六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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2024/08/18 0時頃追記

えー、誤操作で思い切り途中で投稿してしまいました。

大変申し訳ございませんでした。




闇の繋がり

 

「よーし行くよカイー!」

 

 意気揚々と声を上げるのはドラゴンメイド・パルラ。

 

 若葉のような髪色に風のように自由気ままな性格でカイと打ち解け、この屋敷の広場でカイとじゃれていた。

 

 パルラはカイを抱き上げ、小刻みにジャンプした後膝を曲げて体勢を低くした後足を伸ばした瞬間、腕を大きく振り上げてカイを空高く投げあげた。

 

「そーれ高いたかーい!!」

 

「わー! たか──い!!」

 

「なんて事してるのよー!」

 

 カイは豆粒程の大きさまで高くあげられ所を間近で見たティルルさんは顔を真っ青にしながら絶句し、直ぐさま飛ばされたカイを追いかける為に龍の姿へと変化させる。

 

 パルラさんの体が赤い鱗に纏われ、人から龍の姿となった。

 

 その名をドラゴンメイド・フランメ。紅い龍となって空高く飛び立ち、放り投げたカイを巨大な腕で受け止め、直ぐに地上へと降り、人間の姿に戻り、ティルルの荒い息がどれだけ必死だったのかを物語っていた。

 

「ぜぇぜぇ……ふぅ、大丈夫? カイ」

 

「うん、楽しかった!」

 

「えぇ? ……もう全くこの子ったら」

 

 しっかりとカイを地上に降ろした事に安堵したティルルさんは、カイを放り投げたパルラさんに物凄い形相で迫った。

 

「パルラ!! カイは人間なのよ!? それをあんな高く放り投げてどういうつもり!? 馬鹿なの!?」

 

「大丈夫だって〜私がしっかり受け止めるし、カイも楽しかったよね〜」

 

「もっかいやって!」

 

「ダメよ! 絶っ対に!」

 

「ティルルってば過保護すぎー」

 

「アンタが大雑把なのよ!」

 

 ティルルとパルラのいつもの言い合いが始まり、ナサリーさんが2人の間に入ってティルルからカイを取り上げると、その言い合いは止まった。

 

「はーい二人とも喧嘩しちゃダメですよ。ね、カイ」

 

「うん! みんななかよくしないとめっ!」

 

 左右それぞれの人差し指でバツ印を作ってティルルの方に向けた。

 

 どうやらパルラを一方的に怒っているティルルが喧嘩しているように見えたのでしょう。ティルルは自分だけ注意されて理不尽に思いつつも、カイには強く出れず、歯がゆい顔をしていた。

 

「パルラ、カイと仲良くなるのはいいですが手を動かしなさい。まだテーブルの設置も終わってないのですから」

 

 私と一緒にテーブルの設置をしていたハスキーさんはそう言うと、パルラは嫌そうな顔をしましたが、ハスキーさんの細めた目で睨まられると、蛙のように大人しくなり、渋々パーティー……カイの送迎会の準備を進めた。

 

「別に良いじゃないですかー。カイは明日の朝ジェニーさんと一緒にここに出るんですから」

 

「ならチェイムに過ごさせなさい。チェイムも手伝いはもう良いですから、カイと一緒に……」

 

「大丈夫です。カイも他の皆とも過ごしたいでしょうから」

 

「今日ぐらいメイドの枷を外してワガママになってもいいんじゃない?」

 

 ハスキーさんの口調が軽くなった。まるで友と接する時のような笑みをこちらに向け、いつものメイド長である姿は、いまこの瞬間居なかった。

 

 後押しのつもりで向けられた笑みはとても嬉しかった。けど……この枷を付けなければ、きっと私はカイを引き止めてしまう。

 

 私はドラゴンメイド・チェイム。

 

 たとえ二度とここに戻ってこられないとしても、メイドとしてカイを送り迎えなければならない。

 

 今私の胸の痛みと共に、忘れてしまうぐらいに。

 

「チェイム?」

 

 私のスカートの裾をカイが掴み、心配するように見上げていた。

 

「だいじょーぶ? どこか痛いの?」

 

「……ううん、どこも痛くないですよ」

 

 精一杯の笑顔で嘘をつき、テーブルクロスを敷いた。

 

「ねぇねぇ、ぼくもやるー」

 

「あら、じゃあ見習いさんにはチェイムと一緒にテーブルの用意をしてください。チェイム以外は食事のご用意を」

 

「……あぁ、なるほど。ではチェイムさん、カイ、また後でね」

 

「はーい! よーし、がんばるぞー」

 

 広場から私とカイ以外が屋敷の中へと入り、この広場には私とカイだけとなった。

 

 カイは早速自分よりも大きい畳まれたテーブルクロスをテーブルに持っていこうとしましたが、大きなテーブルクロスに押しつぶされてしまった。

 

 微笑ましい光景にクスリとしながら、カイを覆いかぶさっているテーブルクロスを持ち上げ、太陽の様な眩しい笑顔のカイが姿を現し、また胸が痛む。

 

 その痛みを隠すように、私はまた笑顔をこの子に向けた。

 

「ふふ、困った見習いさんですね」

 

「えへへ。でもチェイムがいるからだいじょーぶ! ねぇねぇ、チェイムもママといっしょにくるの?」

 

 胸が締め付けられ、槍で突き刺されたかのような激痛が体を蝕んでいく。

 

 嘘をつく訳にもいかない私は、カイの目線を合わせて真実を告げる。

 

「ごめんなさい、私は一緒には行けないのです」

 

「え、どうして? いっしょにいこーよ!」

 

「私はここに居ないとダメなのです。だから一緒には……」

 

「やだ! いっしょにいくのー!!」

 

 カイは泣きながら私のメイド服を引っ張り続ける。

 

 私だってこの手を繋いで一緒に行きたい。

 

 3年というドラゴンにとっては瞬きと同類の年月ですが、生きていた中で一番永く感じた時でした。

 

 瞬きをすれば人の一生を過ぎ去り、街も変わり、自然も変わり、不変な物は無かった。

 

 ですがカイだけは違った。

 

 瞬きしてもカイは少しづつ変わっていくだけだった。

 

 人では無いのに、人としての時間を過ごせた様にも思え、いつしかその時間が愛おしくも思っていた。

 

 この手を取ればその時間も続くと考えれば、一瞬カイの手に触れようとした。

 けど触れなかった。触れたら最後、ついて行ってしまうと思ったからだ。

 

 心に蓋をして、私はカイの頭を撫でながら言葉を伝える。

 

「ごめんなさい、ダメなのです。私はドラゴンメイド・チェイム。この屋敷を離れる訳にはいかないのです」

 

 共に行けない。そう告げるとカイは静かに涙を流した後、顔を赤くするほど怒り顔を私に向けた。

 

「チェイムなんかキライ!! だいきらい!!」

 

 そう叫びながらカイは私から離れて森の奥へと向かっていってしまった。

 

「いけません! 戻りなさい!!」

 

 カイの背中を追いかけ、手を伸ばそうとした瞬間、カイから闇が溢れ出して私の手を拒んだ。

 

「っ……」

 

 闇は直ぐに消えましたが、それはカイの元に吸い込まれるように消えた。

 

 あの闇を見た事がある。ウェルシーが放っていた物と同じ、冷たくも全てを拒絶する棘のような痛みがある闇はが今確かにカイの元から出ていた。

 

 彼は悪意というものを知りつつある。

 

 今のやり取りから私に向けた怒りや悲しみが引き金となったのか、カイは闇と共に森の奥に消えてしまった。

 

 しかし問題はそこじゃない。問題は……カイがあの森に入ってしまった事だ。

 

 この森には今ぐらいの時期で活発的に動くモンスターがいる。モンスターは近づきさえしなければ害意を向けられませんが、あの状態のカイがそのモンスターに近づいてしまったら……手が付けられない事になる。

 

 この事を知らせる……いえ、そんな時間は無い。今すぐにでもカイを探さなければ、カイ自身も危険にあうかもしれないのだから。

 

「チェイム!!」

 

 森へ行こうとしたと同時に、屋敷からジェニー様の叫び声が聞こえ、こちらにジェニー様が向かった。

 

「貴女の叫び声が聞こえたから来たけど……待って、カイはどこに行ったの?」

 

 この場にいるはずのカイが居ない事に気づいたジェニーさんに、私は事の経緯とカイから出た闇について話し、状況を共有した。

 

「なるほどね。ハスキー達を呼び出す時間は……」

 

「あまりありません。直ぐにでもカイを探さないと……」

 

「なら、私も探した方がいいわね。1人より2人で探した方が見つけやすいに決まってるから」

 

「すみません、私が不甲斐ないばかりに……」

 

「別に良いのよ。……やっぱり、貴女は母親よ」

 

「……そんな事ありません。さぁ、行きましょう」

 

 私とジェニー様は森の中へと入り、カイを探した。

 

 広々とした屋敷の広場から深く見通しの悪い森に入り、私とジェニー様は二手に別れてカイを探した。

 

「カイー! どこにいるのですかー!?」

 

 森の中で叫んでも返事は帰ってこない。帰ってきたのは私の声に驚いて鳥が羽ばたき、小動物が今居た場所から逃げた音と、木々が風で擦れてまるでざわめきの様な音だけ。

 

「どこにいるのですか……カイ」

 

 心臓の音がうるさく鳴り、呼吸も浅く、視界が狭まり、目の前が真っ暗になる。

 

 暗くなった世界で走馬灯の様にカイとの思い出が脳裏に過ぎる。

 

 カイを引き取った事、食事を共にした事、遊んだ事……

 

「遊んだ事……? そうです、かくれんぼ……!」

 

 私がいつもカイを見つける時、五感を全て使って見つけ出していた。

 

 彼の姿、彼の声、彼の匂い、微かな感覚を感じていつも見つけだしてきた。

 

 どこに行ってもカイを見つけ出せるように、今回もそれに則れば必ず見つけられると信じ、私は聴覚と嗅覚に意識を集中させる。

 

 森の匂いを感じなくさせ、自分の鼓動と森のざわめきが私の耳から消える。

 

(どこですか……カイ……!)

 

 _ぐずっ……

 

「見つけた……!」

 

 微かに聞こえたカイのすすり泣きが私の耳に届き、その声に向かって森を駆け抜ける。

 

 木々を避け、枝を避け、1秒でも早くあの子の元にたどり着く為に、呼吸する事も忘れて走り抜ける。

 

 森の匂いと同時に、微かにあの子の匂いが感じられた。

 

 茂みを1つ乗り越えた先に、カイがいた。

 

 蹲ってしくしく泣きじゃぐり、誰かに見つからないように木の影に隠れていた。

 

「カイ!」

 

 安心して名前を呼ぶと、カイは肩を上げるほど驚きながらゆっくりこちらに振り返ってくれた。

 

 泣き続けて赤く腫れた目と拭いた痕がくっきりと残っていて、どれだけ泣き続けていたのかよく分かる。

 

「チェイム?」

 

「そうですよ。ここは危ないので、早く屋敷に戻りましょう?」

 

「やだ」

 

「嫌ではありません! 早くこちらに……」

 

「かえらない! チェイムといっしょじゃないとヤダ!」

 

「いい加減にしなさい!」

 

 初めてカイに怒号を上げたことに対して驚きはしなかった。それどころか、わからず屋のカイに対しての苛立ちが勝り、カイは木の影に隠れても私は怒りを向け続けた。

 

「私だって貴方と一緒に行きたいです! だって私は貴方の……」

 

 言葉を言い終える前に地面が突如揺れ始め、会話が遮られてしまった。

 

 振動は徐々に強くなって立っていることさえままならない所まで大きくなり、カイが木にしがみついて揺れに耐えていた。

 

 振動が最大まで大きくなり、地中から地面をえぐり、土埃を舞わせながら現れたのは巨大昆虫モンスター、『デビルドーザー』だった。

 

「あのモンスターはここにはこない筈……まさか、カイの闇に釣られて……?」

 

 デビルドーザーは薄桃の体に黒い闇を纏わせながら、巨大な体を畝らせながら森を這いずり回り、森を破壊し続けていた。

 

 予測出来ない巨体のせいでカイと分断されてしまう他、振動で立つこともままならない。

 

 地に足をつけるのがままならないのなら、つけなければいい。

 

 背中から翼を生やし、一旦上空へと離れてデビルドーザーの全体を目の当たりにする。

 

 デビルドーザーは上空にいる私に目を向けると、餌と思ったのか巨大な口を開きながらこちらに接近し、私はデビルドーザーの背後へと瞬間的に飛び、その攻撃を躱す。

 

 こちらに接近してくれるのなら都合がいい。デビルドーザーの出現でジェニー様がこちらの異変に気づき、様子を見に来るはず。

 

 その間に私が注意を逸らしている間、ジェニー様がカイを保護すれば、安全な所まで逃げられる時間ができるはずです。

 

 なら私がやるべき事は、デビルドーザーの注意をこちらに向けさせ続ける事だ。いきなり遠くまで離れたらこちらの興味を失い、また無作為に暴れる恐れがあるため、ギリギリの距離を保つしかない。

 

 あわよくば撃退を視野に入れたいですが……人間態の今ではそれは叶わない。

 

(せめてカイの安全が確認できるまでは……!)

 

 デビルドーザーが再度こちらに近づき、巨大な口から複数の舌が触手のように私に迫るくる。

 

 予想以上に早い動きに舌の一部が私の右腕を巻きとる。

 

 舌を引きちぎろうと力を込めるものの、まるで鉛のように重く、動かす事さえできなかった。

 

「なんて力……!」

 

 このままではあっちに引き寄せられてしまうのも時間の問題。ドラゴンの姿になれば恐らく力押して勝てる。

 

 だがそうすればこの近くにいるカイにも被害が及んでしまう。さっきカイがいた所に目を向けると、そこにはカイの姿が見えなかった。

 

 最悪な考えが脳裏を過ぎて血の気が引く感覚に陥りながらも周辺を探し続ける。

 

「わぁぁぁ!!」

 

 何故かデビルドーザーからカイの叫び声が耳に届く。

 

 デビルドーザーに目を向け、尻尾の先にカイが巻き込まれていた。カイは必死にしがみついていますが、一番うねりが大きい尻尾にいては手を離してしまうのは時間の問題だ。

 

 自分に急げと鞭を打って右腕の拘束を破ろうとしていると、デビルドーザーがこちらに近づき、あと数秒もすれば私を丸呑みにしてしまう距離まで迫ってきた。

 

 自分の死が近づいて身を強ばらせたその時、デビルドーザーの頭部に魔法弾が直撃し、右腕がデビルドーザーの舌の拘束から外された。

 

 意識外からの攻撃でデビルドーザーは動きを止めて項垂れる様にして地面に倒れ、すかさず尻尾付近にいるカイに向けて飛び立つ。

 

「カイ!」

 

「チェイムー!!」

 

 助けを求めるように両手を伸ばしたカイの手を掴み、先程魔法弾が飛んできた所に目を向ける。

 

 そこにはジェニー様が杖で周りに緑色の魔法弾生成しているのが見えた。

 

「離れて!」

 

 普通で聞こえない距離ですが、龍である私の耳はジェニー様の叫びが聞き取り、直ぐ様デビルドーザーから離れる。

 

 こちらが離れたのを確認したジェニー様は杖に突き刺さっている新緑の鉱石を輝かせると、ジェニー様の周りに浮遊していた魔法弾はデビルドーザーに向けて放たれる。

 

「キシャァァァァァ!!」

 

 魔法弾がデビルドーザーの体に触れると同時に爆発が置き、デビルドーザーの叫び声が空気を揺らし、痛みで悶えていた。

 

 効いている筈……ですが全く倒れる気配が無かった。

 

 魔法弾を打ち切ってもなお、デビルドーザーは体を起き上がらせ、口先にある角をカチンという音を鳴らしながらぶつかり合わせ、こちらに向けて威嚇してきた。

 

「ひっ……」

 

「大丈夫、私に捕まっていて下さい」

 

 怯えているカイを抱きしめ、空中で距離をとる。

 

 デビルドーザーはこちらを見あげるだけで何もしてこない。それだけならまだ良かった。しかし、こちらに来るモンスターがもう一体いた。

 

 蒼い羽を広げ、金色の体を持った巨大な蛾の見た目をしたモンスターが爆発する鱗粉を撒き散らしながらこちらに近づいていた。

 

「……ガダーラ!」

 

 怪粉壊獣ガダーラ。壊獣と呼ばれる大型モンスターの中の一体であり、壊獣は世界各地で壊獣同士戦い続けている。

 

 その結果地図から街が無くなった事もあり、その被害は計り知れない。

 

 一体でもその脅威は変わらず、最悪この場所が焼け野原になる事になる。

 

 ガダーラがこちらを視認すると、甲高い叫び声を上げ、鱗粉をこちらに撒き散らした。

 

 触れると爆発する鱗粉に触れないよう空中を駆け抜け、カイに万一が無いように爆風の衝撃さえも躱す。

 

「うぅ……」

 

 無理をして攻撃を躱したせいで、カイが苦しそうな声を絞り出すようにしてあげていた。

 

 このままではカイの身が持たない。かといってゆっくりと飛べばガダーラとデビルドーザーの攻撃を避けられない。

 

 そんな中、ガダーラがまた鱗粉をこちらに向けて放ち、光り輝く鱗粉か近づき、デビルドーザーの触覚が蠢き初め、槍の如く勢いでこちらに伸びてくる。

 

 カイの様子を見れば避ける事はできない。ならば……身を呈して守るしかない。

 

 最小限の動きで鱗粉を避け、その後の触覚はあえて受け止める。

 

 触覚は私の左肩を貫き、赤い血が黒いメイド服を赤く滲ませる。肩を貫かれた激痛に耐えながらカイをしっかりと抱きしめ、歯を食いしばる。

 

「チェイム!」

 

 心配そうに叫ぶカイの目は涙で溢れ、怯えで顔を引き攣らせていた。これ以上怖い思いをさせないように私は笑い続け、少しでも不安を和らげさせたいと思いつつも、カイの顔を見れば上手く笑ってはいないのでしょう。

 

「大丈夫……絶対に貴方の事は守り切りますから」

 

 正直言えば大丈夫じゃない。

 

 このまま攻撃され続けていればいつかは腕が吹き飛んでしまう事でしょう。けれども不安を与えないよう、私は笑う。

 

 龍である本能が私の中で燻り始めた感覚を感じつつ、私はただカイを離すまいと必死に抱きしめたその時、ガダーラの鱗粉が私の翼に触れ、爆発が起こる。

 

 爆発の熱気と衝撃で翼がボロボロになり、飛ぶ力を削がれて地面に撃ち落とされても、カイを離さないまま落下する。

 

 背中から落ちていったのでその衝撃が来るかと思いきや、想定していた痛みは来なかった。

 

 それはその場にいたジェニー様が私の周りに淡い光を覆ってくれたおかげで落下の衝撃を和らげてくれたようだ。

 

「大丈夫!?」

 

「ええ。カイもここに……」

 

「ママー! チェイムがケガしてる!」

 

「私は大丈……っつ」

 

 流石にダメージが大きく、風穴が開けられた左肩とボロボロの翼を見たジェニー様は私がもう立ち上がれないと踏んだのか私の右肩を支えるように体を使って持ち上げた。

 

「逃げるわよ。そんな状況で戦えるわけないでしょう」

 

「いいえ、ここで抑えなければ屋敷にも被害が被ります。……なのでここであの2体をとめます」

 

 ジェニー様の支えから離れ、よろめきながらも立つ姿にジェニー様は息をのみ、私の考えを悟ったのか怒りを私に向けた。

 

「ダメよ。貴女が犠牲になるなんて許されない」

 

 その目には怒りの他にどこか力強さ帯びている様に見え、ジェニー様は目を背けずに私の手を取った。

 

 あの2体は私たちだけでは手に余る事は分かりきっているから。だから……少しでも足止めできる可能性のある手段を取るしかない。

 

 その方法とは、私がドラゴンとなって少しでも足止めするしかない。

 

 私はメイド長……ハスキーさんのように強力なドラゴンにはなれない。しかもカイの抑えきれていない闇によって更に凶暴化した今、時間稼ぎすらなれないかもしれない。

 

 それでも、私の大切な場所と……大切な子供を守るのが母親です。たとえこの身が滅びようとも、朽ち果てようとも、私はこの子を守る。

 

 もしかしたら最期の時かもしれないと思い、私はカイをいつも以上に優しく、愛おしく抱きしめた。

 

「チェイム……?」

 

「……今までありがとう。愛してます、カイ」

 

「……??」

 

 どうして今こんなことしているのか分からないカイは困惑しつつも、その目には涙が溢れて止まらずにいた。

 

 涙をそっと指で拭い取り、最期にもう一度カイを抱き上げる。

 

 最初の頃と比べて随分重くなった体に成長を喜び、寂しくも感じながらも、ジェニー様にカイを託す。

 

「後は頼みます。ジェニー様」

 

 私の覚悟は折れない。その意味を込めた言葉にジェニー様は私の説得を諦め、背中を向けた。

 

「……絶対に生きて帰ってきて」

 

 それ以上何も言わず、ジェニー様はカイを連れてここから離れていく。

 

 しかしカイは逃げるジェニー様の行動に反発するようにジェニー様の腕の中でもがき続けていた。

 

「チェイム! チェイムがまだあそこにいるよ! ママなんではしってるの!? やだ! チェイム──!!」

 

 何度も嫌だと、何度も私の名前を呼び、拭いとったはずの涙がまた流しているのが見えた。

 

 すると、カイの中から闇が溢れ出し、ジェニー様は思わず一瞬立ち止まるも、カイを連れて走り去った。

 

「これは……様々な感情が混じって闇が溢れ出したのね……チェイム……!」

 

 最期に見るカイの顔が泣き顔なのは少し残念ですが、それ以上彼は私に笑顔を向けてくれた。

 

 ……今はそれで充分です。私はカイから溢れ出した闇に触れる。

 

 あちらがカイの闇に誘われ、力を増したと言うのならばこちらも同様の力を得らなければ時間稼ぎすら出来ないと考えたからだ。

 

 カイの闇を纏った瞬間、私の中から哀しみがとめどなく溢れ出しいく。いや違う。これはカイが今抱いている感情の全てだった。

 

 哀しみ、怒り、恐怖……人の悪意とも言える感情が私の中に流れ込んでくる。

 

 感情の濁流に飲み込まれながらも、私はこう感じてもいた。

 

「あぁ……悲しんでくれるのですか」

 

 悲しみとは繋がりを持たなければ出てこない物だ。

 

 悲しんでくれるということは、カイは私の事を少なからず思っていてくれたと自己解釈し、救われた様な気にもなり、自然と笑みが零れ落ちる。

 

 ですがこれは……悪意では無い。確かに悲しみや怒り、疑惑や憎悪は悪意になり得る感情でもある。

 

 けれども、誰かの為の感情というのは悪意にはならない。

 

 誰かの為に怒るという事は、その子の成長を願っての事。

 

 誰かの為に悲しむという事は、悲しみを分かち合う事

 

 そして誰かの為に想うという事は……繋がるという事。

 

 この闇は……繋がりだ。私とカイを繋ぐ、優しく、暖かい闇。

 

「……このような闇を持てるなら大丈夫。カイ、貴方はダークネスとは違う存在になれますよ」

 

 あの子の未来が良いものだと願いながら、私は体を変貌させる。

 

 身体中が熱く、龍の闘争本能が湧き出てくる。爪は鋭く、皮膚は鋼鉄の様な硬さとなり、歯は牙へと変わり、闇が私の体を黒く染める。

 

「グッ……っァァァ!!!」

 

 意識が闇に飲み込まれ、それに抗って獣のように吠えてしまう。

 

 龍化が進むにつれて私の意識は完全に闇に飲み込まれていき、意識が朦朧とする。

 

 この爪で何かを切り裂きたい、牙で命を噛みちぎりたい破壊衝動が私の心を潰していく。

 

「グォォォォォォォ!!!」

 

 ドラゴンの姿になり終えた私の姿は、闇よりも濃い黒龍へと姿を変えた。

 

 久しぶりにこの姿になれて……ようやく暴れられる。

 

 餌を目の前にぶら下がった餌を見せびらかされた煩わしさから開放され、目の前の獲物に向けて飛び立った。

 

 まずは鬱陶しい蛾の駆除からが先です。

 

 蛾の羽をもぎ取ると、蛾は苦しい甲高い叫び声をあげて神経が苛立ってくる。

 

 苛立ち任せでガダーラの背中を殴りつけ、鬱陶しい羽音は消え、ガダーラはデビルドーザーと衝突し、無様な虫たちが横たわっていた。

 

 好都合だと笑みが零れ落ち、私の前に黒い光を集める。光はまるでブラックダイヤモンドの如く輝きを持ち始め、この辺りの被害を気にせずこの攻撃を向けようとしようと既の所で、自分が恐ろしい事をしている事に気づく。

 

(っ……ダメ、まだ意識を保って!)

 

 自分の闘争本能を振り払い、地面に倒れた2体のモンスターの体を掴み、空中へと放り投げ、これで地上の被害は抑えられるはず。

 

 口から黒い光を1点に集め、方向と共に黒い光を空中に浮くモンスター達に放たれた。

 

 黒い光は全てを焼き尽くすビームに変わり、モンスター達の命を完全に削り取るまでその形状を保ち続けた。

 

 二体のモンスターの体は消し炭となり、龍の熱い呼吸だけが私の耳に入る。

 

「グルルルゥ……」

 

 自分の体への負担が大きくのしかかるのを感じ、体中に痛みが走り、意識が根こそぎ奪われているようで倒れそうになってしまう。

 

 体が持たないと判断するように、私はドラゴンから人間の姿、ドラゴンメイド・チェイムへと姿を変えると、仰向けに倒れて何も無い空を見上げた。

 

(はぁ……何とか……なりましたね……)

 

 安堵しか無いため息に身体中の感覚が無くなっていき、体が痛い……もう体力も何もかも底を尽きたようです……。

 

 このまま消えてしまうのではと無いかと思いつつ、私の瞼が重くなる。

 

 あぁ……でも、良いかもしれない。私はダークネスの闇にもう取り憑かれ、この闇のせいで私は皆を危機に晒してしまうかもしれない。

 

 ならこれで良い。私の人生はこれでいい。

 

 龍の人生としてはほんの一瞬の出来事でしたが、私にとってはとても結意義で、悔いの無い人生だと目を閉じた。

 

(あぁ……でも……っ、もっとあの子が成長した姿は……)

 

 私は叶わない願いを震える言葉で呟いた。

 

「見たかった……ですね……」

 

 私は息を止め、眠るように目を閉じた。

 

 ____

 

 __

 

 _

 

「……チェイム、チェイム!」

 

 誰かが私の名を呼ぶ声が聞こえ、右手が握られている感覚で目が覚める。

 

 最初に見た光景は見覚えのあるベットの天井だった。

 

 生きている……? 心臓が動いているのを実感し、仰向けのまま握られている右手を見ると、そこにはカイが両手で私の右手を強く握っていた姿が見えた。

 

 私とカイの目が合うと、カイの曇っていた顔は晴れのような笑顔へと変わり、私に抱きついた。

 

「チェイム! やっと起きた!」

 

「か、カイ……? 私、生きて……」

 

「生きてますよ」

 

 隣からハスキーさんの声が耳に入り、ハスキーさんはリンゴの皮を剥いていた。多分、私の為に切ったものだ。

 

「全く……ジェニー様から話を聞いた時は驚きましたよ。貴女がドラゴンの姿になるなんて……それ程までに切羽詰まったのですか?」

 

「……ええ。勝手な判断申し訳ありませんでした」

 

「本当にね。貴女のドラゴンは1度変身すれば手に負えないから」

 

 リンゴを切ったハスキーさんは私にリンゴを渡しましたが、カイが物欲しそうにリンゴを眺め、私はリンゴをひとつカイに渡すと、カイは小動物のようにリンゴを頬張り、私は切られたリンゴを見つめた。

 

 私のドラゴンは他のメイドと違い、力をセーブする事がほぼ出来ない。

 

 人間で例えるのなら体力が尽きるまで全力で走る様なもので、体力の消費も激しい反面かなり凶暴的な面がある。

 

 しかも、自分の意思で人間の姿になれないのがネックです。私がドラゴンから人の姿になれるという事は私の体力が尽きた時であり、しかも周りの被害が大きい為、私は滅多にドラゴンにはならない。

 

 というより、なるべきでは無いと言った方がいいでしょう。過去に私がドラゴンになったのは過去に数回……片手で数えられる程度です。

 

 特に今回はかなり危険でした……私のドラゴンとダークネスの闇の影響で、自分の許容範囲外の力を体力が尽きるまで出してしまった為、このベットから立ち上がれずにいた。というか……凄く体が痛い。本当に無理をしたと、今更ながら実感した。

 

「……恥ずかしいです。私、今生の別れの勢いで戦ったのに、のうのうと今を過ごしているのが……すごく恥ずかしいですっ!」

 

 今私の手にあるリンゴの皮のように顔を真っ赤にし、リンゴを横にあった棚の上にリンゴを置き、顔を見せないように顔を両手で隠した。

 

「そうよね〜「……今までありがとう。愛してます、カイ」って真剣さと慈愛の目で言っていたもんね〜」

 

 いつの間にかこの部屋にいたジェニー様がニヤケ顔でリンゴを食べながら私の耳元で囁いた。どうしてここにいるのかという疑問の前に、羞恥心が勝って布団に被って悶絶した。

 

「やめてください! やめてください!! 恥ずかしいです〜!!」

 

「結構シリアスだったわね〜」

 

「いやぁぁぁぁぁ〜!!」

 

「ふふ、賑やかね」

 

「ねぇねぇハスキー。リンゴもっとほしい〜」

 

「はいはい。直ぐにご用意しますからね」

 

ハスキーさんはジェニー様を止めてはくれず追加のリンゴをきり、私はジェニー様のからかい攻撃のダイレクトアタックを受け続けるのでした……。

 

 

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