六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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今回からウィッチクラフト編が始まります。

花衣とハイネが付き合っていたとされていますが果たして真意の程は……?

それと今回、少し書き方を変えていきます。
大まかとしては空白部分を少し詰め込みます。


ウィザードクラフト・リカイ

 ウィッチクラフトという魔法を使う職人達がいる。

 

 彼女達が扱う魔法は工芸品と組み合わせる事で、より美しく、より強く、使う物に力を与える。

 

 ある者は泥に命を与えて新たな生命体を作り、より人の為に役立てる橋渡しを担っている。

 

 ある者が描く美術はどんな色より色鮮やかとなり、彼女が筆を動かせば、どんなものでも色が生まれ、彼女の目には灰色など無くなる。

 

 ある者を打つ鍛治品はとても美しく、鋼よりも強い金属になる。

 

 ある物が扱う宝石は透き通る程美しく、この世の全てがくすむほど輝いていた。彼女の手にかかれば、石を宝石に変える事も出来るという。

 

 ある者が縫う衣類は羽のように軽く、どんな危険から守ってくれる鎧の様なものとなる。彼女が手にする針と布は、正しく魔法の布である。

 

 ある者が創るガラス細工は全てを透き通す芸術品であり、全てを見通す力を持っているとされている。

 彼女のガラスは、この世界を超え、果ての宇宙さえも覗く事が出来るであろう。

 

 そんな魔女の職人達の朝は早い。

 

 彼女達は依頼人の為に最高品質の品物を作るため、ありとあらゆる努力をしている。

 

 素材の調整や魔術の向上など、一切手を抜かない。

 

 そんなウィッチクラフトで1人、ある男がいた。

 

 その男は今……

 

「すやぁ……むにゃ……すかぴー……」

 

 陽の光に照らされながら呑気に寝ていたのであった。

 

 

 

 

 私の名前はハイネ。ウィッチクラフトで裁縫工芸を担当しています。

 

 魔法が使えない人の為に、魔法を使った工芸品を作って生活を豊かにする事を目標に、今日もお客様の為に物を造っていく。

 

 しかし、私達は超人ではない。物作りには素材というものが必要であり、今日はその調達をある人と一緒にやる予定ですが……

 

「むにゃむにゃ……」

 

「物凄い幸せそうに寝てるー!?」

 

 もうとっくに出発時間は過ぎており、この後の依頼もあるのでこの時間ロスは痛い。

 かと言って1人で運べる量では無く、早くこの部屋で寝ている子……カイを起こそうと体を揺らす。

 

「起きてください〜! は、早く起きないと……えっと」

 

 漫画で見たシチュエーションを思い出し、心臓をドキドキと大きく鳴らしながらカイの耳元に口元を近づかせ、そのセリフを口に出す。

 

「は、早く起きないとイタズラしちゃいますよ〜?」

 

 しかし、何も起きなかった。

 ……というかこのセリフって、相手が寝たフリしないと効果が無いのではと今更ながら自分の行動に羞恥心が満ちた。

 けれども起こさなければと躍起になり、私はカイの体を揺すり続ける。

 

「起きてくだいー! 起きてくださいよ〜!」

 

「んむっ? ふわぁ〜……あれ、ハイネ姉? どうしたの?」

 

 ゆっくりと体を起こし、眠たい瞼を擦るカイが日に照らされて欠伸をしながら体を伸ばし、眠気を取り除いた。

 

 私がここにいる意味を忘れないでほしいと呆れつつ、部屋の時計の針に指を指すと、時計の針は10時を回っていた。

 

「朝の9時には出発って言いましたよね!? 今回取る素材は8時から12時まで取れる特別な素材もあるのに、何で寝坊するんですかー!」

 

「あっ、ごめん。楽しみ過ぎて寝られなかった」

 

「楽しみって……」

 

「だってハイネ姉と一緒に遠出って初めてだから!」

 

 朝日の太陽の様に眩しい笑顔が、私の陰の部分が浄化……いえ燃やされていくよようでもあった。

 眩しい……眩しすぎます。

 私みたいな陰の者にとってこの子の純粋な笑顔は干ばつを起こす灼熱の太陽であり、思わず目を隠してしまう。

 

「ん? どうしたのハイネ姉」

 

「いえ、なんでも……それより早く身支度してください!」

 

「そうだった!」

 

 カイは急いで身支度を整え始め、寝巻きを乱雑に脱ぎ始めた。

 カイの肌色とズボンの下の下着が見えた瞬間、帽子を使って顔を隠す。

 

「きゃっ! 何で脱いでるんですか!」

 

「え? 着替えないとダメでしょ?」

 

「あぁそうか……ううっ、だったら早く着替えてください!」

 

「はーい」

 

 布が擦れる音が徐々に小さくなり、着替え終わったのだと判断して帽子を顔から離すと、カイは既に着替え終わっていた。

 魔法使いと思わせるような白い羽織りローブは、ジェニーさんとお揃いになる様に私がデザインし、動きやすい様に軽い素材を使いました。

 

 そして一番のポイントはカイの顔を隠すほどのフード。

 あのフードは、元々はジェニー様がエンディミオンに居た時に使ったものであり、ボロボロになった物を私が出直してカイ様に裁縫し直したものです。

 

 カイはこのフードがお気に入りで、お出かけする時はいつもあのフードを被っている。

 

(うーん……もう少し丈を短くしても良かったですね)

 

 ウエスト周りは大丈夫ですが、裾が無いからどこかに引っかかってしまうかもしれないし、それにデザインももう少し凝るべきだ。

 

 例えばローブの周りをもう少し装飾を施したり、白を強調させる為の差し色……カイならベージュが似合いそうだからベージュをもう少し加えても良い。

 

 頭の中でデザインのアイデアが湧き続け、私はカイの服をじっと見つめていると、カイは視線に気づいて私に目を向けた。

 

「んー? どうしたのハイネ姉」

 

「……あっ、いえ。なんでもありません」

 

 昔から服を見るとついつい我を忘れてしまうのは私の悪い癖です。

 皆さまは職人として素晴らしいと言ってはくれてますが、このように話の腰をおったり要点を聞かない事もあるので、私にとってはいやな癖です。

 

「ふーん。あ、朝ごはん食べてないや。お母さんに朝ごはん作って貰おうかな」

 

「それなら大丈夫ですよ。ジェニーさんからサンドイッチをもらってます」

 

 私はバスケット籠を手に持ち、中身のサンドイッチも見せる。

 

「わー! 美味しそう!」

 

 カイの好物が挟んだ物や、フルーツもある。手間暇かけて作ったものだと一目で分かり、カイに対しての愛情が感じとれる。

 

「それじゃあ早く行きましょうか」

 

「うん!」

 

 私はカイの手を繋ぎ、目的の場所まで行く。

 目指す場所は街の郊外にある森であり、そこには朝日の光を吸収して輝く麻がある。

 

 その麻は朝日の光を長く吸収し続け、その麻で縫われた布は羽衣のように軽く、少しの風で服が乾く優れものとなる。

 

 しかも朝日の仄かな温かさも感じられ、夏だけではなくどの季節でも着られるものとなる。

 しかし朝日の光を浴びすぎるとその効力が切れてしまい、効力が復活するまでは1年以上はかかる。

 最高潮の効力は今日、正午寸前……それまでには着きたい。

 

 少し急ぐ為に私は腰にある自作のポーチから赤色の布を取り出す。

 赤色布は反物となってまとめられ、そこから使う分の生地を切り取り、手持ちの針に魔術を込め、絨毯の形になるように縫い始める。

 手早くかつ丁寧に私は針を布に通し、流れる川の様にしなやかに手を動かす。本当は装飾も施したい所を、今回は省力して私とカイが乗れるほどの絨毯を作り上げた。

 最後に絨毯自体に魔術を込めると、絨毯は無風にも関わらずまるで風に乗っているかのようになびき、地面から浮いた。

 

「わー! 空飛ぶ絨毯だ!」

 

 早速カイは絨毯に飛び乗ると、絨毯はカイを包み込むようにしてカイを受け止めた。

 私も後に続いて絨毯に乗り、杖の先を上げると絨毯は空高く浮き、目的の森まで飛び立った。

 

 街が小さくなり、雲が近づく。その様子をカイは絨毯から身を乗り出すようにして街を見下ろし、雲を見上げいた。

 心臓が口から……いや胸から直接飛び出てしまいそうな程の衝撃を受け、私は慌ててカイの腕を掴み、抱きしめるようにして手繰り寄せた。

 

「わぷっ……ハイネ姉どうしたの?」

 

「カイが身を乗り出すからです……何かあったら大変です」

 

「落ちてもハイネ姉の服があるから大丈夫だよ!」

 

 カイは手を広げて私が作った服をおもむろに見せてくれた。

 私の魔法は布に対して耐久性を上げたり、この絨毯みたいに浮かせたりと、特性を付与したりもできる。

 カイの服は外部からの衝撃に耐えられるように魔術を込めて作った服で、ちょっとやそっとの衝撃ではカイは傷つけられない。

 

 この高さだったら……擦り傷ぐらいで済むと思いますかやはりまだ小さい子供を危険に合わせたくない。

 それにもしこの子の身に何かあったらと思うと……ジェニーさんの顔が怖い。

 

「むぎゅ……ハイネ姉暑いよーおっぱいも当たってるー」

 

「あ……い、嫌ですよね。ごめんなさいでもこうしないと落ちてしまうかも知らないし、でもでも私みたいな根暗で可愛くもなくていい歳して泣き虫で大きな女の子に覆いかぶさられるのも嫌ですよね? はいどきますごめんなさい……」

 

 早口をしながら言い訳と自分の卑下の言葉を並べ、カイに伸ばしていた腕を離し、自己嫌悪に入る。

 嫌な事をさせてしまった、そういう気分にさせてしまった自分が嫌いだし、こんな自己嫌悪をする自分も嫌いです。

 

 そんな私をカイは自分のポーチから飴玉を渡してくれた。

 飴玉は水晶のように美しく、見る目を惹かせられ、思わず手に取った。

 太陽にかざすと向こう側まで見えそうで、飴玉というよりガラス細工にも思えた。

 

「綺麗ですね……ジェニーさんかマスターと作ったのですか?」

 

「ううん。クーベルって人と作ったよ」

 

 クーベル……確かパティシエの方で以前ウィッチクラフトにご依頼された方ですね。依頼を受けたのはジェニー様でしたが、ジェニー様はカイにこの依頼を託しました。

 カイの魔術はクーベル様……いえ、ほぼ全ての人達にとってとても有意義な魔法であり、私達にとってもとても便利で、私でも羨ましく思う魔法です。

 

 別に妬んではいません。むしろ誇らしくも思います。このまま成長すれば今のマスター、ヴェールさんの次にウィッチクラフトのマスターになるかも知れない。

 

 もしかしたらあるかもしれない未来に思いを馳せると、目的の森が見えてきた。

 ここからは徒歩で歩く為、絨毯を折り畳んでポーズに入れる。まるで吸い込まれて行くかのように収納されたのをみたカイは私のポーチに興味を示した。

 

「凄いよねそれ」

 

「ジェニーさんの特製魔術が込められてますから」

 

 ポーチの中の空間を湾曲する事でポーチの倍以上の体積や容量の物を詰め込むものが可能でありながらも、重さはポーチ分しかない優れものです。

 

 しかし何でもかんでも入れられる訳ではなく、決められた容量をオーバーすると湾曲した空間が膨張し、大爆発を起こしてしまうので注意が必要です。私は念の為に余裕を持たせて物を入れています。だって爆発が怖いですもん……。

 

「……あっ、あれじゃない?」

 

 カイがいち早く目的の麻を見つけると急に走り出し、運動が苦手な私は息を切らしながら走った。

 子供の体力は無限とはよく言ったものです……カイはスピードを緩めるどころかどんどん速度を上げて麻が生えている地帯に走り、私が同じ場所に着いたのは5分ぐらい後だった。

 

 息が血のような味が混ざる中、肩を激しくあげて息を吸い込んでは吐いていくを繰り返し、自分の体力の無さを痛感した。

 

「はぁ……んっ、はぁ……カイ、もう少しゆっくり……」

 

「だって早くしないとこれダメになっちゃうんでしょ? なら早く採らないと!」

 

 カイは光り輝く麻の植物に指を指した。

 間違いなく私が探していた麻であり、この輝きからすると今日の正午を迎えた瞬間光を失い、萎びてしまう。

 

「も……元はと言えばカイが寝坊しなければ……ぜぇ、はぁ……と、とにかくカイ、お願いしま……ぜぇ……す」

 

「はーい」

 

 カイが背中に付けているジェニーさんと同じ形をした杖を持ち、杖の先を麻に向ける。

 カイが呪文を唱え始めると杖先に突き刺さっている青と緑の宝石に光が灯り、光が麻を包み込んだ。

 

 そして太陽が空の天辺に到達した瞬間、正午を迎える。通常ならここで麻の光が消えてしまい、枯葉の様に萎びてしまうところですが……麻の光は元の輝きを保ち続け、艶やかな緑色を放っていた。

 

「はい! これで大丈夫?」

 

 カイは麻の葉を1枚ちぎり、私に手渡した。

 正午を迎えたはずなのに枯れないのは間違いなくカイの魔法。

 

 その魔法とは……『物体の状態や性質を永遠に繰り返す』ものです。

 

 有り体に言ってしまえば時間停止に近いですが、カイの場合は同じ時間を繰り返す……つまり無限を繰り返すということ。

 その魔法のおかげでこの麻は輝きや肌触りを保ち続け、半永久的に保存も出来る。画期的な魔法だ。

 

 しかも、物の状態を繰り返すという事は仮にバラバラになったとしても魔法をかけた時点の形に戻る事も可能です。

 

 例えばガラスが割れても割る前の状態になります。という事はつまり、加工をしても元に戻ってしまう事にも繋がりますが、カイの魔法はジェニーさんの教えがあって、性質のみを繰り返す事が可能になっています。

 

 例えば……ちょうどこの特別な麻を加工したとしても、麻の性質は繰り返され、そのままの状態を保っているので、どんなに加工しても、燃えて塵になったとしても、麻本来の性質が保たれます。

 

 私たち、ウィッチクラフトにとっては喉から手が出る程欲しい魔法であり、カイにしか出来ない魔法です。

 無限を繰り返す事の出来る魔法使いという意味から、私達はこの子の事をこう呼ぶこともある。

 

 無限を繰り返す……Reχ。

『ウィザードクラフト・リカイ』と。

 

「よーし! いっぱい採るぞ〜!」

 

 カイは自分の魔法で性質を繰り返し続けている麻をポーチに入れ続け、私も出来る限り多くの麻を採取した。

 

 いくら永久的に保存できると言っても、欲張ってしまえば生態系に影響を及ぼさない程度での採取を心掛け、ポーチが半分程度で収まった所をみて採取を切り上げる。

 

「よし、このくらいで良いかな。カイ、そろそろ戻りましょ……」

 

「ハイネ姉見てみて〜こんなの拾った!」

 

 麻を採り終えたカイが代わりに拾ってきたのは……中が真紅に輝く石の様な物だった。

 なんだか何処かで見た事あるような石だと思ってじっくり見ると、石というよりかは卵のような印象を受けた 。

 いえ、よく見ると石の中に赤い卵があり、血液のように脈を打つかのように光り輝いていた。

 

「あれ、これもしかして伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)……」

 

 名前を言い終えたその時、黒石の中の赤い卵が割れ始めると中から黒いドラゴンの雛が顔を出し、小さな炎を私の帽子に向けて吹くと、私の帽子は燃えた。

 

「あっつ! 熱い! あつつつつ!!」

 

「おー、火吹いた。凄いね」

 

「ひぇ〜ん! 私の帽子〜」

 

 帽子を脱ぎ捨てて魔法で水を放って鎮火させるものの私の帽子は炭に変わり、かなり良い素材で作った為ショックも大きくなり、私は地面に横たわって涙を流し続けながらも、伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)から産まれたモンスター、黒竜の雛を見つめる。

 

 真紅の眼に黒い鱗の体を持つ龍……間違いなく真紅眼の黒竜の幼体なのは間違いなかった。

 黒竜の雛はカイと目が合うと、カイに頬ずりをした。

 

「わっ、くすぐったいよ〜」

 

 カイも負けじと雛に頬ずりし、雛もまるで親と接するように喜んでいた。……親? 

 

「もしかして……すり込み? カイを親と思っているんでしょうか」

 

「えー? でも僕人間だよ」

 

「まだそう判別出来る大きさではありませんからね。……どうしましょうか。ここに置いていくのは」

 

「やだ! 可愛そう!」

 

「ですよね……」

 

 とにかく私では判断できないし、目的の素材も集まったので1度工房の方に戻っていくことにした。

 

「……で、ハイネちゃんの頭が爆発しているのは黒竜の雛のせいと」

 

「はい〜帰ってくる時に炎を吹かれましたぁ……」

 

 途中の帰り道、物珍しさに黒竜の雛に触れようとしたら逆鱗に触れて炎を吹き出し、私の髪が少し焦げてしまった。自分の不注意や鈍臭さに呆れながらも事の経緯をジェニーさんに報告し、皆さん今は眠っている黒竜の雛をまじまじと見ていた。

 

「へ〜真紅眼の雛なんて初めて見たよ」

 

「可愛いですね〜」

 

 エーデルとシュミッタはカイの腕の中で眠っている黒竜の雛を目に焼き付けた。

 

「……しかし、すり込みにしても随分懐いてますよね?」

 

「多分、チェイムのドラゴンの力を感じてると思う」

 

 チェイム……カイが昔お世話になったドラゴンメイド・チェイムの事で、カイの中にあるダークネスという力を抑制する為に、チェイムさんのドラゴンの力をカイに宿したと聞かれた事を思い出す。

 同じドラゴン同士、惹かれあっているという事でしょうか。

 

「で、どうします? このまま育てる……のは無理ですよね?」

 

「そもそもこの辺りに真紅眼の黒竜(レッドアイズ)が来る事自体無いのよね……まっ、とにかく親に返すしか無いわね」

 

「えー! やだ! ここで育てるー!」

 

 カイの中にドラゴンの因子がある影響なのか、カイは黒竜の雛にシンパシーを感じ、雛を育てる意思は固く、部屋の隅に雛を持って守ろうとしていた。

 そんなカイをジェニーさんは膝を曲げてカイの視線と同じ高さにし、カイを諭した。

 

「だめよ。この子にもママがいるんだから、ちゃんと返してあげないと」

 

「うぅ……」

 

「ママのところに返さないと、その子もきっと悲しいと思うけどな~?」

 

 もし自分がもし自分が雛と同じならばと、カイは考えているでしょう。

 カイは口を結んで悩み続けていると、決心したのか涙を流し、ジェニーさんの言葉にうなずいた。

 これで雛を返す目的は出来ましたが、ジェニーさんは少し悩んだ後、1つの案を出した。

 

「まぁ、親元を見つけるまでは私たちで育てましょう」

 

「……! うん! いっぱい育てる!!」

 

 親元を見つけるまでという制限はあれど、育てられることにカイは雛を抱え上げて喜んだ。

 この笑顔が見れただけでもジェニーさんの判断は正しかったと言える。

 そして、私と皆さんも幸せな気持ちにさせられ、ほのぼのとした空気になる。

 

 そんな気分に浸っていると、突然ジェニーさんが私に声をかける。

 

「ねぇ、あの雛はどこから拾ったの?」

 

「ええと……ここから数キロ離れた森の中ですね。カイが拾いました」

 

「森ねぇ……」

 

「何か気になる事でも?」

 

「いや、竜って普通山や渓谷とか人里離れたところに巣を作るでしょ? しかも真紅眼の黒竜(レッドアイズ)は火山とかに巣を作るの。それがどうして森の中にって思ってね」

 

 ジェニー様の考えは確かに気にはなった。火山に作るはずの巣、そして卵をどうして森の中に存在するのか、考えられるのは2つ。

 1つは生息地域の変更。ですがこれは有り得ないでしょう。なぜなら近くに親の真紅眼の黒竜(レッドアイズ)がいなかった。

 そうなると2つ目の考え……何かしらの理由で縄張りが襲われてしまい、住処を移さなければならない事が起こった。その何かしらの理由で卵を森に落としてしまい、今に至る。こう考えるのが自然でしょう。

 

「ジェニーさん、その理由は……?」

 

「まだ分からない。……けど、もしかしたら」

 

 ジェニーさんはカイに目を向け、一瞬言葉を詰まらせながらも言葉を出した。

 

「ダークネスに関係するかもしれないわね……」

 

「ダークネス……ですか」

 

 この世の闇そのものである存在、ダークネス。人の心の闇に入り込む事で自分の世界に引き込み、闇の力を増すとんでもない存在です。

 カイはそのダークネスから生まれたダークネスであり、言わばもうひとつのダークネス。

 

 カイの強力な魔法は、彼の中にあるダークネスの魔力によって生み出された物であり、その力はほんの一片に過ぎない。

 この子がもしダークネスの力を手に入れ、その気になればこの世界を支配する事も可能だと、マスターやジェニーさんは言いますが、あのカイがそんな危険な存在だとは思えなかった。

 

「最近、妙に暴走したモンスターとか多くなってる。原因はまだ判明出来てないけど、大方ダークネスだと思う」

 

「たまたまでは……」

 

「たまたま」そう思いたいだけかもしれない。

 今回の件とカイは関係ない。カイは普通の子供だという証明が欲しくてこう言っている自分をジェニーさんは私の顔を見て悟り、話を切り上げてくれた。

 

「さて、親を探すのは良いけど。目星がつかないのよねぇ……数ヶ月というか、年単位でかかりそうだけど」

 

「ですよね……マスターにも相談しないとですし」

 

「それなら大丈夫よ〜」

 

 奥の扉が開き、小さな女の子の声が耳に入る。扉からは私の腰ほどの背丈しかない女の子がふふんと鼻を鳴らして現れ、彼女こそがこのウィッチクラフトのマスター……ヴェールさんです。

 

 一見ただの少女ですが魔術の知識や経験は豊富であり、このウィッチクラフトを支える立派な人……ですよね? ちょっとサボりが目立つのが玉に瑕ですが、立派な人な……筈です。

 

「んー? ハイネ、アンタ今失礼な事考えたでしょ」

 

「い、いえ! 考えてません!」

 

 ジト目で睨まれて私は背筋を伸ばし、必死に頭の中で考えていた事を捨ててマスターを立てる。

 

「まぁいいんだけど。で、カイが黒竜の雛を拾ったって聞いたけど……カイー!」

 

「んー? あ、ヴェールだ」

 

「ヴェールさんって言いなさい」

 

「え〜? だってヴェールって僕と同じぐらいじゃん」

 

「むっかつくわねぇこのクソガキィ……!」

 

 マスターも人の事言えない……と言えば私に飛び火がかかるのが目に見えているので黙っておく。

 

「はぁ……まっ、とにかく。黒竜の雛はこっちで預かるけど、依頼の方はバッチリこなす事。分かった?」

 

 マスターはカイに1枚の紙を渡した。恐らく依頼書だ。カイに渡された依頼書が気になって私達一同は覗き込むようにして依頼書を目にする。

 

 依頼書にはカイ……いえ、リカイに対しての依頼が書かれ、内容としては修繕依頼だった。

 依頼したのは誰かと下の方に目を向けると……

 

「レディ・オブ・ザ・ラビュリンス?」

 

 カイがその名を口にすると、私の頭の中でそれを名指す人物と白銀の白が脳裏に過ぎると同時に、私の代わりにエーデルとジェニーさんがそれについて口にした。

 

「ラビュリンスって、確かすごいお宝が眠っている城で、そこを守ってる姫とかいる所よね」

 

「そして、そこに挑んだ冒険者達が数々の罠にはまり、生きて帰った者はいないという……」

 

「そんな人達がカイに依頼ですか……?」

 

 聞いた話を纏めると、あの城には侵入者や冒険者達を排除する罠が沢山あり、生きて帰った者はほんの僅かだとか……そんな恐ろしい所にカイを連れていくのは流石に危険です。

 何とかこの依頼を断ろうとすると、カイはエーデルさんの話を聞いて目を輝かせていた。

 

「お城とお宝〜!! 気になるー! 僕ここに行くー!」

 

「だ、ダダダダメですよ! 危険です!」

 

「ヤダー!」

 

「嫌ではありません!」

 

 何とかしてカイを止めようと必死に説得するものの、カイの意思は固く、誰かに頼ろうと目を向けますが、マスターと目が合うと、マスターはいつもの様に笑って私の肩を叩き、説得してくれるんだと安堵した。

 

「じゃあハイネがついていけばいいじゃない」

 

 綺麗な笑みで、残酷な事を言ったマスターが悪魔に見えた。

 

「……カヒュ」

 

 安堵は一瞬で崩れ去り、小さな変な声が出てそのまま放心した。私の体は白く燃え尽きた所で、マスターは依頼書に正式なサインを書き記し、依頼を受注した。

 してしまった……。しかも私の同伴で。

 今日の出来事とこの後の不安がお仕掛り、堪えきれず私は泣いてしまう。というかこんな状況で泣かない方がおかしいです。

 

「ど、どおじてわだじが〜!!」

 

「だってハイネ意外と強いもん。安心安心」

 

「わだじよりジェニーざんの方がいいですよぉ〜!」

 

 滝のように涙を流しながらジェニーさんに寄り添い、変わって下さいと泣きつく。

 

「ごめんね〜私も少し立て込んでるの。だから、カイの事、任せたわよ」

 

 ジェニーさんは私の反応を面白がってか小さく笑い、泣きつく私の頭を撫でながらプレッシャーを与えていく。

 ジェニーさんの息子を預かる……それだけでも吐きそうな程のプレッシャーなのに真紅眼の黒竜の件やラビュリンスの依頼で私の心は潰され、魂が抜けたかのように放心した。

 

「えーん……なんで私がこんな目に〜!!」

 

 もし神様がいると言うのであれば、今私は初めて神様を呪った。

 

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