ、でも俺がいるからこの温かさは……)
「どうしましたか花衣様。すごく大きな声を出していたので心配しましたよ」
「……なぁ、ティアドロップ」
「なんでしょう?」
名残惜しくティアドロップから離れ、俺は床に散らばったカードを集めると2つのデッキができた。
1つは六花、もう1つは閃刀姫のデッキだ。
俺の軌跡でもあり、俺の大事な物、それをティアドロップに渡し、喉に詰まっている言葉を吐き出す。
「俺と別れてくれ」
吐き出した言葉と共に、俺の中にある全てが空っぽになったような気がした。
……いや、気がしたんじゃない。元々そうだったんだ。
あぁ、何も無いな、『
オリカをまとめた章が欲しい?
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欲しい!
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別に( *¯ ³¯*)