六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
ずっとこんなペースだったらいいのにな〜
快晴が広がる青空の下、私たちドラゴンメイドの屋敷の広場にテーブルが三列ずつ縦横に四脚ずつ並べられていた。
テーブルには、ティルルが丹精込めて作ってくれた料理が綺麗に並べられ、パルラさんが誰よりも多く料理を手に取り、持っている皿の上には食べ物の塔がかんせいしており、なんとパルラさんはそれを一気に食べ終えてしまった。
「ん〜美味しい! やっぱりティルルが作る料理は格別だよね〜」
「ちゃんとカイとジェニーさんの分を残しなさいよ。このパーティーは2人の送別会なんだから」
「分かってる分かってる〜。あ、いちごのケーキもーらい」
「ほんとに分かってるの……?」
念の為にティルルはパルラの動向をチェックし、ハスキーさんとナサリーも珍しくお酒を嗜まれていた。
2人がお酒を飲むのは……30年ぐらい前だった記憶がある。上等なワインが手に入れたから折角だから飲もうとと調子に乗っていたハスキーさんが大暴れしたのは今となって良い思い出です。
「ハスキーさん、あの時のように飲みすぎはダメですよ?」
「うっ……えぇ。注意します」
ナサリーもお酒を嗜むハスキーさんを見て同じ事を思い出したのか注意をし、ハスキーさんは面目無さそうに苦笑いを浮かべた。
そんな2人の間に、今日の主役のカイが2人が持っているグラスをじっと見つめ、興味を示しながらウサギのようにジャンプを繰り返していた。
「ねぇねぇ、それなーに?」
カイは2人が持っているグラスの中身を指を指すと、2人はグラスの中身のワインを見た。
「これはお酒。まだ貴方には飲めない物ですよ」
「えーなんで?」
「大人だけが飲める物ですから。カイも大人になったら飲めますよ」
「おとなになるにはどうすればいいのー?」
「カイは今は何才ですか〜?」
「よんさいー!」
カイはナサリーさんに元気よく右手の指を4本上げて、自分の年をつたえた。
「なら16回誕生日を迎えたら大人になれますよ」
「ホント!? じゃあいまから16かいたんじょうびやる!」
「それだと意味ないですよ〜」
ナサリーは困った笑みでカイに言うと、カイは頬を膨らませ、近くにいたパルラさんがカイを抱き上げていった。
「たった16年でしょー? すぐに大きくなるって!」
16年……私たち龍にとってほんの少しの時間ですが、人にとっては少し長く、少し短い時間でもある。
ですが、今の私にとってはとても長い時間になる事でしょう。
この日が終えれば、カイはこの屋敷から去っていき外の世界へと足を踏み入れる……分かっていた事ですがやはり胸の痛みは収まらず、ついカイとの距離を置いてしまう。
そんな中、ジェニー様が私の右肩を叩き、振り向こうとするとジェニー様は右手の中指を伸ばしたままにして振り向いた私の頬につついた。
「わぷっ……何をするんですかジェニー様」
「ちょっと話があるのと、折角の送別会なんだからもっと笑ってよ」
「努力はします。お話でしたらお部屋に案内しま……」
「ううん、ここでいいから」
ジェニー様近くの空いている小さなテーブルに座り、私も空いている椅子へと座った。
「……ええと、話というのは?」
「結構あっさり聞くのね。まぁ大事な話だし言っちゃうと……貴女の竜化の力、カイに渡さない?」
「竜化の力を……?」
話が見えず、ジェニー様の言葉を反芻して首を傾げる。
そもそも竜化は生まれ持った力であって後天的な物では無い。譲渡なんて出来ない筈ですが、ジェニー様から話を切り出したということは、何か方法があるのでしょう。
私の疑問に気づいたのか、ジェニー様は竜化をカイに渡す事について話を続けてくれました。
「昨日、貴女はカイの溢れ出した闇に呑み込まれながらも自我を保ち続けたでしょ? その力を一旦カイに預けてみないかって話」
「……預けたとしてその方法と意図は?」
「方法は魔術を使ってどうにかするわ。意図としては、成長するカイはそれに伴ってダークネスの力も強まるはず。そこで、ダークネスに耐えた貴女の力をカイに渡したいの」
つまり、強くなりつつあるダークネスの闇に呑み込まれないように、少し耐性がついた私の力を使う事によって、ダークネスにならせないようにするという事でしょう。
しかし、胸が塞がるような不安で協力するという言葉が出てこられず、私はグラスの中にある飲み物を口の中で転がし、考えに耽っていく。
「……やっぱり厳しい?」
「あ……いえ、そういう事では無くて……」
ドラゴンになれない事は少々不便ではありますが、致命的という訳では無い。
ジェニー様の魔術なら私の竜化の力をカイに移せる事への信頼もある。ただ……私が自分自身を信じられない不安が、この提案に壁を生み出していた。
「私如きの力でダークネスの闇を抑えきれるのかどうかと……私の竜化は、かなり凶暴です。もし何かの拍子で暴走したりでもしたら……」
私の力のせいで誰かを傷つけてしまう。その言葉を出さず、私の胸の内に秘めていると、胸が痛んでしまう。
デビルドーザーとガダーラの件は、何とかギリギリ自我を保てたから何とかなったものの、もし闇に呑まれて破壊衝動のまま暴れだしたらと思うと……私自身、自分の力を信じられなくなり、呪いもした。
それよりも、私の力不足のせいでカイが傷つき、逆にカイが誰かを傷つけてその手を汚したりでもすれば……耐えれれない。
そうなるぐらいならこの提案を蹴ってしまえば良い。
だけどそうしなければ……カイはどうなってしまうのでしょう。
分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。
道無き道の中で迷い込んだかのように私の考えは立ち止まっていると、ジェニー様は私の手を包むようにして触れ、私の意識が現実に帰還した。
「ジェニー……様?」
「ごめんなさい、卑怯だったわね。貴女に選択を強要したのだから」
どうやら思い悩んでいた事を見て引け目を負ったのでしょう。
そんな事無いと慌てて否定して立ち上がると、その弾みでテーブルの上のグラスがテーブルから離れ、飲み物事地面に落ちようとした。
ですが、ジェニー様が指先を落ちるグラス向けると、グラスは淡い新緑の光に包まれ、空中に浮いた。
ジェニー様が指を動かすのと連動してグラスは浮遊し、何事も無かったかのようにテーブルの上へと置かれ、同時に奥にあったテーブルからワインを取り出し、私のグラスへと注いだ。
「も、申し訳ございません。お手数をお掛けして……」
「気にしないで。助け合いは、人と接するに当たって大事な事よ?」
「助け合い……ですか」
「そっ。何も責任を全部1人で背負わなくてもいい。重いなら、私も背負うから」
まるで、私の悩みを見透かしているかのような言い方に思わず聴き入り、ジェニー様の次の言葉を待っていると、予想が当たったと言わんばかりにジェニー様は笑った。
「子育てだって同じよ。誰かに頼ってもいい。託してもいい。私だって、最初は色んな人に助けられたし、貴女にも託した。だから……」
ジェニー様は自分のグラスにワインを注ぐと右手でグラスを持ち上げ、私の乾杯を待っていた。
「私も一緒にあの子の未来を支える。母親同士、一緒にね?」
彼女の笑みと言葉で少し霧が晴れたかのような気がした。私はいつの間にか……責任を1人で背負うとしていたのでしょうか……。
いえ、もしかしたら最初から背負っていたかもしれませんね。
やらなければ、守らなければ、という使命感に駆られていき、こんな考えになっていた。
(1人でカイを育てていた訳じゃないのに)
パルラ、ティルル、ナサリーさん、ハスキーさん。皆さんもカイの事を育ててくれた人達だと言うのに、私はなんて薄情なドラゴンなのだろう。
私もまだまだだと苦笑いを浮かべ、グラスを手に取ってジェニー様のグラスと突き合わせ、乾杯をする。
「よろしくお願いします。ジェニー様」
「それって……」
「はい。私の力、カイにお渡しします」
「チェイムー! ママー!」
決意を顕にした所でカイが何かぶら下げてこちらまで走ると、ぶら下げた物……カメラをこちらに向けてボタンを押した。
パシャっという音と共にフラッシュが起き、思わずビクッと腰の翼を羽ばたかせてしまい、ジェニー様のメガネを吹き飛ばそうとしてしまった。
「わわ、なになに? カメラ?」
「パルラがくれたー! これでママとチェイムをとってって」
「へぇ〜カメラなんてあったのね」
「もっとおおきいのがあるよ! それをつかってみんなでとるんだって!」
ちょうどその大きなカメラ、スタンドカメラがハスキーさんが用意を済ませ、後は私達が来ればいつでも撮れるといった様子でした。
カイも急かすように私とジェニー様を連れ、カメラの前へと走っていく。
屋敷を背にしてカイを中心へと並び、私とジェニー様はカイの隣でカメラのシャッターを待つ。
シャッターを切るのはハスキー様で、無線のスイッチを右手で待ち、皆さんの準備を待っていた。
「それじゃあ行くわよ。1+1は……」
「にー!」
定番の掛け声と共にフラッシュが起き、カメラからフィルムが出されると直ぐに画像が浮かび上がった。
カイの満面の笑みは眩しく、ずっと見ていたくなる光景で頬が緩んでしまいます。
「チェイムさん〜私にも見せて下さいよー! あはは、ティルルもっと笑えば良いのにー!」
「う、うるさいわね。あんまり笑顔を作るの得意じゃないのよ……」
「カイの前では笑ってる癖に……」
「パールラぁぁ!!」
パルラを燃やそうとティルルは得意の炎を吐きながら逃げるパルラを追いかけ、パルラは残り物のケーキを食べながら逃げるという器用な逃走劇を披露した。
「ふふ、追いかけっこもいいですけど、そろそろお開きにしませんとね」
ナサリーさんの言う通り、いつの間にかもう空が茜色を染まり、そろそろお片付けの準備が迫ってきた。
「ねーね、もうおわるのー?」
寂しそうにカイは私のスカートの裾を掴み、まだ終わらせたく無いと懇願してきた。
「終わり」という言葉にドラゴンメイド全員が黙り込んでしまい、パルラとティルルも目に見えて落ち込んでいた。
「おわったら、みんなとあえなくなる。……やだ、もっといっしょにいたい」
カイは静かに泣き初めて涙の粒を地面に落とし続ける度、涙は大粒となり、声を大きくさせた。
「やだー! チェイムやみんなとあえなくなるのやだー!」
悲痛な鳴き声と願いは私達全員の胸に突き刺さり、パルラが最初に泣き始めてしまった。
「うわぁー! 私もカイとまだいたいよ〜!!」
「仕方ないでしょう。最初から……決まっ……てっ、いたんだからっ」
ティルルもパルラに貰い泣きしながらも、必死に声を我慢させ、ナサリーさんとハスキーさんも小さな涙を拭ってもまた直ぐに涙を溜めてしまっていた。
「……やはり、寂しいですね」
「ですがっ……1番辛いのはっ」
ナサリーさんは私を見ると、心配無いと言って笑顔で返した。
……最後になるかもしれない時間をこんなしんみりとした空気で終わらせたくない。
メイドとしてお客様を悲しませながら帰らせる訳にはいかない。
来て良かったと、また来たいと思わせる様な笑顔のままお出迎えさせなければならない。
メイドとして、そして母親として私は泣いているカイを優しく抱きしめ、頭を撫でる。
頭を撫で続けられたカイは泣きやみはしてもまだ嗚咽は止まっておらず、苦しそうなカイを落ち着かせるように今度は背中を優しく擦りながら叩くと、カイはようやく落ち着いてくれた。
「大丈夫……大丈夫。また会えますから」
「ぐじゅ……ほんと?」
「ええ。本当」
「いつ?」
「んん……私の背を超えた時、でしょうか?」
私はカイを自分と同じ目線まで持ち上げ、私の身長を教える。
ドラゴンだから平均的な女性よりも少し大きいですが、カイが健やかに育つならこのくらいの身長は越えられるのはそう遠くないでしょう。
カイは今の自分の大きさと私の大きさにギャップを感じると、また顔をしょんぼりさせてしまった。
「やだ、すぐにあいたい」
「……それは」
「会えるわよ。きっと」
隣からジェニー様が入ると、ジェニー様は杖を私に掲げると、私の中から光が飛び出し、光はカイの中へと入っていった。
「……ジェニー様、もしかしてさっきのが」
「そっ。力の譲渡。【クロスソウル】って魔法を応用した融合みたいな感じ。これで貴女の竜の力はカイに渡された筈だけど……何か感じない?」
ジェニー様の言う通り……私の中に、もう1つの鼓動を感じる。
少し弱々しく、けれどもこれから生きようとする強い意志を感じる優しい鼓動……。
これは……カイの鼓動だ。竜の力がカイに渡ったからでしょうか。
意識しないと感じられない鼓動ですが……いい意味での予想外な収穫に少しの喜びを感じた。
「……カイ」
「ん……? なに?」
最後にカイをぎゅっと抱きしめる。温かさ、柔らかさ、全てを感じられるように、いつまでも忘れないように、強く、けれども優しく抱きしめた。
「貴方の中に私は居ます。だからぜったいに会えます。だから……」
私にとって1番大事な願いを……言葉をカイに届かせるように、ちゃんと目を見て、真っ直ぐに向けた。
「どうか元気に過ごしてください。貴方がどこにいても、いつも心の傍にいますから」
「……うん」
ついにカイは泣きやみ、別れの準備が出来ていた。もうこの後駄々をこねる事は無く、ちゃんとしたお別れが出来る事でしょう。
今はそれだけで充分嬉しく思っていると、後ろからパルラさんが涙を滝のように流しながらカイを抱き上げ、頬を擦り寄せた。
「うわぁぁ〜ん! カイ〜!! 元気でいてね〜!!」
「うん! げんきでいるー!」
「おおおん偉いよ〜! ほら、ティルルもカイを抱っこして!」
「えっ? ちょっと待って、涙吹くから……」
ティルルは涙をすぐに拭うものの、隠しきれない涙の跡を残しながらカイを抱き、お別れのメッセージを伝える。
「カイ、好き嫌いしちゃダメだからね?」
「うん! ちゃんとぜんふたべる!」
「……偉いわね。ナサリーさん、どうぞ」
「もう良いのですか?」
「これ以上したら……離れられないから」
「……はい、わかりました」
ティルルさんはカイに別れを告げ、ナサリーさんにカイを渡し、ナサリーさんは聖母のような笑みをカイに向け、別れのメッセージを送る。
「カイ、怪我はしないようにしてくださいね? 風邪をひいちゃダメですよ」
「うん。がんばる」
「うふふ、もしなってしまったら……そうですね。私の事を思い出してくださいね」
最後にカイの額に口付けをした後、ナサリーさんは少し寂しそうにしながらも笑顔でハスキーさんにカイを渡した。
顔には出しませんが、ハスキーさんも相当寂しそうにしており、パルラ以上に涙が出るのを堪えていた。
珍しく思いつつも雰囲気を壊さないように口を閉じ、ハスキーさんとカイの2人だけの時間を作る。
ハスキーさんはカイを見つめ続けていると、カイを抱きしめ、堪えていた涙を溢れ出させた。
「また会える事を……待っています」
「ぜったいにあうよ! まっててね!」
「ありがとう……ございますっ」
最後にハスキーさんは前日に纏めていたカイのカバンをカイに渡し、これで旅立つ準備は整った。
カイはカバンを背負い、ジェニー様の手を繋いだ。
「じゃあ、行くわね。皆、カイをここまで育ててくれてありがとう」
ジェニー様は最大級の感謝を込めて笑顔で頭を下げ、私達ドラゴンメイドも笑顔で頭を下げる。
別れの時が近づき初め、彼女達はゆっくりと1歩を踏み出すと、元の場所へと戻る為に夕日に向かって歩いていった。
「みんなーバイバーイ! またあうからねー!!」
カイの大きな声に私たちは全員手を振り、再会を誓う。
今は離れても、またいつか会えると信じて私達はカイとジェニー様の姿が見えなくなるまで見送り、カイに渡った自分のドラゴンにも心ばかりの激励を送った。
「負けないで」と「カイを守って……いや、守る」と祈りと誓いをあげながら、メイドして2人をお見送りした。
「またお会い出来ることを心よりお待ちしております」
次に会う時には、どんなに貴方になっているのでしょうか。次に会った時はどんな事を話しましょうか。
まだ分からない未来に希望を抱きながら、夕日に解けていく2人をいつまでも見届けた。
オリカをまとめた章が欲しい?
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別に( *¯ ³¯*)