六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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もう社会人になって3ヶ月ぐらい経とうとしていますが、私は元気です。

マスターデュエルの方でも世界大会やら始まって賑わってますね〜。因みにワイはあまり参加してないしなんならマスターデュエル自体あまりやってねぇ!


縛り付ける心の闇

 

 目を開ける。

 

 そこには灰色の世界が広がり、顔が黒塗りされた人々がスクランブル交差点を敷き詰めるようにして歩いていく。

 

 その交差点の中央で俺は立ち尽くし、誰にも見向きもされないまま座っていた。

 

 灰色の日差しを受けながらも立ち上がると、後ろから人が迫ってくるのが見えた。

 

 身長は俺と同じぐらいで、体格的に男……高校生だろうか。

 

 その人は俺の事を見えていないのかこちらに真っ直ぐ向かっていくと、俺とその人の体はぶつからず、すり抜けていった。

 

 俺の体をすり抜けた人の黒塗りされている顔が剥がれ落ち、見覚えのある顔に変わっていった。

 

 少し赤い髪に、炎のような明るい目……間違いない、焔だった。

 

「焔……?」

 

 声をかけても返事がない。人混みの中に紛れ込む焔を追いかけようと、歩く人々の体をすり抜けて焔に向かって走っていく。

 

 だが、走っても走っても歩いてる焔に追いつけない。

 

 息が苦しい、叫んでも反応しない。まるで俺の事を見えていないかのようだ。

 

「焔っ!! おい! 焔っ!!」

 

 だが返事は無く、焔は人混みの中に紛れこんでしまった。膝に手をつき、息を整える中、今度は俺の隣に空と雀が横切った。

 

 仲睦まじく歩幅を合わせて歩いている姿は、いつもなら微笑ましいと笑って見過ごしたに違いないが、このおかしな空間にいてそれどころでは無かった。

 

 とにかく存在を認知されたいという思いだけが突っ走り、空と雀の肩に触れようと両手を伸ばし、2人の肩に触れようとした……が、俺の手は2人の肩をすり抜け、空と雀は互いに笑い合いながら俺の前から消えていった。

 

 いつの間にか周りを歩いていた人々も消えてしまい、この灰色の世界には俺だけ取り残されてしまったようだ。

 

 寂しい、辛い、誰か……誰かとつぶやきながら歩き、足が痛い程に歩いたその時だった。

 

 ふわりと香る花の匂いで足を止め、いつの間にか目の前にティアドロップがいた。

 

 ティアドロップはゆっくりとこちらに振り向くと、俺の目を見て微笑んでくれた。

 

 ようやく俺を見てくれた人がいて安心しきり、救われた様な気持ちになってティアドロップに近づいた中、ティアドロップはある男の名前を口にした。

 

「どうしましたか? カイリ様」

 

「え……?」

 

 カイリ……? 違う、違うよティアドロップ。俺は花衣、桜雪花衣(おうせかい)だ。

 

 だから……その名前で呼ばないでくれ。

 

「……? カイリ様、どうなさいましたか?」

 

「ちがぁぁぁぁう!! 俺は……俺はァァ!」

 

 

 _お前は、ダークネスだ。

 

 

「違うっ!!」

 

 今日も日は昇って朝が訪れ、カーテンの隙間から漏れ出る光に当てられて目が覚める。

 

 悪夢のせいで意識が覚醒すると全身から吹き出してくる汗の臭いと同時に花の甘い匂いが頭を撫でられたかのような心地良さを体を包み、これ以上無い良い目覚めになった。

 

 滑らかな肌を撫でると、ティアドロップは目を覚ます。

 

 寝ぼけ眼で俺を見る彼女はおはようと呟き、寝たままの体勢でティアドロップを抱きしめる。

 

 細い腰に手を回し、彼女の首元に顔を埋め、甘い香りが鼻腔をくすぐり、心が満たされていくのを感じた。

 

 いつもは俺が起きるより先に目を覚めている物なのに珍しいと思い、ついティアドロップの寝顔を覗き込むように見てしまう。

 

 長いまつ毛に透き通るような肌、心地よい寝息に滑らかな髪はまさに眠り姫そのもののようだ。

 

 荒くなっていた呼吸をゆっくりと静まり返し、朝一番にティアドロップの存在を確かめたいと起こさないようにゆっくりと頬に触れる。

 

 白い肌からは想像できない程の人肌の温もりに触れ、確かにティアドロップがここにいると安堵すると、ティアドロップの寝息が止まってゆっくりと瞳が開けられた。

 

「んぅ……花衣様?」

 

 寝起き一番の少しふにゃっとした声は、今まで過ごしてきた中で聞いた事無い猫なで声だった。凛々しいティアドロップとのギャップを感じつつも、起こした事に罪悪感の方が僅かに大きく、ティアドロップに触れていた手を離した。

 

「ごめん、起こしたか?」

 

「気にしないでください。それより何故手を離したのですか。私が知らない内に貴方が居なくなるのは嫌です」

 

「俺もだ」

 

 互いの存在を確かめるように今日最初の口付けをかわす。柔らかくも弾力のあるティアドロップの唇に触れ、体の内側から幸せが積もっていく。

 

 ずっとこうしていたいが、時間は流れるように進んでいくもの。決して止まったりはせずに針は進むのみ。

 

「……なぁ、もう一回花衣って呼んでくれないか」

 

 さっきの悪夢がまだ尾を引くようにしてまとわりつき、それが恐怖となって思わずこういってしまう。

 

 幻滅する訳でも何かを言うわけでもないティアドロップは額同士を当て、微笑みながらゆっくりと俺の名前を呼んでくれた。

 

「花衣様、花衣様。愛してます。誰よりも、何よりも、貴方の事を愛してます、花衣様」

 

 何度も花衣と言ってくれる度に、悪夢への恐怖や不安が和らいでくるようだった。

 

 心が満たされると、言った方が良いのか、名前を言われ度に、安心感が込み上げてくる。

 

 ずっと聞いていきたいと思いつつも、時間の針はまた進み出す。

 

「……ありがとう、ティアドロップ」

 

「もっと言いたいのですが、そろそろ朝食の時間です」

 

「そっか……確か今日はカンザシが作ってくれるんだったよな?」

 

「ええ、エリカとボタンも手伝っているはず。今の時間だと仕込み中のはずです」

 

 手伝おうと思ったが、3人いれば手は足りているはず。かといって2度寝するという時間でも無い。

 

 少し考えた結果、俺はリビングに降りて料理が完成するのを待つ事に決めた。

 

 ティアドロップも俺について行くとに決め、裸体から薄い布のネグリジェに着替え、俺は制服のカッターシャツとズボンに着替えた。

 

 そろそろ衣替えの時期だと思いつつも制服に身を包み、ティアドロップと一緒に階段を降り、リビングの扉を開いた。

 

 そろそろ衣替えの時期だと思いつつも制服に身を包み、ティアドロップと一緒に階段を降り、リビングの扉を開ける。

 

 味噌の匂いが広がり、キッチンにはカンザシとボタンとエリカ達が割烹着を着て朝食を作っていた。

 

 元々大和撫子的な雰囲気を持っていたから割烹着が非常に似合っており、数十年前はこの光景が普通だったのだろうかと思いふけっていると、エリカが開けたドアの音を聞こえたのか、こちらに振り返った。

 

「あら、お早いですね。おはようございます。花衣さん」

 

「あら本当、おはようございます旦那様」

 

「早起きは三文の得ネ。おはよう、花衣!」

 

 エリカに続いてカンザシとボタンも挨拶をし、3人に挨拶を返す。特にやることもないからソファーに座ってテレビを見る。

 

 朝からやる番組と言えばニュース番組だけだ。

 

 今世界中で数々の失踪事件が起こっているらしく、これを現代版神隠しとも言われてコメンテーターや現地の人々は不安の言葉を口に出していた。

 

 次は自分かもしれない、この国にも起こるかもしれない、そんな不安が感じる中、俺はどうでもいいと思っていた。

 

 神隠しなんて現実味が無いのもそうだが、それ以前にティアドロップ達さえ居れば良いと考えていた。

 

 この灰色の人生の中で唯一色があるティアドロップ達精霊だけだ。

 

 この色彩が俺の全てだ。だからこれだけでいい。これ以上は何も望まない。

 

 望んだらダメなんだ。

 

 ニュースは次の話題へと変わり、今日の天気や交通情報が流れ始めた頃、朝食が完成したのかカンザシ達がキッチンから皿を持ってダイニングテーブルに置いた。

 ご飯に味噌汁、鮭の塩焼きと納豆、漬物といった日本の伝統的な朝ごはんだった。

 

 朝食が出来たと同時にスノードロップとヘレボラス、そして寝癖と眠い目を擦ったストレナエ、プリム、シクランもリビングに来た。

 

 眠そうな声でストレナエはおはようとふにゃふにゃした声で言い、おはようと返事を返す。

 

 スノードロップとヘレボラス、プリムとシクランも挨拶を交わし、全員が揃う。

 

 カンザシ達も椅子に座り、全員でいただきますと言い朝食を食べ始めた。

 

 白米を口に入れるとほんのりとした甘みが感じられ、噛む度に噛みごたえのある食感に変わっていく。鮭の塩焼きは程よいしょっぱさがあり、ご飯が進むおかずだ。味噌汁も豆腐やわかめといった具材から出汁が出ており、この国の者なら誰もが好きな味だ。

 

「美味い……ずっとこうしてたいな」

 

「ならずっとここに居ても大丈夫ですよ。永遠にね」

 

「それも良いけど、レイ達が許さないからな」

 

 苦笑いしながらそう言うと、インターホンが鳴らされる。

 

 多分これはレイ達閃刀姫だ。現に閃花がレイ達が接近した時の反応を見せ、猫が喉を鳴らしたかのような音を出していた。

 

「邪魔者が来ましたね」

 

 ティアドロップが不機嫌そうな顔を浮かばせたが、ティアドロップの頭に手を置いて心を落ち着かせた。

 

「邪魔者じゃないだろ? ……そっか、いつの間にかそんな時間が経ったのか」

 

 好きな人達と過ごす時間はあっという間だと身をもって思い知らされる。

 

 食事をすませて扉を開けると、そこには制服姿のレイ、ロゼ、アザレア、カメリアが笑顔で出迎えてくれた。

 

「おはようございます花衣さん! さぁ、学校に行きましょう!」

 

 俺と顔を合わせた瞬間抱きつき、ロゼは恨めしながらレイの襟元を掴んで俺を離れさせた。

 

「がっつきすぎよ、レイ」

 

「そうだ。まずは制服を着させて準備をさせてくれよ」

 

「こちらにございますよ。花衣様」

 

 準備をしようと制定カバンと制服を持ってこようと思ったが、ティアドロップが俺の行動を先読みしたのか、カバンと制服を持ってきてくれた。

 

 流石ティアドロップ、俺の事よく分かってる。

 

 ありがとうとお礼を言い、制服に身を包んでカバンを手に取り、もう1つ……いや、()()の2つのデッキケースを渡された。

 

 六花の雪模様と六花精達のモチーフ花が描かれたものと、4つの閃刀が描かれたデッキケースだった。

 

 これは俺が誕生日の時、焔と空が作ってくれたものだ。

 

 唯一無二でかけがえのないものだったが……もう必要ない。俺はデッキケースからデッキだけを取り出し、デッキケースを靴箱の1番上に置いた。

 

「俺にはもう必要ない。俺にはお前たちだけで充分だから」

 

 ティアドロップ達はまるで時間が止まったかのように一瞬動きを止め、何故か息を飲み込んだ。

 

 ティアドロップとレイは互いに顔を見合わせ何か意志を汲み取り合った行動に首を傾げてしまう。

 

 だが直ぐに隣にいたティアドロップは互いの目の色が分かるほど近づくと、2つのデッキケースを俺に手渡した。

 

「ですが、ケースはこれしかありません。代わりが見つかるまでの繋ぎまでは……ね?」

 

「……そうだな」

 

()()のデッキケース2つを手に取ってデッキを入れ、カバンの中に丁寧にしまう。

 

 これで本当に準備完了だ。

 

 六花達もカードへと戻り、靴を履き、レイが学校へと向かった。

 

 ___

 

 __

 

 _

 

 今日も学校は騒がしい。

 

 それもそのはず、文化祭があと一月後だからだ。各々は準備で慌ただしく、放課後は長いこと賑わっている。

 

 俺のクラスはもう大半の準備は整っており、放課後残らなくても大丈夫な程、準備は完了していた。

 

 またいつものように授業を受け、昼休みの最中に焔と空が弁当を持ってこっちに来た。

 

「よう花衣! 今日は昼飯一緒に……」

 

「今日もレイ達と食べるから大丈夫だ。ほっといてくれ」

 

 相も変わらず焔いつも俺を昼を誘ってきた。俺にはレイ達がいるからどうでもいいとか言っているのに、なんで焔はいつも誘ってくるのか分からない。

 

 そうだ、俺にはレイ達が居る。他には要らないし関わる必要も無い。

 

 そのまま無視を貫いて今日も屋上に行ってレイ達と一緒に昼を過ごそうと教室から出ようとすると、焔に止められた。

 

「おい、お前最近おかしいぞ。何かあったのか?」

 

 焔が心配をしているような目を向け、俺の肩に手を触れようとしたが、隣にいたレイが焔の手を振り払うようにして叩いた。

 

 かなり力を入れたのか焔は相当痛がって思わず弁当を地面に落とした。

 

「ほっといてくれ。どうせお前はレゾンカードで俺を倒そうとしていたから近づいたんだろ」

 

「……はっ?」

 

 弁当は無事だったから焔は落とした事や手を思い切り払いのけられた事に気にするよりも、さっきの俺の言葉の方にショックを受けていた。

 

「お前本当に変だぞ!? おい、何とか言えよ!」

 

 ショックが怒りに変わって焔が訳を話そうと躍起になって今度は両手で肩を掴みかかるが、今度は横からロゼの蹴りが焔の横腹に炸裂し、焔は他の生徒の机をなぎ払いながら地面に転がった。

 

「花衣に触れないで」

 

 無関係の生徒がいきなり被害を加えられた驚きで女子のクラスメイトの1人が悲鳴をあげ、他のクラスメイトも俺達から一歩引いて関わらないようにしていた。

 

 さっきまで談笑していた空気が一気に無言に変わる中、少しだけ冷ややかな目線も向けられていたがどうでもいい。だって、俺には精霊がいる。それだけでいい。他の奴なんて、どうでもいいのだから。

 

「おい……待てよ」

 

 机と椅子に頭をぶつけられながら吹っ飛ばされたのに、焔は痛がりもせずに立ち上がり、俺に怒りの目を向けていた。

 

 その目を向けたまま大きな足音を出しながら俺に近づくが、この状況を見かねた空が俺と焔の間に割って入り、焔をなだめようとした。

 

「落ち着け焔! レイ達も、昼にこんな馬鹿な時間を使うな」

 

「あぁ!? 俺が悪いってのか!?」

 

「そう言ってるんじゃない。とにかく今は落ち着け」

 

 空の言う事を意外にも素直に聞いた焔は振り上げようとした拳を下ろし、怒りを収めた。最初からそうすれば良いのにと思いながらも、俺はレイ達と共に屋上に行く。

 

「……なんなんだよ、花衣。どうしたんだよ」

 

「最近、桜雪のヤツおかしいよな。まぁ元からだけど」

 

「そうそう、レイちゃん達もなんか桜雪にちょっかいかけた奴全員半殺ししてるって噂がたってるけど、今の見たら本当に……」

 

「あー怖っ、はぁ……なんであんな奴にレイちゃん達が惚れてるんだよ」

 

 ___

 __

 _

 

 放課後、焔と空は花衣の状況をドラゴンメイドと彼方に共有しようと、通常営業しているドラゴンメイドのカフェに立ち寄った。

 

 今は通常営業なので、情報の共有はまた後日詳しく語る形になり、焔と空は彼方がいるキッチンに近いカウンター席に座り、今日の事を話した。

 

「あぁくそ! 何なんだよ最近の花衣。なんかおかしいんだよなぁ……」

 

 焔はドラゴンメイド達が煎れたお茶を飲み干し、今日の花衣の様子を空に愚痴るようにして話した。

 

 今日の花衣は様子がおかしいのは明らかだった。

 

 他の人間を見ようともせず、交流を拒み、ティアドロップ達を盲目的に依存している姿は見るに堪えなかった。

 

 その姿を見た焔と空はこう考えた。

 

 まるで、人形のような頃の1年前の花衣だったと。

 

「そんな風になってたんだな、花衣くんは」

 

「なぁ、彼方もなんか言ってくれよ〜」

 

「いや、多分だけど俺が行ったら逆効果だ。俺と花衣くんの本来の関係は、相容れない敵同士らしいからな」

 

「あういう花衣を見るのは久しぶりだ。……白夜になにかされたのか?」

 

「いえ、白夜様は何もしておりません」

 

 空の呟きにキッチンの奥にいたハスキーが反応し、焔と空はその言葉に耳を傾けた。

 

「花衣様の今の状況は、花衣様自身が望んだ事なのです」

 

「花衣自身が? いやいや、だとしても俺らを無視したり、親の仇のように見るのは違うだろ」

 

 焔は言葉を軽く受け流して笑っていたが、その笑みはハスキーの真剣な顔付きで少しづつ消えていき、笑い声を徐々に消えていく。

 

 静まり返った空気をハスキーが切り開くかのように、花衣が何故ああなった理由を話す。

 

「今の花衣様はダークネスによって心の闇に囚われています」

 

「心の……闇?」

 

「怒り、悲しみ、不安、疑惑、妬み……人に必ずある悪意、心の闇が集まり、産まれたのがダークネス。ダークネスはそんな心の闇につけ入れ、ダークネスの世界に人々を取り込むのです」

 

「ダークネスの世界? なんだそれ」

 

「端的に言えば、苦しみや不安の未来に永遠に囚われる世界です」

 

「苦しみや不安……けど、今の花衣は逆な様な気がするぞ」

 

 空の言う通り、今の花衣は苦しみや不安どころか歪ながらも幸せそうな様子だった。

 

 学校内で閃刀姫達と過剰な程触れ合い、盲目的に閃刀姫達と過ごしているのを目に残っていた空の目線では、花衣はどちらかと言えば幸せそうに過ごしているようにも見えた。

 

 だがハスキーはそれを否定し、メガネを少し上げてレンズを光らせながら理由を話す。

 

「あの状況が不安や苦しみに囚われているというのならば、恐らく花衣様の闇は精霊との繋がりが無くなるのを極度に恐れているからでしょう」

 

「精霊……六花と閃刀姫達に対してか?」

 

 彼方の答えにハスキーは頷き、それに対し焔は花衣と精霊達の距離感を思い返し、納得がいかなかった。

 

「けどアイツずっと精霊達と過ごしてんだろ。繋がりが切れるどころか離れねぇよ」

 

「いえ、あの子が恐れているのは別の要因です」

 

 焔の言葉を否定する女性の声がカウンター奥のバックヤードから聞こえてくる。

 

 バックヤードからはコツコツとヒールと靴音が徐々に大きくなり、そこにいたメイドの姿がこの部屋の明かりによって晒される。

 

 白金色の髪に、黒のクラッシック風のメイド服、腰から生えている黒い翼は羽元が薄い緑から羽先が白色のグラデーションが美しく、尻尾も同様だった。

 

 そして極めつけは頭から生えている黒いドラゴンの角と風貌が、ドラゴンメイドだと一目で分かる。

 

 そんな彼女の名前は……ドラゴンメイド・チェイム。ここまで姿を見せずにいた、ドラゴンメイドだった。

 

「おまっ、チェイムか!? 姿見えないから居ないもんだと思ってたぜ」

 

「それには少々込み入った事情があり、それがこの後の話に繋がります」

 

「花衣が恐れているのは別の要因だったな。チェイム、お前なら何か知っているのか?」

 

「知っているも何も、チェイムさんはず──っと、花衣さんの心の中にいたんですよ?」

 

 チェイムよりも先に言葉を出したのは、ドラゴンメイド・パルラだった。

 

 あまりにも軽く重大な事を喋ったせいでこの場の空気が固まり、焔と空も時間が止まったかのようにその場で固まってしまい、それが1分少々かかった。

 

 驚きを現すかのように空のメガネが目からずり落ちると、空は慌てて傾いたメガネの向きを直し、パルラの言葉の意味を整理した。

 

 _花衣さんの心の中にいたんですよ? 

 

 確かにパルラはそう言った。チェイムが花衣の心の中に……と言葉を反芻し、その言葉を意味を飲み込もうとしたが、頭が拒んで理解が出来なかった。

 

 今まで非現実的な出来事に関わってきた空だが、他人の心の中に入り込むという非現実的かつ、実現不可能に近い事をあっさりと言われたせいでやはり理解が出来ず、空は白旗の代わりに右手を小さくあげた。

 

 チェイムは長い話をする為、焔と空におかわりの紅茶を淹れると、2人の向かいの椅子に座ってゆっくりと口を開いた。

 

「どれから説明しましょうか……」

 

 説明するべき物が多く、チェイムは選択肢に迷っていたが、焔と空が自分の顔をまじまじと見ている事から、2人が今最も気になっているであろう疑問に答えることにした。

 

「……では、あの子の出生や過去についてお話しましょう。私は端的に言えば、あの子の乳母にあたります」

 

「うば?」

 

「代わりの母親という事だ。……つまりお前は花衣の育ての親という事か?」

 

 空の問いかけにチェイムは頷き、いよいよ花衣の過去について話そうとしたと思いきや、チェイムはその場で踏みとどまるかのように言葉を詰まらせた。

 

「……すみません、やはりこの話をするには人数が必要です。貴方達はあの子の事を多く知るべきですから」

 

「というと、花音とか雀とかか?」

 

「それと、天音様……そしてもう1人います」

 

「もう1人?」

 

 焔と空は全く心当たりが無く、答えをチェイムに求めた。

 

「かつて心の闇にのみこまれ、全てを倒す【覇王】になった人物がいます。彼なら、きっと今の状況の力になってくれるでしょう」

 

「覇王? 誰の事だ?」

 

 チェイムの瞼の裏に、その男の後ろ姿が映し出された。

 

「その男の名は……遊城十代。彼ならきっと……力になってくれます」

 

 

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