六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
目が覚める。
電気を消し、太陽の光を遮るようにカーテンを締め切った暗い部屋には俺以外誰もいない。
もう俺に「おはようございます」と言ってくれる人はもう居ない。聞こえるのは虚しい空気の音のみだ。
隣で寝ていた人達はもういない。匂いも体温も残っておらず、本当に今まで隣に居たのかさえも疑うほど何も無かった。
目に移る色は灰色で、一瞬彼女達の顔を忘れてしまった。あぁでも、忘れた方がいいのかもしれない。
俺が彼女達を傷つける……いや傷つけたんだ。忘れろ、あれは夢だったんだ。夢は優しい物なんだ。
色んな人に助けられて、一つ屋根の下には美しい女性達が俺の事を愛してくれてたなんて、良い夢を見れた物だ。
「……もう一度眠れば、夢の続きが見れるのかな」
今度は、もっと平和で優しい夢が見れるように俺は深く眠った。ずっと、ずっと、ずっと……。
「ティアドロップ、みんな……」
突き放したというのに、今でも彼女達の存在が俺の心を掴んで離さなかった。
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同時刻 ドラゴンメイドのカフェにて
「ずっと一緒に居ると言ったのにどうして? どうしてなのですか花衣様。なぜ? なぜ? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
「もうダメです、おしまいです。私の生きる希望は失って、私なんて使い道のない剣です。そして最後は朽ちていくだけ……ふふふ、あははははは!! もう何もかも全部おしまいですよ!」
ティアドロップとレイを初めとした花衣を愛した精霊達は、同じ様な事を何度も呟いていた。中には自傷行為をしだした物もいたが、それはストレナエやプリム達、そしてドラゴンメイドが何とか抑えたが、それも時間の問題だった。
そんな悲惨な光景をドラゴンメイド達が煎れたお茶を飲みながら目の当たりにした焔達は、若干どころか物凄く引いていた。
「うわっ、地獄絵図じゃねぇか。言ってることがまるで呪詛だぞあれ」
「花衣をどれだけ愛しているのか分かるが……」
「もはや薬物依存性の末期じゃん。花音は大丈夫?」
「えっと……ちょっとダメかも」
「だよね、花衣にまぁまぁな頻度でメッセ送ってるんだから」
雀の目には、花音が花衣に対してのメッセージが数時間感覚で送られていた画面が移り、精霊達程では無いが、花音も大概な行動に雀はからかうようにして小さく笑った。
「にしても花衣はなんであんな爆弾発言したんだよ。あいつはがあんな風になるの分かってたろ」
「無理もない。あんな事があったんだから」
彼方は昨日の聖奈学園の文化祭で起こった出来事を全てドラゴンメイドと焔と空、そして花音と雀に共有する為、部屋を貸切にしてこの前の聖奈学園文化祭の事について話した。
そしてそれはダークネスの本格的な復活を意味しており、ドラゴンメイドのリーダー、ハスキーはその事を重く受け止めていた。
「しかし、ダークネスが……これは、白夜様が本格的な対策に出る事になるでしょう」
「そうなると最早なりふり構ってはいられないだろう」
彼方は今この瞬間、花衣の身に何が起こってもおかしくないと考えた。その考えが今まさに起こっている事を知らずに……。
「だからこそ、ティアドロップ達を突き放したって訳か」
「そしてもう1つ、自分の力でティアドロップ達を傷つけ無いようにした……だが、もう傷つけてるけどな」
焔と空は花衣の馬鹿な行動に呆れ、ドラゴンメイドが煎れたお茶を飲み干した。
「あー! くそ! なんかモヤモヤするんだよなぁ! こういうの、なんかこう……このままじゃいけない様な気がするんだよ」
「それはそうだ。このままだと花衣、最悪自さ……」
「自殺なんてさせません!」
「くぼはっ!?」
焔達の話を最初から最後まで聞いたのか、ティアドロップは焔の言ったことを否定するように焔の頭を思い切り傘で叩き、焔は顔面にテーブルを埋め尽くされた。
「そうだ……ふふ、そうですよ。花衣様を監禁して私色に染め上げましょう。一生愛を囁き、花衣様の必要性を脳と心に刻み込んであんな馬鹿な事を言えないようにすれば……」
「そうしましょう! 旦那様を躾……いえ、調教しましょう!」
「その前に焔の頭を直せ、テーブルにのめり込んでるぞ」
「なんで俺が八つ当たりされなぎゃなんねぇんだよ……」
テーブルの中に埋め込まれたら普通の人間なら死んでいるが、焔は何とか生き延びていた。
「花衣様以外の男なんて知りません。皆様、すぐ行きましょう」
ティアドロップは焔を乱雑にテーブルに引き上げ、乱暴なソファーへと投げ飛ばし、ティアドロップの号令の下、皆が花衣の元に行こうとしたが、ハスキーがそれを止めた。
「それはなりません。白夜様がたった今、直接花衣様の元に向かったようです」
「白夜が……!?」
ティアドロップ達だけではなく、焔達もこの事実に驚いた。レゾン代表者が自ら花衣の元に来た。それ程までにダークネスを消し去る意図が見え、そこには躊躇いはない。
今すぐにでも花衣の元に行かなければという使命に燃えたティアドロップは、目の前にいるハスキーに殺意を向け、躊躇無くハスキーを攻撃した。
氷の礫がハスキーの体に襲いかかったが、ハスキーは両手の拳を握って氷の礫を全て叩き潰した。
「どいてください。私は早く花衣様の所に戻らなければなりません!」
「その花衣様は貴方々を遠ざけたのです。貴方は主である花衣様の考えや意志を否定するのですか」
「あれは一時の気の迷いです。本心ではありません」
「なんとも言い切りますね……。ですがここで戦っては彼方様達にご迷惑が……」
ハスキーの言葉を遮るように、黒い斬撃がティアドロップの真横を横切り、ハスキーに襲いかかろうとしていた。
ハスキーは迫り来る斬撃に対抗する為に右手に力を込めて腰に力を入れ、斬撃を殴ると斬撃がまるでガラスのように粉々に砕け散ると同時にレイがハスキーの真横を通り過ぎるよう姿勢を低くしながら走り出してくる。
「貴方に構って暇は無い!」
「くっ……そうは、させません!」
このままの姿では逃げられると直感したハスキーは背中から黒いドラゴンの尻尾を現し、体を回して遠心力で尻尾を鞭のようにレイに向けて攻撃した。
しなやかな動きと体の一部故に意志を持った予測不可能な攻撃にレイは閃刀でガードしたが、店の壁奥へと吹き飛ばさたが、壁を蹴ってその衝撃を和らげ、ノーダメージで防ぎ、次はどのようにして花衣の元に辿り着く事だけを考えていた。
「やっぱり貴方達は花衣さんの敵です。ここで貴方を排除します」
「……どうやら本気のようですね」
ハスキーはこの場を本気で制圧する為、眼鏡を外して拳を握り、獲物を殺す鋭い目を向けて戦闘態勢に入った。
ここが戦場になると確信した彼方達はテーブルを盾がわりにするように傾けてその後ろに隠れた。
「いやいやいやなんでここで戦おうとしてるの!? 助けてよドラゴンメイドー!」
雀は精一杯の救難信号をドラゴンメイド・パルラに向けて発信したが、パルラはハスキーの本気で戦う姿に顔を青ざめて汗を流しながら手を横に振ってその救難信号を受け取らなかった。
「いやムリムリムリ!! メガネ外した本気モードのメイド長を止められるなんてチェイムさんしか居ませんって!」
「チェイム……? そういえばこの店……チェイムが居ないな」
彼方は改めてこの店にいるドラゴンメイド達を確認した。
ハスキー、ナサリー、ラドリー、パルラ、ティルル、この5人しか店には居ない。
だがドラゴンメイドにはあと一人、チェイムというドラゴン形態が未だに存在しないドラゴンメイドがいた。
その彼女だが、彼方が知る限りこの店には最初から居なかったと記憶している。
「パルラ! チェイムって今どこにいるんだ!?」
「分かりませーん! あの人はあの人の仕事があるみたいなのでー!」
「つべこべ言ってないで早くあのバカ迷惑な淑女達と本気モードのメイド長を何とかするわよ! ほら、パルラ行きなさい」
ティルルがパルラを生贄に差し出そうとするようにパルラをハスキーの元に押し出すように背中を押し、パルラは断固とした態度で足をふんばって耐えていた。
「だから無理ー! 私よりも焔さんの方が良いって!」
「なんで俺なんだよ。ここは空か彼方のモンスターで良いだろ!」
「馬鹿を言うな、俺たちのモンスターを出したら大きさでこの店に風穴があく」
「俺もだな……一応、手乗りサイズになった
「頼むぞ焔」
「任せた焔!」
「が、頑張ってください焔さん!」
「お前ら鬼かよ……」
焔は全員から向けられた期待の眼差しに汗を流した。
焔としてもあんな殺伐とした場所に駆り出されたくはないが、このままでは自分の身さえも危ういので行かざる負えなかった。
重い腰を上げながら焔は【不知火の刀】のカードをかざすと、カードが光り輝く、姿を変えて右手には炎を纏った刀が現れた。
タイミングを見計らって飛び出した焔はティアドロップ、レイ、ハスキーの間に割って入り、3人の動きは止まった。
「落ち着けお前ら! たく……少しは落ち着いて」
「邪魔をしないでください!」
邪魔者は敵だと判断したレイが焔に向けて閃刀を振り下ろし、焔はそれを受け止めた。
女とは思えない重い一撃に焔は片膝を付きながらもレイの攻撃を受け止め、レイは距離を置いたと同時にティアドロップが焔に向けて襲い掛かる。
ティアドロップが傘を振り下ろしたのを焔は間一髪で刀で受け止め、氷の傘は炎によって溶けつつあった。
「待て待て落ち着けって、な?」
「言ったはずです。たとえ花衣様の友人であろうと、邪魔をするなら敵当然だと!」
引く気のないティアドロップは溶けた氷を床に滴らせ、それを氷の針へと変えて焔の足元から伸びて焔の体を突き刺そうとしていた。
それに気づいたハスキーは焔の服を引っ張って針の攻撃避け、針は焔の右腕を掠めるだけですんだ。
これ以上の行動を見過ごせないと判断したハスキーはティアドロップを止めるために拳を振るってきた。
その拳がティアドロップに触れる寸前、攻撃に気づいたヘレボラスがハスキーの拳を両手で受け止めると、お互いの力が大きいのか衝撃の余波が二人の間の床を破壊した。
ハスキーは自分の拳を受け止められたことに驚き、その驚きはドラゴンメイドたちも伝染したかのように大きく驚いた。
「め、メイド長の攻撃を受け止めた? なんて馬鹿力なのあの人……」
一見力は互角だが、わずかにハスキーの方が力が上だった。
ハスキーが力を緩めてヘレボラスの手を離すと、ヘレボラスの右手が酷く腫れ、さっきの衝撃で腕も少しだけ折れているかつ、皮膚も少しだけ破れたかけていた。
「いっっ……二人とも、とにかく落ち着きましょう」
「ヘレボラス!? 大丈夫ですか……?」
「ヘレちゃん! あんたっ、よくも!」
「待ってスノー。私は大丈夫ですから。あいっ……」
ティアドロップとスノードロップを心配させまいと強がるヘレボラスだが、にじみ出る痛みに耐えきれずに顔を湯ませた。
痛みにこらえるヘレボラスの顔を見たスノードロップは怒りをこみ上げさせたが、ハスキーに手を出すことは無かった。
今手を出しても無駄だとわかっており、それよりもヘレボラスの怪我をどうにかしようと自分のスカートを破き、方から腕に破いたスカートを使ってヘレボラスの腕を固定した。
ヘレボラスの負傷にティアドロップとハスキーは互いに目を合わせ、一時休戦の意志を互いに汲み取った。
ハスキーはメガネをかけ直してナサリーに目を向け、ナサリーはこれから言うことを分かっているのか、治療箱を手に持っていた。
「ナサリ―、ヘレボラス様の治療をお願いします」
「私も手伝います」
花音はアロマカードを手に取り、その能力を使えばヘレボラスの傷を治すことが出来ると、経験から手伝いを買って出た。
「かしこまりました。ティアドロップ様、スノードロップ様、よろしいですか?」
「ん……ヘレちゃんを治してくれるなら」
「……よろしくお願いします」
ナサリーと花音はヘレボラスに会釈をした後、すぐに治療に取り掛かった。花音はカードをかざし、ナサリーは治療箱を持って治療を始めた。
「私は外傷を担当します。花音様は内科の方を頼めますか?」
「はい!」
花音が【恵みの風】をヘレボラスにかざすと、光り輝く風が腫れた箇所を無くし、ナサリーも同時にヘレボラスの外傷に治療を施した。
治療を皆が見守っていたおかげで事態は徐々に収束していき、焔は詰まった息を吐きながら尻もちをついた。
「ふぃ〜! 死ぬかと思った。お前、まじで俺を殺す気だっただろ」
「腕を狙っただけです。一応、花衣様の友人ですから手加減しました」
「ほんとかぁ……?」
「現に腕を掠めた程度に済んでいます」
焔は擦り傷の腕を一瞬目を向け、ティアドロップと対峙したあの瞬間を思い浮かべていた。
手加減した……と言っているが、焔は半信半疑だった。
あの時のティアドロップからは信じられない程の殺気を感じ取り、一瞬焔は尻込みしていた。そしてあの氷の針の攻撃は確かに腕を狙った物だが、当たりどころか悪ければ体に突き刺さる位置でもあった。
もしもハスキーに守って貰えなかったらと思うと、無意識に体の震えが止まらずにいた。
その事についてハスキーはティアドロップに咎め、厳しい目を向けた。
「ティアドロップ様。私達精霊が人間に対して危害を加える事がタブーである事は承知の筈です。貴方の行動はいささか……」
「花衣様以外の人はどうでもいいです。私は花衣様の元に戻って白夜の手から守ります」
「その花衣様は貴方方を突き放したのですよ」
事実を突きつけたハスキーに対し、ティアドロップは嘲笑った。
「分かっていないですね。あんなのは花衣様の本心ではありません」
「何故分かるのですか」
「ずっと傍にいたからです」
言いよどみ無く、確信的に、疑うこと無くティアドロップは言葉を繋ぐ。
「共に朝日と共に目を開け、同じ空気を吸い、同じ食事をとり、隣で歩き、口付けをして、そして夜にはお互いの体温を感じながら目を閉じ、また明日も愛する。この輪廻を繰り返したからこそ、花衣様の本心は分かるのです。なので……お願いします」
ティアドロップはこれまでの事を深く詫びると同時にこれからいう願いを叶えるため、ハスキーに頭を深く下げた。
「どうか、花衣様の元に行かせてください。花衣様は私の……いいえ、私たちの生きる希望であり全てです。お願いします」
「私からもお願いします。花衣さんに会うために私はこの世界へ来ました。出なければ、ここにいる意味もありません!」
レイ、そして精霊たちも頭を下げてハスキーに頼み込んだ。まさかの行動にハスキーは目を丸くさせながらも、メガネを付け直し、言葉を詰まらせながら考えていた。
ハスキーの顔が曇り、重い溜息を何度も繰り返し続ける中、ヘレボラスの治療を終えたナサリーがハスキーの元へと歩き、背中を押すように声をかけた。
「行かせても良いのでは無いでしょうか、ハスキーさん」
「ナサリー……ですが」
「貴方も分かっている筈です。花衣さんは立派に成長していますし、何よりもこれ程想ってくれる方々がいます。でしたら、信じても良いのでは?」
和やかな笑みのナサリーの顔を見たハスキーは、ある幼い男の子の笑顔と重なり、ハスキーはティアドロップ達の前に片膝をついて頭を下げ、最大限の謝罪をした。
「皆様、私の不祥事でご迷惑かけて申し訳ございません。……今ならまだ間に合う筈です」
ハスキーはパルラとティルルに目を向け、2人は店の扉を開くと陽の光が店を明るくさせ、それはティアドロップ達の送り迎えを祝福しているようだった。
「ありがとうございます。……ヘレボラス、腕の方は大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません」
「では、レイさん。頼みます」
「分かってます」
レイが扉の先にマルチロールを起動し、これであのマルチロールを抜ければ、すぐにでも花衣の所に行けるようになった。
花衣を助ける流れになった事に焔は腰を上げて立ち上がり、意気揚々と着いてこうとした。
「しゃあ! なら俺たちも……」
「それは推奨されかねます。焔様達はレゾンカードを持っています。それを作られた白夜様が近くにいては、最悪そのカードを使われる恐れがあります」
「つまり、下手すれば花衣の不利になると?」
空の問にハスキーは頷くと同時に、焔は呆気を取られてその場に崩れ落ちる。折角助けに行こうと息巻いていたのに、助けに行けば逆の結果になると知ればこうなるものだ。
落胆してため息をつき、焔はやるせない顔を隠さずに唇を噛んだ。
その様子を見たティアドロップは焔に同情し、心配をさせまいと声をかけた。
「大丈夫です。必ず助けます」
「おう、……んじゃ、頼んだわ」
それ以上の言葉を交わさず、ティアドロップは小さく頷い後、マルチロールを括って花衣の元へと渡っていく。
他の精霊達もティアドロップの後に続いてマルチロールに入っていくと、最後尾のカメリアがマルチロールに入った瞬間、マルチロールは消えた。
静寂が数秒間続き、焔達は花衣の安否を願った。
「さて、私達は店の掃除を致しましょうか。少し汚れましたのでね」
「えー、メイド長がやったのですからメイド長だけでやって下さいよ〜」
からかい目的で半分冗談で言ったパルラに対し、ハスキーは目を細めてパルラを睨むと、パルラは冷や汗を滝のように流しながら顔を青ざめ、小さく冗談ですよと何度も呟いた。
なら最初から言うなとティルルは呆れ、面倒事になる前にパルラから離れ、味方がいないパルラは死期を悟った。
「……今度、有給を差し上げますので手伝ってください」
「ホ、ホントですか?」
事態がまさかの展開になった事にパルラは半信半疑だった。
「本当です。お願いします、パルラ」
「わ、分かりました! よーし、やるぞー」
有給を貰える事が確定したパルラは積極的に掃除に参加し、まずは壁や床の埃を取り払った。
「現金なヤツですね」
「ティルルも何か埋め合わせを……」
「気にしないでと言っても気にしますよね。なら、今度新しく作るデザートの意見を下さい。それで大丈夫です」
「ありがとうティルル。ナサリーとラドリーは?」
「私は何も無くて大丈夫です。ナサリーは?」
「私は……えーと……あ、新しい洗剤が欲しいです!」
「なら直ぐに手配しましょう。では皆さん、よろしくお願いします」
ナサリーが2回手を叩くと、ドラゴンメイド達はそれぞれ掃除用具を手に持ち、壁や床の汚れは勿論、窓やカフェの備品まで隅々と掃除を開始した。
「ほぇぇ〜なんかメイドっぽいな」
「メイドですから。今まで私達の事なんだと思っていたんです?」
生まれてこの方メイドと言うものをあまり見ていない焔が、書物などで見たメイドの所作に関心を示し、ドラゴンメイド達の仕事ぶりをまじまじと見ていた。
まじまじと見られた事に集中力を少し欠かされたティルルはついつい強めの口調で焔に言葉を投げた。
「なんかエッチなメイドのコスプレをしたドラゴン」
本心のまま伝えた焔はノータイムでティルルの尻尾ビンタを顔面にくらい、焔の体が空中で回り続けた後に床に叩きふせられた。
「誰がエッチなコスプレですか! 全く……どいつもこいつも私の事をそんな目で見て……」
「い、いやぁ……そんな立派な物をぶら下げたらn」
立派な物が自分の胸を指している物だと把握したティルルは顔を真っ赤にしながら赤い尻尾を焔の顔を上から叩き落とし、焔は暫くの間動かなかった。
「焔……サイテー」
「さすがに今の発言はどうかと思います」
花音と雀からも印象は最悪になり、空は呆れて何も言えず、この気まずい空気を変えようと考えていた。
そしてその時、空はある違和感を持った事を思い出した。だがその違和感が何だったまでかは思い出せず、空は今までの行動全てを思い返していた。
「空くん、どうしたんだ?」
「いや、少し引っかかった事があって……」
「引っかかった事?」
「ええ。誰かの言葉が少し……」
その誰かというのはドラゴンメイドで間違いないが、違和感が喉奥につっかえたような感覚に空は苦しめられた。
そんな中、ラドリーが傍にあったバケツを蹴飛ばしてしまい、バケツの中の水が床に撒かれてしまったと同時にナサリーの和風のメイド服を濡らしてしまった。
濡れたラドリーを見たナサリーは慌てて乾いたタオルを手に持ってラドリーに近づくと、まずは髪の毛と顔についた水を拭いていった。
「あらあらラドリー、大丈夫? 昔から貴方は張り切りすぎなのよ」
「昔から……?」
空の頭に電流が走る。そして確信した。違和感の正体はナサリーだと言うことを。
正確には、ナサリーが前にハスキーに対して言った言葉だ。
_花衣さんは立派に成長しています
『立派に成長』、まるで……いや、花衣の成長を見届けなければ絶対に出てこない言葉だ。
違和感のつっかえが無くなると同時に、これまで抱いていた謎についても、空はある一つの答えに辿り着いた。
「彼方さん少し……」
花衣の前世がモンスター……この世界とは別世界の存在だったと言うことなら、自分の答えは辻褄が合うと確信した空は、この事実を皆に知らせる前に彼方に相談をかけた。
空の考えに耳を傾けた彼方は目を丸くさせ、驚きを何とか自分の体の中にしまい込んだ。
「確かなのか?」
「いえ、確信はありませんし、これが何を意味するのかは分かりませんが……」
「花衣とドラゴンメイドには、何かしらの関係があると考えます」
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ふと目が覚めると、そこは暗闇が広がる世界だった。
床に触れると水面の様に揺らめき、何も聞こえず何も感じない虚無が広がっていた。
ここはどこだ……?
何も無いこの空間はまるで俺の心のようだった。ティアドロップも皆突き放して、最後に残ったのは何も無い自分の鏡を見ているかのようで、思わず笑ってしまった。
乾いた笑い声は反響すること無く消え、何もかもする気が起きなくなった。
何も考えたくない。
何も感じたくない。
もうこれ以上、苦しみたくない。
もうこれ以上、誰かを傷つけたくない。
もうここで……終わりにしたい。終わらせたい。
「誰でもいい……誰か……」
「ならここでお前を終わらせてやる」
俺の声じゃない誰かの声と足音が聞こえた。
足音は徐々に大きくなり、大きくなるにつれて俺は顔を上げた。この暗闇を照らす光が溢れ出させながら、彼女は白眼の髪をなびかせ、こちらに近づく。
あれは……そうだ、俺を倒そうとしている奴だ。
恐れ、憎み、決して分かり合う事の無い存在だが、今この瞬間だけは待ちわび、そして会いたかった人物でもあった。
「……白夜」
目の前にいる白夜は背後から白い槍を出現させ、槍先を俺に向けた。
「ようやくだ、ようやくお前を消滅させられる」
悲願が叶う間近だからか、感情的になっている白夜を見るのはこれで最初で最後だろう。白夜は俺に一言を遺す事をせず、槍を光の如く俺の心臓に向けて放った。
槍が近づくにつれて時間の流れ遅くなり、走馬灯が駆け巡る。
最初に思い浮かべたのは焔と空だ。学校での付き合いやテーブルや床にカードを並べてやるただただ普通のデュエルが、楽しかった。
次は彼方さんの姿だ。彼は言わばライバルであり、因縁だ。
光と闇、相反する存在同志の筈なのに、彼方さんは因縁では無く、一人のライバルとして、仲間として接してくれた。
時にはぶつかり合い、本気の殺し合いまでした事もあったが、それを乗り越え俺に色んなことを教えてくれた。もし最期に、倒されるのならばあの人に……なんて、図々しいか。
次は花音だった。霊香、雀、カレンと一緒に好きなカードについて話していた。幸せそうだ、せめて霊香とカレンを助けてあげたかった……
最後はやはりティアドロップ達だった。休みの朝は庭にあるテーブルを囲んでお茶会をしたり、デートしたり……今思えば結構引っ張られたな。
束縛はまぁ……強かったし、重い愛情に押し潰され……てはいるかな、今でもそうだ。俺の人生の殆どはティアドロップ達の事で溢れ出している。
会いたい、会いたい、皆に会いたくて仕方がない。だけど会えば傷つけてしまう。
だからもう、終わりにしよう。
瞳を閉じて別れを告げた瞬間、輝く光を背景に懐かしいブロンドヘアーの長い後ろ髪が目に映った。
あれは……母さんだ。あまり会えないけど、暖かい笑顔はいつも俺を元気づけ、血が繋がっていなくても俺の母親である、大切な人だ。
「あぁ、もっと会いたかったな……」
死を受け入れたその瞬間、俺の前に黒いクラッシクのメイド服を着たブロンドヘアーの女性が俺の前に立ち、白夜が放った槍を受け止め、光の槍を粉々にさせた。
何が起こったのか分からず呆然としたのは俺だけじゃなく、白夜もそうだった。
白夜は何故だと口に出しながらも、やはりそうかと言うように息を吐き、俺の目の前にいる彼女を……龍の角と尻尾を持ったメイドを敵意の目を向けた。
「ドラゴンメイド・チェイム。やはりお前はそいつを守るのか」
チェイムは何も言わず、俺に顔を向けると母親のような優しさを持った笑顔を向けると、光となって霧散していった。
思わず手を伸ばそうとしたが、チェイムに触れられる事はできず、まるでそこには何も無かったかのように消えていった。
「……それがお前の答えか」
白夜はこの暗闇の空間を切り裂くように手を振ると、闇は切り裂かれて暗闇の空間はある場所へと移るように変わった。
森に囲まれ、奥には火山のようなものがある島には大きな施設があり、施設中央には白いドームがあった。
あのドームには見覚えがあった。忘れもしない、あの場所だった。
「デュエルアカデミア……? どうしてここに!?」
「デュエルをする場所には相応しいだろう」
白夜は右腕に光輝くデュエルディスクを装着し、どうやらデュエルをする気らしい。
「デュエルとは戦いの儀。そして戦いとは命のやり取りだ。これで、お前の存在そのものを消し去ってやる」
ここでデュエルするって事か? だが、俺にはデュエルディスクも無ければデッキも無い。
デッキはもうティアドロップ達に渡してしまい、デュエルしようにも出来ないと思っていたが、俺の手には黒く塗りつぶされたカードが握られていた。
このカードには見覚えがあり、懐かしささえも感じられた。
黒い闇を覆ったカードを広げるとカードは何も見えず、ただ闇が広がるだけだった。ただ一枚、【ダークネス】というカードを除いて。
そのカードを見た瞬間、俺の中の何かが渦巻き、暴れだし、目の前の光景が夜空のように暗くなった。
「俺は……俺はっ……何だっ?」
オリカをまとめた章が欲しい?
-
欲しい!
-
別に( *¯ ³¯*)