六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
ドラゴンメイド、元々ドラゴンの者達が人間へと姿を変え、ある屋敷を構えて客人に最高級のおもてなしを提供する種族の事だ。
ドラゴンメイドの屋敷に行けばこの世の天国を味わえる、最高の安らぎを得られるなど、誰しも一度は行ってみたいと口に出す。
しかし、ドラゴンメイドの屋敷は行こうとして行けるものではなく、唐突に目の前に現れるとの事。
いつ、どこで、なんの条件で自分の元にドラゴンメイドが現れるのは誰にも分からない。
だがある一点、『おもてなしが必要な方がそれを望んだ時』自分の前に現れる。
そこでドラゴンメイド達に迎え入れれば、彼女達のおもてなしが受けられる事であろう。
そんなドラゴンメイドの1人、メイド服というよりドレスのような黒い衣装をまとい、頭には黒い角に、腰にはドラゴンの尻尾を生やした彼女、【ドラゴンメイド・チェイム】が慌ただしく屋敷の中を走り回っていた。
「はぁ……はぁ……あの子はどこに行ったのでしょうか」
私の名はチェイム。と言ってもこれは本名では無く、あくまでこの姿での名前です。
走るのに適しない服装で無理に走ったせいで少し息を切らし、ジェニーさんから託された赤子、カイを探しています。
託された日から一年経ち、すくすくと育っていきましたが……わんぱくになってしまい、少し目を離した隙にこの屋敷のどこかに行ってしまいました。
まだ両足で歩けるほどでは無く、よちよち歩きしか出来ないからさほど遠くまでは行っていないと思いますが、どうしても見つけられません。
他のお客様の部屋に入ったのではと考えましたが、それなら「赤ん坊が私の部屋に来た」など、一言添えてこちらに渡してくるはず。
となれば、お客様が立ち入りできないこの辺りにいるのは間違い無い。
いるとは思いませんが、万が一と考えた私は近くにあったキッチンの扉に手をかけ、キッチンへと入る。
白と黒のタイルの床に暖炉のある広々とした机の上には様々な食材が並べられ、これからお客様の為のランチを作っているところでしょう。
そしてこれらをご用意するのは、赤色の髪のドラゴンメイド、ティルルさんです。
「チェイムさん? どうしてここに?」
ティルルさんが私に気づくと料理の手を一旦止めた。邪魔してしまったと頭を下げ、ここにカイが来たかどうかを聞いた。
「カイを見ませんでしたか? 目を離した隙にいなくなって……」
「カイ? うーんここには来てないし、見ていませんね。パルラの所に行ってるのでは?」
「パルラさんですか……」
ドラゴンメイド・パルラ。接客担当であるパーラーメイドであり、明るい性格は人当たりが良く、完璧な接客でお客様の心境を良くしている優秀なメイドです。
ですが所々サボったりティルルさんのお菓子をつまみ食いする所が玉に瑕です。
しかし天真爛漫、人当たりの良い彼女には私が急な仕事で子育てが手に回らない場合、変わりの子育てを任せている事が多い。
ああ見えて意外と面倒見が良く、カイは良くパルラさんに懐いている。
……もしかしたら私以上に懐いているかもしれないと思うと少しもやっとしますが、パルラさんに懐いているのならば考えられなくは無い。
「分かりました。ありがとうございます」
「母親も大変ですね」
「私は乳母ですよ。あの子の母親はジェニー様です」
「どっちもどっちだと思いますけど……」
「何か言いましたか?」
「いいえ。あともうすぐお昼なので、カイの食事を作っておきますから、見つけたらまたここに来てください」
「ありがとうございます。では、失礼しますね」
ティルルさんは料理の手を動かし始めた。邪魔する訳にはいかないので、何か言った事を聞かずにキッチンへと出た。
「さて、パルラさんはどこにいるのでしょうか……」
まだ勤務時間なので持ち場についているのなら今は昼食のお知らせをする為にお客様のお部屋に行っている筈です。
本日のお客様が泊まっているお部屋は確か2階の角部屋とその斜向かいのお部屋のみだ。
早速私はその部屋に少し急ぎめに向かい、カイを探す。
赤い絨毯の廊下を走っていると、ふと私の鼻腔に甘い匂いが立ち込めた。甘い匂いは物置部屋に立ち込めており、まさかと思い勢い良く物置部屋の扉を開ける。
物置と言っても乱雑に物を詰め込んでいる訳ではなく、きちんと木箱に整理整頓した部屋には、緑色の髪のメイド、ドラゴンメイド・パルラさんが勤務中にも関わらずチョコレートケーキを頬張っていました。
いきなり扉が開かれた事に驚いたパルラさんは食べかけのチョコレートケーキを喉に詰まらせて、胸を力強く叩き、涙目で私に助けを求めた。
案の定サボっていたパルラさんに呆れながらも私はお仕置がてら腰の尻尾で思い切り背中を叩き、喉に詰まらせたケーキどころかパルラさんを吹き飛ばし、女の子がしてはいけないガニ股で頭から木箱へめり込みました。
少しやりすぎと思いつつもパルラさんの足を掴み、めり込んでいた頭を出してあげると、どうやら無事に詰まった物は飲み込めたようでした。
「チェ……チェイムさん……や、やりすぎですよぉ」
「サボってるからですよ。後そのケーキ、ティルルさんが作った物ですよね? 勝手に取っちゃダメですからね」
「だ、だって〜」
「ところで、カイを知りませんか? 目を離した隙にどこかに行ってしまいまして……」
「カイ? うーん、知りませんね。そもそもあの子が行ける場所なんて限られてるじゃないですか。まだあの子、よちよち歩きしか出来ないでしょ?」
「それはそうですけど……」
「カイならここです」
突然廊下から知っている声が耳に入り、振り返るとそこにはドラゴンメイド・ハスキー、私たちドラゴンメイドにとっての長である方が、赤ん坊のカイを持って現れました。
「カイ!」
「あぅ? ちぇーむ!」
カイは私の名前を呼びながら腕を伸ばしてハスキーさんから離れようとしつつも、ハスキーさんはカイを離さないようにしっかりと抱きとめる。
「おっとと……この子ったら、お客様が連れ添っている宝玉獣の宝石に惹かれてついて行ったらしいのよ」
「でんせちゅー!」
「まぁ……お客様はなんと?」
「別に気にしていなかった様子よ」
「それは良かった……ところで、ハスキーさんはどうしてここに?」
「ここから物音がしたから様子を見に来ただけです。そして、サボり魔のパルラを運良く見つけたところです」
「ギクッ……い、いやぁ〜ちょっと休憩ですよ、休憩」
ハスキーさんはメガネを光らせてながら無言で私にカイを返し、ゆっくりとパルらさんに向けて歩いていく。
ハスキーさんから溢れ出る静かな怒りにパルラさんはビクビクと体を震わせ、壁際まで押し寄せられてしまい、逃げ場のない彼女はハスキーさんに頭を鷲掴みにされ、引きずりながら物置部屋から追い出されました。
「ガッ……め、メイドちょ……痛い……痛いですぅ」
「自業自得です。チェイムも今日はカイのお世話に集中してください。幸い、お客様は少ないので」
「あ、ありがとうございます」
「パルラはその分働いてもらいますから」
「ひぇ〜!! お助けぇぇー!!」
パルラさんの悲痛な叫びが尾を引きながら徐々に静かになっていき、私以外のドラゴンメイドが通常業務に戻っていった。
「さて、ではカイもご飯にしましょうね」
丁度ティルルさんがカイの食事を作ってくれている筈なので、カイを抱いてもう一度キッチンに戻ります。
戻った途中でお昼の食事を乗せたワゴン車を運んでいるナサリーさんと出会い、ナサリーさんはカイに笑顔で手を振った。
「あら〜カイ様じゃないでちゅか〜。元気でちゅかー?」
「なーりー!」
「うーん惜しいです、ナ・サ・リーですよ」
「な……な? うぅ〜……」
上手く発音できないことにストレスを感じたカイは難しい顔をして口を尖らせ、四苦八苦する顔が愛くるしい。
思わずこっちも笑い、ナサリーさんも愛おしくカイの頬をツンと触れる。
「お名前が言えるの、もう少しかかりそうですかね? ママさん」
「ママって……私はメイド、乳母ですよ」
「でもすっかり母親が板に着いた様な感じですよ。ママドラゴンですね」
「ママドラゴン……」
「ママー!」
ママという言葉に反応し、カイは私に擦り寄ってきました。赤子のやわからな柔肌と体温がとても心地よく、ついつい甘やかしてしまう。
意趣返しにほっぺたをツンと突っつくと、ムニンとした感触が指先に伝わる。遊んでいると思っているのかカイは大きく笑って私の指に触れ、反射で強く握りました。
その光景を見たナサリーさんは和やかに笑った。
「ふふ、やっぱり母親じゃないですか」
「ですが私は……」
「良いじゃないですか、母親が二人いても」
ナサリーさんはそう言いながらワゴン車を押すと、また言葉を残す。
「子供を愛し、慈しみ、自分よりも大事だと思えば、それはもう子と母親です」
そう言って彼女はワゴン車を押してお客様に料理を渡しに行ってしまわれた。
「子を愛し、慈しむ……」
ナサリーさんから投げられた言葉を反芻し、幼いカイの顔を見る。まだ何も知らない純粋無垢な目で私を見つめ、その瞳はまるで宝石のようでもあった。
傍から見ればこの子が世界を滅ぼす危険な存在になり得るかもしれないとは誰も思わない事でしょう。
「あぅ、あぅ〜!」
そんなカイはお腹の虫を鳴らし、お腹が空いたと言うように大きな声をあげた。
「あぁ、ごめんなさい。直ぐにティルルさんの所に戻りますからね〜」
大泣きしないようカイの体を小さく揺すってあやしながらティルルさんのいる厨房へと向かう。
丁度ティルルさんも食事を作り終えている所でしょうか、厨房へと戻ると扉越しでもとても良い匂いがまだ残っており、厨房の扉を空けると机の上には離乳食と1人分の料理が並んでいた。
本日の料理は魚をメインであり、離乳食もそれに合わせて白身魚を潰して食べやすいようにしていました。
副菜もしっかりあり、かなり栄養バランスに気を使った事が見て取れました。
「あ、おかえりなさいチェイムさん」
「てーる!」
「ティ・ル・ル。まだ発音しづらいのかしら……」
「ですかもうすぐ言えると思いますよ」
実際、「チェイム」の「チェ」を上手く発音していたので、小文字混じりの発音は問題ない。会話を聞かせ、発音の練習を繰り返せば、ドラゴンメイドの名前全てを言える日は近いはず。
その日を待ち遠しくも思い、楽しみが胸いっぱいに広がる。
まさかドラゴンである私がこのような気持ちを抱く日が来るなんて考えもしなかった。
そして、この気持ちを抱いているのは私だけではない。
ティルルさんもまた我が子の成長を楽しみにしているようでした。彼女が作る料理には愛情が感じられますし、何よりカイを見る彼女の目は私と少し似ていました
だからなのでしょうか、いつもより少し感情的になったような気がします。
そんな愛情たっぷりの離乳食にカイは目を光らせ、早速食べようと涎を垂らしているのを見て急いで涎を拭き取り、ここでは衛生面上食べられないので隣の小部屋に料理を運び、そこで食事をとる。
カイの為に作った特製のイスにカイを座らせ、汚れないようにカイの首元からナプキンをかけた後にスプーンを渡し、私は隣の椅子に座る。
カイはスプーンをグーの手で握り、離乳食に目一杯口をつけ、小さな口で頬張りながら食べる。
その愛くるしい姿に思わず私は見入っていると、カイはスプーンから離乳食を落とし、ナプキンや口元の周りを汚した。
汚れを気にせず食べ続けるカイを可愛らしく思いつつも、汚れを放置せずには居られないのはメイドの性なのでしょうか。
ハンカチを手にしてカイの口元の汚れを拭き取り、汚れの気持ち悪さが取れてカイはより一層笑顔になって食事を楽しく口に運んだ。
私もカイの様子を気にしつつ食事をとる。まずはメインの白身魚から一口運ぶ。
小骨すらない丁寧な下処理で食べやすく、味付けも完璧です。
やはりティルルさんの腕は確かだと感服しつつ、美味しい料理をカイと一緒に楽しんだ。
「カイ、残さず食べるんですよ」
「あい!」
カイと一緒に楽しく食事をとり、カイは残さず全て食べてくれました。ティルルさんも喜ぶ事でしょう。
お腹が膨れたおかげかカイは小さな欠伸をして眠そうに瞼を重くさせた。
「ふふ、お眠の時間ですね。洗濯物を取り込むのは後にしておきましょうか」
後々洗濯専属のランドリーメイドがこの屋敷に来るとの話ですが、聞いた話まだまだ幼いらしくここに来るのはまだまだ先になりそうです。
もしかしたらカイの最初のお友達になってくれるかもしれないと期待しつつ、すやすやと寝息をたてているカイを抱き、起きないようにゆっくりと私の部屋まで連れていった。
「ねむれねむれ母のむねに……ねむれねむれ母のてに……」
人は赤子を安心して眠りにつかせる為にこのような子守唄を歌っているらしい。ジェニー様に歌詞を教えて貰い、カイが眠る時にこうしていつも歌っている。
歌に合わせてカイの背中を優しく撫で、深い眠りに誘う。安心して、安らかに、良い夢を見られるように願いながら、今日も私は唄う。
私室に到着する前に私の腕の中でカイは心地よく眠り、丁度部屋にたどり着いた。
カイを育てる前は机とベット、そして少ない本を飾った本棚しかない最低限の家具しか無かったのに、今となっては本棚は沢山の絵本があり、遊び道具や知育玩具、そしてカイがお絵描きした絵が壁に貼り付けられていた。
随分と明るくなったと今までの事を振り返りながら、カイを布団の上へと乗せ、起きるまで隣で静かにカイを見守る。
ただ時を過ぎ去るのを待つのは中々慣れず、私もつい眠気に誘われてしまう。今日はお暇を貰いましたのでこのまま私は目を閉じ、カイと共にお昼寝を…………
「チェイム? ティルルからカイのおやつを貰ったけど……」
チェイムの扉の前に、おやつの柔らかめのビスケットが盛り付けられた皿を持ったハスキーがいた。
ドアをノックしても返事が無いことにハスキーは首を傾げ、何かあったのかと心配すると、ふと懐中時計を見て今の時間を見た。
今は昼下がりの午後である事を確認したハスキーはもしやと思い、ドアノブに手をかけて音を出さないようにゆっくりとドアを開けた。
扉の先に見たハスキーの目には、チェイムと幼いカイが2人で寝息をたてて眠っている姿が映る。
「やっぱりお昼寝中だったのね」
無事な事に安堵したハスキーはおやつのビスケットを机の上に置き、近くにあった紙とペンで書き置きを残し、部屋を出る前にカイとチェイムの姿を見収めようとベットに近づいた。
チェイムがカイを優しく抱くようにして眠り、カイもチェイムから離れないようにメイド服を握って眠っていた。
「ふふ、随分と母親になってるわね。チェイム」
ハスキーから見た2人はまさに親子であり、ハスキーは2人の体が冷えないように布団をかけ直し、そのまま静かに部屋を去った。
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